◆原告第23準備書面
第1 熊本地震を受けて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第1 熊本地震を受けて

1 M7クラスの地震が連続して発生したこと

熊本地震では、2016年4月14日に気象庁マグニチュード(Mj)6.5、震度7の地震(震源の深さ11キロ)が、同月16日には同7.3、震度7の地震(震源の深さ12キロ)が相次いで発生し、その後も余震が震度1から6まで無数に観測され、震度6強が2回、震度6弱が3回、震度5強が4回、震度5弱が8回、震度4が95回も観測されている(気象庁震度データベースより)。

内陸型(活断層型)地震でマグニチュード6.5以上の地震の後にさらに大きな地震が発生するのは、地震の観測が日本において開始された1885年以降で初めてのケースであり、また一連の地震活動において震度7が2回観測されるのも初めてのことであった。そのため気象庁自身が「今までの経験則から外れている地震」であると述べており、そのことを理由として、気象庁は通常規模の大きい地震の後には余震の発生確率を発表しているが、本地震では発表を取りやめるほどであった。かかる気象庁の見解は、これまで地震学において得られている知見が、いかにわずかな期間の観測記録に基づく、いかに不十分な知見でしかなかったことを如実に示すものである。

このように短期間に間にM7クラスの地震が連続して発生することを想定していた地震学者はおらず、当然、我が国における耐震基準もそのような事態を想定していなかった。だからこそ熊本地震では、1度目の地震では倒壊を免れた建物が2度目の地震によって相次いで倒壊し、人々に甚大な被害を与えるに至ったのである。翻って原子力発電所における耐震基準も、このようなM7前後の大規模な地震が連続して発生した場合のことを想定してものとはなっていない。これは、熊本地震が起こるまで誰一人としてそのような事態を想定していなかった以上当然のことである。原発を含む建物の耐震基準は、耐震構造等にダメージのない状態で発生した大規模な地震に対して耐えられるかどうかという観点から設定されているが、本件のように、1度目の大規模な地震で耐震構造等にダメージが入った状態でさらに2度目の大規模地震にまで耐えられるかどうかという観点は全く考慮されていない。だからこそ熊本地震で多くの建物が1度目の地震を耐え抜きながら2度目の地震によって倒壊してしまったのであるが、原発において連続して大規模な地震が発生した場合、果たして2度目の地震に耐えられるであろうか。そのような保障はまったくない。そして、熊本地震において「今までの経験則から外れている地震」が観測された以上、今後大飯原発等の原子力発電所において「それまでの経験則から外れている地震」が発生する可能性は誰にも否定できないのである。むしろ、2011年の東北地方太平洋沖地震も「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震であったが、日本で地震の観測が始まってから100年余りの間にそのような地震が繰り返し発生しているということは、今後100年余りの間にもそのような「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震が繰り返し発生してしまう可能性が高いことを意味している。

熊本地震は、地震学の知見がいかに矮小なものにすぎないか、今後も経験則から外れるような地震が発生する可能性がいかに高いかを示すものであると同時に、原子力発電所を含むこれまでの耐震基準が全く想定していなかった連続地震の発生の可能性を示すものとして極めて重要である。被告関西電力の主張についても、いかに矮小な地震学の知見に基づくものにすぎないか、経験則から外れるような地震が発生する可能性をいかに過小評価しているかが熊本地震によって明らかにされ、同時に、連続地震の発生の可能性という点に全く留意していないという致命的な欠点をも詳らかにされたのである。

2 M7クラスの地震の予知・予測は不可能であること

政府の地震調査委員会が作成した大地震の発生確率を示す予測地図によれば、熊本地震が発生する前の1月1日時点では、熊本市で震度6弱以上が発生する確率は7・6%であり、47都道府県で低い方から16番目、高い方から数えれば32番目であった(ちなみに京都市の確率は13%)。しかし、実際に大規模地震が発生したのは熊本だったのである。このことは、大規模地震の予知・予測が不可能であることを示している。

