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◆京都府下の避難計画の非現実性

私たち原告の主張:ハイライト
2020/9/8 の第26回口頭弁論=裁判長の交代にともなう弁論更新の要旨「第3 6 京都府下の避難計画の非現実性」より…こちら

◆2018年3月に大飯原発3号機、5月には4号機がそれぞれ再稼働しました。再稼働に先立つ2017年10月、広域避難計画である「大飯地域の緊急時対応」が取りまとめられました。この問題点については、すでに原告第27、48準備書面などですでに主張したとおりですが、更新にあたり、改めてその問題点について申し上げます。

◆なお、この計画は本年7月に一部改定されています。この改定内容の問題点は改めて準備書面で主張いたしますが、基本的な問題点については何ら解決していません。むしろ新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、より問題は深刻となっていると言わざるを得ず、到底、住民の安全を守れるものではありません。

◆そもそも、この避難計画は、原発から5キロ圏内をPAZ、約30キロ圏内をUPZと定め、その範囲に含まれる自治体、その中に居住する住民のみが対象とされています。

◆しかしながら、そもそも原発で重大事故が発生し、放射性物質が放出された場合、その被害は、決して同心円状に広がるものでもなければ、ましてや30キロメートルの範囲にとどまるようなものではありません。このことは、福島第一原発事故の被害状況を見れば明らかです。このこと一つをとっても、この避難計画が住民の健康や安全を守ることのできないものだと言わなければなりません。

◆避難計画では、大飯原発で重大事故が発生した場合、UPZ圏内の住民に対しては、避難指示が出るまでの間、屋内退避が指示されます。しかしながら、原発が損傷するほどの大きな地震が起き、目の前で原発事故が進行している場面で、住民に対して屋内退避をさせ続けることが現実問題できるのでしょうか。福島第一原発事故の際も、事故が報じられた後、多くの住民が自家用車で避難を開始しています。原発事故、そして放射性物質による被害を考えれば当然です。屋内退避指示は、放射性物質が来るのを家の中で待てというようなものです。

◆そして、本年の改定で、「屋内退避を行う場合には、放射性物質による被ばくを避けることを優先して屋内退避を実施し、換気については、屋内退避の指示が出されている間は原則行わない」とされました。これは言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染防止との関係です。感染対策において、政府はあれだけ「換気」を強調しながら、屋内退避の場面では換気はできないのです。このことは、新型コロナウイルスの感染防止と原発再稼働との間に深刻な矛盾を抱えていることを端的に示しています。

◆次に、避難指示が出された場合、対象となる住民は指定された避難先へバス等で避難することになります。ここでも新型コロナウイルスの感染防止との矛盾に直面します。もともとの計画は「バス1台当たり45人程度の乗車を想定」していました。満員のバスです。しかしながら感染症が流行しているときには「バス等で避難する際は、密集を避け、極力分散して避難」するものとされ、そのために「マスクを着用し、座席を十分離して着席する。追加車両の準備やピストン輸送等を実施する。」とされています。

◆もともとの計画が策定された時点で、京都府北部だけでは想定されるバスの必要台数を確保することができない。京都市内や京都府南部から原発事故の起こっている京都府北部に向けてバスを移動させなければならないという問題が指摘されていました。感染予防のため、さらにバスの台数が必要になるというのであれば、バスの台数は確保できるのでしょうか。そして、間隔を取り、感染予防対策を実施しながら避難するためには一体どれだけのバスの台数が必要になるのか、具体的な想定はなされていません。また、「感染者とは、別々の車両で避難」するともされていますが、その「別々の車両」の確保についても、具体的な手当てはされていません。

◆この避難計画においては、半島や沿岸部については船による海上を通じての避難が計画されています。舞鶴市大浦半島では、成生漁港、田井漁港等が利用する港の例として挙げられています。ここで例に挙げられている成生漁港は、2016年8月に実施された広域避難訓練において、船舶による避難訓練が予定されていながら、実際は訓練が行えなかった港です。海上保安庁の船舶による避難が計画されていながら、海上保安庁の船舶は、その大きさの関係で入港することができず、関西電力がチャーターした観光船も、悪天候により船を出すことができなかったのです。そして、この天候条件からすると、1年のうち約半分の期間は避難を行うことができないとも指摘されています。現に行われた避難訓練で具体的な問題点が指摘されたにもかかわらず、その点に応えられていない、まさに机上の避難計画だと言わざるを得ません。

◆この避難計画では、広域避難を行う場合の、避難先への移動経路が設定されています。しかしながら、国道27号線や舞鶴若狭自動車道、京都縦貫自動車道など、主要な道路が地震などで寸断された場合、その避難は極めて困難になります。

◆そして、道路が使用できなくなる状況は、決して地震に限りません。京都府北部では、冬は雪の問題もあります。2018年2月、福井県内で大規模な雪害が発生し、北陸自動車道は通行止め、国道8号線など主要国道も長時間にわたって通行できない状況となりました。国や各自治体、高速道路会社が持つ除雪能力を超えて雪が降ったのです。この点について、本年改定では「情報連絡本部を各府県の国道事務所に設置、対応」すると改定されました。しかしながら、そこで行うのはあくまで「調整」に過ぎず、そもそも除雪能力が拡充されなければ意味がありません。避難計画が、国や自治体、高速道路会社の除雪能力任せにしているのは極めて無責任な対応です。

◆原発において過酷事故が発生した場合、すべての住民を安全に避難させるなどということは到底困難なことであって、このような無理のある避難計画を策定しなければならないところに最大の問題があります。原発を稼働させず、速やかに廃炉にしていくことこそが住民の安全を確保する唯一の道です。大飯原発を含めあらゆる原発の運転をただちに中止することを求めます。

◆口頭弁論(2020/9/8更新弁論)弁論要旨 全体

2020年9月8日

はじめに

 本日の更新弁論は、原告らが本訴訟において特に強調している三つの柱に基づいて行います。三つの柱とは、巨大地震発生の現実的危険性、大飯原発敷地の地盤の脆弱性、住民の避難計画の不備と避難の困難性の三つです。
 今日は、第一の柱について、原告団長の京都大学名誉教授の竹本修三氏にお話を頂きます。次に第2の点について、弁護団が弁論を行います。そして、第3の点について、原告の福島敦子氏にお話を頂き、また、弁護団が弁論を行います。

第1 巨大地震発生の現実的危険性
 別紙スライド参照。

第2 地盤特性についての原告ら主張の要旨
 大飯原発では、基準地震動【注1】(856ガル)超えの地震が起き、過酷事故が発生する危険があります。

【注1】地震動とは、特定の地点における地盤の揺れのことで、単位はガル(1cms²)である。基準地震動とは、原子力発電所毎に定められている耐震設計基準である。

 過去わが国では、何度も、基準地震動超えの地震が起きています【注2】。

【注2】平成17年8月16日宮城県沖地震女川原発、平成19年3月25日能登半島地震志賀原発、平成19年7月16日新潟県中越沖地震柏崎刈羽原発、平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震福島第一原発、平成23年3月11日同上女川原発

 それは、基準地震動が過去の多数の地震の平均像をもとに策定されているからです。
 過去に基準地震動超えの地震が繰り返し起きていることと、基準地震動が平均像をもとに策定されている事実に、争いはありません。
 しかし、関電は、基準地震動超えの地震は起きないと主張しています。
 関電は、それを地域特性で説明しています。大飯原発の地盤には均質で堅硬な岩盤が広く分布している、地下に特異な構造は認められない、だから平均像を超える地震動は起きないのだと。
 このように、地域特性は関電の主張の柱に位置付けられています。本当に関電が言うとおりの地盤特性が認められるのか、本件で重要な争点となっています。
 関電は、地盤特性に関して関電自身が行った調査結果を規制委員会に報告しています。そのいくつかから明らかになった事実を紹介します【注3】。

