◆原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

2018年(平成30年)6月8日

原告第51準備書面

【目次】

1 はじめに
2 スリーマイル島の原発事故の後処理
3 日本原電東海発電所の廃炉作業
4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)
5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)



1 はじめに

 (1) 原告らは、平成25年5月25日付第12準備書面の中で、福島第1原発の廃炉の困難性について大雑把な素描をした。原発問題を取り上げるとき、廃炉の危険性,困難性への言及は避けて通れないからであるが、素描にとどまったのは、福島事故後2年くらいしか経っていない段階で、廃炉の見通しについてあれこれ論評し、短絡的に結論を出すのは相当でないと思料したからである。

それから5年。はたして福島第1原発の廃炉作業は進捗したであろうか。結論的に言えば、毎日5000人ないし6000人の人たちが懸命に作業をしているにもかかわらず、廃炉ロードマップに示された作業は遅々として進んでいないと言うのが現実の姿である。
確かに4号機の核燃料の取り出し、移転など廃炉に必要な作業工程を終了させた一部の進捗面があるものの、廃炉全体を通じていえば、いろいろ困難な壁が次から次へといくつも出てきて、暗闇の中を手探りで進むような作業となっている。

 (2) 廃炉の危険性、困難性

廃炉は、高濃度の放射能に汚染された原子力発電所の原子炉、格納容器及び建屋その他のガレキなどをきれいに撤去し、その区域を放射能のない安全な場所によみがえらせることにある。どんな原発でも、停止・閉鎖には廃炉作業が不可欠なのである。

しかし、一般的に言えば、廃炉は、まず高濃度の放射線に汚染されている核燃料棒を安全に取り出し、保管する必要があり、次にやはり高濃度に汚染されている建屋や原子炉の解体がそれに続く。放射線の飛散や吸引を無視するわけにはいかないから、廃炉は慎重の上にも慎重な作業が求められ、困難を極めざるをえない。

次に、解体が終了したとき新たな問題が発生する。ほかでもなく解体された建屋・原子炉の廃棄物の最終処分場の問題である。わが国には,「トイレなきマンション」を建てたのと同じだと峻烈な批判がなされているように,使用済み燃料棒や放射線物質に汚染された廃棄物の最終処分場がつくられていない。どこで、どういう方法で保存し、どう最終的に処分するのか。それが現実に決まらなければ,廃炉すらできないのであるが、我が国にはそれがない。それにもかかわらずどんどん原発をつくり、稼働して核燃料やゴミを大量に排出している。これをどうするのかが大問題なのである。

要するに,原発という魔物をいったん生誕させたら,これを死なすことも自由にできなくなってしまうのである。

次項にこうした廃炉作業の困難性と悪戦苦闘ぶりを、福島第1原発事故に先行したアメリカ・スリーマイル島の原発事故と日本原子力発電(株)の東海発電所の廃炉作業を取り上げて具体的に述べることとする。

その前チェルノブイリで取られた石棺方式について述べておく。

 (3) 石棺方式の否定

石棺方式とは、原発爆発により一部破損した建屋、原子炉その他関連施設全体を大きなコンクリートかステンレスですっぽり覆ってしまって、放射性物質を100年程度はそのまま閉じ込めてしまうやり方がある。チェルノブイリ原発ではこの方法を採った。つい最近(2018年)コンクリート製の覆いの消耗が激しくなってきたので、ステンレス制の大型屋根と交換された。これは放射線を除去して被災地をよみがえらせる作業ではなく、一定期間密閉して放射線の自然減衰を待つと言うものである。密閉していると言っても、放射線汚染地という評価は100年なら100年は続くであろうから、暫定的な封じ込めであって問題の根本的な解決にはならない。従って福島県や地元自治体も住民も石棺方法には猛反対である。廃炉を進める東電及び国も現実の廃炉を目指している。

