◆私たち原告の主張:ハイライト
 コスト的に成り立たない原発事業

大飯原発差止訴訟(京都地裁)原告第29準備書面の第2より。
(2017年2月13日第14回口頭弁論)

原子力発電のコスト・非経済性について

 1 はじめに

◆本書面では、原子力発電(以下、「原発」という。)のコストの高さについて主張する。(後記2)

◆あわせて、原発事業者が、原子力損害の賠償に関する法律(以下、「原子力賠償法」という。)により原子力損害について無過失の賠償責任を負担しているにもかかわらず、もはやその賠償能力がないことが明らかとなっており、その事業リスクの高さ、非経済性から、原発事業自体がいかなる経済体制・社会体制・法制のもとにおいても成り立ち得ないことを主張する。(後記3)

 2 原発のコストの高さについて

  (1)被告関西電力の説明(同社ホームページより)

◆「2014年時点での、国の試算による発電コストは、太陽光発電が1kWhあたり約30円、石油を使った火力発電が約30円以上と高い傾向にあります。天然ガスを使った火力発電は13.7円程度、石炭を使った火力発電は12.3円程度です。原子力の発電コストは、10.1円程度と他の発電方法と比較しても遜色ない水準です。また、原子力発電は化石燃料に比べて発電コストに占める燃料費の割合が小さいため、燃料価格の変動による影響を受けにくいという特徴があります。」等と説明されている。

 (2)被告関西電力の説明の欺瞞性

  ア 立命館大学国際環境学部大島堅一教授(環境経済学)の分析

◆同教授は、ヤフーニュース2016(平成28)年12月9日(金)13時8分配信の「原発は高かった~実績でみた原発のコスト~」という記事(甲309号証)の中で、最新の原発のコストに関する分析内容を記述している。

  (ア)分析内容の抜粋

◆経産省が2016年12月9日に示したところによると、福島原発事故のコストが21.5兆円になるという。すさまじい金額だ。さらに、それを国民負担にするという案を経産省は提示している。 にもかかわらず、世耕・経産大臣は、原発は安いとの発言を2016年12月7日におこなっている(テレビ朝日の報道による)。原発のコストは安いのか高いのか。一体どのように理解したら良いのだろうか。

◆原発のコスト計算の方法には、1)実績コストを把握する方法と 2)モデルプラントで計算する方法の2つがある。2)の方法で計算した値は、政府のコスト検証ワーキンググループが2015年に試算したものが最新だ。ここでは、原発のコストを10.1円/kW時としている。おそらく世耕大臣は、この計算結果を言っているのだろうと思われる。政府の計算には、いくつもの前提があって問題点もあるが、長くなるのでここでは詳しくは述べない。さしあたってこの計算方法の特徴を一言でいえば、想定や計算式で数値は変わってくる。

◆これに対して、実績コストは、想定も何もないので誰が計算しても同じになる。過去の原発のパフォーマンスを知るのに最適だ。では、原発の実績コストはどれくらいなのだろうか。まず、発電コスト。これは、電気料金の原価をみれば把握することができる。データは、電力各社の有価証券報告書にある。また計算方法は、電気料金を算定する際にもちいる省令に書いてある。この2つをもちいて計算する方法は、室田武・同志社大学名誉教授が開発した。計算すると、8.5円になる。次に、政策コスト。原発には、研究開発費や原発交付金といったものに国費が投入されている。つまり国民の税金だ。財政資料を丹念にひろうとこの費用も計算できる。これは1.7円。最後に、事故コスト。これは経産省により21.5兆円という数値がでた。そこで、これまでの原発の発電量で割って単価を計算すると、2.9円となる。つまり、原発のコスト=発電コスト+政策コスト+事故コストで、13.1円(kW時当たり)となる。

◆原発以外の電源も計算すると、火力は、発電コスト9.9円、政策コスト0.0円(値が小さいので四捨五入するとこうなる)で合計9.9円。一般水力は、発電コスト3.86円、政策コスト0.05円で合計3.91(ほぼ3.9)円だ。これらのコストも原発のコストと同じように計算できる。

