裁判資料」カテゴリーアーカイブ

◆第26回口頭弁論 原告提出の書証

甲第513号証(第69準備書面関係)
甲第514~519号証(第70準備書面関係)
甲第520~521号証(第71準備書面関係)



証拠説明書 甲第513号証(第69準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第513号証
岩石のP波伝播速度に関する統計的研究(Ⅰ)(服部保正 杉本卓司)

証拠説明書 甲第514~519号証(第70準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第514号証
2016年熊本地震の加速度記録による大飯原発サイトの地震動評価並びに「おつきあい地震断層」の危険性について(赤松純平)

甲第515号証
地震動の物理学(纐纈一起)

甲第516号証
国土地理院として地震本部に期待すること、取り組むべきこと(国土地理院)

甲第517号証
SARで見るお付き合い地震断層- 熊本地震、大阪府北部の地震及び北海道胆振東部地震(藤原智外)

甲第518号証
干渉SARで見えてきた新たな地震像(宇根寛)

・甲第519号証 ファイルの上限を超えているので2つに分割しています。
 甲第519号証(1/2)
 甲第519号証(2/2)
断層の活動と変位地形 ―甲陽断層を中心として― (波田重煕 平野昌繁)

証拠説明書 甲第520~521号証(第71準備書面関係)
(2020年2月26日)

甲第520号証
口頭弁論要旨(原告 吉田邦子)

・甲第521号証<未UP>
南丹原子力防災パンフレット(京都府南丹市総務部総務課)

◆第26回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

口頭弁論要旨

2020年6月2日
吉田 邦子

 私は、京都府南丹市日吉町に住み始めておおよそ50年になります。吉田邦子と申します。

 日吉町は、大飯原発から45キロ、高浜原発からおおむね40キロの距離に位置しています。今日は、大飯原発の運転差し止めを求める意見陳述をします。日吉町は、山に囲まれた谷間に集落がありますが、私の住んでいる地域は静かな低山に囲まれた地域で、先祖代々受け継がれてきた田畑を守りつつ、それだけでは生活できないので多くの方は勤めに行きながら、農業をしています。

 私の家も夫は勤めながら米作りと自家菜園を営んでいます。私は、町中で育ちましたので日吉町に来まして、四季折々の山々等の色合いのうつり変わりのうつくしさにいつも心がわくわくします。この豊かな自然を大切に守りたいです。

 40年近く前になりますが、子どもが小さいころ、毎年子供会で若狭方面に海水浴に行っていました。海水浴場の向こうに白い大きな建物が見えていました。あれが、原子力発電所だと教えてもらい、原子力発電所がはっきり見えるほど近い場所で、海水浴をして大丈夫なんだろうかと不安になりました。発電所から出る水で奇形の魚が生まれるという話なども聞き気持ちが悪くなりました。原子力発電所は安全だと宣伝され、婦人会で見学に行き、職員の方から、安全であるという説明を聞きましたが、私の疑念は、続いていました。

 日吉町も子供たちは結婚しても町内になかなか住みたがらず町外へと出て行き高齢化が進み、人口減少が続いています。私の住んでいる地域でも公共交通手段は日吉駅まで通学用のバスがあり、一般の方も利用することができますが、朝1往復と、夕方に2往復があるだけです。自家用車がなければ移動手段は無いに等しい状況で日常生活にも支障をきたしてしまうことも多くあります。

 日本は地震大国です。大飯原発のすぐ近くにも活断層があります。地震はいつ起こるかわかりません。日本の各地で活断層による地震で原発事故が起きています。2011年の東北地方太平洋沖地震でも原発による事故で多くの人々が避難を余儀なくされました。未だ故郷に帰れない人々が多くおられます。

 南丹市が2012年3月に発行した原子力防災パンフレットには、情報収集や防災無線・有線テレビによる災害情報の伝達については記載されています。しかし、緊急事態において本当にきちんと情報が伝えられるのでしょうか。原子力パンフレットは、20キロ圏域、30キロ圏域の住民については、「避難しなければならないとき」という項目があり、避難のための輸送計画や避難場所などについて記載されています。しかし、日吉町等30キロ圏外の町については、避難場所などが記載されていません。南丹地域は北からの風がよく吹きます。原発事故が起きた場合、放射性物質を含んだ風は30キロで止まるということはありません。屋内に退避してもいつまでも屋内にとどまることも困難です。また、高齢で運転できない住民はどうしたらいいのでしょうか。日吉町には、明治国際医療大学附属病院や、診療所も複数ありますが、病気の方はどうしたらよいのでしょうか。たとえ自動車で避難するにしてもどこに避難すればよいのか。南丹地域から、京都市内に移動する場合、国道や縦貫道を利用することになりますが、国道や縦貫道は避難する車で渋滞が予想されます。避難することは困難です。原発事故が起きれば、畑の作物は、汚染され、どうやって生活していけばいいのでしょうか。

 美山地域では、安定ヨウ素剤が配布されたという話を聞きましたが、日吉町では、安定ヨウ素剤の備蓄、配布については何も知らされていない状況です。

 原子力災害は将来にわたって様々な害を人にも自然にも引き起こします。原子力災害を引き起こさないために原子力発電の再稼働中止、そして廃止を強く願います。

以 上

◆原告第71準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府南丹市日吉町における問題点について)-

原告第71準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府南丹市日吉町における問題点について)-

2020年2月26日

原告提出の第71準備書面

目 次

1 原告吉田邦子について
2 原発事故は、かけがえのない自然を破壊する。
3 避難の困難さ
4 南丹市原子力防災パンフレットについて
5 大飯原発は今すぐ、廃炉にすべきである


 原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で京都府南丹市日吉町に在住する原告吉田邦子の日々の暮らしをもとに、避難困難性に関する個別事情について述べる。

1 原告吉田邦子について

 原告吉田邦子は、大飯原発から45km南に位置する、京都府丹市日吉町で、50年間生活を送ってきた。

2 原発事故は、かけがえのない自然を破壊する。
 原告吉田邦子が、住んでいる南丹市日吉町は、山に囲まれた谷間に集落がある。原告吉田邦子が、住んでいる地域は静かな低山に囲まれた地域で、四季折々の山々等の色合いのうつり変わりが美しい地域である。先祖代々受け継がれてきた田畑を守りあつつ、それだけでは生活できないので多くの者は、勤めに行きながら、農業をしている。原告吉田邦子の夫も勤めながら米作りと自家菜園を営んでいる。仮に、原発事故が起きた場合、南丹市日吉町のかけがえのない自然環境、農業をしている者の田畑が奪われ、金銭に置き換えることができない、回復不可能な損害が発生し、重大な人権侵害が起こることになる。

3 避難の困難さ

 原発事故が起きて電気が止まった場合、電車を使用する事は出来ないため、自動車だけが、逃げる手段となる。原告吉田邦子が、居住している南丹市日吉町は、町外へと出て行く者が多く、高齢化が進み、人口減少が続いている。原告吉田邦子が居住している地域でも公共交通手段は日吉駅まで通学用のバスがあり、学生以外も利用することができるが、朝1往復と、夕方に2往復があるだけであり、自家用車がなければ移動手段は無いに等しい状況で日常生活にも支障をきたしてしまうことも多くある。原告吉田邦子自身は、自家用車を所有しているが、仮に、原発事故が起きた場合、自家用車を所有していない者は、避難すること事態が、不可能である。自家用車を所有している場合でも、南丹地域から、避難先として想定される京都市内に移動する場合、国道や縦貫道を利用することになるが、国道や縦貫道は避難する車で渋滞が予想される。そもそも、地震が起こった場合には、国道や縦貫道が、利用できるとは限らない。

4 南丹市原子力防災パンフレットについて

 南丹市が、2012年3月に発行した原子力防災パンフレットには、情報収集や防災無線・有線テレビによる災害情報の伝達については記載されている。しかし、緊急事態において、正確な情報が伝えることは、非常に困難である。原子力パンフレットは、20km圏域、30km圏域の住民については、「避難しなければならないとき」という項目があり、避難のための輸送計画や避難場所などについて記載されている。しかし、日吉町等30km圏外の町については、避難場所などが記載されていない。南丹地域は北からの風がよく吹くが、原発事故が起きた場合、放射性物質を含んだ風は30kmで止まるということは無い。屋内に退避してもいつまでも屋内にとどまることなど非現実的である。

5 大飯原発は今すぐ、廃炉にすべきである
 原発の本質の一つは、事故を起こしたときに、その被害が何十kmもの広範囲にわたる点にある。このような、原発は、今すぐ、廃炉にするべきである。

