◆原告第48準備書面
第3 本件避難計画の問題点

原告第48準備書面
―「大飯地域の緊急時対応」の問題点―

2018年(平成30年)3月23日

目 次(←原告第48準備書面目次に戻ります)

1 本件避難計画そのものの不合理性
2 高浜原発との同時事故が想定されていない
3 複合災害への対応の不十分性
4 学校・保育所等における子どもの引き渡し等についての問題



第3 本件避難計画の問題点

 1 本件避難計画そのものの不合理性

(1) 本件避難計画は、被告国が定めた原子力災害対策指針に従って、原発から5キロメートル圏内をPAZ、30キロメートル圏内をUPZと定め、その圏内の自治体、その圏内に居住する住民のみを対象に定められている。

しかしながら、そもそも原発の過酷事故によって生じる放射性物質の放出やそれに伴う放射線被害は、決して原発から同心円状に拡がるものでもなく、ましてや30キロメートルの範囲にとどまるようなものでも決してない。このことは、福島第一原発事故による被害状況を見れば明らかである。

本件避難計画は、その避難計画の対象を30キロメートル圏内にとどめていること、この一点のみをとっても福島第一原発事故の被害の実相を踏まえない、極めて不合理なものであると言わなければならない。

(2) 高浜原発広域避難訓練で指摘された問題点
2016(平成28)年8月27日、内閣府、3府県(福井県、京都府、滋賀県)及び関西広域連合による合同原子力防災訓練(以下「高浜原発広域避難訓練」という。)が実施された。すでに原告第27準備書面で主張したとおり、高浜原発広域避難訓練では様々な問題点が明らかになった。

例えば、地震との複合災害が想定されながら、地震による建物の倒壊や半倒壊、それに伴う住民の公共施設への避難を想定した訓練を実施したのは、ごく一部の地域のみであった。また、地震による道路の通行止めなどは想定しないまま、高速道路を利用して訓練が実施された。

地震との複合災害であれば、地震に伴う津波の発生、津波警報や注意報の発令に伴う避難勧告、避難指示などが当然に想定されなければならなかった。そして、津波からの避難を想定した場合には、自宅内や平地にある公共施設ではなく、屋外であっても高台への避難が最優先されるのに、屋内退避訓練のみが実施された。さらには、屋内退避訓練の実態も、対象地域の消防団あてメールに通知を送信し、当該地域の消防団員が地域を見回って呼びかけるだけというものであった。

とりわけ、船舶による避難については、訓練当日、天候状況により予定していた船舶が出せず、避難訓練を実施することができなかった。そして、1年間のうち約半分の日は同様の天候であり、船舶による避難が実施できないという現実に直面することとなった。また、船舶による避難が可能な天候状況であったとしても、事故を起こし、大量の放射性物質が放出されているはずの大飯原発や高浜原発の外海を通って避難者を迎えに行くこととなる。このような、従業員を極めて危険な状態にさらすような業務を、民間の観光船運航会社が了解するのか、船舶に乗務する従業員に対して業務を命じることができるのか、問題点が指摘された。

本件避難計画は、高浜原発と同地域にある大飯原発が重大事故を起こした際の避難計画でありながら、高浜原発広域避難訓練で指摘された問題点については、何ら解決策が示されていない。まさに、問題点を抱えた、不合理な避難計画であると言わざるを得ない。

(3) 屋内退避の問題点
そもそも、本件避難計画においては、大飯原発において重大事故が発生した後、放射性物質が放出され、緊急モニタリングの結果によりOIL1及びOIL2に指定されるまでの間、住民は屋内退避をするとされている。しかしながら、地震等が発生し、目の前で原発事故が起き、または起きようとしているときに、住民に屋内退避を続けさせることは極めて非現実的であると言わざるを得ない。

福島第一原発事故後の状況を見ても、福島第一原発において緊急事態が発生したと報じられた時点で、多くの住民らが自家用車で避難を開始している。
放射線による被害を考えれば極めて当然の対応であり、かかる住民らに対して屋内退避を指示することがいかに不合理なことであるかは明らかであろう。

