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◆第21回口頭弁論 原告提出の書証

甲第464~466号証(第54準備書面関係)
甲第467~476号証(第56準備書面関係)
甲第477~478号証(第57準備書面関係)
甲第479号証 (第58準備書面)



証拠説明書 甲第464~466号証(第54準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第464号証
判決書(抄本)(京都地方裁判所第7民事部)

甲第465号証
判決要旨(東京地裁民事第50部)

甲第466号証
安全目標と新規制基準について(議論用メモ)と題する書類(原子力規制庁)


証拠説明書 甲第467~476号証(第56準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第467号証
大飯発電所の地盤構造について(赤松純平)

甲第468号証
大飯3,4号炉設置許可基準規則等への適合性について(地盤)【抄本】(被告関電)

甲第469号証
原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合第59回議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第470号証
第21回審査会合 資料1-1 大飯発電所の地下構造把握について【抄本】(被告関電)

甲第471号証
第21回審査会合 資料1-2 大飯発電所の地下構造把握について(データ集)【裏紙のみ・抄本】(被告関電)

甲第472号証
第78回審査会合 資料2-1 大飯発電所内敷地破砕帯の評価について【抄本】(被告関電)

甲第473号証
第92回審査会合議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第474号証
第89回審査会合 資料3 大飯発電所地盤モデルの評価について【抄本】(被告関電)

甲第475号証
大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合第4回議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第476号証
第206回審査会合 資料3-4 大飯発電所地震動評価について(参考)大深度地震計設置の取組状況【抄本】(被告関電)


証拠説明書 甲第477~478号証(第57準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第477号証
口頭弁論要旨(原告 西川政治)

甲第478号証
スライド(原告 西川政治)


証拠説明書 甲第479号証(第58準備書面関係)
(2018年11月14日)

甲第479号証
2018年6月18日大阪府北部の地震(M6.1)について(竹本修三)

◆第21回口頭弁論 意見陳述

2018年9月4日

※ この意見陳述はスライドと合わせてお読みください。

口頭弁論要旨

西川政治

(スライド1) 私は、京丹後市網野町にある丹後ふるさと病院、たちばな診療所を運営する特定医療法人三青園の常務理事・事務局長と特養「ふるさと」の経営責任を持つ理事を務めています。

1、病院・特養の沿革と現在の状況

(スライド2) 丹後ふるさと病院は1983年8月に52床で開設され、2003年に160床に規模拡大しました。
急速な高齢化を迎え2012年に60名規模の特養を建設、2016年に同規模を増設しました。

(スライド3) 現在、病院の許可病床160床、特養は120名の収容規模で運営しています。職員は、2018年7月末現在で、正規雇用・非正規雇用含めて318名、常勤職員換算では258.7名になります。7月末現在の病院の入院患者数は158名、特養の入所者数は112名の合計270名になります。

(スライド4) 私たちの病院・特養は京都府の最北端、丹後半島の京丹後市網野町に位置し、2施設の南に国道178号線が通り、京都府で一番大きな湖である離湖、離湖古墳公園があり、裏側にあたる北方面に小高い林があり防風林の役目を果たしています。

病院の標高は5m弱、離湖は3m弱、海水逆流防止の可動式の防潮堤が設置されていますが、北風が吹くと海抜0mになります。離湖から日本海への水路の距離は約500mです。日本海側で地震が発生すれば離湖の水位は、一気に上昇するでしょう。北側も500m前後で日本海の沿岸になります。その間に40m~100mの丘があります。津波が発生すると、この丘以外に避難する場所はありません。病院・施設前の国道178号線は海抜約3~4mであるために自動車は通行不可能になります。これは網野町の50~60%が4~5mの海抜の範囲に入り町全体が機能不全に陥ります。

(スライド5) 我々の病院・特養は、大飯原子力発電所とは直線距離で58.1km、高浜原子力発電所とは46.3kmの位置にあります。京丹後市と高浜原発との最短距離は30.2km、大飯原発とは41.9kmとなっています。

(スライド6) 政府の原子力損害賠償紛争審議会(会長=能美義久学習院大学教授)は、2011年12月5日「東京電力福島第一原発から50km圏にある自治体の住民まで、損害賠償の対象を広げる方針を固めました。また、検討していた自主避難者への補償を加えました。

アメリカ政府は2011年10月8日に「妊婦、子供、高齢者は30km圏内には入らない事、80km圏内に一年以上は住んではいけないと勧告」しています。

福島第一原発事故後、50km圏内を計画的避難区域が設定されましたが、我々の2施設も、上記、原子力損害賠償紛争審議会の補償対象地域、アメリカ政府の勧告から見て、安全が保障されたとは言えません。

今回、私は、事故発生による避難移動の不可能といえる状態について述べたいと考えています。

2、入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法

(スライド7) 病院の患者、特養の入所者が、避難する場合には、国道178号線を利用することになります。しかし、地震や津波の影響で、国道178号線が、通行止めとなった場合、避難することは出来ません。入院患者、入所者の移動方法について2018年5月15日(病院入院患者)・16日(特養入所者)に調査したところ、ストレッチャー移動の入院患者・入所者は91名、車椅子移動は155名、自分で歩行不可能な方246名、自分で動ける人が16名の合計262名でした。

仮に、国道178号線が通行できるとして、ストレッチャーを乗せる救急車と、車椅子を乗せる事の出来るリフト車が必要な患者・入所者が246名になります。

現在も病院・特養から建物の外に出る場合は、ストレッチャーの方は救急車、車椅子の方は車椅子ごと乗れるリフト車での移動になっています。

(スライド8) 移動手段である自動車は、ストレッチャー1台乗りの救急車が1台、車椅子2台乗りのリフト車が2台、車椅子1台用のリフト車が2台の計5台、同時に7名の移送が限度です。網野町消防分室が救急車1台、町内にある特養にリフト車はありますが其々が使用します。ストレッチャー移動の方は、病院、特養の施設内はベッドで移動しています。移動にあたっては、ストレッチャー移動の方には職員2名、車椅子は1名が付添う必要があります。

(スライド9) 避難先は、兵庫県北部が考えられます。綾部・福知山が避難先として可能になれば敦賀・舞鶴方面からの避難先になるからです。豊岡病院は大飯原子力発電所から直線距離で76.6km、丹後ふるさと病院から約35km、通常の道路事情で移動に1時間は必要です。事故が発生すれば数時間必要になると想定されますし、そもそも輸送する自動車の調達は不可能です。自動車で避難するとなれば、点滴や排泄等に対応する人員の確保や、装備等の備蓄状況から考えると全く困難です。われわれの所有する車両台数だけでは、1回7名の避難で246名の避難を完了するためには36往復が必要です。大型バス等が確保できたとしても、バスに乗せ換える事も当然不可能です。又自分で歩行可能な方も一人で移動することは困難で、必ず付き添いが必要です。しかし、以下に述べるとおり、原発事故が、起きれば、職員自身も避難せざるを得ず、付添にあたる職員の人数を確保することは、不可能です。

3、職員の避難について

(スライド10) 丹後ふるさと病院、特養「ふるさと」は大飯原発から58.1km、高浜原発から46.3kmの距離にあり、京丹後市は、高浜原発の事故に際しては、京都府の指導はありませんが、独自に避難計画は作成しています。しかし、政府、京都府の予算が付かないために、実施には時間がかかる模様です。我々の施設では、火災時の避難訓練は年2回実施していますが、原発事故に対する対策は立ててません。

(スライド11) 職員は、2018年7月末日時点で、実数で病院227名、特養91名、合計318名、常勤職員換算で病院173.8名、特養84.9名、計258.7名、週日の日勤は、病院113名、特養52名、土曜日の午後と日曜日の日勤は病院46名、特養38名、夜勤は病院17名、特養7名になります。原発事故が起きた場合、その勤務状態での対応になりますが、とても人員は足りません。そもそも、事故が起きれば、職員自身も業務を行えるとは限りません。

(スライド12) たとえば、2011年の福島原発事故において、高野病院では、看護職員33名の内、職員自身が避難したりするなど様々な事情のため、半数以下しか、勤務を継続できませんでした。福島県の高野病院は、福島第一原発から22kmに位置し、原発のある双葉郡内で唯一、入院できる病院として被災地唯一の医療を担っていました。当時、高野病院には70代~100歳の寝たきりの患者が37名いました。院長の「私が残るから皆は逃げなさい」との言に、看護師が怒って「院長一人残していけるわけがないでしょう。点滴やオムツ交換はどうするのですか」と言って、何人かのスタッフが残っていったと現理事長である娘さんが述べています。

職員の家族構成、勤務時間制限、病院、特養の事故に対する認識等により、原発事故が起きた場合、職員が、業務を継続できるとは限りません。また、病院としては、決して強制することはできません。我々は、どんな事があっても、どんな方法であっても、患者を守り抜く決意を持っていますが、福島原発事故では、移送を選択した病院・施設は、移送中や到着後に、大量の死亡者を出した事例が生まれています。我々の選択肢は出るも地獄、残るも地獄だと考えています。

先にも述べたように、我々は、火災時に建物外への搬送訓練は行っていますがそれ以外は実施していません。政府、京都府、京丹後市の責任ある対応に沿いながら検討します。

4、入院患者・入所者の高齢化の状況

(スライド13) 入院患者・入所者は高齢者がほとんどです。2018年5月15日(病院入院患者)・16日(特養入所者)に調査したところ、100歳以上が12名、80歳以上では221名、70歳以上で見れば262名中248名にもなります。この年齢構成での避難行動は、施設内行動さえも介助が必要であり、施設外への避難行動は全く不可能です。

(スライド14) 京丹後市の高齢化率は1980年14.5%、2000年30.9%、2015年35.0%、2018年4月1日の住民基本台帳では、人口55,426名、高齢者19,566名、35.3%になっています。人口は1950年の83,001名から急速に進む人口減少と高齢化は、我々の病院・特養と同じ状況であり、お互いに助け合いながら避難する事など到底考えられません。

5、入院患者、施設入所者の家族構成

(スライド15) 病院2017年10月15日と特養2018年5月23日に調査したところ、入院患者・入所者の家族構成は、高齢者独居世帯が87名で33.5%、高齢者夫婦世帯が51名で19.6%、2~3世代世帯が121名の46.5%となっています。高齢者独居世帯・高齢者夫婦世帯を合わせれば138名、53.1%に達します。この様な状況では家族による避難の援助も不可能です。

京丹後市で見ると(2015/4/1国勢調査)20,469世帯の内・高齢者独居世帯2,795世帯13.6%、高齢者夫婦帯2,825世帯13.8%の計5.620世帯27.4%になります。65歳以上のいる世帯は12,377世帯60.5%となっており、病院・特養の避難時に家族の援助を望むべくもありません。

6、終わりに

(スライド16) 『福島』に続いた日本で二番目の原発事故が発生すれば、私たちの病院・特養の患者・入所者は、当然避難できません。建物は、放射線に対して、防護機能はありません。建物の中に残ることは非常に危険です。しかし私たちは、『福島』の高野病院が選択した、「患者・入所者を見捨てないで残る道」しかないと考えています。私たちは、避難しても残っても多数の死者を出すでしょう。
そこで犠牲になる人たちは、事故がなければ安らかな終焉を迎える事が出来たはずですが、それをも奪われて行くことになります。

[1] 我々大人が解決すべきツケを、全部次世代に残していく事で若者たちは、将来に希望が持てるのでしょうか。
[2] 科学が今日の経済成長戦略に屈するのか、社会や科学に対する不信感は大きくなるばかりです。
[3] 人間が社会や自然を変革していく歴史的経過の中で現実に自然破壊が進行し、それをこれまでの様に「想定外」で済ませてよいのでしょうか。

我々はこの様な事態にならない世の中を作る努力が必要と考えています。

以上

◆原告第58準備書面
―大阪北部地震と上林川断層―

原告第58準備書面
―大阪北部地震と上林川断層―

2018年11月14日

原告提出の第58準備書面

【目 次】

1 基準地震動算定で上林川断層の延長を拒む被告関電
2 上林川断層の北東延長線は地殻内地震発生機序から当然
3 大阪府北部地震 -「活断層ドグマ」の誤り
4 知られた活断層の延長線上で地震が発生する
5 予想される壊滅的被害