また、地震の前兆を示す異常地殻変動等も熊本地震について事前に全く報告されていなかった。これは、1995年1月17日の兵庫県南部地震と同じである。このことからも、大規模地震の予知・予測は不可能であることが分かる。

3 活断層の長さを調査によって明らかにすることは不可能であること

(1) 予測による活断層の長さと実際の活断層の長さとの間には乖離がある

熊本地震は内陸型地震であり、当該地域に存在する活断層が活動したことによって発生したものである。M7.3の地震を引き起こした活断層は布田川断層帯の東端の区間であり、その長さは元来約19キロとされてきたが、国土地理院の測地データに基づく暫定値では、今回の熊本地震で活動した部分はさらに8キロ程度長い約27キロであった。

その後、纐纈一起東大地震研教授らの手による強震・遠地・測地データのジョイントインバージョンによる震源断層モデル(下図)《図省略》では、断層長54キロ、断層幅16.5キロで、傾斜角75度の断層面を設定したモデルが、強震・遠地・測地データを一番よく説明できるとしている。この纐纈教授らの震源断層モデルは、2016年5月13日に発表された地震調査推進本部・地震調査委員会の「2016年熊本地震の評価」の報告にも採用されており、現段階で最も信頼性の高い震源パラメータである。図のなかで、黒太線が既知の活断層であり、青四角が実際に動いた部分である(すべり分布は赤色が大きく、青色が小さい)。この図からも、既知の活断層と実際に動いた部分とは一致しておらず、既知の活断層の延長線上に長く延びていることが確認できる。

このように、事前の活断層の長さに関する調査が限界のあるものであり、実際の震源断層の長さとは大きな乖離があることが明らかになったのである。

このように実際には事前に想定されていなかった長さの活断層が動いたという事例として、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震を挙げることもできる。M7.3であった同地震は震源領域の長さ50km超、深さ約5~18kmの断層面が一度に破壊して起こったものであるが、事前には短い断層の存在が何本か知られていたにすぎない。同地震においてこれほど長い活断層が動くとは想定されていなかったのである。初の近代都市における直下型地震であり甚大な被害を及ぼした兵庫県南部地震も、活断層の長さを事前に調査して明らかにすることは不可能であり、予測される長さと実際の長さとの間には乖離があることを明確に示している。

こうした地震発生前に予測される活断層の情報と実際の活断層の情報との間には乖離があり、地震の規模を活断層の長さから予測する場合に過小評価となる可能性があることは、元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏も指摘するところである(甲230甲278「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。活断層は基本的に地中に存在するものであるから、その長さを事前に明らかにすることには自ずから限界があるのであり、いかに不確実な予測にすぎないかはこれまでの地震によって、あるいは元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏によって明確となっているのである。

(2) 活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である

既に原告準備書面2・脚注27で述べたところであるが、活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である。例えば、断層の長さ(L)とマグニチュード(M)の関係について松田(1975)の経験式によればlogL=0.6M-2.9と表される。そのため上記熊本地震の場合を例にとれば、<1>活断層の長さ19キロを用いるとM=約7.0となり、<2>国土地理院による測地的震源断層の長さから求められた27キロを用いるとM=7.2、<3>強震・遠地・測地のジョイントインバージョンから求められた震源断層の長さ54キロを用いるとM=7.7となる。さらに、マグニチュード(M)と地震エネルギー(E)との関係についてグーテンベルグ・リヒターの半理論・半実験式logE=4.8+1.5Mを用いてEを求めれば、<1>が1.7×10の15乗、<2>が4.3×10の15乗、<3>が24.0×10の15乗となる。

