◆原告第35準備書面[3]
第2 丙28号証の地下構造の調査・評価について

原告第35準備書面
 ―被告主張の地域特性に根拠がないことについて― 目次

第2 丙28号証の地下構造の調査・評価について

 1 はじめに

丙28号証の「大飯発電所の基準地震動について」の第2項は「地下構造の調査・評価」とされており、被告関電は、ここで主に「(3)地盤の増幅特性(サイト特性)」を検討している。従って、「地下構造の調査・検討」の内容を順に検討する。

「2.1地下構造の調査」では、地下構造の調査方法として、PS検層、試掘坑弾性波探査、反射法・屈折法探査、微動アレイ、地震波干渉法の各方法があること、それぞれの調査でどの位の深さまで調査できるかが示されている。

地震動の振幅は、震動の伝わる速さ(すなわち、伝播速度)の速いところでは小さく顕われ、遅いところで大きく顕われる。従って、基準地震動策定に意味のある地下構造は、地層毎の震動の伝わる速さである。そこで、地下構造の調査では、伝播速度を明らかにすることが重要になる。

尚、地震動には、S波とP波がある。S波は進行方向に垂直に振動する波動であり、大きな揺れを起こす。P波は進行方向に平行に振動する波動であり、粗密波とも呼ばれる。

 2 PS検層

PS検層は、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置しておいて、人為的に震動を起こして(起震器)、受震器で震動を観測して、震動の伝わる時間から、深さ毎の伝播速度を測定する方法である。

PS検層の方法には以下のとおり、ダウンホール方式、坑内起震受震方式がある。大飯原発ができた頃には、ダウンホール方式が使われており、抗内起震受震方式は未だ使われていなかった。

「地盤の弾性波速度検層方法」(地盤工学会)等参照 【図省略】

被告関電は、PS検層の調査結果から「ほぼ均質な地盤と考えられる」「敷地の浅部構造に特異な構造は見られない」との結論を導き出している。

しかし、この評価は失当である。

甲357号証 11頁【図省略】

(1)丙28号証によれば、PS検層調査が行なわれたボーリング孔は、3号炉(No.158孔)と4号炉(No.157孔)の直下と(ダウンホール方式)、原子炉から南東に離れたO1-3孔と北西の海岸のO1-11孔だけである(坑内起震受震方式)。1号炉と2号炉直下では検層調査結果データが示されていない。

以下に述べるとおり、3号炉敷地は4号炉敷地よりもS波速度が小さく、南西から北東方向に向かってS波速度が小さくなっている。3号炉のさらに北東方向に、2号炉があり、1号炉がある。2号炉、1号炉敷地のS波速度は、3号炉敷地のS波速度よりさらに小さくなっている可能性がある。従って、1号炉、2号炉敷地のPS検層調査結果データは重要であり、その開示が強くもとめられる。

(2)被告関電は、PS検層調査データをまとめて「S波速度構造」を示し、上記評価を導いている。3号炉(No.158孔)と4号炉(No.157孔)直下のPS検層は、深度150mまで一様に2km/sを上回るデータが示されているが、古いダウンホール方式で実施されたPS検層では挟在している低速度層は測定できないから、低速度層の存在を否定する根拠にならない。
(3)被告関電は、敷地の速度構造は「ほぼ均質な地盤と考えられる」と主張しているが、O1-3孔とO1-11孔では、地表付近と深度100m前後付近に低速度層の存在が認められる。「ほぼ均質な地盤」とは言えない。

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 3 試掘坑弾性波探査

試掘坑弾性波探査とは、原子炉敷地に幾筋も掘られた横穴(試掘坑)内に、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破や起震器などで人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波に同じ)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。1本の坑道内では地震計は直線状に配置されている(測線と称する)。この測線上やその延長線上で震動を与える屈折法探査と、測線から離れた別の坑道内で震動を与えるファン・シューティングと呼ばれる探査方法があり、これらを組み合わせて岩盤の地震波伝播速度を推定する。

