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◆原告第5準備書面
第3 現在の規制組織、原子力法規制

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第3 現在の規制組織、原子力法規制

1 福島第一原発事故前

 福島第一原発事故前、日本の原子炉は、「原子力基本法」を基本法として原子力利用の基本理念等を定め、原子力施設に対する規制等に関しては、核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉規法」という。)が、発電施設としての原子炉の規制等に関しては電気事業法が定められていた。
 原子力安全委員会(以下「安全委員会」という。)は、規制当局 (実用発電用原子炉においては、原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)が実施した安全審査のレビューを行う際に用いる指針類を策定し、この指針類は規制当局が安全審査を行う際にも採用されている。
 上記、規制法の体系、指針類、及び、規制機関相互の関係については、別紙1に図示する〈省略〉。

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2 現在の法体系

 福島第一原発事故後、同事故の反省をふまえ、規制の法体系は、概要以下の通り改正された。
 まず、電気事業法の原子力発電所に対する安全規制(工事計画認可、使用前検査等)が、原子炉等規制法に一元化された。
 また、原子力基本法、炉規法が改正された。炉規法の主要な改正として、同法の目的、許可等の基準から「原子力の開発及び利用の計画的な遂行」を削除し、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を目的規定に追加した。また、福一原発事故をふまえ、炉規法に、シビアアクシデント対策、自然災害対策、バックフィット、運転期間の延長認可が盛り込まれた(但しこれらの不十分性については、別に述べる)。
 また、原子力規制委員会設置法を制定し、環境省の外局として原子力規制委員会(独立行政委員会)を設置した。これに伴い、原子力安全委員会、原子力安全保安院、及び、原子力安全基盤機構から、原子力規制委員会に規制権限の一元化が図られた。(別紙2参照 原子力安全基盤機構は原子力規制委員会と統合)
 原子力規制委員会は、原子力規制委員会規則を策定し、規制の審査基準を具体化した内規を策定した。これら「技術基準規則」及び「内規」全体をみて「新規制基準」の実体的内容が把握できる。

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3 法律⇒政令⇒規則⇒内規

 現在の実用発電用原子炉に対する規制は以下の通りである。

 (1) 法律:原子炉等規制法

 (2) 政令:同法施行令(政令)

 (3) 規則[1] 

  • 実用発電用原子炉の規制に関する規則
  • 実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則
  • 実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則
  • 実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織の技術基準に関する規則
  • 実用発電用原子炉に使用する燃料体の技術基準に関する規則

 (4) 内規

  • 実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈
  • 実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈
  • 実用発電用原子炉及びその附属施設の火災防護に係る審査基準
  • 実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織の技術基準に関する規則の解釈
  • 実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準
  • 原子力発電所中央制御室の居住性に係る被ばく評価手法について
  • 実用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価基準について
  • 非常用炉心冷却設備又は格納容器熱除去設備に係るろ過装置の性能評価等について
  • 原子力発電所の火山影響評価ガイド
  • 原子力発電所の竜巻影響評価ガイド
  • 原子力発電所の外部火災影響評価ガイド
  • 原子力発電所の内部溢水影響評価ガイド
  • 原子力発電所の内部火災影響評価ガイド
  • 実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド
  • 実用発電用原子炉に係る使用済燃料貯蔵槽における燃料損傷防止対策の有効性評価に関する審査ガイド
  • 実用発電用原子炉に係る運転停止中原子炉における燃料損傷防止対策の有効性評価に関する審査ガイド
  • 実用発電用原子炉に係る重大事故時の制御室及び緊急時対策所の居住性に係る被ばく評価に関する審査ガイド
  • 敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド
  • 基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド
  • 基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド
  • 基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価に係る審査ガイド
  • 耐震設計に係る工認審査ガイド
  • 耐津波設計に係る工認審査ガイド

[1] 原子力規制委員会HPより(平成26年8月4日段階) https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/sekkei/hourei1.html

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◆原告第5準備書面
第4 規制組織及び原子力法規制の問題点

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第4 規制組織及び原子力法規制の問題点

1 規制組織の独立性・透明性への疑問

 2012(平成24)年9月19日、環境省の外局として発足した原子力規制委員会は、委員長ほか4名の委員で構成される。この原子力規制委員会の下に、事務局として規制庁がおかれ、2013(平成25)年3月現在で473名体制となった。
  しかしながら、国会事故調の提言の一つである、「独立性」については、当初から疑問視されていた。すなわち、田中俊一原子力規制委員会委員長は、2007(平成19)年1月に原子力委員会(当時)の委員長代理に就任しているが、この原子力委員会について「原子力の平和利用を推進する組織」であると自認している(原子力規制委員会ホームページ、委員長プロフィールより)。
 また、2014(平成26)年9月より委員に就任することが予定されている田中知氏は、規制委員会発足当時に制定されたガイドラインに反しているとの報道がなされている。すなわち、ガイドラインによれば、「就任直前の3年間に原発事業者などの役員や従業員だったり、年間50万円以上の報酬を受けていたりした人は委員から除外する」との規定があるが、田中知氏は、2014(平成26)年前半まで、原発事業者である日本原燃と三菱FBRシステムズから報酬を受け取っていたのである(甲62  平成26年7月5日朝日新聞記事)。
 以上のとおり、日本の原子力の規制組織は、正常な姿に改善されたとは到底いえない状況である。

2 原子力法規制の問題

 いわゆる新規制基準は、原子力委員会委員長自身が、安全審査ではなく、基準の適合性審査と強調するとおり(甲64 :原子力規制委員会委員長定例記者会見)、あくまで原子炉の適合性の審査にすぎず、市民の生命・身体の安全を第一の目的として策定されたものではない。
 また、後述するとおり、新規制基準は、国会事故調が明示的に列挙した(1)複合災害による多重故障の想定、(2)立地審査指針の見直し、(3)長時間にわたる全交流電源喪失へも実効的な対応をしていない。特に、(2)の立地審査指針については、国会事故調は、「被居住地域や低人口設定の前提となる放射性物質の放出量は、これらの区域・地帯が原子炉施設の敷地内に収まるように逆算されていた疑いがある」(甲3 6.1.3.2))と明確に指摘していた。しかるに、新規制基準作成にあたり、立地審査指針は見直されなかったばかりか、その運用・適用自体が事実上放棄されてしまった。
 さらに、依然として、「原子炉の安全性の確保と防災対策は、関係しない」ままである。すなわち、原子力規制委員会委員長は、深層防護の第5層の防災対策について責任をもつのは内閣府であり、規制委員会や規制庁の仕事ではないと繰り返し強調している。つい先頃行われた、川内原発の事実上の適合性審査発表後の定例記者会見においても、「私どもの規制の範囲外」「防災避難計画を作る、そのこと自身は規制委員会、規制庁の仕事ではない。」(甲64)と発言している。このように、原子力規制委員会及び規制庁は、市民の生命・身体の安全への責任を担う役割を放棄しているのである。

