◆原告第5準備書面
第2 原子力法規制に対する国会事故調査報告書の提言

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第2 原子力法規制に対する国会事故調査報告書の提言

 国会事故調査委員会は、福島第一原発事故の9か月後、衆参両院の全会一致で議決され誕生した独立調査機関であり、6か月の調査活動の後、報告書を作成した。国会事故調の報告は多岐にわたるが、本項では、規制組織及び原子力法規制に関する事項をとりあげる。

1 規制組織と事業者の問題~「虜」の構造

 国会事故調は、福島第一原発事故は、自然災害ではなく人災であると繰り返し指摘している。
 すなわち、事業者である東電については、「警鐘がならされたとしても、発生可能性の科学的根拠を口実として対策を先送りしてきた。その意味で、東電の訴訟リスクマネジメントの考え方には根本的な欠陥があった」(甲3「国会事故調」5.1 451頁)とし、第一義的に原発の安全に責任をもつべき事業者が、その責任を果たしていなかったとする。
 また、事業者を規制すべき行政当局については、「電事連側の提案する規制モデルを丸のみにし、訴訟上のリスクを軽減する方向で東電と共闘する姿勢は、規制当局としての体を成しておらず、行政側に看過できない不作為があったものと評せざるを得ない」(同5.1 451頁)としている。
 そして、両者の関係につき、「日本の原子力業界における電気事業者と規制当局との関係は、必要な独立性及び透明性が確保されることなく、まさに『虜(とりこ)』の構造といえる状態であり、安全文化とは相容れない実態が明らかとなった」(同5.2 464頁)と結論づけているのである。

2 従来の原子力法規制の問題点

 国会事故調は、福島原発事故発生当時の原子力法規制の問題点として、具体的に以下の点を指摘している。
 そもそも従来の日本の原子力規制は、「原子力利用の促進を第一義的な目的」(同6.1 531頁)としており、市民の生命、身体の安全を目的としてこなかった。しかも、事故が起こっても対症療法的な対策しか行われず、「諸外国で取り入れられている安全の考え方に遅れた陳腐化したもの」(同6.1.2 1) a 532頁 )となっていたのである。具体的には、原告準備書面1でも主張したとおり、日本では、諸外国で取り入れられていた深層防護の考え方すら不十分であり、第4層においては、「外部事象も考慮したシビアアクシデント対策が十分な検討を経ないまま、事業者の自主性に任され」(同c)、第5層においても、「日本の原子力法制においては、原子炉の安全性の確保と防災対策は、関係しないものととらえられてきた」(同)のである。
  この原因としては、やはり規制組織の不作為、すなわち「訴訟提起の可能性の有無によって法規制に技術的知見等を反映するかどうかを決めると言った、本末転倒な判断」(同6.1.2 1)b 533頁)に問題があったとされる。

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3 規制組織の改革と原子力法規制の抜本的見直しの必要

 以上のような現状を踏まえ、国会事故調は、「提言」として、新しい規制組織の要件(提言5)と原子力法規制の見直し(提言7)を挙げる。

 (1) 新しい規制組織の要件

 国会事故調が提言する新しい規制組織の要件は、(1)高い独立性、(2)透明性、(3)専門能力と職務への責任感、(4)一元化、(5)自立性である。特に(1)高い独立性については、「虜」の関係への反省を踏まえたものであり、政府内の推進組織からの独立性、事業者からの独立性、政治からの独立性の3つが具体的にあげられている。もっとも、国会事故調が指摘する要件は、正常な規制組織のありかたとして極めて当然のものであろう。

 (2) 原子力法規制の見直し

 原子力法規制についても、抜本的に見直し、市民の生命・身体の安全を第一とする法体系へと再構築することが必要であるとする(同6.1.3 1 536頁)
 具体的な改正点としては、大きく、不適正な安全審査指針類の見直しと、原災法の再構築の2つがあげられている。
 このうち安全審査指針類については、(1)複合災害による多重故障の想定、(2)1989(平成元年)に改訂された原子炉立地審査及びその適用に関する判断のめやすについて(以下「立地審査指針」という。)の見直し、(3)長時間にわたる全交流電源喪失への対応の3点が明示的に列挙されている(同6.1.3 2 537頁)。

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