◆[第2回原告団総会] 弁護団長 挨拶

 弁護団長 出口治男

5月21日に言い渡された福井地裁判決は、憲法13条の、生命、自由、幸福追求に対する権利を至高のものとし、福島第一原発事故が、多くの人々の人格権を根こそぎ奪ったと言う事実を直視し、また基準地震動に関する地震学の限界を指摘するなど、まことに骨太で、外連味のない判断を示しました。私は、裁判官に任官し、退官して現在にいたるまでの四十年余りの間、国策に関する事件において、司法に裏切られ続け、絶望的になっていただけに、大げさでなくこうした判決をきくことがあるとは思えませんでしたので、今回の判決は、暗雲に覆われていた司法の世界に、一筋の大きな光が差し込んだ気持ちがしました。国策に正面から立ち向かう司法の姿を見て、涙を禁じ得ませんでした。砂川事件の伊達判決、長沼事件の福島判決以来の、国策を正面から批判したもので、日本の司法の歴史に残る判決であると思います。私達京都弁護団も、なんとしても福井地裁判決に続きたいと思っています。

 福井地裁の判決が言い渡されたのは5月21日午後3時ですが、奇しくも同じ日の午後2時から、京都訴訟の更新弁論が行われました。その日は、第一回期日に原告として陳述された、竹本原告団長、福島敦子さんの陳述が新しい裁判官たちを前にして再び行われ、第一回期日の感動が再び法廷を満たしました。竹本団長は地震学の限界を踏まえた科学者の良心に基づき、地震国日本に原発はいらないと言う主張を力強く主張され、裁判官たちは身を乗り出すように聞いていました。福島さんは、避難を余儀なくされた人々の人間の尊厳がいかに深く侵害されているかを、静かではあるが厳粛に示していただきました。これらの主張は、福井地裁判決のスタンスの予言的な内容と言って過言ではありませんでした。

 いま、原発を巡る訴訟は、新しい段階を迎えました。しかし、大阪高裁の仮処分申請を退ける決定のように、なお、原子力規制委員会の判断に丸投げするような裁判所も存在します。裁判所の中に、2つの潮流がせめぎ合っているとみるべきです。そして、規制委では、島崎委員が斥けられ、代わりに原子力産業協会委員を務めた田中委員が任命されようとしています。政権は、なりふり構わぬ巻き返しで再稼働の道へと突っ走っています。原発再稼働に対する戦いは、司法と運動の両面で、益々重要な局面を迎えています。    
 本日、改めて、新しい段階に至った裁判と運動の両面にわたる一層の戦いを強める、記念すべき総会となることを、心から期待し、お祈り申し上げます。