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◆原告第5準備書面
第5 新規制基準の問題点

 
原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第5 新規制基準の問題点

1 立地審査指針を適用しないこと

 原子力委員会が1964年に決定し、原子力安全委員会が1989年に一部改訂した「原子炉立地審査指針」は、原発の設置(変更)許可審査における最上位に位置する審査指針であった。その基本的考え方と達成条件の要点は以下のとおりである(甲65 「原発ゼロ社会への途-市民がつくる脱原子力政策大綱」より)〈省略〉。

 ここに述べられていることは、万一の事故による公衆の安全を守り、人の生命・身体を保護するためには 極めて重要なものである。
 しかしながら、福島第一原発事故では,原発の敷地境界での全身被曝線量(積算)の実測値が立地審査指針のめやす線量を遙かに超えた。これによって,福島第一原発は,その立地条件が立地審査指針に適合していなかったことが明らかになった。
 このことは,新規制基準において,立地審査指針を見直した上,これを組み入れ直すことの重要性を示している。
 国内の他の原発においても,福島第一原発事故相当の炉心の著しい損傷事故を想定すると,軒並みに,今の立地が立地審査指針に適合していないこととなる可能性がある。このことは,規制委員会が防災計画用に国内全原発に対して実施した,福島第一原発事故相当の放射性物質の総放出量に関する拡散予測試算で,どの原発でも実効線量100mSvの等値線が敷地境界から10kmも20kmも離れた時点にまで及んでいることからも十分に推察される。

 したがって,新規制基準が要求しようとしている重大事故対策による放射性物質放出抑制効果に期待するのであれば,その効果を検証,審査するためにも,重大事故における敷地境界被曝線量に基づく立地条件の適否の評価が必要不可欠である。
 そうであるにもかかわらず、新規制基準では立地審査指針を見直すどころか、これを除外してしまった。
 その理由として、規制委員会は、今般追設されるフィルタベントの機能も考慮のもとに「総放出量は環境への影響をできるだけ小さくとどめること」とし、定量的には「セシウム137の放出量が100テラベクレルを下回ること」を求めていることをもって、立地評価をカバーするものとしている。
 しかし、このセシウム137の量的制限だけでは、長期的な環境汚染を抑制する効果はあっても、公衆の放射線被ばく量を安全な水準に抑えることはできない。なぜならば炉心の著しい損傷が生じると、格納容器内にいち早く流出してくる放射性物質は通常運転中にも燃料と被ふく管の間隙部に存在する放射性の希ガスとヨウ素であり、燃料溶融が進むにつれてセシウム及びその他の核種が放出される。希ガスはその物理的性質からフィルタを素通りして除去することはできない。もし希ガスの炉内蓄積量の全量が大気中に放出されると、公衆被ばく量は立地評価で定められためやすを大幅に上回る可能性が濃厚である。

 したがって、セシウム137の量的制限だけでは公衆の安全を守ることはできないのである。また、原発からの放射性物質の放出量自体は、公衆との間にある原発の離隔距離には無関係な物理量であり、その量的制限をしても、離隔距離の妥当性を評価することにはならない。
 このように、フィルタベント機能の追加は立地審査指針を除外する根拠にはなりえない。
 それでは、立地審査指針を除外した本当の理由は何か。
 改正後炉規法第43条の3の20第2項は、既存原子炉に最新の安全規制を実施する「バックフィット制度」を明示的に規定した。
 そのため、「福島のような放出の状況を仮定すると立地条件に合わなくなってしまう」(甲63-17頁 平成24年11月14日原子力規制委員会記者会見録)との田中俊一原子力規制委員会委員長の記者会見での発言からも明らかなとおり、国内のどの原発でも過酷事故を想定すると敷地境界での公衆被ばく線量が立地評価の目安以下になる見通しがなく、バックフィットによって全ての原子力が稼働できなくなることを避ける必要があったものである。
 このような理由で立地審査基準を除外することは本末転倒であり、この点のみを見ても新規制基準の不当性は明白である。

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2 安全設計審査に関する基準の不合理性

 (1) 単一故障指針が見直されていない

 単一故障指針は,単一の原因によって一つの安全機器のみがその機能を喪失することを仮定するものであり,事故が起きたときに,各種の安全機能を有する機器【例えば,ECCS(緊急炉心冷却装置)や緊急電源用ディーゼル発電機)】のうち,その全部(例えば,ECCSの全部の機能喪失)が壊れることを想定していない。つまり,単一故障指針は,各種の安全機能を有する機器のうち,単に一つの機器だけの故障を想定するルールであり,複数の機器が同時に故障することを想定していないのである。
 しかしながら,福島第一原発事故から明らかなように,地震や津波をはじめとする自然現象を原因とする事故は,多数の機器に同時に影響を及ぼす。そのため,異常状態に対処するための安全機器の一つだけが機能しないという仮定は非現実的であり,一つの安全機能にかかる全ての機器がその機能を失うことを仮定しなければ危機に対応できない。
 この点、単一故障に対し,単一の要因によって,複数の機器が同時に安全機能を失うことを「共通要因故障」という。
 福島第一原発事故では,自然現象や人為事象によって,非常用復水器(IC)2系統の手動停止,非常用交流動力電源系統の多重故障,非常用所内直流電源系統の多重故障など,共通要因故障が発生した。
 したがって,新規制基準では,福島第一原発事故の教訓を踏まえ,単一故障指針に基づく設計基準や安全設計評価ではなく,多数の設備・機器が同時に機能を失う共通要因故障を仮定した設計及び安全設計評価でなければならない。単一故障指針は,見直されなければならず,単一故障指針に基づく設計及び安全設計評価では,福島第一原発事故の教訓を踏まえた設計及び安全設計評価はできないことが明らかである。
 しかしながら,新規制基準の根幹をなす「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」(以下「設置基準規則」という。)では,第12条第2項において,「安全機能を有する系統のうち,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有するものは,当該系統を構成する機械又は器具の単一故障【単一の原因によって一つの機械又は器具が所定の安全機能を失うこと(従属要因による多重故障を含む。)をいう。以下同じ。】が発生した場合であって,外部電源が利用できない場合においても機能できるよう,当該系統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び独立性を確保するものでなければならない」とされており,単一故障の仮定が見直されておらず、安全性を確保できていない。

