◆原告第20準備書面
第5 シビアアクシデント対策の不可能性

原告第20準備書面
-基準地震動未満の地震による炉心損傷の具体的危険性- 目次

第5 シビアアクシデント対策の不可能性

 1 シビアアクシデント対策

シビアアクシデントとは、「『設計基準事象』[7]を大幅に超える事象であって、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御ができない状態であり、その結果、炉心の重大な損傷に至る事象」と定義される(甲3-96:国会事故調査報告書)。シビアアクシデント対策は深層防護の4層目に位置づけられていたにもかかわらず、日本では法制化されていなかったという問題点は原告第1準備書面で指摘したとおりである。福島第一事故前においては、電気事業者の自主的な対策とのみ位置づけられ、国会事故調査報告書(甲3-96)は、「日本では、シビアアクシデント対策として、設備、体制、手順書、訓練・教育の整備が行われてきたが、実効性に乏しく、本事故では様々な問題が顕在化し、事故の緩和、防止には不十分なものであった。」と総括した。

以上の経緯より、新規制基準はシビアアクシデント対策を規制要件化し、被告関西電力はシビアアクシデントの対応策を原子力規制委員会に提出した。

しかしながら、原子力規制委員会におけるシビアアクシデント対策の議論を鑑みても基準地震動未満の地震による具体的危険が指摘できる。
以下詳述する。

[7] 設計基準事象とは、「原子炉施設を異常な状態に導く可能性のある事象のうち、原子炉施設の安全設計とその評価に当たって考慮すべきとされた事象」をいう(甲3-96:国会事故調査報告書)。

 2 第7回発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム資料

  (1)経緯

平成24年10月25日から平成25年6月3日にかけて、原子力規制委員会内に設置された「発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」がシビアクシデント対策の基本方針を検討した(甲263[101 KB]:「発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム」について(案)[8])。その後、上記基本方針に基づき、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第四十三条の三の六第一項第四号の規定に基づく、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」、同「規則の解釈」、「審査ガイド」が制定された(甲264[6 MB]:原子力百科事典ATOMICA[9]「商業用原子力発電炉に係る新規制基準」、甲265[61 KB]:表1[10]甲266[113 KB]:実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド)。

[8] 原子力規制委員会HP:https://www.nsr.go.jp/data/000050165.pdf
[9] 一般財団法人高度情報科学技術研究機構が文部科学省より委託を受けて作成するインターネット上の原子力に関するデータベース
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=11-02-01-03
[10] 原子力百科事典ATOMICA「商業用原子力発電炉に係る新規制基準」の引用文献
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/11/11020103/01.gif

 (2)第7回発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム資料

平成24年12月20日の第7回検討チーム会議においては、事務局より「『シビアアクシデント対策における要求事項(個別対策別の主な設備等について)(案)』の網羅性について 改訂版」(☆甲267)と題する資料が提出され、シビアアクシデント対策としての要求事項が確認された(甲268[539 KB]:発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム 第7回会合 議事録)。同資料の3ページ目にはPWRプラントに対するシビアアクシデント対策の概要が示されている。これは、起因事象(事故の原因、又は発端となる事象)の発生から冷温停止状態に持ち込むまでの対応を「イベントツリー」[11]方式で示したものである。

ここで、シビアアクシデント対策は、概要、設計基準事故対処設備の機能が喪失した場合に「原子炉を止める」「炉心を冷却する」「放射能を閉じ込める」ことであるが、炉心を冷やすためには冷却水を循環させ続けることのみならず、最終的に海に排熱する必要がある。また、冷却のための設備(ポンプ等)を運転するために電源が必要である。

下記の図によれば《図省略》、PWRプラントにおいて起因事象が生じた場合に、(1)電源確保対策、(2)原子炉停止対策、(3)最終ヒートシンク確保対策(2次系)、(4)原子炉冷却材高圧時/低圧時の冷却対策、(5)水源の確保対策、(6)最終ヒートシンク確保対策、が要求されている。

この枠組は、シビアアクシデントの際の事故の進行具合に沿って対策を配置した図であり、対策をすべて成功させて最終的にOKと書かれたシーケンス(=冷温停止状態)に持ち込むことが想定されている。

甲267[336 KB]-3「シビアアクシデント対策における要求事項(個別対策別の主な設備等について)(案)」の網羅性について 改訂版]《図省略》

[11]  事象の木解析――イベントツリーアナリシスevent tree analysis(略称ETA)
ETAは,構成要素に故障(入力)が発生したとして,時間の経過をたどり,どんな事象(出力)に発展するかを解析する図式解法で,各事象の発生確率が推定できると定量的な解析もできる。

