◆原告第52準備書面
第3 破綻した「核燃料サイクル」について

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第3 破綻した「核燃料サイクル」について

はじめに
一、「核燃料サイクル」の仕組み
二、再処理工場の危険性
三、再処理工場は、操業開始の目途がたたず
四、再処理工場で大量放出される放射性物質
五、「再処理」で放射性廃棄物は逆に増える
六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
七、危険なプルサーマル計画


第3 破綻した「核燃料サイクル」について

 はじめに

「核燃料サイクル」の本質は、危険性に満ちており、且つ放射性物質の再生産に過ぎないという点である(甲448「研究所」20頁)。

 一、「核燃料サイクル」の仕組み

1、「核燃料サイクル」とは、天然ウランをほとんど産出しない日本において核燃料の「安定供給」のために、使用済み核燃料の再利用をめざす原子力政策である。

2、「核燃料サイクル」の仕組(甲448「研究所」20頁)
原発の燃料中に含まれるウラン238が中性子を取り込んで、自然界には存在しないプルトニウムが生成される。「核燃料サイクル」は、このプルトニウムを大量に生産し核燃料として使用する仕組みである。しかしながらプルトニウムは、先述のように(「第1、3項」)、最も恐ろしい放射性物質のひとつである。

「核燃料サイクル」をわかりやすく図示すると、下記「図1」(甲448「研究所」20頁)の通りである【図省略】。

「図1」の左側が「軽水炉サイクル」であり、いわゆる「プルサーマル」である。

「図1」の右側は、高速増殖炉「もんじゅ」が破綻したにもかかわらず、国がなお将来めざそうとしている「高速増殖炉サイクル」である。

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 二、「再処理工場」の危険性(甲448「研究所」26頁~)

1、再処理工場では、使用済み核燃料を化学的に処理する。また、前提として念頭におかなければならないことは、核燃料は使用済みであっても核分裂物質であり、危険な放射性物質であるという点である。

2、こうした危険な使用済み核燃料を原料として化学処理する「再処理工場」は、次のような三重の事故を起こす危険性があり、危険きわまりない施設である。即ち、

(1)、核施設として臨界(核分裂連鎖反応)事故を起こす危険性
(2)、放射性物質を漏洩し被爆事故を起こす危険性
(3)、化学工場としての性質上、火災・爆発事故などを起こす危険性
である。

3、再処理工場の工程では、次々と危険な物質が生産される(甲448「研究所」27頁 図2参照)【図省略】

(1)「使用済み核燃料」の再処理は、次のような過程を経る。
1)、使用済み核燃料棒を剪断して高温の硝酸で溶かし、ウランやプルトニウム等さまざまな核分裂生成物(「死の灰」)の混ざった溶液ができる。この工程では、使用済み核燃料棒の鞘のジルコニウム合金の火災や溶液過熱の危険があり、臨界事故の危険もある。

2)、上記1)の溶液に有機溶媒を加えて、ウランとプルトニウムを死の灰から分離して抽出する。この工程では、硝酸と有機溶媒が混ざることで極めて爆発性の高い化学物質が生じる。これは摂氏130度を超えると爆発し、アメリカやロシアでは、そうした事故が発生している。水素爆発・臨界事故の危険もあり、放射性物質が漏れる危険も高くなる。
「死の灰」は濃縮され、ステンレス容器にいれてガラスと混ぜて固められて「ガラス固化体」となる。「ガラス固化体」は、人が近づくと即死するほど強力な放射線と熱を出す危険なものである。

3)、ウラン溶液から硝酸成分を抜く「脱硝」工程を経て、酸化ウランの粉末にする。

4)、一方、プルトニウム溶液は、ウラン溶液と1対1の割合で混ぜてから加熱して脱硝し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)の粉末にする。この工程では、過熱事故や、超危険なプルトニウムが漏れる危険がある。

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 三、「再処理工場」は、操業開始の目途がたたず

  1、「東海再処理施設」

研究開発用に日本原子力開発機構が茨城県東海村に建設した「東海再処理施設」は1981年操業開始したが、度重なる事故・トラブルを起こした。1997年に低レベル廃棄物のアスファルト固化施設の火災・爆発で3年間運転休止した。2006年3月にその事故処理を終えたが、2014年9月に事実上の廃止となった(甲448「研究所」26頁左側)。

  2、「六ヶ所村再処理工場」の実情

(1)、他方、商業用としての青森県「六ヶ所村再処理工場」は、日本原燃株式会社が、1993年から建設に着手した。しかしながら、同工場は、再処理後の高レベル放射性廃棄物をガラス固化する工程の深刻な不具合をはじめ、遠心分離機の故障など度重なる技術的困難に直面し、いまだに本格稼働にいたっていない。これまで操業開始を22回も延期し、2014年10月に完成時期を2016年3月に遅らせた(2「研究所」26頁)。さらに、2018年に入って、再び完成時期は延期された。こうして「六ヶ所村再処理工場」は、これまで「試運転」程度に少し動いただけで、本格稼働は全くしていない。

(2)同再処理工場の建設費については、当初は1997年完成予定で7600億円と見込まれていた。しかしながら(1)で述べたように、完成時期は22回にわたり延期され、それに伴い建設費は2兆1900億円に膨らんでいる。さらに、福島原発事故後の新規制基準への対応のために、3兆円を超える可能性も指摘されている(2018年4月 日弁連シンポジウム「核燃料サイクル問題を考える」)

