◆原告第39準備書面
第6 電源確保対策の不合理性(甲369の121~145p)

2017(平成29)年10月27日

原告第39準備書面
-原子力規制委員会の「考え方」が不合理なものであること-

目次

第6 電源確保対策の不合理性(甲369の121~145p)
1 福島第一原発事故の原因を決めつけ,同事故の教訓を踏まえていないこと
2 外部電源の信頼性強化対策が放棄されていること
3 非常用電源設備の機能確保対策が不十分であること
4 全交流動力電源喪失対策設備(設置許可基準規則14条)の不備
5 3系統目の猶予が違法であること
6 全電源喪失に対する対策の欠如
7 不合理に低い外部電源系の重要度分類
8 不合理に低い耐震設計上の重要度分類


第6 電源確保対策の不合理性(甲369の121~145p)


 1 福島第一原発事故の原因を決めつけ,同事故の教訓を踏まえていないこと

(1) 電源の果たす役割の重要性

異常事態が生じて「止める機能」によって原子炉の核分裂反応の停止に成功しても,炉心の燃料棒内に残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,「冷やす機能」により炉心(燃料)の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。炉心を冷却するには,大型ポンプ等の機器を動作させて水を供給し続けなければならないが,そうした大型ポンプ等の機器を動作させるためには電源供給が必要である。電源供給に失敗し,炉心へ水を供給できずに炉心の冷却ができなくなると炉心溶融へと至る。

このように原子力発電所における原子炉冷却機能を維持するためには電源確保対策は極めて重要な対策であり,通常は,原子力施設外の発電所から送電線を通って供給される外部電源を利用し,外部電源からの電力供給が不可能な場合は,非常用交流動力電源として非常用ディーゼル発電機が起動して電力の供給を継続する。

(2) 福島第一原発事故の教訓

福島第一原発事故では,まず,地震動による鉄塔の倒壊等によって外部電源からの電力供給が絶たれた。外部電源が地震動によって途絶するという事態は,福島第二,女川,東海第二,東通の各原発でも発生している[50]

加えて,福島第一原発事故では,外部電源の喪失に加えて,間もなく津波によって非常用ディーゼル発電機からの交流電源供給も途絶えたために,炉心溶融を招いてしまった。

このように,福島第一原発事故を含む2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とその後の津波による教訓としては,外部電源の信頼性強化,非常用交流電源の共通要因故障対策及び非常用交流電源が喪失した場合のさらなる電源対策が挙げられる。

[50] 「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」
III-30(福島第一),同32(福島第二),同46(女川),同50(東海第二),同51(東通)。東通原発では,原子炉建屋で観測された地震動は僅か17ガルに過ぎなかったにもかかわらず外部電源が途絶する事態となった。外部電源は地震動に対して極めて脆弱といえる。

(3) 新規制基準は福島第一原発事故の教訓を踏まえていない

原子力規制委員会は,外部電源については,原発施設外にあるため発電用原子炉の設備ではないし,長大な送電線全てについて高い信頼性を確保することは不可能で非常時には外部電源による電力供給に期待すべきではないとして,信頼性強化対策を放置している。また,非常用交流電源の機能確保対策については,福島第一原発事故よりも,はるかに楽観的に外部電源の喪失期間(外部電源の復旧までの所要期間)を想定して非常用ディーゼル発電機の燃料貯蔵量を想定しており,およそ実効性のない規制基準を策定している。加えて,新設された重大事故等対処設備による電力供給についても,可搬施設による人的対応に過度に依存しており,その限界を踏まえない楽観論に基づいた机上の空論に終始している。

