◆原告第6準備書面
第2 大飯原発で過酷事故が起きたときに発生する被害

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-  目次

第2 大飯原発で過酷事故が起きたときに発生する被害

1 大飯原発等が福島第一原発並みの過酷事故を起こしたときの放射性物質拡散予測

 (1)「実効線量」「甲状腺等価線量」「ベクレル」について

 事故を想定する際の想定被ばく量については、全身の外部被ばく・内部被ばくの被ばく量を問題とする「実効線量」と、甲状腺に集積される放射性ヨウ素による甲状腺の短期集中的な被ばく量を問題とする「甲状腺等価線量」がある。単位はいずれもSv(シーベルト)が使用される。
 実効線量については、IAEA(国際原子力機関)が「7日間で100mSv超」を住民避難の判断基準としている。
 甲状腺等価線量については、IAEA(国際原子力機関)が「7日間で50mSv超」をヨウ素剤の予防服用を行う判断基準としている。
 一方、「ベクレル」とは、もの(例えば水)に含まれる放射性物質の崩壊数に関するものであり、「放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数(放射能)」を単位とする。IAEAが飲料水等の摂取制限の基準として定めたOIL6では、セシウム137について200Bq/L、ヨウ素131について300Bq/Lとされる。一方、厚生労働省は「水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について」で、水道水中の放射性物質の管理目標値を、放射性セシウム10Bq/kgと設定しており、IAEAよりはるかに低い数値を設定している。

 (2)京都府が公表した国のSEEPIの予測(甲状腺等価線量、実効線量)(甲84、85)

 京都府は、後述の滋賀県、兵庫県と異なり、現状では大飯原発において過酷事故が発生した際の放射性物質の拡散予測を行っていない。まず、この点は行政として怠慢であり、これ自体が大飯原発の具体的な危険性であることは指摘せざるを得ない。
 一方、京都府は、すでに訴状で述べたとおり、大飯原発と同様に京都府に近接した場所にある高浜原発について、国に対して、SPEEDIによる過酷事故時の放射能影響予測の試算を要請し、その試算結果の提供を受けた。そして、2012(平成24)年3月23日に開催された京都府防災会議において、高浜原発の過酷事故を想定したSPEEDIによる放射性物質拡散予測結果を資料として公開した。
 京都府が公開した高浜原子力発電所の事故を想定したSPEEDIによる放射性物質拡散予測結果は、気象庁小浜観測所の気象データから「月別の出現頻度の高い風向及び平均風速」を算出し、風向から「最も近似する24時間」として特定の日時を抽出してシミュレーションがなされたものである。
 そして、このシミュレーション結果によれば、ヨウ素吸入による甲状腺等価線量(24時間の積算値)において、京都府内に影響が及ぶ月及び地域は以下のとおりである。

 月  自治体 ヨウ素吸入による甲状腺等価線量
(24時間の積算値)
 2月  舞鶴市・綾部市
 京丹波町・南丹市・亀岡市
 500ミリシーベルト
 50ミリシーベルト
 3月  綾部市・南丹市・亀岡市・京都市右京区
 京都市北区・京都市左京区・京丹波町
 50ミリシーベルト
 5ミリシーベルト
 5月  舞鶴市
 宮津市・伊根町・京丹後市
 与謝野町
 500ミリシーベルト
 50ミリシーベルト
 5ミリシーベルト
 9月  舞鶴市
 伊根町
 500ミリシーベルト
 5ミリシーベルト

 (2011年2月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年3月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年5月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年9月のシミュレーション)〈図省略〉

 舞鶴市や綾部市は放射性物資の放出開始から24時間以内に、500mSvを超える猛烈な汚染に見舞われるのである。また、京都市右京区までがヨウ素剤の予防服用を行うレベル(50mSv)に達することが分かる。甲状腺等価線量500mSvは、この調査)時点での(改訂前の京都府の「京都府地域防災計画」)において退避をする指標とされていた数値でもある。
 また、同様に、セシウム137外部被ばくによる実効線量(24時間の積算値)において、京都府内に影響が及ぶ月及び地域は以下のとおりである。

 自治体  セシウム外部被ばくによる実効線量
 (24時間の積算値)
 2月  舞鶴市・綾部市
 京丹波町・南丹市・亀岡市
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 3月  綾部市・南丹市
 京都市右京区・京都市北区
 京都市左京区・亀岡市
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト
 5月  舞鶴市
 宮津市・伊根町・京丹後市
 与謝野町
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト
 9月  舞鶴市
 伊根町
 0.027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト

