◆裁判官の交代に伴う弁論の更新,竹本修三・原告団長

第1 原告団長 竹本修三(固体地球物理学、測地学 京都大学名誉教授)

地震国ニッポンで、原発稼働は無理!

1. 昨年7月2日にこのテーマで意見陳述をさせていただきましたが、担当裁判官が代わられたということですので同じテーマでお話をさせていただきます。

2. 地震は地球上のどこでもまんべんなく起こるのではなく、細いベルト状の地域、いわゆるプレート境界で起こっています。日本は4つのプレートの会合地点にあり、世界でも最も地殻活動が活発な地域の1つです。マグニチュード4以上の地震をプロットすると日本の島影は見えなくなってしまいます。世界地図の約0.25%という狭い範囲の日本で世界の地震の約20%が起こっているのです。この日本に50基もの原発が存在するということは異常です。

3. 日本は、海側のプレートである太平洋プレートとフィリピン海プレート、それに陸側のプレートのユーラシアプレートと北米プレートがせめぎ合って歪が蓄積しています。ここで起こる地震として、まず、太平洋岸の海と陸のプレート境界で起こる海溝型地震があります。これは海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいって、陸側プレートもそれにつられて沈み込みますが、やがてついていけなくなって反発したときにマグニチュード8以上の巨大地震が起きます。2011年に起きたマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震は、まだ記憶に新しいですね。次の海溝型巨大地震は2030年代の終わり頃に西日本の南海トラフ沿いで起こると予測されています。一方、内陸部及び日本海側では、プレート間の押し合いで溜まる歪が破壊限界に達すると割れて断層型の地震が起こります。この内陸部の断層型地震の最大のものは、1891年(明治24年)の濃尾地震で、マグニチュードは8.0でした。このような地震の痕跡は活断層として地表に残される場合があります。

4. 国土地理院が行っている測地測量は、現在ではGPSを用いた宇宙測地技術が主流ですが、明治以来の三角測量や水準測量による地上測地測量のデータが蓄えられています。これを用いて過去111年間、すなわち1883年から1994年までの地殻歪変化を示したのがこの図です。近畿地方では、東西方向に年間10のマイナス7乗程度の割合で歪が蓄積されています。10のマイナス7乗とは、100kmの距離が1cm変化するということです。地殻を構成する岩石に蓄えられる歪の限界は、10のマイナス4乗ですから、年間10のマイナス7乗の割合で1000年押していくと10のマイナス4乗になります。つまり、歪が逃げなければ、早くて1000年に1度、同じ場所で断層型の地震が発生することになります。

5. この図は、京都府の福知山と滋賀県の彦根のほぼ東西に100km離れた2つの電子基準点の間の距離変化を示したものであり、近畿北部の歪変化の特徴をほぼ表しています。2点間の距離が短くなれば、縮みの変化ですから図の下向き、距離が長くなれば伸びの変化で上向きになります。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震までは、ずっと年間1cm弱の割合で縮んでいました。1cm は100kmの7桁目ですから、年間10のマイナス7乗に近い割合で歪が溜まっていました。この傾向は測量データのある100年以上の間、一定でした。ところが3年前の東北の地震で、縮んでいたものが、一瞬、逆方向に伸びました。3年以上経った今でも、まだ地震前の状態に戻っていません。地震直前の状態に戻るのにはまだ1年以上かかります。「もうぼつぼつあぶないかな?」と思われていたところでも、東北の地震の影響で歪の蓄積が少しもとに戻りましたので、近畿北部の被害地震の執行猶予の期間が少し延びたと言えます。しかし、大きな歪が解消したわけではありませんので、要注意なことには変わりありません。

6. 中央防災会議防災対策推進検討会議のもとに設置された「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は南海トラフで巨大地震が起きたときの被害想定をやっていますが、左の図のハッチの範囲が一度に割れたとしても、右に示す地震動の震度分布を見ると、若狭湾周辺では震度5弱から4程度、大津波は日本海側に廻ってこないということで、原発への直接の影響は考えなくてもよいでしょう。しかしですね……