 (2) 外部電源に関する重要度分類及び耐震重要度分類が変更されていない

  ア 重要度分類指針

 重要度分類指針は,原子炉施設の安全性を確保するために必要な各種の機能(安全機能)について,安全上の見地からそれらの相対的重要度を定め,これらの機能を果たすべき構築物,系統及び機器の設計に対して,適切な要求を課すための基礎を定めることを目的とする。
 重要度分類指針は,各安全機能について,その性質に応じて,PS(PreventionSystem:異常発生防止系)とMS(MitigationSystem:異常影響緩和系)に分類している。
 そして,同指針は,PSとは,その機能の喪失により,原子炉施設を異常状態に陥れ,もって一般公衆ないし従事者に過度の放射線被ばくを及ぼすおそれのあるものと定義する。また,MSとは,原子炉施設の異常状態において,この拡大を防止し,又はこれを速やかに収束せしめ,もって一般公衆ないし従事者に及ぼすおそれのある過度の放射線被ばくを防止し,又は緩和する機能を有するものと定義している。
 そして,PSとMSに属する構築物,系統及び機器を,その重要度に応じて3クラスに分類し,設計上考慮すべき信頼性の程度を区分している。
 クラス1は,合理的に達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持する,クラス2は,高度の信頼性を確保し,かつ,維持する,クラス3は,一般の産業施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持する、ことを目標とするとされている。
 福島第一原発事故以前、外部電源は,「異常状態の起因事象となるものであって,PS-1(クラス1)及びPS-2(クラス2)以外の構築物,系統及び機器」と定義づけられ,「PS-3(クラス3)」に分類されている。また,外部電源は,耐震設計上の重要度分類においても,Sクラス,Bクラス,Cクラスの分類のうち,最も耐震強度が低い設計が許容されるCクラスに分類されてしまっていた。

  イ 新規制基準でも外部電源の重要度は格上げされていない

 福島第一原発の外部電源は,地震の揺れによる鉄塔の倒壊,配電盤損傷等により全て喪失した。東海第二原発も,地震によって全ての外部電源を喪失している。
 外部電源は,安全設計審査指針48.電気系統において,「重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること」とされているとおり,非常用電源と並列的にいずれかからの電気が供給される設計が要求される重要な系統である。そのため,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)」(平成24年3月14日原子力安全基準・指針専門部会安全設計審査指針等検討小委員会)は,SBO対策に係る技術的要件の一つとして「外部電源系からの受電の信頼性向上」の観点を掲げ,「外部電源系は,現行の重要度分類指針においては,異常発生防止系のクラス3(PS-3)に分類され,一般産業施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持することのみが求められており,今般の事情を踏まえれば,高い水準の信頼性の維持,向上に取り組むことが望まれる」とし,現行の外部電源系に関する重要度分類には瑕疵があることを認めていた。
 したがって,遅くとも福島第一原発事故以降については、外部電源は,重要度分類指針のクラス1,耐震設計上の重要度分類のSクラスに格上げし,合理的に達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持しなければならないことは明らかである。
 ところが,新規制基準では,外部電源の重要度分類が格上げされておらず,福島第一原発事故の教訓を踏まえた改正はなされていない。これでは,原発の安全性が確保されないのは明らかである。

 (3) 重大事故対策が不十分であること

  ア 新規制基準による重大事故対策の法的位置づけ

 福島原発事故以前は,重大事故対策は,原子炉設置者の「自主的な取組とする」ことになっていたところであるが(1992(平成4)年5月28日原子力安全委員会決定),原子力安全委員会は,2011年10月20日,この平成4年決定を廃止した。
 2012年6月27日法律第47号による改正後の原子炉等規制法(以下「新炉規法」という。)及び新規制基準では,

  1. 「重大事故」は「発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故」として定義付けられ(新炉規法43条の3の6第1項3号),平成25年6月28日原子力規制委員会規則第4号による改正後の実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和53年12月28日通商産業省令第77号,)第4条は,「その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故」とは,炉心の著しい損傷(同規則第4条1号)と核燃料物質貯蔵設備に貯蔵する燃料体又は使用済燃料の著しい損傷(同規則第4条2号)を指すとした。
  2. また,設置許可の基準の一つとして,「その者に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」を掲げ(新炉規法43条の3の6第1項3号),その審査基準として,「実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準」等を制定し,重大事故対策を原子炉設置者の自主規制から法規制に転化させた。
  3. さらに,設置許可基準の一つとして,「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止に支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を掲げ(新炉規法第43条の3の6第1項4号),同基準として,設置許可基準規則等を制定した。

  イ 重大事故対策の有効性が認められないこと

 新規制基準における重大事故対策は,福島第一原発事故を踏まえて策定されなければならなかったが,結局,付け焼刃であり,実効性は疑わしい。すなわち,恒設設備ではなく,可搬式電源車や可搬式ポンプ等の可搬設備で対応することを基本としているのである。しかし,可搬設備は,つなぎこみに時間がかかるし,確実性も保証されない。
 とりわけ,本件の対象となる大飯第3・4号機は,いずれも豪雪地帯に位置している上,周囲が山である。重大事故が土砂災害や深層崩壊を原因として起こった場合は勿論のこと,地震を原因として起こったときであっても,敷地が山崩れによる土砂に覆われ,可搬設備自体が土砂に埋まったり,そうでなくても敷地内の移動を阻まれたりすることが予想される。また,重大事故が起こったときに深い積雪があれば,やはり,可搬設備の移動に困難をきたすと考えられる。
 このように、可搬設備による重大事故対策の有効性は極めて低いと言わざるを得ない。

 (4) 地盤・地震・津波に係る新規制基準が不十分であること

 新規制基準における耐震設計(津波対策を含む)の基準は,設置許可基準規則(原子力規制委員会規則第5号)の3条~5条,38条~40条,「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則」(原子力規制委員会規則第6号,以下「技術基準規則」という。)の4条~6条,49条~51条に定められており,その解釈については,設置許可基準規則解釈,「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈」(原規技発第1306194号原子力規制委員会決定,以下「技術基準規則解釈」という。),「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(原管地発第1306192号原子力規制委員会決定),「基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価に係る審査ガイド」(原管地発第1306194号原子力規制委員会決定),「基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド」(原管地発第1306193号原子力規制委員会決定)に定められている。
 上記の耐震設計基準における基準地震動の策定の方法は,原子力安全委員会が定めた耐震設計審査指針(平成18年9月19日原子力安全委員会決定)とほぼ同内容である。
 しかし,これには,根本的な誤りがあり許されないものであることについては、原告ら準備書面2において述べたとおりである。