1 基準地震動算定で上林川断層の延長を拒む被告関電

大飯原発の基準地震動は、敷地毎に震源を特定して策定される地震動の震源として、FO-A~FO-B~熊川断層と上林川断層が選定され、算定されている。

その上林川断層は、京都府綾部市付近から北東に伸びる断層である。被告関電は、上林川断層の南西端を綾部市下八田町付近、北東端を京都府福井県県境付近としている。

北東端の延長線上に大飯原発がある。原告らは、活断層としての上林川断層の被告関電の上記評価は過小評価であること、少なくとも「活断層である上林川断層」と、その北東に続いている「地質断層である上林川断層」はもともと一つの断層で「両者が一体として活動する危険性は十分に認められる」から、被告関電が連動を考慮せず、上林川断層を北東方向に延長しないのは重大な誤りであると、被告関電を批判した。

これに対して被告関電は、「地質断層としての上林川断層」は活断層でないから、「活断層である上林川断層」との連動を考慮する理由がないなどと反論している(被告関電準備書面(17)の第6)。

しかし、被告関電の上記再反論は、地殻内地震の発生機序、活断層以外の場所で地震が繰り返されている事実に目を瞑ったものと言うほかない。

被告関電準備書面(3)p51に加筆【図省略】


2 上林川断層の北東延長線は地殻内地震発生機序から当然

 ア 近畿地方は東西方向に主圧力

若狭湾を含む近畿地方で東西方向に主圧力が働いている(国土地理院の観測データ等)。【図省略】

 イ 共役断層

東西方向に主圧力が働いている場合には基本的にその方向とプラス・マイナス45度ずれた方向に、ずれの向きが逆向きになる断層面が走ることとなる。これを共役断層という。【図省略】

 エ 共役断層の典型例

共役断層の典型的な例としては、飛騨高地の北部の富山県南部から岐阜県北部にかけて分布する跡津川断層(北東-南西方向で右横ずれ)と、岐阜県・長野県に跨がる阿寺山地と美濃高原との境界に位置する阿寺断層(北西-南東方向で左横ずれ)や、兵庫県淡路市にあり阪神大震災を引き起こした活断層の1つである野島断層(北東-南西方向で右横ずれ)と、岡山県東部から兵庫県南東部にかけて分布する山崎断層(北西-南東方向で左横ずれ)などが挙げられる。そして、本件大飯原発の西側にある山田断層と郷村断層も共役断層である。共役断層走行は主圧力方向から約90度ずれている。

山田断層と郷村断層は、主圧力の方向が、東から時計回りに25°、西から同じく25°であり、その共役断層は、その主圧力から互いに約45度ずれている。【図省略】

 オ 近畿地方の主圧力が東西方向である事

国土地理院の中部・近畿地方の地殻ひずみ(http://www.gsi.go.jp/cais/HIZUMI-hizumi4.html)によれば、以下のとおりである。「近畿地方:1883年~1994年の約100年間では、紀伊半島を除いた地域においてほぼ東西方向の縮みのひずみがみられます。各種の調査研究結果から1995年の兵庫県南部地震は東西方向の圧縮の力がかかって発生したとされており、ひずみの傾向と調和的です。紀伊半島をみると、南海トラフ沿いの巨大地震(1944,1946年)の影響により最近約100年間では北西-南東方向の伸びのひずみがみられますが、最近約10年間では同じ方向の縮みのひずみがみられるようになります。なお、最近約100年間では、丹後半島に1927年の北丹後地震にともなう影響がみられます。」

つまり、国土地理院の見解によれば、近畿地方の111年間のひずみ変化は、東から日本に押し寄せる太平洋プレートの力が支配的であり、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの圧縮力は無視できて、E-W方向の圧縮力を考えればよいというものである。これを被告関電も認めており、大飯原発に最も影響の大きい想定地震としては、FO-B~FO-A~熊川断層が連動して動いた場合のマグニチュード7.8の地震を想定している。これに対して、原告らはFO-B~FO-A~熊川断層と共役関係にある上林川断層の東北延長上でマグニチュード7以上の地震が発生する可能性が高いことを再三指摘してきた。この指摘に対して、被告関電は真摯に対応していない。

 カ 丹後半島から西方の主圧力は、東から時計回りに25°、西から25°

一方、丹後半島から西方に進み鳥取県・島根県までの最近の地震の発生様式を見ると、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの影響も無視できなくなる。鳥取県では1943年に鳥取地震(M7.2)、2000年に鳥取県西部地震(M7.3)、2016年に鳥取県中部地震(M6.6)が発生しているし、島根県では2018年に三瓶山の近くで島根県西部の地震(M6.1)が発生している。これらの地震は、東から押し寄せる太平洋プレートに加えて、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの影響も考慮して、平均的な圧縮力場の向きをE25°S-W25°N(東から南側へ25°、西から北側へ25°、以下同じ)とすれば、矛盾なく説明できる。すなわち、1943年の鳥取地震(M7.2)の地震断層はN70°E、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)の地震断層はN20°W、2016年の鳥取県中部地震(M6.6)は主断層がN20°W、副断層がN70°Eである。また2018年の島根県西部の地震(M6.1)の地震断層はN20°Wである。これらの地震は、圧縮力場の向きがE25°S-W25°Nとして共役関係にある地震断層として説明がつく。この圧縮力場は、前述の山田・郷村断層とも矛盾しない。

 キ まとめ

「FO-B、FO-A及び熊川断層」と「上林川断層」は東西主圧力のもとでの共役断層と考えられるから、大飯原発周辺では、「FO-B、FO-A、熊川断層」の動きを警戒しなければならないことは当然であるが、共役関係にある「上林川断層」にも警戒する必要がある。そして、「上林川断層」は「FO-B、FO-A及び熊川断層」の共役断層であるから、「上林川断層」の北東端を被告のように京都府福井県県境付近とすることは誤りで、「FO-B、FO-A及び熊川断層」まで続き、あるいは、少なくとも延長する。これは、地殻内地震の発生機序からの、論理当然の帰結である。


3 大阪府北部地震 -「活断層ドグマ」の誤り

被告は、「上林川断層」の東北延長部分は活断層ではないとの理由で、「上林川断層」とその東北延長部分は連動しないと言う。

ところで、2018年6月18日07時58分に大阪府北部の深さ約15キロメートルでマグニチュード(M)6.1の地震が発生した。当初は、近くにある活断層の有馬-高槻断層帯、上町断層帯、生駒断層帯のいずれかが動いたと考えられていた。

地震調査委員会、2018年6月18日大阪北部地震の評価添付資料より【図省略】

しかし、気象庁の震央分布図(6月18日~7月24日)によれば、この地震はいずれの活断層が動いたものでもなかった。

気象庁 大阪府北部の地震 地震活動状況(8月19日09時現在)より【図省略】

大阪府北部地震は、近傍に活断層がいくつもあったのに、既存の活断層以外が破壊され震源となった。

原告らは、阪神大震災や鳥取県西部地震の例を挙げて、地殻内地震は活断層の知られていない場所でも起きる、どこで起きてもおかしくないと繰り返し指摘してきた。【図省略】

大阪府北部地震は、地殻内地震は活断層の知られていない場所でも起きるという原告指摘を裏付けるさらなる事実を重ねることとなり、地震は活断層でしか起きない、震源を既存の活断層に限定する考えの誤り、すなわち「活断層ドグマ」の誤りを明らかにした。被告関電は、「活断層ドグマ」に捕らわれている。


4 知られた活断層の延長線上で地震が発生する

既に指摘したとおり、福岡県西方沖地震(M7.0)は、警固断層の延長上で起きた。「上林川断層」の延長上の、大飯原発近傍で同じことが起きないと誰が断言できるであろうか?【図省略】


5 予想される壊滅的被害

「上林川断層」の東北延長上で、M7クラスの地殻内断層地震が起きれば、地震動と津波の影響で大飯原発は壊滅的な被害を受けることになる。安全側にたって、上林川断層とその北東延長部分との連動を考慮しなければならない。

以上

◆原告第57準備書面
-避難困難性の敷衍(病院における問題点について)-

原告第57準備書面
-避難困難性の敷衍(病院における問題点について)-

2018年(平成30年)8月24日

原告提出の第57準備書面pdf)

【目次】

第1. 病院・特養の沿革と現在の状況
第2. 入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法
第3. 職員の避難について
第4. 院患者・入所者の高齢化の状況
第5. 入院患者、施設入所者の家族構成


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で病院において理事などを務める西川政治の体験をもとに病院における避難困難性に関する個別事情について述べる。


第1. 病院・特養の沿革と現在の状況

 1 丹後ふるさと病院の状況

丹後ふるさと病院は、1983年8月に52床で開設された。2003年には、160床に規模を拡大し、その後、2012年に60名規模の特養を建設、さらに、2016年に同規模の増設を行った。

丹後ふるさと病院は、現在、病院の許可病床160床、特養は120名の収容規模で運営している。職員は、7月末現在で、非正規雇用含めて318名、常勤換算では258.7名である。7月末現在の病院の入院患者数は158名、特養の入所者数は112名の合計270名である。

 2 丹後ふるさと病院・特養ふるさとの位置など

丹後ふるさと病院・特養ふるさとは、京都府の最北端、丹後半島の京丹後市網野町に位置し、2施設の南に国道178号線が通り、京都府で一番大きな湖である離湖、離湖古墳公園があり、裏側にあたる北方面に小高い林があり防風林の役目を果たしている。

病院の標高は5m弱、離湖は3m弱、海水逆流防止の可動式の防潮堤が設置されているが、北風が吹くと海抜0mになる。離湖から日本海への水路の距離は約500mである。日本海側で地震が発生すれば離湖の水位は、一気に上昇する危険性がある。北側も500m前後で日本海の沿岸になる。その間に40m~100mの丘がある。津波が発生すると、この丘以外に避難する場所は、無い。病院・施設前の国道178号線は、海抜約3~4mであるために自動車は通行不可能になる危険性がある。これは網野町の50~60%が4~5mの海抜の範囲に入り町全体が機能不全に陥る危険性がある。

丹後ふるさと病院・特養ふるさとは、大飯原子力発電所とは直線距離で58.1km、高浜原子力発電所とは46.3kmの位置にある。京丹後市と高浜原発との最短距離は30.2km,大飯原発とは41.9kmとなっている。


第2. 入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法

 1 丹後ふるさと病院における避難困難性

丹後ふるさと病院の患者が、避難する場合には、国道178号線を利用することになる。しかし、地震や・津波の影響で、国道178号線が、通行止めとなった場合、避難することは出来ない。2018年5月15日、16日時点の調査によれば、入院患者の内、ストレッチャーを必要とする者は91名、車椅子を必要とする者は155名、自分で動ける者が16名の合計262名であった。仮に、国道178号線が通行できるとしても、ストレッチャーを乗せる救急車と、車椅子を乗せる事の出来るリフト車が必要な患者・入所者数の合計は246名である。

ストレッチャーや車椅子を運ぶ事が可能な車の数も僅かであり、移動にあたっては、ストレッチャー移動の方には、職員2名、車椅子は1名が付添う必要があり、緊急時に、そのような人員を確保することは極めて、困難である。

 2 避難先の問題

仮に、避難先が、兵庫県北部となった場合、兵庫県北部に位置する豊岡病院は、丹後ふるさと病院から約35km、離れており、通常の道路事情でも移動に1時間は必要である。事故発生時には、数時間必要になることも想定される。

自動車や人員の確保、装備等の備蓄状況を踏まえると、自動車で避難することは、難しい。丹後ふるさと病院が保有する車両台数だけでは、1回7名の避難で246名の避難を完了するためには36往復が必要となる。大型バス等が確保できたとしても、バスに乗せ換える事も当然、不可能である。又自分で歩行可能な方も一人で移動することは困難で、必ず付き添いが必要である。


第3. 職員の避難について

丹後ふるさと病院、特養「ふるさと」は大飯原発から58.1km、高浜原発から46.3kmの距離にあり、京丹後市は、高浜原発の事故に際しては、京都府の指導は無く、独自に避難計画を作成している。しかし、国、京都府の予算が付かないために、実施には時間がかかりそうである。丹後ふるさと病院、特養ふるさとでは、火災時の避難訓練は年2回実施しているが、原発事故に対する対策は立てていない。

