◆原告第29準備書面
第3 原子力発電の不経済性が産業の健全な発展すら阻害すること

原告第29準備書面
―再生可能エネルギーの可能性と原発の不経済性―  目次

第3 原子力発電の不経済性が産業の健全な発展すら阻害すること

 1 2011年3月11日後の世界各国における原発産業の状況

  (1)米国の状況

  ア 沸騰水型のGE、加圧水型のWH

もともと、米国は、いわゆる「旧西側先進国」において、商業発電用の原子炉を最初に開発した国である。もともと、原子炉は、原子力潜水艦など、燃料補給をせずに長時間・長距離を航続できる兵器の製造のために開発されたものである。商業用の原子炉は軍事技術を商業用に転換したものであったため、最初から、安全性の観点からは不合理な側面を抱えていたが、本書面ではその点には触れない。

  イ GE=日立・東芝、WH=三菱重工・アレバ

米国で商業用原子炉の技術を保有していたのは、沸騰水型原発については、トーマス・エジソンが創業者であるゼネラル・エレクトロニック社(以下「GE社」)であり、加圧水型の原発についてはウェスチングハウス社(以下「WH社」)であった。
日本国内では、GE社から沸騰水型(BWR)の原子炉製造技術を移転されたのが株式会社日立製作所(以下「日立」)と株式会社東芝(以下「東芝」)であり、WH社から加圧水型(PWR)の原子炉製造技術を移転されたのが三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」)であった。

ヨーロッパでは、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転されたのが現在の仏・アレバ社の子会社である「アレバNP」であり、「欧州加圧水型原子炉」(EPR)を製造する技術を保有している。

  ウ GE社の原発からの撤退と日立への「押しつけ」の現状

その後、GE社の原発製造技術は、本体から切り離され、ビジネスパートナーである日立との合弁企業である「日立GEニュークリア・エナジー」(茨城県日立市、出資比率は日立80%、GE20%)、日本以外の世界各地で原発の新規建設受注を目指す「GE日立ニュークリア・エナジー」(ノースカロライナ州、GE60%、日立40%)とに移転され、現在に至っている(甲316日経新聞2012年8月7日「米GEイメルトCEO 原発“見切り”発言の衝撃度」)。

米国では1979年のスリーマイル島原発事故の後、2012年まで原発の新規建造は凍結されていた。2012年に数機の原発の建設が許可されたが、その後のエネルギーシフトにより、同年、GEの経営者が原発について「(経済的に)正当化するのが非常に難しい」(上記新聞記事)と発言した。その後、後述のように「GE日立ニュークリア・エナジー」は、2017年になって核燃料部門の撤退により日立出資分だけで700億円の営業外損失を計上している。

  エ WH社を取得し経営破綻寸前の東芝

WH社は2006年に売却され、その後の追加出資を含め、6000億円で同社を取得したのが東芝である(甲317 日経新聞2016年12月27日「東芝、止まらぬ損失 WH買収で「10年の重荷」」)。
直近の公知の事実にも属するが、後述のように、現在進行形で、東芝を経営破綻の危機に追い込んでいるのが東芝の子会社であるWH社である。

  オ 米国の現状

2016年12月末、東芝は数千億円規模の特別損失の計上予定をプレスリリースした。その原因は、以下の通りである。

すなわち、WH社が米国で建設中の4基の原発を巡り、福島第一原発事故を受けて米国での原発の安全規制が強化されたことで、設計変更が必要になり、また、工期の遅延により、建設コストが増加していたところ、WH社がビジネスパートナーであり、原発建設会社である「ストーン・アンド・ウェブスター」(以下「S&W社」)との間でトラブルが発生したため、WH社がS&W社を「0円」で買収することで両社のトラブルを決着させた。しかし、これが東芝の7000億円とも言われる特別損失につながることになった。つまり、東芝による「0円」査定が甘く、買収の時点でS&W社は、実は大幅な債務超過だったのである(甲318 毎日新聞2017年1月20日「東芝:資産査定甘く…買収会社の価値低下 損失拡大」)。これらの4基の原発は、建設途中であるから、当然ながら今後も、損失が拡大する可能性は充分ある。

