裁判資料」カテゴリーアーカイブ

◆第24回口頭弁論 原告提出の書証

甲第497~500号証(第64準備書面関係)
甲第501号証(第65準備書面関係)
甲第502~505号証(第66準備書面関係)



証拠説明書 甲第497~500号証(第64準備書面関係)
(2019年7月26日)

甲第497号証
意見書(基準地震動評価のための強震動予測について一後追い予測における不確かさ-)(赤松純平)

甲第498号証
朝日新聞記事(朝日新聞社)

甲第499号証
活断層を調べる~トレンチ調査の紹介~(二階堂学)

甲第500号証
反訳文(NHKラジオ)(弁護士島田広)

証拠説明書 甲第501号証(第65準備書面関係)
(2018年7月26日)

甲第501号証
口頭弁論要旨(原告 太田歩美)

証拠説明書 甲第502~505号証(第66準備書面関係)
(2018年7月26日)

甲第502号証
いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~―原子力防災編―」(京都府教育委員会)

甲第503号証
京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編(京丹後市防災会議)

甲第504号証
京丹後市原子力災害住民避難計画(京都府教育委員会)

甲第505号証
口頭弁論要旨(原告近江裕之)

◆第24回口頭弁論 意見陳述

太田歩美  近江裕之



口頭弁論要旨

原告 太田歩美

太田歩美 意見陳述

私は、太田歩美と申します。日本全国では、福島第一原発事故に関して1万人以上の方が国と東京電力への損害賠償を求める裁判を起こしています。私はそのうち大阪地方裁判所で提訴している集団訴訟の原告240名のうちの一人でもあります。近畿エリアでは、京都・兵庫・関西と3つの訴訟があり、合計すると500名以上の原告となっています。

福島第一原発事故により、原発から半径20キロ以内を中心とする地域が避難区域と指定されました。しかし実際には避難区域外の避難者がたくさんいて、いまだに避難を続けています。避難区域は、安全性が確認されないまま次々と解除されていますが、避難区域が解除されても避難者が戻らない状況が続いています。特に区域外避難者はほとんど賠償らしきものを受けておらず、そのような避難者が特に関西地方にたくさんいます。

福島第一原発が爆発した約8年前は,私は生まれ故郷である茨城県水戸市で、当時小学1年生の娘と、父、弟と4人で暮らしていました。

地震当初は、水道・ガス・電気とライフラインが全部止まり、食料やガソリン手に入れるために必死だったのですが、そんな中、偶然通じた知人からの電話で原発が危ないということを聞き、避難することにしました。知人からの電話では、アメリカは自国民で日本に滞在している人たちに80キロ圏内から避難するよう指示しているというのです。当時福島原子力発電所からの茨城県の我が家までの距離など知りませんでしたが、80キロなら我が家も距離的に近いと考えたからです。

家族内では父からは「政府が大丈夫と言っているのだから大丈夫だ。それなのに避難するというのであれば二度と戻ってくるな」と怒鳴られ、泣きながらの口論になりました。

地震・事故から6日後に私は娘と二人で鹿児島県に避難しました。放射能も地震もなく、水道水が蛇口から出て、ガスコンロの火も点き、夜も電気の灯りをともすことのできる安全な土地で数ヶ月暮らし、少し気持ちが落ち着いた後に、過去の放射能事故等について調べ始めると、いろんなことが分かりました。空気の汚染だけでなく、土にも放射性物質が落ちて染みこんでいくこと。その土で作られた農作物を食べると、それが体内から放射性物質を出し、内部被曝というものを受けるということ。原発事故後、政府が食品の安全基準値自体を上げたこと。その上げられた基準値をクリアした食べ物が流通していること。
仮にこれらのことが原因で将来病気になったとしても因果関係の証明は難しいでしょう。放射性物質は遺伝子に影響するので、娘が子どもを産んだとしてもその子にも影響があるかもしれません。

そのようなことを知ったため、茨城県には帰らず、長期避難することを決意しました。そのため、元の仕事は辞めざるを得ず、新たに仕事を探すため、大阪に避難先を変えることにしました。仕事のみならず、今まで茨城県で積み上げてきた人間関係も家も捨てざるを得ず、一度リセットしての、全てが一からのスタートです。生活を何とか立て直すために資格を取ろうと学校へ通ったり、そのために借金をしたりしているので、生活は今でも苦しいです。

茨城県に居たら、建てた家もあり、収入が少なかったとしても何とかやっていけました。それに、子どもが熱を出したりしたとき等、父や弟が私と一緒になって子どもを世話してくれていたので、私は外で働くことができていたのです。

何より、私の父や弟と日々の生活を一緒に過ごせないのが辛いです。事故当時小学1年生だった娘はもう高校1年生です。もうその時間は取り戻すことはできないことは頭では分かっていますが、私の子どもの日々の成長を、父や弟と一緒に見守り、助け合いながら過ごしたかったです。茨城県のあの家で父や弟と暮らす日々に戻りたいです。朝「いってらっしゃい」「いってきます」と互いに言い、夜には晩御飯の食卓を4人で囲み、その日あったことをそれぞれ話し、その晩のお風呂に誰が先に入るか話したりするような、普通の生活に戻りたいです。そんな些細なことと思われるかもしれませんが、けれども自分にとってはとても大事な日々の生活でした。それらが奪われたことがただ一重に哀しいです。
また、大阪では茨城県からの避難について理解されませんでした。大阪の人に「茨城県(からの避難)なんて、福島(県)にのっかってるだけやろ」と言われたこともあります。なので、自分が原発事故の影響を恐れての避難しているということは、普段の生活では言わないできました。思い出して説明するだけで精神的に辛くなるし、説明したところで、理解されるのが難しいということは分かっているからです。

福島県と茨城県との県境に壁があるわけではないです。現実に原発事故当初に何の被害もないと言われていた茨城県の北茨城市では、1592人に1人と小児甲状腺ガンの発生率が高いことが分かりました。原発事故前までは、100万人に0~3人の発生率と言われたにもかかわらずです。事故後は桁違いの発生率です。それでも公式には「甲状腺ガンの原因については福島原発事故の放射線の影響は考えにくい」と発表されています。このような発表を私は信じることができません。現に私と子どもは甲状腺検査でA2という判定が出ており、定期的に検査を受けています。

