◆原告第7準備書面
第2 立地審査の概要

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第2 立地審査の概要

以下,昭和39年以降新規制基準施行まで運用されていた立地審査指針について述べる。

1 立地審査指針の内容

昭和39年5月27日原子力委員会は「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」を決定した(甲93)。

立地審査指針は,「原子炉安全専門審査会が,陸上に定置する原子炉の設置に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断する」ことを目的とするものであり,立地条件適否の判断のための基準を示している。

立地審査指針は,立地の適否の判断において,まず,放射性物質が外部に漏れでる最大の事故を仮定して,周辺の公衆に与える被爆量を評価する。最大の事故とは,敷地周辺の事情,原子炉の特性,安全防護施設などを考慮し,技術的見地から見て「最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故」(以下「重大事故」という),と「重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故」(以下「仮想事故」という)と定義されている。

「重大事故」及び「仮想事故」を仮定する目的は,対象となる原子炉と周辺の公衆との離隔が適正に確保されていることを確認することである。すなわち,重大事故,仮想事故が起こり,それに起因する放射性物質が漏出したとしても,原子炉から一定の距離を非居住区域とすることにより,公衆の被曝を予防することにある。言い換えれば,公衆の居住区域から一定の距離をおかなければ,原子炉を立地することはできない。

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2 立地評価とは

 (1) 「立地評価」とは

ア 重大事故,及び,仮想事故に対して,以下の3条件が満たされていることを確認することが「立地評価」である。

  1.  原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること
    「ある距離の範囲」〈1〉は,重大事故の場合,もし,その距離だけ離れた地点に人がいつづけるならば,その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし,「非居住区域」とは,公衆が原則として居住しない区域をいう。
  2.  原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯であること
    「ある距離の範囲」〈2〉は,仮想事故の場合,何らの措置を講じなければ,範囲内にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲とし,「低人口地帯」とは,著しい放射線災害を与えないために,適切な措置を講じうる環境にある地帯(例えば,人口密度の低い地帯)をいう。
  3.  原子炉敷地は,人口密集地帯からある距離だけ離れていること
    「ある距離」〈3〉とは,仮想事故の場合,全身線量の積算値が,集団線量の見地から十分受け入れられる程度に小さい値になるような距離をとるものをいう。

イ 上記の通り,〈1〉,〈2〉,〈3〉の「ある距離」は,各々定義が異なり,

  1. 「ある距離の範囲」を判断するためのめやすは,「甲状腺(小児)に対して1.5Sv 全身に対して0.25Sv(250mSV)」
  2. 「ある距離の範囲」を判断するためのめやすは,「甲状腺(成人)に対して3Sv 全身に対して0.25Sv(250mSv)」
  3. 「ある距離だけ離れていること」を判断するためのめやすは「2万人Sv[2]」

が参考とされた。

ウ 離隔のための目安は100mSvであること

上記,被爆線量に関しては,実務上,国際基準である100mSvを基準として運用されていた(甲63-16平成24年11月14日原子力規制委員会記者会見録,甲94-63:第180回国会衆議院議員環境委員会第4号議事録原子力安全委委員会委員長班目春樹発言)。

[2] [人・Sv]は集団積算線量の単位を表す。X人の集団における1人あたりの個人被曝線量を全て加算したもの。仮想事故の際に「ある距離」内の集団積算線量が2万人Sv以下であればリスクは小さいと見なすという意味である。

 (2) 「重大事故」及び「仮想事故」

「重大事故」及び「仮想事故」は,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」(甲95:平成2年8月30日原子力安全委員会決定,平成13年3月29日原子力安全委員会一部改訂)により以下の通り具体的に指定されている。

まず,BWR型については,冷却剤喪失事故及び主蒸気管事故,PWR型については,冷却剤喪失事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故を対象事故とする。

「重大事故」は,上記の事故の際に,逃し安全弁が作用し冷却系が機能することを仮定する(この場合にも,冷却材中に核分裂生成物が放出されるため,放射性物質が漏出する)。

「仮想事故」は,逃し安全弁が開く圧力のままとどまり,主蒸気系からの蒸気漏れが無限時間続くと仮定する(従って,蒸気とともに大量の放射性物質が漏出すると仮定する)。

立地評価では,上記の事故を仮定し,その際にプラントから外部に放出される放射性物質が拡散し,公衆に与える被爆線量を試算し,3条件を満足するか否かを確認するものである。

ただし,「重大事故」も「仮想事故」も,格納容器が破損することを仮定していない。すなわち,立地審査指針は,福島第一原発事故程度の事故を仮定した離隔要件を定めていなかった。

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3 立地審査の実態

日本の既存原子炉は,立地審査を行った上で,「非居住区域」,及び,「低人口区域」のいずれも,原子力発電所敷地境界内に収まると判断されてきた。

これは,「重大事故」及び「仮想事故」時にも,日本の全ての原子力発電所敷地境界外では,250mSV(または100mSv)の公衆被爆がないと判断されてきたということである。この指針自体の問題点については後述する。