カテゴリー別アーカイブ: 裁判

◆ 第18回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

高瀬光代

私は、高瀬光代と申します。

明日はちょうど1月17日、23年前、阪神淡路大震災がおこった日です。

当時、私は、神戸市東灘区にある神戸市立本山南中学校に勤務していました。本日は、私が体験した避難所の状況から考えたことについて陳述させていただきます。

阪神淡路大震災がおこり、私が勤務していた中学校は、避難所と指定されました。指定が解除されたのは、8月ですが、避難所指定された8か月間を見て、私は、学校は、生活の場所・学校本来の役割の両面から、避難所とすべきではないと考えます。

まず、生活の場所としての機能が全くないと言うことです。プライバシーが全く保障されません。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名のかたが避難してこられ、学校はどこも、グランドも、普通教室も、体育館も、人が溢れていました。そのような所で何日かでも暮らせるでしょうか。結局、女子生徒は数日の間にいなくなりました。あまり、大きい声では言われなかったと思いますが、プライバシーのない避難所は、とても、女子生徒の生活の場にはなれませんでした。親御さんは早々に安全な所を探して移って行きました。多くの方は体育館に、足の踏み場もないほど詰め込まれた状態でした。高齢者には特に苛酷でした。床は硬く、とても寒く、体調を崩す方も多かったと思います。大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行しました。

学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当です。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないと思いますが、原発事故のために避難を余儀なくされた方々を迎える場所として、学校の体育館は適当と言えるでしょうか。

阪神淡路大震災のおこったのはちょうど受験準備のまっただ中でした。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などは行われました。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれました。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であると思います。

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っています。それによると、多くの学校が避難所として指定されています。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所でしょうか。私は、阪神淡路大震災で瓦礫の山になってしまった阪神間から、大阪に行ったときの違和感を忘れることができません。子どもたちが日常生活を送っている学校でたとえ短期間であっても生活せざるをえないというのは、とても耐えがたいのではないでしょうか。

避難計画を見ますと、全く学校を避難所に指定していない自治体がいくつかありました。神戸市では、市民に対しての防災計画での避難所には学校を指定していますが、原発による避難者に対しては学校を指定していません。それは、学校本来の役割に配慮したためのようです。しかし、やはり、体育館などが多く指定されていて、これは、先に述べた理由により、再考を促したいと思います。

私は、原発事故が起きた場合の避難所についていろいろ考えていて、大きい疑問を持つようになりました。なぜ、事故が起きたら、個人の私有財産を奪われなくてはいけないのでしょうか?なぜ、移動の自由が制限されなくてはいけないのでしょうか?なぜ、健康で文化的な生活が奪われなくてはならないのでしょうか?日本国憲法は原発事故が起きたら停止してしまうのでしょうか?

関西電力が大飯原発を再稼働するというのであれば、もし、事故が起きたらどうするかについて、なぜもっと責任を持たないのでしょうか。「災害対策基本法」は自然災害での自治体の責任が言われています。原発事故は、企業災害ですから原因企業が責任を持たねばならないのではないのでしょうか。避難を余儀なくされた方々に対しては、少なくともそれまでの生活と同等の生活環境を用意してしかるべきではないのでしょうか。それができないなら、稼働すべきでないと考えます。

以上

ページトップへ

◆原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

2018(平成30)年1月15日

原告第46準備書面

 新聞報道によれば、2017年12月22日、被告関西電力は、大飯原発1・2号機の廃炉を決定したとのことである。この2つの原発は営業運転を始めて約38年を経ており、運転期限は2019年迄の、老朽原発である。老朽化した原発が内包する危険性に対しては、市民科学者として原発問題に取り組んできた高木仁三郎が、阪神大震災後の原子力関係者の不誠実な対応を批判し、1995年「日本物理学会誌」に「核施設と非常事態」という論文を発表して、老朽化した原発の危険性を指摘している。

福島第一原発事故後、原発をめぐる政治、経済、社会、国際的潮流は激変し、原発の運転を維持するコストに対する見方も著しく厳しくなった。

このような老朽原発が内包する危険性と、激変した全体的な環境の下における原発運転の経済性を総合的に考えると、被告関西電力の大飯原発1・2号機の廃炉は、冷静に見れば避けられない判断であったと考えられる。脱原発の動きは、世界的にもわが国においても大きい潮流になっている中、今回の被告関西電力の廃炉決定は、それに掉さすものである。

しかし、今回の廃炉決定は廃炉のほんの始まりにすぎない。現実に廃炉となる迄には長い時間を要する。その間、当該原発は、原子力の持つ危険性を内に蔵した状態が続く。当面の問題としても、使用済み燃料処理の問題が立ちはだかる。使用済み燃料プールは、使用済み燃料が全て搬出される迄、冷却を続けなければならない。その間プール隔壁の安全性を十全に保たなければならない。廃炉となり、電気を生み出さない無用の長物と化した施設に対して、被告関西電力は、きちんとした安全対策を講ずるであろうか。経済性に合わないとして廃した原発に対して、本当に安全のために必要な費用を注ぎ込んでいくであろうか。電気を生み出す3・4号機の維持管理に意を払うあまり、1・2号機の安全対策はおろそかになるのではないか。また使用済み燃料の保管場所や保管方法をどうするのか。さらに最終処分をどこでどのようにして実施するのか。最近の新聞報道では、被告関西電力は、使用済み燃料の中間貯蔵場所として青森県むつ市を候補としたが、むつ市長は、この被告関西電力の一方的な発表に対して強く拒絶の意を表明している。まして最終処分場については、全く決定される見通しが立たない状況にある。したがって、大飯原発1・2号機の使用済み燃料の危険性を内包したまま、廃炉の具体化を進めざるを得ないのである。稼働しなくなった施設の朽廃は急激に進むことは容易に予想される。被告関西電力は、大飯原発1・2号機の、廃炉決定後の、廃炉に向けての全工程を関係諸機関のみならず、当該原発によって危険にさらされる可能性のある原告らを含む全ての住民に対して、可及的速やかに明らかにする義務、少なくとも責務がある。原告らは、被告関西電力に対して、大飯原発1・2号機の廃炉に向けての全工程の内容を明らかにすることを求める。その内容の開示は、原告らに対する当該原発の危険性を判断する上での必要不可欠な事項というべきだからである。

ページトップへ

 原告らは、第44準備書面において、被告関西電力が提出した丙28に対して、厳しい批判を展開した。被告関西電力は、大飯原発3・4号機の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査を懈怠しているばかりか、実施された調査結果において、科学技術の見地からして、許されないデータ無視、あるいはそれらを著しく歪めたことを行っていると批判した。

さきに挙げた高木仁三郎は、「原発事故はなぜくりかえすのか」(岩波新書2000年12月20日発行)において原発現場における隠蔽・改ざん・捏造について取り上げている。同書において、著者は、1991年以降2000年までの間の「主な隠蔽・改ざん・捏造」を一覧表として揚げている。そして、高木は、改ざん・捏造と技術者・技術の関係について、要旨以下のように考察している。「改ざんは技術にとってはあってはならないことで、技術からの逸脱である。データのその後の解釈については、人によってはねじ曲げて解釈することがあったとしても、最初に観測した生の数字を書き換えるということは、それをやってしまったら技術というものが存在しなくなる、いわば基礎の破壊である。だから、改ざんが行われるようになってきたということは、それによって安全性が損なわれるというレベルのことにとどまらず、それ以前に技術者の基本的な倫理というものが問われる、最も根本的な問題である。社会的な正義を云々する以前の問題なのだ。観測したことに忠実である、自然の現象に忠実である、それが科学技術の基本だから、技術の倫理の基本にもその忠実さがなければならない。上記の諸事例の発生は、この技術の倫理の基本が崩れてしまったことを示しているのではないか」と。また、「捏造は、隠蔽と違って、技術者としては本質的にあるまじきことを行っている。もはや技術なし、技術者なしといっていいのではないか。技術というのは、自分で実際に計算した数字や実験的に確かめた数値に基づいて事を運んでいく。それを勝手に別の数値にすりかえてしまうようなことをやって平気である。これは技術の倫理、技術の公的性格という観点からは、到底許される行為ではない。その根本が全く台なしになってしまっている。そういう意味では、もはや技術なし、技術者なしといわれるような状況が1990年代半ばくらいから多発している」とも述べている。

そして、「こういうことがなぜ多発するのか」という問いを立て、それについて次のように答える。「技術を担当する個人が自分の仕事の公的な性格を見失っているということ、自己に対する検証のなさということ、自己に課すべき倫理規範を持っていないということ、さらにはアカウンタビリティが欠如しているということ、これらのことからして、隠蔽、改ざん、捏造等の嘆かわしい状況が生じている。少なくとも昔から科学者や技術者が持っていると考えられていた職業倫理が今は欠如してしまっている。データの改ざんや捏造は、科学と技術の前提を全くおろそかにするところに発している」のだと。

手厳しい批判であるが、数多くの隠蔽、改ざん、捏造の事例を前にすると、強い説得力を持つ主張である。丙28に対して原告らは、厳しい批判を展開し、その内容について信用性がないことを述べているが、その信用性を判断する上では、上記の高木の分析は極めて有用であると考える。裁判所に対しては、炯眼を以って、乙28の信用性の判断をして頂くことを強く望むものである。

ページトップへ

 技術者・科学者の倫理について論じたこととの関係で、原発訴訟における司法関係者の倫理についても触れなければ、倫理を真に自己のものとして受け止めていないのではないかとの批判を免れないので、以下、この点について本準備書面の最後に述べておきたい。

原発事故は巨大な人権侵害をもたらす。このことは、チェルノブイリ原発、福島第一原発の事故を経験したいま、それを否定することは誰もできない。このような人権侵害の事件が法廷に持ち込まれた場合、司法関係者はそれに対してどのように立ち向かうべきであろうか。この点を考える上で、次のことが参考とされよう。

アール・ウォレンは、1953年、アイゼンハワー大統領によって、カリフォルニア州知事から米国連邦最高裁長官に任命された。そして、この任にある時期、ウォレン・コートは、白人と黒人の分離教育は違憲と断じたブラウン対教育委員会事件、貧困者は、全ての重罪事件で、公費により弁護人を付されなければならないとされる契機となったギデオン事件、それを嚆矢とする一連の刑事司法改革判決等を生み出した。平等主義への強い志向、少数者保護についての積極的態度、米国社会の最も困難な問題である人種問題の解決に、行政部や立法部ではなく、司法部がまずイニシアティブをとったのであった。ウォレン長官は、退任直後、「ウォレン・コートは余りに早く進みすぎはしなかっただろうか」との問いに次のように答えた。「われわれは、われわれがいかに早く進むべきかについては何もいうことはない。われわれはわれわれのところへくるケースとともに進むのである。そしてケースが人間の自由の問題を持って、われわれのところにくるときには、われわれは弁論を聞き判決をするか、あるいはこれを放置して、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせるか、どちらかである。わが国においては、概していえば後者は余りに長くなされすぎたのである。」

このウォレン長官の見解は、原発をめぐるわが国の司法において深く心に止めるべきものと考える。原発について、わが国の司法は、実質的に司法判断を回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせてきた。福島第一原発は巨大かつ悲惨な事故を起こした。これは、司法が原発についての司法判断を実質的に回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代にそのつけを回してきたからではないか。司法にも責任はないのか。これがこの訴訟に関係する全ての者に対して問いかけられていることと思われるのである。