 (5) 避難計画の策定が設置条件となっていないこと

 避難計画の策定は、「深層防護」第5層に該当する〈表「IAEAの示す5層の深層防護」省略〉。
 これを踏まえ、米国においては、緊急時計画は、許認可発給条件の一つとなっており、建設許可申請時に提出する予備安全解析書(PSAR)には予備的な計画が、また、運転認可申請時に提出する最終安全解析書(FSAR)には最終的な計画が必要となる。
 また英国では、1959年に示された最初の原子力施設法(NIA)において、原子力施設での緊急事態に対する準備の重要性が既に認識されており、その後、1965年の修正NIA法で原子力施設の許認可条件(LC)の中で緊急時計画を策定することが規定されている。(甲66:「原子力緊急事態に対する準備と対応に関する国際動向調査及び防災指針における課題の検討」96、97、106頁)
 他方、日本では、避難計画策定についての根拠法(災害対策基本法、及び、原子力災害対策特別措置法)は存在するが、同法に基づく「地域防災計画」の策定は自治体の責務とされ、原子炉施設の許認可の要件とされていないのである。

 (6) 新規制基準が世界的基準を満たしていないこと

 上記のように新規制基準は、大きな問題のある欠陥のある基準であり、係る基準を満たしたとしても公衆の安全を守ることができるものであるとは言えない。
 そうであるにもかかわらず、田中俊一原子力規制委員会委員長は、新規制基準について「世界最高水準である」と述べているが、これまで述べた以外にも他の国と比較しても劣る点が多く、とても世界基準に達しているとはいえない。以下では欧州加圧水型原子炉(EPR)との比較において劣るものを列挙する(原発ゼロ社会への途-市民がつくる脱原子力政策大綱より)〈表省略〉。なお、EPR はスリーマイル島原発及びチェルノブイリ原発の過酷事故の教訓を踏まえて、フランスとドイツの規制機関の勧告に従いながら、福島原発事故が生じる以前の段階から安全性の向上を図ってきた新型の加圧水型原子炉である。

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◆原告第5準備書面
第6 本書面のまとめ

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第6 本書面のまとめ

 以上のとおり、本書面では、新規制基準には、安全性の見地からみて多くの問題点があることを指摘した。原発の再稼働が、安全性の見地からみて問題点のある新規制基準に基づくものである以上、再稼働には安全性において問題がある、換言すれば危険性があるということになる。

 ところで、原子力規制委員会の委員長田中俊一は、本年7月16日、九州電力川内原発の審査書案を了承した日の記者会見において、「原子力規制委員会の審査は安全審査ではなくて、基準の適合性の審査であり、基準の適合性は見ているが、安全だということは言わない」「基準をクリアしてもなお残るリスクというのは、現段階でリスクの低減化には努めてきたが、一般論として技術であるから、人事で全部尽くしている、対策も尽くしていることは言い切れない。自然災害についても重大事故対策についても、不確さが伴うので、基準に適合したからといって、ゼロリスクではない」と述べている(甲64)。原子力規制委員会の審査は、新規制基準に適合しているか否かの審査であり、基準に適合したから安全であるとかリスクがゼロであるということではない。これが同委員会委員長の見解である。これは同委員長の個人的な感想なり見解というよりも、同委員会の基本的な考え方とみることができる。

 従来の原発をめぐる行政訴訟においては、原子力安全委員会の審査を合格した原発については、一応安全であるということが前提とされ、その判断に不合理な点があるのか否かということが訴訟における争点となっていた。

 ところで、福井地裁平成26年5月21日判決は次のように述べる。すなわち、福島原発事故やチェルノブイリ事故の実態に鑑みると、「原発に求められるべき安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならず、万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない。」「本件訴訟においては、本件原発において、かような事態(原告ら代理人注、重大事故の発生)を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」とする。こうした理は「人格権の我が国の法制における地位や条理等によって導かれるものであって、原子炉規制法をはじめとする行政法規の在り方、内容によって左右されるものではない。したがって、改正原子炉規制法に基づく新規制基準が原発の安全性に関わる問題のうちいくつかを電力会社の自主的判断に委ねていたとしても、その事項についても裁判所の判断が及ぼされるべきであるし、新規制基準の対象となっている事項に関しても新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく、上記の理に基づく裁判所の判断が及ぼされるべきこととなる」。

 この福井地裁の、原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査の適否でなく、司法自身が、本件原発において、重大事故の発生を招く具体的危険性が万が一でもあるのか否かという判断基準に照らして原発の危険性の審査を行うことが、福島原発事故の後における司法に課せられた最も重要な責務であるとの考え方は、人格権に基づく原発差止訴訟における司法審査の在り方に関し当然の法理を説いたものではあるが、福島原発事故という極めて深刻な、我が国が存亡の瀬戸際に立たされた事故を経験した後における司法審査の在り方を改めて明らかにするものである。

 特に、上記で指摘した原子力規制委員会委員長の見解では、同委員会の新規制基準適合性の審査は、適合するとされた原発が安全であるとかゼロリスクであるというものではないというのであるから(甲64)、原発の重大事故を招く具体的危険性が万が一でもあるのか否かをめぐる判断は市民に投げ返され、その具体的危険性が万が一でもあるのか否かの最終的な判断は司法によってなされる外ないということに帰する(なお、甲67:原子力規制委員会記者会見録参照)。福井地裁の上記判示は、そうした原発の具体的危険性が万が一でもあるのか否かの問題を、原子力規制委員会の判断基準でなく、司法自身が自らの判断基準を定立して、正面から判断すべきであるという強い決意を宣言しているのである。

 原子力規制委員会委員長の冒頭発言をうけて、官房長官は、同委員会は原発が安全かどうかをチェックするのだから、新規制基準に適合しているという判断は安全だと判断したという趣旨のことを述べているが、この官房長官の発言は、上記委員長の見解にも反し、明らかな誤導である。現在、政府、電力業界、経済界は、原発再稼働に向けて、なりふりを構わぬ態度で臨んでいる。そうした情勢の中にあって、原告らは改めて当裁判所に対し司法の立脚点である憲法及び条理等に基づき、そして司法に課せられた使命を賭けて、原発再稼働差止の判断して頂くように強く要望する。それは、本件訴訟に参加している2000名になんなんとする原告のみならず、原発事故の再発、ひいては我が国の前途を憂える多くの市民の強い願いなのである。