さらに茨城県の実家で使われていた掃除機のホコリを採取して専門家に測定してもらった結果、セシウム137が1キログラムあたり2830ベクレルという高い数値が出ました。事故から7年経った時点の昨年のことです。その土地に父や弟、親類縁者、友人たちが住んでいることを思うと、彼ら彼女らの身体が心配です。自分たちだけ逃げて本当によかったのか、もっと粘り強く説得すべきだったのではないか、後悔の気持ちがぬぐいきれません。

私の現在の避難先である大阪市は、大飯原発から95kmです。

茨城県にある私の家と福島原発との間は130kmでした。

皮肉なことに現在の方がむしろ8年前より原子力発電所との距離は近くなってしまいました。距離が全てではないと分かっていますが、近いのはやはり怖いです。

もし大飯原発で何らかの事故が発生したら、また避難しなければならないでしょう。しかしもう今の私には新しい土地でやり直す気力・体力はありません。いくら健康が大事と言ったって、人間はそれだけで生きていける訳ではないことを身をもって知りました。原発事故以前に母が難病を長く患ったうえで亡くなっていることもあり、健康はお金では買えないし、万が一病気になって苦しい思いはしたくないし、子どもにも痛い苦しい思いはさせたくないと思って、避難を決意しました。「健康を守るための避難」という自分の選択は間違っていなかったと今では思っています。

しかし、縁もゆかりもない土地で一から始めることの辛さは、もう十分味わいました。

健康であったとしても、お金がない、仕事がない、頼る知り合いもいない生活がどんなに不安で心細いかを、知りました。

自分は一生そこに住むつもりであった場所に帰りたいです。しかし放射線管理区域以上の値が出ている土地には、帰りたくてもやはり帰れません。

一度ばらまかれた放射性物質を元に戻すことはできないです。自分たちで管理制御しきれないものを持つべきではないと思います。

裁判所には福島の原発事故の結果、福島県のみならず近隣の自治体にも被害があったことを知って頂きたいです。そして、知った以上、このような思いをする人を二度と出さないために今後どうしたらいいかを一緒に考えてほしいです。それは原子力発電所が54基もある日本ではないはずです。



口頭弁論要旨

2019年8月1日
近江裕之

近江裕之 意見陳述

私は京都府与謝郡与謝野町に住み、京丹後市弥栄町にある府立峰山高等学校弥栄分校で教員をしている近江裕之と申します。私が住んでいる与謝野町石川は、大飯原発から40乃至50キロに位置しており、また勤務している弥栄分校は、大飯原発から52.7キロ、高浜原発からは40.8キロに位置しています。今日は、高等学校で日々多くの生徒を前にしている教職員という立場から、大飯原発の運転差し止めを求める意見陳述をします。
京都府教育委員会が平成27年4月に策定した「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」によりますと、生徒の在校中に原子力災害が発生した場合、児童・生徒は「早め早めに帰宅又は保護者に引き渡し、自宅の所在する地域の住民として避難すること」が原則になっています。しかし、私が勤務する高校の生徒は、兵庫県まであと少しという久美浜町河梨や、近畿唯一の米軍基地を有する丹後町宇川の久僧、私が住む与謝野町よりさらに大飯原発に近づく宮津市小田など、かなり広範囲から通学してきています。通学手段として多くの生徒が利用しているのは京都丹後鉄道や丹海バスなどの公共交通機関ですが、都会と違い、1時間に1本あればありがたいという僻地ですので、通常でも朝8時50分の始業に間に合うようにと、朝6時過ぎには家を出て2時間以上かけて来ている生徒もいます。そのような状況の中で、仮に原子力災害事故が発生した場合、多くの住民が必死に放射能から遠ざかろうと避難するという混乱の中で、全生徒を速やかに保護者に引き渡すことができるとは到底考えられません。それは道路の状況が自動車が正常に動ける状況だとは思えないからです。

以前、福島から必死で避難されてきた方の話を聞かせていただく機会がありましたが、どの道路も大渋滞、ガソリンも売ってもらえない、たとえ保護者の方が学校に向かわれても、学校に到着されるのに何時間かかるかも分からないのです。また、これまで大雨警報などの発令により、授業を休止して帰宅させたことが何度かありました。しかし、保護者の勤務の関係や交通機関の関係で、夜まで学校に待たされていた生徒が何人もありました。高校生ですから、小・中学生のように保護者の迎えを待たずに自力で帰らせればよいのではと思われるかもしれませんが、公共交通機関が正常に運行しているのかどうかも定かでない中で生徒を帰宅させるのがふさわしい方策とも思えません。また、原子力災害が発生している中で無防備に外に出れば、その間にも生徒らは放射能汚染にさらされるということにもなります。さらに、京都府北部は、冬になれば年に何度も大雪に見舞われます。昨冬は雪が少なくありがたかったのですが、大雪のためにバスがなかなか学校にたどり着かず、始業を1時間遅らせたことも一度や二度ではありません。原子力災害が大雪と重なった場合は、どのようなことになるのか想像するのも恐ろしいです。

平成30年2月に策定された「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」には、学校施設において、生徒等の在校時に原子力災害が発生した場合、「教職員の指示・引率のもと迅速かつ安全に生徒等を避難させるものとする」としていますが、どのようにすれば迅速かつ安全に避難させることができるのか、それが私には分かりません。

また、府教委策定の「手引」は、「児童・生徒等が帰宅又は保護者への引渡しができなかった場合は、学校の所在する地域の住民として避難し、避難先で引渡」すとしています。そして、私たち教職員の避難については「児童・生徒等を安全に保護者へ引渡しした後に避難する」と規定しています。この規定に従えば、私たち教職員は一体いつ自分の家族を守る行動に出られ、そしていつ我が身を守るために避難できるというのでしょうか。平成25年4月に策定された「京丹後市原子力災害住民避難計画」によれば学校がある京丹後市弥栄町黒部区は、「黒部保育所」を「避難集結場所」とし、その後の避難先については「黒部保育所」において「指示する」とされています。つまり、実際の避難先はその時になりその場所に行って指示されるまで「わからない」のです。そのため避難先を保護者に確実に連絡出来るのかさえ不透明です。

私の娘は現在京都府立宮津高等学校に通っています。宮津高校は高浜原発から30キロ圏内いわゆるUPZ内に位置しているということで、毎年、原子力災害発生時の対応についてどうするかという形式ばかりの文書を保護者が提出しなければなりません。「保護者が迎えに行く」とは返答していますが、妻もフルタイムで福祉関係の仕事をしている関係で、有事の際に本当に迎えに行けるのかはわからないというのが実態です。

