◆原告第16準備書面
第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を
用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第4 原子力発電所の地震予測において「標準的・平均的な姿」を用いることの問題性=万が一の危険が存在すること

 1 原発の安全性について地震の「標準的・平均的な姿」を前提とすることは不適切である

標準的・平均的な姿をもとに基準地震動が策定されていることについて当事者間に争いはない。問題は,最も厳格な安全性が求められる原子力発電所において,そのような平均像を用いることが正当化されるかということである。

平均であるから,当然,元データには平均像そのものは存在せず,多くのばらつきあるデータとなっている。そのバラつきの程度は様々であって,数字でいえば,60と40の平均も50であるが,0と100の平均も50である。

例えば下図【図省略】は,1995年当時に,原子力発電所の耐震性を審査するにあたって,原子力規制員会が用いた上下動と水平動に関する観測データを示したものであるが,震源に近いほど上下動の割合が高くなることが分かる。それにも拘わらず原子力規制委員会によれば上下動の割合は0.5であると結論されてしまっている。しかし,「万が一」の安全性を保持しなければならないという観点からは,平均を上回る地震動が観測される地震がこれほど多く存在している以上,平均値を取ることによっては安全性を担保することができないことは明らかである。

甲229[5 MB] 「地震と原発の不都合な関係~強震動予測を巡って」 東井怜)【図省略】

平均を取るということは,このようなバラつきや不確かさを捨象してしまい,「標準的・平均的な姿」という仮想的なモデルケースを設定して基準地震動を導くことに他ならない。これでは,「万が一」の安全性を保持すべき原子力発電所に到来する可能性のある地震動の予測としては極めて不十分であり,不合理である。

以下,基準地震動が過小評価であることを述べる論文を示し,述べる。とりわけ島崎論文は,原子力委員会の委員長代理であった島崎邦彦自身が基準地震動が過小評価となる可能性を指摘するものとして重要であるし,赤松論文は被告関西電力の主張を踏まえてその不十分さを指摘するものとして正に本件に適合し,かつ過去の客観的データに基づく論考として価値が高い。

 2 島崎邦彦「活断層の長さから推定する地震モーメント」(甲230[782 KB]

原子力規制委員会の委員長代理であった島崎邦彦は,近時,原子力発電所における地震・津波の予測に関し,次のように述べて警鐘を鳴らしている。

すなわち,地震モーメントを活断層の長さから予測する場合,過小評価となる可能性があり,注意が必要である。予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため,過小評価の可能性がある。実際,日本の陸域およびその周辺の地殻内浅発地震(マグニチュード7 程度以上)について,活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1978年兵庫県南部地震で検討したところ,原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると,地震モーメントが過小評価される傾向が明らかとなった(甲230[782 KB])。

図【図省略】は,地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり,OBS=観測地,T=(1)式,YS=(2)式,ERC=(3)式,IM=(4)式である(なお,同図は嶋崎邦彦「活断層の長さから推定される地震モーメント:日本海「最大」クラスの津波断層モデルについて」より抜粋)。図のように,入倉・三宅の式(2001年)によって予測される地震モーメントは,実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多く,当然,地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから,地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており,その結果,基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

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 3 毎日新聞「「忘災」の原発列島 再稼働は許されるのか 政府と規制委の「弱点」」(甲231[1 MB]

基準地震動の計算は,「活断層が起こし得るさまざまな揺れの中で平均的な値を導くもの」(甲231[1 MB]・2頁)であるが,実際の地震では,計算による平均値の2倍以上の強い揺れが全体の7パーセント程度存在し,3倍~4倍の揺れさえも観測されている(同)。実際の揺れの8割~9割であれば基準地震動の範囲に収まるが,残りの1割~2割は超過してしまうのであって,基準地震動を超過する地震動が発生する危険性は非常に高い。それにもかかわらず,基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず,揺れの計算は専門性が高いため規制側が対等に議論に参加することができず,いきおい事業者側の言い分がそのまま通る傾向にある。

平均から外れた強い揺れも考慮しなければ「万が一」の安全性を求められる原子力発電所における地震動予測としては極めて不十分なのである。

 4 山田雅行・先名重樹・藤原博行「強震動予測レシピに基づく予測結果のバラツキ評価の検討~逆断層と横ずれ断層の比較~」(甲232[6 MB]