(4) 一時移転等の手段について
本件避難計画は、一時避難等の手段について、渋滞抑制の観点から原則バスによる移動を実施するとしている。しかしながら、上述したとおり、目の前で原発事故が起き、または起きようとしているときに、屋内退避をし、一時集合場所まで徒歩で移動し、そこからバスで移動することを住民らに指示し、その指示に従わせることは極めて不合理であると言わざるを得ない。移動手段のない住民に対する受け皿としての移動手段の確保としてならまだしも、UPZ内の全ての住民を対象として原則としてバスによる移動を指示し実施するという本件避難計画は明らかに不合理なものと言わざるを得ない。実際、輸送手段の確保の項目では、「住民の75%がバスによる一時移転等が必要になると想定」しており、そもそも本件避難計画自体、UPZ内全ての住民をバスで移動させようとすらしていないのである。

そして、移動手段であるバスの確保について、本件避難計画では、必要車両台数を1417台と想定し、京都府内バス会社保有車両が2298台に対する要請で確保するとしている。しかしながら、京都府内のバス会社がそれだけの台数を保有しているとしても、そのすべてが舞鶴市ないし京都府中部・北部地域にあるわけではなく、むしろ、京都市内をはじめとする京都府南部地域に集中している。その場合、京都府南部地域から放射性物質が放出しているUPZ内に向かってバスを移動させなければならないこととなる。船舶での避難訓練で指摘された問題点と同様に、従業員を極めて危険な状態にさらすような業務について民間会社が要請を受諾するのか、乗務する従業員に対して業務を命じることができるのか、この点は極めて重大な問題点である。

(5) 孤立集落への対応の問題点
上述したとおり、本件避難計画においては、自然災害等により住民が孤立した場合の対応として臨時ヘリポートと整備するとされている。しかしながら、具体的な例として挙げられている舞鶴市大浦半島、綾部市奥上林地域のいずれにおいても指定されているのは、あくまで「ヘリポート適地等」に過ぎない。

また、半島や沿岸部については船舶による避難をするとされているが、具体的な例として挙げられている舞鶴市大浦半島においては、成生漁港、田井漁港等が利用する港の例として挙げられている。本件避難計画でも例に挙げられている成生漁港は、高浜原発広域避難訓練においてまさに船舶による避難訓練が予定されていたが実施することができなかった漁港である。舞鶴市避難計画では海上保安庁の船舶による避難が計画されていながら、海上保安庁の船舶は、その大きさの関係で使用することができず、やむなく関西電力がチャーターした観光船も天候状況により船を出すことができなかったのである。問題点が具体的に指摘されているにもかかわらず、その点には全く答えないまま本件避難計画は策定されており、不合理な計画であると言うほかない。

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 2 高浜原発との同時事故が想定されていない

冒頭述べたとおり、現在、福井県の若狭湾沿岸では大飯原発3号機だけではなく、高浜原発3号機、同4号機も運転している。大飯原発1、2、4号機、高浜原発1、2についても運転はしていないものの、施設内には高レベルの放射性物質である使用済み核燃料が保管されたままになっている。大飯原発と高浜原発は直線距離で13キロメートルほどしか離れていない、極めて近接した場所に立地している。福井県の若狭湾沿岸地域で大きな地震や津波が発生するような事態が生じた場合、大飯原発と高浜原発が同時に重大事故を引き起こす可能性は否定できない。

しかしながら、本件避難計画は高浜原発との同時事故は想定されないまま策定されている。上述したとおり、本件避難計画そのものが不合理なものと言わなければならないが、本件避難計画を前提としたとしても、大飯原発と高浜原発で同時に重大事故が起これば、避難の対象となる地域も、対象となる住民も増えることとなり、移動手段の確保の点でも、避難先の確保の点でも問題が生じることは明らかである。

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 3 複合災害への対応の不十分性

本件避難計画は、地震や津波などの自然災害の発生と原発の過酷事故が同時に発生することを一応想定したものとされているが、その対応は全くできていないものと言わざるを得ない。