つまり、既存の活断層から予想される①の地震エネルギー(E)に比べて、現段階で最も信頼性の高い纐纈教授らによる震源パラメータを用いて計算すると、地震エネルギー(E)は13倍以上にもなるのである。このように、実際の震源断層モデルから求められた放出エネルギー(E)が、既存の活断層から予測される地震の放出エネルギーに比べて極めて大きかったことが今回の熊本地震の教訓の一つである。

(3) 大飯原子力発電所周辺の活断層も過小評価の可能性は十分にある

そして、若狭湾周辺地域にも断層・活断層が多数存在し、特に基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であろう。これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

4 熊本地震で「階級4」の長周期地震動が観測されていること

(1) 長周期地震動による被害の可能性

熊本地震において、防災科学技術研究所の強震観測網であるK- NET・KiK-netによれば、益城観測点KMMH16の地表 面における最大加速度は、M6.5の前震では3成分合計値1580ガル、上下動で1399ガルを記録した。さらに、M7.3の本震では3成分合計値1362ガルを記録した。

このような大きな地震加速度が観測されたのは、この地域が火山性の軟弱地盤であることも考慮しなければならない。益城観測点周辺の地盤では火山堆積物が厚く表層を覆っていて、S波速度が2kmを越えるのは深さ230m以深である。これに対して、大飯原子力発電所の敷地はS波速度が基盤直下から2.2kmを超えており、固い地盤にあると言われている。柔らかい地盤上の地点では、固い岩盤上の地点に比べて表層で大きな揺れ(地震動)が数倍程度増幅される可能性も考えられる。そうなると、熊本地震の経験から、大飯原子力発電所でクリフエッジを上回る地震動に襲われる可能性が高いとは言えなくなるが、熊本地震の経験として、一つ注目すべき点がある。

それは、気象庁が2011年東北地方太平洋沖地震のあと、「長周期地震動階級」の導入を検討してきたが、2013年3月28日に「長周期地震動に関する観測情報(試行)」を公開して以来、最上階級の「階級4」が、今回の一連の熊本地震で、2016年4月15日のM6.4の地震と同年4月16日のM7.3の地震の際に熊本地方で初観測されたことである。熊本のM6.4とM7.3の地震の際に「階級4」の長周期地震動が観測されたということは、大飯原子力発電所近傍のM7.
8の想定地震でも被告関西電力は、大飯原子力発電所の長周期地震動への対策を講じておかなければならない。

(2) 地震動が大きくなりがちな若狭湾地域の地域特性

川瀬博京大防災研教授らは一連の熊本地震について、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KIK-net)、および気象庁のJMA震度計ネットワークによって観測された強震データをもとに、4月14日のM6.5の前震、16日のM7.3の本震およびそれらの余震である23の地震(M=4.5~6.4)の震源特性を求めている(川瀬・仲野:スペクトル分離で求めた震源特性とサイト特性、およびその考察、2016)。それによると、得られた応力降下量Δσは、M6.5の前震が2.21MPa、M7.3の本震が1.77MPaであり、「これらの応力降下量レベルは過去の15年間に発生した内陸地震のM6クラスの地震としてはほぼ下限値のラインに近く、決して地震として特異に硬い地震(短周期を多く放出した地震)とは言えないことがわかった。」と述べ、さらに、短周期レベルについて、「今回の地震の短周期レベルは過去のM6以上クラスのそれのほぼ下限値となっており、2011年の福島県浜通りの地震に比べても小さめとなっている・・」と記して、熊本地震は「柔らかい地震」であったことを指摘している。

既に原告準備書面16で述べたところであるが、甲234「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」によれば、若狭湾地 域においては、地震における応力降下量が大きくなるという地域特性がある。応力降下量が大きくなるということは、当然、地震動が大きくなるということになる。若狭湾地域においては、他地域で発生する同規模の地震に比べ短周期レベルが大きい、すなわち、応力降下量が大きいという地域的特性がある。言い換えると、若狭湾地域では「硬い地震」が発生する傾向にある。熊本地震のように「柔らかい地震」によっても大きい加速度値が観測され、甚大な被害が発生した。若狭湾から延びるFO-A~FO-B~熊川断層を震源断層とする「硬い地震」が起これば、熊本地震より極めて大きな震源加速度短周期レベルが発生し、基準地震動を大きく越える可能性が高い。被告関西電力は、地域特性を考慮すれば策定した基準地震動は信用できると繰り返し主張するが、逆に短周期の地震動レベルが大きくなるような地域特性があるとの指摘は等閑としている。