職員は、2018年7月末日時点で、実数で病院227名、特養91名、合計318名、常勤職員換算で病院173.8名、特養84.9名、計258.7名、週日の日勤113名、特養52名、土曜日の午後と日曜日の日勤は病院46名、特養38名、夜勤は病院17名、特養7名である。避難の場合その勤務状態での対応となる。

職員の家族構成、勤務時間制限、病院、特養の事故に対する認識等により、職員の対応は様々であり、決して強制することはできない。


第4. 院患者・入所者の高齢化の状況

ふるさと病院における入院患者の状況は、100歳以上が12名、80歳以上では221名、70歳以上で見れば262名中248名となる。施設内行動さえも介助が必要であり、このような年齢構成での避難行動は、非常に困難である。

また、京丹後市は、高齢化が、進んでおり、お互いに助け合いながら避難する事など到底考えらない。


第5. 入院患者、施設入所者の家族構成

2017年10月15日と2018年5月23日の調査によれば、入院患者・入所者の家族構成は、高齢者独居世帯が87名で33.5%、高齢者夫婦世帯が51名で19.6%%、2~3世代世帯が121名の46.5%となっている。高齢者独居世帯・高齢者夫婦世帯を合わせれば138名、53.1%に達する。この様な状況では家族による避難の援助も不可能である。

京丹後市で見ると(2015/4/1国勢調査)20.469世帯の内・高齢者独居世帯2.795世帯13.6%、高齢者夫婦帯2,825世帯13.8%の計5.620世帯27.4%になる。65歳以上のいる世帯は12,377世帯60.5%となっており、避難時に家族からの援助は、不可能である。

以上

◆原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

2018年(平成30年)8月31日

原告提出の第56準備書面

【目次】

1 はじめに
2 地震動に影響する項目
3 PS検層
4 試掘抗内弾性波探査
5 反射法地震探査
6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)
7 はぎ取り法
8 単点微動観測
9 地震波干渉法と微動アレイ観測
10 地盤の地震波減衰特性
11 速度構造と破砕帯の関係
12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か
13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について
14 まとめ


被告関電準備書面(17)の第2(地域特性に関する原告らの主張に対する反論)に対して、意見書「大飯発電所の地盤構造について」(赤松純平、甲467、引用文献[1])に基づいて、以下のとおり反論する。

引用文献
[1]赤松純平、大飯発電所の地盤構造について、2018年8月28日.


1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第343537及び44準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(赤松純平元京大助教授作成の意見書、甲357、422)。

被告関電は、準備書面(17)を提出して、原告の上記主張は、①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されているなどと反論した(7頁、17~18頁)。

以下、各調査毎に、被告関電の主張、原告らの反論、被告関電の再反論などこれまでの議論の要点及び原告らの再々反論を述べる。被告関電は、多くの論点で原告らの反論に具体的な再反論を全くせず、また、いくつかの論点でなした再反論も真摯な再反論とは言えないものであり、いずれも失当である。


2 地震動に影響する項目

原発サイトの地震動は、①震源特性、②経路の伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)の重畳したものである。③の地盤は、地下深部に拡がる均質で硬い基盤岩層(S波速度が約3km/sの地殻上層部、地震基盤と称す)から地表までの地層(岩盤層と土質層)の集まりであり、増幅特性は、地震基盤から伝わってきた地震波が地盤によりどのような影響を受けるかを評価する。大飯サイトでは、後述するように原子炉建屋の立地する岩盤層に解放基盤面を設定して、解放基盤面におけるサイト特性を評価している

 (1)地震波伝播速度

サイト特性は、地盤が堅固で地震波伝播速度が大きければ増幅率は小さく、反対に、堅固でなく伝播速度が小さければ増幅率は大きくなる。このため、地盤の地震波伝播速度が地域特性の重要な調査項目とされている。

 (2)地下構造が成層かつ均質か

また、地盤構造が成層かつ均質か、それとも、地層に断層やずれ、傾き、歪み(褶曲構造)が認められるような不整形地盤であるかは、重要な調査項目である。何故なら、不整形地盤においては、立地地点の場所による違いや地震波の入射方向による違いなどによって、地震動には、増幅率の大幅な増加や震動卓越方向の偏倚などの異常震動が惹起されるからである。新規制基準は、三次元探査を行なって、より正確かつ詳細な地下構造の把握を求めている。

 (3)解放基盤面

基準地震動は、それぞれの原子力発電所において、解放基盤面で評価される。解放基盤面は、「固い岩盤(基盤)が、一定の広がりをもって、その上に地盤や建物がなく、むき出しになっている状態のものとして仮想的に設定される面」である。現実には、解放基盤面は地表面下に設定されており、地表面と解放基盤面との間は比較的やわらかい表層地盤である。解放基盤面とされる基盤岩の拡がり、形状、地震波伝播速度が重要な調査対象となる。

大飯原発の場合、被告関電による模式図(次頁に引用掲載【省略】)に示されるように、解放基盤面は、原子炉格納施設が建てられている基礎地盤に設定されている。従って、原子炉格納施設を直接載せている大飯原発の解放基盤面は、固い岩盤で一定の広がりをもっていなければ困るものである。被告関電は、大飯原発の解放基盤面は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤で一定の広がりをもっていると、頑なに主張している。

しかし、後述のとおり、各種地盤調査結果は、被告関電のこの主張とことごとく整合しない。

被告関電準備書面(3)19頁を引用.【図省略】


3 PS検層

PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、地表または孔中で人為的に震動を発生し(起震器)、受震器で震動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。
原告らは、PS検層の調査結果から、①低速度層が地表付近と深度100m前後付近に認められること、②調査地点(O1-11孔とO1-3孔)で速度構造が異なり、深さ約20m(標高約-20m)までで、S波速度に2倍程度の違いがある(1.17km/sと2.34km/s)、③地表から標高-60mまでの平均のS波速度は、西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていることから、本件地盤には、低速度層が存在し、成層かつ均質とは到底言えないと指摘した(甲422、3~4頁)

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


4 試掘抗内弾性波探査

試掘坑内弾性波探査とは、原子炉敷地に横坑(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破によって人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で震動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で震動を与える坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震波伝播速度を推定する。

被告関電は、屈折法探査の結果として「解放基盤のP波速度(Vp)を4.3km/s、S波速度(Vs)を2.2km/sと評価した(丙196)、12頁)」としているが、原告らは、この探査結果の資料から、3号炉付近ではVp=(4.218±0.814)km/s、Vs=(2.017±0.369)km/s、また4号炉付近ではVp=(4.526±0.498)km/s、Vs=(2.230±0.273)km/sであり、P波S波とも、3号炉側が顕著に低速度であることを指摘した(甲422、4~5頁)。

また、被告関電は、坑間弾性波探査については、「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。(中略)弾性波速度による異方性はほとんど認められない(丙178添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)」と記すのみで、3.0~5.2km/sも大きく変化していることの原因を明らかにしていない。

原告らは、ファン・シューティングのデータを分析し、敷地の場所毎のP波速度分布を図化して、P波速度が西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていること、この速度変化が敷地に拡がる断層破砕帯の走向と分布に極めて高い相関関係にあることを明らかにするとともに、被告関電が3号炉の地震波伝播速度を実際より過大に評価するというごまかしを行なって基準地震動を算定していることを批判した(甲422、6~7頁、20~21頁)。P波速度の分布コンター図と3、4号炉基礎岩盤の破砕帯分布の関係を下図に示す【図省略】。

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】原子炉建屋基礎岩盤の断層破砕帯の分布と坑間弾性波探査によるP波速度分布の相関.

【図】破砕帯は4号炉側(左)に比べ3号炉側で高密度に分布している.

【図】P波速度は西(図の左上)から東に顕著に低下しており、4号炉の炉心下では4.3~4.5km/sであるが、3号炉の炉心下では3.8~4.0km/sである。
甲422、付図42再掲【すべて図省略】


5 反射法地震探査

反射法地震探査とは、地表で起震された地震波が地下の地層境界で反射し、地表に戻ってきた波(反射波)を多数の地震計で測定して、地下構造を探査する方法である。石油探査のために開発・実用化されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

原告らは、深度断面図から層の境界に、傾斜、畝り、破断があり、しかも断層の存在を示唆する回折波が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘し、物理探査学会元会長の芦田譲京大名誉教授の意見書(甲423)を提出して、「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であることを明らかにした(甲422、7~8頁)。
しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)

速度断面図は、反射法地震探査の観測データを屈折法解析によって解析して測線に沿う深さ方向の地震波伝播速度の分布を図化したものである。

原告らは、速度断面図によって、4号炉や3号炉付近で、2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを指摘した(甲422、9頁)。

これに対して、被告関電は、探査測線が道路で表層が柔らかい地盤であることや探査測線が屈曲しているため測定値には誤差が含まれており、速度断面図は信用出来ないかのように主張している(被告関電準備書面(17)、23~24頁)。

しかし、そもそもこの速度断面図は被告関電自身が作成したものである。被告関電も認めるとおり低速度帯は地盤を構成する岩石区分と対応している。すなわち、速度断面図の原子炉建屋付近では、P波速度が1.5km/s以下の部分は、ボーリング資料の岩級区分の未固結地盤およびD級岩が分布する深さに一致している(丙267、42頁)。この部分の図を下に拡大して引用する【省略】。

【図】速度断面図とボーリング資料による岩級区分.

【図】Vp≦1.5km/s(赤、黄)と岩級(未固結、D級岩)とがよく一致している.
丙267、42頁の図を引用、加筆.【すべて図省略】

標高0m付近のD級岩は、PS検層結果からVp=2.04km/s、Vs=0.54km/s(丙178添付書類六、6-1-198頁)と評価されており、標高0mに設定されている解放基盤がVp=4.6km/s、Vs=2.2km/sであるとする被告関電の主張は暴論としか言いようがない。

さらに、4号炉及び3号炉建屋付近の測線は直線状(被告関電準備書面(17)、13頁)であるから屈曲による影響を言う被告関電の主張には理由がない。以上、原子炉敷地付近で2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを示す測定値及び速度断面図を信用できないとするのは恣意的な解釈である。

反射法弾性波探査では、速度断面を作成する過程で速度解析を行い速度の分布が得られるが、被告関電は速度解析結果を公表していない。速度分布を明示して議論すべきである。


7 はぎ取り法

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。地表や各地層の境界に凹凸がある場合、探査記録には凹凸に起因するデータのばらつきがある。そのため、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

被告関電は、「はぎ取り法解析について、表層の軟らかい地盤の影響等を考慮して、やや深部を伝わる平均的な最下層速度の試算を行ない、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sとの結果を得て、被告の設定した一次元の地盤の速度構造モデルと概ね差がない」と言う(準備書面(17)、25頁)。
被告関電は、「解放基盤は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっている」と頑なに主張しているが、標高0mに設定されている解放基盤と表層をはぎ取ったやや深部の最下層とが符合していると言うようである。

はぎ取り法解析は、地表や地層境界に凹凸があっても、地層毎の速度や層厚を明らかにするものである。被告関電の示すはぎ取り法解析の図(走時曲線)は、表層の平均速度はVp=1.1km/s、4号炉及び3号炉敷地付近で表層の層厚が66mあることを示している(甲467、9頁)。次頁に模式図で示すが、地震探査の測線は標高30~40mに設置されているから、層厚が66mである表層は地表面から標高-26~-36mまで続いていることになる。すなわち、はぎ取り法解析の結果は、標高0mに設定された解放基盤表面がVp=1.1km/sの表層の中にあることを示している。解放基盤面の地震波伝播速度は、被告関電が主張するVp=4.6km/sには決してならない。

なお、反射法地震探査屈折法解析による速度断面図によれば、原子炉建屋付近の標高0mの速度値は2km程度であり、標高-30m付近まで2.5km/s以下の速度帯が落ち込んでいるなど、このはぎ取り法の解析結果と整合している。

かかる原告らの主張に対して、被告関電は「原告がはぎ取り法解析の目的やその前提を理解することなく、データを断片的に取り上げて批判している」と再反論しているが、解放基盤の速度値がVp=4.6km/sとならないとの原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】【はぎ取り法解析の結果が示すこと】
被告関電準備書面(3)19頁を引用加筆.【図省略】


