カテゴリー別アーカイブ: 裁判

◆被告 関西電力の準備書面、答弁書、書証(丙号証)など(~2017/11)

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◆【書籍】竹本修三・原告団長の著作
 『日本の原発と地震・津波・火山』

  • 『日本の原発と地震・津波・火山』。大飯原発差止京都訴訟原告団長・京都大学名誉教授の竹本修三 著。発行日は2016/5/5。
  • 地震大国日本では,原発はどだい無理という第1章「地震大国ニッポン」。
  • 第2章「原発と地震」,第3章「原発と津波」,第4章「原発と火山」は,京都地裁での原告側の主張について,原告団長としての考えを示したもの。これらの章では主に大飯原発について述べているが,すべての原発再稼働にとって普遍性のある問題点を指摘している。
  • 第5章は「原発,高レベル放射性廃棄物の処分問題」,子や孫の世代に禍根を残さないように。
  • 原発稼働の是非を考える多くに人に読んでもらいたい内容です。
  • 四六判210ページ。¥1000円+税。amazonでも扱いあり。

s-takemoto
【本書は,大飯原発差止訴訟の原告団長としての考えを示したものです。】
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◆目 次
1.地震大国ニッポン
…長周期地震動,近畿・中部地方の地震と地殻変動,わが国の地震予知研究の現状,など。
2.原発と地震
(1)関電側の大飯原発についての地震対策。
(2)大飯原発周辺の想定地震についての原告側の疑問。
(3)基準地震動を3桁で提示する欺瞞性。
(4)若狭湾の地殻内断層地震は短周期成分が卓越するか?
(5)「新規制基準」は原発の安全性を確保するものか。
3.原発と津波
…福島第一原発の津波被害,日本海側の津波,若狭湾の津波-大飯原発の津波被害,など。
4.原発と火山
…海溝型巨大地震と火山活動,日本の巨大カルデラ噴火とその原発への影響について,など。
5.原発,高レベル放射性廃棄物の処分問題
…わが国で原子力発電が行われるようになった経緯に関して,など。
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“ 地震大国ニッポン ” に 原発は土台無理

新刊著で竹本さん(大飯原発差止京都訴訟原告団長)警告
*救援新聞 2016年4月25日号。橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

4月14日から連続的に熊本,大分県などにマグニチュード7を超える大きな地震がありました。4月18日現在,42人の死亡,200人を超える方が重傷,倒壊した家屋も2千を超え,10万人近くが避難し,10人を超える行方不明者がいるとの報道で,すでに救援活動もされています。被災,被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。救援会は中央本部が熊本県本部と連絡をとり,会員の安否,被害状況の把握につとめ,募金などの救援を呼びかけています。被害情報,受け入れ情報に耳を傾け支援に参加しましょう。

この地震とかかわり,今唯一稼働中の鹿児島の川内(せんだい)原発の事故を危惧し停止を求める多くの声が政府に寄せられていますが,政府は「安全基準内」と主張して稼働をつづけさせています。

「『地震大国ニッポン』に原発は土台無理」と,すべての原発の稼働停止と廃炉を主張している,大飯原発差止京都訴訟原告団長の竹本修三さん(京都大学名誉教授)が,裁判で述べたことも含めた,学説(地球物理学)と思いを新刊本としてこのほどまとめました。『日本の原発と地震・津波・火山』がそれ。本体は1000円+税,全210ページです。竹本さんは,福島の原発事故があるまでは「原子力の平和利用」もあり得ると考えていたが,孫も生まれて,よりよい地球環境を残すことに危惧を覚え,そこへ福島の原発が起こり,これは原発と人類はとても共存できないと考えるようになり,孫たちの世代に辛い思いはさせられない,と訴訟の原告となり稼働反対の運動をするようになったと,「はじめに」で告白,さらに「おわりに」では,「日本の国土面積は全世界の約0.25%しかないのに,そこで世界のM6以上の地震の20%が起こっている。この日本に,世界に約400基ある原発のうちの54基が設置されていることはきわめて異常」と警告を発しています。

熊本での大地震は,日本列島のいたるところに活断層が走っている地層の上で,いつでも大地震発生の恐れがあり,本著の警告がより身辺な問題であることを裏書きしています。救援会員の購読を訴えます。ブックショップの発売は5月20日からですが,注文は受け付けます。救援会京都府本部でも取り扱います。

◆11/1の第17回口頭弁論の報告

昨日,11/1(水)の大飯原発差止訴訟[京都地裁]第17回口頭弁論の報告です。
(期日前の傍聴の呼びかけ 「11/1は傍聴席を脱原発の声でいっぱいに!」→こちらへ。)

傍聴席の応募はかなり多くて,抽選になりました。ただし,関電関係と思われる集団もちょっとした数になっていました。あの人数は,私たちの脱原発訴訟への敵意を示しているのでしょうか?

今後,傍聴席は脱原発の声で埋めたいと,改めて思っています。皆さまのご協力をお願いします。

恒例の開廷前のデモですが,好天に恵まれ,41名となり盛況でした。

報告集会は100人をこえ,京都弁護士会館・地階大ホールが完全に満席になりました (^o^)

・報告集会のカンパ…8万円を超えました。深く感謝します。
・竹本修三団長の本『日本の原発と地震・津波・火山』…1冊,世話人の山田耕作先生の本『放射線被曝の争点』…1冊。
・缶バッジとクリアファイル…クリアファイル5000円など,全体で7000円をこえました。ご協力ありがとうございました。

以下は,私たち原告団の世話人であり,原発賠償京都訴訟・原告団共同代表でもある福島敦子さんからのメールです。

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◎昨日は、脱原発ネットの大飯原発差止京都訴訟の期日でした。傍聴席は満杯。

期日内容は、原告の意見陳述として松本美津男さん(京都障害児者の生活と権利を守る連絡会[京障連])が、実際に避難訓練したあるいは、震災の経験者から聞いたお話から避難の問題について陳述しました。涙なしには聞けませんでした。弁護団からは、原発事故の際のヒューマンエラーおよび、原発裁判に関する原子力規制委員会の「考え方」に対する反論。

100名をゆうに超える期日報告会までの熱気は、弁護団の説明や参加者さんからの意見からもよく感じることができました。訴訟団の色は違いますが、現在の関西電力の廃炉へ進んでいる状況、それは関電の顧客離れの深刻なことが大きな要因になっているとの説明に、私たちのこつこつとした運動が、脱原発に確実に進んでいる手ごたえを感じた時間でした。私は、結審を無事に終えたことへのお礼をのべさせていただきました。大飯京都訴訟団のみなさまのお力添えには本当に感謝でいっぱいです。

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◆次回口頭弁論は,来年★1月16日★(火)14:00~です。年末年始をはさんで原告席募集と傍聴の要請をおこないます。

関電の関係者と思われる数に絶対に負けないよう,傍聴席は脱原発の原告と市民でうめつくしましょう!!
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◆第17回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

松本美津男

私は京都市左京区に住んでいる66歳の松本美津男と申します。

1歳半の夏にポリオウイルスによる両下肢機能障害になり、現在、主にマイカーで外出し、歩行は短距離なら両松葉杖で、長距離や少し重い荷物を持ち運ばなければならない時は手動車いすを併用しています。最近は、ポリオウイルスによる小児麻痺障害者が40~50歳代になると新たに筋力の低下や筋肉の痩せ、筋肉・関節の痛み等が出現するポリオ後症候群のせいか、自信のあった腕の力も弱ってきており今は右肩が慢性的に痛むため毎日痛み止めの薬を朝晩塗ってやり過ごしている状態です。また、血圧の薬など数種類の薬を服用しています。