【注3】地震動の振幅は、震動の伝わる速さ(すなわち、伝播速度)の速いところでは小さく顕われ、遅いところで大きく顕われる。そこで、地下構造の調査では、伝播速度を明らかにすることが重要になる。尚、地震動には、S波とP波がある。S波は進行方向に垂直に振動する波動であり、大きな揺れを起こす。P波は進行方向に平行に振動する波動であり、粗密波とも呼ばれる。

 尚、ここでは地域特性のうち地盤特性についてだけ触れます【注4】。

【注4】地域特性には、震源特性、伝播特性そして地盤特性(サイト特性)がある。

 【試掘坑弾性波探査】は、原子炉敷地に横穴(試掘坑)を掘り、その中に適当な間隔で地震計を置き、別の場所で人為的に震動を起こして、伝播速度を測定する方法です。地震計を震計を置き、別の場所で人為的に震動を起こして、伝播速度を測定する方法です。地震計を並べた横穴から離れた位置で震動を与える方法は、特にその形状からファン・シューティン並べた横穴から離れた位置で震動を与える方法は、特にその形状からファン・シューティングと呼ばれています。
 被告関電は、試掘坑弾性波探査調査結果から「解放基盤【注5】のS波速度を2.2km/s」」と説明しています。

【注5】解放基盤面とは、大飯サイトの場合、基準地震動が策定される所である。(原定義を基準地震動から見ての説明)

 しかし、正確に集計すると、S波速度は2.2km/sを下回っており【注6】、過大な速度を報告し、過大な速度を報告しています。また敷地の西側から東側に向けて速度が大きく低下し、地盤を通る破砕帯部分でています。また敷地の西側から東側に向けて速度が大きく低下し、地盤を通る破砕帯部分で速度が急変し、低下していました。速度が急変し、低下していました。

【注6】全体では全体では (2.1±0.3)km/s、
4号炉近傍では、 (2.2±0.3)km/s、
3号炉近傍では、 (2.0±0.4)km/s。

 堅硬な岩盤が広く存在しているとも、特異な構造が認められないとも言えないことが明らかになりました。


 【反射法地震探査】は、地表の探査測線上に密な間隔で多数の地震計を設置し、探査測線に沿って震源車が一定の間隔で人為的に振動を起こして、その地震波が地下の地層や断層に沿って震源車が一定の間隔で人為的に振動を起こして、その地震波が地下の地層や断層によって反射してくる反射波を測定して地下構造を探査します。

 これは反射法地震探査の結果を図化したものですが、関電は、特異な構造は認められないと説明しています。

 しかし、元物理探査学会長の芦田譲京大名誉教授は、典型的な回析波が認められるとコメントしており、特異な構造が認められないとは言えないことが明らかとなりました。
 反射法地震探査は、石油探査のために開発活用され、医療分野で超音波エコー検査として応用されています。当初は2次元でしたが、1990年代には3次元探査に発展し、コストはかかりますが情報量が膨大で高精度なため地盤構造を正確に把握するため広く利用されています。以下の図は、3次元反射法地震探査による3D表示の例です。新規制基準は「最先端の調査手法」を用いるべきで、「地下構造が成層かつ均質」でない場合は「三次元」探査が適切だと定めています。
 しかし関電は三次元探査を行わずに、特異な構造は認められないと主張しています。

(▼海洋探査の例)

(▼地上探査の例)3次元探査結果

(▼地上探査の例)任意方向震度断面

 【微動アレイ観測・地震干渉法】はいずれも、地面の微動を常時観測し、その微動から周期毎の速度(位相速度)を求め、そこから地下構造(速度構期毎の速度(位相速度)を求め、そこから地下構造(速度構造)を「推定」する方法です。
 政府地震調査推進本部HPによると、この方法は、簡単かつ経済的だが、「推定」にとどまり、地盤構造の詳細までを把握できないと指摘しています。より詳しい把握には、人為的に振動を起こしてする地震波伝播速度等の調査を併せて行うことが望ましとされています。
 関電は、この微動アレイ・地震干渉法の調査結果から、本件原子炉建屋は堅硬な岩盤(Vp=p=4.64.6KKm/sm/s、、Vs=2.2Km/sVs=2.2Km/s)の上に設置されている、地下に特異な構造は認められないと)の上に設置されている、地下に特異な構造は認められないとの関電モデルを主張しています。
 しかし、この関電モデルは恣意的な解析操作によって得られたものです。
 何より関電モデルは、地震本部が併せて調査すべきと指摘している、試掘抗弾性波探査や反射法地震探査の結果に矛盾していますが、関電はその矛盾に口をつぐんでいるのです。

 以上、地盤は均質で堅硬な岩盤が広く分布しているとも、地下に特異な構造は認められないとも言えず、平均像を超える地震動が起きないとは到底言えないのです。

第3 避難計画の不備と実際の避難困難性避難計画の不備と実際の避難困難性

2 避難計画の不備避難計画の不備に関する主張の位置づけに関する主張の位置づけ

 被告らの主張は、それ自体立証されていませんが、要は現在の科学的知見に基づいて過酷事故に至る可能性が十分に低い、というもののように思われます。しかし、この考え方自体が、我々が有する現在の科学的知見を過信するものであり、また一方では、過酷事故が生じたときには「現在の知見に基づいて想定外であった」という弁解を許す構造を持っています。福島第一原発事故の際に、事前には重大な事故は起こりえないとされ、事後には一部の科学者や政府が「想定外」を繰り返したことは何度でも思い起こされなければなりません。
 この点、世界的には「深層防護」「多重防護」の考え方が最も重要な指導理念とされてきました。原告ら第1準備書面、第5準備書面18頁でこのことを書いています。具体的には、第1防護レベルが「通常運転からの逸脱の防止」、第2防護レベルが「異常事象の検知・事故への発展の防止」、第3防護レベルが「設計基準事故の影響緩和」、第4防護レベルが「過酷事故への対応」、第5防護レベルが「事故に起因する放射性物質の放出への対応」です。米国の場合、さらに第6層で「立地」を考慮します。深層防護の考え方では、①「階層間の独立」と②「前段否定の論理」が充たされなくてはならないとされます。原発における過酷事故対策とは全く独立して、最大限の事故を想定して、住民の人権が保障されなければならないのです。
 日本のいわゆる新規制基準は、この深層防護という考え方自体が非常に不徹底であり、それ自体が大きな問題ですが、第5層について避難計画の整備や実効性は規制基準に取り入れてすらおらず、これ自体が規制基準の大きな不備です。原告らは第6準備書面でさらにこの点を詳述し、また、大飯原発で過酷事故が生じた場合にどのように放射性物質が放出されるのか、どのような被害をもたらすのかを述べています。なお、水道に関して言えば、琵琶湖が放射性物質で汚染されたときにもっとも被害を受けるのは、滋賀県民ではなく、琵琶湖疏水を大半の上水道の水源にしている京都市民であることも述べています。