以 上

◆原告第70準備書面 第4
なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか

1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)


第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか


1 序
 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定して基準地震動を策定している。これに対して熊本地震は,前震がM6.5,本震がM7.3であり,地震エネルギーとしてみると,M7.8の地震は,M6.5の地震の約90倍,M7.3の地震の約5.6倍も大きなエネルギーである。

 それにもかかわらず,M7.3の地震が発生した場合でも基準地震動を上回る地震動が生ずることが明らかとなった(第2)。それはなぜか。


2 震源特性の違い

(1)断層破壊の不均質性

 レシピによる基準地震動の計算では,各小断層で同じ波形の地震波が発生し,次々値観測点に到達しているとする。しかも,小断層から次の小断層への破壊伝播速度は一定である。

 実際は,震源断層面上で発生する地震波は,断層面上の場所によって異なる(場所によって応力の大きさ,向きが違うため)うえ,破壊伝播速度も変化する。このため,観測点での実地震波形は,レシピによる計算波形に比べ,スムーズではなく,ギクシャクしており(バラついており)均質ではない。

 レシピは,これまでの観測波形の平均値(平均像)で考えているが,波動の平均値が同じであっても,ギクシャクの程度によって,ピーク値,応答スペクトルは変化することは自明である。このことは,平均値・平均像を用いることの限界を如実に示すものである(第16準備書面等)。

(2)断層走向の影響

 震源から出る波には,断層の走向と断層すべりの方向との関係に依存した放射特性と破壊伝播に依存するディレクティビティ効果がある。FO-B~FO-A~熊川断層の場合,断層走向方向(北西-南東方向)および直交方向(北東-南西方向)の震動成分が大きく(レシピ計算でも同様),NS・EW方向では小さい。それにもかかわらず基準地震動はNS・EWで計算しているため,それだけ過小評価となっているのである。

 熊本地震は,このことを明瞭に示している(上記第2・7)。


3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)

(1)解放基盤の速度の違い

 解放基盤の速度が大きいと地震動は小さく計算される。関電は,基準地震動を計算するための地盤構造モデルを策定するにあたり,解放基盤の速度を,物理探査および地質調査の結果を無視して,P波速度は4.6km/s,S波速度は2.2km/sといずれも大きく設定した(これは原子炉建設時の許可申請時に用いた値を踏襲したもの)。例えば,試掘坑における弾性波探査結果について関電自ら「解放基盤のP波速度を4.3km/sと評価した」と表明している(丙196・9,10頁)にもかかわらずこれを無視したのである。さらに,3号炉付近の値は,P波速度は4km/s以下,S波速度は2km/s以下である(甲422・4~7頁)。

 なお,被告関西電力が作為的に地盤構造モデルを策定していることについては,原告第69準備書面・第1(被告関西電力準備書面(22)への反論)で述べたとおりである。

(2)減衰量の違い

 地盤における地震波の減衰量が大きいと,当然,地震動は小さく計算される。被告関西電力は,地盤構造モデルの減衰量を算定するうえで,新潟平野の土質地盤の知見を大飯の岩盤に流用し,散乱減衰の理論を展開しながら散乱減衰の基本である周波数依存性について考慮していないなど,不合理な評価をしている(甲422)。

 土質地盤では岩盤よりも減衰が大きいが,関電のモデルでは逆に,大飯岩盤の減衰が,実測された大阪平野の土質地盤の減衰より1.5倍も大きいのである(甲481)。これについても原告第69準備書面・第1(被告関西電力準備書面(22)への反論)や原告第60準備書面等で指摘している。

以 上

◆原告第70準備書面 第3
「おつきあい地震断層」について

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第3 「おつきあい地震断層」について

1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ


第3 「おつきあい地震断層」について


1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」

 技術の進歩により,2016年熊本地震以降,いわゆる「おつきあい地震断層」の詳細が明らかとなってきた。それが,「だいち2号(ALOS-2)」に搭載された合成開口レーダー(SAR)である。SARによって,2016年の熊本地震(M7.3)以降,2018年の大阪府北部地震(M6.1),北海道胆振東部地震(M6.7)で類似の特徴を有する地変が観測され,「おつきあい地震断層」と呼称されて学会で認知されるようになってきた。

 これら「おつきあい地震断層」の共通した特徴は以下のとおりである。

  • 標準的な長さは数km,直線もしくはゆるやかな曲線状の変位が連続し,断層を挟む変位量は数cmから数10cm程度である。
  • 震源断層から離れており,震源断層または直接の分岐断層である可能性は低い。
  • 大きな地震動を出したとする証拠は確認されていない。
  • 自ら動かずに受動的に動かされたと考えられ,大きな地震の原因ではなく結果として断層変位が生じた。
  • 走向や変位の向きは周辺の応力場と整合的である。

 以上の特徴から,おつきあい地震断層は,強震動を発生した震源断層付近の既存の構造弱面が,地震を発生した地域の地殻応力によって強震動を発生することなく「くい違い」,地表に直線状の変位として出現した地変と考えられている。そして,このような受動的な断層の活動が地震時に多数発生し,それ自身が大きな地震動を発生することはないが,地表のずれによる被害や地震動の増幅をもたらすことになる。

2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性

 大飯原発サイトは直近のFO-A断層から南西に約2km離れている。次頁(19頁)の上図のとおり,敷地にはF-1~F-6,f-1~f-4,A~Eの15本の断層破砕帯が確認されている。
《図省略→目次ページにリンクのあるPDFファイルに掲載。以下同》

 また,下図のとおり,破砕帯には無数のシームが付随しており,地盤の弱面を形成している。
《図省略》

 従って,FO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の地震が発生すれば,これらの断層破砕帯に沿って「おつきあい地震断層」が生じることになる。例えば,3号炉直下のF-3破砕帯は,長さ約190m,最大幅50cm,走向はほぼ南北,傾斜角は北西約60°である。若狭湾地域は東西方向に主圧力軸をもつ地殻応力下にあるので,F-3破砕帯では逆断層が生じ,3号炉直下の北西側が最大10数cm隆起する。

 基準地震動はFO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の地震を想定した強震動を評価しているが,おつきあい地震断層による地表変位と,地表変位による地盤震動特性への影響は,地震による危険性として考慮されていない。規制委員会の議論でも俎上に上がっていない。被告関西電力は,最新の知見を耐震安全評価に組み込んでおらず,危険性が認められる。

3 まとめ

 「だいち2号(ALOS-2)」に搭載された合成開口レーダー(SAR)により,2016年熊本地震(M7.3),2018年大阪府北部地震(M6.1)および2018年北海道胆振東部地震(M6.7)に伴って「おつきあい地震断層」が生じていることが明らかになった。

 このように,災害をもたらした地殻内の大地震では,地盤の弱面に沿って「おつきあい地震断層」が生じていることから,FO-B~FO-A~熊川断層によるマグニチュード7.8の想定地震によっても大飯原発敷地に存在するF-1~F-6,f-1~f-4,A~Eの15本の断層破砕帯に沿って「おつきあい地震断層」が生じる危険性がある。「おつきあい地震断層」による地表変位と地表変位による地盤震動特性への影響を耐震安全評価に組み込む必要があるのであり,それがなされていない現状では,危険が到底払拭できないのである。

◆原告第70準備書面 第2
熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ


第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合


1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域

 熊本地震についてAsanoandIwata(2016)が設定した断層モデルによる,断層面の地表面投影図と断層面上のすべり量分布図は次頁(5頁)の図のとおりである。

《図省略》

 上図の地表面投影図では,前震の断層面の傾斜はほぼ鉛直であるので,震源断層は青色の直線で示されている。本震の断層面は両セグメントとも傾斜しているので断層面は幅を持って示されている。KMMH16観測点は前震の断層線から約2.5km離れている。本震では,観測点は布田川断層面(北東側セグメント)の上に位置している。

 中図と下図はそれぞれ前震と本震の断層面上のすべり量の分布を示している。両図とも右側が南西方向であるので,上図の平面図とは逆の位置関係にあることに留意する必要がある。中図に示した前震は深さ8.5km付近で断層破壊が始まりその周辺付近ですべり量が大きい。下図の本震では,右側(南西側)の日奈久断層面上の☆印で破壊が始まり,破壊が伝播して左側(北東側)の布田川断層中央部付近のすべり量が最も大きい。