 今後、京都府が、より詳細な調査を行えば、セシウムについても、より深刻な結果となることは十分にあり得るだろう。

 (3)国(原子力規制委員会)が2012年10月に公表した拡散予測(実効線量)(甲86、87)

 2012(平成24)年10月24日、原子力規制委員会は、日本国内の全ての原子力発電所について、シビアアクシデント時の放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果を公表した。
 同拡散シミュレーションは、年間の気象パターンや風向きなどのデータから、放射性物質の拡散の傾向を計算するMACCS2という評価手法を用いており、各サイトにおける年間の気象データ(8760時間分の大気安定度、風向、風速、降雨量)から、放射性物質が拡散する方位、距離を計算し、そのなかで、拡散距離が最も遠隔となる方位(16方位区分)において、外部・内部の被ばく経路の合計で実効線量が7日間で100mSv(IAEAにおいて避難が必要とすべき線量基準に準拠)に達する確率が、気象指針(原子力安全委員会決定(昭和57年1月))に示された97%に達する距離を試算している。
 試算にあたっての初期条件としては、(1)放出量及び時点については、東京電力福島第一原子力発電所事故における同原発1~3号機の3基分の総放出量(日本国政府がIAEAへ報告した放出量(ヨウ素131とセシウム137の合計をヨウ素換算して77万テラベクレルとなる多様な核種の放出を想定))が一度に放出したと仮定し、さらに、これをもとに各発電所ごとの出力比に応じた放射性物質量が一度に放出したと仮定している。また、(2)放出継続時間については、放出量が最も多かった同原発2号機の放出継続時間(10時間)、(3)放出高さは、地表面近傍の濃度が大きくなる0m(地上放出)と仮定し、(4)被ばく推定値については、外部被ばく及び内部被ばくの両方を考慮するものとなっている。
 このシミュレーションについては原子力規制委員会自身が「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」(平成24年10月)(甲87)において、下記の通り、その限界を述べている。

  • 地形情報を考慮しておらず、気象条件についても放出地点におけるある一方向に継続的に拡散すると仮定していること。
  • シミュレーションの結果は個別具体的な放射性物質の拡散予測を表しているのではなく、年間を通じた気象条件などを踏まえた総体としての拡散の傾向を表したものであること。
  • 初期条件の設定(放射性物質の放出シナリオ、気象条件、シミュレーションの前提条件等)や評価手法により解析結果は大きく異なること。
  • 各サイトで実測した1年分の気象データ8760時間(365日×24時間)を用いているため、すべての気象条件をカバーできるものではなく、また今後の事故発生時の予測をしたものでもない。

 この拡散シミュレーションによれば、大飯原発(サイト出力に対応した放射性物質量の試算)においては、大飯原発から南方32.2キロメートルの南丹市内の地点までが、7日間で100mSvの実効線量に達すると試算された。これはIAEAの基準において避難をすべきとされる線量である。

 このシミュレーションからすれば、風向き次第では、舞鶴市をはじめとする京都府下の各自治体も同じような放射性物質による汚染に見舞われる可能性が充分にあるということになろう。このような広範囲が避難対象になる事態は非常に深刻と言わねばならない。
 また、上記のようにこのシミュレーションでは、出現頻度の低い3%の気象は切り捨てており、これを切り捨てなかった場合は7日間で100mSvの範囲は大飯原発から南方63.5kmまで広がる(甲68p6)。これは京都市を超え向日市までいたる距離である。

 (4)兵庫県が2014年4月24日に公表した放射性物質拡散予測調査の結果(甲状腺等価線量、実効線量)(甲88)

 この調査は、まず2009年の1年間の気候を前提にして、大飯原発、高浜原発において福島第一原発並みの事故が発生した場合に、2009年1月1日午前0時からの6時間から始めて、1時間ずつ後にずらした8760ケースについて、兵庫県下の621メッシュ(4km四方)について、被ばく線量計算を行い、それぞれ最大のものを採用した数値である。
 その上で、その日時において、各原発で福島第一原発事故並みの放射性物質(ヨウ素131、セシウム131、セシウム134の放出)があった場合(ただし福島第一原発に比べた各原発の出力に比例させて放出量を調整している)の影響を調査したものである。
 その結果(甲状腺等価線量について7日間の積算被ばく線量を推計)は、したに示す図、表〈省略〉の通りとなり、IAEAの基準においてヨウ素剤の予備的服用の対象となる50mSvを超える地域が多数にのぼる可能性があることが分かった。このような広汎な地域の多数な住民に対して、ヨウ素剤を配付して服用させるのは困難至極というべきであろう。

