◆原告第7準備書面
第4 立地審査指針の問題点

原告第7準備書面
-立地審査指針について- 目次

第4 立地審査指針の問題点

福島第一原発により明らかになった立地審査指針の問題点は以下の通りである。

まず,立地審査指針は,格納容器が損壊する程度の事故を想定していないという問題点がある。国会事故調査報告書は,この点を「非居住区域や低人口地帯の設定の前提となる放射性物質の放出量は,これらの区域・地帯が原子炉施設の敷地内に収まるように逆算された疑いがある」と指摘している(内容の問題 甲3-537,538:国会事故調査報告書)。

次に,規制庁により,立地審査指針が厳格に運用されていなかったという問題がある(運用の問題)。
そのため,日本の全ての原子炉において,非居住区域及び低人口地域が全て原子炉施設敷地内に収まるという奇妙な判断がなされた。すなわち,立地審査指針の趣旨である離隔要件は,具体的基準の設定及び規制庁の運用により形骸化していたのである。

規制庁の従前の判断について,原子力委員会委員長班目春樹氏は,「正直申し上げて,全面的な見直しが必要だと思っております。」「…今までの例えば立地指針に書いてあることだと,仮想事故だとかいいながらも,実は非常に甘々の評価をして,(放射性物質が)余り出ないような強引な計算をやっていることがございます。ですから,今度,原子力基本法が改正になれば,その考え方にのっとって全面的な見直しがなされてしかるべきもの…」と述べ,上記の問題点を認めた(甲97-8:国会事故調第4回議事録 下線部は原告代理人が加筆)。

福島第一原発事故を教訓とすれば,まず,旧立地審査指針を見直し,福島第一原発事故規模の事故を想定した厳格な指針を策定すること,及び,規制庁による厳密な運用が必要である。そして審査の結果,立地審査指針を充たさない原子炉に関しては,指針を既設炉に適用(バックフィット)し再稼働を認めないことが新規制基準のあるべき運用である。

しかしながら,原子力規制委員会は,当初は,立地審査を改正し厳格な運用を行う旨述べていたものの,その後当初の反省の態度は一変し,次項で述べる通り,新規制基準策定の議論の中で,立地審査において,シビアアクシデントの際における住民の安全を守る為に必要不可欠な離隔要件及び集団線量要件を捨て去ってしまうという,にわかに信じ難い方針に転じてしまった。上記の班目原子力委員会委員長の発言に示された反省を原子力規制委員会は一顧だにしていない。司法判断においては,原子力規制委員会のこの不誠実な態度に対し,住民の安全確保の観点から,厳しい批判をすることが期待される。