◆原告で,聖護院門跡の宮城泰年・門主による意見陳述

大飯原子力発電所運転を差し止めることは、地球とそこに生きる私たち人間を含めてすべての生物の安全を守ることです。

宗教者として原子力と共存することは出来ないと考えておりますので発言の機会を頂きました。私は宮城泰年(みやぎたいねん)といい、修験者、すなわち山伏の一人、そして「本山修験宗」の総本山でもある聖護院門跡(しょうごいんもんぜき)の門主(もんしゅ)をしております。

裁判長さん、日本人は仏教渡来以前から、精神生活において山の神信仰を持っていました。山岳信仰といい、祖霊信仰ともいい、自然信仰とも言われます。今でも日常生活において朝日に手をあわせ、大木や岩窟、瀧などをご神体とする神社に頭をたれている日本人が多いことをご存知と思います。

修験者はその山岳自然を修行道場としております。植林地でない自然林には多様な植物が生い茂り、多様な動物昆虫もまた棲み分けをしながら共にいのちを循環させながら生きています。山の大地がそれらを育み、動植物の生死循環が大地を潤し、里の大切な水源をなしていることはご承知と思います。

草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)とか山川草木悉有佛性(さんせんそうもくしつうぶっしょう)と言う言葉に言い表されているように、みんな生きているんだ、だから尊いのだ。山伏は山岳道中斧入れずの法度を守り、地球の恩恵を大切にしているのです。

さて大飯原発三号機は24時間フル稼働すると一日稼働で広島原爆三発分の死の灰が作られると言います。すでにその放射能廃棄物は日本全国で積もりに積もって処置のしようがないものだから、直接処理とか地層処理とか言って地下数百メートルに埋没しよう。その候補地の選択に関係機関は動いています。

今後数百年、深いから安心安全だと言うのですが、私はそこに草木国土悉皆成仏の心を踏みにじる、今さえよければ良い、という無責任な政策を見ます。

かってユーラシア大陸にインド亜大陸がくっつき、出来た地球の皺があのヒマラヤ山脈です。この京都でさえ地殻が地表に出てきているのを私は大文字山登山口で確認しています。地殻変動によって将来この死の灰が地表近くに押し上げられ、あるいは地表に出ないとは考えられません。

地球は生きているのです。私たちの命も4億年前からその地球とともにあります。言葉を話す人間でさえも一八〇万年前から生きています。

10万年後には関西電力もなく、私の子孫の有無さえわからないでしょうけれど、命はあり続けましょう。その命に対して今の私たちが無責任な言動を取れましょうか。加害者にはなってはならないのです。

どうしようもないから、地球の奥深く閉じ込めなければならないようなものを生み出す原子力発電所の稼働と言うことは、以上のことから絶対認められないのです。