以下,それぞれの規制についての問題点を詳述する。


 2 外部電源の信頼性強化対策が放棄されていること

(1) 各種政府機関の指摘

福島第一原発事故では,地震動によって,外部電源設備である送電用鉄塔の倒壊,遮断機及び断路器の部品落下,引留鉄構の傾斜等が生じて,福島第一原発への給電を停止し[51],炉心損傷や大気中への放射性物質の大量放出という異常事態の起因事象となった。そのため,福島第一原発事故後に,外部電源からの電力供給の重要性と信頼性向上の必要性が,原子力安全委員会で確認され,福島第一原発事故当時,外部電源が重要度分類でPS-3(一般産業施設と同等以上の信頼性の確保),耐震重要度分類でCクラスと,それぞれ最も低く分類されていたことが問題とされた。

新規制基準が策定される前に,原子力安全委員会と原子力安全・保安院が,ともに外部電源の重要性を確認したうえで,その信頼性向上の必要性を掲げていたことからすれば,当然に,新規制基準においても外部電源の信頼性向上,具体的には重要度分類や耐震重要度分類の分類引上げが実施されるべきことは明らかである。

[51] 「政府事故調中間報告書」32頁(c)損傷・機能の状況を参照

(2) 新規制基準では外部電源の信頼性向上対策を放棄していること

ところが,策定された新規制基準では,外部電源対策として,独立した2回線以上の送電線への接続と回線の物理的分離を要求したのみである。

原子力安全委員会と原子力安全・保安院が求めていた重要度分類や耐震重要度分類の各分類の引上げは実現しておらず,福島第一原発事故当時と同じ重要度分類上のPS-3,耐震重要度分類のCクラスに据え置かれたままである。新規制基準は,外部電源の信頼性向上対策をほとんど放棄してしまっているのである。現状の規制のままでは,外部電源2回線に独立性を要求しても,耐震性を高めなければ,地震により外部電源が同時損傷する事態を防ぐことはできない。

これについて,原子力規制委員会は,そもそも,発電所外の電線路等の外部電源施設は発電用原子炉施設の設備ではないという形式的な理由のほか,実質的な理由として長大な電線路すべてについて高い信頼性を確保することは不可能であり,電力系統の状況により影響を受けるため,原子力発電所側で管理ができないとして,事故発生時には外部電源系による電力供給に期待すべきでないと,その理由を述べている。

しかし,原子力規制委員会の考え方は,深層防護の考え方に反するし,炉心損傷頻度(CDF)への外部電源の喪失事象の寄与度の高さを無視しているという二つの点で誤っている。

まず,一点目として新規制基準は,原発からの放射性物質の放出を防ぎ,もって国民の生命・健康の保護を図るために,有効な複数の対策を用意し,かつ,それぞれの層の対策を考えるとき,他の層での対策に期待しないという深層防護の考え方を踏まえて策定されたはずである。いみじくも原子力安全委員会と原子力・安全保安院が指摘しているとおり,外部電源からの電力供給という交流電源供給手段の信頼性が向上すれば,その分だけ電源確保対策の厚みが増すことになり,それ以外の非常用交流電源対策や直流電源対策の整備と相俟って,電源確保対策が多層化し,電源確保対策全体の信頼性が大きく向上することは明らかである。

また,二点目として,NRCは,炉心損傷頻度(CDF)の73%あるいは約90%が,外部電源の喪失によって発生する旨の試算を公表している[52]。このことからすれば,外部電源の信頼性強化を図ることが,炉心損傷対策として極めて重要かつ有効な対策であることは明らかである。

これに対する原子力規制委員会の「考え方」は,異常事象発生時に,早々に外部電源からの電力供給という選択肢を諦めてしまい,非常用交流電源等からの電力供給に頼るという深層防護の考えとは全く相いれないものであり,始めから炉心損傷を招く大きな要因と試算されている外部電源が喪失した状態をみすみす招き,「背水の陣」で異常事象に対応するという誤りを犯してしまっているのである。

上記原子力規制委員会が述べている形式的な理由は,外部電源の信頼性向上対策を行わない合理的な理由となっていない。

同じく実質的理由についても,長大な電線路すべてに高い信頼性を確保することは一定のコストをかければ十分可能であろう。また,電力系統の問題に関しても,原発事業者が全体として対応すれば十分可能なはずである。新規制基準策定に向けた議論状況の中で,原子力規制委員会が,電線路と電力系統に関する抜本的な信頼性向上対策にどの程度のコストを要するのか検討した形跡はない。