2 地震波の入射位置の設定

 KMMH16地中観測点はVs=2.7km/s(標高-197m)の岩盤に設置されているところ,関電地盤モデルにおいて同じVs=2.7km/sの層は深さ0.79kmの第6層である。

 そこで第1~5層を地盤,第6層以下を地震基盤と考え,第6層から第5層に熊本地震で観測された加速度記録の地震波が入射した場合の地表面の地震動を計算する。


3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録

(1) 前 震

 前震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(7頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は237ガル,EW成分は178ガルである。
 地震波の震幅は断層の走向と振動方向の関係によって変化しており,次々頁(8頁)の図のとおり,震動方向によって加速度ピーク値の最大値と最小値には1.56倍の開きがある。

《図省略》

(2) 本 震

 本震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(9頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は159ガル,EW成分は243ガルである。

《図省略》


4 地盤構造モデルと地盤による増幅率

 KMMH16地中観測点で記録された地震波動が大飯原発原子炉直下の地盤に入射したとして,原子炉が設置されている岩盤(解放基盤)の地震動を評価する。検討に用いる地盤構造モデルは,被告関西電力が基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)と,3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)である。

(1) 関電地盤モデル

 基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)の定数と地盤増幅率は次頁(10頁)の図「関電地盤モデル」のとおりである。

《図省略》

 被告関西電力が基準地震動を評価した地盤モデルでは,第6層のS波速度が2.7km/sであるので,この層から上部の地盤にKMMH16の波形が入射するとする。増幅率は表面効果により全ての周波数で2倍である。第1層のS波速度が2.2km/sと大きく層厚も大きいので,表層による増幅効果は小さい。また,減衰量(h)が大きく設定されているので,増幅率は高周波数域に向けて大きく減衰している(この点については第60準備書面6頁以下で詳述)。

(2) 3号炉地盤モデル

 3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)の定数と地盤増幅率は上図「3号炉地盤モデル」のとおりである。

 既述のとおり,関電地盤モデルの減衰定数(h)は,大阪平野の土質地盤の値よりも約1.5倍大きい。岩盤の減衰が土質地盤よりも大きいことはあり得ないので,減衰定数は関電モデルの値の1/1.5(=2/3)とした。3号炉地盤モデルの増幅率は,関電地盤モデルに比べ,8Hz以上の周波数域で1.2~1.5倍大きい。


5 地盤モデルへの入力地震波

(1) 距離減衰量の補正

 熊本地震のKMMH16地中加速度記録をFO-B~FO-A~熊川断層に適用するにあたっては,前震および本震のすべり量の大きい領域(強震動生成域)が原発サイトの直下付近であるとして,KMMH16の記録波形に距離減衰量を補正(補正量kを算出)して地盤モデルへの入力波とする必要がある[脚注1]

 そこで前震及び本震における補正量を求めると次のようになる。

[脚注1] 補正量kの算出方法は次のとおり。
《数式省略》

(2) 前 震(M6.5)

 前震の断層面はほぼ鉛直(傾斜角89°)であり,強震動生成域の深さを10km(図1)とすると,KMMH16地中観測点までの距離は12.4kmとなる。

 大飯原発サイトはFO-A断層線から南西方向に約2km離れており,また地盤下部のVs=2.7km/s層の上面は深さ0.79kmであるので,強震動生成域からの距離は9.4kmである。

 波面の拡がりによる幾何減衰補正量は1.32,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.068~1.040であるので,簡単のために1.05とした。従って補正量kは1.39となる。

(3) 本 震(M7.3)

 本震の布田川断層中央部の強震動生成域の深さを,断層面に沿って8km(図1)とすると,断層面の傾斜は65°であるので,深さは7.25kmとなり,KMMH16までの距離は11.7kmとなる。

 FO-A断層面も同じく65°南西側に傾斜しているとすると,強震動生成域は大飯原発サイトの南西側約1kmとなり,サイト直下のVs=2.7km/s層上面までの距離は6.54kmとなる。

 幾何減衰補正量は1.79,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.120~1.069であるので,簡単のために1.08とした。これによると補正量kは1.93となる。


6 大飯原発サイト解放基盤における強震動

 前震と本震について,それぞれ関電地盤モデルおよび3号炉地盤モデルに入射した場合の地表面(解放基盤)における加速度波形と加速度応答スペクトル(h=0.05)を計算すると,次のとおりとなる。

(1) 前 震

ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=659ガル,Peak_EW=487ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=780ガル,Peak_⊥=655ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=735ガル,Peak_EW=528ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=841ガル,Peak_⊥=741ガルであり,Peak_∥の値は,基準地震動856ガルの98.2%である。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

(2) 本 震

 ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=656ガル,Peak_EW=988ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.15倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で最大約3.8倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=760ガル,Peak_⊥=1013ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.18倍となっている(ただし,断層平行・直交はそれに近いという意味で使っており,断層平行はN15°E,直交はN105°Eの方位である)。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=697ガル,Peak_EW=1067ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.25倍となっている。
・ 応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で最大約4倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=812ガル,Peak_⊥=1095ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.28倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

(3) 被告関西電力の策定した基準地震動との比較

 以上のとおり,熊本地震の本震による速度応答スペクトルは,0.5秒以上の周期で基準地震動Ss-2~Ss-18より2~8倍,平均して4倍程度大きい。M6.5の前震でも0.3秒以上の周期で基準地震動と同程度の振幅である。

 基準地震動は「レシピ」に従って計算されたM7.8地殻内地震の平均的な地震動である。熊本地震は地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされている。解放基盤の地震動を応答スペクトルで評価すると,M7.8の地震を想定した基準地震動は,0.3秒以上の周期帯でM6.5の実地震と同程度,0.5秒以上の周期帯ではM7.3の実地震の1/4程度の大きさでしかない。

 基準地震動の想定するM7.8と,熊本地震のM7.3とでは,地震の規模が何倍も違っており,後者の程度の地震が発生する可能性は十分にある。被告関西電力の基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,そのような地震に耐えられないということである。


7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係

 8頁の図のとおり,熊本地震の前震の地震動の振幅は,断層の走向と同じ方向及び直交する方向の2方向で大きくなっている。これには,断層面のすべりの方向で決まる地震波の放射特性(ラディエーション・パターンradiation pattern[脚注2])と断層破壊の伝播方向(ディレクティビティdirectivity[脚注3])とが関係する。

 震源断層に近い強震動は,1995年兵庫県南部地震(M7.3)で強く認識されたように,震源断層に直行する方向に強く揺れる。ディレクティビティ効果によって断層直交方向の震動が卓越することが,モデル計算によっても明らかにされた。かかる効果の影響を受け,南西-北東方向である震源断層の走向と概ね平行して伸びていた鉄道や道路網などが,横倒しになり,あるいは横方向にずれたのである。近似の研究により,このディレクティビティ効果は震源断層近傍の普遍的な現象であることが明らかとなってきた(甲515516)。

 断層破壊を仮定した強震動予測は,次頁(16頁)の図のように,断層面上の要素断層が次々に破壊して生じる地震波の重ね合わせとして表現される。

[脚注2] 断層運動(すべり)によって生じる地震波の振幅は,波の伝播方向に依存して変化する。この方向特性をラディエーション・パターンと称する。
[脚注3] 断層面上で破壊の伝わる速さはS波速度よりやや小さい。そのため,破壊の伝搬方向にある観測点では,次々と伝わってくる断層破壊の震動が建設的に干渉して大きく増幅される。この現象を「ディレクティビティ効果」と呼ぶ。救急車が近づいてくる際のドップラー効果に似ている。

《図省略》

 微小な要素断層のS波のラディエーション・パターンは4象限型をしており,最大振幅の方向は,断層すべりの方向とその直角方向とであり,その重ね合わせも概ねこの方向性を保持している。このような指向性を有する水平動成分の振幅は,地震計の設置方向に依存して変化するため,地震動の振幅は,記録する地震計の設置方位によって見かけ上異なることとなる。

 被告関西電力は,大飯発電所の基準地震動(総括)として,最終的にSs-1~Ss-19を策定し,最大加速度は,水平がSs-4の856ガル,鉛直がSs-14の613ガルと評価して,それぞれの加速度波形と応答スペクトルを提示している。水平加速度ピーク値が最大のSs-4は,NS方向が546ガル,EW方向が856ガルである。しかし,表示されている加速度波形が同位相(同時刻の波)であるとすると,最大のピーク値は,EW成分の856ガルではなく,概ね北東-南西方向の1,015ガルである。この方向はFO-B~FO-A~熊川断層モデルの走向に直交する。

