◆原告第7準備書面
第3 福島第一原発を前提とした場合のシミュレーション

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第3 福島第一原発を前提とした場合のシミュレーション

1 福島第一原発事故の積算線量

福島第一原発事故後,平成23年4月1日から平成24年3月末日までの,福島第一原発敷地境界における累積被爆線量は最大で956mSvであった(甲94:第180回国会 平成24年6月5日環境委員会質疑)。これには,事故直後の平成23年3月中旬以降の被爆線量が反映されていないため,実際には,事故後1年間の累積被曝線量はより高かったものと考えられる[3]。

従って,福島第一原発事故による放射性物質の放出は,立地審査指針の目安(100mSv)を遥かに超えるものであった。

図1 事故後約1年間の敷地境界での月別の最大積算線量(モニタリングポストMP7)【図省略】[甲102-616]

[3] 元原子力安全委員会事務局技術参与滝谷氏の試算によれば平成23年3月12日から3月末日までの約20日間の累積被ばく線量は234mSv(甲102)

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2 大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」

原子力規制庁は,地方公共団体の防災計画策定のため,原子力発電所の事故により放出される放射性物質の量等を仮定し,周辺地域における放射性物質の拡散状況,被曝線量等についての推定(以下,「拡散シミュレーション」という。)を行い,平成24年12月に総点検版を公表した[4](甲96「拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」)。

これは,(1)発電所の事故により放出される放射性物質の量として,福島第一事故により放出された量を仮定し,(2)発電所の事故により放出される放射性物質の量として,全基破損を仮定し,福島第一事故で放出された量に,各発電所の合計出力と福島第一1~3号機の合計出力の比を乗じて,発電所規模の補正を行い,福島第一事故と同じ事故が生じた場合の放射性物質の放出量を算出する。(3)そして,サイトにおける年間の気象データ(8760時間分の大気安定度,風向,風速,降雨量)から,放射性物質が拡散する方位,距離を計算し,そのなかで,拡散距離が最も遠隔となる方位(16方位区分)において,実効線量が線量基準 (100mSv)に達する確率が気象指針(原子力安全委員会決定(昭和57年1月))に示された97%に達する距離を試算するものである。

この結果,大飯原発では,放射性物質が南北方向に拡散し,陸側では,実効線量[5]が100mSvとなる距離が,最大32.5km地点となる試算結果が報告された。下記図表によれば,被曝線量100mSvの境界は,南丹市を越え,京都市右京区にまで達する。

したがって,福島第一原発事故程度の事故を仮定し,立地審査指針の基準(100mSv)を適用すれば,大飯原子力発電所が離隔要件を充たさないこと,言い換えれば,当該敷地に原子炉を立地できないことが明白になった[6]。

サイト出力に対応した放射性物質量を仮定した計算【図省略】[甲96-31]

参考11-2 方位別のめやす線量を超える距離(大飯)【表省略】[甲96-32]

[4] 「拡散シミュレーション」は,当初,10月24日に公表されたが,その後,方位のずれ等の誤りを修正し,平成24年12月13日に改訂版である「拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」が公表された。
https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/data/kakusan_simulation1.pdf

[5] 実効線量:身体の放射線被曝が均一又は不均一に生じたときに,被曝した臓器・組織で吸収された等価線量を相対的な放射線感受性の相対値(組織荷重係数)で加重してすべてを加算したものである。単位はシーベルト(Sv)で表される。例えば,ICRP-1990年勧告における線量限度は放射線作業従事者に対して連続した5年間につき年当り20mSv,一般公衆に対して年当り1mSvとしている。

[6] 立地審査指針は,「重大事故」「仮想事故」に,福島第一原発事故のような格納容器が破損する事態を含めていなかった。