◆ 原告第13準備書面
第4 原発の「コスト論」について

原告第13準備書面
-自然代替エネルギーの可能性等- 目次

第4 原発の「コスト論」について

 1 「安い」といわれてきた原子力発電のコストの「からくり」

(1)「原子力発電は最も安価なエネルギーである。」というのが、原発推進の1つの論拠であった。それは、2004年に政府の総合資源エネルギー調査会が発表した報告書の数値が具体的根拠とされてきた。

(2)これによると、エネルギー源ごとの発電コストは、原子力は5・3円/kWhであり、一般水力の13・6円/kWh、石油火力の10・2円/kWh、石炭火力の6・5円/kWh、LNG火力の6・4円/kWhよりも安いとされている。

(3)原発は、発電コストに占める燃料費の割合が低く、建設費や維持管理費が高いのが特徴である。燃料費はあまりかからないので、使えば使うほど安くなる。しかしながら、原発のコストが5.3円/kWhであるときの前提条件は、運転年数40年、設備利用率80%というものであった。ところが、発電コストの計算がなされた2004年時点で、運転年数が40年を超える原発は1基もなかった。実績もないのに、運転期間を40年として計算していたのである。

(4)もう一つの問題は、計算にあたって使われた条件と根拠、計算式が公開されていなかったことである。電気事業連合会の数字が審議会で発表され、この審議会を通じて政府の見解となる。これが「原発安価神話」の根拠となってきたのである。

 2 原発の発電コストとは何か

発電コストは「発電に直接要する費用」と「バックエンド費用」に分かれる。

(1)「発電に直接要する費用」には、燃料費、建設費(減価償却費)、運転維持費などが含まれる。この費用は、国民が電気料金を通じて負担している。

(2)原発には、核燃料を使用した後に発生するコスト、即ち「バックエンド費用」がかかる。発電後に使用済燃料に含まれる大量の放射性廃棄物の処分のためのコストであり、放射性物質を使う原子力発電に宿命的にかかるコストである。核燃料は使用済みになっても、強い放射線を出し続ける。熱も発生させるため、長期にわたって冷やしておかなければならない。

(3)「バックエンド費用」には、使用済燃料の再処理費用(プルトニウムの抽出費用)が入っている。日本では使用済燃料をすべて再処理することを基本方針としている。福島原発事故後も、その方針は今のところ変わっていない。再処理費用と再処理に付随する高レベル放射性廃棄物などの処分コストが必要になる。日本には廃炉処理が終わった原発はまだ存在しない。廃炉には、数十年かかることは確実であり、これにも莫大な費用がかかる。

 3 「総括原価方式」に基づく、実際の発電コストの計算

(1)「電気料金によって回収される金額」=「営業費用」+「事業報酬」である。電力会社は、「営業費用」(発電に要するさまざまな費用)と、「事業報酬」(支払利息や利益)を電気料金に転嫁している。

(2)「営業費用」=[減価償却費(建設費)+燃料費+運転維持費など]である。

(3)「事業報酬」は、「レートベース×報酬率」で計算される。レートベースは、発電に必要な資産であり、特定固定資産、建設中の資産、核燃料資産、特定投資、運転投資、繰延償却資産からなっている。

(4)営業費用と事業報酬を併せたものの総額を、電気料金に転嫁する方法を「総括原価方式」と呼んでいる。

 4 「総括原価方式」のからくり

(1)電力会社は、事業にかかわるすべての「営業費用」と「事業報酬」とを、あらかじめ電気料金の中に組み込んでしまっている。従って、総括原価方式が正当性を持つのは、営業費用及び及び事業報酬が適切に計算されている時に限られるのである。

(2)ところが、現行の総括原価方式には重大な欠陥がある。
第1は、費用を過大に見積もり、電気料金の原価に組み込んでいたことである。届け出時と実績の料金原価の差は、2001年からの10年間で6186億2800万円にも及んでいたのである。

第2は、電気事業に不可欠とはいえないものまで、営業費用に含めて電気料金から徴収していたことである。東京電力の2010年度の広告宣伝費は、約116億円にも達していた。すべて電気料金からの支出である。普及開発関係費には、オール電化関連広告費や、電気事業連合会などの団体への寄付金、研究費、図書費などの消耗品費、福利厚生費、電事連などの各種団体への拠出金、出向者の人件費など、ありとあらゆる項目が含まれている(東京電力に関する経営・財務調査委員会「委員会報告」2011年10月3日)。

(3)しかしながら、そもそも地域独占が許されている電力会社に、多額の広告費は不要である。広告費は、原子力の安全性イメージを国民に浸透させるために使われてきたのである。

(4)電源立地地域、特に原発立地地域に対して、電力会社から多額の寄付が行われている。寄付は、自治体の外にも漁協などの各種団体にも行われていると見られているが、実態は闇の中である。これらが、発電の費用として電気料金に自動的に組み込まれている。多額のカネを小さな自治体に渡し、原発容認の意見を意図的に形成していくことは、倫理的に許されるものではない。

 5 発電コスト単価(円/Kwh)の計算

(1)発電コスト単価=【(営業費用+事業報酬)÷発電量】である。
1970年以降40年間の各電源の発電コストの推移を見ると、電力9社の平均で、一貫して火力、水力及び原子力の3つの電源中、水力(一般水力)の発電コストが最も低くなっている。
原子力の発電コストは平均で8・53円/kWhであり、水力は3.86円/kWhで1番安くなっている。原子力は決して最も安い電源ではなく、設備利用率や社会的自然的条件によって大きく変わってくるのである。

(2)電力会社は、どのような団体・個人にどれくらいの寄付を行っているのかを全く明らかにしていない。不透明というより、「不確実」なコストもあり、代表的なバックエンド費用は、大部分は将来発生するもので、現時点で確実に知ることができないのである。

 6 原発の設備利用率とコスト

原発の設備利用率は、現実には、そんなに高くない。40年間平均すると70%くらいしかない。今後、経年劣化により設備利用率はますます低くなっていく。そうなると、原発の発電コスト単価は上昇していくことになる。

 7 社会的コストを含めた原発のコストを考える必要がある

事故収束には莫大な経費が必要である。事故収束以外にも、被害者への損害賠償にコストがかかる。しかるに、電力会社の負担ではなく、社会の負担になっている。「第5」で詳述するように、原発のコストを論ずる場合、「社会的コスト」を考慮に入れる必要がある。