 水平動成分の基準地震動は,断層走向に応じてディレクティビティ効果を考慮し,最大震動方向によって評価しなければならないのである。被告関西電力はこれを怠っており,過小評価となっている。規制委員会でも,ディレクティビティ効果を踏まえた検討はなされていない。


8 まとめ

 基準地震動を計算した大飯原発直下のアスペリティに熊本地震本震(M7.3)の強震動生成域が生じたとすると,解放基盤における加速度ピーク値は,関電地盤モデルでは水平動成分の向きにより最大1,013ガル,また3号炉地盤モデルでは最大1,095ガルに達する(上記(6))。これはM7.8 の地殻内地震を想定しているはずの基準地震動856ガルの1.18~1.28倍である。また,解放基盤における応答スペクトルを基準地震動Ss-1の応答スペクトルと比較すると,速度スペクトルの値はM6.5の前震でさえ0.3秒以上の周期帯でSs-1と同程度~2倍近く,M7.3の本震では0.5秒以上の周期帯ではSs-1の4倍に達する(同)。このように,被告関西電力が独自に策定した基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,2016年熊本地震に耐えられない。

 熊本地震の観測記録の水平動成分は,断層モデルから射出される地震波のラディエーション・パターンとディレクティビティ効果とに起因して,断層走向に平行な方向および直交方向の成分が大きい。基準地震動はFO-B~FO-A~熊川断層を北西-南東走向の横ずれ断層としてモデル化しているため,水平動成分をNS・EWの座標系で表すと,最大で3割程度過小に評価することになる。

 以上のとおり,熊本地震にて現に観測された加速度記録を適用してみると,大飯原発の基準地震動が過小評価であることが判明する。大阪北部地震で現に観測された記録を元にした第60準備書面と併せ,想定地震と現に発生した地震との違いを顕著に表すものであり,第64準備書面その他でこれまで原告が繰り返し指摘してきた過小評価の危険性をさらに裏付けている。

◆原告第70準備書面 第1
本書面の概要(甲514)

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次


第1 本書面の概要(甲514)

 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定し,独自に作成した地盤構造モデル(関電地盤モデル)によって基準地震動を策定している。すなわち,基準地震動を,地殻内地震のスケーリング則に準じたM7.8の地震の震源特性と関電地盤モデルによるサイト特性とにより計算しているのである。この際,スケーリング則が内包する1.4倍の偏差を考慮していないが,保守性については短周期の振動レベルを1.5倍にするなどしてこれを持たせているとしている。

 これに対して原告らは,既に第60準備書面において,大阪北部地震をFO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価し,基準地震動が過小評価であることを明らかにしているが,本書面では,赤松意見書(甲514)に基づき,2016年に発生し,地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされる熊本地震の加速度記録を用いて同様の評価を行うこととする。FO-B~FO-A~熊川断層で,スケーリング則に従う熊本地震と同じ震源特性を有する地震が発生したとき,基準地震動を越えないのであろうか。

 熊本地震は前震がM6.5,本震がM7.3と,本震の方が規模が大きくなっている(エネルギー費で15.8倍)。第60準備書面では大阪北部地震のM6.1を基準地震動における想定=M7.8にスケールアップして評価したが(第60準備書面3~4頁),本書面では熊本地震のM7.3等をそのまま適用して評価する。具体的には,熊本地震の震源断層の直近にある防災科学技術研究所の基盤強震観測網(KiK-net)の益城観測点(KMMH16)の,S波速度(Vs)2.7km/sの岩盤に設置された地中地震計で記録された,前震で289ガル,本震で287ガル(3成分合成)の加速度波形を,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して原子炉基盤面の地震動を計算し,大飯原発の基準地震動と比較する。

 これにより,基準地震動が,スケーリング則の平均値による震源特性と,増幅率を小さくする関電地盤モデルであることとの相乗効果によって,過小に評価されていることを明らかにする(下記2項(1)ないし(6))。また,地震動は断層走向方向の成分および直交成分が大きいので,形式的に東西,南北方向成分で計算した基準地震動は過小評価であることも合わせて指摘する(下記2項(7))。これらは,第60準備書面同様,現に発生した地震の観測データを,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものであり,実際にあった断層破壊過程が用いられているのであるから,地震動評価の信頼性は格段に高い。

 さらに,新たな視点として,FO-B~FO-A~熊川断層が震源断層となった場合,最新の技術・知見によって解明されてきた「おつきあい地震断層」により,敷地内断層破砕帯とそれに伴うシームが原子炉建屋の立地する基盤面に「くい違い」を生じさせる危険性のあることを明らかにする。この点について,原子力規制委員会では一切議論されていない。

◆原告第70準備書面 目次
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

原告提出の第70準備書面

目 次

第1 本書面の概要(甲514)

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合
1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ

第3 「おつきあい地震断層」について
1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか
1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)

◆原告第69準備書面 第2
被告関西電力準備書面(23)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第2 被告関西電力準備書面(23)への反論

1 被告関西電力の主張の概要
2 2018年の大阪北部地震について
3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について


第2 被告関西電力準備書面(23)への反論


1 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,準備書面(23)において,①原告らが第60準備書面において大阪北部地震を踏まえた主張を行ったことについて,独自の手法に基づくものにすぎないなどと反論し,②地下構造モデルに関する原告らの主張については従前の主張を繰り返し,具体的な反論は行っていない。

 そこで,これらの点について必要な範囲で改めて述べる

2 2018年の大阪北部地震について

(1) 被告関西電力の主張

 この点に関する被告関西電力の主張は,

㋐ 基準地震動は,地震本部によるレシピを参照し,過去の地震ないしは地震動の単なる「平均像」ではなく,平均像を導いた過去のデータがばらつきを有していることを踏まえて不確かさを適切に考慮し,充分保守的な断層モデルで適切に策定されている,

㋑ 大阪府北部地震は,想定しているFO-B~FO-A~熊川断層の震源域で発生した地震ではないから,経験的グリーン関数法に基づいた検討を行っているわけではなく,原告らは単に独自の手法に基づいて算定した結果をもとにして基準地震動は過小評価であると主張しているに過ぎず理由がない,

ということに絞られる。

(2) ㋐について

 この点の被告関西電力の主張の誤りは既に述べてきた。

 同被告の主張のとおりであれば,スケーリング則に合うM7.8の地震では基準地震動以下の地震動しか生じないはずである。この点,大阪北部地震(M6.1)もスケーリング則に合った地震であるから,これをスケーリング則によってM7.8にスケールアップしたとしてもやはりスケーリング則に合う地震であり,このようにしてスケーリング則に合う大阪北部地震(M7.8にスケールアップしたもの)と同様の地震が発生したとしても,基準地震動以下の地震動しか発生しないことになる。しかし,実際にはそうではない。原告第60準備書面で述べたとおり,基準地震動を超える地震動が生起されるのである。その理由は,スケーリング則そのものの性質や被告関西電力が減衰量(h)を過大に設定していること,震源特性・サイト特性によるものである(原告第67準備書面同70準備書面で詳述)。

 基準地震動が保守的ではなく,被告関西電力の主張が誤りであることはやはり明らかである。

(3) ㋑について

 被告関西電力は,原告らが経験的グリーン関数法に基づいていないと主張しているが,原告らは経験的グリーン関数法を用い,大阪府北部地震M6.1をスケーリング則に基づいてM7.8大阪府北部地震にスケールアップしているのであるから,前提からして誤っている。何ら「独自の手法に基づいて算定した」ものではない。その上で原告らは,このM7.8大阪府北部地震と同じ震動特性の地震がFO-B~FO-A~熊川断層で発生したとして大飯サイトの地震動を計算したのである。

 こうして計算した地震動が,被告関西電力の策定したレシピに従う「平均像」に保守性を持たせた基準地震動を超えるというのが原告第60準備書面の結論である。M7.8大阪府北部地震は,スケーリング則の「平均像」から何某かの「ずれ」を当然含んでいる(もちろん,「ずれ」を含むことは実際に発生した・発生するすべての地震に当てはまる。)が,この「ずれ」はスケーリング則のばらつきの範囲に収まっている(=大阪北部地震はスケーリング則に合っている。)。現に他の場所で起こった,そのようにスケーリング則に合う実際の地震が,大飯サイト近傍で発生したらどうなるかということを論証したのである。