 (4) 廃炉のためにしなければならないことは、福島第一原発の状況から見て大きく分けて3つあると言われている。

1つは、汚染水対策。

2つめは燃料(デブリ)の取り出し。

そして3つめが解体・片付け(廃止措置)である。いずれも高濃度の放射性物質によって汚染されているから、作業は困難を極める。

以下に、福島第一原発ではこの3つの課題がどのように進んでいるか、進んでないとしたら、その原因がどこにあるのか、そしてその解決のためには何が必要になって来ているかを明らかにしていく。

 (4) 原告らの思い

念のために断っておきたいのは、原告らは福島第1原発の速やかな廃炉を期待し、強く望んでいる。それなくしては、福島県住民の安全と健康を確保できないから、帰還はもとより不可能であり、従って被災地の復興も復旧も半永久的にありえないからである。だが、ひとたび事故を起こした福島第一原発の廃炉過程がいかに危険極まりない困難な作業であるかを事実に即してリアルに記述していくことは、原発の安全性神話から人々を覚醒させ、原発停止の必要性を理解する上で是非とも必要なことであると思料する。

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2 スリーマイル島の原発事故の後処理

 (1) スリーマイル島=TMI(Three Mile Island)の原発事故は、デジタル大辞泉によると、「1979年3月28日、米国のペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所2号機で発生した大規模な原子炉事故。営業運転中に発生した給水ポンプの故障を発端とし、運転員が非常用炉心冷却装置(ECCS)を手動で停止するなどの誤操作が重なって、冷却材喪失事故に発展し、炉心溶融を起こした。放射性物質の一部が環境に放出され、近隣住民が避難したが、被曝線量は平均0.01ミリシーベルト、最大でも1ミリシーベルトで、放射線障害は起きていないとされる。原発事故の度合いを示す国際原子力事象評価尺度でレベル5に分類される」と説明されている。

 (2) スリーマイル島原発事故は、全世界に衝撃を与えたが、それから32年後の2011年に起きた福島第1原発に比べると、爆発の規模ははるかに小さかった。外部に放出された放射線量も長期の避難住民が出なかったほどにすくなかった。

2号機の廃炉は、1979年に決定された。スリーマイル島原発では、事故の規模も小さく、燃料棒の冠水もすぐさま回復されたので、原子炉の中にデブリは出来ていないだろうと推測されたが、案に相違して100トンのデブリが存在していた。

デブリについて第12準備書面で述べた説明は部分的であり、不正確であったので、ここで改めて述べておく。デブリ、あるいは燃料デブリとは、原子炉の事故によって溶け落ちた核燃料が原子炉のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものである。スリーマイル島原発ではその硬さは鉄の棒をも全く寄せ付けなかったと言われている。

スリーマイル島原発事故では、原子炉の真上に作業台を設置し、そこに特殊ドリル(デブリを掘削し、取り出す)操作用機械を設置した。そこから水中に特殊ドリルを入れて掘削・取り出し作業を行った。しかし水の中は、大量の微生物が発生していて視界がさえぎられ、作業は困難を極めたといわれている。

核燃料すなわちデブリの取り出しを開始したのが、事故後6年目からであったが、完了したのがそれからさらに5年後の1990年であった。

この燃料棒取り出し作業を指揮したウイリアム・オースチン氏は、NHKスペシャル番組「廃炉への道」(2014年)の取材を受けて、「スリーマイル島の場合のデブリは原子炉の中に存在したが、フクシマの場合は圧力容器の底をすり抜け、格納器の底に落ちている。しかも原子炉上部から水中30メートルの距離である。そんな深さに真上から水の中に工具を入れてデブリを取り出すことは非常に困難である」。「私たちと比較にならならないほどの困難です。日本に立ちはだかる困難さは想像出来ないほどです」と語っている。「困難さを想像できない」とは、殆ど不可能だと言っているのに均しい。

