◆ 原告第12準備書面
第3 放射性物質による環境汚染の状況

原告第12準備書面
-福島第一原発事故による汚染状況等 目次

第3 放射性物質による環境汚染の状況

 1 陸上の汚染状況

  (1)放射性物質の放出量

2011(平成23)年10月20日に公表された,原子力安全・保安院による試算(甲159「放射性物質放出データの一部誤りについて」)によれば,本件事故による放射性物質の放出量は,キセノン133が1100京ベクレル,ヨウ素131が16京ベクレル,セシウム134が1.8京ベクレル,セシウム137が1.5京ベクレルである。キセノン133の放出量は,チェルノブイリ原発事故の1.69倍である。【表省略】

   イ 事故前の空間放射線量率

福島第一原発事故前の福島県内は、原発周辺の地域であっても、平均空間放射線量率は,0.036~0.051mGray/h程度であった(甲160p22~23)。なお、ナノは10のマイナス9乗である。ミリは10のマイナス6乗である。グレイから外部被ばく線量シーベルトへの換算は、通常は0.8を掛ける。0.029~0.041mSv/h程度の空間線量だったことになる。

  (2)本件事故後の空間放射線量率

   ア 福島第一原発周辺

本件事故後,平成23年3月11日から同月松までの間に、福島県が原子力発電所周辺の23地点のモニタリングポストで空間線量率を測定した結果は,下記のとおりである(甲160p22~23)【表省略】。長期的な地域汚染という観点から見るために,2011(平成23)年3月11日0時から同年3月31日24時まで測定できた地点での平均値となっている。
例えば、福島県大熊町大熊では20mSv/h、福島県双葉町山田で14.85mSv/hなどの空間線量を記録している。大熊町大熊は、わずか5時間滞在しただけで被ばく量が100mSvに達する強烈な放射線量である。

   ウ 事故後の警戒区域及び計画的避難区域

2011(平成23)年9月1日に内閣府原子力被災者生活支援チーム及び文部科学省の調査として公表された警戒区域及び計画的避難区域における広域モニタリング結果(甲161)【図省略】によれば、双葉町,大熊町などの警戒区域においては,発電所の南から北西4~5km程度まで19μSv/h以上の地域があり,北側にも筋状に9.5μSv/h以上の地域が延びている。飯舘村などの計画的避難区域においては、19μSv/h以上の地域が発電所から32km程度まで広がっている。

   エ 第6次航空機モニタリング結果(平成24年12月28日時点)

平成24年12月28日時点の文部科学省の調査(甲162)【図省略】によると、福島第一原発を中心とする地域では、事故から1年9ヶ月以上経った平成24年12月28日の時点でも高い空間線量を記録しており、千葉県や群馬県でも、比較的空間線量の高い地域が現れている。
セシウム134、137の沈着量についても、広い地域で見られる。

   オ 食料品の汚染

平成27年5月25日現在でも、下記表の通り、県ごとに、多種多様な食品について出荷制限がされている(甲163「原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成27年5月25日現在」)【表省略】。
これらの食品については、市場に流通しないことになっているが、産地偽装等は我が国でも日常的に行われており、実効性があるか疑問である。また、私的に狩猟・採集された動植物等については、事実上規制は不可能であり、どのような影響が出ているのかも把握しようがない。この点、福島の野生の猿の白血球が田の地域に比べ減少している、という報告がある(甲164東洋経済13.4.3)。

  2 海洋汚染の状況について

   (1)海洋への放射性物質放出の状況

福島第一原発事故の後、大気中から海洋に降下し、または、海洋に直接放出された放射性物質の量は事故が起きた2011年3月中に全核種で12京7000兆ベクレルとも推計されている(甲165『海の放射能汚染』p36)。
また、福島第一原発から海洋へのセシウム137の液体による直接流出量は2012年12月までで3000兆~9000兆ベクレル(セシウム134を含めるとほぼ倍量になる)とも言われている(甲166『原発事故環境汚染』p47)。
その後、ここ数年の放出状況だけ見ても、新聞報道によれば2013年7月から2014年5月までの10ヶ月間で福島第一原発の湾内に出たストロンチウム90とセシウム137が合計2兆ベクレルにのぼる可能性がある旨報道された(甲168 2014.9.8時事)。さらに、2014年4月から約1年の間に、7420億ベクレルの放射性セシウムが海洋に放出され、そのうち、地下水経由が5100億ベクレル、後述のK排水溝経由が2000億ベクレルとされた。これは管理目標値である2200億ベクレルの3倍超にも昇る(甲176 15.3.26東京)。
現在でも海洋への新たな放出は止まっていない。すなわち原子炉建屋にたまった汚染水が地下にもれ、地下水脈を通じて海洋に放出され続けている(甲167 13.7.10東京)。これに対して、政府および東京電力は、建て屋への地下水流入を防ぎ、併せて海洋への放出を防ぐため「凍土遮水壁」を、1~4号機の建屋を取り囲むように設置する計画を立て、320億円を投じて実行しているが、技術的に成功するかすら未知数である上、原子力規制委員会の委員から不要論まで出ている状況である(甲173 15.3.3毎日)。
最近ニュース報道されただけでも次々に放射性物質の外海への放出が確認されている。
2014年10月13日には、2号機東側の井戸で採取された地下水からセシウム(セシウム134および137)が1リットルあたり25万1000ベクレル(4日前の3.7倍)、ストロンチウム90などベータ線を出す核種が780万ベクレル(4日前の3.7倍)、ガンマ線を出すコバルト60やマンガン54なども護岸の観測用井戸の地下水で過去最高となった(甲169-1 14.10.14時事)。これは台風による地下水位の上昇で、原子炉建屋の放射性物質に触れた地下水が増えたためと予想された。同年10月24日には、建屋周辺の井戸である「サブドレイン」1本の地下水において放射性セシウムが1リットルあたり46万ベクレルに上昇して、やはり過去最高を記録した(甲169-2 14.10.25日経)。

