◆原告第31準備書面
―被告関電の地震・津波の想定の問題点(概論)―

原告第31準備書面
―被告関電の地震・津波の想定の問題点(概論)―

2017年(平成29年)2月10日

原告第31準備書面[187 KB]

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では木津川市における避難計画の問題点についての主張を行う。

 1 想定地震の地震モーメントの不整合

被告関電は、想定地震であるFO-A、FO-B、熊川断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)について、被告関電準備書面(2)[12 MB]ではMo=1.79×10*20(N・m)と主張し(14ページにある図表5)、被告関電「大飯原発の基準地震動について」(丙28号証[10 MB])ではMo=5.03×10*19(N・m)と主張している(42ページの「FO-A、FO-B、熊川断層の断層パラメータ(基本ケース)」)。

被告関電準備書面(2)[12 MB]では、津波の高さの算定に広く用いられている武村の式を用いて地震モーメントが求められている。これに対して被告関電「大飯原発の基準地震動について」は基準地震動について論じたものであり、地震モーメントを求めるのに入倉―三宅の式が用いられている。なお、武村の式には、断層長さ(L)からMoを求める経験式((1)式)と断層面積(S)からMoを求める経験式((2)式)があるが、準備書面(2)[12 MB]では武村の(1)式を採用している。武村の(2)式を採用すれば、Moはもっと大きくなる。

同じ想定地震の地震モーメントを求めるのに、津波高の算定では武村の式、基準地震動の予測には大倉一三宅の式が使用されている。このこと自体が矛盾であり、算出された地震モーメントには、3倍以上の開きがある。矛盾する検討結果を平然と公にしている被告関電は、原子力規制委員会や地震調査推進本部・地震調査委員会の指針・指導には形式的に対応するだけで、その内容について、真に安全性の面から科学的な検討をしていないことを示している。

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 2 津波高さと遡上高さについて

被告関電準備書面(2)[12 MB]の12ページに、「ウ 敷地周辺の海域活断層については、阿部(1989)に示される津波を発生させる地震の規模と津波の伝播距離により津波高さを概算する簡易予測式を用いて発電所敷地に到達する推定津波高さを検討した」と書かれている。阿部の簡易予測式とは、Log Ht=Mw-logΔ-5.35、Log Hr=0.5Mw-3.10である。ここで、Htは津波の伝播距離Δ(km)付近での区間平均高、Hrは伝播距離Δに関係なく求められる震源域での津波高のことである。
上記準備書面(2)[12 MB]の14ページ、図表5のNo.9「FO-A~FO-B~熊川断層」の「推定津波高さHt or Hr」欄には4.17mと記載されている。この数値がHtであるか、Hrであるかを検証するために、簡易予測式に14ページの図表5に示されているMw=7.43、Δ=3.5kmの数値を入れると、Ht=34.35m、Hr=4.14mと求められた。つまり、図表5「推定津波高さHt or Hr」欄)に示されている「FO-A~FO-B~熊川断層」の4.17mという数値は、Htではなく、Hrであることが判明した。

阿部論文には、伝播距離Δが地震断層の長さ(L)より近いところでは簡易予測式を使ってHtを求めるのは無理であると書かれている。これが最初から分かっていたのに、想定地震(断層長さL=64km)による大飯原発(敷地から断層までの距離Δ=3.5km)の想定津波高さの算定に阿部の簡易予測式を用いたのは、被告関電の大きな欺瞞である。

多くの国民が知りたいのは、震源域における津波の高さ(Hr)ではなく、伝播距離Δ(3.5km)を経て大飯原発に到達する津波の高さ(Ht)であり、それは、阿部の簡易予測式から求めることはできない。大飯原発周辺の海底地形などのローカルな影響を綿密に検討する必要がある。それに加えて、敷地内の地形や建物の配置によって遡上高も場所ごとに大きく変化することも考慮しなければならない。被告関電は、このような津波が大飯原発の敷地内まで3km以上を伝播したとき、どのくらいの高さの津波遡上高が原発を襲うかという詳細な予測について、データ資料を添えて明らかにすべきである。

2011年東北地方太平洋沖地震の際に、震源域では最大5.5m強の海底隆起があり、福島第一原発から1.5km離れた沖合の波高計で津波第1波が約4m、第2波が7m強と観測されたものが、福島第一原発の敷地では遡上高が15.5mの津波となっている。つまり1.5km沖合の津波高さの2倍以上の遡上高さが原発敷地内で認められたのである。

阿部の簡易予測式に拠らずに、震源域での津波高さを以下のとおり導くことができる。武村の経験式のうち、(1)式を用いて得られたMoを使って求めた想定地震の水平変位は5.28m、(2)式を使って求めた値は7.15mとなる。この水平変位に、「日本海における大規模地震に関する調査検討会」の報告書に書かれているすべり角(35°)を採用し、Sin35°(=0.5736)を乗じて断層面の平均的上下変位を導くことができる。この値が3.0~4.1mとなる。さらに、上記報告書では、「防災上の観点から、各地で見積もられる津波高に1.5mを加えたものを『最大クラス』の津波とする」とされている。これを採用すると、想定地震の「最大クラス」の津波高さ(Hr)は4.5~5.6mとなる。

以上のことから、大飯原発の沖合3.5kmで想定される4.5~5.6mの津波高さ(Hr)が敷地近傍まで伝播したときの津波高さ(Ht)が知りたいところであり、遡上高さ10mを超える津波として大飯原発を襲う可能性を否定できないと解される。

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 3 地域特性について

被告関電は、地震動の想定に地域特性の把握が重要であるとして、「地震動に影響を与える特性である、(1)震源特性、(2)伝播特性、(3)地盤の増幅特性(サイト特性)が重要な考慮要素となる。」「特定の地点における地震動を想定するには地域性の考慮が不可欠」である(被告関電準備書面(3)[17 MB]17~18頁)と主張している。

そして、大飯原発の基準地震動も地域特性を考慮して策定したとして「最新の地震動評価手法(「震源特性」と地下構造による地震波の「伝播特性」及び「地盤の増幅特性(サイト特性)」を、地域性を踏まえて詳細に考慮する地震動評価手法)を用いて、検討用地震の地震動評価を行なっている(「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価)。さらに「震源を特定せずに策定する地震動」も評価した上で、本件発電所の基準地震動Ss-1~Ss-19を策定している。したがって、本件発電所敷地に基準地震動を越える地震動が到来することはまず考えられないところである。」(同上[17 MB]159頁)と主張している。

これに対して原告らは、基準地震動を超える地震の発生する危険性があると批判している。過去に各地の原発で基準地震動を越える地震が繰り返し起きており、それは基準地震動が「平均像」に基づいて策定されているからだと指摘している。被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性が十分に把握できており、その地域特性に照らせば、基準地震動を越える地震発生の可能性を否定できると主張している。

このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張の柱に位置付けられている。

ところが、被告関電は、地域特性のうち、(1)震源特性と(2)伝播特性については、具体的な主張立証をしていない。(3)地盤の増幅特性(サイト特性))については、「大飯発電所の基準地震動について(平成27年1月)」(丙28[13 MB])を提出し、これに基づく主張がなされているが、基準地震動が小さくなる方向で地盤データが曲げて整理され、隠蔽され、あるいは地盤のモデル化がなされている。

次回期日には、地域特性に関するこれら被告関電の主張・立証に対して、全面的批判を行なう予定である。

以上

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