5 地震動にはバラつきが大きいこと

(1) 熊本地震によってバラつきの大きさが実証された

基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としており、「バラつき」や「不確かさ」を最大限考慮することが必要であるにもかかわらず、大飯原子力発電所においてはそれが適切に行われていないことは既に原告第16準備書面において述べたところであるが、そのバラつきの大きさが熊本地震においても確認された。

すなわち、長沢啓行大阪府立大学名誉教授によると、熊本地震の前震の益城観測点の地下地震観測記録(南北方向237ガル)(M6.5、等価震源距離約13km)を2倍することで推定されるはぎとり波応答スペクトル(約470ガル)は、川内原発の市来断層帯市来区間(M7.2、等価値震源距離14.29km)の耐専スペクトル(内陸補正なし)(約460ガル)とほぼ等しい(甲279「若狭ネット」第160号19~22頁)。つまり、M6.5であった熊本地震の前震でM7.2と同等以上の地震動が観測されたということであり、それだけバラつきが大きいということを示している。また、上記のように熊本地震では、はぎとり波の応答スペクトル(約470ガル)がM7.3の耐専スペクトル(約460ガル)を超えており、耐専スペクトルが過小であることが客観的に明らかである上、断層モデルに至っては過小な耐専スペクトルに対してすら1/2~1/3にすぎず、大幅な過小評価となっている(甲279「若佐ネット160号」2頁)。
そしてこれらの点は、原子力規制庁も認めざるを得ない部分である(甲280「若狭ネット161号」3頁)。

M6を超えるような規模の地震が大飯原発近傍で生じた場合、距離減衰式その他の強震動予測手法のバラつきを十分に考えておかなければ、基準地震動を大きく上回る地震動が本件原発を襲う事態は、現実に生じ得る。そしてこのように地震動にバラつきが大きいことは、原告準備書面16で述べたところであり、熊本地震によってかかる原告らの主張が裏付けられた形となった。このようなバラつきを適切に考慮すれば、基準地震動は過小評価という他ない。さらに後述の島崎意見によっても、大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価であることが示されている。

(2) 「偶然的不確定性」を低減することはできない

そもそも地震動のバラつきには、種々の知見の亢進と調査の結果によって理論的には低減することができる「認識論的不確定性」と、いくら手を尽くしても低減できない「偶然的不確定性」があり、後者としては、あらかじめ想定することが困難である震源特性における震源メカニズムや破壊伝播方向、伝播経路における触媒の不均質性、サイト特性における地盤の不整形性や入射角などによる地震動の強さの違いなどが挙げられる(甲279「若狭ネット160号」12頁以下、甲281「距離減衰式における地震間のばらつきを偶然的・認識論的不確定性に分離する試み」)。上述の活断層の本当の長さについてももちろん、あらかじめ想定することが困難な要素の一つである。

そもそも前者の認識論的不確定性によるバラつきをゼロにすることは不可能である(知見が日々更新されていることは既に述べたとおり)が、その点を措くとしても、低減不可能な偶然的不確定性による地震内のバラつきの大きさは「平均値+標準偏差」が平均値の1.75倍になる大きさということになる。これに認識論的不確定性によるバラつきの大きさを加味すれば、概ね平均値の約2倍程度のバラつきを最低限考慮しなければならない。この2倍という値は、原告らが主張してきた「倍半分」の考え方と共通するものであり、極めて正当である。