左京区内の浄楽学区の自主防災会の主催する、主に地震を想定した防災訓練に一昨年秋初めて手動車いすで参加しましたが、指定されている避難所まで行くのに坂がきつく参加された元気な方に押してもらって何とかたどりつけました。けれども、たどり着いた学校の体育館の入り口はスロープがなく臨時に木の板を渡しているというお粗末なもので、かなり出入りしにくい状態でした。しかも防災訓練に参加した人だけでほぼ満員状態で、実際に住民全部が避難して来たらとても入りきれないのは明らかでした。

この問題をその時指摘した人がおり、区役所の担当者はまた検討しますという回答をしました。

この訓練に参加して、本当に大きな地震などあったらこの避難所にはまずたどり着けないだろう、仮にたどり着けたとしても、避難所は溢れかえるのは明らかで、車いす移動などできるスペースはないだろうし松葉杖歩行も相当困難と考えられ、避難生活するのは無理だなと感じました。

昨年防災難訓練の日は雨で、参加するかどうか少し考えましたが、震災は天気など関係なく起こるのだから、大変な状況の時こそ訓練しておくのが大切と思い、車いすで合羽を着て頑張って一時集合場所に指定されている公園に少し遅れて行きました。ところが人影がありません。場所を勘違いしたのかなと思っていたら、他の町の班長とおっしゃる方が来られ、他にも来られた方の話では、訓練が中止になり、役員だけが別の場所で会議をしているということを知りました。花折断層の真上にある私の地域でさえ避難についての認識はこの程度なのです。

そして、国の制度として避難行動要支援者について事前登録制度がありますが具体的な対象者の範囲は自治体任せで、京都市の場合、私が単身なら登録対象者になるのですが同居の配偶者がいるため登録対象に入らないことが分かりました。

また、福祉避難所に指定された施設の方が行きやすそうなので、もし避難指示が出たら、直接福祉避難所へ行けばよいかと区役所に尋ねると、福祉避難所がすぐに準備できるわけではないので先に地域で指定された避難所に行ってもらいたいとの返事でした。

防災訓練に参加した状況を話して福祉避難所に直接行く必要性を訴えても、あなたの地域の避難所が狭く、行くのが大変なのはわかるが国がそういう風に決めているから従ってもらうしかないと自治体としての主体性のない返事でした。

私の防災訓練の体験からも障害者は大きな災害が起これば避難所にも行けないケースが続出すると考えられます。宮津市に一人で住んでいる両下肢障害のクラスメートは「避難所に行っても、手すりがないので、あんなところでは立ち上がることもできないだろうから、避難指示が出ても避難所には行かない。」と言っていました。

実際、東北大震災で多くの死者が出ましたが、NHKなどの調査の結果、障害者の死亡率は一般の人たちの約2倍でした。避難したいと思っても迅速に行動できない、あるいは介助者なしには動けない肢体障害者、単独では避難所まで行きにくい視覚障害者、そして避難の呼びかけが聞こえない聴覚障害者など、どうしても逃げ遅れた犠牲者が多かったわけです。

また、多数の障害者や家族は、避難所の仮設トイレが車いすなどでは利用できない、知的障害や発達障害児者が慣れないところへ行けば大きな声を出したり、動き回ったりしてみんなに迷惑がかかると感じ、危険性を知っていても避難所に行かなかったり、一度避難所に行っても自宅へ戻ったりしました。

避難所を転々とした障害者もいます。「JDF被災地障がい者支援センターふくしま」が実施した調査では147人中「8割の118人が3カ所以上を移動し、うち4人が9カ所を巡った。1カ所目で落ち着けたのは1割の16人だけ」でした。

さて、私はスリーマイル島の原発事故やチェルノブイリ原発事故を見て原子力発電所の事故の恐ろしさを感じてはいましたが、海外で起こったような大事故が日本で起こるとは全く考えていませんでした。

福島原発事故が起こって初めて日本における原発の恐ろしさを知りました。いわゆる安全神話にどっぷりつかっていたのです。
一般住民でも災害避難は大変である上に障害者の避難がいかに困難であるかは先に述べた通りです。これが原発事故であれば更に問題は深刻です。
いたるところで地震の起こる可能性のある日本列島で、事故が起きれば、障害者が避難困難となる原発を稼働させること自体が間違いです。

私は好きで障害者になったわけではありません。障害者でも住みよい社会づくりのために運動もしていますが、原発事故で犠牲者、障害者を大量に生み出すようなことは二度と繰り返させないためにこの裁判の原告に加わりました。

政府は北朝鮮のミサイルの危険性やテロ対策を強調していますが国民の安全を真に守るつもりがあるのなら原発こそ廃止すべきです。

裁判長におかれましては、政府の意向がどうであれ、国民の命と安全を守るため、私たちの子や孫が安心して生活できるよう、悔いのない判決を下していただくよう切にお願いいたします。

以上

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◆原告第41準備書面
-避難困難性の敷衍(京都市左京区について)-

原告第41準備書面
-避難困難性の敷衍(京都市左京区について)-

原告第41準備書面

2017年(平成29年)10月27日

目次

第1. 原告松本美津男の障害について

第2. 原告松本の避難困難性について
1.避難所にたどり着くことの困難性
2.避難所自体の問題性
3.原告松本は、避難行動要支援者の事前登録制度を利用できない。
4.原告松本は、すぐに福祉避難所を利用できない
5.避難場所が存在しても心理的に避難することは困難である。


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では京都市左京区に在住する原告松本美津男の避難困難性に関する個別事情について述べる。

 

第1. 原告松本美津男の障害について

原告松本美津男(以下「原告松本」という。)は、現在、京都市左京区に在住している。原告松本は、1歳半の夏に、ポリオウイルスによる両下肢機能障害になり、現在、主にマイカーで外出し、歩行は短距離なら両松葉杖で、長距離や少し重い荷物を持ち運ばなければならない時は手動車いすを併用して生活を送っている。

ポリオウイルスによる小児麻痺障害者は、40~50歳代になると新たに筋力の低下や筋肉の痩せ、筋肉・関節の痛み等が出現するポリオ後症候群となることがあるが、原告松本も、腕の力が弱り、右肩が慢性的に痛むため毎日痛み止めの薬を朝晩塗ってやり過ごしている状態である。

下記に述べるとおり、両松葉杖及び車いすで生活を送っている原告松本にとって、原発事故が起きた際に避難することは不可能である。

 

第2. 原告松本の避難困難性について

 

 1.避難所にたどり着くことの困難性

2016年秋頃、原告松本は、浄楽学区(原告松本が居住する左京区内にある)の自主防災会が主催する、防災訓練(主に地震を想定した)に手動車いすで参加した。

しかし、指定避難所までの坂が急であったため、原告松本は、他の参加者に車いすを押してもらい、指定避難所にたどり着くことができた。仮に、原発事故が起きた際に、車いすを押してくれる者がいなければ、原告松本は避難所までたどり着くことが出来ないのである。
 2.避難所自体の問題性

指定避難所の体育館の入り口は、スロープがなく臨時に木の板を渡して、その上を車いすで移動せざるを得ず、原告松本のように、車いすでの参加者にとっては、著しく出入りしにくい状態であった。