7. 南海トラフの巨大地震の前後に日本海側の地震活動は活発化します。1944年12月7日にマグニチュード7.9の東南海地震、1946年12月21日にマグニチュード 8.0の南海地震とこの地域で海溝型の大地震が相次いで発生しましたが、その約20年前に、北但馬地震、北丹後地震の直下型地震が起こり、東南海地震の1年前にはマグニチュード7.2の鳥取地震、南海地震の1年半後にはマグニチュード7.1の福井地震が起きています。次の南海トラフの巨大地震は2030年代の終わり頃と考えられていますので、もうぼつぼつ日本海側の地震活動が活発化することが懸念されます。

8. この図は「若狭湾周辺の主な断層の分布と地震」ですが、大飯原発の近くにも、F0-B、F0-Aという活断層が認められています。それはともかく、原子力規制委員会は大飯原発敷地内の重要施設の直下を通る「F-6破砕帯」が活断層であるかどうかに焦点を絞って検討をすすめ、「活断層ではない」との結論を出しました。

9. しかしこれも空しい議論です。つまり、
●活断層の認定は、専門家(と言われる人々)の間でも議論が分かれていて、そう簡単ではない。
●鳥取県西部地震(M7.3)や福岡県西方沖地震(M7.0 )のように、事前に活断層が見出されていないところでもM7クラスの地震が起きている。
●同じ活断層で地震が起きたとしても、前回の地震と全く同じ断層面で割れるとは限らない。断層面の傾きが数度違えば、地表に現れる断層は別のところに顔を出す。
ということです。

10. 同じ震源から破壊が進行しても、その時々の地殻の三次元的な応力状態により、圧縮軸の方向がわずかに違えば、地震断層は地表の別の場所に顔を出します。従って原発敷地内にある破砕帯が活断層かどうかと議論してもあまり意味はないと思います。

11. これは、2005年3月20日の福岡県西方沖地震ですが、近くの陸域には警固(けご)断層という活断層が認められていました。ところが、陸域の警固断層は動かずに、地震はその北西延長上の玄界灘の地震空白域で発生しました。この地震の余震域と陸域の警固断層が直線上にほぼ連続していることから、この地震の後、専門家は海域まで含めて一連の活断層帯であるとして、「これらをまとめて警固断層帯と呼びましょう」ということになりました。学問のレベルはこの程度なのです。

12. 「既存の活断層だけを問題視していては危険だ」という話をもう1つします。これは、兵庫県南部地震の三次元的な余震分布を示しますが。1995年1月17日の早朝に起こった本震は淡路島から神戸に至る50~60kmの領域が破壊してM7.3の地震が起きました。しかしこの地震の破壊域全体を覆う大きな活断層は事前には認知されていませんでした。

13. この地震までに認識されていた近畿およびその周辺の活断層を、大阪市大の藤田和夫先生の「アジアの変動帯」という本から引用して示します。近畿地方では山崎断層や三峠断層が注目されていて、六甲断層系と淡路島の断層系がいっしょに動いて大地震が起こるとは予想されていませんでした。
ところで、大飯原発から30km以内の海域にはF0-B、F0-A、F0-C断層、陸域には熊川断層、神林川断層などがありますが、関電はそれらの活断層が動いても原発は大丈夫と言っています。しかし、兵庫県南部地震のように離れた断層が連動して動いたり、福岡県西方沖地震のように既存の活断層の延長上に地震が起こったりすることもあるのです。関電はこういうことも想定しているのでしょうか?