◆以上をまとめると、原発(13.1円)>火力(9.9円)>水力(3.9円)。つまり、過去の実績(1970-2010年度)でみると、原発は安い、どころか、原発は最も経済性がない電源だったと言える。

  (イ)分析内容に基づく原告の主張

◆被告関西電力は、大島堅一教授が引用するところのモデルプラントで計算する方法により、「火力発電等のコストより原発のコストの方が安い」という結論を導いている。しかし、かかる結論は、大島堅一教授が指摘されているように、人為的な想定や計算式の用い方等によって異なりうるものであり妥当な比較検討結果とはいえない。大島教授が指摘するとおり、客観的な比較検討を可能にする実績コストを把握する方法により比較検討がなされるべきである。それによると、上記のとおり、原発は火力や水力よりも高いという結果となる。

  イ 事故コスト(事故炉の賠償・廃炉にかかるコスト)、廃炉コストを踏まえた詳論

  (ア)はじめに

◆大島堅一教授が上記のように指摘する原発の事故コストについて、及び、その余の原発の廃炉コストについて、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会と電力システム改革貫徹のための政策小委員会とは、それらのコスト問題をも踏まえて取りまとめた「電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ(案)」(甲310号証)(以下「中間とりまとめ」という。)を了承したと報道されている。
この中間とりまとめによれば、

A.東京電力福島第1原発の廃炉費用
B.同賠償費用、
C.同原発以外の原発の廃炉費用

の負担に関する方針がまとめられている。

  (イ)中間取りまとめの詳細

   A.東京電力福島第1原発の廃炉費用について

◆中間とりまとめのP.20の「3.3.福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方」の「(2)送配電事業の合理化分の充当」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

◆「総括原価方式の料金規制下にある東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下、「東電PG」という。)においては、例えば、託送収支の超過利潤が一定の水準に達した場合、電気事業法の規定に基づき託送料金の値下げを求められることがあり、合理化努力による利益を自由に廃炉資金に充てることはできない。したがって、東電PGにおける経営合理化分を確実に1F(※注釈一福島第一原子力発電所一号機のこと。)廃炉に充てられるようにするため、託送収支の事後評価を例外に設けるべきである。具体的には、毎年度行われる託送収支の事後評価において、東電PGの合理化分のうち、東電PGが親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う1F廃炉費用相当分について、(a)超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにする制度的措置、・・・・が適当と考えられる。」
これは、即ち、東京電力福島第1原発の廃炉費用は東京電力の送配電事業における利益を、電気料金の値下げの実施という形で利用者・消費者に還元することとせず、この利益でもって賄う方針をとるということである。これにより、東電管内の電気料金が高止まりする可能性が惹起され、一種の国民負担が生まれることとなる。

   B.東京電力福島第1原発の賠償費用について

◆中間とりまとめのP.17の「3.2.原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

◆福島第一原発事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた原子力損害賠償法に加えて新たに原賠機構法が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原賠機構に納付している。しかし、原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、福島第一原発事故以前から確保されておくべきであったといえる。受益者間の公平性等の観点から、福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備え(以下、「過去分」という。)は、本来であれば、福島第一原発事故前の電気の需要家から電気料金の一部として回収されるべきものであり、・・・

(後、略)

(前略)・・・福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備えを今後とも小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は費用を負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全ての費用を負担していくこととなる。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、過去分についてのみ、全ての需要家で公平に負担することが適当・・・(後、略)

(3)全ての需要家から公平に回収する過去分の額 現在、原子力事業者が毎年納付している一般負担金は、経過的に措置されている小売規制料金により回収されていることから、全ての需要家からの過去分の公平な回収は、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則撤廃される 2020年に開始することが妥当であると考えられる。・・・(中略)・・・全ての需要家から公平に回収する過去分の算定に当たっては、2011年から2019年までに納付される一般負担金を全需要家から回収する過去分と同様のものと扱い、過去分の総額から控除する。2019年度末までに原子力事業者が納付することが想定される一般負担金は、今後の負担金が2015年度と同条件で設定されると仮定すれば約1.3兆円であり、これを過去分総額から控除すると、約2.4兆円となる。

