◆第1回口頭弁論 原告弁論・意見陳述
  第6 応援弁論 玄海原発差止訴訟

板井優弁護士(原発をなくそう!九州玄海訴訟弁護団共同代表)

1 私は、この裁判の原告代理人であると同時に、「原発なくそう!九州玄海訴訟」弁護団の共同代表をしています。

私は、こうした立場から「原発なくそう!九州玄海訴訟」の事を話して本日の弁論に参加したいと思います。

裁判長

2011年3月11日以降福島で起こった原発事故は、九州の私たちを「福島世代」にしました。

かつて、私は、8年6ヶ月水俣市にて水俣法律事務所を開設いたしました。それは、水俣病問題を解決するためでした。ところで、今回福島で東電の原発事故が起こるに及んで、九州では原発は何が何でも廃炉にしなければと思い、今回の原発差止め裁判になりました。私たちは、その訴状を「原発を廃炉に」とのブックレットにして公刊しました。

2 玄海原発差止め訴訟の概要

九州にある原子力発電所には、佐賀県の玄海町にある玄海原子力発電所、鹿児島県の薩摩川内市にある川内原子力発電所の2カ所があります。今、玄海原発のある佐賀地方裁判所には6097名の原告が150名以上の原告代理人と共に、玄海原発の1号機から4号機の操業中止を求めて裁判をしています。私たちは、今年中に1万人を超える原告の参加を求めて追加提訴をしています。私たちの兄弟訴訟である「原発なくそう!九州川内訴訟」は現在約2000人の原告で川内原発の1号機、2号機の操業中止を求めて裁判をしています。これが今、九州にある原発の全てです。

私たちは、2011年夏頃から裁判を準備し、2012年1月31日に裁判を提起しました。

以下は、私たちがどのように原発を廃炉にしていくのかについて述べたいと思います。

3 東電福島第1原発における原発被害をどう考えるか。

私たちは、今年春に、「原発を廃炉にパートⅡ、1万人原告の挑戦」というブックレットを出しました。この本の中で、大きくページを割いているのは、原発の危険性であります。福島では、今なお15万人以上の人が故郷を離れて生活しています。私たちは、福島での原発被害は、半永久的・壊滅的被害と呼んでいます。今年の連休に福島市の隣の飯館村に行きましたが、村民は居ないゴーストタウンでした。この事故で東電はほぼ倒産し国有化されるにいたりました。この事故が起こり、福島では、東電福島第1原発のみならず、第2原発も含め全ての原発の廃炉を求めています。この被害を受けた福島県民はまさにその立場から当たり前の要求を述べているのです。

私たちは、同じような事故は2度と起こしてはいけないと考えています。もう一度起これば、この国は、日本は壊滅すると思っているからです。いうまでもなく、わが国の上空にはジェット気流が西から東に高速で流れています。福島は、そのジェット気流のわが国での終点です。しかし、九州はわが国ではジェット気流の始発点です。私どもの原告が中心になって、玄海原発付近から風船プロジェクトを行いましたが、遠くは奈良県まで風船が飛んでいます。この裁判で問題にしている福井県から数々の風船プロジェクトが行われ、遠くは埼玉、千葉まで風船が飛んでいます。もう一度原発事故が起これば、まさにわが国全土が被害自治体・住民になるのであり、人の命や健康だけでなくわが国の経済も含めて全て壊滅するのです。

しかも、原発は事故が起こらなくても日常的に放射線を放出しているのです。その結果、玄海でもそうですが、原発立地自治体及び周辺自治体においては、他の地域と比較して、ガンや白血病死亡率が高いことが確認されています。

4 なぜ私たちは九州電力だけでなく国をも共同被告にしたのか。

私たちは、九州の裁判で、九電だけではなく国も共同被告にしています。わが国の原発は個別の電力企業だけで出来るものではなく、まさに国の原子力発電推進政策が前提になっています。したがって、全ての原発を廃炉にするには、国をも被告にする必要があります。そして、全ての原発を廃炉にするには、わが国の国民世論がそれを現実に求めることが必要です。ここに私たちが国を共同被告に据えた理由があります。

これまで、3・11以前に原発を問題にした裁判では、個別の原発の危険性を問題にしていました。

しかし、これでは全ての原発を廃炉にすることは出来ないと考えます。

5 安全基準は存在しない。あるのは操業基準である。

私たちは、九州で裁判をするに当たり、原発をめぐる安全性に関する科学論争をこちら側からはしないと考えました。国はこれまで原発に関して安全基準があるとして、裁判所でもそうした立場から審理が行われていました。本当に安全基準は存在するのでしょうか。

水俣病では、チッソは当時の水道法による水銀の規制値をクリアして排水を出していました。しかしながら、水俣病は発生しました。

カネミ・ライスオイル事件の当時、PCBを規制する法律はありませんでした。したがって、カネミは当時の基準をクリアして操業していました。しかし、カネミ事件は発生しました。

言うまでもなく今回、福島で事故を起こした原発は、当時の国の規制をクリアしていました。しかし、原発事故は起きたのです。

この国では、企業が事業を始める前に、一定の操業基準をクリアしているかどうか行政がチェックします。

要するに、国の基準は安全基準ではなく単なる操業基準に過ぎません。

国は、今回、原子力規制委員会を使って、活断層が原発の下を走っていれば危険な原発として問題にしているようです。では、そうでない原発は安全な原発なのでしょうか。

原発事故を起こすのは地震だけではありません。人為的ミスもあります。先ほどロシアで起こった隕石の落下もあります。航空機の墜落もあります。現に、アメリカと日本との間では、オスプレイは原発の上空は飛行禁止区域になっています。さらに、テロ、究極的にはミサイルを使ったテロもあります。その種のテロは朝鮮半島に近い九州では極めて現実的な問題です。

ところで、九電は、全電源喪失を予測した事故対策をしているからとして、川内の1号機、2号機、玄海の3号機、4号機の再稼働申請を今月8日にもするとしています。これは、単なる後出しジャンケンに過ぎません。これで、安全とはいえないことは明らかです。

6 裁判所に期待するもの

国は、今回福島で起こったことは800万年に一回の比率とでも言っているようです。しかし、原発が生まれたのは戦後であり、まだ、70年にもなっていません。しかしながら、スリーマイル島、チェリノブイリ、福島と、人類は3回も大きな原発事故を体験しているのです。

わが国では、イタリアやドイツのように立法府も行政府も原発を廃炉にする道を示していません。ところで、わが国では、かつて四大公害裁判の時に司法が理性を発揮して優れた判決を出しました。これが公害根絶を求める国民世論となりました。

私は、原発事故はその態様によっては戦争よりも深刻な被害を巻き起こす公害であると思います。裁判所におかれては、二度とわが国で原発事故を引き起こさないための歴史的な判決を下し、これが基になって壮大な国民世論、すなわち「力のある正義」を作り出し、この国の国会で仮称ではありますが、全ての原発を廃炉にする脱原発特措法を制定し、原発から自由になろうではありませんか。

以上で、私の意見陳述を終わります。