◆原告第27準備書面
第3 高浜原発広域避難訓練を通じて明らかになった問題点

原告第27準備書面
―高浜原発広域避難訓練から明らかになった問題点― 目次

第3 高浜原発広域避難訓練を通じて明らかになった問題点

 1 「住民」のための訓練ではなかった

上述したとおり、本件訓練は、防災業務従事者約2030名、住民約7000名が参加した訓練である旨広報がなされている。しかし、その実態は、住民約7000名のうちの大半を占める約5800名が参加したとされる屋内退避訓練は、どれだけの住民が参加したのか、実際に屋内退避訓練を行ったのか否か、確認されているのか全く不明であるというほかない。

また、住民約1200名が参加したとされる避難訓練も、本来の住民人口からすればごくわずかにすぎない。市のほぼ全域がPAZ圏内もしくはUPZ圏内に入る舞鶴市で言えば、人口約8万3000名に対して避難訓練参加者は190名にすぎず、わずか0.2%程度の参加率である。しかも、本件訓練の参加者の選定は対象地域の自治会任せにされており、実際に参加したのは、町内会長や区長など、比較的行政施策に協力的な住民が中心であった。

屋内退避訓練にせよ避難訓練にせよ、実際に起こりうる住民避難を想定したものとは言えなかったことは明らかである。

 2 事故後24時間の部分を想定のみですませ実地訓練を行わなかった

  (1)事故後初動の訓練がなされなかった

緊急時モニタリングとそれに基づく避難計画の策定、スクリーニング場所の設置など、本来、事故後短時間の間に行われなければならないことが行われていない。とりわけ、政府は原発事故の際にSPEEDIを用いないこととしており、避難する方面の決定など避難計画の策定にあたっては、緊急時モニタリングの徹底が不可欠である。それにもかかわらず、緊急時モニタリングの結果を踏まえた避難計画の策定、避難実施の準備というもっとも重要な部分を行わなかった点については訓練としては明らかに手落ちであると言うほかない。

加えて、後述するとおり、地震や津波との複合災害が想定される中で、原子力災害のみならず、実際には、地震や津波による被災、避難の混乱の中で行われることとなる。

  (2)屋内退避訓練の問題点

上述したとおり、屋内退避訓練について、舞鶴市では、午前9時の段階で舞鶴市防災情報第1報、午前10時(24時間経過後を想定)の段階で舞鶴市防災情報第2報を発表したが、その実態は、屋内退避訓練対象地域の消防団あてメールに通知を送信し、当該地域の消防団員が地域を見回って呼びかけるというだけであった。

屋内退避訓練のみの参加者(住民参加者約7000名中約5800名とされる)については、実際にどれだけの住民が参加したのか、屋内退避訓練が実際に行われたのか否か、全く不明な状況である。

また、屋内退避を経ての避難訓練参加者(約1000名)についても、本来であれば24時間行われるはずの屋内退避を1時間行ったのみで避難に移行しており、実際の屋内退避を想定した訓練とはおよそいい難い訓練であった。

 3 地震発生との複合災害であることの想定があまりに不十分

本件訓練は、若狭湾沖を震源とする地震発生による高浜原発3号機の外部電源喪失が想定された訓練であった。すなわち地震との複合災害である。しかしながら、地震による建物の倒壊や半倒壊、それに伴う住民の公共施設への避難を想定した訓練を実施したのは、福井県高浜町の一地区(和田地区)のみであった。さらには、若狭湾沖を震源とする地震が発生した場合、津波の発生、津波警報や注意報の発令に伴う避難勧告、避難指示などが当然に想定されなければならない。
とりわけ、津波からの避難を想定した場合には、自宅内や平地にある公共施設ではなく、屋外であっても高台への避難が最優先されることとなる。

地震により自宅が倒壊ないしは半倒壊した住民の屋内退避は可能なのか。同じ地区内で自宅が倒壊した住民とそうでない住民が混在する場合の屋内退避はどうなるのか。津波からの避難を行いつつ屋内退避を行うことが可能なのか。本件訓練は、地震発生との複合災害を想定しているのであれば、当然に想定されなければならないことが想定されていないものと言わざるを得ない。

本件訓練は震度6の地震が発生したことが想定されている。高速道路などは震度5を超える地震が発生した場合、原則として通行止めとされることとなる。本件訓練においても当然のように高速道路が利用されたが、高速道路が当然に24時間で復旧するとの想定はあまりに楽観的と言わざるを得ない。また、一般道路についても同様に、地震による通行止めなども想定されなければならない。