(4)過去分の回収方法  (前、略)・・・過去分を国民全体で   負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める仕組みとすることが適当と考えられる。約2.4兆円の過去分を託送料金の仕組みを利用して全需要家から回収する場合、・・・回収期間を40年(年間回収額600億円)とするのが妥当と考えられる。

◆これらは、即ち、東京電力福島第1原発の賠償費用の内、過去分2.4兆円について、本来、事故前から備えておくべきだったものという説明で今後40年間に渡って大手電力会社が所有する送電網の使用料(託送料金)に上乗せして賄うということを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が当該費用を負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

   C.東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用について

◆中間とりまとめのP.21の「3.4.廃炉に関する会計制度の扱い」の部分がこの点について記載部分である。その抜粋は以下のとおりである。

(前、略)・・・、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキング・グループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、『着実な費用回収を担保する仕組み』として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の料金(託送料金)の仕組みを利用することとされている。

(前、略)・・・着実な費用回収の仕組みについては、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則2020年に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当である。

◆これは、即ち、託送料金システムを利用して東京電力福島第1原発以外の原発の廃炉費用を賄うことを方針とするということである。これにより、原発をもたない新電力会社を含めて使用業者が負担し、ひいてはその利用者に転嫁され、ここにも一種の国民負担が生まれることになるのである。

  (ウ)中間取りまとめの結果を受けての主張

◆この中間とりまとめについては、それ自体に、原発を忌避して発電事業を始めた新電力事業者やかかる事業者の電気を使用したいと考える市民に原発の費用を負担させるという問題点がある。この一点からしても、原発に経済的合理性がないことは明らかである。

◆それを超えて、この中間とりまとめから明らかとなった点は、事故コストや廃炉コストは、もはや民間事業体である原発事業者がその資産・収入だけでは賄えず、国民負担のもとでなければ賄えないという点である。

◆地震国日本で、被告関西電力の原発が福島第一原発と同様の事故を起こせば、東電福島第一原発と同程度の廃炉コスト・賠償コスト(21.5兆円)が発生することになる(ちなみに、我が国の2016年度における一般会計予算は96.7兆円である。)。このコストは現状の推計に過ぎず、今後も拡大は不可避であろう。

◆被告関西電力という一企業の所有する原発が事故を起こした場合、その廃炉コスト・賠償コストは被告関西電力自身が負担するというのが個人責任の原則、及び後述するところの、原子力賠償法の無過失責任原則の帰結である。東京電力福島第一原発事故が現実に発生するという経験をした現時点においては、被告関西電力は、当該コストを全て備蓄しておくべきであり、かかる備蓄分は原発コストである。

◆事故コストと廃炉コストを含めて原発コストが求められるべきことを前提とした上、その額が国民負担によらなければ賄えない額となることを併せ考えれば、原発のコストは他の電力に比べて極めて高くなることは自明の理である。

 3 原発事業自体がその非経済性故に成り立ち得ない事業であることについて

◆原発事業者は、原子力賠償法によって、原子力損害について無過失の賠償責任を負担することとされている。その立法趣旨は、原子力損害の甚大生に鑑み、原子力を利用して収益を上げる事業者に、民法の過失責任の原則を修正して特別に加重な責任を課し、原子力事業者に、相当因果関係を有する全損害を賠償させることにある。

◆それ以前の問題として、公害事件分野で確立された「原因者負担の原則」が原発災害に適用されることは言うまでも無く、ひとたび事故を起こせば、原発事業者は原因者として事故によって発生した結果の全責任を負担しなければならない。

◆しかるに、福島第一原発と同規模の原子力損害を一事業者が発生させた場合、数兆円に上る損害賠償費用が発生することが公知の事実となっているが、一事業者においてはそのような賠償を行うことができないことは、中間とりまとめが賠償費用についての国民負担を想定していることから明らかとなっている。

◆そうであれば、原発事業は、その事業リスクの高さから、経済的合理性を著しく欠き、責任を負える者がいないのだから、凡そ成り立ち得ない事業であることが明白となっているといわなければならない。

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