結局,原子力規制委員会は,電線路の耐震性強化や電力系統の管理を原発事業者の負担可能なコストの範囲内で行うことはできないという,合理的根拠を伴わないある種の「割り切り」を行ってしまっている。

[52] 日本原子力学会「原子力発電所に対する地震を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準:2015」267頁

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 3 非常用電源設備の機能確保対策が不十分であること

(1) 新規制基準は,非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性及び独立性を確保し,設備の機能を確保するための十分な容量を有すること(外部電源が喪失したと仮定して7日間)を規定している(設置許可基準規則33条7項,規則解釈33条7項)。

(2) そもそも,非常用電源設備は,これまでに多数の故障を起こしていて,外部電源が機能しない場合に必ず非常用電源が機能するといえるほどの信頼性はない[53]

[53] 「ニューシア(原子力施設情報公開ライブラリー)」の情報検索で,情報区分欄のトラブル情報と保全品質情報をチェックして,件名欄に非常用ディーゼル発電機と入力すると,144件の情報が記録されている。

(3) それを措くとしても,これらの非常用電源設備に関する上記基準は,基準を満たす具体的な内容(「どのような事態を想定し,どのような設備が必要となるのか」)が制定されていないので,現実の設備が安全確保のために十分か否か判断する基準となっていない。

つまり,設置許可基準規則33条7項や同条の解釈には,単に「非常用電源設備の多様性」としか規定されておらず,それ以上に,具体的に非常用電源が必要とされる「どのような事態」を想定しているのか,「それに対応する多様性とは何か」という具体的な要求内容を読みとることはできない。また,事故等の対応に「必要な設備として何を想定しているのか」も不明である。

このように,上記基準からは,非常用交流電源が必要となる具体的な事態が想定されていないので,現実の事故発生時に,非常用電源に要求される具体的性能などの詳細を算定することが不可能であり,そもそも,必要な対策を立てることができないのである。

(4) また,原子力規制委員会は,非常用ディーゼル発電機の貯蔵燃料を7日間分以上としたとした理由を,福島第一原発事故時に,免震重要棟のガスタービン発電機の燃料供給に3日程度を要したので“より保守的に”少なくとも7日間と設定したと説明している。
しかし,この7日間分の燃料貯蔵に関する原子力規制委員会の説明は,二つの点から合理性を欠く。

まず一点目は,形式的なもので,そもそも,「考え方」で原子力規制委員会が説明している内容は,規則解釈33条7項の文言と整合しないというものである。

7日間という燃料貯蔵期間を定める根拠規定である規則解釈33条7項では「『十分な容量』とは,7日間の外部電源喪失を仮定しても,非常用ディーゼル発電機等の連続運転により必要とする電力を供給できること」と,あくまで外部電源の喪失期間を仮定して燃料備蓄の期間を定めたという説明になっている。「考え方」で根拠とされている福島第一原発事故のガスタービン発電機の燃料供給に3日間を要した事実は,規則解釈では全く言及されていない。

このように規則解釈では,仮定された外部電源喪失期間が燃料貯蔵量の根拠となっているのに対し,同じことが「考え方」では,ガスタービン発電機への燃料供給に要した期間へと,根拠がすり替わっており,両者の説明内容は一致しない。結局,何を根拠に燃料貯蔵期間を定めているのか,その根拠が不明確であると言わざるを得ない。

次に二点目は,福島第一原発事故では1~4号機の外部電源の復旧までに11日間を要しており,解釈規則が仮定している7日間という外部電源喪失期間は,到底,同事故の教訓を踏まえた“保守的な”規定にはなっていないという点である。

