◆原告第23準備書面
第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

1 基準地震動の不合理性を具体的に指摘した島崎邦彦氏

既に原告第16準備書面29頁以下において、島崎邦彦氏の「活断層の長さから推定する地震モーメント」を引用して主張・立証したところではあるが、とりわけ重要な部分でもあり、やや敷衍して述べる。

島崎邦彦氏は、日本を代表する地震学者であるというだけでなく、平成26年9月に退任するまで原子力規制委員会における地震関係分野担当の委員として、大飯原発をはじめとした数多くの原発の基準地震動の審査実務にたずさわった経験があり、被告等原子力事業者が言うところの「詳細な調査等」がどのようなものであるかを熟知している人物である。その島崎氏が、入倉・三宅(2001)の式による地震モーメントの過小評価のおそれについて、ひいては大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価となっているおそれについて指摘していることの意義は極めて大きい。

本年6月、規制委員会は、度重なる同氏の指摘を受けてようやく地震動を再計算したが、7月13日、別の式を使った再計算の結果でも基準地震動の範囲内に収まっているとして一旦は幕引きを図ろうとした。然るに当該計算過程に問題があるとの指摘を島崎氏から受けるや、今度は、同月27日、別の式を用いて計算した内容について「非現実的な結果になった」ことを、また別の式についても「今まで使ったことがない」ことを理由として基準地震動の見直しを否定した。しかし、問題のある計算過程を用い、あるいは見直しを行わない理由を変遷させ、計算結果を「非現実的」と決めつけること自体が「安全神話」に立脚したものに他ならず、再稼働の結論ありきの姿勢に他ならない。

2 活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難

まず同氏は、地震モーメントを活断層の長さから予測する場合、過小評価となる可能性があり注意が必要であるとする。これは、予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため、過小評価の可能性があるからである。

実際に活断層の長さが想定されたものよりも長かった場合として兵庫県南部地震や熊本地震の例があることは既に述べたとおりであり、活断層の大部分が地中を走るものである以上、事前の調査に大きな限界のあることは自明であろう。とりわけ大飯原子力発電所周辺に散在する活断層は海中にもあり、基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であり、実際の長さが被告関西電力の想定よりも長いことは十分にあり得ることである。活断層の長さが8キロ程度違うだけで地震の規模が2倍になることは既に述べたが、これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

また、大飯原子力発電所の南西に存在する上林川断層の東端が被告関西電力の主張するとおり県境付近であるのか、大飯原子力発電所の南南東に存在する熊川断層の西端はどうなのか、何の保障もない。熊本地震などで実際に目の当たりになったように実際の活断層の長さはより長い可能性が十分にあり、そうだとするとそれぞれの断層をそのまま延長させていけば大飯原子力発電所ないしその周辺にまで至る可能性もある。これらの活断層が実際には大飯原子力発電所の直下を走る可能性も全く否定できないのである。

このように活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難である。そのことは兵庫県南部地震や熊本地震によって実証されている。そうである以上、島崎邦彦氏が指摘するように過小評価となる危険性は十分に存在するのである。

3 入倉・三宅の式(2001)を用いた場合の過小評価の危険性

(1) 活断層の長さから地震モーメントを算出する計算式

日本の陸域及びその周辺の地殻内浅発地震(M7程度以上)について(いわゆる内陸型地震について)、断層長L(m)と地震モーメントMo(Nm)との関係式を平易な形で表現すれば次のようになる。