加えて、防災訓練に参加した参加者だけで、指定避難所内は、ほぼ満員状態であり、実際に住民全員が避難して来たらとても入りきれないのは明らかであった。原告松本が、仮に避難所にたどり着いたとしても、避難所が避難住民で、溢れかえるのは明らかであり、車いすで移動できるスペースは存在せず、松葉杖歩行も相当困難である。結局、車いすで生活を送っている原告松本が、避難生活をするのは不可能である。
 3.原告松本は、避難行動要支援者の事前登録制度を利用できない。

国の制度として避難行動要支援者について事前登録制度があるが、具体的な対象者の範囲は自治体任せであり、京都市の場合、原告松本が単身なら登録対象者になるが、原告松本には、同居の配偶者がいるため登録対象とはならず、制度を利用することができない。
 4.原告松本は、すぐに福祉避難所を利用できない

原告松本は、福祉避難所に指定された施設の方が、避難し易いと感じ、仮に、避難指示が出た場合に、直接福祉避難所へ避難して良いか区役所に確認した。しかし、「福祉避難所がすぐに準備できるわけではないので先に地域で指定された避難所に行ってもらいたい」と解答された。このように、原告松本は、仮に、原発事故が起きても利用しやすい福祉避難所をすぐに利用することが出来ないのである。
 5.避難場所が存在しても心理的に避難することは困難である。

仮に原発事故が起きた場合、避難したいと思っても迅速に行動できない、あるいは介助者なしには動けない肢体障害者は、単独では避難所まで行くことができない。また、視覚障害者、そして避難の呼びかけが聞こえない聴覚障害者などは、逃げ遅れる場合があり得る。

加えて、障害者は心理的に、避難所に行くことができない。例えば、避難所の仮設トイレが車いすなどでは利用できない。知的障害や発達障害児者が慣れないところへ行けば大きな声を出したり、動き回ったりして他の避難者に迷惑がかかると感じた場合、障害者や家族は、危険性を知っていても避難所に行かなかったり、一度避難所に行っても自宅へ戻ったりするケースが多数起こりうる。

これまで、準備書面において、避難困難性について述べてきたとおり、各自治体の避難計画自体は不十分で現実性のないものであるが、仮に、どれだけ、計画を変更し、避難所を設定しても、弱い立場にある障害者は、心理的に避難することが出来ないのである。弱い立場の障害者が避難困難となる原発を稼働させること自体が問題であり、直ちに廃炉にするべきである。

以上

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◆原告第40準備書面
第3 過酷事故対策を怠る関電に、原発を再稼働させてはならない

2017年(平成29年)10月27日

原告第40準備書面
-過酷事故における人的対応の現実と限界-

目次


第3 過酷事故対策を怠る関電に、原発を再稼働させてはならない

  1.  上記で指摘してきたマニュアルのない危機的状況に陥った際に、事故現場、政府等で情報が錯綜し、指揮命令系統が不分明な混乱状況におちいる危険性という、福島事故で得られた人的対応における現実と限界に、被告関電はどう対応するのか。本訴訟ではその点が全く明らかになっていない。
  2.  例えば、福島第一原発事故においては、全電源喪失が問題となったにもかかわらず、新規制基準における外部電源の耐震重要度がCであり、また単一故障事故しか想定していないことは、被告関電も認めるとおりである。したがって、過酷事故対策においては、非常用電源の確保が重要課題の一つである、この点ですら、被告関電の対策は十分と言い難い。
    すなわち、被告関電が証拠として挙げる丙第67号証における全交流動力電源喪失の対策は下記の様なものである((丙67・8-1-146~148)。・非常用電源として、ディーゼル発電機及びその附属設備を各々別の場所に2台備える。
    ・7日分の容量以上の燃料を敷地内の燃料油貯蔵タンク及び重油タンクに貯蔵し、タンクローリーにより輸送する。
    ・夜間の輸送実施のため、ヘッドライト等の可搬照明を所定の場所に保管する。
    ・タンクローリーについて、地震時においても保管場所及び輸送ルートの健全性が確保できる場所を少なくとも4箇所選定し、各々1台を配備するとともに、竜巻時においては、緊急安全対策要員によりトンネル内にタンクローリー4台を待避させる運用とする。タンクリーリーは4台(3号・4号共用)。
    ・アクセスルートが寸断され、タンクローリーがディーゼル発電機燃料油貯蔵タンクに近づくことが出来ない場合は、延長用給油ホースを取り付け・使用する。しかしながら、タンクローリーの運転や発電機への給油、延長用給油ホースの取り付け、可搬照明の運搬設置など、全てにおいて人的対応が必要にもかわらず、具体的な作業手順はもちろん、作業員の安全対策については曖昧なままである。また、国会事故調アンケートであげられていた、作業員間の情報伝達をどうするのか、また必要な線量計、マスク、食料、水等をいかに備蓄し、その後調達し続けるのかという問題も残されている。
    もちろん、タンクローリーや貯蔵用タンク、可搬照明、延長給油ホースそのものが地震によって破損されるリスクもある。
    また、被告関電は、3号炉及び4号炉同時の重大事故等対策時においても、必要な要員は46名と算定している(丙67・10-7-44)。しかしながら、これもまた、福島第一原発事故の現実及び佐藤氏の指摘からみて、過少すぎるというべきであろう。
  3.  以上のとおり、被告関電が未だに「安全神話」を振りかざし、深層防護における第4・第5層の問題を争点から外そうとするのは、第4・第5層の安全対策が不十分であるからにほかならない。大飯原発第3号機及び4号機において、ひとたび過酷事故が発生すれば、事故収束作業は混乱に陥り、原告らの生命身体の安全が侵害されるのは必至である。こうした現実から目をそらし、福島第一事故以前の「安全神話」に逆戻りした審理がなされることのないよう、原告らは強く求めるものである。

 

以上

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◆原告第40準備書面
第2 過酷事故における人的対応の現実と限界

2017年(平成29年)10月27日

原告第40準備書面
-過酷事故における人的対応の現実と限界-

目次

第2 過酷事故における人的対応の現実と限界
1 原子力情報コンサルタントである佐藤暁氏の指摘
2 福島第一原発事故における人的対応の現実と限界


第2 過酷事故における人的対応の現実と限界


 1 原子力情報コンサルタントである佐藤暁氏の指摘

(1) 1984年から2002年までゼネラル・エレクトリック社(GE社)原子力事業部で大小100以上のプロジェクトにかかわり、その後原子力情報コンサルタントとして、主に米国の原子力業界における最新技術、安全問題、規制情報を収集、動向分析し、提供する業務を行っている佐藤暁氏は、岩波書店の『科学』誌上で、「原子力発電所の安全審査と再稼働」をテーマに論文を連載し(2014年(平成26年)8月号~2015年(平成27年)10月号)、政府の原子力政策とその正当性の根拠への疑念と、原子力安全規制の制度及び手続きに対する懸念を述べている。この中で、佐藤氏は、日本の原子力発電所の過酷事故対策が、実は、軽い切り傷やひび・あかぎれにしか効かない「がまの油」のようなものであると指摘している(甲371

(2) その根拠を示す一例として、佐藤暁氏は、1985年、GE社のプロジェクトとして行った福島第一原発2号機のサプレッション・プール(トーラス)改造工事時の数々の失敗例をあげている(甲372)。

