◆原告第29準備書面
第1 自然再生可能エネルギー利用で脱原発は可能であり、
危険な原発は子孫に残すべきでない

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第1 自然再生可能エネルギー利用で脱原発は可能であり、危険な原発は子孫に残すべきでない

以下の第1の主張は、主として、甲第301号証《和田武・木村啓二著 「拡大する世界の再生可能エネルギー」(2011年10月30日世界思想社)に依拠している。和田武氏は、日本環境学会会長、地球環境保全研究所主宰である。同著から引用する場合は、「甲第〇〇号証 〇〇頁  表〇一〇、図〇一〇」というように記載する。

 1 原発稼働ゼロの状態でも十分に電力は足りていたこと

福島原発事故の後、福島原発のみならず、定期検査等で、日本の全ての原発が停止していた期間が長期にわたったが、この間、多くの国民の節電努力もあり、原発稼働ゼロであっても、何ら「電力不足」が生じなかったことは、客観的事実である。

ましてや、本準備書面で明らかにしているような世界的な脱原発の流れに、日本も謙虚に学んで自然再生可能エネルギーの普及に国をあげて真剣に努力すれば、原発に依存しない日本を実現することは十分に可能である。

 2 原発の根本的な問題

原発のかかえる本質的な危険性と問題点については、既に訴状や原告準備書面で述べたとおりであるが、再度、要点を確認する。

  1.  万一の事故の場合の被害の甚大性は、チェルノブイリ事故や福島原発事故で、十分に実証されている。福島原発事故については、未だに事故原因の解明すら十分にできておらず、事故をおこした原子炉の内部調査すらできていない状態である。いつ安全に廃炉処理できるか目途すら立たない状況である。
  2.  原子炉本体だけでなく、各地の原子炉に併設されている「使用済み核燃料プール」が、大地震や津波に対して、極めて脆弱であることが、指摘されている。
  3.  また、万一、重大事故が発生した場合、広範な近隣住民が、速やかに且つ安全に避難することが事実上不可能であることは、原告準備書面等で主張し、多くの原告が弁論で意見陳述したとおりである。
  4.  使用済核燃料の処分問題の解決については、日本は勿論、世界的にも見通しが立っていないことは周知のとおりである。
  5.  こうした多くの問題をかかえる原発は、人類と共存できず、廃止するしかない。

 3 脱原発への世界的な流れの現状

  (1)再生可能エネルギーの設備容量の増加、原子力発電・石炭火力の設備容量の減少

新設発電所、廃棄発電所の調査結果に基づいて算出した発電設備容量の「増減設備容量」《増減設備容量=(新設発電所の設備容量一廃棄発電所の設備容量)》は、甲第301号証23頁図2-2[図省略]が示すように、風力発電、天然ガス火力発電、太陽光発電の設備容量が大きく増加しているのに対して、原子力発電及び石炭火力発電の設備容量は、逆にマイナスになっている。

  (2)アジア

アジアの脱原発の状況は第3で詳述する。日本が原発輸出の交渉を進めていたベトナムは、福島事故を踏まえ、脱原発に踏み切った。日本はトルコに対しても原発輸出を計画しているが、現実には採算性の問題も出てきており進捗していない。また台湾等も政権交代後、脱原発を決断した。