また、弥栄分校の同僚には夫婦とも高校教員という家庭が数組あります。その中には子どもさんがまだ小学生という家庭や、保育園児という家庭もあります。保護者としての迎えと、教職員としての保護者への引渡し任務と、一体どちらを優先させるべきなのかというジレンマの中で苦しまざるを得ないのは火を見るより明らかです。もし、我が子の迎えよりも生徒を優先させた場合、我が子が通う小学校や保育園の先生が困ることになります。「手引」にはそうした場合のことは全く想定されていません。

震度7の地震が2011年の東日本、2016年の熊本の2度、そして昨2018年の北海道と、この10年足らずの間に4度も起こっています。福井県で震度7の地震が起こらないとは決して言い切れないのではないでしょうか。しかし、大飯原発は震度7を想定した設計にはなっていないと聞きます。自然災害を防ぐことはできませんが、原子力災害は人間の手で防ぐことができます。原子力災害を二度と引き起こさないためには原子力発電の運転を差し止めて頂くほかありません。京都地裁の英断を心からお願いして、私の意見陳述を終わります。

以上

◆原告第66準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府京丹後市における問題点について)-

原告第66準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府京丹後市における問題点について)-

2019年(令和元年)7月26日

原告第66準備書面

目 次

1 原告近江裕之について
2 府立峰山高等学校弥栄分校における避難困難性
3「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」の非現実性


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で京都府与謝郡与謝野町に在住する原告近江裕之の教職員としての経験をもとに、避難困難性に関する個別事情について述べる。

1 原告近江裕之について

原告近江裕之は、京都府与謝郡与謝野町に住み、京丹後市弥栄町にある府立峰山高等学校弥栄分校で教員をしている。原告近江が住んでいる与謝野町石川は、大飯原発から40乃至50キロに位置しており、また勤務している弥栄分校は、大飯原発から52.7キロ、高浜原発からは40.8キロに位置している。

以下では、高等学校で日々多くの生徒を前にしている原告近江の教職員としての経験をもとに、避難困難性について述べる。

2 府立峰山高等学校弥栄分校における避難困難性

 (1)安全教育の手引き

京都府教育委員会が平成27年4月に策定した「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証7頁)「Ⅱ 学校における原子力防災対策」には、下記の記載がある。

 3 避難方法の原則
 原子力災害発生時の避難等に対する指標、退避・避難場所、避難時の移動手段等については、事前に学校の所在する自治体の防災担当部局との緊密な連携が必要である。
 (1) 児童生徒等の避難
 ア 早め早めに帰宅又は保護者に引渡し、自宅の所在する地域の住民として避難することを原則とする。

 (2)府立峰山高等学校弥栄分校の事情

原告近江が勤務する府立峰山高校弥栄分校の生徒は、兵庫県付近の久美浜町河梨や、近畿唯一の米軍基地を有する丹後町宇川の久僧、原告近江が居住している与謝野町よりさらに大飯原発に近づく宮津市小田など、広範囲から通学してきている。

通学手段として多くの生徒が利用しているのは京都丹後鉄道や丹海バスなどの公共交通機関であるが、都会と異なり、鉄道やバスは、1時間に1本もなく、通常、朝8時50分の始業に間に合うためには、朝6時過ぎには家を出て2時間以上かけて来ている生徒もいる。普段から、交通の便が非常に悪く、仮に原子力災害事故が発生した場合、道路の状況によっては、さらに移動が困難となることが、容易に想定される。このような地域において、全生徒を速やかに保護者に引き渡すことなど、不可能である。仮に、保護者が、学校に生徒を迎えに来ようとしても、学校に到着すること事態が困難である。

府立峰山高校弥栄分校では、これまで大雨警報などの発令により、授業を休止して生徒を帰宅させたことが何度かあった。しかし、保護者の勤務の関係や交通機関の関係で、夜まで学校に待たされていた生徒が複数にいた。高校生であっても、公共交通機関が正常に運行しているのかどうかも定かでない中で生徒を帰宅させるのがふさわしくない場合も存在する。原子力災害が発生している場合には、無防備に外に出れば、その間にも生徒らが、放射能汚染にさらされるということにもなりかねない。さらに、京都府北部は、冬になれば年に何度も大雪に見舞われる。大雪のためにバスがなかなか学校にたどり着かず、始業を1時間遅らせたことも複数回あった。原子力災害が大雪と重なった場合は、避難は、不可能である。

3「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」の非現実性

平成30年2月に策定された「京丹後市地域防災計画・原子力災害対策編」(甲503号証44頁)「7学校等施設における避難措置」には下記の記載がある。

 学校等施設において、生徒等の在校時に原子力災害が発生し、避難のための立ち退きの勧告又は指示等があった場合は、あらかじめ定めた避難計画等に基づき、教職員の指示・引率のもと、迅速かつ安全に生徒等を避難させるものとする。

上記のとおり、府立峰山高等学校弥栄分校の事情を踏まえると、「迅速かつ安全に避難」させることなどできない。

「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証7頁)「3避難方法の原則(1)児童生徒等の避難」として下記の記載がある。

カ 児童生徒等が帰宅又は保護者への引渡しができなかった場合は、学校の所在する地域の住民として避難し、避難先での引渡しとする。その際の避難先までの引率、避難先での引渡し方法等について、学校の所在する地域の防災担当部局と十分な事前調整を行うとともに、保護者とは事前に学校の所在する地域の避難先を確認しておく。

しかし、原発事故の想定などすることは、不可能であり、避難先までの引率、避難先での引渡し方法等について、十分な事前調整など行うことはできない。

また、同手引き(甲502号証7頁)「3避難方法の原則(2)教職員等の避難」として、下記の記載がある。

ア 児童生徒等を安全に保護者へ引渡しした後に避難する。

しかし、このような記載を前提とすると、教職員自身の避難など到底出来ない。

平成25年4月に策定された「京丹後市原子力災害住民避難計画」(甲504号証)によれば、府立峰山高等学校弥栄分校がある京丹後市弥栄町黒部区は、「黒部保育所」を「避難集結場所」とし、その後の避難先については「黒部保育所」において「指示する」とされている。

つまり、「黒部保育所」は、一時的な避難場所であり、実際の避難先はその時になりその場所に行って指示されるまで不明である。そのため避難先を保護者に確実に連絡出来るのかさえ不透明である。