以上

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◆原告第4準備書面
第1 福井地裁判決の概要

原告第4準備書面
-平成26年5月12日福井地裁判決について- 目次

 以下、本件と同様の事案に関する福井地方裁判所の本年5月21日判決(平成24年(ワ)第394号事件、平成25年第63号事件)について述べる。

第1 福井地裁判決の概要

1 判決内容

 福井地裁判決は、本件と訴訟物を同じくする、人格権に基づく大飯原発の稼働差止め請求について、大飯原発から250km県内に居住する原告の請求を認容した。

  主文第1項(1頁)
「被告は、別紙原告目録1記載の各原告に対する関係で、福井県大飯郡おおい町大島1字吉見1-1において、大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。」

 

2 判決理由

 福井地裁判決は、被告関西電力の原子力発電所稼働の利益を「経済活動の自由」に位置づけ、原告の「人格権」と比較し、劣位におかれるべきとした。
 そして、「(福島第一原発事故のような)事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象」であるとして、新規制基準の対象となっていない事項、及び、新規制基準の対象となっている事項に関しても新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく、裁判所の判断が及ぶとした。
 以下、判決の論理を簡単に述べる。

 (1) 福井地裁判決が判断した「人格権」の内容

  「生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。」
  「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、その侵害の理由、根拠、侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。」

 (2) 経済活動の自由との比較(39頁以下)

  「本件ではこの根源的な権利(人格権)と原子力発電所の運転の利益の調整が問題となっている。」「原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。」

 (3) 被告(関西電力)の主張に対する判断(66頁)

 判決は、コスト論、及び、環境論(二酸化炭素排出の問題)に関する、被告関電の主張を容れなかった。

  1.   本件原発の稼動が電力供給の安定性、コストの低減につながる
      「当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。我が国における原子力発電への依存率等に照らすと、本件原発の稼動停止によって電力供給が停止し、これに伴なって人の生命、身体が危険にさらされるという因果の流れはこれを考慮する必要のない状況であるといえる。」
  2.   コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論がある
     「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」
  3.   原子力発電所の稼動がCO2(二酸化炭素)排出削減に資するもので環境面で優れている
     「原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。」

(4) 福井地裁判決が認定した原子力発電所の危険性

 判決は、以下の認定を行い、「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになった」(40頁)として、具体的危険性を肯定した。

  ア 原子力発電所の特性(43頁)

  「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため、運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ。このことは、他の技術の多くが運転の停止という単純な操作によって、その被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である。」

  イ 地震の危険性

 判決は、地震の危険性について、1260ガルを超える地震、700ガル(大飯周辺活断層より理論的に導かれるガル数)以上1260ガル未満、700ガル未満の地震に分けて検討し、いずれの場合も 「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価」した。

  「日本列島は太平洋プレート、オホーツクプレート、ユーラシアプレート及びフィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が狭い我が国の国土で発生するといわれている。」
  「この地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。」(59頁)

   (ア) 1260ガル以上の地震について

  「原子力発電所は地震による緊急停止後の冷却機能について外部からの交流電流によって水を循環させるという基本的なシステムをとっている。1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどない」

 (争いの無い事実)
 そして、日本における既往最大地震(岩手県内陸地震)が4022ガルであったこと、東北地方と大飯原発の位置する北陸地方ないし隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度において有意的な違いは認められない等の理由から、
  「大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能」、「1260ガルを超える地震は大飯原発に到来する危険がある」
 と認定した。

   (イ) 1260ガルを超えない地震についての判断

 判決は、700乃至1260ガルの地震について、地震に際しても炉心損傷を防ぐための対応策があるとする被告関電の主張を排斥し、具体的な危険性を認定した。

  「対応策をとるためにはいかなる事象が起きているのかを把握できていることが前提になるが、この把握自体が極めて困難である。」
  「一般的には事故が起きれば事故原因の解明、確定を行いその結果を踏まえて技術の安全性を高めていくという側面があるが、原子力発電技術においてはいったん大事故が起これば、その事故現場に立ち入ることができないため事故原因を確定できないままになってしまう可能性が極めて高く、福島原発事故においてもその原因を将来確定できるという保証はない。それと同様又はそれ以上に、原子力発電所における事故の進行中にいかなる箇所にどのような損傷が起きておりそれがいかなる事象をもたらしているのかを把握することは困難である。
  「実際に放射性物質が一部でも漏れればその場所には近寄ることさえできなくなる。」

   (ウ) 700ガル未満の地震について

 判決は、700ガル未満の地震についても、主給水喪失、外部電源喪失事象を原因とする冷却機能喪失から重大事故発生の可能性があると認定した。
 

   (エ) 基準地震動

 さらに、基準地震動についても、その数値自体は信頼性に欠ける上、基準地震動に至らない地震であっても施設損傷による炉心損傷に至る可能性があると認定した。

 (5) 閉じ込め機能(使用済み核燃料の危険性)に関する判断

 判決は、冷却剤喪失事故、電源喪失事故により、使用済み核燃料プールの維持が困難となり放射性物質が漏出する危険性があることを認定した

  「使用済み核燃料は、原子炉から取り出された後の核燃料であるが、なお崩壊熱を発し続けているので、水と電気で冷却を継続しなければならない」、「福島原発事故においては、4号機の使用済み核燃料プールに納められた使用済み核燃料が危機的状況に陥」った。
  「使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない」、「使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められてこそ初めて万全の措置をとられているということができる。」
  「本件原発には地震の際の冷やすという機能(地震の際の危険性)と閉じこめるという構造(使用済み核燃料の危険性)において欠陥がある。」
 「国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると、本件原発に係る安全技術及び設備は、万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち得る脆弱なものである」

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◆原告第4準備書面
第2 福井地裁判決の評価

原告第4準備書面
-平成26年5月12日福井地裁判決について- 目次

第2 福井地裁判決の評価

 福井地裁の採用した判断枠組みは、原告が訴状にて既に述べていることであり、本件においても同様の判断枠組みが採用されるべきである。
 上記、判断枠組みのもと、大飯原発の危険性(=万が一の危険)について審理されたい。
  この点、現行の新規制基準が原発の稼動基準であり、万が一の危険性の有無を審査するものでないことについては、田中俊一・原子力規制委員会委員長が福井地裁判決当日の平成26年5月21日の定例記者会見において、判決言い渡しの30分前から会見を始め、差し止めの判決が出た旨の知らせを受けると直ちに「いつも申し上げていることですけれども、司法の判断について、私の方から申し上げることはないということです。だから、大飯については、従来どおり、我々は我々の考え方での適合性審査をしていくということになろうかと思います。」(甲67p12)と述べていること、同氏が本年7月16日、九州電力川内原発の審査書案を了承した日の記者会見において、「原子力規制委員会の審査は安全審査ではなくて、基準の適合性の審査であり、基準の適合性は見ているが、安全だということは言わない」「基準をクリアしてもなお残るリスクというのは、現段階でリスクの低減化には努めてきたが、一般論として技術であるから、人事で全部尽くしている、対策も尽くしていることは言い切れない。自然災害についても重大事故対策についても、不確さが伴うので、基準に適合したからといって、ゼロリスクではない」と述べている(甲64)事からも明らかである。

