◆原告第39準備書面
第2 原子力規制委員会の構成における違法(甲369の1~12p)

2017(平成29)年10月27日

原告第39準備書面
-原子力規制委員会の「考え方」が不合理なものであること-

目次

第2 原子力規制委員会の構成における違法(甲369の1~12p)
1 前提:国会事故調は両議院の同意を得て両議院の議長が任命した委員長及び委員に選任されたこと,およびその提言内容
2 原子力規制法2条2項、及びIAEA安全基準
3 欠格要件に関する法の明文規定、国会で明らかにされた立法者意思、及びガイドライン
4 選任された委員長及び委員が欠格事由に該当すること


第2 原子力規制委員会の構成における違法(甲369の1~12p)


 1 前提:国会事故調は両議院の同意を得て両議院の議長が任命した委員長及び委員に選任されたこと,およびその提言内容

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)は,東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法により両議院の同意を得て両議院の議長が任命した委員長及び委員(計10名)が東京電力あるいは政府という事故の当事者や関係者から独立した調査を国家の三権の一つである国会の下で行うために設置された委員会であり,2012年7月5日,両議院の議長に国会事故調報告書[7]を提出した。

国会事故調は,福島第一原発事故の根本的原因として,地震及び津波対策の未実施並びにシビアアクシデント対策の不備を挙げ,これらは,規制当局と事業者との間で,「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され,既設炉の安全性,過去の規制の正当性を否定するような意見や知見,それを反映した規制,指針の施行が回避,緩和,先送りされるように落としどころを探り合う中で生じたものであることを指摘している[8]

このように規制当局が規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで,事業者の利益を図るなど,規制当局の推進官庁及び事業者からの独立性が形骸化していた結果,福島第一原発事故が発生した。

国会事故調は,「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなく,その実態の抜本的な転換を行わない限り,国民の安全は守られない。国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め,国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要である。また今回の事故を契機に,変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付け[9],新しい規制組織の要件として,「①政府内の推進組織からの独立性,②事業者からの独立性,③政治からの独立性を実現し,監督機能を強化するための指揮命令系統,責任権限及びその業務プロセスを確立する」という「高い独立性」を要件とすることを提言している[10]。政府事故調も,ほぼ同様の提言をしている。

[7] 「国会事故調報告書」(WEB版)

[8] 「国会事故調報告書」(WEB版)10~12頁

[9] 「国会事故調報告書」(WEB版)18頁

[10] 「国会事故調報告書」(WEB版)21頁


 2 原子力規制法2条2項、及びIAEA安全基準

福島第一原発事故を受けて改正された原子力基本法2条2項が安全の確保について「確立された国際的な基準を踏まえ」て行うものとしているところ,原子力規制機関として必要な独立性,中立性について,IAEA安全基準の「政府,法律及び規制の安全に対する枠組み」(GSRPart1(Rev.1))は,原子力規制機関は,その安全関連の意思決定に対する不当な影響から実効的に独立していることを確実なものとしなければならない,その意思決定に不当な影響を及ぼす可能性のある,責任又は利害を持つ組織とは機能面で分離されていることを確実なものとしなければならないとしている。したがって,原子力規制委員会もかかる要件を満たさなければならない。

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 3 欠格要件に関する法の明文規定、国会で明らかにされた立法者意思、及びガイドライン

原子力規制委員会設置法(設置法)7条7項は委員長及び委員の欠格要件について定めるところ,その趣旨は,委員就任時はもちろんのこと,過去に原子力事業者の役員や従業者であったという経歴を有することは,欠格事由に該当する,あるいはこれに準ずると捉える点にある。

このことは,設置法案審議中の2012年6月18日及び翌19日の参議院環境委員会において,立法者の意思として確認されている。

同月18日の参議院環境委員会では,委員長及び委員の独立性について,下記質疑がなされており,過去に原子力事業者の役員や従業者であったという経歴を有することは,欠格事由に該当する(準ずる)ことが確認されている[11]

〇水野賢一君
…(略)…
だから,ちょっと立法者の意思として教えてもらいたいと思うんですけど,例えば東京電力とか原発を持っているような会社の役員だった,過去に役員だった人とかというのは,これ委員になれるんですか。

〇衆議院議員(生方幸夫君)
…(略)…
普通に考えて,今般の東電の事故を見ても,いわゆる原子力村というふうに言われている人たちの中で行われていたことが事故を拡大させたということもございましたので,これからつくられる原子力規制委員会については,そういう村にかつて属して,どっぷりつかった人たちが委員になる,あるいは委員長になるということは考えられないし,それが適当であるというふうには私は思いません。

〇国務大臣(細野豪志君)
…(略)…
そこは,これからの委員の選定というのは,もちろん法的な欠格事由も明確にした方がいいと思いますし,法律的にそうなっていますから,今回は。さらには,それにとどまるのではなくて,ガイドラインを設けて厳しい基準の下でやると。さらに,それに上乗せをしてさらに情報公開という,やはり三段階ぐらいの厳しさを持たないと国民の皆さんから受け止められないというふうに思うんですね。

翌19日の参議院環境委員会においても,下記質疑がなされており,過去に原子力事業者の役員や従業者であったという経歴を有することは,欠格事由に該当する,あるいはこれに準ずると捉えることが法の趣旨であることが確認されている[12]