14. 近畿地方は早い段階から京大防災研などによって微小地震観測網が整備され、微小地震の活動が調べられていました。そのデータに基づき、兵庫県南部地震が起こる前の10年間の微小地震活動図を示します。この図を見て、「兵庫県南部地震が起こった淡路島から神戸が危ないよ」と言える人はいないと思います。専門家はむしろ山崎断層系が危ないと思っておりました。ですから地震活動を詳しくモニターしていても、次はどこがいつ頃危ないとはとても言えないのが現状です。

15. 関電は今年の5月9日に大飯原発の「基準地震動」を昨年7月の申請時の700ガルから856ガルに見直したと発表しました。昨年7月の申請が「700ガル」とドンぶり勘定なのに今回は「856ガル」と3桁の数値を示して、いかにも厳密な検討をしましたと見せようとしているのも胡散(うんさ)臭いですね。3桁目なんて、ほとんど本質的な意味はありません。ここに出てくるガルとは重力加速度の単位で、モノを落とせば地球の重力にひっぱられてモノは下に落ちますね。この重力の加速度は地球表面で980ガル、ざっと1000ガルと考えればよいです。われわれはこの重力加速度で地球にひっぱられていますから、空中に浮かばずに地面に立っていられます。激しい地震動でモノが揺さぶられてその振動の加速度が1000ガルを超えればモノは跳び上がります。700ガルから856ガルへの変更で、大分お金も時間も使うのだから、これで十分だろうと言うことらしいですが、勝手な論理だと思います。

16. これに関連して最後に1つ、「直下型地震で埋まっていた石が跳んだ」という話をしておきます。京大防災研の黒磯さんらが見つけたのですが、マグニチュード 6.8の1984年長野県西部地震のときに、1km×3kmという狭い範囲ではありますが、埋まっていた石が跳びました。単に置いてある石なら、地球の重力加速度:980ガルを超える地震動の加速度が働けば、浮きます。しかし、埋まった石が跳ぶためには、もっとずっと大きな加速度が働かなければなりません。黒磯さんらの計算と実験の結果では、この埋まっている石がとび出すためには15000ガル以上の加速度が働かなければならない、ということです。実に、地球の重力加速度の15倍です。非常に局所的ではあるけれども、マグニチュード 6.8の地震でこんな大きな加速度が働いた例があるのだから、関電が「基準地震動」を700ガルから856ガルに見直したと聞いても、それで安全だと言ってもらっては困るというのが私の意見です。15000ガルの加速度に耐えうる設備を作るのは技術的にも経費の面からも不可能でしょう。関電はただちに廃炉に踏み切るべきです。

17. 関電の初代社長の太田垣士郎(おおたがき・しろう)さんは、戦後の電力不足事情をいち早く見抜き、大規模な水力発電所の建設に踏み切り、難工事の末、黒部川第四発電所いわゆるクロヨンダムを完成させたサムライです。後任の芦原義重(あしはら・よししげ)さんは、水力発電の開発はもう限界である。資源の乏しい我が国では、火力発電より原発に頼るべきだ、ということで、原発の推進に踏みだしました。当時、使用済み核燃料などの未解決の問題がありましたが、やっているうちに、2~30年もすれば、科学技術の進歩でこれらの問題はすべて解決するはずだと言ってました。太田垣社長は経済学部出身ですが、芦原社長は工学部出身ですから、科学技術の発展を信じていたのだろうと思います。

そして40年以上経って、使用済の放射性廃棄物をどう処分するか、いまだに解決していません。残念ながら、私が関係してきた地震予知もいまだにできていません。そして2011年3月の東北地方太平洋沖地震と福島原発の事故です。ハイテクの粋を集めたはずの原発ですが、それを扱うのは人間です。立っていられないほどの激しい地震動に襲われたときなど、人間は訓練時のように冷静に対応できず、操作ミスをしてしまうことは、「フクイチ」の事故調査報告書を読んでも明らかかです。今の関電社長の八木誠さんにお願いしたいことは、40年以上経っても使用済の放射性廃棄物の処分方法がきまらないことや、福島第一原発の事故は、震災・津波・人災の複合災で、地震国ニッポンにおいては、この事故が特殊なケースでなく、どの原発も同じような危険性を孕んでいることをしっかり認識していただき、歴代社長のように長期的視野に立って、子や孫の代に負債を残さないために、脱原発に向って進んでいただきたいと考えます。