女川原発事件の裁判長であった塚原朋一は、2011年3月11日、福島の原発が津波に襲われたとのニュースを聞いて、とっさに「女川、大丈夫か」と思ったという。そして次のように述べている。「一般的に裁判官は、ある判決を言い渡したとたんに、その問題への関心が薄れていく。二審判決が出ても、ざっと目を通すくらい。」しかし「わたしにとって、女川原発訴訟だけはそうはいきません」と付け加える。「この訴訟については、当時の自分に責任があるかどうかという問題を超えて・・・・・いや、責任があると思っても責任の負いようはありません。そうではなくて、これからも社会状況の変化を見届ける。社会に対してメッセージを出すべきものがあれば、こうして語る。自分の出した判決は正しかったのか、正しくなかったのかと考え続ける。そして、正しくないと結論づけたら反省する。遅すぎるかもしれませんが、そうするしかありません。法律家として一生背負っていく問題だろうと思っています」と。塚原にとっては「女川原発訴訟」だけは、その出した結論に対して、他の事件と異なり、「法律家として一生背負っていく問題」だと言う。そのとおりである。裁判官が原発の稼働を容認すれば、原発は数十年間にわたって稼働を続け、廃炉となってもなお危険を内包し続け、使用済み燃料の処理に至っては途方もない期間地球に負荷をかけ続ける。ある裁判官が原発の稼働を容認した場合、それを容認した裁判官は、その原発ともはや離れることができない。その意味で、「法律家として一生背負っていく問題」である。そのように考えてくると、司法関係者の責任の重さを改めて痛感せざるを得ない。規制委員会の適合性判断は、規制基準適合の判断にすぎず、安全を保証するものではない、と規制委員会委員長は繰り返し言明している。政府は、規制基準適合の判断は安全を保証すると、文字どおり議論を「捏造」しているが、安全性の判断を規制委員会はしていないのだから、その判断は最終的には司法が行うしかない。そして、その場合における司法関係者の責任は、当該原発が稼働し、廃炉しても存在するかぎりつきまとい続ける。裁判官を含む司法関係者の責任は、原発訴訟においては、格別に重いものがある。その責任を背負って原発裁判に関わることが倫理であるというべきであるだろう。

ページトップへ

 司法関係者の責任を考える上で、次の事例を挙げておきたい。周知のように、戦前治安維持法は暴威をふるい、戦争を遂行する上で重要な役割を果した。治安維持法は1925年に制定され、その後何回か改正されたが、1930年代後半に治安維持法を適用して摘発された宗教取締りにおいて、裁判所は特高警察・思想検察の作り上げた路線をそのままなぞったのである。治安維持法研究の第一人者である奥平康弘は次のように述べている(「治安維持法小史」1977年10月、岩波現代文庫所収)。「どの宗教団体についてもいえることだが、これらに治安維持法を適用させるのは、無茶なことであった。第一、かりにこれら団体の関係者が「国体変革」を意図したとしても、かれらの「革命」は、かつて治安維持法が問題とした日本共産党のそれと、よかれあしかれレベルがちがう。前者は、当局が認容するように「暴力革命」ではなくて「意識革命」であるにすぎない。宗教上の観念の世界の問題である。第二の問題も、大きい困難を包蔵していた。それぞれの団体が「国体改革」を目的とした「結社」の態をなしているかどうかである。

常識からみて、非常にはっきりしていることは、もともと治安維持法は、この種の宗教統制のために利用されることを念頭において作られていないことである。したがってたとえば、宗教上の観念の世界における「世直り」(天理本道)、「立替え、立直し」(大本教)、「ハルマゲドンの戦い」(燈台社)などの革命・変革の思想や、そのような宗教上の教義に応じた組織と活動には、治安維持法を適用することはできないと断言するのを、裁判所に期待したとしても、それはけっして、無理難題を期待することではなかったはずである。しかるに実際には、かず多くの類似宗教取締り事件のなかで、既述の大本教事件第二審の裁判所と、本書では詳しく言及できないが、のちの浅見仙作事件の大審院判決(1945年6月)のような例外をのぞき、裁判所は特高警察や思想検察のいうなりにしたがって、善良かつ真摯な宗教人に苛酷な刑を科して、あやしむところがなかった。」。裁判所は、特高警察、思想検察の走狗となったといって過言ではない。そのような体制維持のために強大な権力を行使し、戦争遂行の支柱のひとつとなったことは否定できない歴史的事実であり、その責任は重い。当時の裁判官の大勢は、特高警察、思想検察の走狗であった。その大勢に逆らって、裁判官としての職責を果したものは殆どいなかった。そのことが、事実として戦争遂行に対する加担となった。いま、原発訴訟をめぐる状況は、大きな岐路を迎えている。規制委員会の適合性判断を無批判になぞる裁判か、安全性(危険性)の判断を、裁判官として良心、倫理にしたがって行う裁判か。原発裁判はそのせめぎ合いの中にある。大勢に安住または埋没して司法自身の判断を放棄し、規制委員会の判断をなぞる司法は、歴史の審判に耐えることはできないだろうし、自己の判断を「一生背負っていく」こともできないと思われる。さきに技術者の倫理について指摘したが、その問題は、直ちに司法関係者の倫理の問題となってはね返ってくるということを肝に銘じて本裁判に関わっていきたいものである。

以上

ページトップへ

◆第18回口頭弁論 原告提出の書証

甲第381号証(第42準備書面関係)
甲第382~421号証(第43準備書面関係)
甲第422~426号証(第44準備書面関係)
甲第427~428号証(第45準備書面関係)

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



証拠説明書 甲第381号証(第42準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第381号証
南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)(中央防災会議防災対策実行会議南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ)

証拠説明書 甲第382~421号証(第43準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第382号証
第11回口頭弁論調書(名古屋高等裁判所金沢支部)

・甲第383号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(地震調査研究推進本部 地震調査委員会)

・甲第384号証
地震本部ホームページ「全国地震動予測地図2016年版」(同上)

・甲第385号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(同上)

・甲第386-1号証
発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム 第3回会合 議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第386-2号証
震基3-4「(骨子素案)発電用軽水型原子炉施設の地震及び津波に関わる新安全設計審査基準」(抜粋)(同上)

・甲第387号証
東洋経済オンライン「大飯原発『基準地震動評価』が批判されるワケ島崎氏の指摘を規制委は否定したが…」(岡田広行記者)

・甲第388号証
日本地震学会平成28年秋季大会予稿S15-06『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』と熊本地震(纐纈一起)

・甲第389号証
中国新聞記事(中国新聞)

・甲第390号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会の概要について(原子力規制庁)

・甲第391号証
平成28年度原子力規制委員会第16回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第392号証
大飯発電所の地震動の試算結果について(原子力規制庁)

・甲第393号証
平成28年度原子力規制委員会第20回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第394号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第395号証
手紙(島崎邦彦)

・甲第396号証
「大倉・三宅式の問題」(同上)

・甲第397号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会について(原子力規制庁)

・甲第398号証
平成28年度原子力規制委員会第23回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第399号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第400号証
NHK「かぶん」ブログ「大飯原発の従来の地震想定見直さず 改めて決定」(NHK)

・甲第401号証
平成28年度原子力規制委員会第22回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第402号証
「大飯発電所 地震動評価について」(抜粋)(被告関西電力)

・甲第403号証
「島崎邦彦氏の問題提起と2016年6月改訂新レシピは原発基準地震動の根本改定を求めている」(長沢啓行大阪府立大学名誉教授)

・甲第404号証
「科学」2016年7月号(抜粋)(島崎邦彦)

・甲第405号証
「2016年4月14日・16日熊本地震の震源過程」(纐纈一起 小林広明 三宅弘恵)

・甲第406号証
「そもそも総研」「そもそも熊本地震の後,原発は大丈夫なのだろうか?」の報告書(弁護士甫守一樹)

・甲第407号証
大飯原発「地震動,再計算を」元委員が規制委に要請(毎日新聞)

・甲第408号証
全国地震動予測地図2016年版 地図編 141頁「震源断層を特定した地震動予測地図」(推本地震調査委員会)

・甲第409号証
全国地震動予測地図2016年版 付録1 補足解説(抜粋)(同上)

・甲第410号証
「『耐震設計審査指針改訂に伴う中国電力株式会社島根原子力発電所1,2号機新耐震安全性に係る中間報告の評価について』に対する見解」(抜粋)(原子力安全委員会)

・甲第411号証
「<原発・基準地震動>使用回避の計算法,継続の規制委に異議」(毎日新聞)

・甲第412号証
強152参考資料5 「レシピ」の一部記述表現について(案)(地震本部事務局)

・甲第413号証
ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究総括成果報告書(抜粋)(独立行政法人防災科学技術研究所)

・甲第414号証
柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉 敷地周辺陸域の地質・地質構造について(抜粋)(東京電力ホールディングス株式会社)

・甲第415号証
(原子力発電所)資料4-2-2 柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉敷地周辺海域の地質・地質構造について(抜粋)(同上)

・甲第416号証
日本地震工学論文集第15巻第2号 「断層極近傍のための理論地震動シミュレーション法を用いた断層表層領域破壊時の地震動推定」(山田雅行 羽田浩二 今井隆太 藤原広行)

・甲第417号証
「科学」Vol.86 No.8 「2016年熊本地震を教訓とする活断層防災の課題と提言」(鈴木康弘 渡辺満久 中田高)

・甲第418号証
日本地球惑星科学連合2017年大会予稿 SCG70-P03 「疑似点震源モデルを用いた2016年熊本地震本震の強震動シミュレーションとその改良」(長坂陽介 野津厚)

・甲第419号証
地震調査研究推進本部地震調査委員会第153回強震動評価部会議事次第(地震本部)

・甲第420-1号証
事務連絡(尋問事項)(函館地方裁判所)

・甲第420-2号証
質問回答書(藤原広行)

・甲第421号証
大分合同新聞「活断層と揺れ予測熊本地震の教訓強さ、過小評価の恐れ」(大分合同新聞)

ページトップへ

証拠説明書 甲第422~426号証(第44準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第422号証
「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」(赤松純平元京大助教授)

・甲第423号証
意見書(芦田襄京大名誉教授)

・甲第424号証
原子力発電所問題についての意見書(石井吉徳東大名誉教授)

・甲第425号証
基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

・甲第426号証
敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

証拠説明書 甲第427~428号証(第45準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第427号証
関西広域連合(関西広域連合広域防災局)

・甲第428号証
口頭弁論要旨(原告高瀬光代)

ページトップへ

◆原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

2018年(平成30年)1月12日

原告第45準備書面

原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では阪神淡路大震災を体験した原告高瀬光代の体験をもとに学校を避難所として避難困難性に関する個別事情について述べる。

第1. 学校を避難所とすることの問題点

1995年1月17日、阪神淡路大震災がおこったさい原告高瀬が勤務していた中学校が、避難所と指定され、8ヶ月後に指定が解除された。しかし、学校は、生活の場所としての機能が全くないため、下記の問題が発生した。

第一に、プライバシーが全く保障されていない。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名が高瀬の勤務していた学校に避難してきた。このため、グランド、普通教室、体育館等学校中に人が溢れていた。プライバシーの保障されない空間であるため、結局、女子生徒は数日の間にいなくなった。また、体育館の床は硬く、とても寒く、高齢者には特に苛酷な状況であった。このため、多くの者が体調を崩し、大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行した。

以上のとおり、学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当である。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないが、原発事故のために避難を余儀なくされた者を迎える場所として、学校の体育館は不適当である。

第2. 学校の本来の役割

阪神淡路大震災が、おこったのは1995年1月17日であり、ちょうど受験準備のまっただ中であった。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などが行われた。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれた。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であり、学校を避難場所とすることは、子どもたちの学習権に対する侵害である。

第3. 「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」について(甲427号証)

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っており、多くの学校が避難所として指定されている。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所ではない。避難場所として不適切な学校を避難場所として指定するのではなく、原発自体を廃炉にするべきである。

以上

ページトップへ

◆原告ら第44準備書面
地域特性の補充

原告ら第44準備書面
地域特性の補充

2018年(平成30年)1月12日

原告第44準備書面

目 次

1 はじめに
2 PS検層
3 試掘坑弾性波探査
4 反射法地震探査について
5 単点微動観測
6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率
7 速度構造と破砕帯の関係
8 調査が表層部にとどまること
9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと
10 まとめ



1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第35及び37準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。
即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(甲357、意見書「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点 -地盤の速度構造(地盤モデル)について-」赤松純平)。

被告関電は、原告らのこの指摘に反論しないままであるが、原告らは、赤松純平元京大助教授作成の意見書「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」[1](甲422)にもとづき、以下のとおり主張を補充する。