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 4 拡大する世界の再生可能エネルギー

  (1)自然再生可能エネルギーと、原発・石炭火力等の再生不能エネルギーとの特徴の対比

以下の通りである。

自然再生可能エネルギー 再生不能エネルギー
(1) 資源の種類
・太陽光・太陽熱、風力、水力、バイオマス、地熱、海洋エネルギー等があり、太陽光・熱をはじめとして地球上に暮らす人類にとっては無尽蔵ともいえる資源である。
(1) 資源の種類
・化石資源(石炭、石油、天然ガス等)、ウラン
(2) 資源の枯渇性の有無
・ 自然が常に再生し、自然環境保護につとめれば、ほぼ無限に存在するので、利用しても枯渇しない。
(2) 資源の枯渇性
・自然による再生はないか、あっても極めて遅いので資源量は有限であり、いいずれ枯渇する。
(3) 資源の存在形態
・どこにでも、広く分散的に存在するので利用しやすい。
(3) 資源の存在形態
・偏在しており、特定場所に集中的に存在する。
(4) エネルギーの生産方法
・ドイツ等で既に実現しているように、あらゆる地域での小規模分散型生産が可能。
(4) エネルギーの生産方法
・特定の場所での大規模集中型生産
(5) 生産手段の所有形態
・住民、自治体などの地域主体の所有に適する。ドイツの例について後述するとおりである。
(5) 生産手段の所有形態
・大企業、国などの所有に適している。
(6) 生産が及ぼす環境への影響
・地域的で小規模
・大規模水力の場合は、地域環境破壊もあり。
・大型風力発電の場合、騒音・低周波・バードストライキング等。但し、原告第13準備書面「第7、二」で紹介しているように、九州大学の大屋教授等が開発した「風レンズ風車」は、こうした欠陥は基本的に克服されており、逆に、海上に設置した「六角形の浮きの下に漁礁をつくり漁業資源の育成に頁献する研究もなされている。
(6) 生産が及ぼす環境への影響
・化石資源による大気汚染、酸性雨、地球温暖化。
・原発による放射能汚染、過酷事故が発生すれば破滅的被害。
・いずれの場合も、影響は広範囲で大規模。

  (2)世界的には、再生可能エネルギーが大きく伸長していること

一次エネルギー中の再生可能エネルギーの占める割合について、1990年と2009年との対比で、主要10カ国及びOECD加盟国の中で日本以外は全て再生可能エネルギーの比率を伸ばしている。とりわけイギリスは6.31倍、ドイツが6倍、デンマークが2.87倍、イタリアが2.10倍と大きく伸ばしている。(甲第301号証の18頁 表2-1)

これに対して日本は、同表[表省略]が示すように、再生可能エネルギーについて、0.93倍と逆に比率を下げている。

  (3)再生可能エネルギーの各分野の伸び率(甲第301号証21頁 表2-3)

再生可能エネルギーのうち、1990年と2008年の対比で、伸び率の大きい分野は次の通りである。

世界全体の伸び率 OECD加盟国
・太陽光発電   42.3%
・風力発電    25.1%
・バイオガス   15.4%
・液体バイオマス 12.1%
・太陽熱     10.1%
・地熱       3.1%
・太陽光発電   43.8%
・風力発電    23.6%
・バイオガス   12.8%
・液体バイオマス 58.0%
・太陽熱      5.5%
・地熱       0.8%

OECD加盟国は、世界全体の傾向と比較して、太陽光発電、風力発電、バイオガスが上位にある点は共通であるが、液体バイオマスの伸び率が非常に大きい。

  (4)太陽光発電設備容量の世界の動向

太陽光発電の累積設備容量と年間導入量の推移は、甲第301号証30頁図2-7の通りであり、やはり急速にひろがりつつあることが明らかである。

太陽光発電の上位9カ国及びルクセンブルクの、累積設備容量及び人口1人あたりの設備容量を比較したのが甲第301号証31頁 図2-8である。累積設備容量でも、人口当たりでも、ドイツが圧倒的に1位である。累積設備容量では日本は3位であるが、人口比ではルクセンブルク・チェコ・ベルギーよりもずっと低い。

2008年度における、太陽光発電の既存設備容量でも、2008年度における年間導入量でも、中国が圧倒的割合を占めている(甲第301号証36頁図2-11)(但し、中国は人口が大きいので人口比では、順位は下位である。)

  (5)風力発電設備容量の世界の動向

風力発電の年間導入量と「累積設備容量」の動きは、甲第301号証24頁図2-3が示すとおりである。

主要国の国別の対比で比較すると甲第301号証25頁 図2-4のとおりである。累積設備容量では、アメリカ・中国・ドイツ・スペイン・インド等が大きい。

その国の人口比で比較すると、デンマーク、スペイン、ポルトガル、オランダ、カナダ等が圧倒的に高い。

これに対して日本は、累積設備容量でも人口比でも最低レベルである。
ヨーロッパでは、海上風力発電の導入が、デンマーク、イギリスを中心に大きく伸びている。建設中、認可済も含めるとドイツの比率がヨーロッパ主要国の42%も占めている(甲第301号証28頁 表2-4)。

  (6)ドイツと日本の対比

甲第301号証78頁の表4-1によれば、温室効果ガスの排出量が、ドイツはマイナス23.3%と大幅なマイナスとなっているのに対して、日本はプラス6.4%にもなっている。