 スケーリング則は,それぞれ異なる震源特性とグリーン関数(ある点に瞬間的に力を加えた場合の別な点の応答を関数で示したもの。経路の伝播特性とサイト特性の重畳。)を持った過去の地震をもとにした平均像である。スケーリング則にばらつきがあるのは,それら震源特性とグリーン関数に平均値からのずれが存するためである。このような過去の地震のスケーリング則に保守性を持たせた基準地震動が,他の場所で実際に起こったM7.8の地震の震源特性とグリーン関数の平均値からの「ずれ」を吸収できないのである。

 この関係は次式のように示される。被告関西電力が持たせたと主張している「保守性」では,実際の地震において生ずる平均像からのずれを吸収できない。「保守性」が不十分だからに他ならない。

[基準地震動]=[平均像]+[保守性]<[平均像]+[ずれ]=[実地震]

3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,この点に関する原告第60準備書面における原告らの主張に対し,具体的に反論していない。ただ従前の主張を繰り返すのみである。

 従前の主張と重複するが,改めて,

㋐ 微動のアレイ観測による観測結果の逆解析から直接導かれるインバージョンモデルから,厚さ80mにおよぶS波速度0.5km/sの第1層をカットしてP波速度4.6km/s,S波速度2.2km/sの第2層を解放基盤としたことについて,「被告は,ボーリング調査やPS検層によって地盤の状態を直接把握して,本件発電所敷地の浅部にS波速度約2.2km/sの堅硬な岩盤が広がっていることを確認し」た,

㋑ 敷地地盤の地震波減衰係数を標高-180mまで3%,それ以深を0.5%としたことを,引用文献と敷地での実験結果から合理的である,

とする点について述べる。

(2) ㋐について

 被告関西電力は,これまでは,大飯原発敷地浅部の速度について,PS検層,試掘坑における弾性波探査,反射法地震探査の屈折法解析結果の3つを示して主張していた。これらはいずれも原位置で直接測定されたものである。

 ところが,今回論拠として挙げたのはこのうちPS検層のみであり,新たに別途,ボーリング調査を論拠に挙げている。しかし,当該「ボーリング調査」の内実について具体的な主張・立証がなく,ただ結論を述べるのみであるから,これを認める余地はない。

 仮に岩質やRQDの値(被告準備書面(22)にあるもの)を指しているのであるとすると,既にこの点については述べている。むしろ,被告関西電力が行った調査の元データを通覧することにより,岩質が均質ではないことやP波速度が小さいこと,地下深部に低速度層が存在すること,RQDの値が「普通」以下に分類されることなどが明らかとなっているのである(原告第67準備書面甲510)。

 上記のとおり,被告関西電力が今回その主張の論拠として挙げなかったものとして試掘坑における弾性波探査があるが,その結果であるとして被告関西電力は,「P波速度4.3km/s,S波速度2.2km/sと評価した」としている。しかし,この点も既に指摘したところであるが,被告関西電力の元資料に記載されている速度の算術平均値は,全体でS波は(2.141±0.335)km/s,3号炉側では(2.017±0.369)km/sとなっている。2.2km/sとの記載はない。また,P波速度については被告関西電力自ら4.3km/sという結果を示しながら,これらを無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのである。

 試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果について,被告関西電力は,「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」と規制委員会には報告している(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁)。4.6km/sではない。3.0km/s~5.2km/sという大きな速度変化について,敷地に存在する断層破砕帯とそれに付随するシームの分布に依存して場所的に変化していることについては既に甲422で詳述したが,被告関西電力はこの点に関して何らの分析も行っておらず,検討不十分である。

 被告関西電力は,同被告が柔らかい表層部分を割愛したことを批判してきた原告らの主張に対し,同準備書面では,「最終的な地下構造モデル策定の際に柔らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在しない表層部分(各観測地点には存在する)を含んだインバージョン解析を実施した」と論調を変えつつもなお正当化しようとしている。

 改めて指摘するまでもないであろうが,原告らは,原子炉建屋の基盤表面にS波速度0.5km/sの柔らかい表層が存在していると主張しているのではない。

 既に述べたとおり,インバージョン解析で,解放基盤相当の第2層が標高-36.5mの深部に求まるという齟齬は,第2層の速度を実測値ではなく,それより大きい速度,すなわちP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sとしたために生じたものである。インバージョン解析では,計算機は与えられた拘束条件(速度値)の下で,観測された位相速度を説明するための最適解(層厚)を出す。拘束条件のS波速度は,第1層0.5km/s,第2層2.2km/s,第3層2.3km/sと第2層以下は0.1km/s刻みで増加させている。第2層以下は0.1km/sの増分であるのに,第1層から第2層へは1.7km/sもジャンプさせている。観測された位相速度は周期約0.65秒以下で1.4~2.0km/と2.0km/s以下であり,この小さい速度を説明するためには大きい速度の2.2km/s第2層を深くせざるを得ないのである。このように,軟らかい表層部分(第1層)を取り除くことを前提として第2層を2.2km/sとしたのは,建設時の設置許可申請における解放基盤の速度値2.2km/sを踏襲したためである。これこそが上記齟齬の原因である。

 本来は,柔らかい表層から解放基盤とする岩盤までの速度の増分を1.7km/sとジャンプさせるのではなく,細かく設定して原子炉建屋の立地する標高0m付近の速度値を求めなければならない。このことについては,既に甲422甲481及び本準備書面第1・3・(4)で詳述した。

(3) ㋑について

 この点についての被告関西電力の主張は,被告準備書面(22)・第3・4と同じであり,既に反論済みである。すなわち,原告らは,甲422で,例えば新潟平野の土質地盤の知見を大飯岩盤に流用していること,散乱減衰の理論を展開しながら散乱減衰の基本である周波数依存性について考慮していないことなどを指摘しているのである。しかし,被告関西電力はこれらに全く反論できていない。

 また,本来,土質地盤では岩盤よりも減衰が大きいのであるが,被告関西電力のモデルではなぜか逆に,大飯岩盤の減衰が,実測された大阪平野の土質地盤の減衰より1.5倍も大きくなっており,逆転しているのである(甲481)。被告関西電力はこのことについても反論できていない。

以 上

◆原告第69準備書面 第1
被告関西電力準備書面(22)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第1 被告関西電力準備書面(22)への反論

1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要
2 ①に関して
3 ②に関して
4 ③に関して


第1 被告関西電力準備書面(22)への反論


1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要

 準備書面(22)において被告関西電力は,以下の原告の主張(原告第56準備書面)について反論をしようとしている(22頁以下)。その反論はいずれも誤った理解・解釈によるものであり,特段新たに再反論することでもないが,念のためその主張の非合理性を指摘する。

① 地下構造モデル策定のために実施した反射法地震探査等の各調査に関し,その調査結果を恣意的に解釈し,速度の落ち込みや破砕帯の存在等を無視して解放基盤表面を設定した上で,本件発電所敷地内の地下構造が水平成層構造であると根拠なく評価しており,三次元地震探査は行っておらず,当該調査に関する被告の評価については原子力規制委員会において十分審査されていない。

② 観測位相速度が単調に増加していないにもかかわらず,理論位相速度が単調増加する速度構造モデルを根拠なく策定しており,また,インバージョンモデルから表層部分を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになる。

③ 地下構造モデル(地震動評価モデル)の第1層の減衰定数の設定方法等について,被告が具体的に説明していない。

2 ①に関して

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「地質調査により,本件発電所敷地の地下に,火成岩(深成岩)として硬岩に分類され,一般的な弾性波速度も軟岩と比して高く,岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認するとともに,物理探査により,かかる堅硬な岩盤の細部に若干の速度低下が認められる部分はあるものの,概ね深度に応じて速度が漸増しており,地震動を顕著に増幅させるような特異な構造も認められないことを確認したことから,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなしている。」(23~24頁)と主張しているところ,地質調査で「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したとして,原子炉建屋付近の「図表1地質断面図(地層区分)」と「図表4岩石の弾性波速度」を示している。

 該当部分は次のとおり。

《図省略》
「図表1地質断面図(地層区分)」

《図省略》
「図表4岩石の弾性波速度」の深成岩表示部分

(2) 岩盤を構成する岩石の種類と地層

 上記地質断面図において,下層の黄緑色表示のDsは輝緑岩,上層の桃色表示のQdは細粒石英閃緑岩とされ,被告関西電力は,図表4を示して「一般的な弾性波速度も,輝緑岩が約4.5km/s,細粒石英閃緑岩が約4.0km/s~約4.5km/s」であると説明し,下層ほど速度が大きくなっていると印象づけようとしている。

