◆ 原告第12準備書面
第5 除染状況

原告第12準備書面
-福島第一原発事故による汚染状況等 目次

第5 除染状況

 1 除染とは

除染とは、生活する空間において受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を除去・遮へい・隔離することである。除去とは、放射性物質が付着した表土の削り取り、枝葉や落葉の除去、建物表面の洗浄などにより放射性物質を生活圏から取り除くことである。遮へいとは、放射性物質を土やコンクリートなどで覆うことで放射線を遮り、結果として空間線量や被ばく線量を下げることである。隔離とは、放射線の強さは放射性物質から離れるほど弱くなるため、放射性物質を人から遠ざけたり、放射性物質のそばにいる時間を短くすることである(甲184 除染情報サイト)

 2 除染には限界がある

環境省の除染情報サイトによると、現在宅地で行われている具体的な除染方法は、屋根はブラシ洗浄、壁はふき取り、雨樋は高圧水洗浄・吸引とされている。しかし、屋根の瓦や壁には数十マイクロメートルの細かい穴があり、汚染のほとんどを占める放射線セシウムがその中にこびりついており、ブラシ洗浄・ふき取り・高圧洗浄により取り除くことはできない。
実際に、平成26年4月27日時点で、国が実施した除染の結果では、「避難指示解除準備区域」の住宅地は、平均で空間放射線量が毎時〇・七五マイクロシーベルトだったのが、除染後は毎時〇・四四マイクロシーベルトとなり、41%減の効果があった。しかし、この数値は年間一ミリシーベルトに相当する毎時〇・二三マイクロシーベルトを上回るものであり、国の行う除染の効果は十分ではなく除染には限界があることが明らかとなった(甲185 TOKYO Web)。

 3 除染は進んでいない

国が財政支援する汚染状況重点調査地域の除染実施状況(下記表)【表省略】によると、住宅除染の除染の全体計画では29万9641戸で発注し、17万7717戸で実施され、平成27年1月末時点で、全体計画に対する住宅除染の進捗状況は47.5%にとどまる。また、全体計画に対する道路除染の進捗状況も22.9%にとどまっている。なお、国が財政支援する汚染状況重点調査地域には39市町村が指定されており、このうち36市町村が除染計画を策定している。(甲186 福島民報ウェブサイト)

東京電力福島第1原発3号機での使用済み核燃料プールのある原子炉建屋最上階の除染も難航している。除染開始から1年以上が経過しても大部分の場所で放射線量毎時1ミリシーベルトという目標値を達成できておらず、プールからの燃料取り出しの見通しは立たない。廃炉作業が進んでいないことは明らかである。
東京電力は、燃料取り出しには作業員が最上階に立ち入ることが必要であるため、平成25年10月から同3号について最上階の除染作業を開始し、当初の線量が高いところで毎時100ミリシーベルトを超えていたため、除染後の線量の目標値を毎時1ミリシーベルトと決めた。しかし、遠隔操作ロボットを使って壁や床に高圧の水を吹き付け、表面を削って吸引したものの、平成26年11月末に公表された線量は最大で毎時約60ミリシーベルトもあり、ほとんどの場所で目標値を達成できていなかった(甲187 毎日新聞ウェブサイト)。
上記からすれば、除染が進んでいるとは到底いえない。

 4 除染の基準は恣意的なものである

平成26年8月1日、環境省は、どの程度以下であれば除染されたといえるかの目標について、従前空間放射線量「毎時0.23マイクロシーベルト」以下であったものを、個人被ばく線量に基づく空間放射線量「毎時0.3~0.6マイクロシーベルト」以下に転換すべきだとする報告書をまとめた。「毎時0.23マイクロシーベルト」とは、政府が規定した除染の長期目標である個人の年間追加被ばく線量1mmシーベルトを、一定の生活パターン設定の上1時間あたりの空間線量に換算した値であり、多くの自治体が除染目標としてきたものである。すなわち、国は、除染には限界があり、除染がなかなか進まないことから、除染されたとする値を恣意的に下げたのである。国がいう「除染」とは、そもそも上記のような恣意的かつ限定的なものにすぎない(甲188 河北新報ウェブサイト)。

 5 除染に伴う問題

  (1)汚染土

平成26年3月31日時点での除染後に生じた汚染土の仮置き場の設置状況は下記のとおりである。注目すべきは、汚染土を現場保管しているのが5万3057カ所にのぼることである。特に、子供が集まる学校・幼稚園・保育所・児童養護施設・公園でも汚染土が保管されており、子ども・住民に対する被ばくは継続しているといわざるをえない(甲189 福島民報ウェブサイト)。

 現場保管  箇所数
 住宅、事業所等除染を実施した場所で除染土壌等を保管  50,076
 学校、幼稚園、保育所、児童養護施設、障がい児施設等の敷地内で除去土壌等を保管  1,247
 その他(公園等)で除去土壌等を保管  1,734
 合計  53,057

平成27年1月30日時点でも、福島県内で国が直轄で除染する第1原発周辺の11市町村にわたる「除染特別地域」では、244万立方メートルの汚染土が約200カ所の仮置き場に保管されている。福島県内の市町村が除染する地域では汚染土が計306万立方メートル存し、保管量の内訳は仮置き場58%、住宅21%、学校10%である。福島県を除く7県の汚染度の量については、千葉県が約10万立方メートル、栃木県が約7立方メートル、茨城県が約5万立方メートルであり、福島原発事故による東北・関東8県での汚染土の合計量は、東京ドーム約5杯分にあたる580万立方メートルにのぼる(甲190 日本経済新聞ウェブサイト)。
仮置き場から施設へ搬出する順番やルートなどを定める搬出計画は未確定であり、最終的な処分場も未だ決まっていない。
汚染土からは放射線が放出されることからすれば、いったん汚染土の場所を移したところで、放射線による被害は消滅しないこととなる。しかも、住宅・学校という住民(特に子供)が多く集まる場所に汚染土が保管されていることからすれば、汚染土が存する限り、現時点においても被ばくが進んでいることとなる。そして、これらの被害は原発立地県である福島県にとどまらず、周辺各県にも広がっているのである。
結局、除染後の土を、環境や人に放射線の影響を与えることなく、処理することはできないのである。

  (2)移住者の急増

このような除染が進んでいない状況に不安を抱き、原発避難者のうち福島県内や首都圏などで土地・住宅を購入し移住を決める人が急増しているのが実情である。平成26年秋時点で、福島事故により避難した者が移住する数は、移住用の不動産を取得した場合の特例件数だけでも3789人にのぼっている(甲191 TOKYO Web)。

 6 小括

被告国は、除染が進んでいると主張し、福島県が安全であることをアピールしようとしているが、上記のとおり、除染が進んでおらず、そもそも除染には限界があることは明らかなのである。