◆原告第43準備書面
第2 藤原広行氏の書面尋問等について

原告第43準備書面
-基準地震動の過小評価の危険性(主に島崎氏の証言を踏まえて)-

2018(平成30)年1月12日

第2 藤原広行氏の書面尋問等について

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1 藤原氏書面尋問の概要
2 検討用地震の選定の妥当性
3 不確かさの重ね合わせの必要性
4 偶然的ばらつき
5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ
6 震源を特定せず策定する地震動
7 小括



 1 藤原氏書面尋問の概要

函館地方裁判所に係属している別事件(平成22年(行ウ)第2号ほか)において,原子力規制委員会の地震・津波検討チームに外部有識者として参加した藤原広行氏(防災科学技術研究所社会防災システム研究部門長)の書面尋問が実施され(甲420-1),平成28年12月18日付けでその「質問回答書1」(甲420-2)が同裁判所に提出された。

「質問回答書1」では,概ね,第1項から第6項までは基準地震動一般に関する質問・回答,第7項から第13項までは青森県下北郡大間町に立地する大間原子力発電所の基準地震動に関する質問・回答となっている。このうち,後半の第7項から第13項までの質問について,藤原氏は,大間原子力発電所の設置変更許可申請書の送付を受けていながら,「現状私が把握している情報のみからは適切な回答を述べることができません。こうした審査に関わる内容について,専門家としての見解を述べるためには,事業側及び審査側からの詳細な説明を受けた後,その内容に対して質疑を行い,それに対する回答を踏まえた上での判断を行い,考えを取り纏めるというプロセスが必要です。これが実現できない状況では,責任のある発言を行うことができません。」と述べ,回答を差し控えている(但し入倉・三宅(2001)に関する第11項を除く)。回答がなされたものについても,非常に慎重な言い回しがなされている。

このように,藤原氏は極めて慎重な態度で函館地裁の書面尋問に臨んだのであり,それだけに,回答がなされた部分については,強震動地震学の専門家として責任ある見解が述べられたものと解することが出来る。

 2 検討用地震の選定の妥当性

藤原氏は,新規制基準に自身の意見が反映されていないところとして,「表現が定性的で定量化されていない部分が残っているところ」(2(2))と証言した。

その上で,検討用地震の選定の妥当性の基準について,「判断の前提となる地震動のハザードについて確率論的なモデルを構築した上で,安全目標に照らし,超過確率等の定量的な指標に基づき基準が定められるべきと考えます」(2(3))と証言している。

例えば,被告関西電力は,大飯原発の基準地震動策定に当たり,内陸地殻内地震について,FO-A~FO-B~熊川断層から発生する地震,上林川断層から発生する地震を検討用地震として選定しているが,何故それを採用するのが妥当と言えるのかについて,確率論的なモデルの構築も,定量的な評価も,安全目標との照合も,何も行っていない。

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 3 不確かさの重ね合わせの必要性

藤原氏は,不確かさの考慮についての基準として,「様々な種類の不確かさが残っている現状を考えますと,個人的な意見ではございますが,個々のパラメータごとに不確かさを考慮するだけでなく,必要に応じて不確かさの重ね合わせを適切に行うことが必要であると考えます。特に,認識論的不確定性がある中では,不確かさを重ね合わせて評価することが重要と考えます。」(2(4))と証言し,不確かさの重ね合わせの必要性を強調している。本件において,被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層について,短周期の地震動レベル,断層傾斜角,すべり角,破壊伝播速度,アスペリティ配置について,基本的に重ね合わせがないものとし,短周期の地震動レベルと破壊伝播速度の不確かさを重ね合わせる場合にも短周期の地震動レベルを1.25倍に切り下げてしまっているが,恣意的であって基準地震動を抑制する意図によるものと言わざるを得ない。不確かさの重ね合わせが極めて不十分であり,地震動についての知見の未成熟性を補うことが出来ていない。