3 福島第一原発事故における避難の困難性

 大量の放射性物質の放出を前提にした場合、どのように避難がなされ、その過程で人々の健康や命がどうなるのか。福島第一原発事故について、原告第53準備書面で詳しく検討しました。県別の震災関連死の数は、2017(平成29年9月30日の段階では、岩手県464名、宮城県926名、福島県2202名で、2202名のうち1984名が65歳以上の高齢者であった。震災とは別に福島第一原発の事故が起きた福島県だけ、人口比での震災関連死が多く、かつ、事故から6年経った段階でも震災関連死の伸びが続いているのであり、福島県では「原発事故関連死」という呼び方をするのです。具体的に見ても、地震後にがれきの下で助けを求めているのに、避難指示が出て救助を諦めた事例が報道されており、施設に入所していた高齢者が事故直後の混乱の中や、避難中に衰弱死した例が多数ありました。酷いものでは、事故後の混乱の中で、双葉病院の施設外に迷い出たまま行方が分からなくなった方すらいました。
 また、地震とは関係なく同時に発生しえる台風等の被害によって、避難が困難になる実態があることを第49準備書面で指摘しました。

4 逃げられない私たち

 原告らは、福島第一原発事故の実態も踏まえた上で、実際に過酷事故が起きた場合に、自分たちが避難困難であることを口々に述べています。
 京都市左京区久多(第19)、京都府南丹市美山町芦生(第68)など、大飯原発にもほど近い限界集落の住民が、逃げようにも逃げられない実情を訴えています。これらの限界集地震によるただでさえ幅の狭い道路の寸断や、豪雨や土砂崩れによる寸断、豪雪より道が閉ざされる事態になったときに、避難が事実上不可能であることは明らかです。
 両下肢機能障害を有する京都市左京区在住の原告(第41)が、避難所にたどり着けないこと、避難所が障害者に対応していないこと、障害者が避難すべき避難所が整備されていないこと、周りに迷惑を掛ける心理的抵抗など多くの理由で避難困難であることを訴えました。この点、障害者に限らず、避難所で発生する人権侵害的な過酷な状況は第45準備書面で述べました。また、多数の入院患者がいる丹後ふるさと病院の事務長(第57)が、多数の高齢者の患者を移動させること事態の困難性や、受け入れ先がないこと、家族も高齢化して助けに来られないこと等からの避難困難性を訴えました。
 また、京都府北部地域の舞鶴市や京丹後市の学校の先生が、避難した生徒たちのストレスの大きさや、保護者への児童生徒の引き渡しができないこと、また引き渡しが完了しない限り自分たちが避難できないことからの避難困難性を訴えました(第66)。
 今現在、障害を持たない住民であっても、京都府南部の住民ですら、実際に過酷事故が起
これば避難困難になることを次々に述べました(第30、第59、第63)。

5 行政の避難計画の不備

 また、原告らは、このような原告らの実情も前提にしながら、行政が策定した避難計画の問題点についても、舞鶴市(第8、第17、第50)、綾部市(第22)、南丹市(第25)、宮津市(第28)、京都市(第36)など自治体ごとのものや、これらをとりまとめた大飯原発に関する避難計画全体(第48)について問題点を指摘しています。
 その上で、実際に行われた広域避難訓練の問題点も指摘していますが、この点は代理人を交代します。

6 京都府下の避難計画の非現実性

 2018年3月に大飯原発3号機、5月には4号機がそれぞれ再稼働しました。再稼働に先立つ2017年10月、広域避難計画である「大飯地域の緊急時対応」が取りまとめられました。この問題点については、すでに原告第27、48準備書面などですでに主張したとおりですが、更新にあたり、改めてその問題点について申し上げます。なお、この計画は本年7月に一部改定されています。この改定内容の問題点は改めて準備書面で主張いたしますが、基本的な問題点については何ら解決していません。むしろ新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、より問題は深刻となっていると言わざるを得ず、到底、住民の安全を守れるものではありません。

 そもそも、この避難計画は、原発から5キロ圏内をPAZ、約30キロ圏内をUPZと定め、その範囲に含まれる自治体、その中に居住する住民のみが対象とされています。
 しかしながら、そもそも原発で重大事故が発生し、放射性物質が放出された場合、その被害は、決して同心円状に広がるものでもなければ、ましてや30キロメートルの範囲にとどまるようなものではありません。このことは、福島第一原発事故の被害状況を見れば明らかです。このこと一つをとっても、この避難計画が住民の健康や安全を守ることのできないものだと言わなければなりません。

 避難計画では、大飯原発で重大事故が発生した場合、UPZ圏内の住民に対しては、避難指示が出るまでの間、屋内退避が指示されます。しかしながら、原発が損傷するほどの大きな地震が起き、目の前で原発事故が進行している場面で、住民に対して屋内退避をさせ続けることが現実問題できるのでしょうか。福島第一原発事故の際も、事故が報じられた後、多くの住民が自家用車で避難を開始しています。原発事故、そして放射性物質による被害を考えれば当然です。屋内退避指示は、放射性物質が来るのを家の中で待てというようなものです。
 そして、本年の改定で、「屋内退避を行う場合には、放射性物質による被ばくを避けることを優先して屋内退避を実施し、換気については、屋内退避の指示が出されている間は原則行わない」とされました。これは言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染防止との関係です。感染対策において、政府はあれだけ「換気」を強調しながら、屋内退避の場面では換気はできないのです。このことは、新型コロナウイルスの感染防止と原発再稼働との間に深刻な矛盾を抱えていることを端的に示しています。

 次に、避難指示が出された場合、対象となる住民は指定された避難先へバス等で避難することになります。ここでも新型コロナウイルスの感染防止との矛盾に直面します。もともとの計画は「バス1台当たり45人程度の乗車を想定」していました。満員のバスです。しかしながら感染症が流行しているときには「バス等で避難する際は、密集を避け、極力分散して避難」するものとされ、そのために「マスクを着用し、座席を十分離して着席する。追加車両の準備やピストン輸送等を実施する。」とされています。
 もともとの計画が策定された時点で、京都府北部だけでは想定されるバスの必要台数を確保することができない。京都市内や京都府南部から原発事故の起こっている京都府北部に向けてバスを移動させなければならないという問題が指摘されていました。感染予防のため、さらにバスの台数が必要になるというのであれば、バスの台数は確保できるのでしょうか。そして、間隔を取り、感染予防対策を実施しながら避難するためには一体どれだけのバスの台数が必要になるのか、具体的な想定はなされていません。また、「感染者とは、別々の車両で避難」するともされていますが、その「別々の車両」の確保についても、具体的な手当てはされていません。

 この避難計画においては、半島や沿岸部については船による海上を通じての避難が計画されています。舞鶴市大浦半島では、成生漁港、田井漁港等が利用する港の例として挙げられています。ここで例に挙げられている成生漁港は、2016年8月に実施された広域避難訓練において、船舶による避難訓練が予定されていながら、実際は訓練が行えなかった港です。海上保安庁の船舶による避難が計画されていながら、海上保安庁の船舶は、その大きさの関係で入港することができず、関西電力がチャーターした観光船も、悪天候により船を出すことができなかったのです。そして、この天候条件からすると、1年のうち約半分の期間は避難を行うことができないとも指摘されています。現に行われた避難訓練で具体的な問題点が指摘されたにもかかわらず、その点に応えられていない、まさに机上の避難計画だと言わざるを得ません。