トーラスの改造工事にあたっては、まずトーラス内のプール水を抜いて除洗する作業が必要となる。ところが、この最初の作業の段階で、米国から派遣された「プロ」であるはずの作業員が、通気性のない作業服での作業に早々に根を上げ、現場を放り出して米国に帰国したことにはじまり、トーラス底部をブラシ洗浄するための除洗ロボットに、スラッジ(鉄サビやコンクリートの粉塵など)が付着してしまって使いものにならず、塗装の剥奪用の超高圧ジェットも、石化したように堅くなった塗装には歯が立たないという予想外の出来事が起こり、最終的にはトーラスの水位を下げ、川釣りなどで使う「胴付き長靴」を作業員に使用させ、人海戦術で強引にスラッジを回収したという顛末が紹介されている。この際、作業の遅れを取り戻すために、作業員の被爆増加が犠牲になっている。

そのほかにも、作業員が手順を間違え、専用受けタンクに送るべき濃厚な放射性スラッジの廃液を、原子炉建屋の換気ダクトの中に大量に流し込んでしまう、また、作業員が「右左」「時計回り」が自分の立ち位置による相対的な概念であることを失念し、作業対象物ではなく隣にあった別の溶接部を削除してしまうという、些細なヒューマンエラーが引き起こした大変な事態、さらに、仮設通路の手摺りが折れて作業員が汚染水のプールに落下するという、不測の事態が発生している。加えて、現地で集めた臨時作業員の1人が窃盗犯の容疑者で、現場を出たとたんに張り込み中の警察官に身柄確保され連行されるということまで起こっているのである。

佐藤氏は、これらの失敗例から、「新しい試みは、必ず思いがけない出来事に遭遇する」として、日常の勉強や手順書がいかに役に立たないかを実証している。そして、過酷事故対策への教訓として、過酷事故対策の対応手順書は、実戦経験ゼロで、完成度が極めて低いのだと認識すること、初めから難度の高い人的対応は排し、実務者の労苦を最小限にするあらゆる工夫がなされるべきで、その上でたとえば達成制限時間に対して3倍、対応要員の必要人数に対して2倍の尤度を確保すべきとしているのである。

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 2 福島第一原発事故における人的対応の現実と限界

  (1) 吉田調書等から判明した人的対応の限界

一旦、原子炉が危機的状況に陥った場合、情報伝達の不備等を原因として意思決定の混乱が生じる。本項では、政府事故調査・検証委員会(政府事故調)が東日本大震災の発生当時、東京電力福島第一原発所長であった吉田昌郎氏を2011年7月から11月にかけて延べ13回聴取した記録(聴取結果書)をもとに福島第一原発事故において実際に生じた、政府、東京電力の本店及び現場の、「ベント」「海水注入」「退避」に関する混乱の状況を説明する。

  ア ベントをめぐる意思決定の問題
過酷事故時に、格納容器の加圧破壊を防止するために、格納容器内の蒸気を外部へ排出することをベントという。ベントを行なうと格納容器内の減圧が促進され容器自体の破損を防ぐことができるとともに、注水による冷却が可能となる。他方、ベントを行なうと放射性物質を含む蒸気が大気中に放出されるため、ベントは格納容器の破壊を回避するために止むを得ず行う手段といえる。

福島第一原発事故を経て、新規制基準では格納容器圧力逃がし装置の設置が要件化されたが(甲373-22頁、甲374)、ベントの実施に伴い放射性物質の放出は必至のため、これを実施する際に、「誰が」主体的に判断するのかという問題は、現時点においても問題となりうる。以下、福島第一原発におけるベントをめぐる混乱ぶりを述べる。

福島第一原発事故において、1号機においては、3月12日00:06ころには、吉田所長が格納容器ベントの準備を指示し、政府、東電本店においても、実施に関する了解が得られていた。そして、現場においてはベント実施に向けて作業を進めていたにもかかわらず、海江田経産大臣は東電のベント実施に対する姿勢に疑念、不信を抱き、3月12日06:50ころ原子炉等規制法64条第3項に基づくベントの実施命令が発出された。この間、東電の現場がベント実施に向けて作業を行っていることは保安院には伝えられていたが、海江田経産大臣には伝えられていなかった。

また、ベントの実施がなされない事に対して、菅直人総理大臣は福島第一原発視察を決定し、3月12日06:15ころ、原子力安全委員会委員長斑目春樹氏とともに福島第一原発へ出発した(甲3-290~292)。なお、菅直人総理大臣の現地視察は、現場の士気を鼓舞したというよりも、事故のいらだちをぶつけるのみで作業に当たる現場に「プレッシャーを与えた可能性もある」と指摘されている(甲3-293)。

しかしながら、この間、東電の現場はベントを躊躇していたのではなく、ベントを行なうために必要であった可搬式エアコンプレッサー及び直流電源の不足が原因のため、これを行なうことができなかったのである。

政府事故調の吉田所長に対するヒアリング結果からは、現場に対して、一方的に指示を行う東電本店及び国の対応に対するいらだちがわかる。

この事例からは、危機的状況において、情報の共有および指揮系統が不分明のまま現場で作業を行うことの限界を示している。民間事故調報告書検証チームによる吉田調書を元に福島第一原発事故の評価をおこなった「吉田昌郎の遺言.吉田調書に見る福島原発危機」(甲375-23)は、ベントに関する意思疎通の問題を「東電は、官邸との関係も含めて、最後までICS(事故指揮命令系統)のガバナンスを確立できなかった」と評している。

甲376・43 回答者が吉田昌郎所長】【図省略】

甲376:49~51頁 回答者が吉田昌郎所長】【図省略】

【甲3.291 国会事故調査報告書】【図省略】

  イ 海水注入をめぐる意思決定の問題(甲3.293~295)
同様の問題は、海水注入をめぐる際にも生じた。「海水注入」とは、原子炉を冷却する場合の非常手段として原子炉に直接水を注入する際に、通常は防火水槽等からの淡水を使用するが、淡水に変えて(淡水が枯渇した後に)海水を注入することをいう。海水を注入した場合、金属腐食による原子炉の損傷が必至(廃炉の可能性が高くなる)なため、その判断には困難が伴う。

3月12日14:54ころ、吉田所長は、1号機に海水注入を指示し、15:30には海水注水の準備を完了した。他方、東電が海水注水による廃炉を懸念していると判断した海江田経産大臣は、17:55原子炉等規制法64条3項に基づく措置命令を発した。ところが、菅直人総理大臣は、細野補佐官、斑目委員長、東電武黒フェローらと海水注水の是非を議論し、菅直人総理大臣が海水注水を了承したのは19:55であった。

実際には、吉田所長は19:04に海水注入を開始し、武黒フェローからの海水注入の待機命令を無視し海水注入を継続した(この間、吉田所長は海水注入を中断する指示をしつつ実際には継続を指示した)。

この事例からは、危機的状況における、指揮系統の混乱、現場で作業を行うことの限界を示している。また、民間事故調報告書検証チームによる著書(甲375.30)は、海水注水に関する意思疎通の問題をICS(事故指揮命令系統)上の問題であると指摘するとともに、吉田所長の独断による海水注入を、「逆に危機を悪化させた場合、または二次災害を引きおこした場合、それは所長が責任を負えない結果と意味合いをもたらす」と評し「危機対応をする部署のそれぞれの権限と責任を明確にしなかったことが事故対応を複雑にし、効果を半減させた」と批判している。