 3 外部電源喪失+取水口破損の場合の問題点

原告らは、原告第10準備書面第6にてすでにイベントツリーに基づく事故対策に対する批判を述べたが、仮に検討チームが作成した上記のイベントツリーに基づく対策を前提としても、「外部電源喪失」と「取水口破損」が同時に起こった場合、原子炉損傷に至る危険がある。

まず、上記イベントツリーによれば、外部電源が喪失した場合(起因事象)、可搬式代替電源設備(電源車)、および、恒設代替電源設備(ガスタービン電源車)により、代替電源を確保するものとされる[12]

次に、可搬式代替電源により電源が確保でき、かつ原子炉が停止したとしても、原子炉を冷却しなくてはいけない。ここで、短期的な除熱機能として、二次系除熱(補助給水系による除熱)およびECCS(非常用炉心冷却系)による除熱が予定されている(甲269[6 MB]:非常用炉心冷却装置等の例(PWR)[13]甲275[2 MB]-118)。

しかし、これらは復水ピット(前者)、燃料取替用水タンク(後者)内の水を利用する冷却方法であり、ピット内の水が枯渇すればその機能を維持できなくなる。また、ECCSは燃料取替用水タンクの水位が低下すれば水源を格納容器再循環サンプ[14]に切替えて注水が継続され再循環モードに移行するが(甲270[100 KB]:「図4」[15] 原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統説明図,甲275[2 MB]-118)、循環水が熱交換されなければ時間の経過とともに冷却能力は低下する。

したがって、電源の回復およびECCS等による短期的な冷却が成功しても、最終ヒートシンク(海水への排熱)が奏効しなければ長期的な冷温停止状態が不可能となる。

[甲275[2 MB]-118:関西電力㈱大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価 (一次評価)に関する審査書に加筆] 《図省略》

[12] 大飯原子力発電所の「工事計画変更認可申請書(3号機添付資料)」によれば、非常用電源設備として空冷式非常用発電装置および電源車が施設されている。
[13] 電気事業連合会HP:http://www.fepc.or.jp/nuclear/safety/shikumi/bougo/sw_index_02/
[14] 格納容器再循環サンプ:1次冷却材喪失事故時等において、燃料を冷却するための水源として使用する燃料取替用水タンクの水がなくなった場合に、次の水源として、漏れ出た1次冷却材を回収して使用するために、格納容器内の底に設置されているタンク。
[15] ATOMICAより引用
http://www.rist.or.jp/atomica/data/fig_pict.php?Pict_No=02-04-04-01-04

 4 取水口から取水できない場合の関電の対策

第4で述べたように、最終ヒートシンクの設備の一部である非常用取水設備は基準地震動に耐えられず、基準地震動未満の地震によって海水への排熱機能が損傷する可能性が高い。したがって、基準地震動未満の地震によって、最終ヒートシンク機能が喪失し、冷温停止状態に移行できない可能性が生じる。この場合、原子炉は高温高圧化し炉心損傷に至る。

最終ヒートシンク機能喪失に対し、上記イベントツリーでは、車載代替UHSS[16]、恒設代替UHSSにて対応するとされている。関西電力は、当初、非常用取水設備からの取水が不可能となった場合、複数の消防ポンプにより海水を汲み上げ仮設水槽および復水ピットに給水する方針を打ち出していたが、その後、送水手段を消防ポンプから送水車に変更した(甲271[2 MB]:関西電力HP「大飯発電所の安全対策トピックス2015 特別号 VOL.13」)。

甲271[2 MB]:関西電力HP「大飯発電所の安全対策トピックス2015 特別号 VOL.13」]《図省略》

大飯3号機および4号機の取水口から復水ピットまでの距離は約1400mであり、約60本のホースを接続して敷設するとされている。

しかし、関西電力の計画ではホース敷設系統は僅かに1系統であり多様化が図られていない。したがって、何らかの事情(地震による障害物、地盤沈下)で、1400mの敷設ルートの一部が寸断されれば、送水は不可能となる。また、ホースは60箇所もの接合部があるため、このうちの一点でも不具合による漏水があれば所定の水量を送水できない。

さらに、冷温停止状態を継続するには送水車の稼働を継続する必要があるが、自然災害時に送水車の燃料を維持できるか甚だ疑問である。

したがって、関西電力のシビアアクシデント対策は、非常用取水施設が損傷した際の具体的危険を排除できない。

甲272[405 KB]-3-7:大飯発電所3号炉及び4号炉基準適合性のうち 試験、検査可能性について]《図省略》

甲273[8 MB]-11.3-152:「新規制基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(大飯3、4号機(302)) 審査資料『大飯3号炉及び4号炉 設置許可基準規則等への適合性について (重大事故等防止技術的能力)』」《表省略》

甲273[8 MB]-1.13-153]《画像省略》

[16] UHSS: 最終ヒートシンクへの熱移送系統

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