 この避難計画では、広域避難を行う場合の、避難先への移動経路が設定されています。しかしながら、国道27号線や舞鶴若狭自動車道、京都縦貫自動車道など、主要な道路が地震などで寸断された場合、その避難は極めて困難になります。
 そして、道路が使用できなくなる状況は、決して地震に限りません。京都府北部では、冬は雪の問題もあります。2018年2月、福井県内で大規模な雪害が発生し、北陸自動車道は通行止め、国道8号線など主要国道も長時間にわたって通行できない状況となりました。国や各自治体、高速道路会社が持つ除雪能力を超えて雪が降ったのです。この点について、本年改定では「情報連絡本部を各府県の国道事務所に設置、対応」すると改定されました。しかしながら、そこで行うのはあくまで「調整」に過ぎず、そもそも除雪能力が拡充されなければ意味がありません。避難計画が、国や自治体、高速道路会社の除雪能力任せにしているのは極めて無責任な対応です。
 原発において過酷事故が発生した場合、すべての住民を安全に避難させるなどということは到底困難なことであって、このような無理のある避難計画を策定しなければならないところに最大の問題があります。原発を稼働させず、速やかに廃炉にしていくことこそが住民の安全を確保する唯一の道です。大飯原発を含めあらゆる原発の運転をただちに中止することを求めます。

以 上

◆口頭弁論(2020/9/8更新弁論)弁論要旨 原告 福島 敦子の意見陳述

2020年9月2日

 水は清き故郷(ふるさと)でした。
命がけで川へ戻ってくる鮭の躍動が、子どもたちに感動を与えてくれる故郷(ふるさと)でした。
北寄貝やいのはな、栗やまつたけ料理が季節の移り変わりを教えてくれました。
今は、除染をしても原状回復には至らず、「経済優先の復興、復興、復興」の故郷(ふるさと)になりました。
今まで癒しと恵みをもたらしてくれた私たちの故郷(ふるさと)の山や海に、何百年も消えることのない毒をまかれたのです。

 私は、福島県南相馬市より避難してきた福島敦子です。
福島第一原子力発電所の爆発当時は、川俣町そして、放射線量が最も高く示された福島市に避難しておりました。当時は、なぜ近距離の南相馬市より線量が高いのか解りませんでした。
一度戻ろうと思った南相馬市は13日には市の境に川俣町の警察署員などによりバリケードが張られ、入ることができなくなりました。
 2011年3月13日の夜、福島市飯坂町の小さな市民ホールの避難所には、800人以上の人が押し寄せました。地震のたびに携帯電話を手にする人々、消灯後の部屋がぼんやり青白く光り、夜中なのに大きな荷物をもってせわしなく足早に出入りする人々が寝ている子らの頭を踏みそうになります。放射能が多く降り注いだとされる15日には、仮設トイレまで雪が降る中、外に出て歩いていかなければなりませんでした。避難してからずっと外で遊べない子どもたち。ボランティアの人に風船をもらった娘たちは次々に飛び跳ねては上手にパスしあいます。足元には、心身ともに衰弱し体を横たえている大人が数人いました。わたしは、一番年長の娘に今すぐやめるよう強く言いました。辛抱強い娘はこどもたちにそれぞれ家族のもとへ戻るよう告げると、一人声を殺して泣きました。
 明け方のトイレには、壁まで糞便を塗りつけた手のあと。苦しそうな模様に見えました。
食べるものなどほとんど売っていないスーパーに何時間も並び買うものを選び、またレジ列に並びます。長い列の横に貧血で倒れている老女がいました。インフルエンザが蔓延した近くの避難所では、風呂に入ることができないため、温泉街までペットボトルに温泉水を汲みに行き、湯たんぽ代わりに暖を取る人がいました。
 ガソリンを入れるのに長時間並び、ガソリンを消費して帰ってきました。そのためより遠くへは避難できない人がたくさんいました。隣のスペースに、孫にかかえられて避難してきた年老いた人は、硬い床に座っていることがつらく、物資の届かない南相馬市へ帰っていきました。テレビで次々に爆発していく福島第一原子力発電所の様(さま)を避難所の人たちが囲んで観ている。毎日が重く張り詰めた空気の中、死を覚悟した人も大勢いた避難所の生活は、忘れられません。

 2011年4月22日、私は娘2人を連れ、京都府災害支援対策本部やたくさんの友人の力を借り、ごみ袋3つに衣服と貴重品をつめて、京都府へと3度目となる避難をしました。
その時に、貴重品以上に大切なものが私たちにはありました。『スクリーニング済証』というものです。
これを携帯しなければ、病院に入ることも避難所を移ることもできませんでした。私たちは、被ばくした人間として、移動を制限されていたからです。また、この証明書は、外部被ばくに限られた証明書であって、内部被ばくの状況は今もわかりませんが「黒い雨裁判」判決で認められ、広島長崎の原爆被害、チェルノブイリの症状でも明らかなように、血を受け継いでいくものであり、永遠の苦しみとなるものです。病気などほとんどしたことがない父(74歳)が、がんに冒され全身転移し入院し、亡くなりました。私の周りでも避難者含め命短くこの世を去る人がいる事は決して放射線の被ばくと無縁ではないと肌で感じじていています。
 京都へ避難してきてからは、居住地を決めたり、2日後に始業式がせまっている娘2人の学校の手続きをしたりしました。40歳の2人の子を持つ女性として、就職活動も始め自立することは大きな課題でしたが時給800円の6ヶ月期限の事務の仕事にかろうじて就くことができました。
学校では名前がふくしまということもあり、下の娘が『フクシマゲンパツ』『フクシマゲンパツ』とあだ名をつけられたこともありました。
 原発賠償京都訴訟の原告である子どもたちの心の調査をした結果、原発事故から陳述書作成までの間に80%の子どもに何らかの身体的異変があったこと、そしてそのうち「放射能の影響が考えられる症状の発症」が過半数の65%を占めていることがわかりました。
 事故から数年後の私の実家の庭の土を京都・市民放射能測定所で測定したところ、放射性セシウム濃度は、1平方mあたり93万ベクレルでした。子どものころにシャベルで穴を掘ったり、イチゴを摘んだり、母は長い年月をかけてコケを育てたりする自慢の癒しの日本庭園の土です。そのコケをはぎ、むき出しになったこの土、チェルノブイリ被災者救済法では移住必要地域にあたるレベルです。私の実家がある土地は移住すべきレベルなのです。
 私たちの暮らしは、その日その日を精一杯『生きる』ことで過ぎていきましたがもう10年。福島第一原子力発電所の原子力発電所の状況は収束せず放射能が放出し続けています。なぜ事故が起こったのかの具体的な理由も責任すら誰一人問われることなく、ただ被災した人々は日々の生活に疲弊し家族がどんどん崩壊し、避難者は避難者用住宅を追い出され避難先のコミュニティすら破壊され情報がほとんど報道されないこの世の中にあって人々は孤独に追いやられ経済的にも苦しくなりました。「原発事故はなかったこと」のように口にする人も減りました。除染をしても原状回復しない避難指示区域を次々に解除し生活インフラを整備したとしてももう元の町は戻りません。孤独死や、自殺する人を耳にすることが増えました。

 大飯原発の再稼働は、関西電力の経営努力の怠慢さ、原発マネーと呼ばれる原発稼働のための「悪質な慣習」も浮き彫りになり、地元の人々の不安と日本国民の原発に対する懸念の声、憲法を全く無視した人権侵害であり、日本最大級の公害問題であります。
 司法が、この日本国民の大きな民意を水俣裁判など多くの公害訴訟のように半世紀以上放置していることは許されません。真剣に向き合ってください。
 裁判長、こどもを守ることに必死な、懸命な母親たちをどうか救ってください。
 こどもたちに少しでも明るい未来をどうか託してあげてください。
 私たち国民一人ひとりの切実な声に、どうか耳を傾けてください。
 大飯原発の再稼働は、現在の日本では必要ないと断罪してください。
もう、私たち避難者のような体験をする人を万が一にも出してはいけないからです。
司法が健全であることを信じています。日本国民は、憲法により守られていることを信じています。