ただし<4>の入倉・三宅の式では垂直な断層が想定されており、断層の傾斜角を60度とした場合には係数が1.09から1.45へと変化する。

<1> 武村(1998)
Mo=4.37×1010×L2

<2> Yamanaka&Shimazaki(1999)
Mo=3.80×1010×L2

<3> 地震調査委(2006)
Mo=3.35×1010×L1.95

<4> 入倉・三宅(2001)
Mo=1.09×1010×L2

(2) 入倉・三宅の式は他の式と比べ1/3~1/4の過小評価となる

入倉・三宅の式(<4>)と他の式との差異は顕著で、同じ断層の長さを想定した場合でも係数の差によって3~4倍もの差が地震モーメントに現れてくることになる。入倉・三宅の式は、それ自体として、地震モーメントを他の式に比べて過小に算出する式なのである。その要因の一つは、入倉・三宅の式が北米中心の地震データを基にしているためであり(甲280「若狭ネット161号」7頁脚注7)、それをそのまま日本における地震に当てはめることには無理があるからである。もう一つは無論、活断層の長さや震源断層の不均質性などの測地データを事前に確実なものとして把握することが不可能だからであり、そのような測地データの限界によって入倉・三宅の式が過小評価となってしまうことは、入倉孝次郎氏も認めるところである(同7頁、入倉孝次郎研究所ホームページ)。このような、地震の規模を過小に評価することが明らかな式を原子力発電所の耐震性に関して用いることは極めて不適切という他ない。

そして、これを実際の地震について活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1995年兵庫県南部地震で検討したところ、原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると、地震モーメントが過小評価される傾向が明確に裏付けられた(甲230)。

図《図省略》は、地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり、OBS=観測地、T=<1>式、YS=<2>式、ERC=<3>式、IM=<4>式である(甲278「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。図のように、<4>入倉・三宅の式によって予測される地震モーメントは、実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多い。この値は、<1>~<3>の式と係数が3~4倍程度異なっていることと完全に整合している。

他の式によって予測される地震モーメントは実際の観測値にかなり近いものになるのに対し、<4>入倉・三宅の式の場合、その係数の差により、実際の観測値よりも1/3~1/4となる傾向があるのである。当然、地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

4 大飯原子力発電所にも妥当すること

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから、地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており、その結果、基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

しかも、島崎邦彦氏が入倉・三宅の式を適用するにあたって仮定した条件は、地震発生層の厚さを14キロ、断層傾斜角を(西日本の断層で標準的なケースである)垂直としており、傾斜角を60度とした場合には係数を1.09から1.45とするというものであるが(甲230甲278「活断層の長さから推定する地震モーメント」)、被告関西電力が設定するFO-A~FO-B~熊川断層の条件は、地震発生層の厚さを15キロ、断層傾斜角を基本的には垂直とし、「不確かさを考慮する」として75度とするというものであり、双方の条件はほぼ同じであるから、島崎氏の指摘は大飯原子力発電所における基準地震動についても妥当する。島崎氏自身がそのことを言明しているところであり(甲282「陳述書」)、入倉・三宅の式の考案者である入倉孝次郎氏自身も、同式を「地震の揺れの予測に使う場合には、断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性はある」(甲283「毎日新聞記事」)と述べていることとも整合する。大飯原子力発電所のように断層面が垂直に近い条件設定下では、式の考案者自身が過小評価となる危険を指摘しているということになる。

よって被告関西電力が設定した基準地震動は、地震モーメントを実際に起こり得る規模よりも1/3~1/4も過小評価した上で算出されたものなのであって、低きに失する不合理なものであることは明白である。

5 島崎邦彦氏の指摘は基準地震動がいかに矮小な知見に基づくものかを示すものでもある

また、島崎氏の指摘に関連してもう1つ重要なのは、被告関西電力の設定する基準地震動が過小評価となっている具体的な可能性が、その設定後に示されたという点である。

原告第18準備書面29頁以下で述べたとおり、原子力発電所の新規制基準適合性に関する審査会合は現在もなお継続して開かれており、議論が続けられている。その議論の中で本件発電所(大飯原発)における地震や津波の想定は随時見直され、それに対する被告関西電力の対応も随時変化し、指摘を受けるごとに個別に対応するということが続いているのであり、「原子力規制委員会による審査」はなお途上であることが明らかである。
これは、基準地震動を設定した際に被告関西電力が用いた「知見」が、あくまでもその時点でのものにすぎず、その後随時更新され見直されるべきものである以上当然のことである。島崎氏の指摘も被告関西電力の設定した基準地震動が前提とする知見には限界があり、そのことを考慮して再計算すべきとするものであるが、これは、かかる原告らの主張を正に裏付けるものとなった。

被告関西電力の設定する基準地震動は限界ある狭い知見に基づいて策定されたものにすぎず、そもそもなんら信用できるようなものではないのである。

以 上