政府事故調最終報告書によれば,福島第一原発事故では,外部電源を喪失した2011年3月11日14時49分頃から大熊線の外部電源が復旧した同月22日19時17分頃までの実に11日と4時間28分間(268時間28分間)にわたり,外部電源が喪失している[54]

非常用電源は,外部電源が喪失した場合に機能を発揮し続けなければならないものであるから,福島第一原発事故の教訓を踏まえるならば,外部電源喪失期間を,少なくとも11日間以上,“より保守的に”であればそれ以上の期間と仮定して,所要燃料の貯蔵を要求していなければならないことは明らかである。

原子力規制委員会が求める7日分では,外部電源の喪失期間を楽観的に仮定しており,このままでは,事故時に非常用ディーゼル発電機が燃料切れとなり,非常用交流電源を喪失してしまう可能性が高い。

[54] 「政府事故調最終報告書」114~125頁


 4 全交流動力電源喪失対策設備(設置許可基準規則14条)の不備

全交流電源喪失時には,非常用直流電源が唯一の電源であり,非常用直流電源による電力の確保は欠かせない。

しかし,設置許可基準規則14条や規則解釈14条には,非常用所内直流電源の「必要な十分な容量」について具体的定めがない。「必要な十分な容量」が確保されなければ非常用直流電源を備えるといっても名ばかりとなり,短時間の全交流電源喪失しか想定しない事故前の不合理な基準と変わりがないこととなる。

例えば,福島第一原発3号機は,2011年3月11日15時41分に全交流電源を喪失した[55]が,直流電源盤が浸水を免れ,同月13日2時42分まで[56],35時間以上直流電源が維持されていた(ただし,それでも福島第一原発事故を防ぐことができなかった。)。全交流電源喪失に備えた非常用直流電源については,福島第一原発事故を踏まえた具体的かつ保守的な必要時間を規定すべきであり,未だ不十分な基準にとどまっている。

[55] 「政府事故調中間報告書」91頁。なお,非常用交流電源喪失の原因は津波によるものだけではなく,地震動によっても津波到来前に機能喪失していたことは前述したとおり。

[56] 「国会事故調報告書」(WEB版)143頁

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 5 3系統目の猶予が違法であること

設置許可基準規則57条2項及びその解釈では,前項の電源が喪失した場合に備えて所内常設直流電源設備(3系統目)を設けることと規定しておきながら,現在の原子力規制委員会は,「更なる信頼性向上」のためであるので,その設置を新規制基準の施行日から5年間猶予するものとしていた。

この3系統目は,必要な電源の多重性として議論され,要求事項にされたものである。それにもかかわらず5年間の猶予を認めることは,それができるまでは,その電気系統分の安全性が不足していることを認めることである。

その後,原子力規制委員会は,5年間の猶予の始期を,「新規制基準の施行日」から,審査に時間がかかることを理由にして「工事計画認可審査が通ってから5年」に変更をした[57]。原子力規制委員会は,直流電源喪失を防ぐためにはさらなる追加設備が必要であることを認識しながら原子力事業者の状況を慮って再稼動の要件とはせず,ただでさえ緩い基準をさらに緩めたのである。

設置許可基準規則57条2項及びその解釈の所内常設直流電源設備(3系統目)の設置について猶予を設ける原子力規制委員会の前記変更は,不合理なものというほかなく,かかる運用に基づく適合性審査には過誤,欠落があるから,これによる設置変更許可処分は,設置許可基準規則57条2項に反し違法である。

そして,福島第一原発事故と同様,多くの電源設備が同時に失われる状況になった場合,バックアップの直流電源がないため,やはり全電源喪失になってしまい,短時間のうちに炉心損傷に至るおそれがある。

[57] 原子力規制庁「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則等の一部を改正する規則の制定について」


