◆原告第16準備書面
第7 結論

被告関電準備書面(3)(地震)に対する反論(2) 目次

第7 結論

 1 原発の基準地震動は平均でなされており,著しい過小評価である

以上述べたとおり,原発の基準地震動は,既往地震の平均像を基に想定されており,著しい過小評価である。

「応答スペクトルに基づく手法」は,多数の地震・地震動の平均像を求めるものでしかない。代表的な「応答スペクトルに基づく手法」である耐専スペクトルを見れば,平均像の4倍程度の地震動をもたらす地震が現に存在するが,原発の耐震設計では,「応答スペクトルに基づく手法」が平均像でしかないことによるバラつき・不確かさ,具体的には平均像からの乖離(すなわち平均像であることによる誤差)は,十分には考慮されていない。

電力会社が行っているのは平均像としての地震動想定であり,それをプラスαした地震動を想定しているだけである。また実際に起こった地震についても,その知見を取り入れたとするが,それはせめて実際起こった地震程度には耐えられるようにしようとする,単なる弥縫策でしかない。

福島第一原発で経験したように,極めて危険な放射性物質を多量に抱え込んだ原発で,平均的な地震動で耐震設計するなどということは,決して許されることではない。したがって,仮に平均像を基本ケースとするにしても,さらに最大限の誤差を考慮することが原発の耐震設計では求められる。

 2 耐震設計は一種のドグマにすぎない

さらに,地震は,いつも同じ場所で同じ規模で発生するものではない。複数回同じ領域(震源断層面)で発生したとしても,破壊が止まる領域の端では,歪が蓄積される。多数回の地震で累積した変位は,通常の変位が生じる領域では収まりきらず,いずれはその領域の外に破壊を及ぼす。常に一定の箇所で断層の破壊が止まると考えるのは科学的に通用しがたい考えであり,時折,破壊の規模が拡大するとするのが正しい。

しかし,現在の耐震設計は,破壊が常に一定の領域で起こり,それがその領域の外に拡大することはないという,一種のドグマによってなされている。電力会社の選定した各活断層については,多数回すでに活動していると考えられるが,その累積変位は,通常の地震の発生する下限をさらに突き抜けて破壊が及ぶことによって,時折,変位に伴う歪を解消させると解されるべきであるし,少なくともその可能性は否定できない。

もともと地震発生層については,データが少なすぎる中での想定であり,そもそもこの推定には大きな誤差があるが,この点については,一切考慮がなされていない。

そして,地震・地震動のデータは,数10年程度の極めてわずかなものでしかない。特に日本において詳細な地震・地震動の記録を得られるようになったのは,兵庫県南部地震が発生してから各地に強震計が配置されるようになった1997年以降の17年程度のデータでしかない。したがって,何千年,何万年というスパンで生じる地震現象の想定とするなら,この程度の期間での過去最大の地震動では全く不足する。

断層面積Sと地震モーメントMoの関係式の図からすれば,同じSの断層の活動による地震動では,統計的に見て観測された過去最大の地震動を超える地震の割合も44個に1つ程度はあると考えられ,地震動が平均像の8倍を超える地震も740個に1つはあると考えられる。そうすると,少なくとも平均像の4倍以上ないしそれ以上の地震動を想定すべきである。

 3 これまで被告らは平均像によって策定することの問題を無視してきた

平均像で耐震設計をしてはならないなどという問題は,当たり前に過ぎる問題であった。この「平均像で原発の耐震設計をしてはならない」という問題は,住民側が「もんじゅ」訴訟差し戻し後控訴審において明確に取り上げて以来,原子炉施設事業者も国も十分に承知していた問題であった。にもかかわらず,同事件判決は,このような主張などなかったことにして,争点として取り上げることすらせず判決をし,原発推進者である事業者や国も,この問題にあえて目をつぶり,これまで営々と原子炉を運転し続けてきた。

また,既往最大で耐震設計をしてはならないという問題も,浜岡原発訴訟第一審で住民側が取り上げた問題であった。この問題も,我々の知見が極めて小さいものであることからしたら,また当たり前に過ぎる問題であった。しかし,浜岡第一審判決は,過去最大を超える地震が発生する可能性を認めつつ,「抽象的危険で,むやみに国の施策に影響を与えることはできない」として,住民側の言い分を排斥した。そして,既往最大を超える東北地方太平洋沖地震が発生して,福島原発事故が発生し,大きな被害をもたらした。

 4 裁判所の役割が求められている

原発の耐震設計における当たり前過ぎる問題を,事業者,国,裁判所が一体となって,あえて無視してこれまで原発の運転はなされてきた。しかし,自然は,容赦なく,巨大な現象として立ち現われ,原子炉を破壊に導く。基準地震動を超える地震動を本件原発に与えたときに,本件原発がその地震動に耐えられる保証はない。そのときには,本件原子炉は,新規制基準も認める「大規模損壊」となって,多量の放射性物質を環境中に一気に放出する。日本の破滅すらもたらしかねない本件原発の稼働を阻止するのは,まさしく本裁判に与えられた任務である。

以 上