  「改正原子炉規制法に基づく新規制基準が原子力発電所の安全性に関わる問題のうちいくつかを電力会社の自主的判断に委ねていたとしても、その事項についても裁判所の判断が及ぼされるべきであるし、新規制基準の対象となっている事項に関しても新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく、裁判所の判断が及ぼされるべき」
  「(福島原発事故のような)事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい

以上

◆裁判官の交代に伴う弁論の更新,福島敦子さん(福島県南相馬市からの避難者)

被災と避難の実態(原告 福島敦子)

水は清き故郷(ふるさと)でした。
命がけで川へ戻ってくる鮭の躍動が、こどもたちに感動を与えてくれる故郷(ふるさと)でした。
たらのめや栗や、まつたけが季節の移り変わりを教えてくれました。
今は、除染が全く進まず、人間の住む世界と隔絶された世界が広がる故郷(ふるさと)になりました。
今まで癒しと恵みをもたらしてくれた私たちの故郷(ふるさと)の山や海に、何百年も消えることのない毒をまかれたのです。

私は、福島県南相馬市より避難してきた福島敦子です。

福島第一原子力発電所の爆発当時は、川俣町そして、放射線量が最も高く示された福島市に避難しておりました。当時は、なぜ近距離の南相馬市より線量が高いのか解りませんでした。
一度戻ろうと思った南相馬市は13日には市の境に川俣町の警察署員などによりバリケードが張られ、入ることができなくなりました。

2011年3月13日の夜、福島市飯坂町の小さな市民ホールの避難所には、800人以上の人が押し寄せました。地震のたびに携帯電話を手にする人々、消灯後の部屋がぼんやり青白く光ると、夜中なのに大きな荷物をもってせわしなく足早に出入りする人々が寝ている子の頭を踏みそうになります。放射能が多く降り注いだとされる15日には、仮設トイレまで雪をかぶりながら入らなければなりませんでした。毎日毎日外で遊べない子供たち。ボランティアの人に風船をもらった娘たちは次々に飛び跳ねては上手にパスしあいます。足元には、体を横たえている大人が数人いました。わたしは、一番年長の娘に今すぐやめるよう強く言いました。辛抱強い娘はこどもたちにそれぞれ家族のもとへ戻るよう告げると、声を殺して泣きました。

明け方のトイレには、壁まで糞便を塗りつけた手のあと。苦しそうな模様に見えました。
食べるものなどほとんど売っていないスーパーに何時間も並び、列の横に貧血で倒れている老女がいました。インフルエンザが蔓延した近くの避難所では、風呂に入ることができないため、温泉街までペットボトルに温泉水を汲みに行き、湯たんぽの代わりにして暖をとる人がいました。
ガソリンを入れるのに長時間並び、ガソリンを消費して帰ってきました。より遠くへは避難できない人がたくさんいました。隣のスペースに、孫にかかえられて避難してきた年老いた人は、硬い床に座っていることがつらくて、物資の届かない南相馬市へ帰っていきました。テレビで次々に爆発していく福島第一原子力発電所の様(さま)を避難所の人たちが囲んで観ている。毎日が重く張り詰めた空気の中、死を覚悟した人も大勢いた避難所の生活は、忘れられません。

2011年4月2日、私は娘2人を連れ、京都府災害支援対策本部やたくさんの友人の力を借り、ごみ袋3つに衣服と貴重品をつめて、京都府へと3度目となる避難をしてまいりました。
その時に、貴重品以上に大切なものが私たちにはありました。『スクリーニング済証』というものです。

これを携帯しなければ、病院に入ることも避難所を移ることもできませんでした。私たちは、被ばくした人間として、移動を制限されていたからです。また、この証明書は、外部被ばくに限られた証明書であって、内部被ばくの状況は今もわかりません。今現在、誰もわかりません。これは、広島長崎の原爆被害、チェルノブイリの症状でも明らかなように、血を受け継いでいくものであり、永遠の苦しみとなることはゼロではないからです。

到着は夜でした。翌朝からは、京都府災害支援対策本部の方の案内で居住地を決めたり、娘2人の学校の手続きをしたりしました。2日後に、始業式がせまっていました。
40歳の2人の子を持つ女性として、就職活動も始めなければなりませんでした。時給800円の6ヶ月期限の事務の仕事にかろうじて就くことができました。

学校では、名前がふくしまということもあり、『フクシマゲンパツ』とあだ名をつけられたこともあった娘ですが、気遣ってくださる先生方、たくさんの気の合う友達に恵まれ、持ち前の明るさで乗り切りました。さよならを言う間もなくバラバラになってしまった南相馬市の友達には、避難所の様子や仮の校舎で学ぶ姿をテレビの報道で見つけては、元気をもらっているようでした。
私たちの暮らしは、その日その日を精一杯『生きる』ことで過ぎていきました。

あれから3年以上たった今、福島第一原子力発電所の状況は収束せず放射能が放出し続けています。なぜ事故が起こったのかの具体的な理由も責任も、誰一人問われることなく、ただ被災した人々は日々の生活に疲弊し、家族の崩壊と向かい合っていかなければならなくなりました。除染が進まない避難指示区域の解除をされても、家はすでにすさみ、なじみの店はありません。孤独死や、自殺する人を耳にすることが増えました。子供たちの声も聞かなくなりました。私たちが今、福島県へ帰ったとしても、元の街にはもう戻らないのです。

大飯原発の再稼働は、関西電力の経営努力の怠慢さも浮き彫りになり、地元の人々の不安と日本国民の原発に対する懸念の声を全く無視した人権侵害であり、日本最大級の公害問題であります。

司法は、この日本国民の大きな民意を水俣裁判と同様、50年以上も放置するおつもりでしょうか。この民意は、一過性のものだとお考えでしょうか。いったいどれほどの人々が苦しめば、真剣に向き合ってくださるのでしょうか。