 (5)滋賀県が2014年1月24日に公表した琵琶湖の汚染予測調査の結果(ベクレル)(甲89)

 この調査は、福島第一原子力発電所事故に、滋賀県が策定した放射性物質の拡散モデルを適用し、琵琶湖へのセシウム137と、ヨウ素131沈着量の予測を行ったものである。具体的な条件としては、大飯原発または美浜原発から、2011年3月15日(福島第一原発の事故において最も排出量の多かった日)の24時間の放射性物質排出量が排出された場合をシミュレーションし、琵琶湖流域に最も影響が大きいと考えられる日を抽出したものである。
 この結果、セシウムについて、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、IAEAが飲料水の摂取制限の基準であるOIL6(経口摂取による被ばく影響を防止するため、飲食物の摂取を制限する際の基準。セシウム137について飲料水で200Bq/Lとされる)を超過する面積比率が事故直後には最大20%程度(北湖)となり、またこうした水域が長い場合で10日間前後残る可能性が示された。
 また、ヨウ素については、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、同様の分析をしたところ、OIL6を超過する面積比率が事故直後に北湖で最大30%程度、南湖で最大40%程度となる事例が見られ、北湖では10日間程度で、南湖では7日間程度はその状態が続く可能性があることが判明した。
 なお、この調査では専ら琵琶湖の汚染に焦点が当てられているが、同時に、人間の居住地域を含む土地の汚染が発生することは言うまでも無い。

  <琵琶湖表層水におけるセシウム137の平均値>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるセシウム137の面積比率>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるヨウ素131の平均値>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるヨウ素131の面積比率>〈図省略〉

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2 水道水の汚染

 (1)福島第一原発事故の際の東京、千葉での水道水汚染の発生

  ア 東京都について

 実際、福島第一原子力発電所の事故に際しては、東京都の金町浄水場(福島第一原子力発電所から約210km)において、2011年3月22日にヨウ素131が乳児の摂取制限値である100Bq/Lを超えたため、東京都から、金町浄水場を含む利根川水系から取水して飲み水としている東京23区の全域と武蔵野、三鷹、町田、多摩、稲城の5市で計約489万世帯に対して、乳児に水道水を飲ませないよう、呼びかけが出された(甲90 2011年3月24日付朝日新聞)。金町浄水場におけるヨウ素131の検出状況は以下の通りである(後述千葉県柏市水道部ホームページより)。

 日付  ヨウ素131(Bq/Kg)
 2011年3月22日  210
 2011年3月23日  190
 2011年3月24日  79
 2011年3月25日  51
 2011年3月26日  34

 幸いにして、短期間で制限値超過の状態は終了したが、関西を含む日本中で、ペットボトルの飲料水が入手しづらくなるなどの現象が起きたことは記憶に新しいことである(公知の事実)。
 なお、東京都が金町浄水場の水道水の検査をしたのはこれが初めてであり、それ以前に検査をしたことはなかった。すなわち、東京都民(とくに金町浄水場の水を飲料水としている足立区、葛飾区、江戸川区、荒川区(一分)、台東区(一分)、墨田区、江東区、北区(一分)は、福島第一原発において放射性物質の漏出が始まった3月12日以降、3月22日以前に、IAEAが定める摂取制限レベル(ヨウ素131については300Bq/L(ただし乳児は100Bq/L)、セシウムについては200Bq/L)を超える水道水を知らない間に飲んでいた可能性は否定できない。

  <東京都の取水状況>〈図省略〉
  東京都水道局ホームページより
 https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/jigyo/syokai/02.html

 東京都においては、東京都健康安全センター(東京都新宿区百人町所在)においても、2011年3月18日以降、同所の水道水に含まれる放射性物質の検査が開始された(それより前は行われていない)。東京都新宿区の水道水は、上記図を見て明らかなように、荒川水系の朝霞浄水場(福島第一原発から約240km)の水を主に使用しており、金町浄水場の水は使用していないが、下記のような検査結果となった。