8 単点微動観測

単点微動観測とは、車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような微小震動(微動)を観測し、地表面における微動の水平成分のスペクトルを上下成分のスペクトルで除して(H/V)、その形状から主に表層地盤のS波速度や層厚を把握しようとするものである。

被告関電は、「単点微動観測記録を解析した結果、本件発電所の敷地全体にわたってS波速度約2.2km/sの硬質な岩盤が広がり、その上面深度には著しい高低差がない(大きな傾きがない)ことを確認した(準備書面(17)、11頁)」と言い、被告関電の解放基盤に関する主張(Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっているとの主張)が裏付けられたと主張するようである。

これに対して原告らは、下層速度をVs=2.2km/s以外の1.6km/s、1.8km/s、2.0km/sとしてもほぼ同じ結果となることを示して、被告関電の議論は下層(基盤岩層)をVs=2.2km/sと仮定した上での議論であって、基盤岩層がVs=2.2km/sであることは全く担保されないこと、さらに、屈折法解析による速度断面図と30mも齟齬があることを指摘して、単点微動観測の解析結果に疑義を呈した(甲422、10~12頁)。

これに対して被告関電は、上記齟齬を否定できないため、「表層の柔らかい地盤の影響や探査測線が屈曲している部分の影響を受けるため、その影響による誤差が生じることから、単点微動観測結果との比較において、一部の数値が異なるのは当然(準備書面(17)、27頁)」であるとか、単点微動観測は「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求めるために行なったのではない(準備書面(17)、26頁)」と反論した。

しかし、単点微動観測H/Vの解析において、表層の速度として「軟らかい地盤」の値Vs=472m/s(丙196、31頁)が使われているから、「軟らかい地盤」の厚さ(基盤の深さ)が推定されるのであり、また、齟齬が生じている探査測線は4号炉~1号炉南東側に直線状に延びていて(被告関電準備書面(17)、13頁)測線屈曲の影響は考えられない。さらに、原告らは「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求める」ことが出来ないことを批判しているのではなく、問題は、例えば深さ20mといっている基盤岩層は、Vs=2.2km/sでも1.6km/sでもよく、その速度は区別出来ないということ、従って、「S波速度約2.2km/sの硬質な岩盤の上面深度の分布を把握」したことにはならないと批判しているのである。

被告関電は、問題をスリ違えて反論しているだけで、原告らの指摘に対して具体的な反論を一切していない。


9 地震波干渉法と微動アレイ観測

深部および浅部地盤の速度構造に関する調査として、地震波干渉法と微動アレイ観測がなされている。地震波干渉法は、海の波浪などにより生起するやや長周期の微動(脈動と呼ばれている)を、広い範囲に配置した多数の地震計で長期間計測し、周期毎の速度(位相速度)を明らかにする。微動アレイ観測は、高感度地震計を7箇所に同心円状に設置して微動を観測し、周期毎の位相速度を明らかにする。位相速度は地下構造を反映して分散性(周期による速度の変化)を示す。すなわち、地震波速度が深さと共に増加するような地盤では、周期が長くなるほど位相速度は大きくなる。これら観測された位相速度から地盤の速度構造を推定する解析が逆解析(インバージョン解析)である。逆解析は1次元の水平成層構造を仮定して、層の厚さと地震波伝播速度を推定する。この調査解析では、①観測データから求めた位相速度に含まれる誤差の評価、②位相速度から逆解析により求めた構造モデルの妥当性の吟味が重要である。

 (1)水平成層構造と見なせるとの主張

被告関電は、地震波干渉法と微動アレイ観測による位相速度を逆解析した結果、本件原発敷地の地下構造は、水平成層構造とみなしてモデル化できると主張する(準備書面(17)、16~17頁)。

しかし、もともと位相速度の逆解析は、水平成層構造を仮定した解析法である。水平成層構造であるかどうかは判らないが、仮に水平成層構造であるとしたら、どのような構造になるかを検討するものである。逆解析の結果は、水平成層構造であることを示すものではない。被告関電は、逆解析による速度構造モデルが構造の不均質を評価出来ないことにあえて触れずに、ごまかそうとしている。

 (2)「深くなるについて地震波速度が単調増加する」との主張

原告らは、観測された位相速度には山谷があり、周期と共に単調に増加しているのではないので、地下に低速度層が挟在していることが示唆されるにも拘わらず、被告関電は速度が深さ方向に単調に増加することを前提に速度構造モデルを推定していると批判した(甲422、12頁)。これに対して、被告関電は「地表から地下深部に深くなっていくにしたがって周囲の岩石は圧密度が増し、より硬くなる(準備書面(17)、20頁)」と「丙198」を証拠として反論した。ところで、被告関電が証拠とした「丙198」は、国立研究開発法人防災科学技術研究所がホームページにあげたJ-SHIS(ハザード・ステーション)の用語集であり、S波速度が300m/s~700m/s程度以上の工学的基盤(土質~軟岩)の極めて一般的な事項を説明するものである。被告関電は、本件地盤では、位相速度が単調に増加していない事実、PS検層により低速度層が観測されている事実などを無視して、地震波速度の単調増加モデルを作成したことについて答えていない。被告関電自身の調査結果である地盤構造の特徴を無視して、用語集に記載されるような一般論を述べるだけでは、原告らの指摘への反論には到底なり得ない。

 (3)「0.5km/sの表層を取り除いた」との主張

原告らは、逆解析の結果による本件地盤の速度構造モデルには、Vs=0.5km/sの表層が厚さ80mも存在するのに、被告関電はこれが存在しないものとして基準地震動評価モデルを作成していると批判した(甲422、13頁)。これに対して、被告関電は、原子炉建屋は軟らかい表層地盤にではなく、硬い解放基盤表面に設置されていると反論した(準備書面(17)、20~22頁)。

しかし、表層地盤表面の平均標高(微動観測点7箇所の標高の平均値)は約43.5mであり、層厚80mの表層地盤を取り除けば、標高-36.5mまで取り除くことになる(甲467甲467、2~4頁)。被告関電は、表層を取り除いたVs=2.2km/sの第2層を解放基盤としているが、その上面の標高は-36.5m、すなわち標高0mの原子炉建屋は解放基盤から36.5mも浮いて、Vs=0.5km/sの表層内に設置されていることになる。このように、逆解析の結果は、原子炉建屋が立地する解放基盤は、被告関電が頑なに主張するような、Vs=2.2km/s、Vp=4.6km/sの硬い岩盤が広がっているものではないことを示している。

なお、このような齟齬をきたしたのは、PS検層、試掘坑弾性波探査、屈折法解析などによって低速度の岩盤層の存在が示された結果を無視して、逆解析におけるモデルで第1層をVs=0.5km/s、第2層をVs=2.2km/sとジャンプさせたためである。

インバージョンモデルから表層を取り除いた基準地震動評価モデルの標高【図省略】
▼:地震計位置、赤字は各観測点の標高、表層地盤表面の標高は平均43.5mVs=0.5km/sの表層(層厚80m)を取り除くと、Vs=2.2km/sの解放基盤面は標高-36.5mとなる.被告関電準備書面(17)の図表6(22頁)を引用して加筆.


10 地盤の地震波減衰特性

地盤の増幅特性(サイト特性)は、地盤の速度構造による振幅増幅(速度と密度の積が小さい地層では振幅は増大、地層内の共振現象など)と、地盤を通過する際の波動エネルギーの吸収・逸散などによる振幅減衰とが関係する。地震波が震源から原子炉施設の立地する基礎岩盤まで伝播する際の減衰機構は以下の3つである。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波面が空間的に拡がるために波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、岩石内部の摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。岩盤内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱減衰の大きさは、不均質構造の大きさと波長との関係に依存するので、波の周波数に依存して変化する。内部減衰と散乱減衰の大きさはQ値(または減衰定数h、h=1/2Q)で表す。Q値が大きい(hの小さい)媒質ほど減衰しにくい関係にある。

被告関電が、地盤の不均質構造を考慮したうえで、減衰定数h(=1/2Q)を地下180mまで3%(丙179、18~27頁)、それ以深を0.5%(丙179、57頁)としたのに対して、原告らは、Q値は周波数に依存するのに周波数と無関係の一定値であるとの主張がなされていること、測定精度が極度に悪いことなどの問題点を指摘した(甲422、18~20頁)。

しかし、被告関電は、これら指摘に対して、以下に示すように具体的な反論を一切していない。

180m以浅のQ値を、不均質構造を考慮したと言いながら、周波数に依存しない定数としたことについては何の説明もない。

180m以深を0.5%とする点について、被告関電は、「地下180mより浅いところと比べて急激に減衰が小さくなるようなデータは特段得られていないところ、保守的に0.5%と設定している(準備書面(17)、27頁)」と述べているが、データを開示しないため、0.5%が保守的であるのかないのか判断できない。被告関電は、これについてのデータを開示しなければならない。

中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、500m/s<Vs<3000m/s(大飯サイトの地盤に相当)のQ値は解析例が少ないので、Vs>3000m/s(リソスフェアー:地殻および上部マントル最上部に相当)のQ値を保守的に使うことを推奨しており(中央防災会議、・東海地震に関する専門調査会、強震動評価のための試算)、この設定方針を採用すべきである。

被告関電は、「このような被告の評価については、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査において、その適合性が確認されている(準備書面(17)、27頁)」と述べて、具体的な説明を避けている。


11 速度構造と破砕帯の関係

破砕帯とは、岩盤が割り砕かれて、多くの隙間を持つようになった地層のことである。本件原発敷地には多数の破砕帯がある。福島原発事故後、これら破砕帯の活動性、すなわち活断層としての危険性の観点から調査議論がなされた。
しかし同時に、破砕帯は周囲の地盤に比べて軟弱であるから、地震動への影響を地震動特性として検討しなければならない。

原告らは、試掘坑坑間弾性波探査(ファン・シューティング)のデータの解析結果から、地震波伝播速度の分布図を作成し、本件原子炉敷地の地震波伝播速度が、被告関電が主張するより大幅に低いこと、西から東に向けて伝播速度が系統的に低下すること、そしてこれら速度の地域性は、破砕帯の走向と分布密度とに起因することを指摘した(甲422、20~21頁)。

被告関電は、原告らのこの指摘に、具体的な反論を一切していない。被告関電は、試掘坑弾性波探査の結果については、準備書面(17)において、坑道に沿う屈折法探査結果について述べるのみで、場所による速度変化がより明瞭に現われる坑間弾性波探査結果については何も述べず、また、原子炉建屋直下の基盤に断層破砕帯が密に分布していることについても全く黙秘している。


12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か

被告関電は、準備書面(17)において「被告による調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に批判するものである(7頁)」と批判した。しかし、前節までに述べたように、被告の調査・評価結果の全て、すなわち、PS検層、試掘抗弾性波探査、反射法地震探査、屈折法解析、はぎ取り法解析などの調査結果が、本件地盤が成層かつ均質ではなく場所による違いのあること、基準地震動を評価する解放基盤の地震波速度が、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sではないことを示している。被告関電の提示した個別の独立した調査データが、共通して特徴的な不均質で低速度の地盤構造を示しているのである。しかもその特徴が全く独立して行われた地質調査によって明らかにされている断層破砕帯の分布に起因しているのである。原告らの恣意的批判という再批判は当たらない。

逆に、被告関電は「調査・評価結果を個別に取り上げて」判断しており、相互の関連性を総合的に判断した評価を行っていない。

 (1)反射法地震探査の深度断面図と基準地震動評価のための地盤モデル

被告関電は、反射法地震探査の深度断面図を示して「地下500m位までは反射面が確認され(丙196、51頁、56頁)」と解釈している。

一方、基準地震動評価のための地盤モデルは、微動アレイ観測と地震波干渉法によるレーリー波の位相速度の逆解析によって得た多層の速度構造である。

この地盤モデルは、500m位の深さまで、速度境界が深さ180m、370m、510mにあって、P波速度はその境界を越える毎に4.6km/sから0.1km/s、0.1km/s、0.2km/s増えるとされている(丙196、108頁)。しかし、高々2%程度(深さ510mの境界では4%)の速度の増加で、深度断面図に見られるような明瞭な反射が現われるとされているが疑問がある。反射法地震探査では、深度断面図を作成する過程で、速度解析が行われ、反射面に至るP波速度が求められている。この速度は公開されていないが、反射面を形成した層の速度は、地盤モデルの4.6km/s、4.7km/s、4.8km/s・・・などに整合しているのであろうか。反射法地震探査と微動アレイ観測という全く異なる調査方法による結果を統一して解釈すべきであるが、被告関電は個別に説明するのみである。

