◆原告第27準備書面
第2 高浜原発広域避難訓練の実態

原告第27準備書面
―高浜原発広域避難訓練から明らかになった問題点― 目次

第2 高浜原発広域避難訓練の実態

 1 舞鶴市成生地区の船舶による避難訓練の実態

舞鶴市成生地区とは、大浦半島の東側に位置する地域で、高浜原発からは8キロメートルの距離にあるが、舞鶴市原子力災害住民避難計画(以下「舞鶴市避難計画」という。)においては、半島の道路が行き止まりとなるなど、避難経路を考慮し、PAZに準じた避難(防護措置)を行う地域とされている。

舞鶴市避難計画においては、成生地区の避難方法として、バス乗車場所である成生漁村センター前に集合し、バスによって避難時集結場所まで移動するとされているが、「複合災害の対応も含め、状況に応じて、船舶、航空機、鉄道等の多様な避難手段の活用も考慮し、実働組織等(自衛隊、海上保安庁、警察等)へ応援要請する。」とされており、本件訓練においては船舶による避難訓練が予定されていた。

上述のとおり、船舶による避難を実施する場合、実働組織である海上保安庁への応援要請が舞鶴市避難計画では予定されている。しかしながら、そもそも成生漁港は小規模の漁港であって、海上保安庁が保有する船舶では港内での旋回や接岸が困難であり、仮に海上保安庁の船舶を用いるにしても渡しが必要な状況である。本件訓練においては、関西電力がチャーターした小浜港の観光船(いわゆる蘇洞門まわりに用いられている船舶)を用いることとされていた。内海めぐりの観光船であるため、外海の揺れに弱く、本件訓練当日は波が高かった(2.5メートル程度)ことから、午前7時の段階で中止が伝えられた。なお、当初から1メートルを超える波が発生している際には船舶による船舶の出動は中止することとなっていたとのことであった。

そして、本件訓練当日の若狭湾の気象状況からすると、当日の最高風速を超える日数が昨年1年間で182日間あったことが判明し、まさに年間半数近い日において船舶による避難ができない可能性が指摘されている。

 2 あやべ球場における訓練の実態

あやべ球場では福井県(高浜町、おおい町)から避難してきた住民のスクリーニングポイントとしての訓練が行われた。高浜町、おおい町からの避難車両と避難住民のスクリーニングと除染が実施された。福井県が中心となって、県外での広域避難訓練として行われた。

高浜町、おおい町からの避難車両は、車両用ゲート型モニタを通過後、放射線測定器でワイパー部の測定検査が実施された。この測定検査には九州電力や四国電力など各電力会社の社員があたっていたが、いずれも防護服等は着用していなかった。

車両の除染には、車両除染用の大型テント(株式会社千代田テクノル製)が利用された。圧縮空気を用いて短時間で設営でき、後述する丹波自然運動公園において問題となった除染後の汚染水も地面に垂れ流すことなく専用の容器に回収できるというものであった。しかしながら、かかる大型テントは、本件訓練のためにデモンストレーション用として貸し出されたものであり、本件訓練時点では、いまだ商品として販売されていない状態であった。除染作業は陸上自衛隊第3特殊武器防護隊(伊丹駐屯地)の自衛隊員5名が担当した。いずれも防護服を着用しての作業であった。

あやべ球場では、住民のスクリーニングも行われたが、スクリーニングや除染を担当する職員は防護服を着用しているとの想定のみで、実際には着用しておらず、スクリーニングを待つ住民は、屋外テント内に並べたイスに密集して座った状態で待機させられた。訓練の想定としては、24時間の屋内退避を行ったあとの広域避難であり、当該24時間での被ばく量や放射性物質の付着状況は避難住民ごとに異なることが想定されるが、避難住民間での被ばくの拡大が懸念される訓練状況であった。また、避難住民の除染のための専用シャワーテントが設置されていたが、訓練で利用されることはなく展示されていただけであった。

