◆ 原告第10準備書面
第2 「止める、冷やす、閉じ込める」機能が果たされなければ大事故を防ぐことはできない

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性- 目次

第2 「止める、冷やす、閉じ込める」機能が果たされなければ大事故を防ぐことはできない

 1 原子力発電所の仕組みから見た原子力発電所の危険性

  (1) 「止める」機能の重要性(甲116・8頁)

本件大飯原発などのPWR型の原発は、核分裂連鎖反応を利用して熱エネルギーを取り出し、その熱エネルギーが一次冷却水を高熱にし、さらに一次冷却水が二次冷却水を沸騰させて水蒸気にし、その水蒸気の運動エネルギーによってタービンを回して電気エネルギーを取り出すという構造をしている。
沸騰した水蒸気の運動エネルギーによってタービンが回されるという点では、火力発電所や地熱発電所など他の熱エネルギーを利用した発電所の構造と変わるところはなく、原子力発電所の最大の特徴であり危険性の根源は、熱エネルギーを核分裂連鎖反応によって発生させているということである。

大飯原発において利用されている核分裂連鎖反応の概要は、

  1.  ウラン235に中性子がぶつかる
  2.  ウラン235の原子核が割れ、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素131などに変化するとともに、中性子が2ないし3個発生する。合わせて熱も発生する。
  3.  i.に戻る

というものである。i.とii.の一連の流れを「核分裂反応」といい、ii.の過程で生成された中性子がさらに他の核分裂反応を引き起こすという形で次々と核分裂反応が起こることを「核分裂連鎖反応」という。
このような核分裂連鎖反応は、一定量のウラン235を集めておくことだけで発生し、原子炉内には、核分裂連鎖反応が発生するに足りるだけのウラン235が集積されている。
ウラン235の原子核が割れた際には新たな物質が生成されるが、その種類は約300種存在する。これらの物質のほぼすべてが「放射性物質」であり、上記のストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素131は、ウラン235の核分裂によって生成される物質の中でも代表的なものである。放射性物質は、いずれも「放射線」を放出し、この放射線を浴びると人体に悪影響を及ぼすことは既に詳細に論じた通りである。核分裂反応によって生成された物質を俗に「死の灰」というのは、これらの物質が人体に悪影響を及ぼす放射線を出し続けることによるものである。
つまり、運転中の原子炉の中に設置されている燃料棒の中には、大量のウラン235と核分裂連鎖反応によって生み出された死の灰が蓄積されていることになる。従って、原子炉内に人が立ち入ることは容易にできず、そのため、原子炉の中には、一定期間発電を続けられるだけのウラン235が集積されている。非常時において、火力発電においては、燃料の供給を止めることで容易に熱エネルギーの発生を止められることに比べて、原子力発電の場合には、原子炉内が大量の放射性物質でみたされていることから、燃料を抜き取るという方法で熱エネルギーの発生を防ぐことはできない。上記のとおりウラン235は集積しているだけで核分裂連鎖反応を起こすのであり、熱エネルギーの発生を阻止するには、制御棒というものによって必然的に起こる核分裂連鎖反応の流れを制御・遮断する方法でしか核分裂連鎖反応を止めることはできないのである。

平常時の原子力発電所においては、核分裂連鎖反応によって生み出された熱エネルギーは一次冷却水に移り、燃料棒そのものがその熱によって溶けてしまうような事態には至らない。しかし、事故によって一次冷却水が失われることになれば、原子炉はいわば空だきの状態になり、燃料棒そのものが自らが生み出した熱によって溶けるという事態にいたる。もちろん、二次冷却水によって一次冷却水を冷やす機能が失われた場合でも、その結果一次冷却水の温度が上昇をし続け、最終的には一次冷却水の喪失につながるので、同じことが起こる(二次冷却を冷やす機能が喪失しても同様である)。後述する崩壊熱による燃料棒の溶融と合わせて、炉心に設置された燃料棒が溶ける事態のことを「メルトダウン(炉心溶融)」という。メルトダウンが起これば、大量の放射性物質を管理することができなくなり、外界に放射性物質がばらまかれ、人体に悪影響を及ぼす事態となる。
従って、事故が起こった際に、原子力発電所において最初に重要なのは、制御棒の挿入によって核分裂連鎖反応を「止める」ことである。

  (2) 「冷やす」機能の重要性(甲116。12頁)