 (2)試掘坑内弾性波探査による地震波速度の異方性

被告関電は、試掘坑内弾性波探査結果によって地震波速度の異方性(伝播方向の違いによる速度の違い)の有無を次のように報告している。「試掘坑内の平均速度法(坑間弾性波探査のこと)による弾性波試験結果は、第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。一方、互いに直交する坑道沿いの屈折波法弾性波速度の測定結果では、NW-SE方向のP波速度は3.5km/s~5.0km/s、平均4.7km/s、S波速度は1.8km/s~2.5km/s、平均2.3km/s、NE-SW方向のP波速度は3.0km/s~5.3km/s、平均4.5km/s、S波速度は1.3km/s~2.8km/s、平均2.1km/sであり、弾性波速度による異方性はほとんど認められない(大飯発電所3、4号機の地震等に係る新基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(65)平成28年2月23日、関電提出資料:大飯3、4号炉設置許可基準規制等への適合性について(地盤)、甲468、159頁)」。被告関電は、坑間探査結果については異方性を検討せず、NW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査結果のみを比較して異方性はないと云っている。

原告らは、上記の坑間弾性波探査の結果から、波の伝播方向とP波速度(1,378データ)の関係を求めた(甲467、4~8頁)。次頁の図(左)はP波速度の方位10°毎の平均値である。破砕帯の分布図と並べて示した。原子炉建屋付近では、平均のP波速度は、南北方向が大きく、東西方向が小さい。違いは1割以上であり、異方性の方位は断層破砕帯の走向に関係している。P波速度は、断層破砕帯の走向方向で大きく、横切る方向で小さい。

被告関電は、この異方性が相殺されるNW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査のみのデータによって異方性はないと云っているのである。屈折法探査の結果だけでなく坑間弾性波探査の結果も比較検討すべきである。被告関電は、各種資料の統一的解釈を怠っているというより、調査資料を恣意的に解釈し、恣意的に無視している。

【図】P波速度の異方性と断層破砕帯の走向方位
円形グラフで地震波の伝播方位とP波速度(km/s)を示す
南北方向(破砕帯走向方向):約4.5km/s、東西方向(破砕帯を横切る方向):約3.9km/s【図省略】


13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について

被告関電は、準備書面(17)において「被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などと随所で反論した(例えば、19、24、25頁など)。この主張は、「高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会が,安全性に関する具体的審査基準を制定するとともに,当該基準への適合性について,科学的・専門技術的知見から十分な審査を行うこととしている(名古屋高裁金沢支部・控訴審判決、平成30年7月4日)」という判断と軌を一にしている。以下に、規制委員会の「科学的・専門技術的知見からの十分な審査」に疑念を生ずる事例を挙げる。

 (1)反射法弾性波探査における回折波が議論されていないこと、速度解析結果が開示されていないこと

被告関電は、大飯サイトにおける反射法地震探査の結果を、第59回審査会合(平成25年12月18日)で報告している。この会合ではA測線の反射のパターンが弱くなることの議論はある(原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合第59回議事録、平成25年12月18日、原子力規制委員会、甲469、43頁)が、反射法地震探査の専門家である元物理探査学会理事田村八洲夫氏や同学会元会長の芦田譲京大名誉教授が、深度断面に指摘した断層構造を示唆する回折波については、この会合だけでなく以後の審査会合においても全く議論がない。また、被告関電は、速度断面を作成する過程で行われる速度解析の結果を開示していないが、このことは不問にされ、屈折法解析による速度構造のみが議論されている(、44頁)。

 (2)試掘坑弾性波探査・坑間弾性波探査結果の等閑視

被告関電は、原子炉建屋の立地する基盤岩層は、試掘坑弾性波探査の屈折法探査結果からVp=4.3km/s、Vs=2.2km/s、坑間弾性波探査からVp=4.3km/sと評価し、また、これらのデータから速度の異方性はないとしている(丙178 添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)。

屈折法探査の結果は、第21回審査会合(平成25年9月18日)で説明されているが、この資料は原子炉建設前の大飯3、4号機設置許可申請書の再掲である(資料1-1大飯発電所地下構造の把握について、甲470、2~6頁)。

坑間弾性波探査の結果は審査会合では審議されておらず、平成28年2月23日に開催された事業者ヒアリング(65)において「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である(大飯3,4号炉設置許可基準規則等への適合性について(地盤)、平成28年2月23日、関電、甲468、159頁)」と説明されたようである。同日の議事録には「関西電力から、平成25年7月8日に申請のあった大飯発電所3、4号機設置変更許可申請のうち、地盤(敷地の地質・地質構造並びに基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価)、地震動評価、津波影響評価、火山影響評価について説明があった。これに対し、原子力規制庁は、引き続き確認することとした」との要旨が記載されているのみで、坑間弾性波探査の結果が審議されたのかどうかは不明である。

事業者ヒアリング(65)当日の添付書類六(丙178)には、「第5.110図試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)結果図」が105~108頁に示されており、この図から一目瞭然で、原子炉建屋付近のP波速度が、場所によってまた伝播方向によって変化していること、すなわち基盤構造が不均質であることが判る。
規制委員会はこの図を審議しなかったのであろうか。

坑間弾性波探査は、屈折法探査と同時期の原子炉建設前に実施されたものである。被告関電は、平成25年9月18日の第21回審査会合では、屈折法探査の結果についてのみ説明し、構造の不均質性が明瞭な坑間弾性波探査の結果は資料に挙げていない(資料1-2大飯発電所の地下構造把握について、資料1-2同(データ集)、甲471)。そして、平成28年2月23日の事業者ヒアリング(65)において膨大な添付資料の中に4枚の図を付して「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%」と記載するのみである(甲468、159頁)。公開されている規制委員会審査会合の議事録には、坑間弾性波探査の結果が審議されたという記録は見つからない。

 (3)断層破砕帯による速度構造の不均質と震動特性への影響

被告関電は、第78回審査会合(平成26年2月5日)において、原子炉建屋直下の断層破砕帯の幅と長さの関係を踏まえた破砕帯の特性について説明している(資料2-1、大飯発電所内敷地破砕帯の評価について、関電、甲472、19~24頁)。原子炉建屋付近および直下に存在する断層破砕帯は、その活動性の評価および原子炉建屋など構造物の支持基盤としての力学的特性が調査の対象となったが、基準地震動を評価するうえで重要な速度構造を不均質にさせる作用、不均質地盤構造による地震時の震動特性への影響は全く考慮されていない。すでに述べたように、被告関電のデータから、破砕帯の存在によって速度の場所による変化、速度の異方性などが生じていると判断されるが、規制委員会はこのことを等閑視したのであろうか。

 (4)地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度

被告関電は、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析によって地盤モデルを構築した。観測波形から推定された位相速度には、測定誤差が含まれている。観測位相速度には誤差の範囲が明示されなければならず、これを元に逆解析結果の信頼性が評価される。ところが、被告関電が提示した観測位相速度には、誤差限界の表示がない。これから求まった地盤モデルも信頼限界が不明である。すなわち、信頼性の限界が不明な地盤モデルによって基準地震動が評価されている。このことを規制委員会は認めたのであろうか。

位相速度の逆解析から求めた地盤速度構造は、反射法地震探査で得られた反射深度断面と整合しなければばらないが、規制委員会は両者を比較して審議したのであろうか、審査会合の議事録にはその記事が見つからない。

微細なことであるが、逆解析においてVpを変数として扱っているか、VsはVpとは独立か、それともVpとVsとは何らかの関係があるのかが質疑され、被告関電は「一応Vp、Vsを独立で考えている」と返答している(平成26年3月12日第92回審査会合議事録、甲473、72~73頁)。しかし、これはウソである。各層のVpとVsとは変数ではなく固定された定数として前もって与えられており、層厚だけを逆解析により求めたことが、先の審査会合で示されている(第89回審査会合、資料3大飯発電所地盤モデルの評価について、平成26年3月5日、関電、甲474、106頁)。原告らは、このウソの説明では納得できない。

 (5)新規制基準への適合性

原子力規制委員会は、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月)」を定め(甲475)、地震動評価のガイドラインを示している。
ここでは次の3項目について規制委員会の審査に疑問を呈する:ア三次元地下構造モデルについて、イ地震観測記録による構造モデルの検証について、ウ地盤構造モデルの不確かさについて。

  ア 三次元地下構造モデルについて

審査ガイド(丙27)には「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)、微動アレイ探査、重力探査、深層ボーリング、二次元あるいは三次元の適切な物理探査(反射法・屈折法地震探査)等のデータに基づき、ジョイントインバージョン解析手法など客観的・合理的な手段によってモデルが評価されていることを確認する。なお、地下構造の評価の過程において、地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き、三次元的な地下構造により検討されていることを確認する(6頁)」と記載され、三次元地下構造モデルで基準地震動を評価すべきであると規定されている。「地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き」という但し書きがあるため、電力事業者は3次元構造探査を逃れようとするようである。しかし、新規制基準が執行(平成25年7月8日)される直前の第4回評価会合(平成25年5月10日)において「成層かつ均質な場合だと思って三次元的に調査をしないということではなくて、三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築することを意図している」と、3次元構造を詳しく把握したうえでモデル化をすることを要求しているのであると委員会委員は被告関電に説明をしている(議事録、甲475、4~6頁)。被告関電が実施した調査は全て、大飯サイトの基礎地盤が不整形であることを示している。
規制委員会は当初、「三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築すること」を要求したはずである。新規制基準に適合するためには、3次元の探査を実施する必要がある。

  イ 地震観測記録による構造モデルの検証について

審査ガイド(丙28)は、「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)・・・・によってモデルが評価されていることを確認する(6頁)」と、地震観測記録によってモデルの妥当性を検証することを求めている。

これを受けて、被告関電は、第21回審査会合(平成25年9月18日)において、地下構造把握のための追加調査計画として「地表面での地震観測を平成25年9月中旬から、鉛直アレイ地震観測を平成26年2月から、また、大深度地震観測を平成27年度から実施するとの計画(資料1-1 大飯発電所地下構造の把握について、甲470、27頁)」を提出した。しかし、これまで規制委員会の審査会合で、地震観測結果の公表や説明は皆無である。

被告関電は、第206回審査会合(平成27年3月13日)において、大深度地震計設置の取り組み状況を説明している。資料には「当初計画地点については、掘削中に坑内の崩落が発生するなど、大深度地震計の設置に不適当な地盤と判断した。地震計の設置位置を見直し、新たな候補地点(鯨谷付近)に設置する。見直し位置で工事着手済み。今後、地震観測を早期に開始するため、行程の前倒しに取り組む。(工期:約3年間)(資料3-4大飯発電所地震動評価について、平成27年3月13日、関電、甲476、185頁)」とある。当初計画地点は3号炉の南南東方向(マムシ谷)であり、新たな候補地点は4号炉の西側である。原子炉建屋が立地する基礎地盤では、これまで述べたように地震波速度が西から東に系統的に低下するが、より東に位置する地震計設置孔が崩落する事故が生じている。これについて審査会合での議論は皆無である。

平成27年3月時点で工期3年とあるから、平成30年3月頃からは大深度地震観測も行われているはずである。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの妥当性を地震観測記録によって検討した結果を審査すべきである。

  ウ 地盤構造モデルの不確かさについて

審査ガイド(丙28)には、「地震動評価においては、震源特性(震源モデル)、伝播特性(地殻・上部マントル構造)、サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して、分析が適切になされていることを確認する(6~7頁)」と定められている。

被告関電は、震源モデルについて不確かさを考慮した(準備書面(3)、98~104頁)と言うだけで、伝播特性とサイト特性に関しては、全く考慮していない。サイト特性に関しては、基準地震動評価のための地盤構造モデルは、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析に基づいて作成されている。本書面で詳しく説明したように、観測位相速度に含まれる誤差の評価は全くなされていない。位相速度の逆解析においては、恣意的な初期モデルによる計算、さらに計算結果の恣意的な改変が行われ、モデルに含まれる不確しかさの検討は一切行われていない。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの不確かさが適切になされているか審査すべきである。