◆原告第74準備書面 - 避難 困難性の敷衍( 原告福島敦子の個別事情について)-

 原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では、福島から京都府京都市に移住した原告福島敦子の個別事情をもとに、避難困難性について述べる。

1 原告福島敦子について

 原告福島敦子は、福島第一原子力発電所の爆発後、川俣町、福島市に避難し、その後、京都市に避難してきたものである。

2 原告福島敦子の故郷について

 原告福島敦子の故郷は、水が清く、命がけで川へ戻ってくる鮭の躍動が、子どもたちに感動を与えてくれる故郷であった。北寄貝やいのはな、栗やまつたけ料理が季節の移り変わりを教えてくれた。現在は、除染をしても原状回復には至らず、「経済優先の復興、復興、復興」の故郷になった。今まで癒しと恵みをもたらしてくれた故郷の山や海に、何百年も消えることのない毒がまかれたのである。

3 福島第一原子力発電所爆発当時の状況について

 原告福島敦子は、福島第一原子力発電所の爆発当時は、川俣町そして、放射線量が最も高く示された福島市に避難した。原告福島は、事故後、南相馬市に一度戻ろうとしたが、南相馬市は2011年3月13日には市の境に川俣町の警察署員などによりバリケードが張られ、入ることができなくなっていた。
 2011年3月13日の夜、福島市飯坂町の小さな市民ホールの避難所には、800人以上の人が押し寄せた。地震のたびに携帯電話を手にする人々、消灯後の部屋がぼんやり青白く光り、夜中なのに大きな荷物をもってせわしなく足早に出入りをする人々が、寝ている子ども達の頭を踏みそうになる状況であった。放射能が多く降り注いだとされる同月15日には、仮設トイレまで雪が降る中、外に出て歩いていかなければならなかった。子どもたちは、避難してからずっと外で遊べなかった。
 ボランティアの人に風船をもらった子どもたちは次々に飛び跳ねては上手にパスしあっていたが、足元には、心身ともに衰弱し体を横たえている大人が数人いたため、原告福島敦子は、一番年長の娘に今すぐやめるよう強く言った。辛抱強い娘は、他のこどもたちにそれぞれ家族のもとへ戻るよう告げ、一人声を殺して泣いていた。
 明け方のトイレには、壁まで糞便を塗りつけた手のあとがあり、原告福島敦子には、苦しそうな模様に見えた。
 原告福島敦子は、食べるものなどほとんど売っていないスーパーに何時間も並び買うものを選び、またレジ列に並んだ。長い列の横に貧血で倒れている老女がいた。インフルエンザが蔓延した近くの避難所では、風呂に入ることができないため、温泉街までペットボトルに温泉水を汲みに行き、湯たんぽ代わりに暖を取る人がいた。
 ガソリンを入れるのに長時間並び、ガソリンを消費して帰ってきた。そのためより遠くへは避難できない人がたくさんいた。隣のスペースに、孫にかかえられて避難してきた年老いた人は、硬い床に座っていることがつらくて、物資の届かない南相馬市へ帰っていった。テレビで次々に爆発していく福島第一原子力発電所の様を避難所の人たちが囲んで観ていた。原告福島敦子にとって毎日が重く張り詰めた空気の中、死を覚悟した人も大勢いた避難所の生活は、忘れられない事態であった。

4 京都への避難及びその困難性

 2011年4月2日、原告福島敦子は娘2人を連れ、京都府災害支援対策本部やたくさんの友人の力を借り、ごみ袋3つに衣服と貴重品をつめて、京都府へと3度目となる避難をした。避難においては、貴重品以上に『スクリーニング済証』が、大切なものであった。原告福島たちは、被ばくした人間として、移動を制限されていたため、『スクリーニング済証』を携帯しなければ、病院に入ることも避難所を移ることもできなかった。
 『スクリーニング済証』は、外部被ばくに限られた証明書であって、内部被ばくの状況は今もわからない。
 これまで、病気などほとんどしたことがない原告福島敦子の父(74歳)が、がんに冒され全身転移し入院し、亡くなった。原告福島敦子の周りで避難者含め命短くこの世を去る人がいる事で、原告福島敦子は、決して放射線の被ばくと無縁ではないと肌で感じている。
 原告福島敦子は、京都へ避難後、居住地を決めたり、2日後に始業式がせまっている娘2人の学校の手続きをしたりした。原告福島敦子は、時給800円の6ヶ月期限の事務の仕事にかろうじて就くことができた。避難後は、子どもの入学の手続を行ったり、新たな職場を探したりしなければならない。就職先が、見つかる保障など無く、就職先が見つかるまでは、経済的に非常に厳しい状況が続くのであり、原発事故後、避難することは、多くの困難を伴うのである。
 また、学校では名前がふくしまということもあり、原告福島敦子の娘が『フクシマゲンパツ』とあだ名をつけられたこともあった。

5 原発事故は、かけがえのない故郷を奪う

 事故から数年後の原告福島敦子の実家の庭の土を京都・市民放射能測定所で測定したところ、放射性セシウム濃度は、1m2あたり93万ベクレルであった。原告福島敦子が子どものころにシャベルで穴を掘ったり、イチゴを摘んだり、原告福島敦子の母が、長い年月をかけてコケを育てたりする自慢の癒しの日本庭園の土である。そのコケをはぎ、むき出しになったこの土、チェルノブイリ被災者救済法では移住必要地域にあたるレベルである。私の実家がある土地は移住すべきレベルなのである。

6 大飯原発は今すぐ、廃炉にすべきである

 原告福島敦子たちの暮らしは、その日その日を精一杯『生きる』ことで過ぎ、10年が経過しようとしている。しかし、福島第一原子力発電所の状況は収束せず放射能が放出し続けている。原告福島敦子は、「なぜ、事故が起こったのかの具体的な理由も責任すら誰一人問われることなく、ただ被災した人々は日々の生活に疲弊し家族がどんどん崩壊し、避難者は避難者用住宅を追い出され避難先のコミュニティすら破壊され情報がほとんど報道されないこの世の中にあって人々は孤独に追いやられ経済的にも苦しくなっている」と感じている。除染をしても原状回復しない避難指示区域を次々に解除し生活インフラを整備したとしてももう元の町は戻らない。2度と原発事故が起こらないようにするために、大飯原発は今すぐに廃炉にするべきである。

以 上

◆第26回口頭弁論 原告提出の書証

甲第513号証(第69準備書面関係)
甲第514~519号証(第70準備書面関係)
甲第522号証
甲第520~521号証(第71準備書面関係)…次回の第27回口頭弁論に延期



証拠説明書 甲第513号証(第69準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第513号証
岩石のP波伝播速度に関する統計的研究(Ⅰ)(服部保正 杉本卓司)

証拠説明書 甲第514~519号証(第70準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第514号証
2016年熊本地震の加速度記録による大飯原発サイトの地震動評価並びに「おつきあい地震断層」の危険性について(赤松純平)

甲第515号証
地震動の物理学(纐纈一起)

甲第516号証
国土地理院として地震本部に期待すること、取り組むべきこと(国土地理院)

甲第517号証
SARで見るお付き合い地震断層- 熊本地震、大阪府北部の地震及び北海道胆振東部地震(藤原智外)