[1]

甲357「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点―地盤の速度構造(地盤モデル)-」2017年4月17日付 略称『赤松意見書(第1次)』 被告関電の丙28「大飯発電所の基準地震動について(平成27年1月)」を検討批判した意見書。
甲422「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」2018年1月8日付 略称『赤松意見書(バージョンアップ版)』 丙28の他、平成29年11月1日弁論期日で取調べられた以下の被告関電提出証拠を検討批判した意見書。
丙178「大飯発電所発電用原子炉設置許可申請書(3、4号炉完本)」(平成29年5月作成)の添付資料六「変更に係る発電用原子炉施設の場所に関する気象、地盤、水理、地震、社会環境等の状況に関する説明」
丙179「大飯発電所地震動評価について(平成28年2月19日)」
丙196「大飯発電所の地盤モデルの評価について(平成26年3月5日)」

ページトップへ

2 PS検層

(1)PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、人為的に震動を起こし(起震器)、受震器で振動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。

(2)被告関電は、4号炉と3号炉敷地におけるPS検層結果から「ほぼ均質な地盤と考えられ」、「敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」と主張している。これに対して、原告らは第35準備書面で、低速度層が、地表付近と深度100m前後付近に認められ、「ほぼ均質な地盤」と言えないこと、②PS検層は4号炉と3号炉の敷地のデータが示されているが、2号炉と1号炉の敷地のデータが示されていないが、2号炉と1号炉の敷地は、4号炉と3号炉の敷地と比べて、さらに地震波伝播速度が低いと考えられ、不開示は問題であることを指摘して批判した。

(3)地盤が均質でない
地盤が均質でないことについて補充する。

PS検層結果を分析すると、①O1-11孔とO1-3孔とでは速度構造が異なる、②低速度層が挟在する、③深度60mまでで1.17~2.44km/sと地震波伝播速度に2倍以上の違いがあることから、「ほぼ均質な地盤」であるとか、「浅部構造に特異な構造がない」とは到底言えない。

図2【図省略】

(4)低速度帯が東に拡がる
西から東に向けて地震波伝播速度が低くなっていることが、PS検層からも明らかであるので、補充する。

4号炉と3号炉の敷地の4つのボーリング孔の深度60mまでで観測された地震波伝播速度(Vs)は、下記の図に書き込んだとおり、西側で高く東側で低いことが明らかである。

図1【図省略】

ページトップへ


3 試掘坑弾性波探査

 (1)試掘抗弾性波探査とは

「試掘坑弾性波探査とは、原子炉敷地に横穴(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破や起震器などで人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で振動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で振動を与える試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震伝播速度を推定する」ものである(原告ら第35準備書面p6)。

 (2)原告らのこれまでの主張

原告らは、第35準備書面で、屈折法探査において、被告関電が「大飯発電所の基準地震動について」(丙28)で、本件原子炉敷地の地震伝達速度を過大に評価することで、地震動を過小に評価していることを明らかにして批判した(「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点」甲357)。

地震伝播速度を実際より大きく評価して地震動を小さく見せようとしている【表省略】

 (3)試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)

ファン・シューティングの結果を踏まえて批判を補充する。

丙28は、試掘坑弾性波探査について、屈折法探査の結果だけを掲載しておりファン・シューティングの結果を掲載していなかった。そのため、原告ら第35準備書面はこの屈折法探査結果だけを分析して批判した。ファン・シューティングの結果が、丙178の添付資料六の第3.5.114図として掲載されていることから、これに基づく批判を補充する。

起震器の設置場所は以下の図の扇の要箇所である。

図5 【図省略】

図6(1)がファン・シューティングの結果図であり(4つのうちの一つ)、起震器から放射状に描かれた線と試掘坑の交点に受震器が設置されており、放射状に描かれた線の中途の円弧状の空白部分に描かれている折れ線グラフが各放射状に描かれた線で測定された地震波速度である(km/s)。

図6(1)【図省略】

4つのファン・シューティングに記録されている全ての観測データから、一本ずつ速度を読み取って、場所毎に平均して地震波速度を算出して図化したものを以下に引用する。

図10【図省略】

被告関電は、上記のとおり、P波について、地震伝播速度を4.6km/sとして地震動を評価している。しかし、3号炉の敷地の過半は地震伝播速度の平均が4km/sを下回っており、平均速度が3.7km/sの地盤が拡がっている。

さらに、これら速度値は平均値であり、実際には3.7km/sを下回る速度値が少なからず観測されている。

図7【図省略】

被告関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で、そのため地震動が著しく過小に評価されている。

上記のとおり、4号炉と3号炉敷地の地盤の地震波速度は、西から東方向に急激に低下し、さらに3号炉直下に東から低速度帯が延びている。3号炉の東には、2号炉、1号炉の敷地が続いているが、反射法地震探査が実施されず、観測データが明らかにされていないままである。上記のとおり、この問題は放置することが許されない。

以上、ファン・シューティングの結果は、第35準備書面で指摘した原告らの主張の正しいことを一層明瞭にした。

ページトップへ


4 反射法地震探査について

 (1)反射法地震探査

反射法地震探査とは、起震した地震波の地下の不均質構造による反射波を多数の地震計で測定して地下構造を探査する方法である。石油探査のために研究開発実用されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

 (2)被告関電の主張

被告関電は、反射法地震探査について、「500m位まで反射面が確認され、その範囲内では特異な構造は認められない」と主張している。

 (3)原告らのこれまでの主張

これに対して、原告らは、第35準備書面で(1)通例、深度断面に記載されるはずの速度値が記載されていないこと、(2)深度断面図からは層境界の不連続部分が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘して、被告の評価が誤っていることを批判した。

 (4)深度断面図の速度値の非開示

被告関電は、深度断面毎の速度値を、その後も開示していない。被告関電は深度断面毎の速度値を持っているのであり、改めてその開示を強く求める。

 (5)深度断面図の評価について補充する。

原告らは、深度断面図の読解(評価)について、芦田譲京都大学名誉教授に意見を求めた。芦田名誉教授は、物理探査学会の会長を務めた反射法物理探査の権威である。芦田名誉教授は「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であるとの意見であった(甲423)。芦田名誉教授の意見を踏まえて、改めて、被告関電の「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判する。

図11【図省略】

 (6)3次元探査が必用であることについて補充する。

同じく物理探査学会の元会長である石井吉徳東大名誉教授(甲424)と、芦田名誉教授は、被告関電が、反射法地震探査に関して、2次元探査に終始し3次元探査を実施していない問題点を指摘した。芦田名誉供述は、以下のとおり述べている。

「地盤調査の技術は、石油探査の必要等から発達してきました。反射法地震探査は石油探査の現場では、以前は二次元調査をしていましたが、1975年頃から三次元調査が用いられるようになり、最近では三次元調査が一般になっております。二次元探査は、震源と受振器を線上に並べて地下断面を得ますが、これでは地下の地層状況を正確に把握することができません。一方、三次元探査では、多数の震源と受振器を面的に配置します。このデータを計算機により映像化することにより、医療分野で用いられているCTスキャン映像のように、恰も地下に潜っているかのような仮想現実(Virtual Reality)として地下構造を立体的に捉えることができます。例えれば、二次元探査はレントゲン写真、三次元探査はCTスキャンのようなものです。

二次元探査の場合、受振したデータには直下から反射して戻ってくるデータの外に、直下でない周囲から反射して戻ってくるデータが含まれています。それらを全て直下からのデータとして把握するため、不正確、場合によっては誤って把握してしまうことがあります。これに対して三次元探査の場合、地層の境界や断層の位置、角度、傾斜、落差や連続性等をビジュアル化し、且つ正確に捉えることができます。したがって、二次元探査では抽出しえなかった複雑な地下構造まで抽出することができます」

芦田名誉教授が指摘するとおり「原子力発電所のような重要な施設の場合・・・地下構造を高精度な手法で調査をし、より正確な地下情報に基づいて、地下構造形態や断層の詳細を把握して議論すべき」ことは当然である。

この点、新規制基準も「最先端の調査手法」を用いるべきことと、「地下構造が成層かつ均質」でない限り「地盤モデルの設定にあたっては、解放基盤面の位置や不整形性も含めた三次元地盤構造の設定が適切である」と定めている(甲425:「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(7.2.1(1)(2))、甲426:「敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド」(はじめに5、5.1(4)))。本件地盤が「成層かつ均質」でないことは上記のとおりである。

原告らは、被告関電に対し、「特異な構造は認められない」という誤った主張を改めること、新規制基準に従って原則どおり反射法地震探査の三次元探査を直ちに実施すること、そしてその結果を当法廷に提出することを強く求めるものである。

 (7)速度断面図

速度断面図について新たに補充する。

・速度断面図は、反射法地震探査の屈折法解析によって明らかになる地震波伝播速度を図化したものである。

層毎に地震伝播速度が異なるところ、起震器の発する地震波は、第1層を通って受震器に到達するものもあれば、その下の第2層を通って受震器に到達するものもある。起震器に近い受震器には第1層だけを通る直接波が最初に到達する、しかし、一般的には浅い層ほど地震伝播速度が遅いため、ある程度遠くの受震器には地震伝播速度が第1層より速い第2層を通る屈折波の方が早く到達する。受震器までの距離と到達時間を分析することで、層の厚さや地震伝播速度を解析することができる。

速度断面図は、このようにして解析された地下の地震伝播速度を図化したものである。

図13【図省略】

被告関電は、この速度断面図について「屈折法解析結果より、表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる。」と主張している。

しかし、速度断面図を拡大して見れば明らかであるが、4号炉と3号炉付近では、2.5km/sの低速度層が標高-30mの深さまで沈み込んでいる。
「低速度帯の顕著な落ち込み等の特異な構造はなく、地下構造は水平方向に連続的である」とは到底言えない。

また、解放基盤表面とされる標高0m付近の地震波伝播速度は2.0km/sに過ぎない。
被告関電は、地震動評価のための地盤モデルを4.6km/sとしているが、実際の弾性波速度はその半分以下で、非常に低い。上記被告関電の評価は著しく過大で明らかに誤りである。

 (8)はぎ取り法

はぎ取り法について新たに補充する。

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。屈折法解析は、概ね水平な多層構造を想定するが、実際には地表にも地層境界にも凹凸によるばらつきがある。そのため、屈折法地震探査では、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

図14【図省略】

被告関電は、はぎ取り法による解析の結果、「やや深部を伝わる誤差の少ない平均的な最下層速度」が、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sであったと主張している。

しかし、はぎ取り法の結果は(図14)、Vp=4.5km/s層の上面の深さは120mであり、標高に換算すると-80~-90m、その深さまでの表層の平均P波速度が1.9km/sに過ぎないことを示している。表層のP波速度は非常に低い。これは、屈折法による速度断面図の分析結果と一致している。被告関電の「最下層速度がVs=4.5km/s」という上記主張は、はぎ取り法の解析結果を歪めて評価するものである。

また、A測線の測定位置は、ボーリング孔O1-3に近接しているところ、PS検層の結果、O1-3孔においては標高-60mまでVs=1.17~1.92km/sと低い地震伝播速度が観測されている。また、4号炉と3号炉の敷地が東に向かって地震伝播速度が顕著に低くなり深く沈み込んでいることが明らかになっている。
はぎ取り法の解析結果も、PS検層の結果と一致して、この事実を明らかにしている。

ページトップへ


5 単点微動観測

(1)単点微動観測について、新たに主張を補充する(被告関電の主張に対する批判)。車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような小さな振動のことを微動と言う。地表面における微動のうち水平成分(水平成分を水平スペクトルとも言う)を上下成分で除すと(H/V),主に表層地盤のS波速度や層厚などの構造が把握できるとされている。

(2)被告関電は、単点微動観測結果(H/Vスペクトル)から、解放基盤深度が推定でき、解放基盤相当の上面深度は概ねEL(東京湾平均海水面)-25m~+65m程度で、敷地全体にわたって著しい高低差がないことが確認された、従って、三次元探査は不要だと主張している(上記4(6)p9)。