原告近江の娘は、現在、京都府立宮津高等学校に通っている。宮津高校は高浜原発から30キロ圏内いわゆるUPZ内に位置しており、毎年、原子力災害発生時の対応に関する文書を提出する必要がある。原告近江は、形式的に「保護者が迎えに行く」と返答しているが、原告近江の妻もフルタイムで福祉関係の仕事をしているため、原発事故が起きた際に、実際には、迎えに行くことは非常に困難である。

また、原告近江の同僚には、夫婦とも高校教員という家庭が数組ある。その中には子どもさんが、まだ小さい家庭が、複数ある。保護者としての迎えと、教職員としての保護者への引渡し任務と、一体どちらを優先させるべきなのかというジレンマの中で苦しまざるを得ないのは明らかです。もし、我が子の迎えよりも生徒を優先させた場合、我が子が通う小学校や保育園の先生が困ることになる。

「いのちを守る『知恵』をはぐくむために~学校における安全教育の手引~-原子力防災編-」(甲502号証)はそうした場合のことは全く想定していない非現実的な内容である。

以上

◆原告第65準備書面
-避難困難性の敷衍(原発事故からの避難の実態)-

原告第65準備書面
-避難困難性の敷衍(原発事故からの避難の実態)-

2019年7月26日

原告第65準備書面

目 次

1 原告太田歩美について
2 原告太田の避難の実情
3 大飯原発で事故が起こっても再び避難することは困難である


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では東京電力福島第一原発事故において、茨城県水戸市から避難している原告太田歩美の避難の経験から、避難困難性について述べる。

1 原告太田歩美について

原告太田歩美は、福島第一原発事故発生時、生まれ故郷である茨城県水戸市で、当時小学1年生の娘と、父、弟と4人で暮らしていた。事故発生後、娘と二人で鹿児島県へ避難し、その後、大阪市に避難して、現在も避難生活を送っている。

原告太田は、福島第一原発事故について国と東京電力への損害賠償を求める集団訴訟を大阪地方裁判所に提訴している原告240名のうちの一人である。

2 原告太田の避難の実情

(1)東日本大震災が発生した当初、原告太田が居住していた茨城県水戸市においても水道・ガス・電気とライフラインが全部止まり、原告太田も食料やガソリンを手に入れるために必死の状況であった。かかる状況の中、原告太田は、知人からの電話で原発が危ないということを聞き、避難を決意した。

原告太田が避難する際、同居していた父からは「政府が大丈夫と言っているのだから大丈夫だ。それなのに避難するというのであれば二度と戻ってくるな」などと怒鳴られ、泣きながら口論することにもなった。それでも原告太田は、福島第一原発事故から6日後、長女と二人で鹿児島県に避難した。

原告太田の例に見られるように、原発事故に際し、避難するかどうかの判断で家族が分断され、また、分断の葛藤にさいなまれること自体、極めて大きな問題であるといわざるを得ない。

(2)鹿児島県への避難後、原告太田は、放射線被曝による健康影響などを知り、茨城県には帰らず、長期避難することを決意した。そのため、元の仕事は辞めざるを得ず、新たに仕事を探すため、大阪に避難先を変えることにした。仕事のみならず、今まで茨城県で積み上げてきた人間関係も家も捨てざるを得ず、一度リセットしての、全てが一からのスタートとなった。生活を何とか立て直すために資格を取ろうと学校へ通ったり、そのために借金をしたりしているので、生活は今でも苦しい状況にある。

原告太田は、大阪で、茨城県からの避難に対する無理解に直面した。大阪の人に「茨城県(からの避難)なんて、福島(県)にのっかってるだけやろ」と言われたこともある。そのため、自分が原発事故の影響を恐れて避難していることを、普段の生活では言わないでいる。

(3)原発事故当初、何の被害もないと言われていた茨城県北茨城市では、1592人に1人と小児甲状腺ガンの発生率が高いことが判明している。原告太田と長女もまた甲状腺検査でA2という判定が出ており、定期的に検査を受けている。

さらに、昨年(2018年)、茨城県に所在する原告太田の実家で使われている掃除機のホコリを採取して放射線量を測定したところ、事故から7年以上を経過しているにもかかわらず、セシウム137が1キログラムあたり2830ベクレルと、極めて高い数値が測定されている。

3 大飯原発で事故が起こっても再び避難することは困難である

原告太田の避難先である大阪市は、大飯原発から95kmである。茨城県にある原告太田の実家と福島第一原発との間の距離は130kmであった。現在の方がむしろ原告太田の居住地と原子力発電所との距離は近くなってしまったのである。

万が一、大飯原発で何らかの事故が発生した場合、再び避難することを余儀なくされる。しかしながら、原告太田にとって、再び新しい土地でやり直すことは困難である。健康を守るための避難であったとしても、縁もゆかりもない土地で一から始めることは、仕事、知人、金銭面など多くの生活上の困難が伴うためである。

以上

◆原告第64準備書面
第4 纐纈教授の指摘を踏まえて

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

目 次(←原告第64準備書面目次に戻ります)

第4 纐纈教授の指摘を踏まえて
1 入倉・三宅の式が過小評価となる危険性
2 原子力規制委員会の基準では過小評価の危険性があることを具体的に指摘


第4 纐纈教授の指摘を踏まえて


 1 入倉・三宅の式が過小評価となる危険性
纐纈教授は、岩波書店の雑誌「科学」2012年6月号(原告第16準備書面6頁以下)に続き近時も、過去の経験からの予測式(原発に関しては入倉・三宅の式)から「予測されたもの(注:地震動)よりも数段の大きいものが実際に起こってしまう」こと、「同じようなことが起きないっていうことは・・・科学の方からは、保証できない」ことを指摘している(甲500・3頁)。

かかる指摘は、これまでの原告らの主張と整合するものである(原告第16準備書面29頁以下同23準備書面12頁以下)。

 2 原子力規制委員会の基準では過小評価の危険性があることを具体的に指摘

また、纐纈教授は、地震動の大きさを計算する前提となる断層の長さについても、熊本地震を例に、「事前の予測というのはどうしても小さい見積りになってしまう」と指摘している(甲500・4頁)。これまで述べてきたように、断層のすべてが地表から確認できるわけではないから当然のことである。

纐纈教授は、そのような事態に対処するため、例えば松田式を用いれば、熊本地震では実際の値に近いマグニチュードを計算することができ、非常に有効な方法であると述べている()。そして、地震調査研究推進本部の強震動部会では、熊本地震を受け、「科学的にきっちりやる方法」(入倉・三宅の式を用いる方法。レシピ(ア)の方法)と「便宜的にやる方法」(松田式を用いる方法。レシピ(イ)の方法)を合わせて用い、大きい方の値を用いるのが安全側の想定になると改訂を行った(原告第43準備書面)。