次に、火力発電は、燃料の供給を止めれば火が消え熱の発生が止まることと比して、原子力発電の場合は、核分裂連鎖反応を止めても熱の発生が止まることはない。これは放射性物質が長い期間を経て放射線を出し続け、その過程において熱を出し続けるからである。放射性物質が放射線を出し続けることを「崩壊」といい、この崩壊によって発生する熱のことを「崩壊熱」という。崩壊熱は、核分裂反応によって生み出される熱とは異なる原理で生み出されるのである。
崩壊熱のエネルギーは膨大であり、放射性物質の熱エネルギーをそのまま放置すれば、燃料棒が固体から液体に変化する約2800度まで上昇し、燃料棒が溶けるという事態にいたる。核分裂連鎖反応による熱や崩壊熱によって炉心に設置された燃料棒が溶ける事態のことを「メルトダウン(炉心溶融)」と呼ぶことは上記の通りである。
また、核分裂連鎖反応によってウラン235が分裂し変化をし続けた燃料棒は、核分裂連鎖反応の効率が悪くなるため、一定期間ごとに交換されることになる。この交換された古い燃料棒のことを「使用済核燃料(棒)」という。この使用済核燃料棒の中は、放射性物質(いわゆる死の灰)でみたされているため、当然、放射線を出し崩壊熱を発生し続ける。炉心に設置された燃料棒と同様に使用済核燃料棒も放置すれば燃料棒が溶けて放射性物質が管理できない状態になる。そして、これらの使用済核燃料棒は、原子力発電所内の「使用済核燃料プール」というホウ酸水でみたされたプール内で冷やされながら保管されている。使用済核燃料棒も効率が悪くなっただけで核分裂連鎖反応を起こす能力は有しているため、この核分裂連鎖反応を制御するためにホウ酸水という特別な水につけられているのである。

また、一次冷却水や燃料プール内のホウ酸水は、核燃料は使用済核燃料棒が発する崩壊熱で熱せられるので、循環させなければ沸騰して蒸発してしまう。この循環のために必要な電力が失われれば、最終的には一次冷却水やホウ酸水が失われることになるのである。福島第一原発事故では、津波の及ばない地域にあった鉄塔が地震によって倒壊し、これが一因となって全電源喪失が発生して、査収的にはメルトダウンに至った。つまり、「冷やす」機能を十分に果たすためには、原発内の施設のみならず原発外の鉄塔や発電所、変電所などの機能が地震によって失われないことも重要になる。

このように配管の損傷や電源の喪失によって一次冷却水が失われれば、制御棒の挿入によって核分裂連鎖反応が止まっていても、崩壊熱によるメルトダウンが発生し、使用済核燃料プール内のホウ酸水が失われれば、核分裂連鎖反応による熱や崩壊熱によって使用済核燃料棒の溶融が起こり、外界に放射性物質が放出されることになるのである。
「止める」という過程を十分に果たせたとしても、燃料棒や使用済核燃料棒を「冷やす」ことが継続できなければ、放射性物質による汚染は不可避に発生するのである。

  (3) 「閉じ込める」機能の重要性

さらに、「止める」、「冷やす」の過程を十分に果たせたとしても、燃料棒や使用済核燃料棒から放射線が大量に発生すること自体を止めることはできない。放射線を浴びることを「被曝」といい、被曝が人体に悪影響をあたえることは既に論じた通りである。従って、放射線による外界への悪影響を防止するためには、「止める」、「冷やす」の次に、放射性物質および放射線を「閉じ込める」という作用が必要となる。

 2 使用済み核燃料の危険性(甲116・16頁以下)

  (1) 使用済み核燃料

   ア 使用済核燃料の発生、保管方法

原子力発電においては、核燃料を原子炉内で核分裂させると、燃料中に核分裂生成物が蓄積し、連鎖反応を維持するために必要な中性子を吸収して反応速度を低下させるなどの理由から、適当な時期に燃料を取り替える必要がある。この際に原子炉から取り出されるのが使用済み核燃料である。使用済み核燃料の発生量は、燃焼度等によって異なるが、本件原発は、平均して年間合計約40トンの使用済み核燃料を発生させる。使用済み核燃料は、原子炉停止後に原子炉より取り出された後、水中で移送されて使用済み核燃料プールに貯蔵される。本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の本数は1000本を超えている。
本件使用済み核燃料プールには、核分裂連鎖反応を制御する機能を有するホウ酸水が満たされている。この使用済み核燃料プールの水は、冷却設備によって冷却されている。同プールの推移は常時監視されている。上記冷却機能が喪失するなどして数位が低下した場合に備え、本件使用済み核燃料プールには、使用済燃料水補給設備が設置されている。
本件使用済核燃料プールは、本件原発の原子炉補助建屋に収用されている。本件原発において、核燃料部分は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存する。他方、使用済核燃料は本件原発においては、使用済核燃料プールから放射性物質が漏れた時、これが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない。

   イ 使用済核燃料の性質

核燃料を原子炉内で燃やすと、核分裂性のウラン235が燃えて核分裂生成物ができる一方、非核分裂性のウラン238は中性子を吸収して核分裂性のプルトニウムに姿を変える。このように使用済核燃料の中には、未燃焼のウランが残っているほか、プルトニウムを含む新しく生成された放射性物質が含まれることとなる。使用済の核燃料は、崩壊熱を出し続け、時間の経過に従って衰えるものの、1年後でも1万ワット以上とかなりの発熱量を出す。この崩壊熱を除去しなければ、崩壊熱の発生源である燃料ペレットや燃料被覆管の温度が上昇を続け、溶融や損傷、崩壊が起こってしまう。