14 まとめ

本準備書面では、被告関電が準備書面(17)で主張した「原告の反論は①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などの反論に再反論した。被告関電は、原告の多くの反論に口をつぐんで一切再反論せず、またいくつかした再反論も事実を曲げ、観測データを恣意的に評価し、新規制基準の要求に違背している。

以上、本件地域特性を検討しても、硬質な成層均質な地盤が広がっていて平均像を超える地震動が起きないなどとは到底言う事ができない。

以上

◆原告第55準備書面
―名古屋高裁金沢支部判決の問題点―

原告第55準備書面
―名古屋高裁金沢支部判決の問題点―

2018年(平成30年)8月31日

原告提出の第55準備書面

【目次】

第1 はじめに
第2 判断枠組みについて
第3 新規制基準及びその適合性審査についての判断の問題点
第4 まとめ

 



第1 はじめに

本年7月4日、名古屋高裁金沢支部は、大飯原発3・4号機の運転差止めを認容した2014(平成26)年5月21日福井地裁判決を取り消し、住民らの請求を棄却する判決を言い渡した(以下「本判決」という。)。

しかしながら、本判決は、伊方原発最高裁判決の判断枠組みを踏襲しながら、新規制基準の合理性判断について、具体的な審査基準の内容に踏み込んで判断することなく、新規制基準の適合審査に合格していることをもって、安易に安全性を容認したといわざるを得ない。また、個別の論点についても、関西電力の主張をそのまま採用し、裁判所自ら主体的に原子力発電所の安全性、危険性について判断したとは到底言い難い判断である。本判決は、司法の役割を放棄した極めて不当な判決であると言わざるを得ない。


第2 判断枠組みについて

 本判決は、「原子力発電所は、ひとたび設備の破損等による事故が発生すれば、人体に有害な放射性物質が所外に漏えいして、殊に原子力発電所に近接して居住する住民の生命や健康に重大な被害がもたらされる可能性があるほか、避難等に伴って住民の生活やコミュニティが破壊され、また、放射性物質は極めて長期にわたって漏えいした場所に残存するから、破壊された生活やコミュニティの再構築が著しく困難となる」と述べつつ、我が国において原子力基本法、原子炉等規制法が制定されていることをもって、「我が国の法制度は、原子力発電を国民生活等にとって一律に有害危険なものとして禁止することをしておらず、原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険性や、放射性廃棄物の生成・保管・再処理等に関する危険性に配慮しつつも、これらの危険に適切に対処すべく管理・統制がなされていれば、原子力発電を行うことを認めている」とし、「原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない」(58頁以下)と判示した。

本判決は、原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険を認めつつも、「国政の上で、最大の尊重を必要とする」、「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」(憲法第13条)であるところの人格権の侵害について、政策的判断を優先するばかりか、「その当否をめぐる判断は、もはや司法の役割を超えるものであり、国民世論として幅広く議論され、それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である」などと述べ、もはや、立法・行政の判断に対して、司法の役割を放棄した判決といわざるを得ない

 本判決は、原子力発電所の運転差止めについての判断枠組みとして、「原子力発電に内在する危険性に対して適切な対処がされ、その危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制がされているか否かを検討すべき」と判示する。

その上で、「安全性に関する具体的審査基準の制定及び申請にかかる原子力発電所の当該基準への適合性について、高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会の合理的な判断に委ねたものと解するのが相当」とし、「具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は、当該審査に用いられた具体的審査基準について現在の科学技術の水準に照らし不合理な点があるか、あるいは当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点があると認められるのでない限り、当該原子力発電所が有する危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理され、放射性物質の異常な放出を招くなどして周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できる」とする。まさに、上述したような行政の判断を追随するだけの、司法の役割を放棄した判断が現れているといわざるを得ない。

そして、新規制基準については、「新規制基準について、明らかに不合理な点がない限り、その内容を尊重するのが裁判所としてふさわしい態度といえる。」、「自然科学の分野で諸説が対立する事柄があったとしても、裁判は学術論争をする場でないことはもちろんであり、いたずらに自然科学の分野における論争や対立に介入すべきでない。」(62頁以下)などと述べる。かかる判示は、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用であるところの司法権を司る裁判所としては、法適用の前提となる事実認定やその評価を行うことこそがその基本的役割であるにもかかわらず、その役割を自ら放棄することを判決文の中で宣言するに等しく、明らかに裁判所としてあるまじき態度を示しているといわざるを得ない。

加えて、「新規制基準の内容面に関し、1審原告らが縷々不合理な点として挙げる事柄については、(中略)所詮、独自の見解に立って規制の在り方を論ずるものにすぎず、合法・違法の問題が生ずるとは解せられない」と述べ、住民ら(1審原告ら)の主張については、元原子力規制委員長代理をつとめた島崎邦彦氏など、専門家が示した知見を背景にした主張であっても一蹴するという極めて偏った態度をとっているといわざるを得ない。さらには、いまだ収束せず、事故原因の究明も進んでいない東京電力福島第一原発事故について、「福島原発事故と同じような過ちを繰り返さないための教訓はおおむね得られた」などと述べ、福島第一原発事故の被害の実相や、事故後すでに7年以上を経過しているにもかかわらず、事故がいまだ収束せず、原因究明も遅々として進んでいないという事実を軽視した判断である。

 以上のとおり、本判決は、その判断にあたって、本来司法権が果たすべき、事実認定やその評価について、「自然科学の分野における論争や対立に介入すべきでない」などと述べて、その役割を放棄し、立法・行政の判断に追随するだけの判断であって、極めて不当であるといわざるを得ない。


第3 新規制基準及びその適合性審査についての判断の問題点

本判決は、基準地震動や津波、火山対策など、新規制基準における各審査基準及びその適合性審査について、本判決65頁以下で判示する。しかしながら、その判示は、まさに関西電力の主張をそのまま採用した上で、「新規制基準に違法や不合理の廉があるとは認められ」ない、「本件発電所が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるともいえない」(197頁)と述べているにすぎない。

とりわけ、基準地震動に関する判断においては「基準地震動Ss-1~19のうちの最大加速度856(Ss-4)は、耐震バックチェック時に策定され、平成22年11月に原子力安全・保安院により妥当性が確認された最大加速度700ガル(応答スペクトルに基づく評価結果としての従来のSs-1)を上回る」(96頁)と認定しながら、結論として「上記の基準地震動Ssが新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない」(97頁)と判示した。審査基準として示された数値を超え、審査基準に適合しない内容であったとしても適合すると判断した原子力規制委員会の判断は、明らかに「当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点がある」にもかかわらず、これを追認した本判決は、上述した判断枠組みからしてもおよそ論理的な判断とは言い難く、まさに司法の役割を放棄した判断だといわざるを得ない。


第4 まとめ

以上のとおり、本判決は、原子力規制委員会の安全審査の結果さえ出れば、裁判所は、自ら主体的に原発の安全性を審査することとなく、その結果に追随するだけという、まさに、司法の役割を放棄した、立法・行政追随の判決であるといわざるを得ない。

当裁判所においては、本判決のような電力会社の主張を引き写し、立法・行政に追随するような判断に逃げ込むことなく、直近で発生した原発事故である東京電力福島第一原発事故の被害の実相、そして、原子力発電所がもつ危険性を直視し、「国政の上で、最大の尊重を必要とする」ところの「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」を擁護する砦としての裁判所の役割を全うされることを強く希望するものである。

以上

◆原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

2018年(平成30年)8月29日

原告提出の第54準備書面

【目次】

1 書面の趣旨

2 違法性
(1)規制権限不行使が違法となる要件
(2)法律の趣旨、目的
(3)規制権限の性質
(4)裁量権の収縮
(5)被侵害利益
(6)本件における国賠の要件

3 規制権限を行使すべき事象
(1)地震
(2)津波-詳細は第14準備書面参照
(3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述
(4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

4 結論



1 書面の趣旨

本書面は、東京電力福島第一原発事故における下級審判決(平成30年3月15日京都地裁判決(甲464、以下、「京都地判」という)、同月16日東京地裁判決(甲465)、以下、「東京地判」という)の判断枠組み等をふまえ、原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性を明確化することを目的とするものである。

2 違法性

 (1)規制権限不行使が違法となる要件

国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁、最高裁平成13年(オ)第1194号、第1196号、同年(受)第1172号、第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照)。

 (2)法律の趣旨、目的

  ア 福島第一原発事故を契機とした法改正

2011(平成23)年3月12日の福島第一原発事故を契機に明らかになった原子力に関する行政の不備を是正するため、2012(平成24)年6月27日、国は、「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉基法」という)」を改正した。
炉規法の主要な改正として、電気事業法の原子力発電所に対する安全規制(工事計画認可、使用前検査等)が、原子炉等規制法に一元化された。また、同法の目的、許可等の基準から「原子力の開発及び利用の計画的な遂行」を削除し、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を目的規定に追加した[1]

[1] 炉規法は、4段階に分けて施行された(2012(平成24)年9月19日、2013(平成25)年4月1日、同年7月8日、同年12月18日)、原告第5準備書面にて詳述

  イ 改正前の規制権限

改正前の法体系のもとでは、すでに稼働中の原子炉に対する規制が、電気事業法40条の技術基準適合命令を根拠とするか、原子炉等規制法を根拠とするかに関して議論があった。この点、京都地判においては、経済産業大臣は、基本設計部分または詳細設計部分を問わず、電気事業法40条の技術基準適合命令を行使して一時停止する権限を有していたのみならず、(原子炉に設計部分の変更を求める必要が生じた場合には)「炉規法に基づく設置許可を取り消すか、明文上の規定はないものの、取消権限の分量的一部として、原子炉の運転の一部停止を命じることができる」と判示し、電気事業法及び炉規法を根拠とした原子炉の一部停止権限を肯定した。

そして、電気事業法は、電気使用者の利益保護と電気事業の健全な発達を図ることだけでなく、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全確保と環境の保全を図ることを目的としている。また、(改正前)炉規法は、核燃料物質や原子炉の利用による災害を防止して、公共の安全を図るために、原子炉の設置等に対する必要な規制を行うことを目的としている。そして、いずれの法律も、公共の安全確保を目的の一つとしており、事業用の電気工作物や原子炉の各性質や、電気事業法や炉規法の具体的規定(電気事業法39条2項1号「人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること」、炉規法1条、24条1項4号「災害の防止」等)も踏まえると、いずれの法律も、公共の安全として、施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護することを目的にしており、施設周辺の住民等の利益は反射的利益などでは到底ないことになり、実用発電用原子炉には、このようないずれの法律の趣旨も及んでいると解すべきである(甲464-102)。

  ウ 改正後の規制権限

(改正後)炉規法第43条3の23は、発電用原子炉施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合に加え、原子炉等規制法44条の3の6第1項4号の設置許可基準に適合していない場合にも、発電用原子炉設置者に対して、使用停止等処分を行うことができる旨規定された。

同法の目的規定には、「もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と明示されている。

  エ 小括

以上より、改正前の法体系においても、改正後の法体系においても、電気事業法及び炉規法は、「施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護」を目的としている。

 (3)規制権限の性質

  ア 原発事故の重大性、影響

前記のとおり、経済産業大臣の権限は、原子炉の利用等による災害を防止して公共の安全を確保する目的であるところ、放射性物質の性質からして、被害が広範囲かつ継続的に生じる可能性を包含しているのである(原告第3準備書面にて詳述)。

このように一度生じれば、原子炉施設だけでなく、その周囲の多数の住民の生命、身体及び財産等に対して、取り返しのつかない甚大な被害が継続して生じる可能性があることからすれば、公共の安全を確保するためには、万が一にも原子力災害が生じないように、経済産業大臣は常に原子炉施設の安全性を確かめ、少しでもその安全性に疑念が生じる可能性があるならば、事業者に対して規制権限等を行使することが法の目的に合致するし、行使することが期待されているといえる。この点で、過去、権限行使の違法性が争われた事案(クロロキン訴訟最高裁判決、筑豊じん肺最高裁判決、水俣病関西訴訟最高裁判決及び大阪泉南アズベスト訴訟最高裁判決の各事案と比較しても、原子力発電事故は一瞬にして発生し得る実害の大きさから規制機関に権限行使が期待される事件類型ということができる(甲464-103)。