甲第518号証
干渉SARで見えてきた新たな地震像(宇根寛)

・甲第519号証 ファイルの上限を超えているので2つに分割しています。
 甲第519号証(1/2)
 甲第519号証(2/2)
断層の活動と変位地形 ―甲陽断層を中心として― (波田重煕 平野昌繁)

証拠説明書 甲第522号証
(2020年9月14日)

甲第522号証
原告団が作成した,パンフレット「原発のない社会を」

┌─────────────────────────────────
—-以下は次回の第27回口頭弁論に延期—-
証拠説明書 甲第520~521号証(第71準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第520号証
口頭弁論要旨(原告 吉田邦子)

・甲第521号証(南丹市のホームページ→こちら)。
南丹原子力防災パンフレット(京都府南丹市総務部総務課)
└─────────────────────────────────

◆原告第70準備書面 第4
なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか

1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)


第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか


1 序
 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定して基準地震動を策定している。これに対して熊本地震は,前震がM6.5,本震がM7.3であり,地震エネルギーとしてみると,M7.8の地震は,M6.5の地震の約90倍,M7.3の地震の約5.6倍も大きなエネルギーである。

 それにもかかわらず,M7.3の地震が発生した場合でも基準地震動を上回る地震動が生ずることが明らかとなった(第2)。それはなぜか。


2 震源特性の違い

(1)断層破壊の不均質性

 レシピによる基準地震動の計算では,各小断層で同じ波形の地震波が発生し,次々値観測点に到達しているとする。しかも,小断層から次の小断層への破壊伝播速度は一定である。

 実際は,震源断層面上で発生する地震波は,断層面上の場所によって異なる(場所によって応力の大きさ,向きが違うため)うえ,破壊伝播速度も変化する。このため,観測点での実地震波形は,レシピによる計算波形に比べ,スムーズではなく,ギクシャクしており(バラついており)均質ではない。

 レシピは,これまでの観測波形の平均値(平均像)で考えているが,波動の平均値が同じであっても,ギクシャクの程度によって,ピーク値,応答スペクトルは変化することは自明である。このことは,平均値・平均像を用いることの限界を如実に示すものである(第16準備書面等)。

(2)断層走向の影響

 震源から出る波には,断層の走向と断層すべりの方向との関係に依存した放射特性と破壊伝播に依存するディレクティビティ効果がある。FO-B~FO-A~熊川断層の場合,断層走向方向(北西-南東方向)および直交方向(北東-南西方向)の震動成分が大きく(レシピ計算でも同様),NS・EW方向では小さい。それにもかかわらず基準地震動はNS・EWで計算しているため,それだけ過小評価となっているのである。

 熊本地震は,このことを明瞭に示している(上記第2・7)。


3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)

(1)解放基盤の速度の違い

 解放基盤の速度が大きいと地震動は小さく計算される。関電は,基準地震動を計算するための地盤構造モデルを策定するにあたり,解放基盤の速度を,物理探査および地質調査の結果を無視して,P波速度は4.6km/s,S波速度は2.2km/sといずれも大きく設定した(これは原子炉建設時の許可申請時に用いた値を踏襲したもの)。例えば,試掘坑における弾性波探査結果について関電自ら「解放基盤のP波速度を4.3km/sと評価した」と表明している(丙196・9,10頁)にもかかわらずこれを無視したのである。さらに,3号炉付近の値は,P波速度は4km/s以下,S波速度は2km/s以下である(甲422・4~7頁)。

 なお,被告関西電力が作為的に地盤構造モデルを策定していることについては,原告第69準備書面・第1(被告関西電力準備書面(22)への反論)で述べたとおりである。

(2)減衰量の違い

 地盤における地震波の減衰量が大きいと,当然,地震動は小さく計算される。被告関西電力は,地盤構造モデルの減衰量を算定するうえで,新潟平野の土質地盤の知見を大飯の岩盤に流用し,散乱減衰の理論を展開しながら散乱減衰の基本である周波数依存性について考慮していないなど,不合理な評価をしている(甲422)。

 土質地盤では岩盤よりも減衰が大きいが,関電のモデルでは逆に,大飯岩盤の減衰が,実測された大阪平野の土質地盤の減衰より1.5倍も大きいのである(甲481)。これについても原告第69準備書面・第1(被告関西電力準備書面(22)への反論)や原告第60準備書面等で指摘している。

以 上

◆原告第70準備書面 第3
「おつきあい地震断層」について

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第3 「おつきあい地震断層」について

1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ


第3 「おつきあい地震断層」について


1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」

 技術の進歩により,2016年熊本地震以降,いわゆる「おつきあい地震断層」の詳細が明らかとなってきた。それが,「だいち2号(ALOS-2)」に搭載された合成開口レーダー(SAR)である。SARによって,2016年の熊本地震(M7.3)以降,2018年の大阪府北部地震(M6.1),北海道胆振東部地震(M6.7)で類似の特徴を有する地変が観測され,「おつきあい地震断層」と呼称されて学会で認知されるようになってきた。

 これら「おつきあい地震断層」の共通した特徴は以下のとおりである。

  • 標準的な長さは数km,直線もしくはゆるやかな曲線状の変位が連続し,断層を挟む変位量は数cmから数10cm程度である。
  • 震源断層から離れており,震源断層または直接の分岐断層である可能性は低い。
  • 大きな地震動を出したとする証拠は確認されていない。
  • 自ら動かずに受動的に動かされたと考えられ,大きな地震の原因ではなく結果として断層変位が生じた。
  • 走向や変位の向きは周辺の応力場と整合的である。

 以上の特徴から,おつきあい地震断層は,強震動を発生した震源断層付近の既存の構造弱面が,地震を発生した地域の地殻応力によって強震動を発生することなく「くい違い」,地表に直線状の変位として出現した地変と考えられている。そして,このような受動的な断層の活動が地震時に多数発生し,それ自身が大きな地震動を発生することはないが,地表のずれによる被害や地震動の増幅をもたらすことになる。

2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性

 大飯原発サイトは直近のFO-A断層から南西に約2km離れている。次頁(19頁)の上図のとおり,敷地にはF-1~F-6,f-1~f-4,A~Eの15本の断層破砕帯が確認されている。
《図省略→目次ページにリンクのあるPDFファイルに掲載。以下同》

 また,下図のとおり,破砕帯には無数のシームが付随しており,地盤の弱面を形成している。
《図省略》

 従って,FO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の地震が発生すれば,これらの断層破砕帯に沿って「おつきあい地震断層」が生じることになる。例えば,3号炉直下のF-3破砕帯は,長さ約190m,最大幅50cm,走向はほぼ南北,傾斜角は北西約60°である。若狭湾地域は東西方向に主圧力軸をもつ地殻応力下にあるので,F-3破砕帯では逆断層が生じ,3号炉直下の北西側が最大10数cm隆起する。

 基準地震動はFO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の地震を想定した強震動を評価しているが,おつきあい地震断層による地表変位と,地表変位による地盤震動特性への影響は,地震による危険性として考慮されていない。規制委員会の議論でも俎上に上がっていない。被告関西電力は,最新の知見を耐震安全評価に組み込んでおらず,危険性が認められる。

3 まとめ

 「だいち2号(ALOS-2)」に搭載された合成開口レーダー(SAR)により,2016年熊本地震(M7.3),2018年大阪府北部地震(M6.1)および2018年北海道胆振東部地震(M6.7)に伴って「おつきあい地震断層」が生じていることが明らかになった。