 (3) 2号機の原子炉内のデブリ取り出しは終了したが、直ちに廃炉手続きに入るのではなくて、1号機の廃炉を待って同時に廃炉する計画で待機となった。だが、所有会社の経営困難により1号機も2号機も予定より早く廃炉に入ることにしたとのことである。

3 日本原電東海発電所の廃炉作業

 (1) 日本原子力発電株式会社(以下、日本原電と略称する)東海発電所は、第12準備書面で紹介したように、日本で初めての商業用原子炉発電所として1966年7月に営業運転を開始した。それから福島第1原発事故までの45年間に52基の原発が日本列島を覆い尽くし、日本を原発大国に変化させた。

先駆的役割を果たした東海発電所は、原子炉や熱交換器の大きさに比べて出力が小さいこと、 燃料コストや発電単価が割高であること等から1998年3月31日をもって運転を停止し、わが国で初めての廃炉作業に入った。原発事故による廃炉でないという意味で「ふつうの廃炉」と呼ばれることがあるのは、前述したとおりである。

しかし、普通の廃炉でも、放射線との戦いになることは変わりないので、放射線の高い部分である原子炉領域の解体は非常な危険性、困難性が伴う。それで原子力領域は放射能を減衰させるため、安全貯蔵状態にしておく(2001年から18年間)。2019年度からいよいよ原子力領域の解体撤去工事にかかる。これに7年の年月をかけ、建屋全体の撤去工事等が完了する予定は2024年から2025年とされている。何かトラブルが発生したときはこの帰還予測がさらに遅れることはもちろんである。

運転停止から廃炉が完了するまでは約30年である。

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4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)

 (1) 汚染水の発生

本件福島第一原発の4基の原子炉の中に、今も、上から水を入れ続けなければならない。そうなれば当然放射線による汚染水が増量してしまうが、しかし福島第一原発ではそれが不可避である。その理由について、前掲の「廃炉図鑑」は次のように説明している。「事故直後、津波の影響で非常用電源も含めた電源設備が水没し、1~4号機すべての電源が止まりました。その結果、燃料を水で冷却するシステムが使用できなくなり、原子炉の中の燃料が高温になって、燃料自体が溶け出しました。できたのがデブリと呼ばれるかたまりです。これは原子炉の中の『圧力容器』という金属でできた容器の底を溶かして突き抜けました。燃料デブリを冷やさないとさらに発熱して周りのものを溶かし、放射性物質も発生してコントロールができなくなります。被害を拡大させないためにはこれを水で冷やさなければならない。そこで原子炉の中や『使用済み燃料プール』と呼ばれる使い終わった燃料やこれから使う新しい燃料が入っているプールを冷やすため、原子炉建屋に水を入れようという作業が始まりました」(甲第445号証92頁)。

また、福島第一原発の山側から海側に向かって地下水が流れており、それが高線量の放射性物質によって汚染された建屋の下を通るので、毎日400トンという汚染水が発生した。これをそのまま海に流すわけにはいかないので、その処理が急がれた。

 (2) 汚染水処理の「成果」

それで、事故直後は水をヘリコプターで吊して運んできて原子炉の上からかけたり、消防ポンプとホースを利用して水を注いだり等の応急的な対応をしてきた。

しかし、そうして原子炉の中に注いだ水が建屋の外に漏れ出ているのが分かったため、これを防止する下記のシステムや施設などを設置したりして、ある程度「落ち着いた状態になった」と言われている(前掲「廃炉図鑑」甲第445号90頁以下)。

 ア 汚染水を循環させるシステムを確立した。
応急処置的にプロセス建屋の地下の部屋に止水工事をして汚染水を貯めることにし、やがて金属製の貯蔵タンクを大量に用意をして、そこに貯めていく。さらに貯蔵タンクにすべての水を流すのではなく、一部を再び建屋に戻し燃料冷却のために使用することで汚染水発生量を減らすシステムができた。