  イ 住民の期待可能性

また、一般的に、規制権限行使については、事業者に対して一定の制約を生じるものであるから、その行使にあたっては慎重に行使すべき場合もあると考えられる。

しかし、前記のとおり、原子炉施設は高い安全性が求められているところ、経済産業大臣に規制権限が与えられている趣旨は、事業者が利益追求のために安全性をないがしろにするようなことがあった場合に、規制権限を行使することによって、原子力災害を防止して公共の安全性を確保することにある。原子炉施設の安全性については、権限の行使の判断にあたって高い専門技術性を要求されることから(伊方原発訴訟最高裁判決参照)、経済産業大臣に対して規制権限が付与されているものであり、経済産業大臣の権限行使以外の方法によって安全性を確保することが困難であって、同権限によってしか是正することとができないものである。

他方、原子炉施設周辺の住民のように何らの専門技術的知見を持たない一般人が、専門技術的知見を有しており、かつ知見を収集することが可能である経済産業大臣の権限行使を期待し、それしか期待できないとするのも当然のことといえる。

 (4)裁量権の収縮

  ア 原子炉に求められる安全性の程度

ここで、東京地判においては、原子力発電所に求められる安全性の具体的な程度として、「原子力安全委員会安全目標専門部会が、発電用原子炉施設の性能目標を、炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下」[2]とする要件を課していること、国際的にも同程度の安全性が求められていることを「十分に斟酌すること」が必要であるとしている。

この、性能目標(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下とすること)は、福島第一原発事故後においても、新規制の指標とする旨が議論されている(甲466-安全目標と新規制基準について)。

すなわち、原子力発電所に求められる安全性とは、比喩的な表現(「万が一」)ではなく、具体的に「炉心損傷確率が1万年に一度」以下であることが求められているものであり、司法審査においても当然にこの規範が妥当するものである。

[2] 【甲466】安全目標は、定性的目標と、その具体的水準を示す定量的目標で構成されるとされ、以下が提示される。

  • 定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべき
  • 定量的目標:原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる、施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクは、年あたり100万分の1程度を超えないように抑制されるべき さらに、施設が安全目標に適合しているかを判断する目安となる水準として、性能目標案が提示される。
  • 炉心損傷頻度(CDF:CoreDamageFrequency):10-4/年程度
  • 格納容器機能喪失頻度(CFF:ContainmentFailureFrequency):10-5/年程度

  イ 規制権限行使の方法

福島第一原子力発電事故は、日本の原子力発電所には事故が生じないという言説(「安全神話」)を打ち砕いた。今日においては、重大な原発事故は生じうるということを前提として、規制権限の行使の方法が問義されなくてはならない。

そして、上記電気事業法、及び、炉規法の趣旨、目的、事故による損害の重大性、並びに、住民の期待可能性に鑑みると、経済産業大臣の規制権限は、原子力発電所立地近隣住民の生命、身体及び財産の安全の確保を目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されるべきものである(前掲最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決、平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。

  ウ 小括

以上より、原子力発電所に関する、経済産業大臣の権限行使は、万が一(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下)にも事故が発生しないように、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されなくてはいけない。

 (5)被侵害利益

  ア 人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)

後述する通り、大飯原発には、運転を停止すべき差し迫った具体的危険が存する状況にある。

原発(原子炉施設)を運転しうる状況に置くことは、原告らが常にいつ生命・身体・健康等に甚大な被害が発生するかわからない差し迫った具体的危険性のもとでの生活を強いるものであり、原告らが生命、身体、健康を維持し、快適な生活を営む権利、すなわち、人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)を侵害するものである。(訴状より)

  イ 水俣病お待たせ賃判決

上記憲法上の利益がいかなる状況で侵害されるかを具体的に説明する。

この点、参考となるのは、水俣病おまたせ賃判決(最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決、民集45巻4号653頁、判時1385号3頁、判タ757号84頁)である。同判決は、「本件において……〔上記の〕利益が法的保護の対象になり得るとしても、処分庁の侵害行為とされるものは不処分ないし処分遅延という状態の不作為であるから、これが申請者に対する不法行為として成立するためには、その前提として処分庁に作為義務が存在することが必要である。……また、作為義務のある場合の不作為であっても、その作為義務の類型、内容との関連において、その不作為が内心の静穏な感情に対する介入として、社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価されない限り、不法行為の成立を認めることができない」と判示した。

これは、行政処分の発動を促したにもかかわらず、早期に処分がなされないことが「申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益」「内心の静穏な感情を害されない利益」の侵害として、不法行為が成立する旨明示したものである。

本件に即して言えば、原告らは、大飯原子力発電所の具体的危険性を示しているのであるから、行政庁はすみやかに規制権限を行使して原子炉を停止すべきであった(作為義務の存在)のに、これを行わないため、原告らの内心の静穏な感情を害しており、これが不法行為を構成するのである。

  ウ 判例の要件

判例は

 ①処分庁に作為義務が存在すること
 ②社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価

という2つの要件を提示している。

②は具体的には「一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。」として、「不当に長時間にわた」る処分の不行使が要件と判示されている。

  エ ②の要件が不要であること

ここで、水俣病事件は申請者の認定に関する不安定な地位が問題となった。

他方、原子力発電所に関する本件においては、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)と同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであるから、「不当に長時間に渡る」行政処分の不行使という要件は不要である。

 (6)本件における国賠の要件

以上より、本件で国賠が認められる要件としては、具体的危険の発生=行政庁の作為義務の発生に尽きるものである。

以下、これまで原告が主張してきた、大飯原子力発電所の具体的危険性について端的に整理する。


3 規制権限を行使すべき事象

 (1)地震

  ア 基準地震動を上回る地震動

基準地震動を上回る地震動が発生する危険性のあることは、以下のとおり、客観的かつ合理的な科学的知見に基づいて既に明らかである。

そもそも、過去基準地震動を上回る地震が各地の原発で繰り返し発生していることは当事者間に争いがなく、東日本大震災に関する国会事故調報告書でもそのことが指摘されている(原告準備書面216)。これに対して被告らは各原発の地盤特性を指摘し、本件原発には妥当しないと主張するのであるが、そのような地盤特性が事前にすべて詳らかになるものでないことは明らかであるし、ばらつきなども適切に考慮されていないのであるから、本件原発において基準地震動を上回る地震動が過去同様に発生する危険があるという点に対する的確な反論とはなり得ない。

そしてその後も科学的知見は集積を続けている。平成28年の熊本地震ではM7クラスの地震が連続して発生するという「今までの経験則から外れている地震」が発生し、動いた活断層は既知のものよりも8キロ程度長いものであった。事前に知れたる活断層の長さと実際の長さとは大きな乖離があることが、平成7年の兵庫県南部地震に続き、改めて明らかになり、島崎氏や纐纈教授が指摘するように活断層の長さを事前に明らかにすることが不可能であることが裏付けられた。また、島崎氏らの指摘により、基準地震動の算出に用いられる入倉・三宅の式に過小評価の危険のあることが明らかとなっていたが、熊本地震の観測データからもそのことが裏付けられている(原告準備書面23ほか)。

①震源特性、②伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)という重要な考慮要素のうち、①②については実際には適切に考慮しておらず、③についてもその存在が否定し得なくなっている。被告関電は、敷地の解放基盤としてVs=2.2km/sの堅固で一様な岩があると主張しているが、その具体的根拠は示されておらず、調査結果の隠蔽やデータ解釈の誤認あるいは恣意的な作為により地盤がモデル化されてしまっている。また、データからは地盤に低速度帯の存在が示唆されるが、根拠が示されておらず、調査も極めても不十分である。このようにモデルを使って恣意的に評価された基準地震動は過小評価である(原告準備書面353744)。

  イ 基準地震動以下の地震

基準地震動を上回る地震動が発生する可能性については上記のとおり科学的知見が集積しているのであるが、そもそも、基準地震動以下の地震動であっても重大事故が発生する可能性はもちろんあり、そのことについての科学的知見も存在している。東日本大震災では地震により全外部電源が喪失しているが、本件原発でも地震によりすべての送電線(耐震Cクラス)が損傷するなどして同様の事態に陥る危険性がある。同様に耐震Cクラスでしかない非常用取水設備が損傷した場合にも、原子炉の冷却機能が喪失して炉心損傷に至る恐れがある。イベントツリーに基づく事故対策は現実の過酷状況下では非現実的であり(原告準備書面10)、外部電源や非常用取水設備の損傷の場合も同様である(原告準備書面20)。

 (2)津波―詳細は第14準備書面参照

ア 大飯原子力発電所が津波に対して安全であるとする被告関西電力の主張は、新規制基準に基づき過去の津波の調査、地震やその他の要因による津波水位の算定等を行い、基準津波を策定し、当該基準津波に対して施設の安全性を確認したということを根拠とする。
そうすると、新規制基準自体に合理性がない場合はもちろん、過去の津波調査に誤りや不十分さがある場合、地震やその他の要因による津波水位の算定に誤りや不十分さがある場合、もしくは重畳津波の検討に誤りや不十分さがある場合、被告関西電力が策定した基準津波そのものが不合理であるということになるし、基準津波を超過する津波に対して安全裕度がない場合には安全上重要な設備が浸水する危険性があり、炉心損傷の具体的危険があると結論されることになる。

イ しかし、第1に被告関西電力は、必要な事項(活断層、古津波)について十分な検討をしていない。
第2に、「津波評価技術」に代表される現代の津波予測はせいぜい「倍半分」程度の精度しかない。ここで、関西電力の想定の1.5倍とすれば、押し波により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室が浸水することになる。引き波に至っては、すでに海水ポンプの取水可能域を下回る結果が出ている。被告関西電力は、被告関西電力準備書面(2)29頁にて、「貯水堰」の設置にて引波対策を行うとするが、「貯水堰」からの取水により冷却機能を保持できる時間は僅かに6分間であり(甲211-205)、十分な安全裕度がない。
第3に、福井県は、独自の試算により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室敷地付近の浸水を予測している。ここで、規制される関西電力が提示する予測結果よりも、福井県による予測結果のほうが中立的であることは言うまでもない。現に、関西電力は、不可解なことに、福井県が最も大きい影響を与えると判断した「若狭海丘列付近断層」を評価していなかった。

以上より、大飯原発は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険性を有する。

 (3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述―

福島第1原発事故においては、福島第1原発の第1号機、第3号機、及び、第4号機のコンクリート建屋が水素爆発により破損した。原子力発電所の重大事故時に炉心の核燃料が高温化すると、燃料被覆管の材料成分であるジルコニウムが水と化学反応を起こし水素が発生する。加圧水型原発では格納容器内の雰囲気は空気であるために、仮にその水素が格納容器内に流出して雰囲気中の水素濃度が高まれば水素爆発を起こして格納容器が大規模破損する危険がある。

そこで、新規制基準は水素爆発防止のために、事故時の格納容器内水素濃度の規制を行い、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」において、格納容器内の水素濃度最大値を13%以下にすることを定めた。他方、被告関西電力は、大飯原発3、4号機の水素濃度最大値約12.8%として設置変更許可を申請した。

しかし、関西電力の申請内容は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で定めた溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による水素の発生を適切に考慮していない。これを審査ガイドに従って厳格な条件により解析すれば規制基準の13%を超える結果が生じる。
したがって、大飯原発3、4号機は、新規制基準の要件を充たさない。
本件訴訟の要件に置き換えれば重大事故時の格納容器水素爆発の具体的危険がある。

 (4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

原子力発電所は大量の放射性物質を内蔵している。従って放射性物質の放出から公衆の安全を守るため、原子炉施設の基本的な安全設計が問題となるだけでなく(深層防護の1~3層)、放射性物質が大量に放出される重大事故への対策(同第4層:過酷事故対策)及び放射性物質の影響を緩和するための周辺住民らの避難計画等(同第5層)が、それそ゛れ独立して確保されねばならない。これらに加え、原子力発電所の立地は、確実に放射性物質の放出から公衆の安全が守られるよう、人が居住していないか、あるいは人口密集地から離れ、周辺の人口密度が低いことを要請される。

上記を要件化したものが、いわゆる「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」(昭和39年5月27日原子力委員会決定以下「立地審査指針」という)である。

