◆原告第52準備書面
第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

一、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分に関する日本政府の処理計画
二、地震列島日本における地層処分の非現実性
三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻
四、日本学術会議の警告


第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

 一、「高レベル放射性廃棄物」に関する日本政府の処理計画

1、いわゆる「核のゴミ」には「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」とがあるが、「高レベル放射性廃棄物」についての日本政府の処理計画は、ガラス固化体にしたうえで深さ300m以上の深さの岩盤の中に埋めるとしている。

2、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する関係閣僚会議の確認を経て、2017年7月28日、原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、国土の約65%が「好ましい」とする「科学的特性マップ」(甲447[6 MB])を公表し、今後、マップを活用した説明会を全国各地で行い、処分場立地に向けた調査を複数の自治体に申し入れたいとしている。

3、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を2002年から公募してきたが、住民の反対が強く、未だ、受け入れた自治体はない。このため安倍政権は、「科学的有望地」を示して自治体に「申し入れる」など「国が前面にたって取り組む」ことを、「エネルギー基本計画」(2014年)と「最終処分基本方針」(15年)で決定した。その具体化の第一歩が、「科学的有望地」を示す「科学的特性マップ」である。

4、しかしながら、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関しては、以下に述べる通り、多くの問題を抱えており、全く見通しがたっていない(甲449土井和己著「日本列島では原発の『地層処分』も不可能という地質学的根拠」合同出版2014年10月10日第1刷 頁。以下、同著を引用する場合、単に「土井」という)。

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 二、地震列島日本における地層処分の非現実性

  1、先ず前提問題として確認しておかなければならいことは、甲449「土井」4頁表①が示すように、核ゴミに含まれる核分裂生成物には、半減期が例えばジルコニウム242は150万年、プルトニウムは37万年というように、極めて長期に及ぶものがある。高レベル放射性廃棄物については、少なくとも、人体に影響がないレベルまで低下するまでに10万年も要するという現実がある。この隔離管理期間は、原子力開発が始まった当初は約1万年とされていたが、放射線の人に与える影響に不明な点が多いことなどから、近年では安全側の考えをとって10万年とする関係者が多い(甲449「土井」5頁)。

  2、「10万年単位で保存」の意味

しかしながら、「10万年単位で保存」というが、逆に、10万年前はネアンデルタール人が活躍した時代であったことを想起すれば、「10万年単位の保存」が、想像を絶する長期の保存であるということを容易に理解できるであろう。

10万年後の日本がどうなっているかは、地震・火山活動を考えるだけでも想像もつかないのである。地震がいつどこで発生するか予知することは不可能ということが地震学の現在の到達点である。また地震とも関連が深い火山噴火の予知も事実上不可能であることは、2018年の草津白根山の連続した噴火でも明らかである(同火山の今回の噴火場所は、当初噴火の時は監視対象外であった)。

いまから10万年後に世界一の地震多発列島の日本列島がどうなっているか、人類が存在しているか否かについてさえ、誰も確実なことを言えないのである。日本で記録されているマグニュチュード(M)8(ないし、M8と推定されている)の巨大地震の実情は甲 「土井」71頁の表⑥の通りである(表⑥は、M8以上と推測されている地震を取り上げているため、M7.9と推定されている1923年9月1日の関東大震災すら含んでいない)。

  3、処分場立地の条件

(1)「化学的特性マップ」は、地層処分場の立地は、「地質環境の長期安定性を確保できる場所を選定できる」という前提にたっている。

同特性マップが、火山・活断層の近傍や石油・石炭など鉱物資源がある地域を、地下深部の長期安定性や将来の掘削可能性という観点から「好ましくない」としているのもそのためである。

(2)地層処分のために、「高レベル放射性廃棄物」は放射能の漏洩を防ぐために、ガラス固化体にしてオーバーパックや緩衝剤(これを「人口バリア」と呼んでいる。)に包まれて埋設される計画になっている。しかしながら、「人工バリア」は、地下水の中では腐食し放射能が漏れだすおそれがある。

(3)従って、「地下水の中では腐食し放射能が漏れだす」を前提にしたうえで、「天然バリア」として地下深く埋設するのが地層処分である。仮に地下水が出ても地表に到達するのを遅らせるという考え方に基づいて地層処分は計画されている。

(4)従って、地下水が流れやすい断層が近くにあってはならず、火山が近くにあってもダメである。鉱山など将来、地下深部を採掘することが予想される場所は論外である。地層の隆起・浸食が大きい所や地温が高い所も避けなければならない。

(5)従って、地層処分が安全であると言えるためには、地層処分のためのトンネルが掘られる対象岩石の安定性と、その地層処分の穴に地下水を近づけないこととが、必要条件である。

  4、日本の地質的特徴は、上記の必要条件を満たさない

(1)先ず第1に、本訴訟でも繰り返し指摘したように、日本列島は世界の地震発生の約1割が集中する世界1の地震多発列島であり、「地質環境の長期安定性の確保」など不可能である。

(2)世界的レベルで比較しても、日本は年間降水量が多い(甲449「土井」86頁「表⑧」)。しかも、(3)で述べるような日本の地質的条件もあり、深いところでも地下水が多い。

(3)日本の地質は「新生代」の岩石が多く、硬堅さにおいても、透水性においても、中生代や古生代の岩石に比べて劣るのである(甲449「土井」80頁「表⑦」及び地質年代表を参照されたい)。

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 三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻

1、欧米でも地層処分が想定されているが、ユーラシア大陸と日本とでは地層の安定性が大きく異なる。

2、しかしながら、その欧州でも、ドイツは地下の岩塩層のトンネルで保存なら安全と想定していたが、実際には、塩水びたしになってしまい、見通しが立っていない。

3、フィンランドでは巨大な岩の塊からできた島に掘った穴に核のゴミを保存する計画を立てたが、実際には岩にひび割れがあって、水が地上にあがってくること、即ち、放射能が地上に放出される危険性があることが判明している。


 四、日本学術会議の警告

日本学術会議は、地層処分について「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対して、現在の科学的知識と技術的能力では限界があることを明確に自覚する必要がある」と2012年9月に警告している。この警告を真摯(しんし)に受け止めるべきである。

以上

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