 しかし,被告関西電力のこの説明は正しくない。

 上記図表4は「物理探査ハンドブック増補改訂版」を引用したとしているが,その物理探査ハンドブックは,服部・杉本(1975)「岩石のP波伝播速度に関する統計的研究-Ⅰ」(甲513)にさらに依拠している。そこで,原典の服部・杉本(1975)の元データを次に示す。

     平均値    最大  最小(km/s)
閃緑岩  4.35±0.16  5.85  2.64
輝緑岩  4.30±0.27  4.91  3.42
(甲513・6頁・表-2 P波速度の岩種別統計値より)

 被告関西電力は,原典の服部・杉本(1975)が閃緑岩について(4.35±0.16)km/sとしているのを4.0~4.5km/sと,輝緑岩について(4.30±0.27)km/sとしているのを4.5km/sと,いずれも正確に引用していない。むしろ恣意的「引用」というべきである。服部・杉本(1975)に基づき,被告関西電力のいうように「一般的な弾性波速度」で正しく説明するなら,同被告の主張とは逆に,下層の方が速度は小さいのである。

 また,図表1地質断面図(地層区分)において,細粒石英閃緑岩と輝緑岩の境界は,4号炉直下では標高-100~-120m,3号炉直下では標高-50~-70mと約50mの違いがある。断面図の縦横比は1:1であるので,地層は約20度以上傾斜していることになる。20度「以上」というのは,地質断面の測線C-C’が最大傾斜の方位とは限らないからである。

 被告関西電力の示す図表は,同被告の主張とは反対に,「地質調査の結果,地層に傾斜があり,下層ほど速度は小さい」ことを示している。

(3) 岩級分類による岩級

 被告関西電力は,「岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したと主張し(23頁),図表6を示している(18頁)。

《図省略》
【図表6地質断面図(岩級区分)】

 この図表6では,地表近くの一部と断層破砕帯に沿ったやや脆弱なCM級(黄色表示)の分布を除き,標高-200mの深部までCM級より堅硬なCH級(水色表示)が一様に広がっていると彩色表示されている。

 しかし,原告第67準備書面で詳述したとおり,被告関西電力が自ら行ったボーリング調査結果の元データは,標高約-300mの深さまでCM級とCH級とが交互に現われ,標高-270mの深部においても厚さ16mに及ぶCM層が存在すること,標高0~-150mの深さでは,CM層は全体の37%(約55m厚)に達すること,3・4号炉の北西側から,炉心直下,南東側へCM級以下の岩盤の割合が31.3%,33.1%,47.7%と系統的に増加し,岩盤が脆弱になっていること等を示している。「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっている」は事実ではない。そして,これらの点について規制委員会では議論がされていない。

(4) 物理探査結果の歪曲

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らの主張はいずれも,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず(自然の岩盤である以上,風化,変質,亀裂,節理及び破砕帯等が全く存在しない完全なる均質な岩盤など,存在し得ない。),被告の上記評価の合理性を何ら否定すべきものではない。なお,原告らは屈折法解析,単点微動観測,はぎとり法解析等の結果から,解放基盤表面のS波速度,P波速度の設定に問題があるとするが,既に被告準備書面(17)で述べたとおり,原告らはそれぞれの調査の目的を理解することなく,データを断片的に取り上げて,批判をしている。例えば,原告らは,はぎとり法解析について,独自の解釈をして,本件発電所の解放基盤表面のP波速度は4.6km/sにはならないと主張する(原告ら第56準備書面7~8頁)。しかし,上記のとおり,被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している。」(24頁)と主張する。

 これが物理探査結果を歪曲した虚偽の主張であること,原告は「データを断片的に取り上げて,批判している」のではなく,逆に被告関西電力が殆ど全てのデータを無視して地盤構造モデルを独自に恣意的に作り出していると批判していること,を明らかにする。

イ 反射法地震探査の屈折法解析

 被告関西電力は,「屈折法解析結果により,表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる」とし,追加のはぎとり法解析で「やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度であった」と報告している(丙196,57,60頁)が,肝心の「やや深部」がどの程度の深さなのかは明示しようとしない。

 ところが,次図に示すように,3号炉,4号炉に近接する距離程800m付近の地表面の標高は30~40mであるから,「表層から50m程度」の深さ,すなわち,標高-20~-10mで速度は2.0~2.5km/sでしかなく,「4km/s以上」ではない。「表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上」「やや深部…約4.5km/2程度」との被告関西電力の主張は,いずれも事実に反している。

 また,被告関西電力が自ら報告しているように,解放基盤とする建屋基礎岩盤では,「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第3.5.114図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁)。被告関西電力は,この点をも無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのであり,自己矛盾である。

《図省略》
反射法地震探査屈折法解析による速度断面
黄色破線:はぎとり法解析による最下層(Vp=4.5km/s層)の上面位置
(平成26年3月5日第89回審査会合資料3「大飯発電所の地盤モデルの評価について」57頁の一部を引用,加筆)

ウ PS検層結果

 被告関西電力は,「被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している」(24頁)と述べ,4本のボーリング孔におけるS波速度の分布図を提示して「ごく表層部において風化の影響等により,ややばらつきは見られるものの,ほぼ均質な地盤と考えられる。敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」(丙196・7頁)として解放基盤のS波速度を2.2km/sとしている。

 しかし,4本のPS検層結果の内2本は建設前の技術レベルの低いダウンホール方式による結果であり,基準地震動の見直しのために実施したフローティング方式による結果は,次図に示すように,標高-60mまで2.0km/s未満であったり,標高-100~-120mに2.0km/sの低速度層があったりする。また,ボーリング孔の位置によって浅部の速度は大きく変化する。被告関西電力は建設前の信頼度の低いデータに固執して速度を大きく見せかけ,より信頼性の高い見直し調査の結果が示す小さい値を意図的に無視しているのである。

《図省略》
PS検層結果(甲442のa href=”https://nonukes-kyoto.net/wp/wp-content/uploads/2018/01/kou422_zu.pdf”>図1,2を引用。丙196・7頁より)

エ 単点微動観測の結果

 被告関西電力は,地下構造調査結果の可視化と称して反射法地震探査屈折法解析結果の速度断面に単点微動解析結果の速度構造境界の図を重ね,「屈折法によるP波速度断面と,単点微動データによる2層地盤推定結果は,概ね整合している」としている(丙196・58頁)。該当頁を下に引用する。

《図省略》
屈折法によるP波速度断面と単点微動データによる2層地盤推定結果
丙196・58頁を引用,加筆)

 図には,標高0mの位置を水色直線で,原子炉建屋付近の位置を茶色楕円で示した。単点微動観測の第2層(紺色)上面は概ね標高0m付近にある。

 凡例に示されるように,この層のP波速度は3.7km/sである。P波速度断面図では,標高0m付近は黄色と黄緑色との境界付近,すなわちP波速度2.0~2.5km/sである。

 被告関西電力は,このように実際には1.5~1.9倍もの違いがあるのに,これを「概ね整合」と強弁し,しかも,基準地震動策定のための地盤モデルでは,そのいずれともかけ離れた値である4.6km/sを設定したのである。

オ 小括

 以上のとおり,原告は「データを断片的に取り上げて,批判をしている」のではなく,被告関西電力が調査結果の殆ど全てを無視し,解放基盤のP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sであると詐称し,基準地震動計算用の地盤モデルを堅硬であるように捏造していることを批判するのである。

 被告関西電力の準備書面(22)における反論は,まったく正鵠を射ていない。

(5) 反射法地震探査結果の恣意的表示

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らは,原子力発電所における地震動の増幅事例として,柏崎刈羽原子力発電所の事例を示している(原告ら第34準備書面11~21頁)。被告は,かかる原告らの主張を受け,被告準備書面(17)29~30頁において,本件発電所敷地には柏崎刈羽原子力発電所で見られるような特異な構造が認められない旨反論したところではあるが,この点の被告の評価について念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え,以下,この増幅事例と比較した本件発電所の地下構造に関する被告の評価を述べる」(24~25頁)として,柏崎刈羽原子力発電所と大飯原発の反射記録断面を示し,「反射法地震探査の結果を評価するにあたっては,以上のような特徴を考慮した上で,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝り(柏崎刈羽原子力発電所において見られるような大きな畝り)が存在するか否かに着目する必要がある。この点,本件発電所の反射法地震探査の結果に関して原告らが指摘する畝り等が,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝りでないことは明らかであり,また,特定の場所に地震波を集中させ得るような特異な形状はなく,原告らの主張は,被告の主張に対する有意な反論ではない」(26頁)と主張している。

