◆原告第3準備書面
 第7 まとめ

原告第3準備書面
-原子力発電の根源的危険性と日本の法制度の不備- 目次

第7 まとめ

 大飯原発をはじめとする原子力発電所において発電が行われる過程では、多種多様の、そして大量の放射性物質が生成される。それらの放射性物質から放出される放射線は、人体に極めて有害で深刻な影響をもたらす。放射性物質からの放射線被ばくは、人体の外部から放射線の照射を受ける外部被ばくのみならず、放射性物質を体内に取り込むことで生じる内部被ばくによる影響を極めて大きく受ける。人体が放射線に被ばくすることにより、脱毛や下痢などの急性症状、がんなどの晩発性疾患が発症し、場合によっては死に至ることもあるなど、放射線被ばくによる被害は極めて深刻である。

 1986(昭和61)年4月、ウクライナ(旧ソ連)のチェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が起こり、旧ソ連地域のみならず、ヨーロッパ中ないしは世界中に放射性物質が飛散し、深刻な被害を引き起こすこととなった。中でも、チェルノブイリ原子力発電所の周辺国であるベラルーシ、ウクライナ、ロシアなどの国々では、深刻な健康被害が発生している。それらがチェルノブイリ原発事故に起因する放射線被ばくによるものであることは、疫学調査の結果からも明らかとなっている。そして、深刻な健康被害が発生している地域を見ると、チェルノブイリ原発から100キロメートルないし200キロメートル、あるいはそれ以上離れた地域で深刻な健康被害が発生しており、500キロメートル以上離れた地域であっても深刻な健康被害が発生しているとの報告がなされている。

 翻って日本を見れば、大飯原発を含め、これまでに54基もの原子力発電所が建設されてきた。京都地方裁判所が所在する京都市内中心部は、本件で問題となっている大飯原発からわずか60キロメートルの地点に位置している。その他の原子力発電所もまた、同様に人口密集地に近接して建設されている。にもかかわらず、日本においては、放射性物質による環境汚染を防止し、市民の生命・身体の安全を確保するための環境法制は全く整備されてこなかった。そればかりか、2011(平成23)年3月に福島第一原発事故が発生した後に至っては、国は、一般公衆の放射線被ばく線量規制値である年間1ミリシーベルトを大幅に緩和して、住民が帰還する、すなわち定住する目安の線量を年間20ミリシーベルトと定めるなど、むしろ市民の生命・身体の安全に逆行する施策を推し進めている。

 福島第一原発は、事故からすでに3年を経過しているにもかかわらず、事故原因の特定には遠く至っておらず、汚染水問題など、日々新たな問題を生じさせている。しかしながら、国は大飯原発を再稼働させ、さらに、他の既存の原子力発電所の再稼働と、新たな原子力発電所の建設を推し進めようとしている。
 シビアアクシデント発生時の被害の深刻さに鑑みれば、大飯原発をはじめとする原子力発電所の再稼働は決して許されない。このことは、上述したチェルノブイリ原発事故の被害実態を見ても、福島第一原発事故後の深刻な状況を見ても明らかである。しかしながら、国や電力会社は、これまで安全神話にあぐらをかいていたのみならず、福島第一原発事故を経験してもなお、いまだに安全神話に毒されているものと言わざるを得ない現状にある。

 このような状況の下、司法の果たすべき役割は極めて重要である。原告らは、裁判所が、大飯原発を含むあらゆる原子力発電所の危険性を正しく認識し、市民の生命・身体の安全を守るため、大飯原発の運転を許さない判断をすることを求めるものである。

 以上