 東京都健康安全センター(東京都新宿区百人町)内水道蛇口からの放射性物質の検出状況
 http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_water_data.html

採水日 ヨウ素131
Bq/kg
放射性セシウム134
Bq/kg
放射性セシウム137
Bq/kg
2011/3/18  1.5  ND(不検出) ND(不検出) 
2011/3/19  2.9  0.15  0.21 
2011/3/20  2.9  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/3/21  5.3  0.23  0.22 
2011/3/22  19  0.34  0.31 
2011/3/23  26  0.62  0.87 
2011/3/24  26  1.4 
2011/3/25  32  0.93  1.2 
2011/3/26  37  0.78 
2011/3/27  20  0.47  0.73 
2011/3/28  9.8  0.26  0.56 
2011/3/29  5.6  ND(不検出)  0.51 
2011/3/30  5.1  0.26  0.64 
2011/3/31  3.4  0.35  0.53 
2011/4/1  2.1  ND(不検出)  0.45 
2011/4/2  ND(不検出)  0.45 
2011/4/3  2.9  0.21  0.29 
2011/4/3  2.9  0.21  0.29 
2011/4/4  3.8  0.32  0.27 
2011/4/5  2.6  0.32 0.32 
2011/4/6  1.6  0.29  0.21 
2011/4/7  1.4  0.32  0.28 
2011/4/8  0.89  0.24  0.24 
2011/4/9  ND(不検出)  0.26 
2011/4/10  0.71  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/4/11  0.6  ND(不検出)  0.27 
2011/4/12  0.57  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/4/13  0.41  ND(不検出)  0.26 
(参考)水道水の
管理目標値※1 
  10
(参考)
原子力安全委員会が
定めた飲食物摂取制限に
関する指標※2 
300    200

・水道の蛇口から毎日採取し、ゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて分析しています。
・降雨の場合は、数値が上がることがあります。
・測定データの表示桁数を国にあわせて2桁としました。

※1 厚生労働省では、「水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について」で、水道水中の放射性物質の管理目標値を、放射性セシウム10Bq/kgと設定。
厚生労働省、水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について(平成24年3月5日)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000018ndf.html
※2 原子力安全委員会が「原子力施設等の防災対策について」で、飲食物の摂取制限に関する指標(飲料水)を示しています。指標は、放射性ヨウ素(代表核種ヨウ素131)が300Bq/kg以上、放射性セシウムが200Bq/kg以上。
原子力安全委員会、原子力施設等の防災対策について(昭和55年6月、平成22年最終改訂)
 http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/sonota/houkoku/bousai220823.pdf

 イ 千葉県北西部について

 金町浄水場と同様の事態は同じ江戸川から取水している千葉県側の浄水場でも起こっていた。すなわち、北千葉浄水場(千葉県流山市流山市桐ヶ谷字和田130番地所在。福島第一原発から約200km)、栗山浄水場(千葉県松戸市栗山198所在。福島第一原発から約210km)、ちば野菊の里浄水場(千葉県松戸市栗山478-1所在。福島第一原発から約210km)でも下記のようにヨウ素131について、制限値超の水準となっていたのである。特に3月22日は、事後的な検査による補正値ながら、336ベクレルもの放射性ヨウ素が検出されており、IAEAの基準に照らしても、飲料水とは不適格な状態となっていたのである。
 なお、これらの浄水場において、検査が始まったのは金町浄水場の検査結果公表を受けた2011年3月23日以降のことであり、流山浄水場の3月22日の試料を事後的に検査したのを除き、それより前には検査結果が存在しない。それ以前に千葉県北西部(野田市、松戸市、柏市、市川市、我孫子市、鎌ヶ谷市等の住民)の住民がIAEAの基準を超える放射性ヨウ素を含んだ水道水を飲んでいた可能性は否定できない。

 江戸川沿いの浄水場でのヨウ素131の検出状況
  千葉県柏市水道部ホームページより
  http://suido.city.kashiwa.lg.jp/0000000074.shtml

     北千葉広域
  水道企業団
  東京都水道局            千葉県水道局 
 2011年   流山浄水場   金町浄水場   栗山浄水場   ちば野菊の里
  浄水場
 3月22日  ※336  210  測定せず  測定せず
 3月23日  110  190  180  220
 3月24日  測定せず  79  76  90
 3月25日  33  51  45  55
 3月26日  14  34  32  45
 3月27日  測定せず  不検出  測定せず  22
 3月28日  不検出  不検出  8.5  12
 3月29日  不検出  不検出  11  9.6
 3月30日  不検出  不検出  不検出  8.4
 3月31日  不検出  不検出  6.1  不検出
 4月1日  不検出  不検出  6.4  不検出
 4月2日  不検出  不検出  8.4  9.5
 4月3日  不検出  不検出  不検出  不検出
 4月4日  不検出  不検出  不検出  5.8