三菱重工も、すでに原告第10準備書面18頁以下で紹介したように、2012年に米国サン・オノフレ原発に納入した蒸気発生器の細管の不具合により、同原発を運営する会社から7070億円の損害賠償請求を受けている(甲319 日経新聞2016年7月15日「三菱重工への損賠請求7070億円に減額 米電力会社など」)。

2012年時点でのGE社の経営者の発言にも見られるように、米国では、福島第一原発事故後の規制基準強化やエネルギーシフトにより、原子力発電は、もはやコストの見合わない発電方法であると認識されており、現在進行形の新規の原発建造も巨額の赤字を出している状態なのである。既存の原発についても、日本企業に対する巨額の損害賠償請求に発展している。

後述のように、そのような中で、米国の資本が原発製造技術から次々に手を引き始めており、それを買収させられたのが東芝なのである。今後、日立が原発製造技術に固執すれば、GE社との関係で同じ道を歩む可能性がある。

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  (2)欧州の状況

  ア ドイツ

ドイツでは、総合電機企業であるシーメンス社(戦前の海軍高官への収賄事件で高校の日本史教科書に登場する「シーメンス事件」の会社である)が原子炉の製造技術を保有していた。しかし、同社は、2011年3月11日直後の同年4月、早くも、WH社から技術を導入して欧州の原発を建設してきた「アレバNP」の出資分(34%)をフランスのアレバ社に売却し(甲315 日経新聞2011年4月12日「独シーメンス、原子力から撤退も仏アレバと合弁解消」)、同年9月に、正式に、原発製造から撤退した(甲314 日経新聞2011年9月19日「シーメンス社長、原発事業撤退を表明 独誌報道」)。

ドイツは、原発製造技術を持つ国では、産業レベルで脱原発を果たした最初の国となったと言える。シーメンスがアレバNPの出資分をアレバ社に売却して押しつけた理由は「事業への十分な発言権がなかったため」(上記日経新聞2011年4月12日)などとされており、ドイツの「脱原発」が、単に国民世論や政治が主導したものではなく、資本の冷徹な論理により行われた側面もあることを示している。

  イ フランス

フランスでは、アレバ社(同社の子会社である「アレバNP」)が原子炉製造技術を保持しており、現在でも、フィンランドのオルキルオト原発、フランス国内のフラマンビル原発の建設を続けている。しかし、オルキルオト原発やフラマンビル原発については、福島第一原発事故を受けた規制の強化で建設費用が一基2兆円以上に高騰している(甲311 日経新聞2015年1月26日「安全な原発は夢か 仏アレバの新型炉建設が難航」)。

また、その過程で、1960年代に遡って、アレバの子会社である「クルゾ・フォルジュ」や「日本鋳鍛鋼株式会社」が製造していた原子炉の鋼鉄製部品の規格違反(炭素含有量の超過)が発覚し、急激な温度変化により亀裂が発生する可能性を指摘されている(甲312 ウォールストリートジャーナル日本版2016年12月14日「仏企業の欠陥原発部品と隠ぺい、世界に波紋」、甲313 エコノミスト2016年12月9日「フランスの原子力発電最大手を襲う難問」)。この部品はオルキルオト原発にも納入される予定であり、今後、同原発の完成はさらに遅れるかもしれない。当然、建設費用の高騰につながる可能性がある。

アレバ社はオルキルオト原発の建設で費用が膨らみ、2015年12月期まで5期連続で最終赤字を計上し、その間の累計赤字は1兆円を超えた(甲320 日経新聞2017年2月4日「仏アレバ増資多難な前途 日本勢出資も中国勢撤退で受注不安」)。同社は、2015年12月末現在、フランス政府が直接・間接に86.52%の株式を保有しており、事実上、仏国の国営企業である。東京電力株式会社が国営企業化していることと同じように、民間資本では経営が成り立たない状況と言える。