(3)しかし、H/Vスペクトルから、下層(基盤岩層)の速度値を精度良く求めることは不可能である。

①被告関電は、上層(堆積層など)Vs=472m/s、下層Vs=2.2km/sとして上層の厚さを求め解放基盤の深度としているが、下層がVs=1.6km/sとしても同様の深度分布が得られる(図17)。

図17【図省略】

②被告関電がH/Vスペクトルから得られるとする深度分布は、反射法地震探査屈折法解析の速度断面図と30m近くの違いがある(図19)。被告関電のH/Vスペクトルから解放基盤深度が推定できるとする主張は、反射法地震探査屈折法解析結果(観測データ)と矛盾しており誤りである。

図19【図省略】

以上、単点微動探査結果は「成層かつ均質」であることを示しておらず、上述のとおり三次元探査の実施が必要なのである。

ページトップへ


6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率

地震波減衰について原告ら主張を補充する。

(1)地震波減衰 地震波は地殻内を伝播することで減衰する。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。地殻内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱は、不均質構造の大きさと波長の関係に規定される。

内部減衰と散乱減衰によりQ値が定まる。Q値が大きい媒質ほど減衰しにくい関係にある。

(2)原告らは、第35準備書面で、被告関電がQ=50f1.1を用いていること(丙28 p42)に対して、①上記式を用いる根拠が示されていないこと、②地域性を考慮したのか否か明らかでないことを批判した。

(3)被告関電は、本件地盤の減衰特性について、「敷地のPS検層結果から、速度構造の不均質性と減衰定数の関係に着目して不均質強度を評価した結果から減衰定数は3%程度と考えられる。敷地内でのQ値測定を実施した結果、減衰定数は3%程度以上となっている。→浅部の減衰定数を3%とする」と主張している(減衰定数:h=1/(2Q))。

(4)しかし、①上記のとおり速度構造の不均質性と減衰定数の関係は、散乱減衰に関する問題で、減衰の大きさは、散乱体(不均質)の大きさと波長の関係によって決せられ、波長即ち周波数に依存する。ところが、被告関電の上記主張は、周波数とは関係なく一般的にh=3%としており、地震波動理論に矛盾すする。②また被告関電は、敷地内でQ値を測定したと主張し、振幅分布図を示して、その傾きからh=3%が説明できるとする。しかし、振幅分布図を子細に検討しても、P波S波はいずれも深度によって一様に減衰しておらず、むしろ増加する区間が存在する。敷地内でのQ値観測結果からh=3%が導けたとの被告関電主張の信頼性は大変低い。

図38【図省略】

さらに被告関電は、180mまではh=3%、それ以深3kmまではh=0.5%とも主張するが、その根拠については何の説明もなされていない。

地盤構造モデルにおけるQ値の設定は、現在のところ確定した評価方法がない。そのため、例えば、中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、「500m/s<Vs<3000m/sのQ値の解析例が少ないので、Vs>3000m/sの場合の平均的なQ値であるQ=100×f0.7を用いる」として高周波域で減衰が小さく、地震動が大きくなる「安全サイド」の値を用いている。中央防災会議の考えに従う減衰構造モデルと被告関電モデルの増幅特性を比較すると、10Hz以上の周波数帯域での増幅率が被告関電モデルは中央防災会議モデルの半分程度になる(図38)。被告関電は、減衰定数を大きく設定して、基準地震動を過小評価している。

図39【図省略】

ページトップへ


7 速度構造と破砕帯の関係

以上、本件敷地は、西から東に系統的に速度が低下し、さらに3,4号炉建屋付近では低速度層が深く沈み込んでいることが明らかになった。これは、地質構造調査で明らかになっている破砕帯の分布に起因しているものと考えられる。被告関電は、この関係に目を向けようとしていない。

敷地内には、F-6破砕帯をはじめ、主要な15本の破砕帯が深さ200m以上にわたって確認されており(図39、図42)、それに付随して規模の小さい破砕帯が数多く存在する(図40)。特に、4号炉基礎岩盤に比べ3号炉基礎岩盤においてこれらの破砕帯が密に分布しており(図40、41)、3号炉側でP波速度が大きく低下しているという速度の場所による違いは、破砕帯の分布に大きく依存していることが明瞭に読み取ることができる。被告関電及び原子力規制委員会は、敷地内の破砕帯(断層)について、活動性評価のほかに、破砕帯が及ぼす地盤速度構造への影響を評価していない。地質学や地形学の知見が基準地震動策定のための地盤モデル構造に生かされていない。

図40【図省略】

図41【図省略】

図42【図省略】

図43【図省略】

ページトップへ


8 調査が表層部にとどまること

原告らは、第37準備書面で、2007年新潟県中越沖地震について、地震の前には、訴外東京電力が同原発は「揺れの少ない強固な岩盤上に建て」られており、「軟らかい地盤」「に比べ1/2から1/3程度」の揺れにとどまるなどと説明していたこと、ところが基準地震動の4倍の1699ガルの「想定外」の地震動が起きたこと、そのことについて訴外東京電力が、地下4~6kmの深部地盤に傾きがありそれによって波が集中したとか(約2倍)、地下2kmに褶曲構造があって地震波が1~4号機に集中したとかの(約2倍)後付け説明をしていること、しかしその説明が実証されているわけではなく仮設の域を出ないことを指摘した。いずれにせよ、地下4~6kmの深部地盤、地下2kmの敷地地盤に原因が求められた。

ところで、大飯原発の地盤特性については、反射法地震探査で陸域で地下500m位まで、海域では地下2~300mまでしか把握されていない。地震波干渉法による調査が地下4kmまで行われたとされているが、地下3kmから18kmにあるとされる震源断層の調査としては著しく不十分である上、地震波干渉法は、地震計間の地盤が平行な成層構造であると仮定して解析するもので、地下の褶曲や地層の傾斜、凹凸などは全て平均化されているから、地下4kmまでの不整形・不均質を調査したことにはならない。さらにそもそも地震波干渉法の調査からは、地震波を増幅させる低速度帯の存在が示唆されることについてすでに第35準備書面で述べたとおりである。

この点、島崎邦彦東京大学名誉教授が、①の震源特性に関して、被告関西電力の地盤調査が表層部にとどまっていて極めて不十分であると、次のように証言した(甲382「島崎証人調書」23頁)。

 「見て頂きたいのは、その右側のこれは詳細な活断層調査の中なんですけど、下の方にズレがあるところで断層が見えると思うんですけど、この深さは200~300メートルにすぎません。詳細な活断層の調査っていうのをやっていても、実はほとんど表層にすぎないんですね。ところがこの発電所では、地震発生層の厚さが、一番浅いところで3キロメートル、一番深いところで15キロメートルだといってます。だから3000メートルから15000メートルのところに震源断層が存在しているはずだ。それを僅か200メートルの調査で、どう詳細なものが分かるのでしょう。わかり得ませんね。だけどこれを詳細な活断層の調査と言っているわけです。」

島崎証人は、被告関西電力が地震発生層が地表から3kmから15kmの深さのところにあり、その範囲内に震源断層があることを認めているにも関わらず、活断層調査をしているのは200~300メートルという表層にすぎず、被告関西電力の地盤調査は極めて不十分だと指摘している。

ところで、深部地下構造地質調査はできる。地下20㎞あるいは30㎞に達する大規模な地下地質構造調査が現に行われている。ひずみ集中帯プロジェクトによる日本海東縁のひずみ集中帯における地下構造探査や(中核機関は独立行政法人防災科学技術研究所)大都市大震災軽減化特別プロジェクトの大規模地殻構造調査研究である(文部科学省)。例えば「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトの総括成果報告書」(甲413)によると、各調査によって新潟県から秋田県にかけての一部領域における深部地下構造のイメージングが行われ、地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の存在が明らかになっているのである。

東京電力も、平成10年度国内石油・天然ガス基盤調査陸上基礎物理探査「西山・中央油帯」の地震探査記録や昭和44年度天然ガス基礎調査基礎物理炭鉱「長岡平野」の地震探査記録を適合性審査資料で引用し、地下数km~6km程度の地下構造を示している(甲414,415)。

調査は可能なのに、被告関電は実施していない。費用を出し惜んでいるとの誹りを免れない。

ページトップへ

9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと

平成29年12月13日、四国電力の設置する伊方原発3号炉は地震や火山に対する安全性が確保されていないとして周辺住民らがその運転の差し止めを求めた仮処分申立事件の抗告審において、広島高裁は、運転差し止めを認めなかった原決定を破棄し、決定後9か月余りの期間に限ってではあるが、同原発の運転を差し止める決定を下した。高裁レベルで原発の運転の差し止めを命じた初の判断として極めて意義のある決定であるが、その中で広島高裁は、主張立証責任に関し、「発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する上記審査(注:原子炉規制法に基づく原子力規制委員会の審査)を経ることを義務付けられた者としてその安全性についての十分な知見を有しているはずである。このことと、前記の原発事故の特質(注:発電用原子炉施設の安全性が確保されないときは、人の生命・身体や環境に対して深刻な災害を引き起こすおそれがあること)に鑑みると・・・当該発電用原子炉施設の設置運転の主体である被告事業者の側において、まず、「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(以下「具体的危険の不存在①」という。)について、相当の根拠資料に基づき主張立証する必要があり、被告事業者がこの主張立証を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定されるなどとして(175~178頁)、事業者側が主張立証責任を果たしたというためには相当の根拠資料を示すことが必要であると判示した。

これは極めて当然の判断である。そして被告関電は、「相当の根拠資料」を何ら示していない。すなわち、例えば、被告関電は①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をそもそも行っていないのであるから、これのみでも「相当の根拠資料」が示されていないことは明白であり、主張立証責任を果たしていないことは疑いないが、③地盤の増幅特性(サイト特性)についても、PS検層について2号炉と1号炉のデータを示しておらず、反射法地盤探査についても深度断面ごとの速度値を開示していないのであるから、「相当の根拠資料」が示されていないことに変わりはないのである。また、反射法地盤探査に関して2次元探査しか行っておらず3次元探査が可能であるのにこれをあえて実施しておらず、当然その結果を示していないし(単点微動観測に関しても同様)、地盤調査も地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の調査を行うことは可能であるにもかかわらず意図的にこれらを行わず、もちろんその結果を示していないのである。

よって、上記広島高裁決定に照らして被告関電が主張立証を行っていないことは明白であるから、それらを採用する余地はない。

ページトップへ

10 まとめ

被告関電は、基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で、地域特性を十分に把握できており、その地域特性に照らせば、基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張している。しかし、主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず、それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査が懈怠されたままである。また実施された調査結果が、科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに、基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されている。

それを容認し追認している規制委員会も同様に批判されなければならない。

以上、本件原発は、地震に対して極めて危険だと言わなければならない。

以上

ページトップへ

◆原告第43準備書面
第2 藤原広行氏の書面尋問等について

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第2 藤原広行氏の書面尋問等について

目 次 (←第43準備書面の目次に戻ります)

1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括



 1 藤原氏書面尋問の概要

函館地方裁判所に係属している別事件(平成22年(行ウ)第2号ほか)において,原子力規制委員会の地震・津波検討チームに外部有識者として参加した藤原広行氏(防災科学技術研究所社会防災システム研究部門長)の書面尋問が実施され(甲420-1),平成28年12月18日付けでその「質問回答書1」(甲420-2)が同裁判所に提出された。

「質問回答書1」では,概ね,第1項から第6項までは基準地震動一般に関する質問・回答,第7項から第13項までは青森県下北郡大間町に立地する大間原子力発電所の基準地震動に関する質問・回答となっている。このうち,後半の第7項から第13項までの質問について,藤原氏は,大間原子力発電所の設置変更許可申請書の送付を受けていながら,「現状私が把握している情報のみからは適切な回答を述べることができません。こうした審査に関わる内容について,専門家としての見解を述べるためには,事業側及び審査側からの詳細な説明を受けた後,その内容に対して質疑を行い,それに対する回答を踏まえた上での判断を行い,考えを取り纏めるというプロセスが必要です。これが実現できない状況では,責任のある発言を行うことができません。」と述べ,回答を差し控えている(但し入倉・三宅(2001)に関する第11項を除く)。回答がなされたものについても,非常に慎重な言い回しがなされている。