 ※北千葉広域水道企業団の3月22日採水分の測定値は336ベクレル/キログラム(減衰を補正した数値)だったが、これは八千代市の測定結果を受け、保管してあった試料を3月28日に検査機関に持ち込み、3月29日に結果が出たもの。

  <千葉県北西部の取水状況>〈図省略〉
 千葉県水道局ホームページの「県営水道配水系統図」より
 http://www.pref.chiba.lg.jp/suidou/jousui/shisetsu/kuriyama.html

 このように、福島第一原発から200km以上離れた浄水場でも、現に飲料水としては不適切な状態に実際になってし、調査結果がないだけで、福島第一原発の事故直後(特に放射性物質の放出が最も深刻であった3月15日)にはもっと深刻な汚染があった可能性も否定できないのである。
  そして、このように水道水が高濃度に汚染された浄水場がある位置は、福島第一原発からの距離が比較的遠いにもかかわらず、部分的に放射性物質が大量に降り注いだいわゆる「ホットスポット」の位置とほぼ一致している。

  <各浄水場の位置と放射性セシウムの沈着状況の関係>〈図省略〉
元図は「文部科学省による、岩手県、静岡県、長野県、山梨県、岐阜県及び富山県の航空機モニタリングの測定結果、並びに天然各種の影響をより考慮した、これまでの航空機モニタリング結果の改定について(平成23年11月11日 文部科学省)」より
 原子力規制委員会ホームページより
 http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/5000/4899/24/1910_111112.pdf

 (2)大飯原発の過酷事故により水質汚染が発生する可能性

  先述第2の1(5)で述べたとおり、滋賀県が行った放射性物質拡散予測では琵琶湖の汚染に焦点を当てており、放射性セシウムとの関係で、南湖では7日にわたって飲料水に適さないレベルとなる。そして、これは福島第一原発の事故を前提とした数値であり、想定可能な最大限のものではない。
  その場合、滋賀県全域で飲料水の確保が非常に困難となる。
  また、このような飲料水の原水となる水の汚染という事態は、日吉ダム(桂川水系)、畑川ダム(高屋川、由良川水系)、大野ダム(由良川水系)でも起きうる。大飯原発からの距離を考えれば、これらのダムの方がさらに深刻な被害となる可能性もある。以下詳細に述べる。

 (3)汚染が予想される淀川水系の河川とそこからの取水の状況

 ア 淀川水系の各主要河川とダムの概要

  (ア)全体像

 淀川水系の主要な河川の全体像は下記の通りである。

    <淀川水系の主要な河川等>〈図省略〉
  国土交通省HPより
  http://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/86060/86060-4_ex.html

  (イ)桂川

 淀川の支川である桂川はその源を丹波高原佐々里峠に発し、亀岡盆地、保津峡を抜け嵐山にて京都盆地へ流れ込み、京都府・大阪市境付近で宇治川、木津川と共に淀川へと合流する流域面積1,100平方km、幹川流路延長114kmの一級河川である。
 桂川上流の主要なダムとして日吉ダムがある。大飯原発から日吉ダムまでの距離は約45kmである。
 大飯原発で過酷事故が発生すれば、日吉ダムやその上流、またはその下流の桂川水系が、琵琶湖と同様に、放射性物質によって汚染される可能性は十分にある。

  <淀川水系の主要なダム等>〈図省略〉
 国土交通省「淀川わいわいネット」HPより
 http://www.kkr.mlit.go.jp/yodoto/yynet/dam/dam.html

  (ウ)木津川

 淀川の支川である木津川はその源を三重、奈良の県境を南北に走る布引山脈に発し、笠置、加茂を経て山城盆地を貫通し、京都府・大阪市境付近で宇治川、桂川と共に淀川へと合流する流域面積1,596平方km、幹川流路延長99kmの一級河川である。
 木津川水系の主要なダムとして、高山ダム、布目ダムなどがある。大飯原発から高山ダムまでは約95kmである。布目ダムも大飯原発からは約100kmである。
 大飯原発で過酷事故が発生すれば、高山ダム、布目ダムやその上流、またはその下流の木津川水系が、琵琶湖と同様に、放射性物質によって汚染される可能性は十分にある。