 このように,災害をもたらした地殻内の大地震では,地盤の弱面に沿って「おつきあい地震断層」が生じていることから,FO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の想定地震によっても大飯原発敷地に存在するF-1~F-6,f-1~f-4,A~Eの15本の断層破砕帯に沿って「おつきあい地震断層」が生じる危険性がある。「おつきあい地震断層」による地表変位と地表変位による地盤震動特性への影響を耐震安全評価に組み込む必要があるのであり,それがなされていない現状では,危険が到底払拭できないのである。

◆原告第70準備書面 第2
熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ


第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合


1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域

 熊本地震についてAsanoandIwata(2016)が設定した断層モデルによる,断層面の地表面投影図と断層面上のすべり量分布図は次頁(5頁)の図のとおりである。

《図省略》

 上図の地表面投影図では,前震の断層面の傾斜はほぼ鉛直であるので,震源断層は青色の直線で示されている。本震の断層面は両セグメントとも傾斜しているので断層面は幅を持って示されている。KMMH16観測点は前震の断層線から約2.5km離れている。本震では,観測点は布田川断層面(北東側セグメント)の上に位置している。

 中図と下図はそれぞれ前震と本震の断層面上のすべり量の分布を示している。両図とも右側が南西方向であるので,上図の平面図とは逆の位置関係にあることに留意する必要がある。中図に示した前震は深さ8.5km付近で断層破壊が始まりその周辺付近ですべり量が大きい。下図の本震では,右側(南西側)の日奈久断層面上の☆印で破壊が始まり,破壊が伝播して左側(北東側)の布田川断層中央部付近のすべり量が最も大きい。


2 地震波の入射位置の設定

 KMMH16地中観測点はVs=2.7km/s(標高-197m)の岩盤に設置されているところ,関電地盤モデルにおいて同じVs=2.7km/sの層は深さ0.79kmの第6層である。

 そこで第1~5層を地盤,第6層以下を地震基盤と考え,第6層から第5層に熊本地震で観測された加速度記録の地震波が入射した場合の地表面の地震動を計算する。


3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録

(1) 前 震

 前震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(7頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は237ガル,EW成分は178ガルである。
 地震波の震幅は断層の走向と振動方向の関係によって変化しており,次々頁(8頁)の図のとおり,震動方向によって加速度ピーク値の最大値と最小値には1.56倍の開きがある。

《図省略》

(2) 本 震

 本震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(9頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は159ガル,EW成分は243ガルである。

《図省略》


4 地盤構造モデルと地盤による増幅率

 KMMH16地中観測点で記録された地震波動が大飯原発原子炉直下の地盤に入射したとして,原子炉が設置されている岩盤(解放基盤)の地震動を評価する。検討に用いる地盤構造モデルは,被告関西電力が基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)と,3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)である。

(1) 関電地盤モデル

 基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)の定数と地盤増幅率は次頁(10頁)の図「関電地盤モデル」のとおりである。

《図省略》

 被告関西電力が基準地震動を評価した地盤モデルでは,第6層のS波速度が2.7km/sであるので,この層から上部の地盤にKMMH16の波形が入射するとする。増幅率は表面効果により全ての周波数で2倍である。第1層のS波速度が2.2km/sと大きく層厚も大きいので,表層による増幅効果は小さい。また,減衰量(h)が大きく設定されているので,増幅率は高周波数域に向けて大きく減衰している(この点については第60準備書面6頁以下で詳述)。

(2) 3号炉地盤モデル

 3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)の定数と地盤増幅率は上図「3号炉地盤モデル」のとおりである。

 既述のとおり,関電地盤モデルの減衰定数(h)は,大阪平野の土質地盤の値よりも約1.5倍大きい。岩盤の減衰が土質地盤よりも大きいことはあり得ないので,減衰定数は関電モデルの値の1/1.5(=2/3)とした。3号炉地盤モデルの増幅率は,関電地盤モデルに比べ,8Hz以上の周波数域で1.2~1.5倍大きい。


5 地盤モデルへの入力地震波

(1) 距離減衰量の補正

 熊本地震のKMMH16地中加速度記録をFO-B~FO-A~熊川断層に適用するにあたっては,前震および本震のすべり量の大きい領域(強震動生成域)が原発サイトの直下付近であるとして,KMMH16の記録波形に距離減衰量を補正(補正量kを算出)して地盤モデルへの入力波とする必要がある[脚注1]

 そこで前震及び本震における補正量を求めると次のようになる。

[脚注1] 補正量kの算出方法は次のとおり。
《数式省略》

(2) 前 震(M6.5)

 前震の断層面はほぼ鉛直(傾斜角89°)であり,強震動生成域の深さを10km(図1)とすると,KMMH16地中観測点までの距離は12.4kmとなる。

 大飯原発サイトはFO-A断層線から南西方向に約2km離れており,また地盤下部のVs=2.7km/s層の上面は深さ0.79kmであるので,強震動生成域からの距離は9.4kmである。

 波面の拡がりによる幾何減衰補正量は1.32,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.068~1.040であるので,簡単のために1.05とした。従って補正量kは1.39となる。

(3) 本 震(M7.3)

 本震の布田川断層中央部の強震動生成域の深さを,断層面に沿って8km(図1)とすると,断層面の傾斜は65°であるので,深さは7.25kmとなり,KMMH16までの距離は11.7kmとなる。

 FO-A断層面も同じく65°南西側に傾斜しているとすると,強震動生成域は大飯原発サイトの南西側約1kmとなり,サイト直下のVs=2.7km/s層上面までの距離は6.54kmとなる。

 幾何減衰補正量は1.79,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.120~1.069であるので,簡単のために1.08とした。これによると補正量kは1.93となる。


6 大飯原発サイト解放基盤における強震動

 前震と本震について,それぞれ関電地盤モデルおよび3号炉地盤モデルに入射した場合の地表面(解放基盤)における加速度波形と加速度応答スペクトル(h=0.05)を計算すると,次のとおりとなる。

(1) 前 震

ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=659ガル,Peak_EW=487ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=780ガル,Peak_⊥=655ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=735ガル,Peak_EW=528ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=841ガル,Peak_⊥=741ガルであり,Peak_∥の値は,基準地震動856ガルの98.2%である。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

(2) 本 震

 ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=656ガル,Peak_EW=988ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.15倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で最大約3.8倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=760ガル,Peak_⊥=1013ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.18倍となっている(ただし,断層平行・直交はそれに近いという意味で使っており,断層平行はN15°E,直交はN105°Eの方位である)。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=697ガル,Peak_EW=1067ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.25倍となっている。
・ 応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で最大約4倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=812ガル,Peak_⊥=1095ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.28倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

(3) 被告関西電力の策定した基準地震動との比較

 以上のとおり,熊本地震の本震による速度応答スペクトルは,0.5秒以上の周期で基準地震動Ss-2~Ss-18より2~8倍,平均して4倍程度大きい。M6.5の前震でも0.3秒以上の周期で基準地震動と同程度の振幅である。

 基準地震動は「レシピ」に従って計算されたM7.8地殻内地震の平均的な地震動である。熊本地震は地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされている。解放基盤の地震動を応答スペクトルで評価すると,M7.8の地震を想定した基準地震動は,0.3秒以上の周期帯でM6.5の実地震と同程度,0.5秒以上の周期帯ではM7.3の実地震の1/4程度の大きさでしかない。

 基準地震動の想定するM7.8と,熊本地震のM7.3とでは,地震の規模が何倍も違っており,後者の程度の地震が発生する可能性は十分にある。被告関西電力の基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,そのような地震に耐えられないということである。