再生可能エネルギーに対するドイツにおける取組は次のとおりである(甲第301号証75頁)。

再生可能エネルギーに関しては、長年、ドイツは風力発電の設備容量で世界1を誇ってきた。アメリカのオバマ大統領の誕生の可能性が高まるなかで、2008年には国土の広いアメリカに追い越されて2位に後退したが、太陽光発電では2005年に日本を抜きさって断然トップに躍り出た後、その地位を維持している。その他の再生可能エネルギー発電についても、急速に設備容量を増加させている。その伸び率の高さがドイツの特徴である。

また、このような再生可能エネルギーの普及において、市民、地域住民が積極的に参加、関与し、重要な役割をはたしているのが、デンマークとともにドイツの大きな特徴である。そのことが再生可能エネルギー普及を促進すると同時に、多くの社会的メリットをもたらしている。1億トン以上ものCO2排出回避、関連産業の発展や雇用の拡大、農村地域の活性化、国際貢献などである。こういう変化こそ、持続可能な社会を実現するステップであり、そういう観点からもドイツの再生可能エネルギー普及に注目を払う必要がある。

ドイツと日本を対比させた、太陽光発電の年間導入量と累積設備容量の推移は、甲第301号証84頁の図4-5のとおりである。ドイツは、日本を大きく引き離して伸びていることが明瞭である。

ドイツと日本を対比させた、風力発電の年間導入量と累積設備容量の推移の対比は、甲第301号証91頁の図4-6のとおりである。

風力発電でも、太陽光発電と同様に、ドイツは日本を大きく引き離して伸びている。

  (7)再生可能エネルギーへのデンマークの取り組み (甲第301号証45頁~)

デンマークは、兵庫県よりやや少ない人口540万人、国土面積は九州程度の4.3万平方kmの小国でありながら、再生可能エネルギー普及で積極的な役割を果たしてきた。風力発電を世界で最初に開発・導入し、風力発電の割合や人口当たりの割合は世界最高である。また世界1の普及率の地域暖房を発達させ、そのエネルギー源としてのバイオマス利用が進んでいる。

デンマークの「エネルギー21計画」の2030年までのエネルギーシナリオ(甲第301号証69頁 図3-7)では、石炭が急減し、石油も当初に比し大きく減少し、再生可能エネルギーと天然ガスが増大している。

デンマークは「地下資源小国」とされているもとで、再生可能エネルギー拡大への積極的な努力は、日本が学ぶ点が大きいといえる。

  (8)「国際再生可能エネルギー機関」の誕生(甲第301号証173頁~176頁)

「国際再生可能エネルギー機関」は、ドイツ・スペイン・デンマーク呼びかけで発足した。

2009年1月設立時点で、75カ国が参加。2011年5月時点で、148カ国とEU(アジア38カ国、欧州38カ国、アフリカ48カ国、米州17カ国、大洋州10カ国)が参加し、開発途上国を含む多くの国・地域にまたがっている。

「国際エネルギー機関(IEA)」の加盟国が原発保有国中心の28カ国先進国だけであるのと対照的である。

  (9)自然再生エネルギー普及で世界の流れから立ち遅れる日本

日本は本来、自然環境に恵まれており、太陽光発電、風力発電、中小水力発電、地熱発電等について大きな潜在的可能性を有していることは、環境省の報告「平成22年度 再生エネルギー導入ポテンシャル調査・概要」によっても明らかであることは、2015年5月27目付け原告第13準備書面18頁の「第6」で既に主張した通りである。

風力発電については、原告第13準備書面19頁「第7 二」で指摘したように、北欧型大型風車と全く異なる「風レンズ風車」が既に開発されており、四方を海に囲まれた日本には極めて大きな可能性を秘めており、既に世界から注目されているにも関わらず、日本政府は冷遇し続けている。地熱についても、EU諸国より日本は恵まれている。

実は、日本は2004年までは太陽光発電で世界1位であった(甲第 号証83頁「2、太陽光発電の爆発的普及」参照)。しかるに、上記のように日本は、1990年と2009年との対比で0.93と逆に再生可能エネルギーの比率を下げているのである。

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 5 再生可能エネルギーによる発電の技術的問題は急速に克服されつつあること

  (1)はじめに

再生可能エネルギーの技術的問題点としては、(1)急激な出力変動に対する 周波数調整力の不足,(2)ベース供給力と再生可能エネルギーの合計発電量が需要を上回ることによる余剰電力の発生・電力供給の不安定性,(3)家庭等の太陽光発電から系統側への電気の流入が増加することによる系統電圧の上昇,(4)電力需要がすくないエリアでの系統接続の増加による送電容量の不足等が指摘されている。