(3)、仮に同「再処理工場」が完成したとしても、その再処理の過程には、多くの問題が存在することは、上記で述べた通りである。

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 四、再処理工場で大量放出される放射性物質
(「第3、二、3」に掲記した甲448「研究所」27頁本文及び図2を参照)

  1、気体状放射性物質を大気中に放出

「使用済み核燃料棒」を、さや(被覆管)ごとぶつ切りにする時、原子炉内の核分裂で発生し被覆管に閉じ込められていたクリプトン、トリチウム、ヨウ素、炭素などの気体状放射性物質が、六ヶ所再処理工場の場合は高さ150mの巨大な排気塔から全て大気中に放出される。トリチウムの場合、原発の放出量の180倍も放出する。

  2、放射性物質の混じった廃液を海中に投棄

各工程の廃液には、トリチウム、ヨウ素、コバルト、ストロンチウム、セシウム、そして回収できなかったプルトニウムなど、あらゆる種類の放射性物質が混じっている。この廃液が、六ヶ所村再処理工場の沖合3km・深さ44mの海洋放出菅口から海に捨てられるのである。

 五、「再処理」で放射性廃棄物は「減る」のではなく、逆に増える

1、「ガラス固化体」にすれば、外見上「かさ」は小さくなるが、同時に膨大な量の低レベル放射性廃棄物が発生する。六ヶ所村の再処理工場では、原子炉での使用済み核燃料に比べて約7倍の廃棄物の発生が見込まれている。上記四の空と海への日常的な垂れ流しも含めると、もともとの使用済み核燃料に比べて約200倍もの廃棄物を生み出すと指摘されている(甲448「研究所」27頁右側)。

2、このように、再処理を行った場合、新たに膨大な放射性廃棄物を生み出すのである。また既に述べたように再処理過程において大事故を起こす危険が高く、ひとたび大事故が起きれば、放射性物質の被害は日本全体に及ぶ危険性がある。

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 六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
(甲448「研究所」28~29頁)

1、高速増殖炉計画については、欧米各国で深刻な事故が相次いだ。1987年にイギリスで蒸気発生器のナトリウム中を通る細管が40本も破断して大爆発を起こした。フランスの「スーパーフェニックス」もナトリウム漏れ事故を繰り返し、1998年に廃止された。危険性の高さと費用の莫大さから、欧米各国は高速増殖炉の開発を断念している。

2、日本では1985年に福井県敦賀市に実用二段階前の「もんじゅ」が作られた。しかしながら、「もんじゅ」も運転開始後すぐに約640kgという大量のナトリウム漏れを起こし、事故隠ぺいまで行い不信を拡大した。2010年5月にようやく再開したが3カ月後に長さ約12m・重さ約3.3トンの炉内中継装置を原子炉容器内に落下させる前代未聞の事故を起こし、再び停止した。20年経過しても220日しか稼働実績がない。「もんじゅ」を扱う「日本原子力研究開発機構」の安全軽視も改善されず、2012年11月に1万件を超える機器の点検漏れが発覚し、2013年5月、原子力規制委員会が運転停止命令を出した。

3、また、「もんじゅ」運転停止中も、維持費に1日に国費5500万円も食い潰しており、膨大な無駄遣いである。

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 七、危険なプルサーマル計画(甲448「研究所」20頁~)

  1、プルサーマル運転とは

ウランとプルトニウムとを混ぜた燃料(MOX燃料)を軽水炉原子炉で燃料として利用する仕組みである(前記8頁「第3、一、2」の「図1」参照)。

MOX燃料は本来、「高速増殖炉」で使用する予定であったが、高速増殖炉「もんじゅ」のトラブル続きで行き詰まり、MOX燃料が使えない状態が長年続き、放置するとプルトニウムが溜まり続け、国際社会から核兵器への転用の疑惑を招くことになる。これを回避するために、その場しのぎで始めたのが“プルサーマル計画”である。

  2、プルサーマル計画の危険性(甲448「研究所」15頁 右側)

(1)、燃料が均一でなく、燃え方のムラが起こり、高温のホットスポットができ、燃料棒が破損しやすくなる。

(2)、プルトニウムはウラン235よりも核分裂を起こしやすく、制御棒の効果が低下する。

(3)、高い燃焼度で出力変化も急激になり、冷却機能の悪化も起きやすく、不安定で暴走の危険が高まる。

(4)、プルトニウムによりアルファ線放出が多くなり、燃料棒内で生じる気体が増える(アルファ線がヘリウムに変化)。その結果、燃料棒内の圧力が高まり、燃料棒破損やピンホールなどで、放射性物質が冷却水に漏れる危険が増大する。

(5)、MOX燃料は、ウラン燃料より融点が数十度低下し、且つ燃料棒内の被覆管と燃料との間にたまる気体のために、熱伝導率が低下し燃料溶融を防止する制御の余裕が減少してしまう。即ち、暴走の危険性が高まる。

(6)、「MOX燃料として再利用」といっても、結局、最終的には、前述のように危険な「核ゴミ」を増加させるだけである。

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