◆原告第26準備書面
―熊本地震及び鳥取中部地震等を踏まえて―

原告第26準備書面
―熊本地震及び鳥取中部地震等を踏まえて―

原告第26準備書面[219 KB]

2016年(平成28年)11月25日

1 活断層の長さを事前に予測することはできない

熊本地震では,既に主張したように,連続して震度7,気象庁マグニチュード(Mj)それぞれ6.5と7.3の地震が発生し,大きな被害をもたらした。

この地震に関し,京都大理学研究科の林愛明教授らは,阿蘇山の地下にあるマグマだまりが断層破壊の進行を妨げた可能性の高いとの報告を本年10月21日,米科学誌サイエンスに発表した。それによれば,阿蘇山から南西約40キロにわたって地表がずれていることが確認され,布田川断層がカルデラ内まで延長していることが判明したほか,カルデラ西縁から北東方向に幅40~50メートル,長さ約9キロにわたって地表が落ち込んでいることも分かった。また,カルデラ外では横方向に断層がずれていたのに対し、内部では上下方向にずれていた。カルデラの地下6キロにあるマグマによって断層破壊が妨げられ、地表の割れ方が変化したと考えられるとのことである(甲288[136 KB] 本年10月21日京都新聞)。

このことは,マグマだまりがなかったとすればより長い区間で断層が破壊され,より大きな規模の地震が発生していたことを示している。想定されていた活断層の長さ19キロメートルに対し,現実に動いた活断層の長さが約27キロメートルであったことは既に述べたが(原告第23準備書面4頁),マグマだまりがなければより長い区間で活断層が動いていたということは,マグマだまりという偶然の要素がなければ,活断層の長さを読み違えた程度はより大きかったということになる。

2 「想定外」はいつでも容易に起こり得る

本年9月28日,停止中の北陸電力志賀原発2号機(石川県)の原子炉建屋に6.6トンの雨水が流れ込み、非常用照明の電源が漏電する事故が9月に発生した。1時間あたり最大26ミリという雨によって道路にあふれた雨水が配管に流れ込み,雨水は配管を通って原子炉建屋の1階に流入。非常用照明の電源設備などが漏電し,地下1階に所在する、地震などで外部電源が失われた際に使われる最重要の蓄電池の真上の場所にまで水が来ていた。雨水が蓄電池にまで及んでいれば安全上重要な機能を失うおそれが大きく,事故の際に重大な事態となる可能性がある。田中俊一委員長は同事故について,「これほどの雨が流入するのは想定外だった。安全上重要な機能を失う恐れもあった」としている(甲289[95 KB] 本年10月20日朝日新聞)。

述べるまでもなく,雨は日常的な現象である。その雨ですらこのように「想定外」の事態が生ずるのであるから,いわんや非日常的な現象である大地震の際に一体どのような事態が生ずるのか,適切に想定することは到底不可能である。そして,大地震という極限状態において1つでも想定外の事態が発生すれば,もはや取り返しはつかない。極めて重大な過酷事故に直ちに直結するおそれが非常に高いのである。このように,起こり得る「想定外」を想定した場合,原子力発電所を許容する余地はない。

ちなみに京都では,本年に入り,10月末日までに限っても,1時間当たり最大26ミリ以上の雨を観測した日数が2日あり,1日の降水量として26ミリを超えた日数は21日もあった。安全上重要な機能を失うおそれを来しかねないような現象は決して珍しいものではないのである。しかも,それを遥かに上回る降水量もしばしば観測されており,雨による「想定外」の危険性はなおさら大きい。そのように珍しくない雨量においてすら「想定外」が発生するということは,原発の安全対策が,通常起こり得る自然現象さえも考慮の外に置いているということである。非日常的な大地震という現象が適切に考慮されていないこと,即ち「想定外」がいくつも起こり得ることは容易に理解できる。

さらに,大地震の際にはもちろんのこと,大雨の際にも,大飯原発へと至る幹線道路ががけ崩れ等によって寸断されてしまう可能性が高く,それによっても過酷事故へと至るおそれが十分に認められる。

3 活動期に入ったわが国では震度7・M7クラスはどこでも起き得る

4月の熊本地震に次いで発生したのが,本年10月21日の鳥取中部地震であり,マグニチュード6.6,震度6弱,最大1494ガルを観測した(甲290[311 KB] 本年10月22日付毎日新聞)。同地震について政府の地震調査委員会は,「これまで知られていなかった長さ約10キロの断層がずれ動いて起きた」との見解を示し,委員長の平田直・東京大地震研究所教授は「地表に活断層が現れていなくても、被害を及ぼす地震が起こる可能性は全国どこでもある」と述べ,地震国日本における極めて当然の警鐘を改めて鳴らしている(甲291[55 KB] 本年10月23日付毎日新聞)。断層の存在が確認されていない地域であっても,震度6~7の地震,大飯原発のクリフエッジ1260ガルをも上回るような地震動が発生することが証明されたのである。

震度6弱程度である同地震でも大飯原発のクリフエッジ1260ガルを超える強さの揺れが発生しているところ,熊本地震によって既にバラツキの大きさが実証されていることは原告第23準備書面10頁以下で述べたところであるが,熊本地震のように震度7に至らない程度の地震によってもクリフエッジを超える可能性のあることまでもが示されたという事実は重大である。

また,鳥取中部地震について川崎一朗・京都大名誉教授(地震学)は,「阪神淡路大震災の後、活断層の知識は飛躍的に増えた。だが、あまり活動的ではないと考えられていた山陰でこれだけ地震が起きている理由に地震学は答えを持っていない。改めて、震度7レベルの地震はどこでも起きる可能性があるという警鐘と受け止めるべきだ。」と述べ,遠田晋次・東北大教授(地震地質学)も「地震がよく起きる地域が日本海側の内陸に帯状に広がっており、こうした地域では、今回の規模の地震は起きやすい。今後、M7クラスの地震も否定できない。」と述べている(いずれも甲292[150 KB] 本年10月22日朝日新聞)。

改めて明らかとなったのは,わが国では震度7レベルやM7クラスの地震はどこででも起こる可能性があり,その際には大飯原発のクリフエッジを超えるような揺れが生ずる可能性が十分にあるということである。

しかも,今年に入っても熊本地震,鳥取地震と大地震が連続して発生しているように,阪神大震災後,わが国の地震が活動期に入っていることは疑いない。このような状況の中で原子力発電所を存置せしむることは重大な危険の発生を等閑視することと同義である。地震と原子力発電所とは決して相容れない。そのことが改めて明らかになっている。

以 上

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