さらに,藤原氏は,「我々の認識が足りないところ,あるいは方法論としてもまだ不成熟で足りないところ,いろんなタイプの不確かさ」を考慮する方法として,「認識論的な不確定性についてはロジックツリーなど用いたモデルを構築することが望ましい」(2(5))と証言している。しかし本件において被告関西電力は,例えばFO-A~FO-B~熊川断層の応力降下量に関し,Fujii and Matsu’ura(2000)という認識論的不確定性が非常に大きい知見を採用していながら,それを補うためにロジックツリーなど用いたモデルを構築するようなことは一切行っていない。

 4 偶然的ばらつき

藤原氏は,松田式や入倉・三宅式のばらつきについて,「偶然的ばらつきとして扱う必要がある」(6(2))「必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要がある」(6(1))と証言している。また,「偶然的ばらつきに関しては確率変数としてハザード計算を行うことが望ましい」(2(5))とも証言している。

しかし本件において被告関西電力は,松田式や入倉・三宅式の偶然的ばらつきに関しては一切無視し,これを考慮していない。

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 5 入倉・三宅式による過小評価のおそれ

藤原氏は,入倉・三宅式を用いて地震モーメントを推定する場合の過小評価のおそれを指摘する島崎氏の見解について,「妥当性については一概には言えません」(11(1))としつつも,「島崎氏が懸念する条件がそろった断層での地震動の評価に関して,従来から用いられている手法を適用し,かつ,ばらつきなど考慮せず平均値のみを用いると仮定した場合に限っては,妥当な場合もあり得る」(11(2))と証言している。

本件において,被告関西電力は,西日本の横ずれ断層であるFO-A~FOB~熊川断層につき,断層傾斜角は基本的に鉛直,地震発生層の厚さは15kmと想定しており,島崎氏が懸念する条件はそろっている。ここにおいて入倉・三宅式を適用するに当たり,従来から用いられている手法を適用しており,ばらつきなどは一切考慮していない。したがって,藤原氏の証言によっても,島崎氏の指摘は本件において妥当すると言うべきである。
さらに藤原氏は,入倉・三宅式による過小評価のおそれを解消ないし低減させる方法の一案として,断層下端の深さについて深めに設定し,断層上端を地表面まで面を張るなどして断層面を拡張すること,及び入倉・三宅式においてばらつきを考慮したパラメータ設定を行うことを証言している(11(3))。なお,藤原氏は新聞社のインタビューでは,「断層の幅を18キロ以上に設定することにしておけば,(入倉・三宅式による)過小評価の危険は減らせる」「極めて高い安全性が求められる原発の基準地震動の場合は,十分な余裕をみて断層の長さや幅を大きく設定しておくことが必要だ。関西電力大飯原発のように活断層のすぐそばにある原発は,特に大きな余裕を見ておかなければならない」とコメントしている(甲421)。

本件において被告関西電力は,FO-A~FO-B~熊川断層の断層下端深さは18kmにしか設定していないから深めの設定とは言えず,断層上端も地表3kmの位置にしか設定していない。入倉・三宅式のばらつきを考慮したパラメータ設定もしていない。断層幅は15km(傾斜角75°以外のケース)若しくは15.5km(傾斜角75°のケース)に過ぎず,断層が敷地近傍にあることに鑑みた特に大きな余裕の設定もしていない。

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 6 震源を特定せず策定する地震動

「震源を特定せず策定する地震動」の「各種不確かさ」の扱いについて藤原氏は,「長期的な課題として検討が必要なもの」と断りつつも,「敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮することができるように,実際に観測された地震動記録の位置付けを確認したうえで,将来起こりうる地震動を包含するようなハザードモデルを構築し,地震動レベルの設定を行う必要がある」(3(2))と証言している。

藤原氏において,本件で被告関西電力が行っているような,特に既往最大という訳でもない,偶々観測された北海道留萌支庁南部地震HKD020観測点や鳥取県西部地震賀祥ダムの各観測記録を直接用いるような方法では,不十分であると認識していることは明白である。

 7 小括

以上の通り,藤原氏の証言からしても,本件基準地震動が不十分,不適切なものであることは明白である。

その原因の1つは,原子力規制委員会において,基準地震動に係る新規制基準の検討を十分に行われないままこれを施行し審査を進めていることにある。不十分な規制基準に基づく適合性審査では大飯原発の耐震安全性は確保されない。

以上

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