イ 反射断面図

 以下に両地点の反射断面図を引用する。柏崎刈羽原発の記録には赤線で褶曲が書き込まれ,一見して大飯原発サイトには柏崎刈羽のような大きなうねりは無いかのような印象を与えている。

 しかし,実は,図の縦横比が両者で大きく異なっている。前者は1:1,後者は1:4なのである。大飯の断面図の縦方向は1/4に縮められ,うねりは1/4に縮小して表示される。これでは対比は不可能である。

 そこで,次頁に,大飯サイトの測線A-Aの断面図を柏崎刈羽と同じく1:1にして示す。大飯サイトの地下構造のうねりは,柏崎刈羽サイトのそれにも増して顕著であることが明瞭に示されている。

ウ 被告関西電力が反論を避けていること

 被告関西電力は,反射法地震探査の専門家である物理探査学会元理事の田村八洲夫氏と同学会元会長の芦田譲京都大学名誉教授が「断層に特徴的な回折波が存在する」と指摘したこと(甲423)に何ら回答していない。もちろん,規制委員会でもかかる「特徴的な解析波」については検討されていない。当該指摘には沈黙したまま,「念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え」て,直接比較できない図を示し,間違った理解に誘導しようとしているのである。

《図省略》
大飯原発サイトの縦横比1:1にした反射断面(A-A’測線)
赤枠は田村八洲夫氏の指摘する回折波(甲423

3 ②に関して

(1) 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,地下構造モデルにつき,次の3点について反論をしようとしている。

ⓐ 地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非

ⓑ PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無

Ⓒ 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非

 ここに「位相速度の逆解析」とは,微動アレイ観測で求まった表面波の位相速度から一次元の速度構造モデルを推定することであり,実際の三次元構造に一次元の水平成層構造を強制的に押しつける計算手法であること,及び,計算に先立ち押しつける一次元モデルの許容範囲を初期条件として与えていること,すなわち,あらかじめ欲しい構造モデルを初期条件として与えていること,に注意する必要がある。前記の3点は,被告関西電力が,前もって欲しい構造となるように,観測事実を無視して初期条件を与えたことについての論争点である。

 次表は,被告関西電力が設定した逆解析における速度構造モデルの初期条件である。第1層~第16層のP波速度(Vp),S波速度(Vs),密度を与え,各層の厚さだけを探索して,モデルの理論位相速度と観測位相速度とがなるべく一致するように厚さを決める。第1層は土質地盤として解析結果から除外することを前提としており,第2層が解放基盤である。解放基盤の速度は,Vp=4.6km/s(表の4.8km/sは誤記),Vs=2.2km/sは基準地震動見直し前の地盤モデルの値を踏襲,第2層以下の速度値は0.1km/s刻みで単調に増加させている。

 このように単調に増加すると仮定することは正しいのであろうか。

《図省略》
位相速度の逆解析における初期条件(丙196,106頁を引用)

(2) 一次元モデルとすること,および速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非(上記ⓐ

 被告関西電力は,「被告は,各調査結果を踏まえて,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し,かかる評価に基づき一次元の地下構造モデルを策定した。その上で,この地下構造モデルの理論位相速度を観測位相速度と比較したところ,両者が良く一致しており,策定した地下構造モデルが本件発電所の地盤の速度構造を精度良く評価していることが確認できた」と主張している(31頁)。

 しかし,原告第56準備書面で既に述べたように,全ての物理探査結果が共通して類似の傾向の速度値,物性値の場所による違いを示している。
すなわち,

(ア)PS検層結果における標高-60mまでのS波速度のボーリング位置による変化
(イ)試掘坑屈折法弾性波探査によるVp,Vsの3号炉近傍と4号炉近傍での違い
(ウ)試掘坑坑間弾性波探査(平均速度法)におけるVpの顕著な地域性
(エ)反射法地震探査反射断面にみられる地層のうねりと断層構造を示唆する回折波
(オ)反射法地震探査屈折法解析における低速度帯の顕著な落ち込み
(カ)単点微動観測(H/Vスペクトル)による基盤深さの地域性

など,全てが敷地に存在する断層破砕帯の分布に関連して類似の傾向を示しているのである。しかも,規制委員会の審査会合では,これらの調査結果の生データを示すだけで,詳細な分析結果に基づいた審査は行われていない。

 さらに,被告関西電力は,ボーリング孔における地質調査結果を引用して,断層破砕帯の存在には一切触れずに誤った解釈に導く作為的な図を提示し,地盤構造モデルの合理性を主張したのであるが,元データのボーリング柱状図は,

(キ)岩級区分,RQD,最大コア長の分布の地域性が上記物理探査の地域性と整合していること

を示しているにもかかわらず,これも隠蔽したままである。原発建設前にボーリング柱状図を作成しただけで,その分析を行わずに(あるいは,分析結果を隠蔽して)規制委員会の審査を終えている。

 被告関西電力は,「地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し」と主張しているが,全ての物理探査とボーリング孔地質調査が三次元不均質構造を示しているのであるから,それでもなお「地震動評価上,水平成層構造とみなせる」具体的で説得力のある根拠を示さなければならない。しかし,被告関西電力はその根拠を示していない。

 三次元構造の的確な把握の必要なことは論を待たないであろう。

 一次元モデルを策定する上で,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの非合理性について述べる。

 被告関西電力は,「原告らは・・・,理論位相速度について,観測位相速度は単調に増加していない事実を無視しているなどと述べて,理論位相速度と観測位相速度が完全に一致しなければならないかの如く主張する。しかしながら,位相速度の観測は,自然現象を数値化するものである以上,実際の自然現象を完全に再現して数値化することなど不可能であり,観測に伴う若干の誤差が生じることは当然である」と主張して,低速度層の存在を示唆する観測データの「うねり」を,単なる観測誤差にすり替えようとしている。

 被告関西電力の観測データと逆解析結果を次図に引用する。

《図省略》
観測位相速度(赤点)とモデルによる位相速度(黒線)(丙196,110頁)

 観測データ(赤点)とモデルによる理論曲線(黒線)とを比較すると,観測データは,単にばらついているのではなく,一定の傾向を示している。すなわち,周期0.7~2秒の範囲で理論曲線の周りにうねっているのであり,ランダムに散らばっているのではないのである。観測誤差であれば,真の値の周りにランダムに分布するはずである。観測値が周期の増加と共に単調に増加するのではなく「うねる」のは,速度の深さ分布に「うねり」があることを意味する。

 観測データの解析では,観測精度を誤差限界で示し,解析結果の信頼性を評価する。解析の手続きを踏まずに観測誤差であると「うねり」を無視することはしてはならない。被告関西電力は,観測データの「うねり」が逆解析の結果に反映しないようにするために,初期条件として速度の単調増加を与えたのである。

 前記(ア),(キ)の調査結果は低速度層の存在を明瞭に示している。観測された位相速度の「うねり」がこれら調査結果の低速度層に関係しないと主張するのであれば,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定しなければならない。逆解析に用いた山中(2007)のハイブリッドヒューリスティック探索は,速度値の探索も可能な解析方法であり,各層の速度値の探索範囲をオーバーラップして与えることで低速度層の探索が可能である。よって,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定することは可能である。可能であるのに,あえて行っていない。

 被告関西電力は,調査結果を無視して低速度層が出ないように恣意的に地盤モデルを作成したということなのである。

 よって,各種物理探査の結果や「うねり」の存在,被告関西電力が具体的根拠を示していないことからして,地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さとともに単調に増加することを前提条件とすることは許されない。被告関西電力の置く前提は,誤りである。

(3) PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無(上記ⓑ)

 被告関西電力は,「原告らは,PS検層の結果を取り上げて,被告の策定した地下構造モデルを批判するが,PS検層の結果については,上記2で述べたとおり,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず,被告は当該調査結果を丁寧に示しながら新規制基準への適合性に係る審査会合で被告の評価について説明し,原子力規制委員会も,被告の評価を適切であると認めている。原子力規制委員会もPS検層の結果に含まれる細部における若干の速度低下の存在等を認識した上で,地下構造モデル策定にあたって考慮する必要がない(被告の評価の合理性を否定すべき事情ではない)と認めている」と主張している。

 しかし,既に述べたように,被告関西電力は生データを示すのみで分析して議論していない。分析結果は,既に述べたとおり,01-11孔では標高-100~-130mの厚さ30mがVs=2.02km/sの逆転層(上層より下層が低速度)であり,01-3孔では標高-60mまでVs=1.92km/s以下であり,標高-30~-60mはVs=1.83km/sの逆転層である。これは「細部における若干の速度低下」などではなく,厚さ30mに及ぶボリュームを持った低速度層である。