このように,藤原氏は極めて慎重な態度で函館地裁の書面尋問に臨んだのであり,それだけに,回答がなされた部分については,強震動地震学の専門家として責任ある見解が述べられたものと解することが出来る。

 2 検討用地震の選定の妥当性

藤原氏は,新規制基準に自身の意見が反映されていないところとして,「表現が定性的で定量化されていない部分が残っているところ」(2(2))と証言した。

その上で,検討用地震の選定の妥当性の基準について,「判断の前提となる地震動のハザードについて確率論的なモデルを構築した上で,安全目標に照らし,超過確率等の定量的な指標に基づき基準が定められるべきと考えます」(2(3))と証言している。

例えば,被告関西電力は,大飯原発の基準地震動策定に当たり,内陸地殻内地震について,FO-A~FO-B~熊川断層から発生する地震,上林川断層から発生する地震を検討用地震として選定しているが,何故それを採用するのが妥当と言えるのかについて,確率論的なモデルの構築も,定量的な評価も,安全目標との照合も,何も行っていない。

ページトップへ

 3 不確かさの重ね合わせの必要性

藤原氏は,不確かさの考慮についての基準として,「様々な種類の不確かさが残っている現状を考えますと,個人的な意見ではございますが,個々のパラメータごとに不確かさを考慮するだけでなく,必要に応じて不確かさの重ね合わせを適切に行うことが必要であると考えます。特に,認識論的不確定性がある中では,不確かさを重ね合わせて評価することが重要と考えます。」(2(4))と証言し,不確かさの重ね合わせの必要性を強調している。本件において,被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層について,短周期の地震動レベル,断層傾斜角,すべり角,破壊伝播速度,アスペリティ配置について,基本的に重ね合わせがないものとし,短周期の地震動レベルと破壊伝播速度の不確かさを重ね合わせる場合にも短周期の地震動レベルを1.25倍に切り下げてしまっているが,恣意的であって基準地震動を抑制する意図によるものと言わざるを得ない。不確かさの重ね合わせが極めて不十分であり,地震動についての知見の未成熟性を補うことが出来ていない。

さらに,藤原氏は,「我々の認識が足りないところ,あるいは方法論としてもまだ不成熟で足りないところ,いろんなタイプの不確かさ」を考慮する方法として,「認識論的な不確定性についてはロジックツリーなど用いたモデルを構築することが望ましい」(2(5))と証言している。しかし本件において被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層の応力降下量に関し,Fujii and Matsu’ura(2000)という認識論的不確定性が非常に大きい知見を採用していながら,それを補うためにロジックツリーなど用いたモデルを構築するようなことは一切行っていない。

 4 偶然的ばらつき

藤原氏は,松田式や入倉・三宅式のばらつきについて,「偶然的ばらつきとして扱う必要がある」(6(2))「必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要がある」(6(1))と証言している。また,「偶然的ばらつきに関しては確率変数としてハザード計算を行うことが望ましい」(2(5))とも証言している。

しかし本件において被告関西電力は,松田式や入倉・三宅式の偶然的ばらつきに関しては一切無視し,これを考慮していない。

ページトップへ

 5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ

藤原氏は,入倉・三宅式を用いて地震モーメントを推定する場合の過小評価のおそれを指摘する島崎氏の見解について,「妥当性については一概には言えません」(11(1))としつつも,「島崎氏が懸念する条件がそろった断層での地震動の評価に関して,従来から用いられている手法を適用し,かつ,ばらつきなど考慮せず平均値のみを用いると仮定した場合に限っては,妥当な場合もあり得る」(11(2))と証言している。

本件において,被告関西電力は,西日本の横ずれ断層であるFO-A~FOB~熊川断層につき,断層傾斜角は基本的に鉛直,地震発生層の厚さは15kmと想定しており,島崎氏が懸念する条件はそろっている。ここにおいて入倉・三宅式を適用するに当たり,従来から用いられている手法を適用しており,ばらつきなどは一切考慮していない。したがって,藤原氏の証言によっても,島崎氏の指摘は本件において妥当すると言うべきである。
さらに藤原氏は,入倉・三宅式による過小評価のおそれを解消ないし低減させる方法の一案として,断層下端の深さについて深めに設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張すること,及び入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことを証言している(11(3))。なお,藤原氏は新聞社のインタビューでは,「断層の幅を18キロ以上に設定することにしておけば,(入倉・三宅式による)過小評価の危険は減らせる」「極めて高い安全性が求められる原発の基準地震動の場合は,十分な余裕をみて断層の長さや幅を大きく設定しておくことが必要だ。関西電力大飯原発のように活断層のすぐそばにある原発は,特に大きな余裕を見ておかなければならない」とコメントしている(甲421)。

本件において被告関西電力は,FO-A~FO-B~熊川断層の断層下端深さは18kmにしか設定していないから深めの設定とは言えず,断層上端も地表3kmの位置にしか設定していない。入倉・三宅式のばらつきを考慮したパラメータ設定もしていない。断層幅は15km(傾斜角75°以外のケース)若しくは15.5km(傾斜角75°のケース)に過ぎず,断層が敷地近傍にあることに鑑みた特に大きな余裕の設定もしていない。

ページトップへ

 6 震源を特定せず策定する地震動

「震源を特定せず策定する地震動」の「各種不確かさ」の扱いについて藤原氏は,「長期的な課題として検討が必要なもの」と断りつつも,「敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮することができるように,実際に観測された地震動記録の位置付けを確認したうえで,将来起こりうる地震動を包含するようなハザードモデルを構築し,地震動レベルの設定を行う必要がある」(3(2))と証言している。

藤原氏において,本件で被告関西電力が行っているような,特に既往最大という訳でもない,偶々観測された北海道留萌支庁南部地震HKD020観測点や鳥取県西部地震賀祥ダムの各観測記録を直接用いるような方法では,不十分であると認識していることは明白である。

 7 小括

以上の通り,藤原氏の証言からしても,本件基準地震動が不十分,不適切なものであることは明白である。

その原因の1つは,原子力規制委員会において,基準地震動に係る新規制基準の検討を十分に行われないままこれを施行し審査を進めていることにある。不十分な規制基準に基づく適合性審査では大飯原発の耐震安全性は確保されない。

以上

ページトップへ

◆原告第43準備書面
第1 基準地震動が過小評価であること

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第1 基準地震動が過小評価であること

目 次 (←第43準備書面の目次に戻ります)

1 レシピ(ア)と(イ)の適用について
2 レシピ修正に至る経過等
3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について
4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について
5 活断層として認識できる長さについて



 1 レシピ(ア)と(イ)の適用について

  (1)はじめに

名古屋高裁金沢支部において島崎証人は,被告関西電力が入倉・三宅式の適用を誤っているため,本件原発の基準地震動が過小評価になっていることを明確に証言した(甲382)。島崎証人の結論は,地震本部のレシピの修正を踏まえ,本件原発の基準地震動策定においてレシピ(ア)を用いることは過小評価となる,というものである(同・30~34頁)。

島崎証人は,日本を代表する地震学者として,また活断層ないし活断層調査の専門家として,規制委員会の発足当初の委員に就任し,本件基準地震動の審査についても途中まで担当してきた。本件基準地震動に関し,FO-A~FO-B~熊川断層の三連動や地震発生層の上端深さ3kmを基本ケースとして設定することとなったのも,いずれも島崎証人が委員として尽力した結果であり,島崎証人退任後の審査において本件原発の基準地震動に実質的な変更はない。

島崎証人は,委員退任後,日本海の津波想定について検討している過程で入倉・三宅式による過小評価のおそれに改めて気づき,自らが担当していた審査の見落としを指摘するようになったのであり,国の機関である地震本部もその問題提起を受けてレシピを修正せざるを得なくなっている。もし島崎証人が委員退任以前から入倉・三宅式による予測の問題に気づいていれば,被告関西電力は,レシピ(ア)による基準地震動の策定を行うことはできなかったはずである。島崎証人がこの問題に気づいたのが偶々委員退任後であったため,島崎証人の意見に対して被告関西電力は耳を貸さず,さらにはレシピの修正さえも無視し,再稼働に前のめりになっている。その結果,レシピ(ア)による過小評価が未だにまかりとおっているのである。

基準地震動の審査を担当していた最高責任者の一人が,自ら,本件基準地震動の過小評価のおそれを具体的に指摘したのである。その意味は誠に重大であって,本件基準地震動が過小評価であることが十分に裏付けられたといわなければならない。

  (2)レシピ修正と規制基準の規定について

「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(以下「地震動ガイド」という。)I.「3.3.2 断層モデルを用いた手法による地震動評価」の(4)「①震源モデルの設定」1)では,「震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究推進本部による『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認する。」と規定されている。つまり,規制基準は,地震本部の最新のレシピなどによって震源断層のパラメータを設定することを求めているのである。

そして,平成28年12月に「修正」ないし「表現の誤り等を訂正」されたレシピ(甲383,384)では,震源断層モデルの設定に関し,入倉・三宅式に係る(ア)と(イ)についての表題の規定が改められた。また,レシピ冒頭には,「ここに示すのは,最新の知見に基づき最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論であるが,断層とそこで将来生じる地震およびそれによってもたらされる強震動に関して得られた知見は未だ十分とは言えないことから,特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には,その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい。」という規定が新たに設けられた。こうして,レシピは「最もあり得る地震と強震動を評価するための方法論」に過ぎないことが明記されたのである。つまり,施設の重要性に鑑みて確率は低くとも甚大な被害を及ぼし得る強震動を考慮しなければならない場合については,レシピに記載された方法論に満足することなく,さらに相応の保守性を確保できる手法を模索すべきとのメッセージがより明確に発せられることになった。

続く「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合」に,とりわけ高度の耐震安全性が求められる原発の基準地震動を策定する場合を含むことは明らかである。レシピを用いて基準地震動を策定する場合,現象のばらつきや不確定性に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが求められることはいうまでもないが,このような記載を推本が敢えて「表現の誤り等を訂正」する形で新たに盛り込んだのは,原発の基準地震動において「レシピ」が適用されている場面での計算手法や計算結果の吟味・判断が不十分な現状があったからに他ならない。

また,この「計算手法と計算結果を吟味・判断した上で」という規定の具体的な意味について地震本部事務局は,平成28年11月8日に開催された地震本部の強震動評価部会第158回強震動予測手法検討分科会において,「特に(ア)の方法を使う場合には,例えば,併せて(イ)の方法についても検討して比較するなど,結果に不自然なことが生じていないか注意しながら検討していただきたいという趣旨である」と説明している。レシピには従前より,「活断層で発生する地震は,海溝型地震と比較して地震の発生間隔が長いために,最新活動時の地震観測記録が得られていることは稀である。したがって,活断層で発生する地震を想定する場合には,変動地形調査や地表トレンチ調査による過去の活動の痕跡のみから特性化震源モデルを設定しなければならないため,海溝型地震の場合と比較してそのモデルの不確定性が大きくなる傾向がある。このため,そうした不確定性を考慮して,複数の特性化震源モデルを想定することが望ましい」(甲385・1~2頁等)という記載があった。この記載と平成28年12月の修正を踏まえれば,過去の地震記録がなく活断層調査による過去の活動の痕跡から震源断層モデルを設定しなければならない状況で,原発の基準地震動策定のような特に不確定性の考慮が必要な場合には,(ア)の方法のみでは保守的な想定として不十分であることは明白である。

また,レシピの「付図2 活断層で発生する地震の震源特性パラメータ設定の全体の流れ」では,レシピ(ア)は「地震観測等」,レシピ(イ)は「活断層調査」とされている。この記載部分からすると,基本的に,地震観測記録から震源断層を設定する場合は(ア),地震観測記録がなく活断層調査から震源断層を設定する場合は(イ)を用いるというのが本来のレシピの趣旨である。ところが,本文における記載に問題があり,調査がなされている場合でもレシピ(ア)を適用すればよいという誤解を招いていたため,平成28年12月修正のレシピでこの点を明確にしたものである。

