◆ 原告第10準備書面
第4 他のPWR型原子力発電所における事故

原告第10準備書面
-大飯原子力発電所のぜい弱性- 目次

第4 他のPWR型原子力発電所における事故

 1 PWRの事故発生例

PWRで、これまでに発生した主な事故には次のような例がある。

 (1) 関西電力・美浜2号機の二次冷却水の伝熱管破断(甲128)
1991年2月9日、美浜2号機で事故が発生した。その事故内容は、運転中の加圧水型原子炉の蒸気発生器の伝熱細管が破断して一次冷却水約55トンが二次側に漏洩したものである。幸いECCSが作動して原子炉は緊急停止した。
破断事故の直接原因は、蒸気発生器の伝熱細管の振動を抑制する振れ止め金具が設計で指示された位置に挿入されておらず、伝熱細管に異常な振動が発生して伝熱細管がフレッティング疲労破壊を起こしたためであった。この事故は我が国で初めて緊急冷却装置(ECCS)が作動した事例である。
しかしながら、上記のように放射能に汚染された一次冷却水が約55トンも二次側に漏洩したのである。即ち、原子炉の基本的機能である「閉じ込める」が働かなかったのである。しかも、地震も津波もない平常運転時にこうした事故が発生したのである。

 (2) また同3号機原子炉では、2002年11月にも一次冷却水漏れの事故があったことが発覚している(甲129)。一次冷却水は上記のように放射能に汚染されている。

 (3) 関西電力美浜3号機の二次冷却水噴出事故(甲129)
  ア 2004年08月9日、美浜3号機のタービン建屋内で高温高圧の二次冷却水が噴出して作業員4人が死亡、7人が負傷する大きな事故が発生した。同時点では、日本の原発史上で最多の死傷者を出す深刻な事故であった。

  イ 事故原因については、被告関西電力は、腐食や磨耗で配管が薄くなっていた可能性があるとしている。これは、地震や津波とは関係なしに原子炉に事故が発生する可能性のあることを被告関西電力が自認していることを意味する。同様の事故は1986年米国サリー原発でも発生しており(死者4人)、これを受けて日本国内でも自主検査をしてきたとされている。

  ウ しかるに、被告関西電力は破裂した箇所を同社の「管理システムに登録」していなかったため一度も点検しておらず、2003年11月に下請け会社から検査登録リスト漏れを指摘されていたのに直ちに対応しなかったという驚くべき事実が発覚した。
二次冷却水は放射能漏れには直結しないものの、作業員4人が死亡、7人が負傷するという重大な結果を引き起こしたのである。

資料:・「しんぶん赤旗」記事 2004年8月11日・2002年11月に一次冷却水漏れの事故があった。 赤旗記事

 (4) サン・オノフレ原子力発電所の蒸気発生器の伝熱細管破断事故(甲130ないし133)
  ア 2012年1月、アメリカ合衆国の「サウス・カリフォルニア・エジソン社」(以下、「SCE」と略称)経営のサン・オノフレ(San Onofre)原子力発電所(カリフォルニア州に所在)において、同発電所原子炉1号機の蒸気発生器の伝熱配管が損耗して水漏れが発生し、且つ放射能汚染水漏れも発生するという事故が発生した。さらに同発電所原子炉2号機の蒸気発生器配管にも破損がみられたため両機とも運転停止した。いずれの事故も、日本の三菱重工製の蒸気発生器の配管の欠陥が原因であった。

  イ 同年6月、上記事故は三菱重工のコンピューター分析のミスが原因であることが判明し、同年秋には米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission、以下「NRC」と略称)は、神戸市の三菱重工の施設に立入り調査を実施した。同年9月、三菱重工は、自ら製造した蒸気発生装置に欠陥部分があることを、三菱重工側が設置前に認知していたことを認めた報告書をNRCに提出した。同年12月、NRCは三菱重工との書簡を公開した。

  ウ 2013年2月13日、NRCは、電力会社SCEの再稼働申請を認めるか否かについて、公聴会を開催した。

  エ こうした流れの中で、2013年6月7日、SCEは廃炉を発表した。同年7月18日、SCEは三菱重工に対して、損害賠償を請求する旨通知した。なお、同原発の廃炉のコストは、当初見込み(27億ドル≒2700億円)を大幅に上回る44億ドル(約4400億円)に達すると報道されている。