  (2)「(1)急激な出力変動に対する周波数調整力の不足」の問題点への対応について

再生可能エネルギーが大量導入された場合,需要変動に加え,供給側も気象条件により大きく変動することになるが,この変動分の調整を火力・水力発電で行うということができる。

また,大量導入時には,瞬時の調整力に加え,再生可能エネルギーが天候等により発電しない場合に備えたバックアップ用の電源として,蓄電池を利用することが可能である。蓄電池については,さまざまな地域で、蓄電器を利用し、蓄電器の充放電によって平滑化することにより電力系統安定化対策が図られている。

以下、詳述する。

ア 宮古島メガソーラー実証研究では、大量の太陽光発電を導入した場合の電力系統安定化対策の有効性並びに太陽光発電と蓄電池を組み合わせることで安定電源として活用し離島におけるディーゼル発電機の発電量を低減できることが確認されている(甲302)。

イ 東北電力の南相馬変電所では,平成28年2月26日,大容量蓄電池システム(リチウムイオン電池,容量40,000kWh)の営業運転が開始されている(甲303)。

ウ 九州電力は,平成28年3月3日,大容量の蓄電池システムを備えた豊前蓄電池変電所の運用を開始している(甲304)。

エ すでに東北電力の西仙台変電所では平成27年2月20日から大容量の蓄電池が稼働しており、蓄電池の充放電を再生可能エネルギーの出力変動に対する調整に活用している(甲305)。

オ 蓄電池については、近年技術革新が進んでいる。「レドックスフロー電池」については,電解液を、酸化した状態のものと、還元した状態のもので、別々のタンクに蓄えて、充電時には還元し、放電時には酸化するという原理で、基本的には何年でも電気をロスすることなく蓄電することができるものであり,1970年代にNASAが基本原理を発表して以来,国内外を問わず開発が進められている。住友電気工業株式会社は,平成24年7月から,横浜製作所においてレドックスフロー電池と集光型太陽光発電装置などから構成される「メガワット級規模蓄発電システム」の実証運転を開始している(甲306)。また,同社及び北海道電力は,経済産業省の平成24年度大型蓄電池システム緊急実証事業において,平成27年12月25日,南早来変電所に建設していた大型蓄電池システムの実証試験を開始している(甲307)。

  (3)「(2)ベース供給力と再生可能エネルギーの合計発電量が需要を上回ることによる余剰電力の発生・電力供給の不安定性」の問題点への対応

ア まず、昼間帯の余剰電力を用いて揚水をし、その他の時間帯で発電することで揚水発電を活用することにより対応できる。

イ 次に、取引所取引により、余力のある地域へ余剰分を送電することにより対応できる。送電網について、再生可能エネルギーの発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで、日本全体で電力の変動を吸収するという取り組みも行われている。

ウ さらに、自然変動電源(太陽光・風力)の出力を抑制する等により、対応可能である。

エ 最後に、蓄電池を利用することにより、余剰電力は蓄電可能である。

  (4)「(3)家庭等の太陽光発電から系統側への電気の流入が増加することによる系統電圧の上昇」の問題点への対応

家庭などの太陽光発電の拡大に伴い,系統側への電力の流入が増加した場合には配電系統の電圧が上昇し,一般的に太陽光発電システムでは,系統の電圧が適正範囲を超えると発電を停止する。発電を停止することなく,電圧上昇を抑制するため,電圧調整装置の設置,柱上変圧器の増設等により対応可能である。

  (5)「(4)電力需要がすくないエリアでの系統接続の増加による送電容量の不足」の問題点への対応

送電網について,再生可能エネルギーの発電設備が多い北海道や九州などと、大消費地の首都圏や関西を結ぶ送電容量を増やすことで日本全体で電力の変動を吸収するという取り組みも行われており,対応が図られている。

 6 再生可能エネルギーの急激なコスト低下

現在、発電効率の大幅な上昇と、製造コストの大幅な下落により、太陽光発電のコストは急激に下がっている。全世界規模でみても、原発の経済性を凌ぎつつある。原発の安全コストが高い先進国(特に原発事故を起こした日本)では、両社の差は歴然とするであろう。一方、原発の発電コストは世界的にどんどん上昇している(甲308)。原発に将来性がないことは、この一点からも明らかである。

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