◆福島原発災害は足尾鉱毒事件以来最悪の公害

大飯原発差止訴訟第3回口頭弁論で原告陳述

橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

救援新聞 京都版No.1204 2014年3月5日[229 KB](PDFファイル 228KB)
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 京都などの住民1963人(昨年12月3日856人が第二次提訴した事件を併合)が関西電力や国を相手に大飯原発の再稼働差止と損害賠償を求めた訴訟の第3回口頭弁論が、2月19日、京都地裁(第5民事部合議係・大島眞一裁判長)101号法廷で開かれました。満席傍聴者(108席)、原告など130人余りが埋めた法廷では、原告の宮本憲一元滋賀大学学長・大阪市立大学名誉教授(環境経済学)の意見陳述と原告代理人の塩見卓也弁護士、秋山健司弁護士が第3準備書面の要旨を陳述しました。論旨は以下のとおりです。

 予防の原則から運転停止を 宮本憲一さん

 福島原発災害は史上最悪の公害。足尾鉱毒事件(1890年代に社会問題に)では農漁業に多大な被害が発生しただけでなく、谷中村が廃村にされ流浪の民を出す最も大きな悲劇とされてきた。福島のこの原発災害は、2市7町3村の15万人を超える住民が放射能公害によってふるさとを追われた。足尾鉱毒事件以来最悪の公害。事故の全貌が把握できず、原因究明も終わらない、その対策の汚染水防止や除染作業もめどがたたない、経済的救済もはじまったばかり、大飯原発の運転再開は環境政策予防の原則から許されない。私は5点の理由から大飯原発運転再開に反対する。

第1、   原発事故は企業・政府が安全神話を信じ予防を怠った明らかな失敗。いまだ放射能公害を規制できる法制、行政が確立されていない。

第2、   原発は他のエネルギーよりコストが安く効率的でないこと。大島堅一氏の研究によれば、1970年から2010年度の平均の発電実際コストは原子力10.25円/KW時、火力9.91円、水力7.19円。安かったのは政府援助のため。事故の賠償、汚染対策、防止策、放射性廃棄物の処理費を加えるとさらにコストはアップ。

第3、   原発再稼働なしでも経済循環は正常。日本は再生可能エネルギーの開発はトップクラスだが、このエネルギー源は全体の1%。再生エネルギーを開発し発電、送電を分離、9電力の独占体制を改革したしくみづくりが可能。

第4、   原発は放射能廃棄物の処理、リサイクルが不可能。「トイレなきマンション」の比喩のごとく、これが最大の問題で致命的欠陥。ドイツの原発廃止は、放射性廃棄物の処理の困難と後の世代に半永久的に持続する危険が倫理的に許せないことにある。事故がなくとも廃棄物が10万年以上にわたって被害を出す可能性がある。これは将来世代への責任の倫理の問題。

第5、   原発立地の市町村の経済・財政の問題。過疎地域の振興に原発を誘致し危険施設を認める迷惑料として交付金制度がつくられたが、この原発依存の産業構造のため農漁業などの地元の産業が育たたない。この差別的な政策を改めた地域の発展を模索しなければならない。

原告代理人弁護士が第3準備書面の要旨を陳述

 つづいて塩見卓也弁護士が立ち原発の危険性について、放射線とはそもそも何か、放射線被ばくによって人体がどのような有害な影響を受けるのか、の点について次のように述べました。

 原発は原子炉内でウラン燃料を核分裂させることによって発生する熱で水を沸騰させ蒸気でタービンを回して発電をするが、核分裂で放射性物質が放出される。それらは不安定で放射線を出しながら他の物質へ変化する。この際の様々な放射線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などが分子レベルで人体を傷つける。人間に対しては外部被曝と内部被曝があるが、内部被曝が非常に危険で、体の一定の器官に蓄積したり、破損したDNAが細胞分裂で複製される際癌細胞の因子となって増殖したり、細胞が死滅して組織や器官が機能不全に陥ったりするようにもなる。癌の他にも、白血病、甲状腺障害、心筋梗塞、脳梗塞、循環器や肝機能障害などのリスクが高い。

 さらに、秋山健司弁護士は原発が事故を起こした場合どうような被害が生じるかについて、86年のチェルノブイリでの例を示しながら次のように陳述しました。

 チェルノブイリ原発の100キロ圏の円内が高濃度に汚染されているが、大飯原発からここ京都地裁は60キロしかない。放射線被曝は後になって、しかも子どもたちがより大きな影響を受ける。ウクライナ全体では事故後10年間で子どもの病気罹患率は10倍になっている。ベラルーシのゴメ州では全体の癌の発症率が68%増加した。甲状腺癌、染色体異常、血液、心臓、動脈など循環器、消化器、感覚器官などにわたって癌などの障害が発症する。

 この人体への影響からチェルノブイリでは、被災住民の95パーセントを年間被曝線量1ミリシーベルト未満の区域へ移動させている。その後国際基準もこの線量で規制している。しかし、日本政府は福島の事故後年間20ミリシ―ベルトを帰還の基準にした。住民の生命・身体の安全を考えないずさんな規制だ。チェルノブイリの事例からも原発の危険性が極めて顕著であったのに福島の事故は起こされた。この事態をみず、必要な法的規制もなく、大飯原発の再稼働をしたのは許されない。裁判所が生命・身体の安全と健康、子どもたちの未来を守るため、大飯原発の運転を許さない判断を下すよう求める。

 次回、第4回口頭弁論は、5月21日(水)午後2時から、京都地裁101号法廷で。なお、1時から裁判所北入口で傍聴券の抽選が行われる見込みです。