   ウ 使用済核燃料の処分方法

我が国においては、使用済核燃料は、ウランとプルトニウムを分離・抽出して発電のために再利用すること(いわゆる核燃料サイクル政策)が基本方針とされているが、このサイクルは現在機能していない。

   エ 使用済核燃料の危険性

福島原発事故においては、4号機の使用済核燃料プールに納められた使用済核燃料が危機的状況に陥り、この危険性ゆえに避難計画が検討された。原子力委員会委員長が想定した被害想定のうち、最も重大な被害を及ぼすとされたのは使用済核燃料プールからの放射の汚染であり、他の号機の使用済核燃料プールからの汚染も考えると、強制移転を求めるべき地域が170キロメートル以遠にも生じる可能性や、住民が移転を希望する場合にこれを認めるべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠にも発生する可能性があり、これらの範囲は自然に任せておくならば、数十年は続くとされた。

 3 加圧水型原子炉の危険性

  (1) 関西電力福井県大飯発電所1ないし4号機は、いずれも加圧水型(Pressurized Water Reactor)(以下、PWRと略称)といわれる型の原子炉であり、日本の三菱重工業社製である。しかして、PWRは構造的に問題点があり、三菱重工業社製のPWRは、第4で述べるように過去に何回も事故を起こしている。本件差止訴訟の対象である大飯原発の1号ないし4号の原子炉は、いずれも三菱重工業社製である。

  (2) PWRの仕組み

 ア 原子炉内で「一次冷却水」を熱し、高熱の一次冷却水を配管で蒸気発生器に送り、蒸気発生器内で「二次冷却水」(軽水)を熱して蒸気を発生させ、この蒸気をタービン室に送ってタービンを回転させ、この回転を軸で発電機に伝えて発電するという仕組みである。

 イ 一次冷却水(軽水)は、原子炉の炉心から蒸気発生器まで熱を運ぶ。水温は摂氏約300度になるが、加圧器により高圧状態(100~160気圧)なので沸騰はせず、液体状態が維持されている。一次冷却媒は、原子炉の炉心を通って流れているので、核燃料に直接接触し、放射能に汚染されている。

 ウ 蒸気発生器内部には、一次冷却水の過熱水が、数千本の細管(伝熱細管)を通って供給される。伝熱細管は、端から端までで50km以上もの長さがある。「一次冷却水」「二次冷却水」は、それぞれ別々に循環している。従って、蒸気発生器内部の伝熱細管の配管の破損がない限り、「一次冷却水」「二次冷却水」が接触・混合することはなく、蒸気タービン内を通る二次冷却水が放射能に汚染されていないという点でタービン室の管理がしやすいという点でBWR型より優れているとされている。
しかしながら、PWRには(4)で述べるような重大な問題点がある。

  (3) 日本の原発のうちPWR型のもの

日本にある原発のうちPWR型の原子炉は次のとおりである。

北海道泊発電所   1、2、3号機      北海道電力
福井県敦賀発電所  2号機(1号機はBWR) 日本原子力発電
福井県美浜発電所  1、2、3号機      関西電力
福井県大飯発電所  1、2、3、4号機    関西電力
福井県高浜発電所  1、2、3、4号機    関西電力
愛媛県伊方発電所  1、2、3号機      四国電力
佐賀県玄海発電所  1、2、3、4号機    九州電力
鹿児島県川内発電所 1、2号機        九州電力

  (4) PWRの構造的問題点

 ア (2)ウで指摘したように、蒸気発生器内部には、過熱水を運ぶ全長約50kmにも及ぶ数千本の細管(伝熱細管)が存在する。伝熱細管は、常時高熱・高圧にさらされ、且つ無数の湾曲部が存在するため、構造的に脆性を有している。

 イ 加熱された一次冷却水が高圧により液体状態が維持されている点では再循環が容易である。しかしながら、スリーマイル島事故(1979年3月28日)のように、ひとたび液体状態が維持できなくなった場合には、一次冷却水の残存量すらわからなくなる等、通常の制御手段がとれなくなり、非常用炉心冷却装置(ECCS)以外には冷却の手段がなくなってしまう。

 ウ 伝熱細管内部の軽水(一次冷却水)は常時放射能に汚染されており、このことからも伝熱細管の劣化が進行する。本件差止訴訟対象の各原子炉の運転開始年月日は、大飯1号炉が1979年3月27日、同2号炉が同年12月5日、同3号炉が1991年12月18日、同4号炉が1993年2月2日である。従って、1、2号炉は運転開始から35年以上経過、3、4号炉は22~24年経過している。