自然災害等により道路が使用できない場合として、半島部や沿岸部、中山間地域で住民が孤立した場合を想定し、海路や空路による避難が計画されている。その避難計画の問題点についてはすでに述べたとおりである。加えて、地震や津波などの自然災害によって道路が使用できないことによる問題点は、決して半島部や沿岸部、中山間地域に想定されるものではない。高速道路などは震度5を超える地震が発生した場合、原則として通行止めとされる。一時移転等の指示が出されるまでに高速道路が当然に復旧するとは限らず、一般道路についても同様に、地震による寸断や通行止めなどが想定されなければならない。

本件避難計画では、避難先への主な経路として複数の経路が設定されており、また、代替経路を設定するとされているが、国道27号線や舞鶴若狭自動車道、京都縦貫自動車道など、もっとも主要な避難経路が寸断し、あるいは通行止めとなった場合、避難が困難を極めることは明らかである。道路の復旧についても、道路等の管理者が応急復旧作業を実施するとされているが、放射性物質の放出によって復旧作業そのものが不可能ないしは極めて困難になる場合も考えられ、被害の程度によっては復旧に長期間を要する事態も想定されなければならない。

また、道路が使用できなくなる場合は、決して地震等による寸断や通行止めに限られない。京都府北部地域は、冬季は降雪によって道路利用が困難になる事態も想定される。この点について、本件避難計画は、「京都府における降雪時の避難経路の確保」(37頁)として、除雪対策について述べているが、あくまで京都府や各市町、国土交通省近畿地方整備局、高速道路会社の通常の除雪計画によるとされているのみである。本年2月、福井県内で大規模な雪害が発生し、北陸自動車道は通行止めとなり、国道8号線などの主要国道も長時間にわたって通行できない状況となったことは記憶に新しい。当然ながら、福井県や各市町、国土交通省や高速道路会社は、その除雪計画に従って除雪作業を行ったにもかかわらず、その除雪能力を超える降雪があったのである。このように通常の除雪計画に従った除雪作業では対応しきれない事態が現実に起こっている中で、本件避難計画が、各道路管理者の除雪計画任せにしているのは極めて無責任な対応だと言うほかない。また、原告第49準備書面で述べているように、台風や豪雨による交通の遮断や集落の孤立も問題とされなければならない。

さらに、地震や津波等の自然災害との複合災害を想定するにあたっては、地震等による被災者の救助活動や救済活動との両立を当然に想定しなければならない。この点について、本件避難計画は「自然災害等(地震)により屋内退避が困難となる場合の基本フロー」(91頁)として、家屋が倒壊した住民について、近隣の指定避難所等に避難することだけが定められているが、その倒壊した家屋の下にいる被災者をどのようにして救援し、救済するのかについて何ら手当てがなされていない。この点についても、複合災害を想定した対策については極めて不十分だと言わざるを得ない。

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 4 学校・保育所等における子どもの引き渡し等についての問題

本件避難計画においては、上述したとおり、UPZ内の学校・保育所等の防護措置として引き渡しや避難についての手続が定められている(73頁)。各学校等は、各市町の教育委員会の指示により保護者への連絡及び児童等の引き渡しを実施し、児童等の引き渡しが完了しないまま全面緊急事態に事態が進展した場合、最終的には職員等とともに避難先へ避難し、避難先で保護者への引き渡しを行うとされている。

しかしながら、地震や津波といった事態が生じている場合、保護者自身も被災し、被害を受けているという事態が当然に想定され、すべての保護者が子どもを引き取れる状態にあるとは限らない。その場合、学校・保育所等の職員は、いつまで子どもたちに責任を持つことになるのか、保護者が子どもを引き取ることができない場合の対処はどうするのか、極めて曖昧な状態におかれることとなる。さらには、子どもたちに対しては、速やかに安定ヨウ素剤の配布と服用を実施しなければならないが、保護者が被災している場合、その判断と責任についても手当てがなされているとは言い難い。

子どもたちを放射線被害から守るという観点で、本件避難計画は極めて不十分である。

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