 3 丹波自然運動公園における訓練の実態

丹波自然運動公園では、京都府内(舞鶴市、宮津市、綾部市、福知山市、京丹波町)から避難してきた住民のスクリーニングポイントとしての訓練が行われた。京都府が中心となって避難車両と避難住民のスクリーニングと除染が実施された。

丹波自然運動公園でも、避難車両は車両用ゲート型モニタによるスクリーニングが行われ、避難車両の除染作業が行われた。しかしながら、あやべ球場のような車両除染用の大型テントが用いられないばかりか、除染場所にはビニールシートなども敷かれておらず、除染により発生した汚染水はそのまま地面に垂れ流されている状態であった。

避難住民のスクリーニング及び除染については、熱中症を考慮したとのことであるが、会場を体育館から宿泊棟に変更したとのことで、実際に行われる動線の確認の訓練とはならなかった。丹波自然運動公園のスクリーニング会場では、あやべ球場にはなかったゲート型の体表面汚染モニタがあり、住民の除染作業にあたる職員は大半が防護服を着用していた。しかし、その一方で、除染用のシャワーについては、専用のものは用意されず、自衛隊が用いている簡易なシャワーテントが設置されているだけであった。特段の仕切りもなく中が丸見えの状態で、およそ脱衣をしてシャワーを浴びるような施設とは言えない状況であった。

 4 ヨウ素剤配布訓練の実態

本件訓練においては、UPZ圏内の避難訓練参加者に対してヨウ素剤配布の訓練が行われた。

そのうち、舞鶴市の大浦小学校(舞鶴市大浦地区、参加予定150名)では、事前に配布されていた問診票つきの避難カードを受付に提出し、乾パンの配布を受けた後、舞鶴市職員(本件訓練では4名)による簡易問診を経て安定ヨウ素剤に模したあめ玉が配布された。簡易問診の内容は「うがい薬などヨード過敏があるか否か」、「造影剤でアレルギーを起こしたことがあるか否か」、「配布を希望するか否か」の3つの質問がなされた。これらの質問に対して「わからない」という返答であった場合にも配布することとされていた。おおよその1人あたりの所要時間は、受付に約20秒、(模擬)ヨウ素剤の配布に約1分20秒であった。なお、大浦小学校での訓練において防護服を着用していたのは舞鶴市の消防士数名だけであり、その他の職員や消防士、消防団などは防護服を着用していなかった。

 5 屋内退避訓練の実態

本件訓練においては、UPZ圏内住民約5800名が屋内退避訓練を行ったとされている。

しかしながら、舞鶴市で行われた屋内退避訓練を見てみると、舞鶴市は午前9時の時点で舞鶴市防災情報第1報を発表しているが、実際には、屋内退避の対象となるB~Fゾーン(舞鶴市避難計画5頁、UPZ圏内)の地域に該当する消防団あてのメールでもって、「高浜原子力発電所で事故が発生」「次の通り指示します」「自宅のドアを閉め、換気扇を止めて外気を遮断し、屋内に退避して下さい。また避難の準備をお願いします。」との通知がなされ、当該地域の消防団員が地域の見回りにあたったにすぎない。

さらには、午前10時(想定としては24時間経過後)の時点で、舞鶴市防災情報第2報を発表し、継続して屋内退避の対象となるC~Fゾーンの地域に該当する消防団あてのメールでもって、「引き続き自宅のドアを閉め、換気扇を止めて外気を遮断し、屋内に退避して下さい。また避難の準備をお願いします。」との通知がなされ、当該地域の消防団員が地域の見回りにあたったにすぎない。

すなわち、住民約5800名が参加したとされる屋内退避訓練は、実際に住民が屋内退避を行ったか否か、実際に屋内退避訓練を行った住民がどれだけいたのか、全く確認はされないまま訓練を「実施」したとされているのが実態である。

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