しかし纐纈教授は、こと原発に関してはそのような方法は執られていないこと、ばらつきを考慮すれば足りるというような問題ではなく、より根本的な問題点があること、例えば「少し大きくなるということになったら、ばらつきも大きくばらつかせていただく必要がある」こと、を述べている(甲500・5頁)。原子力規制委員会の定める、レシピ(ア)の方法と(イ)の方法とを併せて用い、より大きい値を用いるということをしていない基準では過小評価の危険がなお大きいというのが、「我々」(甲500・5頁)、すなわち地震調査研究推進本部の強震動部会の結論なのであり、基準地震動の過小評価の危険性を具体的に示すものとして重要である。

以 上

◆原告第64準備書面
第3 活断層調査が不十分であること

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

目 次(←原告第64準備書面目次に戻ります)

第3 活断層調査が不十分であること
1 少なくとも活断層の有無をできる限り調査する必要があること
2 熊本地震に関するトレンチ調査により断層活動の痕跡が複数発見されたこと
3 最低限の調査としてトレンチ調査が行われるべきこと
4 大飯原発を巡ってはトレンチ調査さえされていないこと
5 活断層調査が不十分であること


第3 活断層調査が不十分であること


 1 少なくとも活断層の有無をできる限り調査する必要があること
既に繰り返し述べているとおり、地震はいつ、どこで起こるか分からない。そのため活断層の有無に着目してみても無意味である。活断層がない、あるいは確認されていない場所でも、巨大地震は起こり得るからである。

もっとも、活断層の有無をできる限り調査すること自体は、最低限求められる作業である。断層活動の痕跡が見つからなくともそれは巨大地震が起こらないということを意味しないものの、その痕跡が見つかれば、巨大地震が発生する危険性がより高いことが判明するからである。

 2 熊本地震に関するトレンチ調査により断層活動の痕跡が複数発見されたこと

実際、それまでは知られていなかったものの、調査によって過去繰り返し断層活動を起こしていた可能性のあることが判明したケースがある。それが熊本地震後に行われた調査である。

すなわち、熊本地震後の調査により、深さ4メートルまで掘ってトレンチ調査を実施したところ、過去の断層活動によるものとみられる地層の変形が複数見つかり、過去1万3000年の間に計6回も活動した可能性があることが明らかとなったのである(甲498)。当該調査の契機となった、熊本地震後に阿蘇山のカルデラ内で見つかった断層(地震を引き起こした西側の布田川断層帯の延長上で確認されたもの)は、それまでは知られていなかった断層である。
「深さ4メートルまで掘ってトレンチ調査を実施」しただけでも、断層活動の痕跡の有無は判明することになる。

 3 最低限の調査としてトレンチ調査が行われるべきこと

トレンチ調査は、活断層を横切るようにトレンチを掘削し、壁面に現れた断層及び地層のくい違いや変形を詳細に観察することで行われ、それによって、①その断層はいつ動いたのか、②その断層は何年周期で活動しているのか、③その断層は1回にどれくらい動いたのか、④断層の性質(走向・傾斜・地質・破砕帯等)その他様々な情報を知ることができる。長期的な地震発生の可能性を評価する上で必須の基礎的な項目であり、これらの究明のためには、トレンチ掘削調査か、これに代わるような高密度のボーリング調査が有効である。

活断層の実在、地下浅部での断層の微細な構造、延長方向等を把握するためにも、トレンチ調査は有効な手法であり、それによって多くのデータを得ることができることから、全国の断層でトレンチ調査が実施されている(甲499)。

もちろんトレンチ調査をすればすべてが判明するというのではない。その意味で、トレンチ調査で知ることのできる情報にも大きな限界がある。原稿らはトレンチ調査さえすればよいと主張するものではなく、トレンチ調査をしても解明できない地震動に影響を与える要素は多数あり、そもそも活断層の有無を確実に判定できるものでもないが、それでも一応の有効性のある調査方法であることには変わりがない。最低限、トレンチ調査は行われるべきである。

 4 大飯原発を巡ってはトレンチ調査さえされていないこと

ところが、大飯原発を巡っては一応有効な手法であり「全国の断層で…実施されている」トレンチ調査さえされていない。過去数千年の間に断層活動によると考えられる地層の変形がないかどうかについて、一応有効とされている手法による確認がされていないのである。当然、基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層の存在する海中についてもこのような調査はなされていない。そうすると、これらの地域において、過去断層活動が起こっていないということが、地層を現認するというプロセスによって確認されていないことは明らかである。最低限行われるべき、一応有効かつ実施も容易なトレンチ調査さえ行っていないのに、断層活動の痕跡はなく活断層はないなどと断定できるはずがない。

また、上林川断層についても、リニアメントが確認できないだけでは活断層が存在しないことの裏付けとはならず、トレンチ調査やボーリング調査などのより詳細な調査が行われるべきことは既に原告第38準備書面において述べたところであるが、同断層の綾部市側では繰り返しトレンチ調査が行われているのに対し、反対側、即ち京都府と福井県との境界を越えて大飯原発寄りの側では一切トレンチ調査は行われていない。地質断層自体は境界を越えて延びているのに、行われたのは有効な手法であるトレンチ調査ではなく、単なる「踏破」による調査、すなわち目視による調査のみである。トレンチ調査さえ行われていないのに、福井県側の地質断層は活断層ではないと判断できるはずがない。

このように、大飯原発については、一応有効な手法であり「全国の断層で…実施されている」トレンチ調査がされていないのであるから、最低限行われるべき調査さえも行われていないことは明らかである。

 5 活断層調査が不十分であること

地表から見ただけでは活断層の有無は分かりにくく、最低限トレンチ調査などが行われるべきであるということは纐纈教授も指摘するところであるが(甲500)、被告関西電力は一応有効かつ容易に実施することのできるトレンチ調査さえも実施しておらず、大飯原発周辺の活断層調査が不十分であることは明らかである。

◆原告第64準備書面
第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

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第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード
1 入倉・三宅の式よりも武村式等の方がMoが大きくなること
2 基準地震動の策定において用いられている入倉・三宅の式
3 基準津波の策定において用いられている武村の式
4 武村式と入倉・三宅の式を使い分けることの矛盾・恣意性