設置許可基準規則の解釈(別記2)4条5項2号⑤には,「上記④の基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の不確かさ,並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮すること。」と規定されている。これは,藤原広行氏が「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム」第3回会合において,単にばらつきとして捉えられるような不確かさだけではなく,「認識論的な不確かさとか,あるいは,我々が持っているこのモデルや,そういった知見の至らぬところから生じる限界」についても議論する必要があると提言した結果,記載されるに至ったものである(甲386)。こうして「各種の不確かさ」の考慮を要求する規制基準が,知見ないしモデル自体の不確かさの考慮や必要に応じて不確かさを組み合わせることを要請していることからしても,レシピ(ア)を考慮するだけでは足りないとするのが規定の趣旨に沿うものと言える。またこの審査基準からしても,レシピにおける「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合」に原発の基準地震動を策定する場合が当たることは明白である。すなわち,修正されたレシピの趣旨としても,原発の基準地震動策定の際には,(ア)の方法を用いるだけでは足りないのである。

  (3)纐纈氏の指摘

推本でレシピの作成・改訂を担当している強震動評価部会の部会長及び同部会強震動評価手法検討分科会の主査を務める,纐纈一起東京大学地震研究所教授も,近時,島崎氏と同氏の指摘を繰り返し行っている。即ち纐纈教授は,島崎氏の問題提起と自身による熊本地震の分析を経た上で,①大地震が起こる前にいくら詳細な活断層調査を実施しても震源断層の長さや幅を推定することは困難であること,②活断層の地震の地震動予測には(ア)よりも(イ)の方法を用いるべきこと,③電力会社が採用している(ア)の方法では過小評価になること,を述べているのである(甲387,甲388等参照)。

こうして,いずれもわが国の地震動研究の第一人者であり,片や規制委員会で本件基準地震動の審査に関わってきた島崎氏と,片や推本でレシピの作成・改訂を担当している強震動評価部会の部会長等を務める纐纈教授とが,一致して(ア)の方法によるだけでは過小評価であるとの指摘を繰り返し行っているのである。これらの事実は,本件基準地震動の過小評価性を十分に証明している。

ページトップへ

 2 レシピ修正に至る経過等

  (1)事実経過

   ア 試算結果
島崎氏は,陳述書において,本件原発の基準地震動が過小評価であるおそれについて指摘した。このことがマスコミ等でも報道されたが,平成28年6月2日付中国新聞の記事では(甲389),原子力規制庁及び島崎氏は,平成26年の時点で,長沢啓行大阪府立大学名誉教授の指摘を受けて,入倉・三宅の式による過小評価のおそれを認識していたものの,対応を先送りしていたことが明らかとなっている。島崎氏は,長沢氏の指摘について,「ポイントを突いた議論だった」と述べている。

こうした状況を無視できなくなった原子力規制委員会は,同月26日,島崎氏を招聘して面談し,その際に他の式で本件下発の基準地震動を再計算するよう指摘を受けたことから,同月20日の会合において再計算を行うことにせざるを得なくなった(甲390,391)。その結果,7月13日の会議で,入倉・三宅の式を武村式に入れ替えたときの本件原発の基準地震動の試算結果が報告された。その結果は,入倉・三宅の式を用いた従来の評価と比較すると,地震モーメントが3.49倍,短周期レベルが1.51倍(後に1.52倍に修正),アスペリティ応力降下量が1.58バイトなり,基準地震動に至っては約1.8倍になるというものであった(甲392)。ところが原子力規制庁は,武村式の試算結果について短周期を1.5倍する等の不確かさの考慮を行わなかったため,これを用いても従前の基準地震動のレベルに収まるという結果になるとし(同),よって基準地震動の見直しは必要ないとの報告を行った。

こうして田中委員長は,この問題の「打ち切り」を宣言したのである(甲393)。同日の記者会見において同人らは,結果を見て島崎氏が納得したかのような発言を行った(甲394)。

   イ 島崎氏との再面談
ところがこれに対して島崎氏が,今回の委員会の議論や結果については納得していないこと,同じ条件を設定すれば武村式を用いた場合の地震動は近似値で1080ガルとなること,短周期1.5倍のケースでは1550ガルにも成ること等を述べ,再計算を求めた(甲395,396)。

そこで7月19日,委員会は再度島崎氏と面談を行った。この面談において規制庁側は,武村式で算出した地震モーメントを前提としてレシピに従い計算すると,アスペリティの総面積が断層面積の倍近くになり「入り口のところでつまづいてしまう」こと,アスペリティ応力降下量の算出につき短周期レベルと矛盾しないものを算出するという方法で22.3MPaとしたが,背景領域の応力降下量が普通に理解されているものの3倍程度になってしまうなどと述べた(甲397別紙)。これに対し島崎氏は,規制庁の試算結果について,断層面積が同じ状況で地震モーメントが3倍になるということは,ずれの量が3倍になるということであり,応力降下量も大きくなることから,「それは矛盾ではなくて,最初の式を変えた結果そのもの」であり,「きちんとパラメーターを選んで頂いている」と評価した(同)。さらに,地震本部や中央防災会議でも入倉・三宅の式以外の式に基づいて震源の大きさを推定して地震動を求める手法が用いられていることから,同式を用いなくてもよいのではないかということや,最新の強震動観測記録の利活用,強震動の専門家の提案の検討,複数機関への計算の依頼などを提案した。また,武村式を用いた場合でも短周期レベル1.5倍の不確かさの考慮を行うべきであるとも述べた(同)。

しかし田中委員長は,「これは駄目だといっているのですよ」「今回は無理をしすぎて,やってはいけないことをやった」などと述べ,委員会が出したばかりの試算結果の妥当性を自ら否定した(同)。専門家の意見を聞くことが重要との島崎氏の指摘に対しても,「そういうことをやる余裕はないし,やるべき立場にもない」と述べ,そういったことが可能であるが行わないと述べてこれを排斥した。

   ウ 再度の検討終了宣言
7月27日の会議において,入倉・三宅の式を用いる以外の方法については「科学的・技術的な熟度には至っていない」との発言があるなど,この問題についての検討終了が再度宣言された(甲398)。

  (2)明らかとなった事実

   ア 入倉・三宅の式による過小評価のおそれ
何より,例えば「入倉・三宅式は,ほかの関係式に比べて,同じ断層長さであれば地震モーメントが小さく算出されるという,そういう可能性も有していることは頭に置いてやっていきます」(甲398・10頁),「絶対的に入倉・三宅式がいいと我々は判断しているわけではない」(甲399・6頁)と述べるように,島崎氏が指摘した入倉・三宅の式による過小評価の危険性自体については,規制委員会も規制庁も否定していないということを確認する必要がある。

それにもかかわらず同式を用いる理由として,規制委員会は,同式を用いる以外の手法が地震動評価手法として未確立であるという点を挙げるようである(甲397・25頁)。しかし,そのことと島崎氏の指摘を排斥することとは連動しない。入倉・三宅の式による過小評価の危険性が指摘されているのであるから,例え評価手法が未確立であっても,その分だけ十分に安全側に余裕を持った想定を行うことは最低限の措置として可能であり,それこそが「不確かさの考慮」である。藤原広行・防災科学技術研究所部門長も,規制委員会の結論は島崎氏の指摘に正面から応えていないこと,熊本地震の結果も含めてより時間をかけて検討すべきことを指摘しているところである(甲400)。

   イ 規制庁自身が行った試算結果の重要性

そうした中であってさえ,規制庁が,武村式を用いた場合の地震動評価が入倉・三宅の式を用いた場合に比べて約1.8倍になるという試算結果を示したことは極めて重要である。島崎氏の指摘により,不確かさの考慮で短周期を1.5倍等しなくても試算結果が基準地震動を超える可能性が判明したため(甲395),委員会は試算結果の妥当性を否定することに躍起になったが(甲397「やってはいけないことをやった」,甲399「撤回といえば撤回」),規制庁よりもさらに専門性の乏しい規制委員会に,規制庁が公式に報告した試算結果を全否定できるものではないし,それによって試算結果の意味するところの重大性が減殺されるものでもない(規制庁は妥当性を否定していない。甲401「我々が撤回するのは多分ない」,「そういうことを目的として使うということには,もしかしたら使えるかもしれないとは思います」)。

武村式の適用によって地震動が約1.8倍も大きくなったということは,垂直ないし垂直に近い断層について,仮に入倉・三宅の式による過小評価の性質が,島崎氏の指摘を無視して短周期等の1.5倍の不確かさの考慮で補えるものであると考えても,なお過小評価の誹りを免れないということになる。武村式を盛り込んだ妥当な予測手法を用いた場合,地震動がこれまでの1.8倍以上に大きくなる可能性も否定できないのである。

なお,レシピに従って試算するとアスペリティの面積が断層の面積よりも大きくなるという点(甲397)については,元々被告関西電力は,アスペリティ面積が断層面積の30%を超えた場合はその22%とする方法を採用しているのであるから(甲402・66頁),それと同様の処理を行えば足り,しかもそのことはレシピでも想定されている合理的な処理である(甲385・10頁)。よって,かかる理由付けは結論ありきの口実にすぎない。

   ウ 地震発生前に用いることができるのは震源断層の情報ではない
入倉・三宅の式をめぐる島崎氏の指摘は,地震学者の一定の支持を得ている。

この点に関し島崎氏は,「地震発生前の使用できるのは活断層の情報であって,震源断層のものではない」「断層の長さや面積などの断層パラメーターは,地震発生後に得られるものであって,事前に推定できる値とは異なり,大きくなることが多い」などと,地震発生前の活断層情報を入倉・三宅の式に当てはめた場合の過小評価の危険性について繰り返し指摘していることは既に述べたとおりであり,陳述書でも同旨を述べるが,規制委員会の担当委員として適合性審査の実務に携わった経験を踏まえても,被告関西電力が実施する活断層調査では必要な震源断層の情報が事前には得られないと断言しているということである。島崎氏は6月16日の木瀬委員会での面談時も「事業者はどちらかというと短い断層を好むわけで,地表の観測データから考えられるところを自ら進んで57kmという長い断層を提案する事業者はおそらくいない」と指摘するが(甲390,403),かかる指摘は基準地震動の過小評価の危険性を端的に表現したものである(甲404も参照)。

これに対して纐纈氏も同旨を述べて島崎氏の見解を支持し(甲387),さらに端的に,「原発の耐震評価で用いられている(入倉・三宅の式を用いる)地震動の予測手法を熊本地震に適用すると,地震動は過小評価になることがわかった」とも指摘する(甲405,406)。式の提唱者である入倉氏自身も,「断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性がある」などと述べているところである(甲407)。

   エ 入倉・三宅の式を用いることは相当でない
推本は平成21年に松田式を用いた修正レシピを作成しており,「全国地震動予測地図」での活断層地震の地震動評価等では,(ア)の手法ではなく松田式等による(イ)の手法を基本的に用いており(甲387),最新の「全国地震動予測地図」でも同じく松田式を用いる修正レシピを利用している(甲408,409)。さらに旧原子力安全委員会も,島根原発の耐震バックチェックの際の松田式を用いた修正レシピでの計算を行っている(甲403,410)。そうである以上,本件原発の基準地震動についても,入倉・三宅の式ではなく,松田式を用いた修正レシピを利用することができない理由はない。それなのに意図的にこれを行わなかったのである。

纐纈教授は「松田式を用いた後者の予測手法(注:修正レシピ)で計算した結果の方が,熊本地震の規模と地震動をより正確に再現できる」「(入倉・三宅の式を用いる)電力会社の手法では過小評価になる」(甲387)と述べており,さらに,「活断層が起こす揺れの予測計算に,地震調査委は09年の方式(注:修正レシピ)を使う。規制委が採用する方式(注:入倉・三宅の式を用いる方式)の計算に必要な『断層の幅』は詳細調査でも分からないからだ。これはどの学者に聞いても同じで規制委の判断は誤りだ」とまで述べている(甲411)。

