◆第11回口頭弁論 意見陳述 要旨

意見陳述書

私は、齋藤信吾と申します。
1950年生まれの66歳です。綾部市味方町に住んでいます。

味方町は大飯原発からは約40kmの市外地の東に位置しています。一人住まいです。綾部市防災会議は、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」を平成25年3月に発表しています。この、計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域の範囲を大飯原発発電所から32.5kmとしています。私が住む味方町は、原発から約40km離れているため、綾部市計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域に含まれていません。しかし、このような距離で単純に重点的な地域とそうでない地域をわけることには非常に怒りを覚えます。

私が原発訴訟に参加したのは、原発は絶対安全といって国民を欺き、情報を隠し、また誰も責任をとらない事が許せなかった事と、私が生まれ育った田園都市・綾部が放射線で汚染されて住み続ける事が出来なくなるような事態は阻止しなければならぬと思ったからです。今日は、2つの点についてお話しさせていただきます。

一つ目は、水の問題です。
私は、味方町を流れる由良川沿いで生活していますが、対岸の斜め向かいに綾部市の浄水場が設置されています。美山町には由良川ダム・大野ダムがあります。その下流の京丹波町には和知ダムがあります。由良川ダムは、大飯原発から40km圏内に位置しています。仮に大飯原発で事故が起き、由良川ダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、私たち味方町に住む者も含め、京都府北部全体の住民が飲料水を確保することができなくなってしまいます。

綾部市防災会議は、平成28年3月、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」に新しい項目を設けました。新しい避難計画では、「飲食物の出荷制限、摂取制限等」という項目が追加されています。しかし、この項目では、「市は、飲食物の出荷制限、摂取制限等を行った場合における、住民への飲食物の供給体制をあらかじめ定めておくおものとする」とされているだけで、何ら具体的な対策は書かれていません。原発事故が起きると私たちの飲料水はどうなってしまうのでしょうか。

二つ目は、避難の問題です。
私は、大飯原発で過酷事故が起きた時は、避難を決断すると思います。

しかし、私自身は、視覚障害5級の障害者です。右目は全く見えません。左目はめがねをかけて矯正しても0.2以下の視力です。当然、自動車を所有していませんし、通常の移動手段は、「自転車」です。仮に地震などにより、道路を通ることが出来なくなった場合、避難は不可能です。単身者ですので、同乗を頼める家族はいません。同乗させていただける知人がいれば避難できますが、緊急時に頼めるかはわかりません。自転車では、非常時用の持ち出しグッズも軽量のものしかのせることはできません。
私のように障害があるものにとっては、交通渋滞などは別にして、そもそも一刻も早く避難すること自体が大変なのです。ここ数年は、夜や暗い場所での移動が困難となっています。夜間に避難することを考えるとぞっとします。

私の仲間のことについてもお話しさせていただきます。
私は、綾部市身体障害者協会と公益社団法人京都府視覚障害者協会の二つの団体に所属しています。視覚障害者協会では副会長を務めています。

この団体は、現在1200人余りの会員とおよそ40の賛助団体が加盟しています。「独りぼっちの視覚障害者をなくそう」を合い言葉に、障害があっても安全で豊かに暮らせるバリアフリー社会の実現をめざして活動しています。会員の仲間の中には、全盲で全く見えない方もいます。原発事故が起きた際に、どうやって避難したらいいのでしょうか。福島での「逃げ遅れた人々」や避難所でやっかいもの扱いされた事例を聞いたこともあり、とても不安に思っています。熊本の地震では避難所に入ると迷惑を掛けるからと入所を諦めた障害者のニュースもありました。

また、私は、綾部市身体障害者協会では、事務局長を務めています。
綾部市身体障害者協会は昭和28年に発足し、学習会をしたり、研修旅行をしたり、街頭での活動をしたりしています。現在の会員数は約90人です。会員の中には、重度の身体障害を持っている方もいます。日常生活でも、自宅から最寄りのバス停にいくまでが、大変というという人もいます。

綾部市計画では、災害時に要援護者について十分配慮すると書かれていますが、私のような視覚障害者がどうやって避難するのか。重度の障害を持った者はどうやって避難するのか。

障害の内容に応じた具体的な避難方法は全く記載されていません。今年3月に新しくなった綾部市避難計画では、第6要配慮者への配慮という項目が新設されています。しかし、この項目は「十分配慮する」とだけ書かれているだけで、問題点は全く解決していません。

新しい綾部市避難計画では、要配慮者等が避難に時間を要する場合においては、綾部市奥上林公民館に放射線防護対策工事を実施するとしています。
しかし、避難することのできない重度の障害をもっているものは、公民館に移動することも困難なのです。結局、避難計画自体が、全く意味のないものです。

今年3月に、大飯・高浜原発に近い、君王山から古屋一帯が『京都丹波高原国定公園』に指定されたばかりです。君王山には、綾部でただ一つの国宝である二王門もあります。
過酷事故がおこれば、仕事を含めた生活基盤全体が根こそぎ奪われてしまいます。私は緑豊かな故郷を失いたくありません。
原発事故が起きた場合に、非力な者は避難することもできません。裁判所におかれましては、何人からも生命と健康を無理矢理剥奪されることはないという社会正義を基とした判決をお願いします。

以上

トップページへ