 イ 汚染水から放射性物質を取り除く、巨大な汚染水処理システムをつくった。
循環冷却が安定したとしても、汚染水の循環であるから、循環している間に原子炉建屋の汚染源に触れ続けると汚染濃度が高まって危険度が増すので、汚染水循環過程でこれを浄化させていく巨大システムをつくった。

 ウ ALPS(多核種除去設備)、モバイル型ストロンチウム除去装置での浄化処理を開始した。
ALPSの導入以前は汚染水の中のセシウムしか除去できなかったものが、ALPSの導入によって62種類の核種、放射性物質を取り除くことができるようになった。

 エ 凍土壁を設置した
原子炉建屋の中に毎日300m3の地下水が流入していたが、平成27年(2015年)ころになって地下水バイパスやサブドレンの汲み上げなどによって150m3に減らすことができた。それ以上に減らすにはどうしたらよいか。それで考えられ、実行されたのが凍土遮水壁(以下、単に凍土壁という)である。

凍土壁は、原子炉建屋に1~4号機を囲むように約1500本の管を1メートル間隔で地下30メートルまで打ち込み(全長約1.5km)、そこに氷点下30度の液体を循環させて凍土の壁をつくり、原子炉建屋に地下水が流れ込むのを防ぎ、汚染水の発生を抑える方法である。平成29年冬にはほぼ完成した。しかし、凍土壁による汚染水発生量の低減効果は1日約80トンにとどまる(甲第446号=2018.3.8付京都新聞夕刊)。

 (3) 今後の課題

平成29年6月策定の廃炉汚染水対策関係閣僚会議による「福島第一原発の廃止措置に向けた中長期ロードマップ」(甲第442号証。以下これを改訂廃炉ロードマップという)は、汚染源を取り除く、汚染源に水を近づけない、汚染水を漏らさないの3つの観点から予防的・重層的な対策を講じるとしている。

そこに掲げられた改良点は随時追求されて行くべきであろう。

しかし、次の2点はどうしても指摘せざるを得ない。決してめでたし、めでたしではないのである。

 ア 1つは、凍土壁の費用対効果である。凍土壁の構築には国費345億円が投じられた。その上今後も凍結の維持に年間10数億円がかかると言われている。廃炉まであと40年かかるとすれば、4000億円もの国費が投入されることになるのである。それだけの国費を注ぎ込んでも、当初掲げた「凍土壁構築後は、遮水壁内には外部からの地下水流入が殆ど無くなる」という目標にもかかわらず、一日80トンの汚染水しか減量できない(逆に言えば汚染水の発生は一日約150トン程度になる)という結果には落胆を禁じ得ない(原子力規制委員会はもともと凍土壁の効果に懐疑的であった)。

前記改訂廃炉ロードマップは、「2020年内に、‥‥汚染水発生量全体を管理して、その総量を150m3/一日程度に抑制する」という目標が掲げられているが、凍土壁のどこから地下水が入り込むのか具体的場所を突き止めてこの目標を実現させることこそが急務である。

 イ 2つめ貯蔵汚染水の処理の問題である。
トリチウムを含んだ汚染水は前述したように金属製タンクに貯蔵され、福島第一原発の敷地に並べられている。しかし、後2、3年で並べるスペースもなくなる言われている。ではどうするのか。

直ちには何の改善策もないのである!

根本的には核燃料や廃棄物の中間貯蔵施設や最終処分場を持たないで原発開発を進めてきた、いわゆる「トイレ無き原発」推進政策が破綻しつつあるのである。

一部には、希釈して海に流出させれば良い、海が希釈してくれると言う意見もあるようだが、希釈の可否の問題ではない。たとえ何年か年中年か先には希釈されるとしても、放射線汚染水が流された海で獲れた魚を誰が食べるのか。そんなことをすれば福島県の漁業は壊滅する。漁業関係者は死活問題に追い込まれる。住民の健康と安全の確保、地元の復興、復旧のための廃炉と言う目的がいつの間にか変質し、住民の生活を奪い、死に追いやるような方針を絶対に許してはらない。