震源断層について何らかの調査を行ったとしても,入倉・三宅の式による過小評価の危険性は何ら低減されないのであるから,同式を用いることは相当でないことは明白である。

  (3)レシピ修正に至る地震本部での議論

そもそも平成28年12月にレシピが修正されたことは,島崎証人が証言するように「非常に異例のこと」(甲382・31頁)であり,そのように異例の修正が行われた背景には,入倉・三宅式に係る島崎証人の問題提起によって規制委員会で本件基準地震動の再検討が行われマスコミにも取り上げられたことがある。このレシピ修正に至るまでには,地震本部で,少なくとも以下の分科会及び部会で検討され,平成28年12月9日の第298回地震調査委員会で最終的に決定されている。

上記で若干述べた事とも重複するが,情報開示資料も含めて以下改めて確認する。

  • 強震動予測手法検討分科会
    平成28年 7月15日第156回
    平成28年 9月 7日第157回
    平成28年11月 8日第158回
  • 強震動評価部会
    平成28年 9月14日第152回
    平成28年11月15日第153回

情報開示された資料には黒塗りが多く不明な部分も多いが,第156回強震動予測手法検討分科会及び第152回強震動評価部会での議論状況は議事概要からある程度分かる。

第156回強震動予測手法検討分科会の議事概要によると,★★(纐纈一起主査か?)より,レシピから(ア)の手法を削除した方がよいという提案があった。これに対し△△(入倉孝次郎委員か?)が反発した。

第152回強震動評価部会における纐纈一起部会長の資料によると,同部会において,纐纈部会長は,熊本地震について分析した結果,「入倉・三宅式や松田式に問題はない」(同5頁)としつつ,長期評価に基づいて事前に想定されていた断層の長さ及び幅(地震発生層の深さ)が,地震発生後に判明した震源断層の長さ及び幅よりも過小になっており,その結果,予測手法としてレシピ(ア)を使うと,地震規模が過小評価になっていることを示した(同6~9頁)。

「『予測手法』(ア)はなぜうまくいかないのか?」について,纐纈部会長は,鳥取県西部地震や福岡県西方沖地震という近年のほぼ鉛直な横ずれ断層から発生した地震のデータを示して「大地震の震源断層の下端は地震発生層からさらに深い部分に及ぶことが多い。」と述べ,また,Wells and Coppersmith(1994)のデータを示して「震源断層は地表には現れない部分が存在し,その長さは地表地震断層より長いことが多い」とした。そして,「結果として,幅も長さも短く予測されてしまうので,面積がかなり小さく決まってしまう(熊本地震では実際の半分以下)。そのため,面積から決まるMが過小評価となる」という見解を示した(同10頁)。

纐纈部会長は「まとめ」として,「たとえ詳細な調査が行われたとしても,活断層や地震発生層の調査から将来の地震の震源断層の面積を精度よく推定することは困難であることが,熊本地震の実例で明らかになった」「そのため,震源断層面積から予測を始める(ア)より,活断層調査で精度よく求まるといわれる地表地震断層の長さなどから予測を始める(イ)の方が安定的である可能性が高い。全国地震動予測地図では活断層の地震に対して(イ)のみを用いている」「以上を踏まえ,『予測手法』における(ア)のセクションタイトルを,『(ア)過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合』から『(ア)過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合』に替えたらどうか.」「同じく(イ)のセクションタイトルを,『(イ)地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合』から『(イ)その他の場合』に替えたらどうか.」等の提案を行った(同12~13頁)。

第152回強震動評価部会の議事概要(案)によると,同部会では纐纈部会長の資料と提案は概ね肯定的に受け取られた。☆☆(入倉孝次郎委員か?)からも,「(纐纈委員の)資料に書かれていることは正しいし,分析も正しいと思っている」「(ア)を直接実施しようとすると,不確定性がまだ残っている。」「(ア)の方法は重要だし,(イ)の方法も重要である。両方やることには賛成」等とコメントされている(同5,6頁)。

少なくとも,平成28年12月のレシピ修正は,熊本地震と日奈久・布田川断層の長期評価を踏まえ,強震動地震学の第一人者である纐纈一起氏(東京大学地震研究所教授)の提案により,入倉・三宅式の作成者である入倉氏や三宅氏を含む多くの専門家の間での議論を経て決まったことは明らかである。以上の経緯を踏まえれば,このレシピの修正は,過去の地震記録がない場合,(ア)のみでは安定的とはいえないという趣旨からなされたものである。修正されたレシピの解釈についての島崎証言(甲382・31~32頁)に誤りはない。

被告関西電力は,レシピ(イ)の方法を用いずにレシピ(ア)を用いる理由として,詳細な調査に基づいて得られた震源断層の調査をより直接的に反映することができるからであると主張するようである。だが,2016年(平成28年)9月14日付けの地震本部事務局作成資料「『レシピ』の一部記述表現について(案)」に記載されているとおり,また原告らが繰り返し指摘しているとおり,現状では仮に調査・研究にベストを尽くしても得られる知見や情報は質・量とも不完全である(甲412)。それにもかかわらず,被告関西電力は,未だ震源断層の長さや幅を正確に特定でき,レシピ(ア)のみで信頼性の高い地震動予測が行えるかのような立場を取っているのである。

安定的な地震動評価をするためにレシピ(ア)のみでは足りないということが震本部の専門家の間でも妥当な方法として認められ,レシピの表現が修正されるに至ったのであるから,特に十分に保守的な評価が要求される基準地震動の策定において,レシピ(ア)を用いるのみでは過小評価の危険が極めて大きいことは当然である。真に「十分に保守的な評価」をするのであるならば,レシピ(ア)を用いるのみでは著しく不十分なのである。

ページトップへ

 3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について

被告関西電力は,本件原発について,詳細な調査をし保守的な想定をした旨主張し,入倉・三宅式による地震モーメントの過小評価のおそれがないかのような主張をしている。だが,島崎証人が証言したとおり(調書22頁),被告関西電力の「詳細な調査」や「保守的な想定」によっても入倉・三宅式による事前推定の問題は無くならない。

まず,被告関西電力がFO-A~FO-B~熊川断層等について特に詳細な評価をしたという事実はない。FO-A~FO-B断層については海上音波探査が実施されているが,これはせいぜい表層200m~300m程度を調べたに過ぎない。熊川断層については反射法地震探査が行われているが,やはり表層200m程度までしか調べられていない。これで地下3kmから18kmにあるとされている震源断層の長さを事前に正確に設定できるはずがない(甲382・23頁)。

被告関西電力は,C層上面に断層活動による段差が認められるかどうかが重要なのであるから,海底下約120m~130mだけを調査すれば十分であるかのように主張する。だが,そのような被告関西電力の主張が成り立つためには,震源断層が活動した際にその長さに対応するよう,直上の地層には必ず段差(変位,ずれ)が生じると言えなければならないが,そのような一般則は存在しない。むしろ,纐纈一起氏が地震本部で示したように,震源断層には地表に現れない部分が存在するため,地表地震断層の長さは震源断層の長さよりも一般に短い。それは即ち,地表に段差が現れる長さは地下の震源断層の長さよりも類型的に短いことを意味している。「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトの総括成果報告書」(甲413)によると,反射法・屈折法による地殻構造調査(同2-1)やマルチチャンネル等による海域地殻構造調査(同2-2)によって,新潟県から秋田県にかけての一部領域における深部地下構造のイメージングが行われ,地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の存在が明らかになっている。こうした手法により,地下18km程度の断層の調査も決して不可能ではないのである。被告関西電力は,できるのに行っていないのである。なお同報告書では,1964年新潟地震(Mw7.6)に関連する活断層調査から,地震が発生しても震源域の一部でしか海底に変位が出現しないことも示されている(同82頁)。

地下3kmから18kmに存在する設定となっている震源断層の長さについて,「想定外」を無くすためには地下18km程度まで詳細に調査するのが本来であるが,最低限地下3kmまでは調査すべきである。東京電力は,平成10年度国内石油・天然ガス基盤調査陸上基礎物理探査「西山・中央油帯」の地震探査記録や昭和44年度天然ガス基礎調査基礎物理炭鉱「長岡平野」の地震探査記録を適合性審査資料で引用し,地下数km~6km程度の地下構造を示している(甲414。甲415も参照)。石油や天然ガスのための調査ですら地下数km程度まで実施するのであるから,基準地震動の評価に当たって同程度の調査は被告関西電力も当然実施すべきであり,またそれは十分可能であるはずのところ,これを行っていない。

また,震源断層の幅は震源断層の長さよりもさらに事前推定が困難である。被告関西電力は地盤速度構造や微小地震の分布から地震発生層を設定しているが,それで大地震の震源断層の幅が精度良く設定できるという実証的な検討はなされていない。島崎証人も「断層幅を大きく取れば何とか一致させることができますよと。でも,そんなのは事前には設定できませんね」(調書31頁)と証言している。第156回強震動予測手法検討分科会でも,★★(纐纈主査か?)から「個人的には,構造調査から大地震の震源断層の下端が分かるとは,とても思えない」「微小地震による地震発生層の詳細な調査が,将来発生する大地震の震源断層とは等しいとは限らない」等の発言があり,△△(入倉委員か?)からも「下端は分からない」「(下端を特定するためには)10km掘って構造物性を調査する必要がある」等と言及されている。地震発生層の上端深さについても,事前設定は容易ではない。1995年兵庫県南部地震や1927年北丹後地震では,断層破壊に伴って地表面にもすべりが生じたことが知られている。特に原子力発電所のような硬質地盤の場合には地震動を発しうる領域の上限深さを決めることが難しい場合も考えられる(山田ほか(2015))(甲416・78頁)。熊本地震でも,2014年長野県神城断層地震と同様,顕著なずれは明らかに浅部にあるとされ(鈴木ほか(2016))(甲417・845頁),熊本地震による断層近傍の強震動を再現するには深部だけでなく表層付近の影響を含める必要がある(長坂ほか(2016))(甲418)。平成28年11月15日の地震本部強震動評価部会では「参考資料8活断層の長期評価に基づく強震動評価の改良(2)-上端深さ0kmとした活断層の震源断層モデル化に関する検討―(防災科研資料)」(甲419)が配布されており,震源断層の上端深さの設定の不確定性とこれに関する強震動評価の問題は地震本部における検討課題となっている。

地下の震源断層の面積を事前に特定することは極めて困難であり,まして被告関西電力が行っているようなごく表層付近の調査では不可能である。

ページトップへ

 4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について

被告関西電力はFO-A~FO-B断層~熊川断層の断層長の設定について,活断層研究会の『新編日本の活断層』よりも断層長さをやや長く設定していることをもって保守的な評価と言いたいようであるが,そういった既往文献での調査では密に観測しているわけではなく,島崎証人がいう「普通の調査」(甲382・23頁)をしているに過ぎない。本件原発のために測線を増やせば被告関西電力が設定しているような値になるのは当然であって,特に保守的ということはない。島崎証人も,「これが存在しているのでこの値にしたというだけで,保守的なところはどこもありません」「保守的ではなくて,正にこれはあるものをそのまま書いたというだけのこと」(同頁)等と証言している。

また,被告関西電力は,本件原発の地震動評価について,断層の幅(地震発生層の厚さ)については,十分に保守的な長さとして設定していると主張している。しかし,実際には地震本部よりも非保守的である。FO-A~FO-B~熊川断層は地震本部において強震動評価の対象となっていないが,その周辺の震源断層モデルのパラメータから,仮にFO-A~FO-B~熊川断層を地震本部が評価した場合の地震発生層や断層幅の設定を推認することができ,上林川断層は地震本部のパラメータと直接比較できる。本件原発ないしFO-A~FO-B~熊川断層周辺の断層のうち,野坂断層帯では地震発生層の深さは「2-17km」で断層面の幅は「16km」,三方断層帯では地震発生層の深さは「1-16km」で断層面の幅は「18km」(ただし東傾斜60度),花折断層帯北部では地震発生層の深さは「1-20km」で断層面の幅は「18km」,上林川断層及び三峠断層はいずれも地震発生層の深さは「1-15km」で幅は「16km」とされている(いずれも強震動評価のための「モデル化」ケース)。つまり,地震本部は本件原発周辺の主要活断層帯について,ことごとく地震発生層の上端は3kmより浅く,断層幅は15kmより広く設定しており,被告関西電力によるFO-A~FO-B~熊川断層の設定よりも保守的である。これには,レシピ(イ)を適用する場合,断層モデル下端深さが最大「+2km」されることと,上限深さを深い地下構造からVs=3.0km/s程度の層の深さが目安とされていることの両方の要因が関係していると考えられる。なお,被告関西電力の地盤モデルでは,S波速度3.0km/sの上面深度は1.01kmとされている。島崎証人も,地震発生層の厚さが15kmであるからといって入倉・三宅式による過小評価は考え難いということは言えないと証言している(甲382・24頁)。