本日、ここに私の実家の庭の土を持ってまいりました。子供のころにシャベルで穴を掘ったり、イチゴを摘んだり、母は長い年月をかけてコケを育て、灯篭の上にも珍しい種の苔が生える自慢の癒しの日本庭園でした。そのコケをはぎ、むき出しになったこの土を、京都・市民放射能測定所で測定したところ、放射性セシウム濃度は、1m2あたり93万ベクレルでした。チェルノブイリ被災者救済法では移住必要地域にあたるレベルです。ここが、チェルノブイリのある地域なら、母たちは移住しているはずであります。

裁判長、こどもを守ることに必死な、懸命な母親たちをどうか救ってください。
こどもたちに少しでも明るい未来をどうか託してあげてください。
私たち国民一人ひとりの切実な声に、どうか耳を傾けてください。
大飯原発の再稼働は、現在の日本では必要ないと断罪してください。
もう、私たち避難者のような体験をする人を万が一にも出してはいけないからです。
司法が健全であることを信じています。日本国民は、憲法により守られていることを信じています。

第4回/福島さん陳述書添付資料201405201013[483 KB]

◆裁判官の交代に伴う弁論の更新,竹本修三・原告団長

第1 原告団長 竹本修三(固体地球物理学、測地学 京都大学名誉教授)

地震国ニッポンで、原発稼働は無理!

1. 昨年7月2日にこのテーマで意見陳述をさせていただきましたが、担当裁判官が代わられたということですので同じテーマでお話をさせていただきます。

2. 地震は地球上のどこでもまんべんなく起こるのではなく、細いベルト状の地域、いわゆるプレート境界で起こっています。日本は4つのプレートの会合地点にあり、世界でも最も地殻活動が活発な地域の1つです。マグニチュード4以上の地震をプロットすると日本の島影は見えなくなってしまいます。世界地図の約0.25%という狭い範囲の日本で世界の地震の約20%が起こっているのです。この日本に50基もの原発が存在するということは異常です。

3. 日本は、海側のプレートである太平洋プレートとフィリピン海プレート、それに陸側のプレートのユーラシアプレートと北米プレートがせめぎ合って歪が蓄積しています。ここで起こる地震として、まず、太平洋岸の海と陸のプレート境界で起こる海溝型地震があります。これは海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいって、陸側プレートもそれにつられて沈み込みますが、やがてついていけなくなって反発したときにマグニチュード8以上の巨大地震が起きます。2011年に起きたマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震は、まだ記憶に新しいですね。次の海溝型巨大地震は2030年代の終わり頃に西日本の南海トラフ沿いで起こると予測されています。一方、内陸部及び日本海側では、プレート間の押し合いで溜まる歪が破壊限界に達すると割れて断層型の地震が起こります。この内陸部の断層型地震の最大のものは、1891年(明治24年)の濃尾地震で、マグニチュードは8.0でした。このような地震の痕跡は活断層として地表に残される場合があります。

4. 国土地理院が行っている測地測量は、現在ではGPSを用いた宇宙測地技術が主流ですが、明治以来の三角測量や水準測量による地上測地測量のデータが蓄えられています。これを用いて過去111年間、すなわち1883年から1994年までの地殻歪変化を示したのがこの図です。近畿地方では、東西方向に年間10のマイナス7乗程度の割合で歪が蓄積されています。10のマイナス7乗とは、100kmの距離が1cm変化するということです。地殻を構成する岩石に蓄えられる歪の限界は、10のマイナス4乗ですから、年間10のマイナス7乗の割合で1000年押していくと10のマイナス4乗になります。つまり、歪が逃げなければ、早くて1000年に1度、同じ場所で断層型の地震が発生することになります。

5. この図は、京都府の福知山と滋賀県の彦根のほぼ東西に100km離れた2つの電子基準点の間の距離変化を示したものであり、近畿北部の歪変化の特徴をほぼ表しています。2点間の距離が短くなれば、縮みの変化ですから図の下向き、距離が長くなれば伸びの変化で上向きになります。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震までは、ずっと年間1cm弱の割合で縮んでいました。1cm は100kmの7桁目ですから、年間10のマイナス7乗に近い割合で歪が溜まっていました。この傾向は測量データのある100年以上の間、一定でした。ところが3年前の東北の地震で、縮んでいたものが、一瞬、逆方向に伸びました。3年以上経った今でも、まだ地震前の状態に戻っていません。地震直前の状態に戻るのにはまだ1年以上かかります。「もうぼつぼつあぶないかな?」と思われていたところでも、東北の地震の影響で歪の蓄積が少しもとに戻りましたので、近畿北部の被害地震の執行猶予の期間が少し延びたと言えます。しかし、大きな歪が解消したわけではありませんので、要注意なことには変わりありません。

6. 中央防災会議防災対策推進検討会議のもとに設置された「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は南海トラフで巨大地震が起きたときの被害想定をやっていますが、左の図のハッチの範囲が一度に割れたとしても、右に示す地震動の震度分布を見ると、若狭湾周辺では震度5弱から4程度、大津波は日本海側に廻ってこないということで、原発への直接の影響は考えなくてもよいでしょう。しかしですね……

7. 南海トラフの巨大地震の前後に日本海側の地震活動は活発化します。1944年12月7日にマグニチュード7.9の東南海地震、1946年12月21日にマグニチュード 8.0の南海地震とこの地域で海溝型の大地震が相次いで発生しましたが、その約20年前に、北但馬地震、北丹後地震の直下型地震が起こり、東南海地震の1年前にはマグニチュード7.2の鳥取地震、南海地震の1年半後にはマグニチュード7.1の福井地震が起きています。次の南海トラフの巨大地震は2030年代の終わり頃と考えられていますので、もうぼつぼつ日本海側の地震活動が活発化することが懸念されます。

8. この図は「若狭湾周辺の主な断層の分布と地震」ですが、大飯原発の近くにも、F0-B、F0-Aという活断層が認められています。それはともかく、原子力規制委員会は大飯原発敷地内の重要施設の直下を通る「F-6破砕帯」が活断層であるかどうかに焦点を絞って検討をすすめ、「活断層ではない」との結論を出しました。

9. しかしこれも空しい議論です。つまり、
●活断層の認定は、専門家(と言われる人々)の間でも議論が分かれていて、そう簡単ではない。
●鳥取県西部地震(M7.3)や福岡県西方沖地震(M7.0 )のように、事前に活断層が見出されていないところでもM7クラスの地震が起きている。
●同じ活断層で地震が起きたとしても、前回の地震と全く同じ断層面で割れるとは限らない。断層面の傾きが数度違えば、地表に現れる断層は別のところに顔を出す。
ということです。

10. 同じ震源から破壊が進行しても、その時々の地殻の三次元的な応力状態により、圧縮軸の方向がわずかに違えば、地震断層は地表の別の場所に顔を出します。従って原発敷地内にある破砕帯が活断層かどうかと議論してもあまり意味はないと思います。