 また10本のボーリング柱状図によれば,RQDの平均値は標高-125~-150mおよび-250m以深で低下しており,P波速度の低下を示している。

 かかる低速度層の存在を無視することは許されず,地下構造モデルに組み込まなければならない。これを等閑視する被告関西電力の主張は誤りである。

(4) 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非(上記Ⓒ)

 被告関西電力は,「原告らは,インバージョンモデルから表層部分(層厚80m)を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになると主張する」(32頁)としているが,原告がこれを主張しているのではないから,前提からして誤っている。被告関西電力は,インバージョンモデルにおいて,層序とそれぞれの層厚,速度値,密度を提示するのみで,各層の標高を明示していないので,微動アレイ観測の観測点座標から計算される標高を第2層上面に付しただけである。

 被告関西電力の解析者は気づいているはずであるが,問題はなぜこのような齟齬を生ずるのかである。被告関西電力は32頁から35頁まで2頁半以上を費やして従来の論を繰り返し,最後に「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚が,本件発電所の原子炉建屋直下にも存在すると誤認した上で,観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行ったことによるものと推測される」と述べて,前記の齟齬を隠蔽してしまった。

 しかし,構造を正しく反映したモデルなら,「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚」は,地震計設置面と原子炉建屋設置面の標高差43.5mになり,表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面になるはずである。原告らに誤認はない。

 問題は,なぜ標高差43.5mにならなかったかである。この齟齬を来たした理由は明白で,初期条件として第1層Vp=2.0km/s,Vs=0.5km/sから第2層Vp=4.6km/s,Vs=2.2km/sへ速度値を大きくジャンプさせたからである。被告関西電力が調査した原子炉建屋付近の基盤の速度値を纏めると以下のとおりとなる。

試掘坑における屈折法地震探査:
   3号炉近傍Vp=(4.218±0.814)km/s,Vs=(2.017±0.369)km/s
   4号炉近傍Vp=(4.526±0.498)km/s,Vs=(2.239±0.273)km/s
試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)
        Vp=(4.253±0.340)km/s3号炉側で特に低速度
反射法地震探査屈折法解析
   表層から50m程度P波速度は4km/s以上
反射法地震探査はぎとり法解析
   やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度

 初期条件で与えたVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sは,実測された速度値の最大値~最大値以上である。そのため,逆解析において,観測位相速度に合わせるために計算機は第1層の層厚を大きくせざるを得なかったのである。

 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件とすることは許されない。そのような前提条件は,恣意的な設定である。そのような恣意的な操作を行うのではなく,解放基盤の速度値を実測値に合わせた小さい値から探索すべきである。

 このことを簡単な計算例によって示す。

 下図に被告関西電力の地盤モデルS波速度の第3層までを赤線で示す。第1層0.5km/s,第⒉層2.2km/s,第3層2.3km/sで,第2層以下は0.1km/s刻みで増加する。第1層の厚さは80m,第2層の厚さは180mである。図の左側に標高値が目盛ってある。第1層の上面は簡単のために40mとしてある。原子炉建屋は標高0mであるので,第1層の中間に位置する。

 点線は,第1層は標高0mまで(層厚40m)の土質地盤であるとしてVs=0.32km/s,標高0mより下は岩盤であるとし,S波速度は1.0km/sから40m毎に0.4km/sずつ増加して標高-120mで2.2km/sになる速度モデルである。これ以下は被告関西電力のモデルと同じとして,位相速度を計算する。このモデルを速度漸増モデルと仮称する。

《図省略》
理論位相速度の比較条件(丙196,104頁を引用、加筆)

 上図に計算結果を示す。赤線は被告関西電力のインバージョンモデル,黒点線が速度漸増モデルである。40m厚の土質地盤があり,標高0mから岩盤のS波速度が40m毎に0.4km/sづつ増加するという単純な(あるいは乱暴な)モデルでも,観測された位相速度をほぼ説明できることが分る。このモデルでは,第1層は土質地盤であるとして割愛すると,第2層岩盤の上面は標高0mになり,岩盤が原子炉建屋を支えることになる。

 このことから,次のことが指摘できる:

  • (これまで主張してきたことであるが,)インバージョン解析では,岩盤のS波速度の初期値は2.2km/s以下を設定しなければならない。
  • 標高0m以深では岩盤であるという条件では,S波速度は1km/s程度から漸増する。ボーリング孔におけるPS検層では,OI-3孔で1.17km/s,OI-11孔で1.57km/sが得られているが,これらの値と比べても,アレイ観測網内の解放基盤の平均値は大変小さいことが示唆される。
  • 観測された位相速度の信頼限界を吟味すること,その上でインバージョン解析をやり直し,他の観測量との整合性を検討する必要がある。

 次に被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」としているが,この主張は,微動アレイ観測による表面波の伝播様式と位相速度の性質および逆解析における仮定を理解していないことを示している。

 表面波はその波長と地表面の起伏の水平方向の大きさ(起伏の波長)との関係で,起伏に忠実に沿って進行し,あるいは起伏を乗り越えて進行する。波長が起伏の波長に比べて大きければ,起伏は平均化され,波は平面を進行するように振る舞う。平面の高さは起伏の平均の高さである。表示されている観測位相速度によれば,最短の周期0.5秒の速度は約1.4km/sである。従って,扱っている波の波長は約700m以上である。これは大飯原発サイトの地形の起伏に比べて充分大きい。表面波は原発サイトを平面として通過することになる。その平面の標高は観測アレイの地震計の標高の平均値である。

 被告関西電力は「仮定的な数値」としているが,表面波はこの高さを地表面と捉えて進行しているのである。さらに「実際には存在しない層厚を差し引くという仮定」と述べているが,計算機は初期条件で与えられた速度に合う層厚を算出したのであり,実際に存在する層厚が探索できる初期条件を与えなければならないのに,それをしていないのが被告関西電力である。「数値操作を行っ」ているのではなく,被告関西電力の与えた初期条件による解析結果を手を加えずに眺めているだけである。この初期条件による基準地震動計算用モデルでは,原子炉は解放基盤から36.5m宙に浮くことになるので,地盤を36.5m引き上げて,あるいは原子炉を36.5m引き下げて解放基盤に立地させた。

 また,被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」とも主張しているが,「観測地点のE.L.の平均値」は微動アレイ観測における基準面であり,「仮定的な数値」ではなく,インバージョン解析における深さ方向の座標原点である。また「実際には存在しない層厚」とするが,それは,原子炉建屋には存在しないが微動アレイ観測網内の平均構造として現実に存在する。表層の層厚が80mであったから「実際には存在しない層厚」と主張しているようであるが,43.5mであっても原子炉建屋付近には「実際には存在しない」が,前記ウの計算例で示したように微動アレイ観測網内には実際に存在するのである。43.5mであれば表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面となって,インバージョン解析の結果は正しく構造を反映していることになるが,その場合も「仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」と批判するのであろうか。

 なお,被告関西電力は,「主に敷地深部の地下構造を把握する目的で微動アレイ観測を実施した」と述べて,「本件発電所の基準地震動は解放基盤表面における地震動を策定するものであるから,その地下構造モデルの策定にあたっては,軟らかい表層部分が存在しない地下構造モデルを策定する必要がある。そのため・・・・最終的な地下構造モデル策定の際に軟らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを当然の前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在していない表層部分(各観測地点には存在する。)を含んだインバージョン解析を実施した」(33頁)としている。

 しかし,これも逆解析結果の意味を理解していないことを示している。逆解析で探索したのは各層の厚さである。各層の深さは第1層からの層厚を加算したものであり,原点は地表面(地震計設置面)である。第1層80mを除くと第2層以下深部に至るまで各層の深さが変わり,基準地震動計算における地震基盤面が変化してしまう。これでは,深部の地下構造を把握したことにならない。


4 ③に関して

 被告関西電力は,地盤の減衰特性について,従前の主張と同じく(例えば,丙179号証,27頁丙314丙315を引用して,減衰定数3%の設定が妥当であると繰り返している(35~36頁)。

 これについては既に甲第422号証(4,18~20頁,26頁)で問題点を指摘し,原告第56準備書面では批判の上で被告関西電力から具体的な反論のないことを述べた(11~12頁)。今回の書面においても,新たな具体的な反論は皆無である。