このジレンマを解決しない限り、廃炉は決して実現しないのである。

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5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)

 (1) 1~4号機の内部状況

爆発を起こした1号機ないし4号機の原子炉の状況は現在(2018年3月11日時点を指す。以下、同じ)どうなっているだろうか。それがよく分からない。何故なら原子炉内の放射線量が高くて近づけないから、内部の状況をよく把握出来ないのである。それが分からなければ、デブリの安全な取り出しについて対策を立てようがないから、その詳細な状況の把握が不可欠である。以下にそれを素描する。

 ア 4号機の状況について
まず4号機は前述したように、5号機、6号機とともに定期検査のために発電を止めて、原子炉内から燃料棒を取り出し、使用済み燃料プールに保管していた。4号機の爆発は何らかの原因によって発生した水素(3号機から発生した水素が回り込んだという説には疑問が呈されている―甲3号証=国会事故調報告書160頁)が爆発し、4階、5階部分を吹き飛ばしたものであって、原子炉内の燃料棒が爆発したものではなかった。それゆえ、4号機原子炉内にはデブリは発生していない。しかも懸念された燃料プール内に水が満たされていたので、燃料棒の爆発と放射能拡散の危険はひとまず収まり、その廃炉作業は「ふつうの廃炉」と同じように進めることができている。

4号機の燃料プールに貯蔵されていた核燃料棒は1535体であった。これを取り出して安全な場所に移転する作業が2013年11月18日から開始された。細心で慎重な作業が約1年続けられた結果、2014年12月22日までで無事終了した。

ただし、原子炉内にはその後も水が満たされている。燃料棒はないが、放射線に汚染された構造物等が原子炉内に残置されており、これを冷却するためである。この高汚染水の処理が今後の課題となっている。

 イ 1号機ないし3号機の状況について

  1.  これに対し、メルトダウンした1号機ないし3号機の原子炉は、放射線量が高く、人が近づけない。それで次次と作業用ロボットを製作し、それを遠隔操作して、原子炉内の状況を把握しようとしてきた。しかし、その結果分かったことは必要な情報のごく一部のみであって、大部分は失敗の連続であった。
  2.  1号機の燃料プールには使用済み核燃料が392体、2号機には615体、3号機には566体保管されている。合計1573体である。
    3号機の566体は強い放射線を出す使用済み燃料と未使用燃料を合わせた数字であるが、これらの燃料棒の取り出し・移転は、燃料デブリをはじめとする今後の廃炉作業を安全に進めるために必要であるので、2014年から開始する予定であった。しかし、東電は3度にわたり、開始を延期してきた。平成29年9月の改訂廃炉ロードマップ(甲第442号証)では、2018年中頃を目途に取り出しを開始するとされている。屋上に燃料取り出し用のカバーが設置されて、そのための準備が進んでいる。
    1号機、2号機の使用済み核燃料の取り出し・移転について政府が策定した廃炉工程ロードマップ(1次=甲193第号証)では、燃料取り出し・移転の開始は「2020年目途」とされていたが、それが3年遅れとなり、2023年となった。4号機の核燃料棒の移転は前述のように1年有余の年数を要したが、これと比べると、例えば1号機などはオペレーテイングフロアのガレキの散乱が激しく、これを整理し片付けながらの作業を余儀なくされるので、4号機よりもはるかに多くの時間を要することが予想される。
  3.  1号機ないし3号機の原子炉内部は本件爆発事故当時運転中であったため、燃料棒は高熱によって溶融し、デブリ化した。この燃料デブリの取り出しが廃炉の成否を握る最大の難関である。しかし、前述したように、1号機ないし3号機の内部状況は必死の努力にもかかわらず未だ殆どつかめていない。理由は繰り返し述べてきたように放射線量が極めて高く、人が近づけないためである。それでロボットを製作し、これを遠隔操作して線量や内部のデブリの状況を知ろうしてきたわけであるが、その結果分かったことはごく一部であって、まだまだ全容解明にはほど遠い状況にある。
    放射線量についてロボットから送られてきた情報によると、2号機の原子炉外で原子炉を支える基礎の部分で531シーベルトの放射能が存在していることが分かった。これは人間が1分間浴びたら即死亡するというほどの異常値である。そんな高い放射線量が原子炉外に存在する理由について誰も見当もつかないという状況である。
    2018年3月7日付朝日新聞によると、放射線量は1号機で1.5~12シーベルト/h(2017年5月調査)、2号機で7~42シーベルト/h(2018年1月調査)と報じている。