 6 全電源喪失に対する対策の欠如

SBOと直流電源の喪失が同時に起れば,無停電電源も喪失するので,中央制御室は暗黒になり,表示盤の計器も働かなくなる。そのような状況下では,プラントに何が起こったのか,現状把握が著しく困難になる。そのことは,福島第一で実際に起ったことである。福島原発事故では,交流電源も直流電源も喪失する全電源喪失に至ったものであり,福島原発事故の教訓を踏まえて基準は策定されなければならないであるから,全電源喪失を想定し,その場合のハード及びソフト面の対策を基準に明記することは不可欠である。

設置許可基準規則では,45条の冷却設備に関して,全交流動力電源喪失・常設直流電源喪系喪失を想定して,人力で原子炉隔離時冷却系(RCIC)等の弁操作をする規定をおいているが,それ以外に全電源喪失の場合の規定がない。

直流電源設備は,原子炉隔離時冷却系(RCIC),高圧注水系(HPCI),非常用復水器(IC)等の蒸気駆動の冷却設備の直流電動弁に電力供給するだけでなく,中央制御室制御盤,現場制御盤,中性子モニタ,プロセス放射線モニタ,地震計,原子炉水位・圧力計,格納容器圧力・温度計等の各種計装制御等にも電力を供給するものであり,これを喪失した場合には深刻な事態が生じるが,新規制基準にはそれに対する規定が存在しない。

規制委員会の基準検討チームが抽出した福島原発事故の教訓の中に所内の照明の喪失により現場での対策が困難(17頁),事故時における計装設備の信頼性確保(電源・予備品)(18頁),非常用電源からの供給や専用電源の設置などによるモニタリング機能維持(技術的知見)(22頁)があり,福島原発事故の教訓を踏まえれば全電源喪失を想定した規定は策定する必要がある。

欧米では,直流電源も喪失した全電源喪失状態のとき,中央制御室が暗黒とされた中で,作業員がどのように行動すべきかを検討し,そのための訓練機関がノルウェーに設置されている。いわゆるブラックスタートというもので,真っ暗闇の中で,原子炉の安全を確保する手順を整備し,訓練をしている[58]

直流電源の重要性と福島原発事故で全電源喪失が現に発生したこと並びに全電源喪失を想定した規制が欧米で行われていることを考えれば,全電源喪失状態を網羅した規定が存在しない現行の規制が安全確保策として不十分であることは明らかである。

[58] 佐藤暁「原子力規制委員会の『中間報告書』に埋没されたままの重要ポイント」(2014年12月「科学」)1238頁

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 7 不合理に低い外部電源系の重要度分類

「考え方」によると,新規制基準は,非常用ディーゼル発電機による電力供給機能をMS-1(クラス1)に分類して高度な信頼性を要求するのに対し,外部電源系の供給機能については,開閉所等の発電所内の設備はPS-3(クラス3)とし,発電所外の設備(電線等)は重要度分類の対象外としている。しかし,福島第一原発事故では,地震により原発施設の外にある鉄塔が倒れるなどして,まず外部電源を喪失し,地震発生から約50分後に来襲した津波によって,多くの非常用ディーゼル発電機等の機能を喪失し[59],その結果,全電源が喪失して大事故に至ったと考えられる[60]。一方で,福島第二原発では,福島第一原発と同様,津波による浸水で原発施設内の非常用ディーゼル発電機等が機能を喪失したものの,たまたま外部電源が1回線のみ生き残っていたため全交流電源喪失を免れ,大事故に発展することなく冷温停止に至った[61]

そのような福島第一・第二原発事故の経験からは,原子力発電所において,施設構内の非常用電源設備ばかりでなく施設内外の外部電源系設備も安全性確保のためには極めて重要であるといえ,施設内の非常用電源さえ機能すれば問題ないという安易な考え方を排しいずれにおいても万全の備えを要求することが,原子力安全の基本である深層防護の考え方に沿うものであるといえる。