被告関電は、試掘坑弾性波探査調査結果から「解放基盤のS波速度を2.2km/sと評価した」旨主張している。

しかし、被告関電のこの評価は失当である。

(1)1号炉と2号炉の敷地では試掘坑弾性波探査調査は実施されていない。以下に述べるとおり、3号炉敷地は4号炉敷地よりもS波速度が小さく、南西から北東方向に向かってS波速度が小さくなっている。3号炉の北東方向に、2号炉があり、1号炉がある。2号炉、1号炉敷地のS波速度は、3号炉敷地のS波速度よりさらに小さくなっている可能性がある。従って、1号炉、2号炉敷地の試掘抗弾性波探査調査が実施されていないことは問題であり、3号炉及び4号炉敷地の試掘抗弾性波探査結果を評価する際には慎重でなければならない。

(2)S波速度

  1. 調査結果のS波データ68組(本坑【12】と枝坑【13】)の算術的平均値は2.141±0.335km/sであり、被告関電主張の2.2km/sは過大である。
  2. 調査結果のS波データ68組のうち、4号炉側(左側)は速度が速いデータが多く(2.239±0.273km/s)、3号炉側(右側)は速度の遅いデータが多い(2.017±0.369km/s)。68組のデータを並べると、単一の山ではなく、1.8km/sと2.3km/sの二つの山を形成しているのである。
    3号炉側データの算術平均は、被告関電主張の2.2km/sの約1割小さい被告関電はS波速度を2.2km/sと表示しているが、3号炉敷地のS波速度を2.2km/sと表示することは正しくない。丙28号証【12】【図省略】

    丙28号証【13】【図省略】

    甲357号証 9頁【2図とも省略】

  3. 地震動の振幅は、S波速度に加えて、基礎地盤の密度にも影響を受ける(振幅は、インピーダンス(密度×速度)に影響を受ける)。通常、地盤の密度は、S波速度が遅いほど、小さいから、振幅はさらに大きくなる。
  4. 不確定性の考慮
    被告関電は、S波速度を検討するに当たり、不確実性を考慮していない。1標準偏差の不確実性を考慮すれば、3号炉敷地のS波速度は(Vs)1.648km/s、振幅は1.33倍となる。
  5. 以上、被告関電は、基準地震動を少なくとも1~3割過小評価している。

(3)P波速度
被告関電は、P波速度について、特段の評価をコメントしないまま、「地下構造の調査・評価」のまとめ部分である「地盤速度構造(地盤モデル)の評価」で、地盤表層のP波速度を「4.6km/s」としている。S波速度と同じ問題がある。試掘孔弾性波探査結果の算術的平均は4.390km/s±0.669km/sであり、4.6km/sは過大である。さらに3号炉敷地のP波速度は4.218±0.814km/s、4号炉敷地は4.526±0.498km/sであって、3号炉敷地のP波速度が明瞭に小さい。

 4 反射法地震探査

反射法地震探査とは、探査測線上に密な間隔で多数の地震計を設置し、探査測線に沿って震源車が一定の間隔で起震して、地下の不均質構造(速度の異なる地層や断層など)によって反射してくる地震波(反射波)を測定して地下構造を探査する方法である(歴史的には、医療分野で広く用いられている超音波エコー検査は、石油探査のための反射法地震探査のデータ処理技術が応用されたもの)。

丙28号証【15】【図省略】

被告関電は「500m位まで反射面が確認され、その範囲内では特異な構造は認められない」と主張している。

丙28号証【17】【図省略】

(1)しかし、通例、深度断面に記載されるはずの速度値が記載されていない。
(2)「特異な構造は認められない」と記載されているが、震度断面図からは層境界の不連続部分が認められる。

甲357号証 10頁【図省略】

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 5 微動アレイ探査と地震波干渉法

地震が無くても地面は常に揺れている。微動アレイ探査は、この人が感じないくらい微小な揺れ「微動」を、高感度地震計を下記図のように並べて観測して、微動の伝播性状から地下構造(速度構造)を推定するものである。