以上、要約的に言えば、原子炉内の状況については少しずつ分かってきた面があるものの、全体的に言えば未だ何もかもがボヤッ-としか見えない深い霧の中にあると言っても過言ではない。その点について改訂廃炉ロードマップでは、「燃料デブリに関する情報や燃料デブリ取り出しに必要な技術開発等が未だ限定的であることから、現時点で燃料デブリ取り出しを検討するには未だ不確実性が大きいことに留意し、‥‥不断の見直しを行う」と記述されている。要するに、今得られている情報からは、確信が持てる廃炉方針が具体的に定まらないということである。

 (2) デブリ取り出し作業の困難性

 ア 平成29年9月の改訂廃炉ロードマップでは、燃料デブリ取り出しに関する方針として、“ステップバイステップのアプローチ”とか、“廃炉作業全体(準備工事、取り出し工事、搬出・処理・保管及び後片付け)の最適化”とか、“複数の工法の組み合わせの必要性”とかなどについて言及しているが、これはもはやロードマップではなく、デブリ取り出し作業に着手・推進する側の心構えを述べたものに過ぎないというべきであろう。廃炉推進に関わる人たちの緊張感や必死さは伝わってくるけれども、具体的な廃炉作業工程について言及するところがないのである。

 イ デブリ取り出しの方法は、冠水工法と気中工法がある。福島第一原発の1号機ないし3号機にはすでに原子炉内に流入された水が満たされていたので、冠水工法によってデブリの取り出しが行われるという前提で進められてきた。水は、冷却効果の外に放射線を遮蔽する効力、さらにダスト飛散の防止効果を持っているので、冠水工法によれば放射性物質からの安全は確保されるという感覚で進んできた。

しかし、1号機ないし3号機の原子炉は小さな穴がたくさん開いており、水は外部に流れて貯まらない。その穴を防ぐべくコンクリート(いろいろな物質との化合を加えてのことであるが)を水と同時に流し込む実験をしたところ、水の流失は一応止まったとのことである。だが、その止水は実際に恒常的な安定性を有するのかは誰にも分からない。それが保障されなければ、工業化は難しい。

また、格納容器の底部に存在するデブリを冠水工法で取り出そうとすれば、オペレーテイングフロアから水中約10ないし30メートルの深さまで工具を吊り下げて入れて、遠隔操作をする必要がある。このような遠隔操作がはたして可能かどうか。可能としても非能率この上ないことは誰しも認めるであろう。

それで、改訂廃炉ロードマップでは、気中工法に軸足を置くとして、「現時点では冠水工法は技術的難度が高いため、より実現性の高い気中工法に軸足を置いて今後の取り組みを進めることとする」と結論づけている。

と同時に、格納容器の底に存在するデブリは上から出なく、横から取り出すことを先行させる。

しかし、気中工法の欠陥は、取り出し中のデブリから多量の放射性物質が飛散すること、それを防止しにくいことである。日本中どこの家屋解体でも多量の粉塵が飛散されることは常識であるが、本件の場合の粉塵は放射性物質によって汚染されているから、飛散を完全に遮断しなければならないが、その方法は未だ定まっていない。