このようなアレバ社やアレバNPに対しては、一方で、三菱重工が救済に乗り出している。

すなわち、三菱重工はすでに述べたように、アレバNPとともに、WH社から加圧水型の原発製造技術を移転された企業であり、もともと三菱重工とアレバは関係が深かったが、アレバ社がオルキルオト原発建設部門を切り離して新規に設立する新会社「NewCo(ニューコ)」に三菱重工が5%出資し、日本の電力会社9社及びその子会社である日本原子力発電が主要な株主である「日本原燃株式会社」も5%出資することとなった(甲321 日経新聞2017年2月3日「三菱重工、アレバ新会社に5%出資 日本原燃も5%」)。

これとは別に、三菱重工は2016年6月28日以降、アレバNPとの合弁事業、同社への少数株主としての出資について、協定を締結した上、検討進めている(前掲日経新聞2017年2月3日記事、甲322 三菱重工2016年6月28日「三菱重工業とフランス電力会社原子力発電事業での協調に向けた覚書(MOU)を締結」)。

  ウ 欧州の現状

結局、欧州では、福島第一原発事故後のドイツ資本の撤退、規制強化とそれによる建設遅延、日本企業もかかわった従前からの粗悪な部品使用の発覚などにより、アレバ社が大幅な赤字を計上しており、原発製造技術自体、原発大国であるフランス政府の支援無しには維持できない状態になっているのである。

英国では原発の新規建造が計画されているが、例えば、フランス電力公社(EDF)が事業主体となる予定の英国ヒンクリーポイント原発は、二基2兆4000億円以上の建設費について、英国政府が同原発の電力を35年間にわたって現行の電力卸売価格の約2倍の高値で買い取ると保証したうえ、資金調達に政府保証(甲323 毎日新聞2016年3月15日「英原発:新設に暗雲…安全対策費が膨張/採用予定炉に欠陥」)するなどして計画が成立しているだけで、買い取り価格が倍額であることの一点をみても経済性がないことは明らかであり、現に専門家からその旨の指摘がされている(同記事参照)。内部で事業を進めることの危険性を指摘した最高財務責任者が辞任に追い込まれるなど、異常事態となっている(同記事参照)。

そこへ、三菱重工のアレバへの出資と中国企業のアレバへの出資見合わせ(前掲日経新聞2017年2月4日)という事態が生じており、中国企業も出資予定だったヒンクリーポイント原発建設事業の先行きに不透明さが増していると言える。さらに、日立による英国「ホライズン社」の買収による日立の英国での原発建設事業への参入、という状態が発生している(甲324日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」、甲325 日経新聞2016年12月15日「英原発に1兆円支援 政府、日立受注案件に」)。

経済原理による採算性がなく、先行きの不透明な事業に、原発にしがみつくフランスと日本の企業が前のめりに挑んでいる状況なのである。

  (3)アジアの状況

  ア ベトナムの建設計画白紙撤回

ベトナムでは、三菱重工が加圧水型の原発を建設する計画になっていたが、2016年11月22日、ベトナムの国会が計画の白紙撤回を決めた(甲326 日経新聞2016年11月22日「ベトナム、原発計画中止 日本のインフラ輸出に逆風」)。

福島第一原発事故後の安全意識の高まりは、アジア諸国にも及んでいるのである。

  イ 台湾の脱原発決定

台湾では、現在、GE社、WH社が1970~80年代に建設した合計6基の原発が稼働中である。さらに東芝、日立が受注して「第四原子力発電所」の建設が着工し、進められてきたが、この計画は福島第一原発事故後の2014年4月27日に凍結された(甲328 日経新聞2014年4月27日「台湾、第4原発の建設を凍結 住民投票実施へ」)。

そして、2017年1月11日、台湾の立法院は2025年までに原発をゼロとする法改正を可決した(甲327 西日本新聞2017年1月12日「台湾原発ゼロ法成立 アジア初25年までに停止」)。