第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード


 1 入倉・三宅の式よりも武村式等の方がMoが大きくなること
既に島崎証言を踏まえて述べたところであるが、入倉・三宅の式は、他の式に比べてMoが過小に評価される傾向にある(原告第43準備書面など)。被告関西電力はFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層の長さ63.4キロメートルで、マグニチュード7.8に相当する地震について各式を当てはめてみると、同被告が同地震について示した震源パラメータは以下のとおりであるから(丙28)、次の表1のとおりとなる。

断層長:L=63.4km、L=4019.56km
断層幅:W=15km
断層面積:S=951km、S2=904401km
断層傾斜角:δ=90°

表1 大飯原発の想定地震の地震モーメント(Mo)《表省略》

つまり、同じ震源パラメータを用いて経験的スケーリング則が異なる4つの方法で地震モーメントを比較してみると、入倉-三宅の式のSを使って求めたMoを1としたとき、武村式のLを使って求めたMoが3.5倍、武村式のS2を使って求めたMoが4.7倍になるのである。また、新「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(レシピ)」(甲383)のMurotani等の式を使った場合でも1.89倍になる。

 2 基準地震動の策定において用いられている入倉・三宅の式

被告関西電力は、基準地震動に関し、想定地震であるFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)を、Mo=5.03×1019(N・m)としている(丙28・42頁)。

この計算には入倉・三宅の式が用いられている。このことは、上記震源パラメータを、Mo∝Sのスケーリング則が成り立つという入倉-三宅の式(Mo=5.562×1013×S2)に当てはめると、

Mo=5.562×S2×1013=5.03×1019(N・m)

となり、被告関西電力が算出したMo(Mo=5.03×1019(N・m) 丙28・42頁)と一致することからも裏付けられる。

 3 基準津波の策定において用いられている武村の式

被告関西電力は、基準津波動に関し、想定地震であるFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層が連動して動いた場合の地震モーメント(Mo)を、Mo=1.79×1020(N・m)としている(準備書面(2)14頁図表5)

この計算には武村式が用いられている。このことは、上記震源パラメータを、現在、わが国において、地震に伴う津波高を算定するにあたって一般的に用いられている武村(1998)の論文による式(Mo=4.365×1016×L(N・m))に当てはめると、

Mo=4.365×L×1016=1.79×1020(N・m)

となり、被告関西電力が基準津波の策定にあたって算出したMoと一致することからも裏付けられる。

この武村式は、日本周辺の地殻内断層の断層パラメータを集めて求められた関係式である。これに対して入倉・三宅の式は世界中の地震データを基にして求められた関係式であるから、日本における地震動のみから導かれた武村式の方が、より日本の地震動の地域特性を表しているということができる。

 4 武村式と入倉・三宅の式を使い分けることの矛盾・恣意性

このように、同じ想定地震について、基準地震動の策定にあたっては入倉・三宅の式を用い、基準津波の策定にあたっては武村式を用いているのが現在の被告関西電力の手法である。同じFO-B~FO-A~熊川断層を含む断層についてのMoを求めるのに、一方では武村式を使い、他方では入倉・三宅の式を用いるのであろうか。ダブルスタンダードに他ならず、矛盾であり、恣意的ですらある。この結果、基準地震動は過小評価となっているのである。

少なくとも、被告関西電力は、同断層について基準津波を策定するにあたってはMoが大きくなる武村式を用いているのであるから、基準地震動についても同様に武村式を用いるのが、より安全に、保守的に検討するということに他ならないのに、そのような保守的な観点から策定されていないことは明白である。しかも、上記のとおり武村式は日本周辺の地殻内断層の断層パラメータを集めて求められた関係式であるから、より日本の地震の特性を反映しているといえるのであり、それを用いない理由はない。

武村式を用いればより安全側の評価となることは、入倉も、「武村による経験式は7.5×1025dyne-cm以上の地震モーメントの地震ではSomerville et al.(1999)やMiyakoshi(2001私信)による震源インバージョンからの断層面積やWells and Coppersmith(1994)でコンパイルされた余震分布からの断層面積に比べて顕著に小さい断層面積を与える。この理由は断層長さと地震モーメントに関するShimazaki(1986)の関係式と同様、断層長さや幅を求めるときの定義の違いかあるいは日本周辺の地震の地域性によるものか、今後の検討が必要とされる。断層面積が与えられたとき、武村(1998)の式による地震モーメントは他の関係式に比べて約2倍程度大きく推定され、安全サイドの評価となる。」(丙204「シナリオ地震の強震動予測」859頁)と自認しているところである。

◆原告第64準備書面
第1 被告関西電力準備書面16について

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

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第1 被告関西電力準備書面16について
1 被告関西電力の主張
2 震源断層モデルがスケーリング則に整合していても観測点での地震動が過小評価となっている危険性があること
3 入倉他論文(丙232)の問題点


第1 被告関西電力準備書面16について


 1 被告関西電力の主張
被告関西電力は、大飯発電所の基準地震動評価に用いている入倉・三宅の式によるスケーリング則の妥当性が各方面から検証されていると述べ、基準地震動が過小評価ではなく耐震安全性は確保されていると主張し、具体的には熊本地震に関する入倉他の論文(丙232)や原子力規制庁の報告(丙206)、引間・三宅(丙233)などを引用している。

しかし、これらの主張は、算定される地震動が過小評価となっているとの原告の主張に対する反論としては的外れであり、失当である(甲497)。熊本地震の断層モデルが入倉・三宅の式によるスケーリング則と整合するとしても、観測点での地震動が過小評価となっている危険性は全く否定できない。
いわんや、地震発生前に限りある情報から策定される基準地震動においては予測精度はさらに悪くなるため、過小評価の危険性はより顕著であり、耐震安全性は何ら担保されない。

そこで以下、震源断層モデルがスケーリング則と整合していても地震動が過小評価となっている危険性は全く否定できないこと、それどころか、地震発生後の強震観測記録を用いた後追い予測の場合ですら、個々の観測点での合成波形と観測波形との一致度(再現性)は観測点によって0.2~5倍の範囲で変動し、標準偏差は1.7倍に達すること、地震動の算定にとって重要な要素である強震動生成域(SMGA)の位置が確定されないことから、地震動が過小評価となっている具体的な危険性があることについて述べる。
なお、被告関西電力が引用している上記論文等はいずれも熊本地震(のモデル断層)がスケーリング則に整合していると述べる点で同じ内容であるため、以下、入倉他の論文(丙232)を例に述べる。