重要なのはS波速度であるが、P波速度も求まる。対象周期範囲は、対象とする深さによるが丙28号証では0.5秒以上を対象にしている。

(株式会社日本地下探査HPから)【図省略】

丙28号証【20】【図省略】

地震波干渉法は、以下のような方法である。地表面は海の波浪などにより常に震動している(脈動と呼ばれる)。この震動を広い範囲に配置した多数の地震計で長期間(例えば数ヶ月間)計測し、異なる地点での記録に数学的な処理(相互相関)を施すことにより、地点間の震動の伝播様式を抽出する。丙28号証23頁の図によると、関電は若狭湾沿岸の音海半島と大島半島などに10点の観測点を設置し、約5ケ月間、周期1秒程度以上の長周期の脈動を観測し、これを表面波(地表面に沿って伝わる地震波)と解釈して伝播速度(位相速度)を求めたようである。

微動アレイ探査と地震波干渉法から周期毎の位相速度が明らかになる。

甲357号証 10頁 丙28号証 【24】 位相速度分散曲線 【図省略】

被告関電は、この位相速度を解析して(ハイブリッドヒューリスティック探索という解析方法)下記の速度構造を推定している。

丙28号証【27】【表省略】

丙28号証【26】【図省略】

(1)被告関電は、地下深くなるほどP波速度、S波速度が単調増加しているという前提で、位相速度を解析して、速度構造を推定している。

しかし、位相速度分散曲線には山谷があり(赤い矢印)、深くなるにつれて単調に増加しているわけではないことが予想される。

そしてハイブリッドヒューリスティック探索の手法は、そのような場合にも対応できる解析手法である。

そうであるのに、被告関電は、単調増加と決めつけて解析しており、低速度層の挟在が隠された可能性がある。恣意的に解析されたとの批判を免れない。

(2)被告関電は、上記解析で、第1層Vs=0.5km/sの次の第2層はいきなりVs=2.2km/sまでジャンプさせており、0.5~2.2km/sの速度層は存在しないと決めつけて解析している。しかし、反射法地震探査結果によれば「地下500m位まで反射面が確認され」たとされているのであって、伝播速度の異なる層が存在することが明らかになっている。被告関電解析結果は、この調査結果と矛盾している。

丙28号証 【17】【図省略】

(3)被告関電は、第2層のS波を2.2km/s、P波を4.6km/sとする。S波速度は試掘抗弾性波探査調査結果から設定されたものであるが、P波速度は示されていない。68組の観測データの算術平均は4.6km/sではなく、4.44±0.53km/sである。P波を4.6km/sとするのは過大かつ恣意的である。

(4)被告関電は、様々な調査結果を踏まえたとして、地下構造の結論としての上記の地盤モデルを示している。

  1. しかし、低速度帯の挟在が隠された可能性のあることは、既に指摘したとおりである。
  2. 被告関電は、この結論的な地盤モデルの表層をVs=2.2km/sとする。しかし、解析結果のモデルで、地表から80mまで存在するVs=0.5km/s、Vp=2.0km/sの層が、理由が示されないまま削除されている。
  3. そして被告関電は、地震動の策定を、Vs=0.5km/s、Vp=2.0km/sの層を割愛したこの地盤モデルを用いて行なっている。
  4. 被告関電の上記モデルによる理論分散曲線と、解析結果そのままのモデルによる理論分散曲線とを比較する。上記モデルによる理論分散曲線は、観測された位相速度(丙28号証24頁)とは周期1秒以下で差異が大きくなり、著しく異なった位相速度を示すことが理解できる。被告関電は、自ら調査して得た結果に適合しない地盤モデルで基準地震動を評価するという誤りをおかしている。

甲357号証 12頁【図省略】

 6 減衰定数

被告関電は、地盤特性に関して、速度構造について部分的な検討を行なっているものの、基準地震動評価に重要な減衰定数については全く説明がない。

被告関電は、敷地地盤の減衰特性を明確にすべきである。

 7 不確かさの扱いについて

以上、地盤特性(サイト特性)は立地条件への適合性を判断するために調査されるものであるが、技術上の諸問題があるため、不確かさのあることを免れない。従って、地盤構造モデルは単一のモデルで検討するのではなく、不確かさを考慮して、例えば1標準偏差の範囲でどのように結果が変わるか検討する必要がある。

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