強震動予測は平成7年兵庫県南部地震を契機に急速に研究が進められ,広く利用される傾向にあるが,強震動予測を行うための詳細な震源パラメータの設定には多くの不確定な要素が残存しているための,そのような状況下での強震動予測手法の標準化を目指して「強震動予測レシピ」(入倉・三宅の式)が提案されている。同レシピは主要な部分に経験式が用いられており,その経験式は過去の観測データの回帰によって求められていることが多いため,レシピに従って設定した震源パラメータは「平均的な」値となり,その値に対するバラつきを必然的に有していることとなる。そのようなバラつきのある震源パラメータに基づいて予測されるため,地震動もバラつきを有している。仮想の逆断層と横ずれ断層を想定してバラつきの違いについて検討を行ったところ,いずれの場合も,アスペリティの強度(応力降下量)によるバラつきが大きな値となることが分かった(図-4(3),図-5(3))。

アスペリティの強度(応力降下量)の違いは,地震規模の強弱に大きな影響を与え,地震動の大小にも当然大きな影響を与える。この点についてバラつきが大きいということは,地震動にも大きなバラつきが出てくることに他ならない。基準地震動を超える地震動が本件発電所を襲う可能性は決して低くはないのである。

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 5 長沢啓行「高浜3・4号と大飯3・4号の基準地震動は過小評価されている」(甲233[15 MB]

大飯原発の基準地震動については最新の知見が十分に反映されておらず,保守性(安全余裕)を十分持たせたものになっていない。「震源を特定して策定する地震動」について,大飯原発については,断層との距離が近すぎるという理由で耐専スペクトルが適用されていないが,その適用を排除する理由はなく,これを適用すると,関西電力の示した耐専スペクトルの等価震源距離と最大加速度の関係図からして1200ガル以上となる(図15)。また,耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,しかも震源近傍での大きな地震観測記録を含む最近20年間の最新データが反映されていないため,地域差以外の偶然変動によるバラつき(図22)も考慮すれば,少なくとも2倍の余裕を持たせるべきである。実際の観測記録値を見ても残差平均より倍半分以上のバラつきがあり,内陸補正をした耐専スペクトルからも倍半分以上のバラつきがある。そのようなバラつきも考慮すれば,2400ガル以上になる可能性もある。これは原子力安全基盤機構の独自の断層モデルによる地震動解析結果とも一致しており,過去の地震観測記録等とも一致している。他方,断層モデルによる地震動評価についても,同モデルは北米中心の地震データに基づいているため地震規模や応力降下量が過小設定されることになり,大飯原発についてもそれらが過小設定されている。結局,大飯原発では地震動が過小評価されており,最新の知見に基づいて基準地震動を保守的に設定し直せば,クリフエッジをも超えることは避けられない。

 6 赤松純平「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」(甲234[1 MB]

1985年に発生した若狭湾沿岸地震の観測結果と琵琶湖西岸で発生した別の地震の観測結果との比較からは,地震規模が同じであるにもかかわらず,若狭湾の地震が琵琶湖西岸の地震に比して高周波成分が卓越しており,スペクトルの振幅値も高周波数域では同程度ないし若狭湾の地震の方が大きいことが分かる。地震波動の距離減衰という特徴からすると,若狭湾の地震は琵琶湖西岸の地震に比して震源域での高周波成分が6~9倍も大きかったことになり,このことから,若狭湾の地震における応力降下量が顕著に大きかったことが示唆される。このような応力降下量が大きいという若狭湾地域における地域性はより規模の大きい地震についても見られ,M7以上の大地震では,日本海周辺の地震の応力降下量が南海トラフ沿いの地震よりも平均して3倍程度大きいことが知られている。1985年の若狭湾地震規模はM5.1であるが,当時の大飯原発の自動停止の設定閾値160ガルを超えていないにもかかわらず原子炉が自動停止したことは,同原発が脆弱性を内蔵していたからである。関西電力の策定した基準地震動は,若狭湾地域において短周期(高周波)成分が卓越するという地域性を適切に踏まえておらず,耐震性を確保するための基準として不十分である。

同じ地震でも,場所によって発生する地震動は大きく異なる。それは,強震動に影響を与える要素として,地震の震源特性,地震波の伝播特性,地盤の増幅特性(サイト特性)などがあるからである。この点,若狭湾地域においては,地震における高周波成分が大きく,応力降下量も大きくなる傾向があるという地域性があるにもかかわらず,被告関西電力の策定した基準地震動はこの点を適切に評価していないのであるから,同被告の策定した基準地震動は過小評価である。また,M5.1程度の地震で想定していなかった自動停止が起こったということは,今後も同規模ないしそれ以上の規模の地震によって想定外の事態が容易に起こるであろうことを端的に示している。