甲377-9 回答者が吉田昌郎所長】【図省略】

甲377-12 回答者が吉田昌郎所長】【図省略】

【甲3 294頁】【図省略】

  ウ 退避の問題
3月14日から15日にかけて、福島第一原発から従業員が撤退するという情報に基づく混乱は、危機的状況において情報不足の深刻性とそれに基づく現場のみならず政府の混乱を示唆している。

国会事故調の報告によれば、3月15日未明の東電清水社長から「福島第一原発からの退避もありうる」という電話連絡を受けて、政府閣僚らは全員撤退を危惧した。ここで菅総理大臣は、吉田所長に電話連絡し状況を確認、清水社長を官邸に呼びつけるなどしたが、実際には、福島第一原発の現場において全員退避との指示はなされていなかった。すなわち、情報伝達の混乱が福島第一原発の従業員全員退避という事実に反する情報として伝わり、緊急時にさらなる混乱を招いたのである。

甲378 31回答者が吉田昌郎所長】【図省略】

【甲3-294】【図省略】

  エ 小括
福島第一原発事故が明らかにしたことの一つは、マニュアルのない危機的状況に陥った際に、事故現場、政府等で情報が錯綜し、指揮命令系統が不分明な混乱状況におちいる危険性があるということである。

また、同様の問題は、東電の現場、本店、政府の間の指揮命令系統のみならず、現場の中でも誰が作業を行うかで混乱が生じうる。3月14日夕方福島第一原発2号機のSR弁(主蒸気逃し安全弁)を開ける際にも、実際に作業を行なうのが運転員なのか、保守員なのかで現場が混乱した事情が読み取れる( 甲378-20,21)。これは、福島第一原発と同様の重大事故が発生した際の人的対応の限界を示すものである。

この点、事故後、規制要件としてベントの設備とマニュアルが求められていることは、前述のとおりである(甲373-22)。しかしながら、仮にベントの手順が整備されたとしても、ベント=放射性物質の放出の決断に関して、誰が意思決定を行なうかについては要件化されていない。

ベントと同様の問題は、水素爆轟防止対策であるイグナイタ(水素燃焼装置)実施の意思決定(甲374)にも当てはまる。すなわち、イグナイタは格納容器内の水素濃度が高まった際にそれを燃焼させる装置であるが、密閉空間で水素を燃焼させるというリスクの高い措置を誰が判断するかについては要件化されていない。

福島第一原発事故の先例は、重大事故時に対策設備の施設とマニュアルの設置だけでは万全ではないことを示しているのである。

  (2) 国会事故調アンケート(甲379)

国会事故調査委員会では、福島第一原発事故の翌年である2012年(平成24年)4月27日~5月18日にかけ、事故当時に勤務していた東京電力及びその協力会社の従業員のうち約5500人にアンケート調査を行い、約44%にあたる2415人から回答を得ている。

  ア 従業員から見た問題
このアンケート結果から、前項で指摘した指揮命令系統の混乱や情報伝達の不備が、従業員の立場から浮かび上がってくる。

まず、3月11日時点で、避難せずに敷地内に残った協力会社の従業員に対して原子炉が危険な状態であるという説明はほとんどなされず、また、多くの従業員に対して避難指示がなかったという問題があった。さらに、事故収束業務にあたった従業員の多くは、事故発生時に作業に従事することを事前に説明されておらず、また同意なく従事せざるを得なかった従業員もおり、原子力災害に備えた従業員への説明にも問題があったのである。

アンケート回答には、「20キロ圏内に緊急的な避難指示が出ていることすらテレビで知った。」「勤務会社の所長、副所長、放射線管理責任者等会社責任者は、我先に各々の家族らと共に避難してしまい、免震重要等に残っている社員に対する避難指示・行動指示がなかった。自力で避難しようとしたが、会社の業務車は東電社員に勝手に使われてしまっていた」(甲379・原文198~199頁)。「地震で外に避難しようとしたが、人が多く、1Fの敷地に出ても2時間出れなかった。その間に津波があったが、何の告知もなかった」(甲379・原文201頁)、「事故時の現場対応が後手を踏んだ。免震棟には何もせず時間をもて遊ぶ人が多数いた」(甲379・原文205頁)、「非常時のマニュアルはあったが、全く役に立たなかった。なぜなら、社内イントラ上にデータとして存在し、停電でネットワークが停止していたから。ただ、紙の情報も、書類の散逸がひどく、探し出すのは難しかったと思われる」(甲379・原文・211頁)、「停電のため連絡手段もなく、携帯電話もつながらない」(甲379・原文211頁)という具体的な声が寄せられている。

  イ 従業員の放射線防護に対する安全対策の不備
さらに、このアンケート結果からは、従業員の放射線防護に対する安全対策の不備が露呈されている。具体的には、事故収束に関わった従業員の多くは放射線業務従事者であったが、線量計の数が不足し、複数人で1台の線量計を共有する事態が生じ、また、作業区域の放射線量に関する説明や、累積線量の管理に問題が生じていたのである。

アンケート回答には、「地震でDB(データベース)が使えなくなり、累積被爆線量は個人で管理することになったが、筆記用具もまともになく、メモしていた紙が途中でなくなった。線量管理・放射線防護装備が津波で流された」(甲379・原文198頁)、「APD(線量計)は、10時間で電源が切れ使用できなかった」(甲379・原文200頁)、「正門の車の誘導員には3月13日朝方にはじめて全面マスクとタイベック支給されたが、1セットしかないため、同じ物を脱ぎ着して使用せざるをえなかった」(甲379・原文200頁)、「水不足で手洗いもできない状態で非常食を食べるしかなく、内部被曝は明らかだった」(甲379・原文205頁)、「免震棟は地震には強いが、放射能には対応していなかった。出入り時に除洗もなされず、汚染された床で皆ザコ寝をしており、内部被曝が心配」(甲379・原文205頁)、「食料だけでなく、マスク、線量計、手袋、防護服についても管理保管すべき」(甲379・原文206頁)、「脱水症状の様な人、爆発の際にケガをした人など、現場では処置らしい処置もできない状態だったため、医師の確保が重要」(甲379・原文210頁)という具体的声が寄せられているのである。

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  (3) 事故後に判明した1号機への注水失敗

2017年9月に発刊されたNHKスペシャル『メルトダウン』取材班『福島第一原発1号機冷却「失敗の本質」』(甲380)によれば、「吉田所長の英断」と評価されていた1号機への注水は、実は失敗であった。

  ア 1号機について原子炉内に核燃料が残っていない状況が明らかになってきたこと
福島第一原発事故の発生当初、東京電力は炉心溶融(メルトダウン)自体を認めておらず、事故から二か月以上経った2011年5月15日にはじめてメルトダウンの可能性を認めた。しかし、その段階でも、燃料は、原子炉圧力容器の中に大半がとどまっているとされていた。

ところが、2015年に行われた宇宙線「ミュー粒子」を用いた検査では、1号機の圧力容器内には核燃料がほとんど残存じていないことが示唆された。

  イ 2016年9月の日本原子力学会による国際廃炉研究開発機構による発表
さらに、2016年9月7日に日本原子力学会の大会で行われた報告では、1号機に対する注水の寄与がほぼゼロであることが報告された。