 4 船舶避難の問題点

上述したとおり、舞鶴市成生地区(高浜原発から8キロメートル)の船舶による避難については、舞鶴市避難計画では海上保安庁の船舶による避難が計画されている。しかしながら、本件訓練では、関西電力が小浜市の観光船をチャーターして迎えに行く訓練が計画され、さらには、本件訓練当日は、天候状況により観光船が出せず、避難訓練を実施することができなかった。本件訓練に沿ったような、観光船による船舶避難を行うというのであれば、1年間の半分の日は船舶による避難が実施できないという現実に直面することとなった。

また、船舶による避難が可能な天候状況であったとしても、小浜市から舞鶴市まで、事故を起こし、大量の放射性物質が放出されているはずの大飯原発や高浜原発の外海を通って避難者を迎えに行くこととなる。このような、従業員を極めて危険な状態にさらすような業務を、民間の観光船運航会社が了解するのか、船舶に乗務する従業員に対して業務を命じることができるのか、問題点は極めて大きい。

 5 防災業務従事者の放射線被ばく防止対策の問題点

  1. あやべ球場で行われたスクリーニング及び除染の訓練においては、避難車両の除染作業にあたった自衛隊員については防護服を着用していたが、スクリーニングや避難住民の除染作業にあたった自治体職員や消防士らは防護服を着用していなかった。丹波自然運動公園で行われた訓練では、スクリーニングや避難車両、避難住民の除染作業にあたった自衛隊員や自治体職員の多くは防護服着用を着用していたが、それでもすべての防災業務従事者が防護服を着用していたわけではなかった。このことは、各自治体に設置された避難場所での安定ヨウ素剤配布の訓練でも同様であった。また、本件訓練においては、福祉施設等からの要支援者の搬送の訓練なども行われたが、かかる訓練には消防士や福祉施設の職員があたっている。さらには、上述したとおり、舞鶴市の屋内退避訓練では、午前9時及び(想定では24時間後の)午前10時に、UPZ圏内の地域の消防団員らが地域をまわって屋内退避の呼びかけを行っている。このような、もっとも放射線被ばくの可能性のある者について、本件訓練においては、防護服などの装備を着用しないまま業務に当たることとなった。
  2. 労働安全衛生法及び同法施行令に基づき、電離放射線障害防止規則(昭和47年9月30日労働省令第41号)が定められ、同規則第7条ないし第7条の3において、緊急作業時等における労働者の被ばく限度量を定めるとともに、同規則第8条において、事業者に線量の測定を義務づけている。本件訓練においては、防災業務に従事した自治体職員や消防士、消防団員、福祉施設の職員の多くが放射線被ばく防止対策のないままに防災業務に従事することとなった。それら防災業務従事者に対して、実際の原発事故において、線量計測や放射線被ばく防止対策はきちんととられるのか、また、防護服や線量計などの装備を各自治体において十分に用意することが可能なのかどうか、本件訓練はその部分の大半を捨象したかたちで行われた。防災業務従事者の労働安全衛生の側面から見ても、問題点は極めて大きいものと言わなければならない。

 6 自治体間の差異や連携の困難性

本件訓練では、あやべ球場では福井県がスクリーニング及び除染作業を実施し、丹波自然運動公園では京都府がスクリーニング及び除染作業を実施した。上述したとおり、あやべ球場と丹波自然運動公園とでは、用いられた除染設備や除染用具に大いに違いがあった。また、上述したとおり、防災業務従事者に対する放射線被ばく防止対策が求められており、今後、防護服等の装備を充実させていくことは不可欠である。財政規模、予算規模はそれぞれの自治体ごとに全く異なり、そして、原発事故時の防災業務従事者数も自治体ごとに異なる中、すべての住民、すべての防災業務従事者の安全を確保することが困難であることが本件訓練を通じて明らかとなった。

また、原発事故時には、自治体を超えた広域避難が行われることとなるが、地震等の災害における混乱の中、自治体間で連携を取って避難場所を確保することの困難さも明らかとなった。本件訓練においても、本来、避難先として予定されていた場所が利用できず、避難先を変更せざるを得なかったという事態が生じている。

 7 実際の避難状況を想定しているとはいい難い訓練であった

丹波自然運動公園における避難車両の除染作業訓練においては除染後の汚染水が処理されず土壌に垂れ流されている状況であった。また、避難住民の除染作業訓練においても、シャワーは男女別とはされておらず、衣服の着脱に要するスペースや着替えた衣服の処理など、実際のスクリーニング及び除染作業が想定された訓練とはなっていなかったのが実態であった。

また、安定ヨウ素剤の配布についても、舞鶴市の大浦小学校では、避難者1名について受付に20秒、配布に1分20秒ほどの時間を要している。大浦小学校での訓練の参加予定者は150名に過ぎなかったが、舞鶴市避難計画によれば、大浦小学校を避難時終結場所とする市民は1500名以上にのぼる。地震や原発事故の混乱の中、これだけの人数に対して、整然と、かつ、漏れなく安定ヨウ素剤の配布が現実に可能なのか、その困難さが明らかとなった。

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