  (エ)宇治川

 琵琶湖を源とする淀川は、その上流部では瀬田川、中流部では宇治川と呼ばれる。宇治川は京都府・大阪府境界付近で桂川、木津川と合流した後は淀川となる大阪湾に注ぐ一級河川である。
 大飯原発で過酷事故が起これば、琵琶湖そのものが非常に高いレベルで汚染される可能性があることはすでに第2の1(5)で述べたところである。

 イ 淀川水系からの取水状況

  (ア)京都市

 京都市は、滋賀県大津市の浜大津駅及び三井寺付近の琵琶湖湖畔にある琵琶湖第一疎水、琵琶湖第二疎水から直接水を取水しており、これを市内の広い範囲で飲料水としている。宇治川を経由しないのである。疎水から取水した水は、市営地下鉄東西線蹴上駅(九条山)にある蹴上浄水場で浄水され飲料水とされる。琵琶湖が放射性物質で汚染された場合に、滋賀県と並んで飲料水の確保について最も困難な状況に陥るのは京都市である。

  <京都市の取水状況>〈図省略〉
  京都市下水道局ホームページより
  http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000007153.html

  (イ) 京都府下の南部の各自治体

 京都府は府として地方公営企業たる「京都府営水道」の事業を行っており、桂川(渡月橋のやや上流で取水)、宇治川(天ヶ瀬ダムの下流。平等院鳳凰堂のやや上流で取水)、木津川(国道24号線の泉大橋のやや下流で取水)する水について水利権を取得し、それぞれ、乙訓浄水場、宇治浄水場、木津浄水場で浄水した上、京都市以南(京都市は含まず)の南部の各自治体の水道事業に水利権を分配する形で水を売却している。
 上記のように、桂川水系、宇治川水系、木津川水系で放射性物質の汚染が発生したり、または、乙訓浄水場、宇治浄水場、木津浄水場が直接的に放射性物質に汚染されれば、京都府南部の住民は飲料水の確保が極めて困難になる。

  <京都府南部の自治体の取水状況>〈図省略〉
  京都府ホームページより
  http://www.pref.kyoto.jp/koei/suidou_10.html

  (ウ) 大阪市

 大阪市は大阪府とは別に水利権を取得し、三河川が合流した後の淀川から市内の浄水場(大阪市東淀川区)、庭窪浄水場(守口市)、豊野浄水場(寝屋川市)を通じて市内全域に水道水を供給している。淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪市でも、飲料水の確保が非常に困難となるのである。

  <大阪市の取水状況>〈図省略〉
  大阪市水道局ホームページより
  http://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000014782.html

 (エ) 大阪府下のすべての自治体

 大阪市以外の大阪府下のすべての自治体は「大阪広域水道事業団」を結成し、同事業団が水利権を確保して、府下の淀川の村野浄水場(枚方市)、庭窪浄水場(守口市)、三島浄水場(摂津市)を通じて、大阪市以外の府下全域に水道水を供給している。淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪府下全域で、飲料水の確保が非常に困難となる。

  <大阪広域水道事業団の概要>〈図省略〉
  大阪広域水道事業団ホームページより
  http://www.wsa-osaka.jp/jigyougaiyou/kurashi-no-mizu/

  <大阪広域水道事業団の取水状況>〈図省略〉
  大阪広域水道事業団ホームページより
  http://www.wsa-osaka.jp/jigyougaiyou/sousui/sousuikanri.html

 (オ) 兵庫県下の自治体

 神戸市、尼崎市、芦屋市、西宮市は「阪神水道事業団」を結成して水利権を取得し、大阪府下の淀川の大道取水場、淀川取水場で取水した水を各自治体の浄水場を経て飲料水としている。これらの自治体も、淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪府下全域で、飲料水の確保が非常に困難となる。

  <阪神水道事業団の取水状況>〈図省略〉
   阪神水道事業団ホームページより
   http://www.hansui.org/institution

 (カ) 奈良市

 奈良市は、水道水の多くを、木津川水系の布目川、白砂川、木津川から取水し、国道24号線の泉大橋のやや上流の奈良市営木津浄水場、東大寺の北東方向にある緑が丘浄水場を経て飲料水としている。
 木津川及びその上流の布目ダム、白砂川等が放射性物質で汚染されれば、奈良市内でも、飲料水の確保は非常に困難となる。