すなわち、東京電力は、2011年3月11日の東日本大震災のあと、3月12日に、1号機への注水を開始したが、12日たった3月23日になって制御室の電源が復旧した時点で、1号機の注水量が十分でないことに気付き、注水ルートを変更した。それまでは、1号機の原子炉冷却に寄与する注水はほぼゼロだった。

1号機への注水をめぐっては、3月12日午前7時台に、福島第一原子力発電所の所長であった吉田昌郎が、東京電力本店の注水の中止指示を無視する形で海水の注水作業を続行したことが英断であるとの評価もされているが、実は、吉田所長による決断の結果の注水がまったく奏功していなかったのである。

  ウ 注水量はほとんどゼロであったことが2017年の最新の分析で裏付けられたこと
さらに2017年2月、エネルギー総合工学研究所の専門家とNHKが最新の解析コードを用いて行った分析では、1号機への注水量は0.07~0.075リットル/秒という結果が出た。1号機への注水はほとんど意味がなかったことが改めて裏付けられた。

また、この分析では、仮にそれなりの量が注水されていても、1号機の場合は、核燃料の真上から水を注ぐ「コアスプレー」による注水が行われていたところ、3月12日の時点では、1000度を超える熱により、鋼鉄でできた機器が変形し、コアスプレーの配管が歪んで細くなったり、閉塞してしまった可能性もあることが判明した。
エ海水は復水器へ流れ込んでいた可能性があること

1号機への注水は消火系配管を通じて行われていたが、1号機については、消防車が注水した栓から原子炉に至るまでの「注水ライン」の間に10本の「抜け道」(バイパスフロー)があったことが2013年12月に判明している(下図参照)。この抜け道に、ほとんどの水が流れ込んでいたことになる。

甲380『福島第一原発1号機冷却「失敗の本質」』176~177頁> 【図省略】

一番多くの海水が送水された先は「復水器」と呼ばれる機器であり、この機器に海水が流れ込んだ原因は、下図の通り、低圧復水ポンプの電源が止まることで、本来、消防車から送水された水が進入することが想定されていないルートで、復水器に進入した、というものである。

甲380『福島第一原発1号機冷却「失敗の本質」』180頁> 【図省略】

2016年の日本原子力学会での発表や、2017年のエネルギー総合工学研究所・NHKの分析、はこの推論を裏付けるものになったと言える。

  オ 注水開始時点ではすでにメルトスルーしていた
さらに、上述のネルギー総合工学研究所の専門家とNHKが最新の解析コードを用いて行った分析では、注水が始まった2011年3月12日の段階では、すでに1号機の核燃料は全て溶け落ち、原子炉の中に核燃料はとどまっていなかった(メルトスルー)と推測された。すなわち、仮に3月12日の時点で1号機への注水が奏功していても、すでに核燃料を原子炉圧力容器内に止めることとの関係では、時機を逸していた可能性が高い。

  カ 1号機の大きな水素爆轟の原因が従前の理解と異なる可能性があること
また、このように、事故時の1号機の状況の解析がすすむにつれ、1号機が大きく爆発する原因となった水素の大量発生の原因が、従前から言われていた水-ジルコニウム反応により発生した水素よりも、「溶融炉心コンクリート」(MCCI)、すなわち、溶け落ちた核燃料が原子炉の底を突き破り、格納容器の床に達した後、核燃料の崩壊熱による高温が維持されることで床のコンクリートを解かし続ける事態が起きた際に発生した水素の方が多数(7割)を占めることも分かってきた。

早期にメルトスルーが発生したことで、「溶融炉心コンクリート相互作用」(MCCI)が激しく発生し、それが大きな水素爆発の原因となったのである。3月23日までの間の注水が奏功しなかったことで、「溶融炉心コンクリート」(MCCI)が促進されることとなった。

  キ 小括

この1号機への注水の失敗を例にとっても、現場では全く想定のできない隠れた要因により、注水自体が失敗し、仮に成功していても、メルトダウンやメルトスルーを防止することとの関係では、すでに手遅れであったことが分かる。さらにいえば、水素爆発の発生原因自体が、従前考えられていたものとは異なる可能性が強くなっており、注水の失敗が原因で大爆発を引き起こしたと考えられる。

このような緊急事態への対応について、実際に緊急事態を引き起こして訓練することは危険すぎてできない。工業製品では自動車の衝突安全性能の試験のように、実際に緊急事態を引き起こして試験をする例があるが、原発ではそのような試験ができないのである。
そして、そのような想定外の事象を事前に想定して事前に訓練することも不可能である。

そして、1号機への注水失敗の原因については、国会事故調査委員会も、政府事故調査委員会もほとんど着目していない。事故の検証の段階でも「想定外」だったのである。

結局、1号機への注水失敗に関する経過は、非常事態において人力に頼る作業自体に限界があり、いくらマニュアルを整備しても、想定外のことが次々に発生し、事態の拡大を防げなくなる、という原発事故に関する冷酷な事実を如実に示しているのである。

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◆原告第40準備書面
第1 福島第一原発事故を経てもなお繰り返される安全神話

2017年(平成29年)10月27日

原告第40準備書面
-過酷事故における人的対応の現実と限界-

目次


第1 福島第一原発事故を経てもなお繰り返される安全神話

  1.  福島第一原発事故は、それまでの原発への安全対策が、「万が一にも事故は起こらない」ことを前提とした「安全神話」にすぎなかったこと、具体的には国際標準である深層防護における第1~第3層までの対策しか考えられておらず、策4層(過酷事故対策)及び第5層(避難計画等の防災対策)の対策が極めて不十分であったことを明らかにした(原告第1準備書面・甲32)。
    しかるに、本訴訟においてもなお、被告関電は、「本件発電所においては、自然的立地条件に対する安全確保対策や事故防止に係る安全確保対策により、炉心の著しい損傷や周辺環境への放射性物質の異常な放出が生じる蓋然性はないのであるから、放射性物質の大量放出等が生じて原告らの人格権等が侵害されることは考えられないのであって、かかる事態が生じることを前提とする原子力災害対策の内容の当否は、本件訴訟においては主たる争点にはならない。」(被告関電第9準備書面・59頁)などと、相変わらず「安全神話」そのものの主張を繰り返しているのである。
  2.  このような被告関電の主張は、被告関電が想定する基準地震動以下の地震は絶対に発生しないこと、すなわち起こり得る地震の規模が予知できることが前提となっているが、この前提は一般常識にも科学的知見にも反している。
    例えば、2017年(平成29年)8月、内閣府の南海トラフ地震対策のために設置された南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会の報告書には、「ここで検討したいずれの手法も、現時点においては、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法ではなく」「これら科学的知見の現状について、過度の期待や誤解がないよう、社会との間で共有することが不可欠である」(甲370・20頁以下「11.おわりに」)と明確に述べている。
  3.  本訴訟において原告らが問題にしているのは、原子炉施設の安全ではなく、広範な範囲に及ぶ周辺住民の安全である。そして、ひとたび過酷事故が起こってしまった場合、周辺住民の安全は、いかに適切に事故収束作業が行われるかにかかっている。問題は、原発事故においては、事故収束作業に関わる人々が、二重拘束(ダブルバインド)、すなわち待避しないと自分の命が危ないという現実的な危険と、待避してしまったら一般の人たちの命を危うくするという倫理的な危険の板挟みになる点である。過酷事故時において、「福島フィフティ」の言葉に象徴されるような「英雄的」行為を期待し、また、極限状態の中でなお、適切な判断や行動を期待することは、困難というべきである。
    下記、具体的に述べる。