11. これは、2005年3月20日の福岡県西方沖地震ですが、近くの陸域には警固(けご)断層という活断層が認められていました。ところが、陸域の警固断層は動かずに、地震はその北西延長上の玄界灘の地震空白域で発生しました。この地震の余震域と陸域の警固断層が直線上にほぼ連続していることから、この地震の後、専門家は海域まで含めて一連の活断層帯であるとして、「これらをまとめて警固断層帯と呼びましょう」ということになりました。学問のレベルはこの程度なのです。

12. 「既存の活断層だけを問題視していては危険だ」という話をもう1つします。これは、兵庫県南部地震の三次元的な余震分布を示しますが。1995年1月17日の早朝に起こった本震は淡路島から神戸に至る50~60kmの領域が破壊してM7.3の地震が起きました。しかしこの地震の破壊域全体を覆う大きな活断層は事前には認知されていませんでした。

13. この地震までに認識されていた近畿およびその周辺の活断層を、大阪市大の藤田和夫先生の「アジアの変動帯」という本から引用して示します。近畿地方では山崎断層や三峠断層が注目されていて、六甲断層系と淡路島の断層系がいっしょに動いて大地震が起こるとは予想されていませんでした。
ところで、大飯原発から30km以内の海域にはF0-B、F0-A、F0-C断層、陸域には熊川断層、神林川断層などがありますが、関電はそれらの活断層が動いても原発は大丈夫と言っています。しかし、兵庫県南部地震のように離れた断層が連動して動いたり、福岡県西方沖地震のように既存の活断層の延長上に地震が起こったりすることもあるのです。関電はこういうことも想定しているのでしょうか?

14. 近畿地方は早い段階から京大防災研などによって微小地震観測網が整備され、微小地震の活動が調べられていました。そのデータに基づき、兵庫県南部地震が起こる前の10年間の微小地震活動図を示します。この図を見て、「兵庫県南部地震が起こった淡路島から神戸が危ないよ」と言える人はいないと思います。専門家はむしろ山崎断層系が危ないと思っておりました。ですから地震活動を詳しくモニターしていても、次はどこがいつ頃危ないとはとても言えないのが現状です。

15. 関電は今年の5月9日に大飯原発の「基準地震動」を昨年7月の申請時の700ガルから856ガルに見直したと発表しました。昨年7月の申請が「700ガル」とドンぶり勘定なのに今回は「856ガル」と3桁の数値を示して、いかにも厳密な検討をしましたと見せようとしているのも胡散(うんさ)臭いですね。3桁目なんて、ほとんど本質的な意味はありません。ここに出てくるガルとは重力加速度の単位で、モノを落とせば地球の重力にひっぱられてモノは下に落ちますね。この重力の加速度は地球表面で980ガル、ざっと1000ガルと考えればよいです。われわれはこの重力加速度で地球にひっぱられていますから、空中に浮かばずに地面に立っていられます。激しい地震動でモノが揺さぶられてその振動の加速度が1000ガルを超えればモノは跳び上がります。700ガルから856ガルへの変更で、大分お金も時間も使うのだから、これで十分だろうと言うことらしいですが、勝手な論理だと思います。

16. これに関連して最後に1つ、「直下型地震で埋まっていた石が跳んだ」という話をしておきます。京大防災研の黒磯さんらが見つけたのですが、マグニチュード 6.8の1984年長野県西部地震のときに、1km×3kmという狭い範囲ではありますが、埋まっていた石が跳びました。単に置いてある石なら、地球の重力加速度:980ガルを超える地震動の加速度が働けば、浮きます。しかし、埋まった石が跳ぶためには、もっとずっと大きな加速度が働かなければなりません。黒磯さんらの計算と実験の結果では、この埋まっている石がとび出すためには15000ガル以上の加速度が働かなければならない、ということです。実に、地球の重力加速度の15倍です。非常に局所的ではあるけれども、マグニチュード 6.8の地震でこんな大きな加速度が働いた例があるのだから、関電が「基準地震動」を700ガルから856ガルに見直したと聞いても、それで安全だと言ってもらっては困るというのが私の意見です。15000ガルの加速度に耐えうる設備を作るのは技術的にも経費の面からも不可能でしょう。関電はただちに廃炉に踏み切るべきです。

17. 関電の初代社長の太田垣士郎(おおたがき・しろう)さんは、戦後の電力不足事情をいち早く見抜き、大規模な水力発電所の建設に踏み切り、難工事の末、黒部川第四発電所いわゆるクロヨンダムを完成させたサムライです。後任の芦原義重(あしはら・よししげ)さんは、水力発電の開発はもう限界である。資源の乏しい我が国では、火力発電より原発に頼るべきだ、ということで、原発の推進に踏みだしました。当時、使用済み核燃料などの未解決の問題がありましたが、やっているうちに、2~30年もすれば、科学技術の進歩でこれらの問題はすべて解決するはずだと言ってました。太田垣社長は経済学部出身ですが、芦原社長は工学部出身ですから、科学技術の発展を信じていたのだろうと思います。

そして40年以上経って、使用済の放射性廃棄物をどう処分するか、いまだに解決していません。残念ながら、私が関係してきた地震予知もいまだにできていません。そして2011年3月の東北地方太平洋沖地震と福島原発の事故です。ハイテクの粋を集めたはずの原発ですが、それを扱うのは人間です。立っていられないほどの激しい地震動に襲われたときなど、人間は訓練時のように冷静に対応できず、操作ミスをしてしまうことは、「フクイチ」の事故調査報告書を読んでも明らかかです。今の関電社長の八木誠さんにお願いしたいことは、40年以上経っても使用済の放射性廃棄物の処分方法がきまらないことや、福島第一原発の事故は、震災・津波・人災の複合災で、地震国ニッポンにおいては、この事故が特殊なケースでなく、どの原発も同じような危険性を孕んでいることをしっかり認識していただき、歴代社長のように長期的視野に立って、子や孫の代に負債を残さないために、脱原発に向って進んでいただきたいと考えます。

◆第3回口頭弁論 原告提出の書証

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。

証拠説明書 甲第59号証[51 KB](原告第1準備書面関連 追加)
2014年2月19日

  • 甲第59号証
    参考人深野弘(保安院長)に対する質疑応答の録画画像(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)

証拠説明書 甲第60号証[56 KB](原告第3準備書面関連 追加)
2014年4月23日

  • 甲第60号証
    調査報告チェルノブイリ被害の全貌((監訳者)星川淳(訳者)チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム)