◆第12回口頭弁論 意見陳述要旨

意見陳述 2016年9月14日
氏名 栢下 壽

私は、栢下壽と申します。

1940年4月6日生まれの76歳で、南丹市美山町内久保に住んでおります。美山町は住民の居住地域の大半が、大飯原発からは32.2キロ、高浜原発から30キロ圏内に含まれ一部20キロ圏内の地域もあります。私自身は、30キロ圏内に居住していますが、南丹市が定めた避難計画では、仮に原発事故が起きた場合、私のような高齢者は避難することはできません。

私は今回の意見陳述に当り、特に次のことを指摘し被告や裁判官の皆さんにご理解を頂きたく思います。

 避難計画は実効性が全く無い。

南丹市は、平成24年3月、「南丹市原子力災害住民避難計画」を作成しました。さらに、南丹市防災会議は、平成26年2月、「南丹市原子力災害住民避難計画」を発表しました。同計画は、平成24年南丹市避難計画の作成から2年が経過しているにも係わらず、全く地域の実情を踏まえた現実的な避難計画となっていません。

 地域の実情を把握していない。

防災会議の避難計画では、住民輸送の手段として「災害対策本部が輸送バスを準備する。」と定めています。しかし、美山町は、集落によれば高齢化率60%を超える地域もあり、避難行動要支援者、特別養護老人ホーム、病院の入院患者等もたくさんいます。美山町に住む約4000人もの住民をバスで緊急避難させることなどできません。住民は、自分で避難するしかないのです。

私自身は、妻と二人暮らしです。私や妻は車を運転することができますが、冬期間と夜の運転は危険なので、仮に、原発事故が冬期間や夜におきた場合は、避難することができません。

私の周りには、車を運転することはできない一人暮らしの高齢者が多数おられます。私自身は75年以上この地域に住んでいます。近所の方のことは、家族のように思っています。仮に、原発事故が起きた場合に、私や妻の車だけで、近所の方々をつれて避難することなど到底出来ません。かといって、近所の方をおいて自分たちだけが避難するなどしたくありません。

南丹市の避難計画では、府道19号や国道162号等を避難ルートとしていますが、災害によりこれらの道路が通行不能になった場合、積雪期間は、避難することが出来なくなってします。仮に、道路を通ることが出来たとしても、住民や車両が限られた道路に殺到して交通渋滞のため、美山町の住民が避難出来ない事態も想定されます。

また、美山町は、名前のとおり自然環境に恵まれ本年3月には町全域が「京都丹波高原国定公園」の指定を受け、「森の京都」の中核として自然の景観を生かした町づくりに取り組んでいます。国指定の「重要建造物群」の「かやぶきの里」をメインに、昨年の観光客数は、78万人を超える多くの人達が訪れました。このように多くの観光客の避難対応はどのようにするのでしょうか。避難計画は、この点について全く触れていません。
住民を対象とした避難訓練は実施されていません。

 SPEEDIの活用について

原子力発電所の安全対策にSPEEDI(大気中放射性物質の拡散計準)の活用についても問題があります。

福島第一発電所事故では円形に想定した、放射能拡散想定は何等役に立たず爆発時期の風向きにより80キロ~100キロまで放射能被害が拡散しました。

SPEEDI(大気中放射性物質の拡散計算)と言う資料が有りながら公表、活用しなかったため避難に混乱を起こし、被害を拡大させ対応を遅れさせました。

南丹市原子力災害住民避難計画は、「SPEEDIネットワークシステムを活用する」と定めていますが、仮に、原発事故が起きた際に、SPEEDIが適切に活用される保証などどこにもありません。京都府や南丹市は住民に対するSPEEDIの公表や説明すらしていません。

 安定ヨウ素剤配布について

南丹市原子力災害住民避難計画は、「安定ヨウ素剤の予防服用の指示があった場合は、医師、薬剤師の処方の上で、避難住民等の服用対象者に安定ヨウ素剤の配布を行う。」と定めています。

しかし、南丹市美山町は、340平方キロの面積の谷間に60集落が点在しており少子高齢化の過疎地域です。9月4日に行われた防災訓練で、南丹市のヨウ素材担当に現在の保管場所をたずねましたが、どこに保管されているか把握していませんでした。この様な現状で、これだけの広い地域に緊急で配布することは不可能です。

 最後に

私自身は、内久保環境・史跡保存会会長を務めており、保存会では、京都府指定希少野生生物、絶滅寸前種の「ベニバナヤマシャクヤク」の増殖、保護に取り組んできました。美山町には希少生物の宝庫京都大学芦生研究林もあり、京都府指定希少野生生物25種の半数近くが生息する、西日本でも有数の自然環境に恵まれた地域である美山町を私は、誇りに思っています。仮に原発事故が起きれば、世界に誇るべき美山町の自然が失われてしまいます。

原子力発電の電気は決して、クリーンエネルギーでも安価なエネルギーでも有りません。裁判所には、住民の立場、事故対策を考えず、自社の利益のため、再稼動ばかりを追及している電力会社を強く批判していただきたいと思います。世界に誇れる自然が残る美山町を守るため原子力発電の運転を差し止めて頂くようお願い致します。

以上