 2 震源断層モデルがスケーリング則に整合していても観測点での地震動が過小評価となっている危険性があること

  (1) 概要

上記のとおり被告関西電力は、熊本地震に関する入倉他の論文(丙232)を引用するなどして、入倉・三宅の式についてはスケーリング則に整合しておりその妥当性が検証されていると主張している。

なぜそのように熊本地震(のモデル断層)が震源断層面積と地震モーメントについてのスケーリング則に整合しているのかの理由は、1つには波形インヴァージョン結果の断層モデルをトリミングにより修正するためであり、もう1つには関係式の標準偏差が大きいことから(0.72~1.38倍)、それだけ「整合している」となる範囲が広いためである。しかし、スケーリング則に整合していても、個々の観測点での波形の一致度(再現性)は大きくばらつき、さらには強震動生成域(SMGA)も確定しないという問題があるため、強震動予測との関係では、ある地点において、モデル断層から計算された地震動が過小評価になっている危険性を払拭できることにはならない。スケーリング則に整合するかどうかと、地震動が過小評価かどうかとは別個の問題なのである。

  (2) 自己矛盾のない解析方法であること

入倉他(丙232)は、先行して発表された3つの論文を引用して熊本地震(のモデル断層)が地殻内地震のスケーリング則に整合する標準的な地震であることを論じているが、それらの論文における断層モデルのセグメントは1枚から4枚と枚数が全く異なっており、面積も756平方キロメートルから1344平方キロメートルと1.78倍もの開きがある上、基準地震動の策定に最も重要なアスペリティの位置に至っては水平方向に10キロメートル程度、深さ方向に5キロメートル以上の違いがあるにもかかわらず、いずれのモデル断層もスケーリング則に整合しているとの結論となっている。これほど多種多様なモデル断層であるのに全て「整合」する理由は、インヴァージョンによって求まるすべり量の小さい領域はトリミング基準によって除外するという、自己矛盾のない解析方法に拠っているからである。

ここでいうトリミング基準とは、Somerville et al.(1999)のトリミング法(trimming criterion)を指す。すなわち、多くの場合、断層破壊面は全ての破壊領域を含むよう大きめに仮定されるのでトリミング基準(trimming criterion)によって小さくする。n×m個の要素断層で構成される矩形断層面において、インヴァージョンによって各要素のすべり量が推定されたとして、断層面の縁(ふち)の要素の行または列の平均すべり量が全断層面の平均すべり量の0.3未満である場合、その行または列を断層面から除外する。最初に最小のすべり量の行または列を除外して平均すべり量を基準化し、縁の全ての列と行のすべり量が全体の平均すべり量の0.3以上であるようになるまでこの操作を繰り返す。

このように、トリミング基準により全断層面の平均すべり量の0.3未満である断層面の縁の要素の行または列は除外され、同様の操作が繰り返されて縁の全ての列と行のすべり量が全体の平均すべり量の0.3以上になるまで行われる。トリミング操作によりすべり量の小さい領域は除外するという自己矛盾のない解析方法であるが故に、スケーリング則に整合しているとの結論となるのである。

さらに、強震動の生成に大きく関係するアスペリティも、類似の手法であるSomerville et al.(1999)のアスペリティ設定の手続きに従って求められるため、やはりスケーリング則に整合しているという結論になってしまう。

このような自己矛盾のない解析方法が採用されている以上、多くの地震がスケーリング則に整合しているとの帰結に至る。

  (3) 「整合している」と判定される範囲=標準偏差が大きいこと

このように、震源断層モデルがスケーリング則に整合しているとされるのは、そもそも波形インヴァージョン結果の断層モデルをトリミングにより修正するからであるが、さらに、「整合している」とは1標準偏差内に収まっているという意味であるところ、1標準偏差内に収まるということは、平均値の1.38倍あるいは0.72倍に収まっているということを意味している。

「整合している」といっても、実際には、最小と最大とで2倍近い開きがあり得るのである。「整合している」と判定する範囲をそれだけ広く取れば、多くの震源断層は「スケーリング則に整合している」と結論されることになってしまう(平均値の1.39倍以上か、あるいは0.71倍以下の場合に初めて「整合していない」という結論となる。)。

このように、スケーリング則に整合しているといっても、実際には平均値の0.72倍から1.38倍という大きな幅があるのである。

  (4) 個々の観測点での波形の一致度(再現性)は大きくばらつくこと

入倉他(丙232)では、SMGAモデルによる合成波形と観測波形を比較し、波形の一致は満足のいくものであるとしている。ここにいうSMGA(Strong Motion Generation Areas)モデルとは、対象地震の場合、断層面上に強震動が生成される特定の領域(長さ数km~10数km、幅数km)を設定し、それによる強震動を各地点で精度よく算出することを目的としている。その考え方の骨子は、①波形インヴァージョンで得られた断層破壊モデルにおいて、平均すべり量よりも大きいすべり量の領域=アスペリティが強震動に関係する、②強震動は、アスペリティの位置と大きさで定義されるSMGAのみによって生成される、の2点である。

しかし、上記の入倉他(丙232)の結論にもかかわらず、実際には、予測と観測値とは乖離しており、大きくばらついている。

次図はSMGA3枚モデルによる合成波形と観測波形の振幅比を示し《図省略》、入倉他(丙232)の図7(8頁)に示された最大値の比であって、この値が1であれば観測値どおりに予測できたことになり、1から外れるほど予測が観測値から乖離していることを示している。この点、速度(次図の下図《図省略》)については最大値が1.30、最小値が0.25と、観測点による分散が大きくなっており、加速度(次図の上図)については最大値が2.41、最小値が0.41と、分散がさらに大きくなっている。約2/5もの過小評価から2.41倍の過大評価まで散在しているということである。特に、概ね加速度300ガル、速度30cm/sを超える震動では、地表観測点(茶色)の合成波振幅が観測値を大幅に超えており、この傾向は速度(次図の下図)よりも加速度(次図の上図)により顕著である。

さらに、SMGA1枚モデルの場合、値の分散は格段に大きくなっている。

すなわち、速度(次図の下図《図省略》)については最大値が2.89、最小値が0.21であり、加速度(次図の上図《図省略》)については最大値が5.43、最小値が0.47となっている。1/5もの過小評価から5.43倍の過大評価まで散在しているということであり、分散がさらに大きくなっているのである。