しかも島崎証人は,入倉・三宅式が地震モーメントを小さく算出する可能性に留意して断層長さや幅等に係る保守性の考慮が適切になされているかという観点では審査をしていないしされていないと明確に証言している(同・33頁)。また,島崎証人は,新聞社のインタビューにおいて,被告関西電力が上端深さを当初4kmと評価して設置変更許可の申請をしていたことについて,「常識的にあり得ない」と述べ,3kmに変更になったことは,3連動の想定も合わせて,「規制委は余裕を持たせたとアピールしているが,そうではなく,当たり前のことだ」とも話している。

後述のとおり函館地裁における書面尋問で,藤原広行氏は,入倉・三宅式による過小評価を解消ないし低減させる方法として,「断層下端の深さについて深め設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張することと,入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことなどが考えられる」(甲420-2・10頁)と証言している。地震発生層の厚さの保守性によって入倉・三宅式の過小評価のおそれに対処しようとすれば,少なくとも断層面を地表面まで拡張する程度の保守性が必要であるが,被告関西電力の設定ではまったくその水準に達していない。

ページトップへ

 5 活断層として認識できる長さについて

島崎証人が証言するとおり,多くの場合,後世の調査によって活断層として認識される断層の長さは,地震直後に現れていた地表地震断層よりも短くなる(甲382・8頁)。これは,活断層の再来周期が長い(一般に数千年から数万年単位)ことから,地表地震断層の痕跡が後の風化,浸食,堆積等の作用によって消滅してしまうためであると考えられる。本件原発が阿蘇のような火山地域でなくとも,これまでの地表地震断層の痕跡が消滅している可能性は当然ある。

FO-A~FO-B~熊川断層についても,活断層調査の結果,過去の地震活動で最大合計63.4kmの地表地震断層が現れる活動が想定され,これが全体として活動した場合を固有地震として設定しているからこそ,被告関西電力はその評価をしているのであって,地表地震断層よりも長い震源断層が両端よりも広がっている可能性をも考慮した結果63.4kmとしているのではない。熊本地震の結果,FO-A~FO-B~熊川断層の震源断層長の設定が過小評価になっていると考えるのは合理的な推認であり,被告関西電力の主張には何ら根拠がない。

ページトップへ

◆原告第43準備書面
―基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)―
目次

原告第43準備書面
―基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)―

2018(平成30)年1月12日

原告第43準備書面

目 次

第1 基準地震動が過小評価であること
1 レシピ(ア)と(イ)の適用について
2 レシピ修正に至る経過等
3 被告関西電力がいう「詳細な調査」について
4 被告関西電力がいう「保守的な想定」について
5 活断層として認識できる長さについて

第2 藤原広行氏の書面尋問等について
1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括

ページトップへ

◆ 原告第42準備書面
―原発以外では政府が地震の予測不可能性を前提に最大クラスの巨大な地震・津波を想定して災害対策をしていること―

原告第42準備書面
―原発以外では政府が地震の予測不可能性を前提に最大クラスの巨大な地震・津波を想定して災害対策をしていること―

2018(平成30)年1月12日

原告第42準備書面

目 次

1 原発以外の政府の政策は地震の予測ができないことを前提にあらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に変わってきていること
2 大規模地震対策特別措置法(昭和53年)
3 地震防災対策特別措置法(1995年)
4 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)
5 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと
6 まとめ



1 原発以外の政府の政策は地震の予測ができないことを前提にあらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に変わってきていること

すでに原告が主張しているように、1995(平成7)年1月17日の兵庫県南部地震(M7.3)のあと、2016年4月の熊本地震(M7.3)の直前までの約20年間に、M7以上の内陸の地殻内断層地震は、2000年に鳥取県西部地震(M7.3)、2005年に福岡県西方沖地震(M7.0)、2008年に岩手・宮城内陸地震(M7.2)、2011年福島県浜通り地震(M7.0)と、5~3年間隔で広範囲な地域でバラバラと起こった。これらの地殻内断層地震の明瞭な前兆的ひずみ変化は国土地理院の電子基準点の観測データを見ても検出されなかった。2016年4月の熊本地震(M7.3)のあと、次に日本でM7クラスの地殻内断層地震がどこに起きるかは、地震学者でも全くわからない。若狭湾・近畿地方かも知れないし、首都圏かも知れない。既存の活断層だけに注目していてはならないのである。

このような学術的知見の進歩に合わせて、我が国の行政の上でも、大規模地震に対する対策は、直前に予知可能で、それを前提に対策を取ればよい、という方向性から、地震の規模や時期の予測はできず、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を想定し、それに対する対策を事前に取る方向に、変わってきたのである。以下、2017(平成29)年9月に政府が発表した「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)」(甲381)をもとに、このような法制度、行政施策の変化の状況を述べる。

ページトップへ

2 大規模地震対策特別措置法(昭和53年)

南海トラフ(駿河湾から四国の南方の海まで伸びる海底の4000m級の溝)沿いの大規模地震に関しては、昭和50年代前半に駿河湾周辺を震源域とする東海地震の切迫性が高いことが指摘され、地震の直前予知が可能であるとの考えの下、地震予知情報に基づく警戒宣言の発令後にあらかじめ定めておいた緊急的な対応を的確に実施することで被害を軽減する仕組みを主要な事項とする大規模地震対策特別措置法(以下、「大震法」という。)が1978(昭和53)年に施行された。

<南海トラフの概要および南海トラフでの地震の発生状況> 【図省略】

ページトップへ

3 地震防災対策特別措置法(1995年)

しかし、1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災では、1項で述べたように、地震の予測は全くできなかった。犠牲者のうちの8割以上が住宅倒壊等による圧死であり、特に1981(昭和56)年の建築基準法施行令改正前の木造建築物の被害が大きかった。

この教訓を踏まえ、大規模地震が全国どこでも起こり得ることを前提に、平成7年に「地震防災対策特別措置法」が制定され、全都道府県における「地震防災緊急事業五箇年計画」の策定や、この計画に基づく事業に係る国の財政上の特別措置により、地震防災施設等の整備などの地震防災対策を推進することとなった。

ページトップへ

4 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成25年)

2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災は、それまでの想定をはるかに超える巨大な地震・津波により一度の災害で戦後最大の人命が失われるなど甚大な被害をもたらした。このため、南海トラフ沿いで発生する大規模地震対策を検討するに当たっては、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波」を想定することが必要になった。

これらを踏まえ、いかなる大規模な地震及びこれに伴う津波が発生した場合にも、人命だけは何としても守るとともに、我が国の経済社会が致命傷を負わないようハード・ソフト両面からの総合的な対策の実施による防災・減災の徹底を図ることを目的として、平成25年に東南海・南海法を改正する形で、南海トラフ全体を対象とした「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(以下、「南海トラフ法」という。)が制定され、科学的に想定し得る最大規模の地震である南海トラフ巨大地震も対象に地震防災対策を推進することとされた。

この法律により、南海トラフ地震により著しい被害が生ずるおそれのある地域が南海トラフ地震防災対策推進地域として指定され、同地域においては、大震法や東南海・南海法と同様に、国、地方公共団体、関係事業者等が、調和を図りつつ自ら計画を策定し、それぞれの立場から予防対策や、津波避難対策等の地震防災対策を推進することとされた。

ページトップへ

5 政府の調査部会が地震が予測不可能であることを認めたこと

このようななか、平成25年にとりまとめられた政府の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」の下に設置された「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」(以下、「平成25年調査部会」という。)の報告において、「現在の科学的知見からは、確度高い地震予測は難しい。」(甲381の14頁)とされた。ここで「地震予測」とは「確度の高い地震の予測」とは、地震の規模や発生時期を確度高く予測すること」とされ、前述の「予知」を含む概念とされた。

さらに、平成29年、政府の「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」において、近い将来発生が懸念される南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性について最新の科学的知見を収集・整理して改めて検討した結果、「現時点においては、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はなく、大規模地震対策特別措置法に基づく警戒宣言後に実施される現行の地震防災応急対策が前提としている確度の高い地震の予測はできないのが実情である。」(甲381の15頁)と、とりまとめられた。

ページトップへ

6 まとめ

このように、現在、行政や民間の地震防災一般は、震の予測は不可能であることを前提に「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」を想定したものになってきている。この理は、内陸型地震である阪神淡路大震災を契機として全体の知見が進んだように、海溝型の地震でも、内陸型の地震でも、異ならない。

このようななか、原発の耐震設計については、依然として、原発の敷地に襲来する地震動を事前に予測可能であることを前提とし、特定の「活断層」が発生させる地震動を予測する方針が採られている。
絶対の安全性を求められる原発について、特定の「活断層」を前提とし、かつ、そこから発生する地震動を予測可能とする、すでに覆された前提を墨守する考えは、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」、すなわち地震動について言えば、少なくとも我が国の観測史上最大の地震動を想定する考え方に反し、不合理と言うほかないだろう。

以上

ページトップへ

◆1/16の第18回口頭弁論の報告

1/16(火)の大飯原発差止訴訟[京都地裁]第18回口頭弁論の報告です。
(期日前の傍聴の呼びかけ 「1/16は傍聴席を脱原発の声でいっぱいに!」→こちらへ。)

傍聴席の応募はかなり多くて,抽選になりました。前回と同様に関電関係と思われる集団もちょっとした数になっていました。

恒例の開廷前のデモは,好天と気温に恵まれて38名となり,1月としては盛況でした。

報告集会は100人をこえ,京都弁護士会館・地階大ホールが満席になりました (^o^)

・報告集会のカンパ…6万円を超えました。深く感謝します。
・缶バッジとクリアファイルなどのご協力ありがとうございました。

以下は,全体的な感想です。
—————
◆第18回口頭弁論は,原告席,傍聴席ともすべてうまり,熱気のある法廷になりました。年末年始を挟んでいて,参加者数には少し心配もありましたが,原告の皆さまのこの裁判にかける熱意が現れていました。地盤特性について関電の調査の欠陥を指摘した主張は,赤松先生の詳細なデータ点検,出口団長の主張とあいまって,説得力がありました。

◆私たち京都地裁の大飯原発差止訴訟は,関電の設定する基準地震動への疑問と,事故が起こった際の避難困難性について,着々と主張を積み重ねています。

◆とくに大飯原発の地盤特性について,関電は「ほぼ均質な地盤」であるとか,「浅部構造に特異な構造がない」と主張していますが,今回,「そういうことは到底言えない」ことを明らかにしました。関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で,そのため地震動が著しく過小に評価されているのであって,「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判しました。関電の評価は明らかに誤りです。

◆被告関電は,基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で,地域特性を十分に把握できており,その地域特性に照らせば,基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張しています。しかし,主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず,それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査がなされないままです。また実施された調査結果が,科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに,基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されています。

◆それを容認し追認している規制委員会も同様に批判されなければならない。そして,大飯原発は,地震に対して極めて危険だと言わなければならないのです。

(上記の主張は裁判所には書面で提出していますが,原告団Webへの掲載は現在,作業中です。しばらくお待ちください m(_ _)m
■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□■
◆次回口頭弁論は,★3月27日★(火)14:00~です。引き続き,原告席での参加,傍聴席で参加をお願いします。
■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□■