 ウ 廃炉の最終目標は当然1号機ないし4号機の建屋解体、そのガレキ等の後始末まですることであるとしたら、放射性物質で汚染された廃棄物が相当量出てくるのは必定である。それをどこへ運搬し、どこで処分するのか。それが未だに具体的に決まっていない。改訂廃炉ロードマップではデブリ取り出し後の第3期で決定するとして先送りしているが、改めて述べるまでもなく、それが決まらなければ、デブリの取り出しなどには着手できないのである。

 エ それにもかかわらず、廃炉ロードマップでは、デブリ取り出し方法について2019年度までに確定し、2021年から初号機におけるデブリ取り出しを開始するとしている。

1号機ないし3号機の原子炉内外の状況について殆ど把握出来ていない2018年度時点に立って予測してみても、あと1年でデブリ取り出し方法を決められるはずがない。ロードマップは早晩改訂されることは確実である。こう頻繁に改訂を繰り返すのでは、ロードマップの名に値しない。

正直言って、現時点でのデブリ取りだしはあれこれ模索しているという以上の域を出ない。マスコミも「燃料デブリ 調べるほど多難」(2019年3月7日付朝日新聞朝刊=甲第440号証)、「廃炉 遠い道のり」(前同日付毎日新聞朝刊=甲第441号証)などとやや絶望的な見出しをつけて、デブり取り出しが遠い将来の課題となっていることを嘆じて報じている。

東電の社員は、“我々は世界中どこでも経験したことがないような非常に困難な作業を遂行しているのであって、次世代までしっかりと引き継いでいきたい”と胸を張る。その心意気を敢えて否定する気はないけれども、そう言うならその前に本件福島第一原発の事故は天災ではなく、平成14年から18年にかけて津波の長期評価等から知り得た15メートル以上の津波が襲来する可能性を無視して何の対策も取らなかった被告東電と、適切な改善指導をしなかった国の責任であることを忘れてはなるまい。東電と国の責任は原発避難賠償訴訟で各地の判決(今日までの判決として前橋地裁平成29年3月17判決、福島地裁平成29年10月10日判決、京都地裁平成30年3月16日判決及び平成30年3月16日東京地裁判決)が明確に断じているところである。こんな大事故の収束作業を世界中どこでも経験したことがないという以前に、こんな大事故を起こした国は世界中どこにもないこと(チェルノブイリは例外であるが)に深く思いを致すべきである。

 (3) 廃炉の期間

計画通りうまくいって、仮に2021年からデブリの取り出しを開始することができたとしても、完了するのに何年かかるのだろうか。誰も予測もできない。実際やってみなければ分からないのである。

改訂廃炉マップは、デブリ取りだし開始から30年ないし40年という期間を挙げている。その年月を知って誰もがあまりの遠さに嘆息する。しかし、嘆息しながら何となくそれくらいの期間をかければ何とかなるだろうと思ってはいないか。そこが味噌だが、科学的にその保証はどこにもなく、ええ加減な感覚で言ってるに過ぎないのである。それが証拠には、30年~40年とひとくくりで言うが、その10年の差は何の違いがあってもたらされるのか、おそらく誰も答えられないであろう。
問題の先送りをしてごまかしているだけではないのかと言わざるを得ない。

 (4) ドイツの決断

ドイツは我が国と同じように原発大国であったが、福島第一原発事故の後大きく舵を切り、原発廃絶を国会で決議した。すでに2011年中に8基、2015年6月に1基が閉鎖された。現在(2018年現在)、9基の発電炉が稼働しているが、2022年までにすべての原発を停止・閉鎖する予定である。

ドイツを全原発廃炉に踏み切らせた理由は何か。それは、日本のような科学技術先進の国であっても大規模な爆発事故が発生したことを重視し、人間が扱う以上原発事故は避けられないとして原発ゼロ国家へ転身したのである。

ドイツは福島第1原発事故から貴重な教訓をくみ取り、迷うことなく原発ゼロに踏み切った。ドイツは日本を教訓にした。今度は我々がドイツを教訓にして原発ゼロを実現さなければならないのである。

以上

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