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◆原告第40準備書面
-過酷事故における人的対応の現実と限界-
目次

2017年(平成29年)10月27日

原告第40準備書面
-過酷事故における人的対応の現実と限界-

原告第40準備書面

目次

第1 福島第一原発事故を経てもなお繰り返される安全神話

第2 過酷事故における人的対応の現実と限界
1 原子力情報コンサルタントである佐藤暁氏の指摘
2 福島第一原発事故における人的対応の現実と限界

第3 過酷事故対策を怠る関電に、原発を再稼働させてはならない

◆原告第39準備書面
第11 立地審査指針(甲369の271p~最後)

2017(平成29)年10月27日

原告第39準備書面
-原子力規制委員会の「考え方」が不合理なものであること-

目次

第11 立地審査指針(甲369の271p~最後)
1 立地審査指針の構成
2 福島第一原発事故を経験した今日における立地審査指針の重要性
3 具体的な適用場面における甘い事故想定
4 現在における立地審査指針の位置づけ
5 過酷事故対策や原子力防災の強化によって立地審査指針が不要となったとする考え方は,法や国際基準とも整合しない。
6 原子力規制委員会の「考え方」が本末転倒な不合理なものであること
7 小括


第11 立地審査指針(甲369の271p~最後)


 1 立地審査指針の構成

立地審査指針は,「基本的考え方」,「立地審査の指針」,「適用範囲」を示す「原子炉立地審査指針」及び「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的判断のめやす」(以下「判断のめやす」という。)で構成される[149]

「基本的考え方」は,「原則的立地条件①,②,③」と「基本的目標a,b,c」で構成される(詳細は甲369の260p以下)。

そして,立地条件の適否を判断する際には,公衆に放射線障害を与えないなどの上記「基本的目標」を達成するため,少なくとも三条件が満たされていることを確認しなければならないとして,「立地審査の指針」が定められ,これに関し,原子炉から一定距離は非居住区域とすること等を内容とする「判断のめやす」が示されている(詳細は甲369の261p以下)。

[149] 「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」


 2 福島第一原発事故を経験した今日における立地審査指針の重要性

立地審査指針は,原則的立地条件②において,原子炉施設の安全防護上の問題を立地の問題としてもとらえ,原子炉と公衆の離隔要件を検討すべきとしている。
また,原則的立地条件③において,原子力防災対策等について適切な措置を講ずることができないような敷地はそもそも立地不適であるとして,原子力防災の問題も立地における隔離要件の中で検討すべきとしている。

このような立地審査指針の基本的考え方は,福島第一原発事故を経験した今日においてもなお原子力発電を実施しようとするのであれば,原子炉の安全性を確保する上でいっそう重要な観点である。

福島第一原発事故の結果,ヨウ素換算でチェルノブイリ原発事故の約6分の1に相当するおよそ900PBqの放射性物質が放出され,これにより,福島県内の1800km2もの広大な土地が,年間5mSv以上の空間線量を発する可能性のある地域になった[150]。このように原発事故が原子炉施設の敷地範囲を超えて周辺住民に放射線障害を与え得るものであることが明らかとなった。

また,福島第一原発事故による避難区域指定は,福島県内の12市町村に及び,避難した人数は,警戒区域(福島第一原発から半径20km圏)で約7万8000人,計画的避難区域(20km以遠で年間積算線量が20mSvに達するおそれがある地域)で約1万10人,緊急時避難準備区域(半径20~30km圏で計画的避難区域及び屋内避難指示が解除された地域を除く地域)で約5万8510人,合計では約14万6520人に達した[151]。避難の過程では多くの混乱が生じ,医療施設の入院患者ら少なくとも60名が死亡した[152]。これらの極めて悲惨な事態は,上記立地審査指針の基本的考え方を適切に踏まえ,いかに最悪の事故が起きようと周辺住民に危険が及ばないよう,そのようなリスクが仮想的にでも考えられる場所にはそもそも原子炉を設置しないこととしていれば,確実に防ぐことができたはずのものである。

福島第一原発事故の教訓からすれば,少なくとも抽象的なレベルとしての立地審査指針の基本的考え方そのものは,今なお周辺住民への被害を防ぐために重要な観点である。

[150] 「国会事故調報告書」(WEB版)349~350頁

[151] 「国会事故調報告書」(WEB版)351頁

[152] 「国会事故調報告書」(WEB版)381頁


 3 具体的な適用場面における甘い事故想定

ただ,従来の立地審査指針は,具体的な適用場面において,重大事故や仮想事故について極めて甘い事故想定をしていたために,これまではほとんど有意義な機能を果たしていなかった。甘い基準で重大事故や仮想事故を想定していたために,非居住区域や低人口地帯であるべき範囲は原発敷地内にとどまるという不合理な結論になり,「考え方の要旨」4(甲369の259p)のように,既許可の施設には立地不適の原子炉は無いと判断されていた。

従来の立地審査指針において極めて甘い事故想定がなされていた理由に関して,元原子力安全委員会委員長の班目春樹氏は,次のように述べている[153]

□ 1964年に制定され89年に改訂された『原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断の目安について』というものがあります。/通常「立地審査指針」と言われているものです。原発を新設する時,その場所に建設していいか,適地なのかを判断する基準です。その中身は,単純化していうと,原発を立地するには,災害が起きそうもない場所を選び,仮に大きな事故が起きたとしても,放射性物質の漏出で影響が及ぶ範囲には大勢の人が住んでいないこと,というものです。/

私は事故前から「これはおかしい」と思っていました。本当に安全性の確保につながる指針かと疑っていたので,「原安委として,抜本的に見直すべきだ」とあちこちで発言していました。

電力会社は,原発新設の前に設置許可申請書を提出しますが,その中に,「立地審査指針が満たされている」と必ず記されている。さらに,「最悪の場合に起きるかもしれない事故(重大事故)で放射性物質が飛散する範囲には人は住んでおらず(非居住区域),重大事故を超えるような,起きるとは考えられないような事故(仮想事故)でも,放射性物質が飛散する範囲には,殆ど人は住んでいない(低人口地帯)」とも書いてあります。これはつまり,「どんな事故があっても,影響は敷地外に及ばない」という申請書なのです。/どうして,最悪の重大事故でも影響は敷地内にとどまるのかというと,影響が敷地内にとどまるよう逆に考え事故を設定しているからです。要は「本末転倒」ということです。しかし,実際,福島原発事故では,敷地を超えて放射性物質が飛散しました。立地審査指針を満たしていれば,こんなことは起きないはずでした。/」□

また,班目氏は,国会事故調の第4回委員会でも,「甘々な評価をして」等と発言している[154]甲369の264p以下)。

すなわち,従来の立地審査指針は,抽象的理念としては重要な観点を提示していたものの,その具体的な適用場面において,影響は敷地内にとどまるという結果になるように逆算されていたと規制機関のトップの専門家でさえ考えてしまうほど,不合理な事故想定がされており,その結果として,原子力規制において有意な役割を果たすことができていなかったのである。

このように旧規制機関が原則的立地条件①の審査を懈怠していたのであるから,原子力規制委員会にはこの点の真摯な見直しが求められているのであり,その際には最新の科学的技術的知見が用いられるべきであって,それが原子炉の位置についてもバックチェックを要求している改正原子炉等規制法の趣旨というべきである。

