◆原発の再稼働中止へ英断を!
 大飯原発差止訴訟第5回口頭弁論の報告

 京都府の住民など1063人が国と関西電力を相手に大飯原発の差し止めと慰謝料を求めた訴訟の第5回口頭弁論が、9月30日、京都地裁(第6民事部合議A係・堀内照美裁判長)101号法廷で開かれました。満席(支援者約80人余)の傍聴者が見守るなか、原告代理人弁護士4人が新規制基準の問題点について要旨を陳述、原告2人が福島第一原発の被害実態や地域・都市計画に原発事故が欠落している問題などを訴えました。要旨は以下の通りです。

 森田基彦弁護士「福島第一原発の事故は地震による外部電源の喪失、津波による全交流電源の喪失によって冷却が不能となり炉心損傷にいたった。新規制基準はこの教訓を生かした指針になっていない。地震で土砂災害をこうむった場合など再び同じような事故の起こる危険があるのに対応できていない。立地審査も新基準から削除されている。避難計画の策定も再稼働の条件となっていないなど、これらの重大な不備が残されたまま再稼働審査がなされている。人格権に基づいて原発再稼働を差し止めるべきだ」

 渡辺輝人弁護士「大飯原発の過酷事故が起こった場合、原子力規制委員会の予測でも放射性物質の拡散が南方32.2キロメートル地点の南丹市まで[7日間で100ミリシーベルト]という避難が必要なレベルに達する。近畿の水がめの琵琶湖も汚染され飲用制限に達する。近畿の水道水もすべて原発から45~100キロ圏にあり長期にわたって飲用できなくなる可能性は十分ある。それでも『ただちに健康に影響はない』などといわれ汚染水を飲む恐れもある」

 三上侑貴弁護士「大飯原発の事故で放射性物質が放出された場合、周辺住民の生命、身体に被ばくの危険が及ぶが、これに対する環境整備はできていない。原子力規制庁は、半径30キロ圏で防災計画を推進しているが、風向きの影響が考慮されていない。放射性物質は同心円状には拡散しないから、危険防止ははなはだ不十分。オフサイトセンター(緊急事態応急対策等拠点施設)は、事故発生時、国や自治体と連携して対策を講じていく拠点。住民に避難指示と広報をする。ところが、その立地場所は、大飯原発から約7キロメートル、おおい町の海岸沿いで海抜2メートル、海の護岸から100メートル足らずで、津波襲来時の電源喪失による機能停止が考えられる」

 畠中孝司弁護士「原発事故で住民の生命・身体に危険が及ぶ地域の避難計画に多くの問題がある。おおい町、高浜町、舞鶴市、宮津市、綾部市に限ってみても、関電からの迅速的確な情報が得られない可能性があり、避難手段を自家用車とする計画では道路、橋の破壊による遮断の可能性、たくさんの車が限られた道路に集中して渋滞、しかも原発に近い住民ほど渋滞の後方で被ばくの危険にさらされる。バスでの避難計画でも住民を輸送するほどのバスの台数は追いつかない。渋滞によるガソリン切れ、放置、避難先の駐車場不足。要援助者の移動による命の危険(福島でも11年3月末までに60人が死亡)。全住民が被ばくなしに安全迅速に避難することなどとても不可能である」

 尾崎彰俊弁護士「おおい町住民らが求めた稼働差し止め訴訟で福井地裁は5月21日、人格権を最優位の権利とする判決を出した。この判断の対象は、生命を守り生活を維持する利益が極めて広範に奪われる事態を招く具体的危険性が万が一にもあるかである。この指摘は原告が訴状において主張してきたところである。関電は、原発停止の場合の経済的損失などを主張するが、福井地裁判決は、極めて多数の人の生存そのものにかかわる権利と電気代の問題などとを並べて論じることはできない、とし、『豊かな国土とそこに国民が根をおろして生活していることが国富である』と明快に判断を示した。京都地裁は大飯原発の具体的危険性を認定して課せられた重大な責務をはたすべきだ」

 原告:萩原ゆきみさん「原発事故前、郡山市で夫、9歳、3歳の子どもと4人で暮らしていた。3月15日、子どもと3人で大阪に避難、その2年後に夫とともに京都で暮らす。3月12日原発の爆発でライフライン切断、情報も入らず、食物、飲み物、ガソリン確保に並び続けた。物資が届かない、原発が危ないから避難した方がいいとの親戚からのすすめもあり、放射能にやられてしまう恐怖におびえた。夫を残し、3人着の身着のまま、空港に行き、キャンセル待ちで夜を明かし、翌日の便で大阪にやってきた。やっと安心して深呼吸した。いまでも福島を思い出し、胸が苦しくなる。望郷の念はつのるばかり。原発事故の9年前、夢のマイホームを建てた。両家の両親との同居を考え建材を厳選してつくった。手放すのは身を切られるようにつらかった。夫は残って放射能に汚染されつづけた。我が家の庭の土はチェルノブイリでの『移動権利ゾーン』、空間線量では『移動義務ゾーン』の汚染度だった。2012年夏休みに3人が自宅へ帰った。掃除をしたりしたが、子どもも私も鼻血を出した。京都に帰ったらやんだ。13年に夫が避難してきた直後、また子どもたちが鼻血を出し咳をするようになった。夫の荷物や車が汚染されていたからだ。掃除(除染)し荷の処分をすると線量が以前より低くなり、鼻血、咳もとまった。しかし、被ばくの今後の影響を思うと健康不安は底知れぬ恐怖。このことから、大飯原発の事故が起こった場合のことを考えると、事故に関する真実の情報が伝わるとは限らないし、策定される避難計画も実態に沿わない。避難区域の範囲も狭すぎる。福井地裁判決は、半径250キロ地域にとりかえしのつかない被害の出る可能性を指摘している。私は、毎週金曜日の関電前の行動や集会などでも訴え続けている。見捨てられてよい命があるはずがないと心に強く思ったから(陳述後に傍聴席から拍手―裁判長がやめるよう言及)」

 原告:広原盛明さん(京都府立大元学長)「私は、地域計画、都市計画の研究者。専門分野から、原子力規制委員会の原発新基準の問題点を以下述べる。史上最大の危険施設である原発に対しては史上最大の立地規制が求められる。にもかかわらず、新基準では万一の事故で住民の被ばくが重大なレベルに達しないような地域計画や都市計画がはかられていない。福島の事故では、当時の原子力規制委員会が250キロ圏の住民の避難を検討した。しかし、規制委員会が基準合致と認めれば、原発立地自治体の承認だけで稼働ができる。30キロ圏内の自治体の承認はいらない。これでは国土全体にわたって影響をおよぼす原子力災害から国民を守れない。とりわけ問題なのは、国土開発計画に原発の立地による災害の問題がまったく欠落していることだ。国土交通省の【国土グランドデザイン2050】では、原発災害・原発問題に関する記述が一切ない。3・11以後、国土計画を考えるにあたっては原発問題をどう扱うかが最大のテーマのはず。このように政府が解決できていない、原発問題をそのままに原発を稼働することは許されない。司法の英断で再稼働を中止させていただきたい」

 次回第6回口頭弁論は1月29日(木)午後2時から101号法廷で(1時からは傍聴券の抽選の予定)。

140人が参加―デモ・傍聴・模擬裁判・報告集会

 この裁判に先立ち原告・弁護団などは12時15分から61人で裁判所周辺をパレード。市民に「脱原発」をアピールしました。また、傍聴券にはずれた57人には、京都弁護士会館で「模擬法廷」を同時進行させ、弁論内容を再現させました。