◆ 原告第13準備書面
第1 「真の国富」とは何か?

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第1 「真の国富」とは何か?

1、真の国富とは何かを検討する場合、そもそも、「コスト論」などの経済的側面よりも、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることの方が優先する。

2、生命・身体の安全は、何にも優先して保障されなければならない。財産・環境も、合理的な理由なしに侵害されてはならない。しかして、原発事故による生命・身体・財産・環境への被害は甚大である。これとの対比においては、多額の貿易赤字などは、生命・身体・財産・環境を侵害する理由とはならない。

3、設定された基準限界を超えるような事象を「残余のリスク」として片づけることは倫理的に受け入れられない。人間の災害準備や対策には限界がある。原発事故により発生しうる災害の巨大さ、後の世代への負担や放射線による遺伝子損傷の可能性を考慮すれば、そのリスクを相対的に比較衡量してはならない。

4、上記の点は、大飯原発3、4号機運転差止請求事件についての福井地方裁判所判決(2014年5月21日)によっても、明らかである。なお、同判決の判示における被告とは関西電力のことである。

「被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気料金の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。
また、被告は、原子力発電所の稼動がCO2排出削減に資するもので、環境面で優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻な事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。」

5、仮に経済的側面を重視するとしても、経済的面からみても、原発は、総合的に検討した場合、コストが高いことは「第4」「第5」で詳述するとおりである。

6、ドイツは、社会民主党・緑の党の連立政権時代の2000年に脱原発法と再生可能エネルギー法を制定したが、その内容は次のとおりである。

  1. 最も重要な安全面で、原発はミスが許されず、原子力は人類が制御できない科学技術であるという見解に達した
  2. 新しい再生可能エネルギー産業に投資し、エネルギー政策を転換させる必要がある
  3. 使用済み核燃料の処分場の解決策がない

7、その後、保守党政権に代わり原発維持政策に変更されたが、2011年3月の福島原発事故を受けて、メルケル政権は速やかに2022年までの脱原発を決めた。この内容は第2で詳述するとおりであり、国富論の観点からも極めて重要である。