〇水野賢一君
…(略)…
要は,この法案(引用者注:原子力規制委員会設置法案)の7条にもいろいろと書いてあることというのは,つまり原子力関係者たちは駄目よみたいなことは確かに書いてあるんですけど,これを見ると,法文だけ見ると現在のことのように見えるんですけど,これは現在だけじゃなくて過去もそれに準ずるという理解でよろしいんでしょうか。
…(略)…

〇衆議院議員(近藤昭一君)
…(略)…
準ずるということでございます。

そして,内閣官房原子力規制組織等改革準備室は,2012年7月3日,「中立公正性及び透明性の確保を徹底することが必要」であるとして,原子力規制委員会の委員長及び委員の要件について,上記設置法7条7項の欠格要件に関するガイドライン「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について[13]」を定めた。同ガイドラインでは,就任前直近3年間に,同一の原子力事業者等から,個人として,一定額以上の報酬等を受領していた者は欠格者とされた。

[11] 「第180回国会参議院環境委員会会議録第6号」31頁

[12] 「第180回国会参議院環境委員会会議録第7号」9~10頁

[13] 内閣官房原子力規制組織等改革準備室「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」


 4 選任された委員長及び委員が欠格事由に該当すること

ところが実際に選任された原子力規制委員会の委員には,下記のとおり設置法7条7項3号又は上記ガイドラインにおける欠格事由があった[14]

政府は,2012年7月26日,国会に原子力規制委員会の委員長及び委員の人事案を提示したが,人事案を提示した時点において,委員候補とされていた更田豊志氏(現在は委員長代理)は,独立行政法人日本原子力研究開発機構の副部門長であった。同機構は,高速増殖炉もんじゅを設置し,東海再処理工場を保有する原子力事業者であり,まさに設置法7条7項3号の定める再処理事業者と原子炉設置者に該当することが明らかであった。

また,委員候補とされていた中村佳代子氏についても,公益社団法人日本アイソトープ協会のプロジェクトチーム主査であった。同協会は,研究系・医療系の放射性廃棄物の集荷・貯蔵・処理を行っており,「原子力に係る貯蔵・廃棄」の事業を行う者であり,設置法の施行後は原子力規制委員会による規制・監督に服することになるのであって,設置法7条7項3号の定める原子力事業者等に該当することが明らかであった。

その結果,独立行政法人日本原子力研究開発機構(旧動燃)副理事長,原子力委員会委員長代理,原子力学会会長を歴任し,まさに福島第一原発事故の発生に直接的又は間接的に寄与した人物というほかない田中俊一氏が委員長に選任された。

しかも,政府が2012年7月26日に提案した人事案に基づく委員長及び委員の選任については,法が要求する両議院の同意(設置法7条1項)すらないままに選任が断行された[15]

当該人事案については,上記のとおり欠格要件に該当する者や明らかな不適格者が含まれていたため,「人事案撤回」の世論が日増しに強まり,野党議員はもとより与党議員の中からも,委員長及び委員候補の適格性と選任の適法性への疑問が強く提起され,結局,1か月以上国会で議論しても同意が得られず,2012年9月8日に国会が閉会するに至った。

ところが,政府は,同月19日,設置法附則2条3項の定める原子力緊急事態宣言がされている場合の特例を根拠として,国会の同意なしに委員長及び委員の任命を断行した。しかし,本件がかかる特例が適用される場合にあたらないことは明らかである。

このように国会の同意という,法が明文で要求する民主的プロセスすら無視して原子力規制委員会の委員長及び委員は選任された。さらに,2014年9月に改選された委員についても,下記のとおり法の趣旨又はガイドラインに抵触する選任がなされた[16]

田中知氏については,日本原子力産業協会役員(2011年~2012年),エネルギー総合工学研究所役員(2014年4月22日現在現職)等の経歴があり,また,三菱FBRシステムズ「アドバイザリー・コミッティー」(2014年6月まで)及び日本原燃「ガラス固化技術研究評価委員会委員長」(同年3月まで)を有報酬で務めていた。政府は,上記ガイドラインにおける「原子力事業者等」の定義について,「電力会社に加え,電力会社の子会社等経済的に強いつながりが認められるもの」とし,日本原子力産業協会を例示していたから,同協会の役員であったことのみをもってしても,同氏が上記法の趣旨又は上記ガイドラインの欠格要件に該当することは明らかであった。

また,同氏は,東電記念財団から50万円以上の報酬等(2011年度),日立GEニュークリア・エナジーから60万円の寄付(同年度),太平洋コンサルタントから50万円の寄付(同年度)等,就任直近3年間に原子力事業者等から報酬等を受領しており,原子力事業者等との癒着の度合いも強かった。

しかも,井上信治環境副大臣は,2014年5月28日の参議院原子力問題特別委員会において,上記ガイドラインの欠格要件を適用せずに人選した旨答弁した。

かかる違法な経緯で構成された原子力規制委員会の審査が,何ら安全性を保障しないことは明らかである。

[14] 日本弁護士連合会「原子力規制委員会委員の人事案の見直しを求める日弁連会長声明」

[15] 日本弁護士連合会「国会同意を経ない原子力規制委員会人事決定に関する日弁連会長声明」

[16] 原発ゼロの会「田中知氏の原子力規制委委員会委員への任命案について(談話)」

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