このように、SMGAモデルによる合成波形と観測波形とは平均的には一致するというものの、SMGAの位置や大きさを震源近傍の観測波形に基づいて求めるという現状では我が国最高水準の精度の高い解析によってさえ、個々の観測点での波形の一致度(再現性)は大きくばらついている。合成波形と観測波形の最大値をその比(合成波形/観測波形)で比較すると最大で5倍程度の乖離が生じており、対数平均から求めた1標準偏差は1.7倍に達する。熊本地震の強震記録によるインヴァージョン解析の結果である合成波形は、地点によっては観測波形の5分の1程度しかないのであり、それだけ過小な帰結となっているということである。このように大きなバラツキが生じている理由は、生成される地震波形が場所・時間によりその性質が変化しており、さらに、波形に影響を与える伝播経路やサイト特性を、後追い予測によってさえ完全に把握することが不可能だからである(これらの要素が、地震動の大きさに影響を与える重要な要素であるということでもある。)。

個々の地点では相当過小評価となっているということは、こと原発の安全性との関係では極めて重大な問題をはらむ。熊本地震の場合のように基準地震動の5倍もの地震動が原子炉等の重要施設で発生すれば、その安全性を確保することが全くできないからである。

  (5) 強震動生成域(SMGA)が確定しないこと

SMGAの位置は断層面上で強震動の震源域を特定したものであるから、SMGAの位置が変われば震源域が変わることになり、そのため観測点での地震動も変化する。よって、SMGAの位置はある地点における地震動の算定において重要な意味を持つ。当然、基準地震動の策定においてもSMGAの位置の設定は非常に重要となる。

然るに、熊本地震に関する断層モデルにおいては、SMGAの位置がすべり量の大きい位置とは大きくずれている。

まずSMGA3枚モデルの場合、SMGAの位置は、Yoshida et al.(2016)のインヴァージョン結果によるモーメント時間関数の大きい位置やすべり分布の大きい位置と整合していない(甲497・図8)。アスペリティの位置(緑破線枠)とは異なる位置にSMGA(青枠)が求まっており、これらも整合していない(・図5)。

次にSMGA1枚モデルの場合も、以下の断層モデルによれば北東側にすべり量の大きい領域が広がっているが、SMGAとは一部たりとも重なっておらず、正にかけ離れた位置となっている(甲497・図2、10)。

このように、設定されたSMGAの位置とすべり分布の大きい区域やアスペリティとは大きくずれているのであり、SMGAの位置が確定していない。その理由は、断層面の設定では枚数や大きさ、位置、傾きなどが研究者の考えに委ねられており、初期断層面の設定に曖昧さがあるためである(実際、同じ熊本地震についてであっても断層面が論者により1枚から4枚まで設定されており、バラバラである。)。

そして、上記のとおりSMGAの位置は基準地震動の策定において重要な意味を持つため、それが確定しないということは、基準地震動を精度よく策定することができないということに他ならない。基準地震動を正確に策定することは不可能なのであり、過小評価となっている危険性がある。

  (6) 将来予測である基準地震動についてはなおさら過小評価の危険が大きい

しかも、これらは地震発生後においての話である。自己矛盾が生じないようになっているはずの後追い予測でさえこれだけのバラツキがあり、SMGAの位置も確定しないのであるから、地震発生前に策定される基準地震動においては原発敷地での観測記録は当然利用できないため、サイト特性などの正確な情報が得られないことも相俟って、予測の精度はさらに悪くなり、より大きなバラツキが生ずる危険が高いのである。

予測される地震動の5倍を上回るような大きな地震動が発生する可能性が地点によっては十分にあり、過小評価の危険は大きい。

  (7) まとめ

以上のように、波形インヴァージョン解析によって得られる断層モデルは、初期断層面の設定が研究者の考えに委ねられており曖昧さがあるため、地震動の算定に重要な要素であるSMGAの位置を確定することができないこと、SMGAモデルによる合成波形の再現性は、個々の観測点では大きくばらつき、その乖離の程度は最大5倍、標準偏差で1.7倍に達すること、地震発生後に得られた情報に基づく後追い予測においてすらそうなのであるから、サイト特性なども含めた断層面についての的確な情報が得られていない事前予測(基準地震動の策定)においては、予測の精度はさらに悪く、地震動が過小評価となっている具体的な危険性があるのである。

この危険性は、断層モデルが入倉・三宅の式によるスケーリング則と整合しているからといって何ら否定されるものではない。

 3 入倉他論文(丙232)の問題点

なお、そもそも入倉他論文(丙232)には以下のとおり独自の疑問点があり、その信頼性には大きな疑義がある。そのような信頼性の乏しい論文は、そもそも論拠たり得ないと言うべきである。

  • 入倉他(丙232)ではFig.1についてYoshida et al.(2016)を引用したと説明されているが、同論文のモデルとは異なっており、独自に手を入れている。
  • 断層面積、平均すべり量、アスペリティ面積などについて、原論文にない値やそれらと異なった数値を用いており、独自に設定している。
  • 「簡単である」というだけで、合理的理由なく、SMGA(強震動生成域)が1枚のモデルを採用している。
  • 要素断層の大きさや数などについての説明がない。

◆原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-
目次

原告第64準備書面
-被告関西電力準備書面(16)に対する反論等-

2019年7月26日

原告第64準備書面

目 次

第1 被告関西電力準備書面16について
1 被告関西電力の主張
2 震源断層モデルがスケーリング則に整合していても観測点での地震動が過小評価となっている危険性があること
3 入倉他論文(丙232)の問題点

第2 基準津波評価においては武村式を用い、基準地震動評価においては入倉・三宅の式を用いることの矛盾・ダブルスタンダード
1 入倉・三宅の式よりも武村式等の方がMoが大きくなること
2 基準地震動の策定において用いられている入倉・三宅の式
3 基準津波の策定において用いられている武村の式
4 武村式と入倉・三宅の式を使い分けることの矛盾・恣意性

第3 活断層調査が不十分であること
1 少なくとも活断層の有無をできる限り調査する必要があること
2 熊本地震に関するトレンチ調査により断層活動の痕跡が複数発見されたこと
3 最低限の調査としてトレンチ調査が行われるべきこと
4 大飯原発を巡ってはトレンチ調査さえされていないこと
5 活断層調査が不十分であること

第4 纐纈教授の指摘を踏まえて
1 入倉・三宅の式が過小評価となる危険性
2 原子力規制委員会の基準では過小評価の危険性があることを具体的に指摘

◆被告 関西電力の準備書面、答弁書、書証(丙号証)など(~2019/7)

証拠説明書   上申書   書証    答弁書

準備書面


上申書

証拠説明書

書証

 答弁書