しかし後述のとおり,現在原子力規制委員会が行っている適合性審査では,改正法の趣旨を十分に踏まえたものとは到底言えない。

[153] 岡本孝司「証言班目春樹原子力安全委員会は何を間違えたのか?」 143~144頁

[154] 「国会事故調会議録」76~77頁

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 4 現在における立地審査指針の位置づけ

「考え方」は,「原則的立地条件①」は損傷防止策の評価の中でも考慮されていると指摘しているが,施設そのものの損傷防止策と立地審査指針は,役割の異なる次元の違う話であり,代替できるものではない。

すなわち,立地審査指針の「原則的立地条件」は,原子炉が「事故を起こさないように設計,建設,運転及び保守を行わなければならないことは当然のこと」と前置きしたうえで,「なお万一の事故に備え,公衆の安全を確保するために」設けられている条件である(立地審査指針1.1柱書参照)。

つまり,「原則的立地条件」は,原子炉に万全の損傷防止策等が施されていることを前提にして,なお立地の観点から周辺住民の安全を図るべきとする考え方である。立地の問題を損傷防止策に置き換えるという考え方は,上記のような「原則的立地条件」の基本的な理念に整合しない。

立地の問題を損傷防止策に置き換えるという考え方は,いかなる自然現象等が起きたとしても原子炉の損傷防止策は必ず存するという虚構を前提としており,これは一種の逆算である。

原則的立地指針②,③についても同様である(甲369の269p以下)。

原子力防災対策としての立地審査は,避難計画等の他の原子力防災対策にはない固有の意義があり,他の原子力防災対策があることによって直ちにその役割がなくなることにはならない。


 5 過酷事故対策や原子力防災の強化によって立地審査指針が不要となったとする考え方は,法や国際基準とも整合しない。

(1) 法律違反

改正前の原子炉等規制法24条1項4号は,原子炉の「位置」が「災害の防止上支障がないものであること」を求めており,その具体的基準となっていたのが立地審査指針であった。そして,その立地審査指針は,「原則的立地条件」の中で,原子炉と周辺住民の「離隔」を明確に求めていた。

その後,福島第一原発事故の教訓を踏まえ平成24年に原子炉等規制法が改正された際も,原子炉が災害の防止上支障がないものであるかどうかの適合性審査の考慮要素の中の「位置」の文言は削除されなかった(同法第43条の3の6・1項4号)。

福島第一原発事故で我々は,原子炉そのものの事故対策が功を奏さず,放射性物質が原子炉敷地を超えて広範囲に飛散する現実を目の当たりにした。その上で,改正原子炉等規制法は,従前離隔要件として解されていた「位置」の文言を削除しなかったのであるから,改正原子炉等規制法は,従前通り原子炉と周辺住民の離隔を考慮すべきことを求めていると考えるのが自然である。福島第一原発事故の教訓を踏まえるのであれば,国民の生命・身体の安全確保を図るという理念の下,従来の恣意的な事故想定を正して少なくとも福島第一原発事故の現実を踏まえた想定によって立地を審査する規則を策定することを原子力規制委員会に義務付けているというのが素直な法解釈である。

(2) 確立された国際基準違背

IAEA安全基準では,「個別安全要件」として,「原子力発電所の安全」とは別個に,「原子炉等施設の立地評価」が求められており,「安全要件」(SafetyRequirements)として,「原子炉等施設の立地評価」(Site Evaluation for NuclearInstallations)(NS-R-3(Rev.1))[155]が策定されている。その2.26以下では「人口と緊急時計画の考慮についての基準」(CRITERIA DERIVED FROMCONSIDERATIONS OF POPULATIONAND EMERGENCY)が規定され,立地の際には人口分布や複合災害時を含む緊急時対応計画の実現可能性が考慮されるべきことが規定されている。

すなわち,放射性被害からの安全の確保は,施設そのものの防護のみで図られるのではなく,その前段階としての「立地評価」においても図られるべきものであるという視点を提示している。アメリカ原子力規制委員会も同様である(甲369の271p)。

改正原子力基本法2条は安全確保の上で確立した国際的な基準を踏まえるべきことを規定しているところ,前記の国際基準から考えれば,立地審査は現在の原子力規制においても必要とされているものであり,立地審査を廃止することを肯定する法的根拠は見受けられない。

[155] 「原子炉等施設の立地評価」(Site Evaluation for Nuclear Installations)(NS-R-3(Rev.1))

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 6 原子力規制委員会の「考え方」が本末転倒な不合理なものであること

「考え方」では,従来の立地審査指針が原子力防災に役立つものではなかったということを指摘するが(甲369の274p),それはそもそも「甘々な」(班目氏発言)誤った事故想定をしていたことが原因なのであって,原子力防災のことを考慮した立地審査を行おうとする立地審査指針自体が不合理であるはずがない。

福島第一原発事故の教訓を踏まえれば,本来の立地審査指針が求めるような,技術的見地からは起こるとは考えられない事故(=仮想事故)を真摯に想定し,真に実効性のある緊急時計画を策定しておくことは極めて重要である。

そして,とりわけ周辺住民の避難については,実現性の疑わしい机上の避難計画などではなく,真に実効性のある万全の措置が講じられるべきであり,立地審査を前提として初めて効果的な対策ができるというべきである。

例えば,高齢者や障がい者等の避難が容易でない者の施設が多数立地する地域には,原子炉施設をそもそも設置しないとすれば,避難することそれ自体が心身に多大な悪影響となる避難困難者をより確実に保護することができる。

現在の原子力災害対策指針は実現可能とはとても言えない段階的避難計画を各自治体に立てさせているが,立地審査指針にあるように,避難を必要とする範囲内の住民を少人数とすれば,実現困難な計画を立てさせずに済む。周辺にあまりに多くの人口が分布する原発,多数の住民が居住する離島の周辺にある原発や,半島の付け根にある原発等は,住民の避難の困難性に鑑みて,立地を根本的に見直すべきことになる。

立地審査指針は原子力防災に一定の効果があることは「考え方」も認めるところであり,しかも「位置」の考慮は法律上の要請である。そうであれば,福島第一原発事故の教訓を踏まえた立地審査の基準が策定されていない以上,審査は不合理というべきであり,人格権侵害の現実的危険性を生じさせるものである。

なお,「考え方」は,国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告を引用して,立地審査指針が考慮した集団線量が社会的影響の考慮としては不適切であり,福島原発事故を踏まえ半減期の長い放射性物質の総放出量という観点からの規制が合理的だと主張している(甲369の279p)。

この点,立地審査指針における社会的影響を集団線量で考えることが不合理であるかどうかは判然としないが,上記を前提としても,立地審査指針において社会的影響を考慮した離隔要件を設けること自体が不合理であるという考え方には結びつかず,この点からも「考え方」は非論理的である。


 7 小括

福島原発事故の教訓に照らし,立地審査基準(現在でも廃止されたわけではない)によって「非居住区域」とすべき本件原発の周辺地域には,現実には多数の人々が居住している。さらに,「低人口区域」とすべき地域には,多くの大都市が含まれ,夥しい数の人々が居住している。よって,立地審査基準の一点をとってみても,本件原発の設置(変更)に許可を出すのは違法であり,このことは民事訴訟上も,原告らに人格権侵害の具体的危険があることを意味する。

 

以上

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