7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係

 8頁の図のとおり,熊本地震の前震の地震動の振幅は,断層の走向と同じ方向及び直交する方向の2方向で大きくなっている。これには,断層面のすべりの方向で決まる地震波の放射特性(ラディエーション・パターンradiation pattern[脚注2])と断層破壊の伝播方向(ディレクティビティdirectivity[脚注3])とが関係する。

 震源断層に近い強震動は,1995年兵庫県南部地震(M7.3)で強く認識されたように,震源断層に直行する方向に強く揺れる。ディレクティビティ効果によって断層直交方向の震動が卓越することが,モデル計算によっても明らかにされた。かかる効果の影響を受け,南西-北東方向である震源断層の走向と概ね平行して伸びていた鉄道や道路網などが,横倒しになり,あるいは横方向にずれたのである。近似の研究により,このディレクティビティ効果は震源断層近傍の普遍的な現象であることが明らかとなってきた(甲515516)。

 断層破壊を仮定した強震動予測は,次頁(16頁)の図のように,断層面上の要素断層が次々に破壊して生じる地震波の重ね合わせとして表現される。

[脚注2] 断層運動(すべり)によって生じる地震波の振幅は,波の伝播方向に依存して変化する。この方向特性をラディエーション・パターンと称する。
[脚注3] 断層面上で破壊の伝わる速さはS波速度よりやや小さい。そのため,破壊の伝搬方向にある観測点では,次々と伝わってくる断層破壊の震動が建設的に干渉して大きく増幅される。この現象を「ディレクティビティ効果」と呼ぶ。救急車が近づいてくる際のドップラー効果に似ている。

《図省略》

 微小な要素断層のS波のラディエーション・パターンは4象限型をしており,最大振幅の方向は,断層すべりの方向とその直角方向とであり,その重ね合わせも概ねこの方向性を保持している。このような指向性を有する水平動成分の振幅は,地震計の設置方向に依存して変化するため,地震動の振幅は,記録する地震計の設置方位によって見かけ上異なることとなる。

 被告関西電力は,大飯発電所の基準地震動(総括)として,最終的にSs-1~Ss-19を策定し,最大加速度は,水平がSs-4の856ガル,鉛直がSs-14の613ガルと評価して,それぞれの加速度波形と応答スペクトルを提示している。水平加速度ピーク値が最大のSs-4は,NS方向が546ガル,EW方向が856ガルである。しかし,表示されている加速度波形が同位相(同時刻の波)であるとすると,最大のピーク値は,EW成分の856ガルではなく,概ね北東-南西方向の1,015ガルである。この方向はFO-B~FO-A~熊川断層モデルの走向に直交する。

 水平動成分の基準地震動は,断層走向に応じてディレクティビティ効果を考慮し,最大震動方向によって評価しなければならないのである。被告関西電力はこれを怠っており,過小評価となっている。規制委員会でも,ディレクティビティ効果を踏まえた検討はなされていない。


8 まとめ

 基準地震動を計算した大飯原発直下のアスペリティに熊本地震本震(M7.3)の強震動生成域が生じたとすると,解放基盤における加速度ピーク値は,関電地盤モデルでは水平動成分の向きにより最大1,013ガル,また3号炉地盤モデルでは最大1,095ガルに達する(上記(6))。これはM7.8 の地殻内地震を想定しているはずの基準地震動856ガルの1.18~1.28倍である。また,解放基盤における応答スペクトルを基準地震動Ss-1の応答スペクトルと比較すると,速度スペクトルの値はM6.5の前震でさえ0.3秒以上の周期帯でSs-1と同程度~2倍近く,M7.3の本震では0.5秒以上の周期帯ではSs-1の4倍に達する(同)。このように,被告関西電力が独自に策定した基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,2016年熊本地震に耐えられない。

 熊本地震の観測記録の水平動成分は,断層モデルから射出される地震波のラディエーション・パターンとディレクティビティ効果とに起因して,断層走向に平行な方向および直交方向の成分が大きい。基準地震動はFO-B~FO-A~熊川断層を北西-南東走向の横ずれ断層としてモデル化しているため,水平動成分をNS・EWの座標系で表すと,最大で3割程度過小に評価することになる。

 以上のとおり,熊本地震にて現に観測された加速度記録を適用してみると,大飯原発の基準地震動が過小評価であることが判明する。大阪北部地震で現に観測された記録を元にした第60準備書面と併せ,想定地震と現に発生した地震との違いを顕著に表すものであり,第64準備書面その他でこれまで原告が繰り返し指摘してきた過小評価の危険性をさらに裏付けている。

◆原告第70準備書面 第1
本書面の概要(甲514)

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次


第1 本書面の概要(甲514)

 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定し,独自に作成した地盤構造モデル(関電地盤モデル)によって基準地震動を策定している。すなわち,基準地震動を,地殻内地震のスケーリング則に準じたM7.8の地震の震源特性と関電地盤モデルによるサイト特性とにより計算しているのである。この際,スケーリング則が内包する1.4倍の偏差を考慮していないが,保守性については短周期の振動レベルを1.5倍にするなどしてこれを持たせているとしている。

 これに対して原告らは,既に第60準備書面において,大阪北部地震をFO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価し,基準地震動が過小評価であることを明らかにしているが,本書面では,赤松意見書(甲514)に基づき,2016年に発生し,地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされる熊本地震の加速度記録を用いて同様の評価を行うこととする。FO-B~FO-A~熊川断層で,スケーリング則に従う熊本地震と同じ震源特性を有する地震が発生したとき,基準地震動を越えないのであろうか。

 熊本地震は前震がM6.5,本震がM7.3と,本震の方が規模が大きくなっている(エネルギー費で15.8倍)。第60準備書面では大阪北部地震のM6.1を基準地震動における想定=M7.8にスケールアップして評価したが(第60準備書面3~4頁),本書面では熊本地震のM7.3等をそのまま適用して評価する。具体的には,熊本地震の震源断層の直近にある防災科学技術研究所の基盤強震観測網(KiK-net)の益城観測点(KMMH16)の,S波速度(Vs)2.7km/sの岩盤に設置された地中地震計で記録された,前震で289ガル,本震で287ガル(3成分合成)の加速度波形を,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して原子炉基盤面の地震動を計算し,大飯原発の基準地震動と比較する。

 これにより,基準地震動が,スケーリング則の平均値による震源特性と,増幅率を小さくする関電地盤モデルであることとの相乗効果によって,過小に評価されていることを明らかにする(下記2項(1)ないし(6))。また,地震動は断層走向方向の成分および直交成分が大きいので,形式的に東西,南北方向成分で計算した基準地震動は過小評価であることも合わせて指摘する(下記2項(7))。これらは,第60準備書面同様,現に発生した地震の観測データを,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものであり,実際にあった断層破壊過程が用いられているのであるから,地震動評価の信頼性は格段に高い。

 さらに,新たな視点として,FO-B~FO-A~熊川断層が震源断層となった場合,最新の技術・知見によって解明されてきた「おつきあい地震断層」により,敷地内断層破砕帯とそれに伴うシームが原子炉建屋の立地する基盤面に「くい違い」を生じさせる危険性のあることを明らかにする。この点について,原子力規制委員会では一切議論されていない。

◆原告第70準備書面 目次
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

原告提出の第70準備書面

目 次

第1 本書面の概要(甲514)

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合
1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ

第3 「おつきあい地震断層」について
1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか
1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)