◆原告第14準備書面
第1 はじめに

原告第14準備書面
-津波の危険性について 目次

  第1 はじめに

 1 はじめに

大飯原子力発電所が津波に対して安全であるとする被告関西電力の主張は、新規制基準に基づき過去の津波の調査、地震やその他の要因による津波水位の算定等を行い、基準津波を策定し、当該基準津波に対して施設の安全性を確認したということを根拠とする。

そうすると、新規制基準自体に合理性がない場合はもちろん、過去の津波調査に誤りや不十分さがある場合、地震やその他の要因による津波水位の算定に誤りや不十分さがある場合、もしくは重畳津波の検討に誤りや不十分さがある場合、被告関西電力が策定した基準津波そのものが不合理であるということになるし、基準津波を超過する津波に対して安全裕度がない場合には安全上重要な設備が浸水する危険性があり、炉心損傷の具体的危険があると結論されることになる。

この点、原告らが訴状において主張し、福井地裁判決も同様の立場に立っているように、本件原子力発電所における「万が一」の危険性が認められる場合、同発電所の運転の差し止めが認められる(訴状33頁以下、福井地裁判決40頁)。
万が一の危険性があるかどうかの観点は、訴訟のあらゆる場面に妥当し、過去の地震や津波の調査に関していえば、存在が明確に否定できない地震・津波は、本件訴訟においては存在したという前提で判断されなければならず、またその規模・被害状況も考え得る最大のものが前提とならなければならない。このような考え方は、正に福井地裁判決と軌を一にするものといえよう。

一旦事故が生ずれば、広範囲の土地の放射能汚染を含む極めて甚大かつ半永久的な被害をもたらす原子力発電所の危険性を対象とする司法審査においては、あらゆる事象を安全側に捉え、万が一の危険の有無を保守的に判断しなければならない。

  2福島第一原発事故の教訓

本書面は、大飯原発の津波に対する安全裕度に関する書面である。

福島第一事故の主要な原因の一つは津波による浸水であった。事故当時、東京電力は、土木学会が平成14年に策定した津波シミュレーションモデル「津波評価技術 2002」にもとづき福島第一原発に対する津波想定を O.P[1].+5.7mと保安院に報告し、津波対策として非常用海水ポンプの高さを O.P.+6.1mに嵩上げした。
その後、平成20年ころ、被告東電は、貞観津波(869年)の波源モデル(後述)を使用すればO.P.+9.2mの津波[2]が生ずることを会社内部で試算していたが、古地震である貞観津波については「(情報が少なく)さらなる調査が必要」として必要な津波対策を先延ばしにした(甲3-91、92:国会事故調)。東日本震災時、福島第一原発に押し寄せた津波は、O.P.+約11.5mから+約15.5mであったとされる(甲92.19「政府事故調中間報告」)。福島第一原発第1乃至4号機の敷地高はO.P.+10mであることから主要エリアは浸水し、全交流電源喪失、炉心損傷に至った。福島第一原発事故は、古地震による津波被害の危険性が指摘されていたにもかかわらず電気事業者がその対策を懈怠している間に生じたものである。

福島第一原発事故は津波対策に関し2つの教訓を示している。ひとつ目は、津波高を試算するモデルの精度は低く、保守的に安全裕度を考慮すればその2倍の裕度を考慮すべきことである(いわゆる「倍半分」。詳細は後述)。そしてふたつ目は、「万が一」の事故(平成4年10月29日最判参照)を防ぐためには、古地震、古津波であってもその可能性を否定せず対策に反映させなくてはいけないということである。

福島第一原発事故後、新規制基準が成立し、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第5条が「津波による損傷」を規制した。被告関電は、平成25年4月18日、大飯原子力発電所第3、第4号機が新規制基準に適合している旨の報告書を提出し、(甲203「大飯発電所3、4号機新規制基準適合性確認結果について(報告)」)同報告書「3.1.2.1自然現象に対する設計上の考慮」「3.1.2.1.1地震・津波(地震随伴事象を含む)」にて、津波高に対する報告を行い、安全性を確認したとする。その後、被告関電は平成26年12月19日、第176回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、及び、平成27年3月13日第206回同審査会合にて津波に関する追加の報告を行った。

本書面は、以上の被告関電の報告書及びそれをブラッシュアップした審査会合資料を引用しつつ、大飯原発第3、4号機が津波に対し安全裕度が低いこと、すなわち具体的危険性が存在することについて述べる。

[1] O.P.:標高を表す基準値であり小名浜港工事基準面をさす。大飯原子力発電所では、T.P.:Tokyo Peil:東京湾平均海面を使用する。

[2]パラメータスタディ(後述)を行えばこれより2、3割津波高が増加する可能性があると指摘されている。

 3 本書面の骨子

【図省略】