また、同年10月23日には、1号機タービン建屋海側の地下を通る水路にたまっている雨水の放射性物質濃度が急上昇し、22日には放射性セシウムの濃度が1リットルあたり16万1000ベクレルに上昇した。これも台風の影響とされる(甲170 14.10.24共同)。
一方、2015年2月24日には、福島第一原発敷地に降った放射能汚染された雨水が「K排水溝」を通じて直接外海へ放出されていたこと、しかもそれが2014年4月16日から毎週把握されながら放置されていたことが判明した(甲171 15.2.24産経、甲172 15.2.24日経、甲174 15.3.5東京)。K排水溝は常時1リットルあたり10ベクレル程度の汚染があり、降雨時などに一気に100倍以上に放射能汚染値が上がる状態だった。さらに同年3月10日には、処理水を貯蔵するタンクを囲う堰(せき)にたまっていた汚染雨水が流出した(甲175 15.3.10東京)。同年4月21日には、福島第一原発構内にたまる雨水を排出するポンプがすべて停止し、放射能汚染された雨水が外海へ漏れ出した(甲177 15.4.22福島民報)。

  (2)汚染の広がり

福島沖の海上では、2011年3月23日以降、数万ベクレル/m3のヨウ素131、セシウム134、セシウム137等が表層水から検出された。これは大気を経由して沈着したものとされ、福島第一原発から比較的離れた広範囲の海域から同じような濃度レベルで検出された。
同年3月末以降は、福島第一原発直近の海水から直接流出によると見られる極めて高濃度の放射性物質が検出された。セシウム137については、福島第一原発湾外で4700万ベクレル/m3(3月30日南放水口)、6800万ベクレル/m3(4月7日北放水口)、湾内では1200億ベクレル/m3 4月2日 2号機スクリーン)などが記録された。福島第一原発の南側10-16kmに位置する海岸では、これから数日ないし1週間程度遅れてセシウム137が100万ベクレル/m3を超える汚染のピークがあり、福島第一原発の東側15km沖合では、同時期に20万~30万ベクレル/m3のピークがあった。セシウム134も考えればほぼ倍量となる。外洋の海水における放射性物質濃度はその後減少しているが、福島第一原発の港湾内部ではその後も数千~数十万ベクレル/m3のセシウム137が検出され続けている(以上について甲166『原発事故海洋汚染』p114-115)。
実際の現象としては、福島第一原発に由来する放射性物質がすでに太平洋を横断してカナダでも検出されるに至っている(甲178 産経15.4.7)。2016年中に800テラベクレルの放射性セシウムが北米大陸西岸に到達する、という試算もされている(甲179 共同15.4.24)。
放射性物質の海洋への放出は外交問題にもなり得るし、日本が現にしている以上、日本海に面する中国や韓国の原子力発電所が同様の事故を起こす危険性がある場合に、日本国がこれを国際的に批判し、規制を求める正当性を持っていない。

  (3)沿岸海底の汚染状況

汚染が顕著なのは福島沖を中心とした沿岸地域の海底である。例えば、2011年4月から2012年7月にかけて、いわき市の沖合の堆積物中のセシウム137の量(ベクレル/乾燥させた土kg)は下記の図の通りであるが、水深70mまでの沿岸では概ね100~数千ベクレル/kg-dryの範囲にあり、やや減少傾向であるのに対して、70mより深い海底では数十~数百ベクレル/kg-dryの範囲にあり、やや上昇している(甲166 『原発事故海洋汚染』p117)【図省略】。
福島県内の河川土壌におけるセシウム濃度は2011年5月の段階で以下の通りである(甲165 『海の放射能汚染』p44)【表省略】。

河川の河口については、例えば東京湾の荒川河口ではセシウム137の濃度が増加傾向であり(甲166 『原発事故海洋汚染』p117)、陸地に沈着した放射性物質が河川経由で運ばれて蓄積されるものと思われ、田の地域も同様の現象が起こる可能性が高い。

  (4)食品への影響

魚介類が放射性物質を体に取り込み、人間がその魚を食べることによって放射性物質が人体に流入することは疑いのない事実である。青森県の下北半島沖から千葉県の銚子沖までの太平洋は暖流である黒潮と還流である親潮がぶつかる場所で、世界三大漁場の一つとされる。この水域の多量の魚が放射性物質に汚染された。
現在、魚介類に対する放射性物質の検査は、魚介類が水揚げされる港ごとに、全体の流通量からすればごく少数の検体に、週に一度行われているだけである(甲180 「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」)。それでも、事故後、平成26年中に以下のように基準値(1000Bq/kg)を超える放射性物質が検出され続けている(甲181 「汚染水漏洩と水産物の安全性について」)【図省略】。

今までも、基準値超えの魚介類が市場で堂々と流通していた可能性が極めて高いし、全数に対する検査が到底不可能である以上、今後もその状況自体は変わらない。
また、制限値を超える放射性物質を検出した種類の水産物は平成27年4月2日現在で下記の通り出荷制限がされているが、私的に漁獲されたものは当然ながら規制の範囲外であり、人によっては大量に摂取している可能性もある。

【出荷制限操業自粛等水域図】【図省略】
水産庁HP
(http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/hyouzi/kisei_kekka.htmlより)(甲182)