立地審査指針は、昭和39年5月27日以降、原子炉の設置審査において適用されてきたが、平成25年7月の新規制基準には、公衆の被曝量を基準とする立地審査指針は含まれず、審査指針として運用されない方針が採用された。すなわち、現在、公衆の被爆量を基準とする立地審査指針は、既設炉の審査基準とされていない。

しかし、原子力規制委員会が、新規制基準から立地審査を排斥したことには合理的な理由がない。そして、大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」によれば、むしろ、福島第一原発を参照した場合、大飯原発は旧立地審査指針をみたさないことが明らかになった。


4 結論

先の述べたとおり、原子力発電所は、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)が認識されると同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであり、本件で国賠が認められる要件は、「具体的危険の発生」(=行政庁の作為義務の発生)に尽きるものである。

そして、本書面「3」で述べたとおり、大飯原子力発電所の具体的危険性は多数指摘できる。これらは、平成23年3月11日の福島第一原発事故後、旧規制基準の不備が明らかになり、また科学的知見の刷新されたことにより、認識されるに至ったものと言える。

したがって、遅くとも、本訴訟提起時には原告らに損害が発生していたものである。

以上

◆被告 関西電力の準備書面、答弁書、書証(丙号証)など(~2018/11)

証拠説明書   上申書   書証    答弁書

準備書面


上申書

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証拠説明書

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書証

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 答弁書

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◆第20回口頭弁論 原告提出の書証

甲第440~446号証(第51準備書面関係)
甲第447~449号証(第52準備書面関係)
甲第450~462号証(第53準備書面関係)

※ 書証データ(PDFファイル)がないものは、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



★証拠説明書 甲第440~446号証(第51準備書面関係)
(2018年 月 日)

甲第440号証

甲第441号証

甲第442号証

甲第443号証

甲第444号証

甲第445号証

甲第446号証

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証拠説明書 甲第447~449号証(第52準備書面関係)
(2018年6月5日)

甲第447号証
「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する『科学的特性マ ップ』を公表します」との文書、及び「科学的特性マップ公表用サイト」との文書(弁護士 岩佐英夫)

・甲第448号証
「原発再稼働? どうする 放射性廃棄物」と題する本(一般社団法人・京都自治体問題研究所)

・甲第449号証
「日本列島では原発も『地層処分』も不可能という地質学的根拠」と題する本(土居和己)

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証拠説明書 甲第450~462号証(第53準備書面関係)
(2018年6月1日)

甲第450号証
県内1605人に避難長期化 直接死上回る_東日本大震災(福島民報)

甲第451号証
東日本大震災における震災関連死の死者数(復興庁)

甲第452号証
毎日新聞 東京夕刊8頁(毎日新聞)

甲第453号証
福島第1原発10キロ圏内で10遺体発見(AFPBB NEWS)

甲第454号証
世界に問う事故の「無念」 浪江消防団描いたアニメ仏で上映_ふくしま便り(東京新聞)

甲第455号証
地震情報2011年3月11日(日本気象協会)

甲第456号証
気象庁震度階級関連解説表(気象庁)

甲第457号証
死期早める 高齢者施設せんだん(双葉)36人死亡 体調悪化、心労重なり(福島民報)

甲第458号証
双葉病院事件の真相 当事者医師、語る 医療維新の医療コラム(医師 杉山健志、橋本佳子(m3.com編集長))

甲第459号証
東京地裁判例平成28年8月10日(双葉病院 失踪事案)(東京地裁)

甲第460号証
東京地裁判例平成28年5月25日(双葉病院 避難中死亡事案)(東京地裁)

甲第461号証
避難で移動平均7回 復興庁、県内35人を分析 最多は16回(福島民報)

甲第462号証
南相馬の5高齢者施設入所者 避難後、死亡率2.7倍に(福島民報)

甲第463号証
死亡率震災前の2・4倍 特養施設などで増える(福島民報)

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◆原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

2018年(平成30年)5月28日

原告第53準備書面

目 次

第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

第3 避難過程での死者の発生
1 高齢者施設「せんだん」の例
2 双葉病院の例
3 全体的な状況

第4 まとめ



 第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

政府は、「震災関連死の死者」とは、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義している。福島県の主要な地方紙である福島民報では、丸括弧をつけて「原発事故関連死」という用語も併記している。

2013年12月の時点で、「震災関連死」の数は、福島県の1605名(202万9000人)に対し、宮城県878名(234万8000人)、岩手県428名(133万人)であった。かっこ内は平成22年度の国勢調査時点での各県の人口を示す。人口比で考えても、福島県の震災関連死の率が突出していることがわかる(甲450)。

平成29年9月30日の段階では、岩手県464名、宮城県926名、福島県2202名で、2202名のうち1984名が65歳以上の高齢者であった。
震災とは別に福島第一原発の事故が起きた福島県だけ、震災関連死の伸びが続いているのであり、ここに原発事故関連死という名前をつける事情が現れている(甲451)。

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 第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

避難地域では、2011年3月11日の地震発生直後から避難が始まり、行方不明者等の捜索が打ち切られている。それでも、津波で行方不明になった者については、捜索できないまま避難するしかなかった旨の報道がされている。これらの行方不明者の捜索が再開されたのは概ね4月14日以降である(甲452)。多数の遺体が発見されている(甲453)。

一方、なかなか表に出てくる事情ではないが、地震でがれきに埋もれた人々を救出できずに避難せざるを得なかった証言もある(甲454)。引用した新聞記事にもあるが、この件は、後に物語化されている。

分団長だった高野仁久さん(54)は単身で捜索に行き、がれきの下から助けを求める声をいくつも聞いた。対策本部に戻り、「機材を持って救出に行こう」と提案するが、二次災害を恐れた町長らに止められる。この翌朝、約十キロ離れた原発が爆発し、全町避難となった。

東日本大震災の本震による原発事故の避難地域の震度は以下の通りである(甲455)。

震度6強 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町
震度6弱 川俣町、田村市、広野町、川内村、飯舘村、南相馬市

一方、気象庁によると、震度6弱で倒れる建物が出始め、震度6強だと倒れるものが多くなる(甲456)。1981年の「新耐震基準」施行前に建設された建物にその傾向が顕著である。

あまりに凄惨な事態であることから、証言が公表されるとは限らないが、上記の記事のように建物の下敷きになった者を見殺しにしての避難の暗数は相当あると予想される。

原発の過酷事故が大地震の際に起こるのであれば、避難を強いられる近隣の地域で、このような避難による見殺しが起きるのは必然である。

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 第3 避難過程での死者の発生

  1 高齢者施設「せんだん」の例(甲457

双葉町にある高齢者施設「せんだん」は、福島第一原発から3.5キロメートルの場所に位置しており、2011年3月12日に全員避難の指示が出た。

そこで、88人の入所者が5つのルートに分かれて避難した(下図参照)【図省略】。88人は、当初、受け入れ先が決まらず転々とした。疲労や心労、体育館や公共施設などの寒さ、不慣れな固く冷たい食べ物、薬の不足など急激な環境変化で持病を悪化させ、衰弱も進んだ。このため19日までに別の高齢者施設、病院、近親者宅に振り分けられた。

88人のうち67人が福島市、伊達市、会津美里町、栃木県の16施設に移ったが、このうち28人が、病気や体調を悪化させて死亡した。

8人は福島市、郡山市、二本松市、栃木県の病院に入院し、3人が死亡した。家族に引き取られた13人のうち5人も死亡した。

亡くなった36人(女性25人、男性11人)のうち、避難から約半年で亡くなったのは半数の18人。さらに昨年12月までに18人が死亡している。死因の多くは肺炎や老衰などだった。

避難計画がいかに整備されても、高齢者が過酷な状況での避難を強いられることに代わりはなく、その過程で多数の死亡者が発生するのは避けがたい。

  2 双葉病院の例(甲458

双葉病院は、福島第一原発から約4.5kmの場所にある350床の精神病院である。福島県の沿岸部の浜通り地域では最大規模の精神病院だ。当時の常勤医は7人。震災当時の入院患者は338人であり、その約4割は高齢者で、寝たきりの患者も多かった上、高カロリー輸液の患者が20人以上、経管栄養の患者も30人以上いた。また、同じ法人が運営する介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」(定員100人)が病院から約300mの場所にあり、一体的に運営していた。

双葉病院は、原発事故後、上記338人について、3月12日の第一陣、3月14日の第二陣(34人)、3月15日の第三陣(90人)の3回にわたり避難を余儀なくされた。
院内での死亡は、13日夜から14日未明までに3人、14日から15日に死亡したと推定されるのが1人であった。また、歩行可能な認知症の患者が1人行方不明になり、のちに失踪宣告されている。

一方、福島第一原発1号機のベント成功確認が3月12日の14時30分、同機の水素爆発が同日15時36分。同3号機の水蒸気爆発が3月14日11時01分、同2号機同4号機の水素爆発が3月15日6時14分。2号機の損傷は4号機と連動している可能性があり、同日午前11時25分には露内の圧力が低下していた。したがって、上記避難は、救出する側の関係機関、病院の職員、患者たちが濃厚に放射線に被曝しながらのものであった。 双葉病院の患者については、行方不明になった上記患者について訴訟になり判決が出されている(甲459 東京地判平成28年8月10日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、3月15日に外部から救助に来た者が病棟出口を開放した後、行方が分からなくなったものであり、保護責任者である病院側の民事責任は逃れられないとしても、人員確保すらできない状態で原発が爆発し、原発の爆発音がとどろき、放射性物質が大量に放出される極限状態のなかで、外部からもたらされた事情で、徘徊、行方不明に至ったものであり、防止はきわめて困難だったと思われる。

判決文によると、当該患者の行方不明が判明したのは避難が完了した後の3月末になってのことであり、同時に、他の入院患者1名の行方不明も判明し、この患者は、双葉病院内で遺体(前述の4名の遺体のうち一人と思われる)で発見された。

また、さらに、避難途中になくなった患者1名についても訴訟になり判決が出されている(甲460 東京地判平成28年5月25日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、第二陣の避難中、バス内で10時間にわたり水分補給も栄養補給もなかったため、脱水と栄養不足で死亡した。

  3 全体的な状況

復興庁は、震災後2年以内に死亡した福島第一原発事故の避難地域の高齢者35人について死因の調査を行った。それによると、避難の移動回数は平均7回で、中には16回という人もいた。一時帰宅の際に自治体の手続きで長時間待たされて体調を崩し、死に至ったケースもあった。死亡原因(複数回答)は7割超の25人が「避難所生活などによる肉体、精神的疲労」、約4割の13人が「避難所などへの移動に伴う疲労」、2割の7人が「病院の機能停止による初期治療の遅れなど」だった(甲461)。

また、南相馬市が行った調査では、福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた南相馬市の5カ所の高齢者施設で、入所者の原発事故後約1年間の死亡率が、過去5年間の死亡率と比べて約2・7倍に上った。死亡率は大きな施設の方が高かった(甲462)。

2013年3月に福島県がおこなった調査では、福島第一原発事故で避難を強いられた県内の特別養護老人ホームや介護老人保健施設など34高齢者施設の事故当時の入所者1766人のうち、1月1日現在で約30%の520人が死亡したことがわかった。震災後8ヶ月の死亡率は、震災前の2.4倍になった(甲463)。

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 第4 まとめ

このように、震災直後、避難の過程、避難後の生活環境などにより、たくさんの人が死亡した結果、第1で述べた大量の震災関連死(原発事故関連死)が発生したのである。

机上の空論で避難計画をどのように整備しても、一度、原発に過酷事故が発生し、避難を強いられることになれば、たくさんの人々の命が奪われるのは、火を見るより明らかである。特に、原発が爆発し、放射性物質が大量に放出される中での避難は、戦場からの退避にも比肩すべきものであり、健常者であっても、一般的な訓練で馴致できるものではないだろう。

そして、我が国の新規制基準は、すでに過酷事故の発生を想定したものになっている。

結局、大飯原発が過酷事故を起こせば、直接的に大量の放射線被曝がなくても、それを避けるために、多数の人が亡くなるのは必然なのである。多数の人の生存権と比較できる原発の利益など観念し得ないし、百歩譲って仮にするとしても、すでに経済合理性すら失われていることはすでに述べた。

大飯原発は運転を差し止めして、廃炉にするほかないのである。

以上

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