  <奈良市の取水状況>〈図省略〉
  奈良市企業局ホームページより
  http://www.h2o.nara.nara.jp/introduce_154.html

 ウ 汚染が予想される由良川水系の河川・ダムと京都府北部の自治体の取水状況

 由良川は、その源を京都・滋賀・福井の府県境三国岳に発し、北桑田の山間部を流れ、高屋川、上林川等を合わせ綾部を貫流し、さらに福知山に出て土師川を合わせ、北流して舞鶴市及び宮津市において日本海に注ぐ、幹川流路延長146km,、流域面積880平方kmの一級河川である。その流域は、京都府・兵庫県にまたがり、丹波・丹後地方における社会・経済の基盤をなす。
 主なダムとして大野ダム、和知ダム、由良川ダムなどがあり、いずれも大飯原発からは35~40km程度の距離しかない。
 これらのダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、京都府北部全体において、飲料水の確保が極めて困難となる。

  <京都府北部の取水状況>〈図省略〉
 国土交通省近畿地方整備局のホームページ中の「由良川河川整備計画」より
 http://www.kkr.mlit.go.jp/river/kasen/yuragawa.html

 結局、大飯原発で過酷事故が発生すれば、関西の三大都市圏全域や京都府北部(福井県の若狭地方は言うまでもない)で、長期間にわたって水道水を飲めない可能性が十分にある。これは、規模から言って、他地域からの給水車の出動やペットボトル飲料水で対応できる範囲をはるかに超えている。その際、住民が飲料水を確保できずに死に至るか、高濃度に放射能汚染された水を飲むか、という絶望的な選択を迫られる可能性すら否定できないのである。

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3 小括

 上記のように、ひとたび大飯原発で過酷事故が発生すれば、近畿一円の大気、地面、水面について、ともに甚大な被害が予想される。
 一方、これらの想定被害の前提となる各シミュレーションに共通した問題として、あくまで福島第一原発並みの過酷事故が起きたときの予測にすぎない。しかし、福島第一原発の事故が、あり得た最大限の事故ではないことはたとえば政府事故調査委員会報告書(甲91)でも下記のように言及されている(285~286ページ)。

  3月22日、菅総理は、仮に福島第一原発事故につき最悪のケースが重なるとどのような影響があるかを知るために、原子力委員会委員長である近藤駿介氏(以下「近藤氏」という。)に対し、福島第一原発事故の今後の最悪事態の想定とその対策を検討するよう依頼した。近藤氏は、3月15日の4号機原子炉建屋爆発を契機として、既に同日から事故状況が更に悪化した場合の対応策について検討していたが、菅総理の前記検討依頼は、原子力委員会としての本来の所掌を越えるものであることから、近藤氏が個人としてこれを引き受け、検討することとした。その上で、近藤氏は、個人名で、「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という。)を作成し、同月25日、素描を細野補佐官へ提出した。素描は、作業員の総退避、1号機から3号機の原子炉格納容器破損に伴う放射性物質の放出、1号機から4号機の使用済燃料プールの燃料破損に伴う放射性物質の放出といった仮定的事実の下でどのような事態が生ずるかを検討し、その事態の下で、1986(昭和61)年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の際に採用された避難の基準に基づいて避難措置を講じた場合、どの地域がその対象となるかを想定しており、前記仮定的事実の下では、「避難を求めるべき地域」が福島第一原発から170km以遠にまで及ぶことや、年間線量が自然放射線レベルを大幅に超えるため、「移転することを希望する人々にはそれを認めるべき地域」が250km以遠にも及ぶことを説明している。

 このように、実際にはさらに甚大な被害が発生する可能性も大いにあったのである。そうであるにも関わらず、上記に紹介した各シミュレーションが、いずれも、福島第一原発事故並みの事故を前提として行っているのは、そもそも、想定が過小に過ぎるといわざるを得ない。
 そして、一度放射性物質が降り注げば、除染が極めて困難であることは、現実の福島県の現状を見ても明らかである。放射性物質に汚染された地域は、放射線に晒され続け、そこに居住すれば、放射線の外部被ばくを受けるのみならず、大気、汚染された食物、水を摂取し続けることで内部被曝を被り続けるのである。

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