新規制基準が外部電源の電力供給機能について高度な信頼性を求めていないことは,そのような福島第一原発事故の教訓を無視するものである。

そのような分類では,地震などの災害時には,外部電源の供給機能が容易に失われてしまい,非常用内部電源の供給機能に頼らざるを得なくなり,初めからいわば“背水の陣”での対応を余儀なくされ,深層防護の考え方と相容れない結果となる。そして,福島第一原発事故の時のように,仮に非常用電源の供給機能まで喪失すると,原子力施設の冷却設備が機能しなくなり,再び大事故が発生して多くの国民の生命身体を危険にさらすことにもなりかねない。

また「考え方」では,外部電源系の分類の根拠として,外部電力の供給施設が原子炉施設外にあって,外部の長大な電線路や経由する発電所全てについて高い信頼性を確保することが困難なことを挙げている。

しかし,外部電源系の供給施設がたとえ原子炉施設外にあるとしても,いずれも電力会社が所有し管理する施設であることに変わりはない。たとえ他の電力会社の設備を利用する形であるとしても,相互の協力体制を確立することによって,外部電源系の供給施設についても,高い信頼性を確保することは可能である。

さらに,「考え方」では,長大な電線路や経由する変電所すべてについて高い信頼性を確保することは不可能だとされているが,原子炉施設周辺に限定されない箇所においても,コストをかければ,高い信頼性と安全性を確保することは可能である。

2013年4月4日に開催された第21回発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チームにおいて,重要度分類と耐震重要度分類につき,福島第一原発事故の教訓やIAEAガイドなどを踏まえ2013年7月の改正原子炉等規正法施行後に見直しを行うとされた[62]が,現在まで検討が進んでいるようには見られない。

原子力規制委員会でも福島第一原発事故や国際基準を踏まえた重要度分類と耐震重要度分類の見直しの必要性は十分認識しているはずであるが,新規制基準は「見切り発車」となってしまっている。

[59] なお,「国会事故調査報告書」には「当委員会のヒアリングで15時35分か36分に停止と認められる1号機A系の電源喪失の原因は津波ではないと考えられる。」との指摘もある(WEB版227頁)。

[60] 「国会事故調査報告書」(WEB版)142頁

[61] 福島第二原発における事故対処については「政府事故調最終報告書」127頁以下参照。「国会事故調報告書」(WEB版186頁)では,「福島第二原発が福島第一原発と同じ惨状に至らなかった理由には,微妙な偶然性もあったと認める必要がある。」と指摘されている。

[62] 「7月以降の検討課題について」


 8 不合理に低い耐震設計上の重要度分類

ここでは,上記に加え,非常用ディーゼル発電機も万全ではないことを指摘する。

「考え方」では,「事故等の発生時には,非常用交流動力電源である非常用ディーゼル発電機から電力の供給を行う設計となって(いる)」とされている。

しかし,非常用ディーゼル発電機は起動失敗例も少なくない[63]。事実上電気事業連合会が運営している「ニューシア原子力情報公開ライブラリー」[64]で「非常用ディーゼル発電機」と入力して検索すると,油漏れや不具合などの非常用ディーゼル発電機の「トラブル情報等」は,国内の原子力発電所で1年当たり10件以上は見つかる。その中には,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の際に発生した火災によって機能喪失した例(女川原発1号機)や,同年4月7日の余震で外部電源を喪失した翌日,非常用ディーゼル発電機からの軽油漏れが見つかりこれを停止せざるを得なくなった例(東通原発1号機)もある。非常用ディーゼル発電機は万全ではなく,特に地震に起因する事故時には「想定外」の事態が発生してその機能が失われるリスクが高い。

日本では原子力発電が盛んな欧州や米国中東部と比べると,地震のリスクは比較にならない程高い。そのような地域性に鑑みても,外部電源の耐震重要度分類をCクラスに高めて地震による全交流電源喪失のリスクを可能な限り低減させることこそが合理的というべきである。

[63] 原子力安全委員会事務局「最近の主な外部電源喪失事象,非常用ディーゼル発電機(EDG)等の起動失敗事例」

[64] http://www.nucia.jp/nucia/kn/KnTop.do

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