  ウ トルコの計画の不採算・政情不安

トルコでも原発建設計画がある。シノプ原発は、もともと韓国が優先交渉権を持っていたが交渉決裂、その後、東芝・東京電力の連合体が交渉に入ったが、福島第一原発事故を受けて東京電力が撤退して白紙撤回となった。さらに、三菱重工・アレバの連合体が受注を2013年5月に受注内定した。事業化可能性調査(FS)を2年かけて行い、事業主体には伊藤忠商事が10%超出資することが予定されていた(甲324 日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」)。

その2年後、出資を検討していた伊藤忠商事が

本事業への参画については今後協力を行う事業か調査の過程で検討されるものでありますが、本事業を取り巻く環境等を踏まえた場合、総合商社である当社の持つ機能や果たせる役割等を勘案すれば本事業への出資者としての参画は極めて困難であると現時点で認識しております。

とのプレスリリースを発表した(甲329 伊藤忠商事株式会社2015年6月9日「本日の一部報道について」)。事実上、事業化可能性が否定されたに等しい。

また、その後、トルコは隣国のシリアに軍事介入したことで国内でテロ活動が活発化したり、軍部がクーデターを画策するなど、政情が不安定となっている。三菱重工も、現地事務所にスタッフが10名いる程度であり実際の計画は進んでいない(甲330 産経新聞2016年7月16日「【緊迫トルコ】トヨタ一時操業停止 原発輸出の三菱重工「状況見守る」 日本企業に警戒広がる」)。

そもそも、同国は日本と同じ地震国であり、原発が事故を起こした場合の賠償問題も起きえる。伊藤忠商事がいみじくも述べたように、事業可能性には極めて困難がある。

  エ メーカーが二の足を踏む日印原子力協定

日本とインドは2016年に原子力基本協定を結び、日本から原発の輸出が可能となったが、協定は一方的な破棄が可能な上、その場合の企業への補償等について定められていない(甲331 ロイター2016年11月11日「日本からインドへ原発輸出可能に、両国が原子力協定に署名」)。また、インドの原子力損害賠償法では、米国やそれをそのまま導入した日本や欧州のそれとことなり、メーカーの免責条項がない(例えば、日本の場合「原子力損害の賠償に関する法律」4条でメーカーの免責が明記されている)。そのため、実際の輸出には日本メーカー自身が二の足を踏んでいる(甲332 産経新聞2016年11月11日「日本とインドが原子力協定締結、原発輸出促進に期待も賠償懸念でメーカーは二の足 ベトナムでは受注案件の中止も」)。

  オ アジアの現状

そもそも、福島第一原発事故を引き起こした日本国が原発の輸出などできるのか、という大問題がある上、日本が輸出を狙っているすべての国で、原発の建設は進んでいない上、抱え込むリスクは膨大である。むしろ、台湾やベトナムのように、福島第一原発事故を教訓化して脱原発し、あるいは、原発導入を断念するケースが広がっている。

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 2 多額の損害賠償請求を受け、負の資産を押しつけられる日本企業

  (1)東芝の粉飾決算の原因は原発部門の不採算でありそれが原因で経営破綻寸前であること

東芝は2015年度に4600億円の赤字を計上した。この赤字計上は「日経ビジネス」という経済系の雑誌に粉飾決算を暴かれた結果であった。そして、東芝が粉飾決算に走ったきっかけは、すでに述べた、東芝が2006年に社運をかけて買収したWH社が収益を上げることができず、福島第一原発事故後にいよいよ不良資産化したことを隠ぺいするためのものだった(甲338 『東芝 粉飾の原点 内部告発が暴いた闇』2016年 小笠原啓 日経BP社149頁「第5章 原点はウェスチングハウス」)。

しかし、同社は2015年度の経営再建で、原発部門を切り離して処分するのではなく、収益性の高く将来性も見込まれる医療機器部門を約7000億円で売却するなどして資金を捻出して乗り切った。

ところが、上述のように、WH社が買収したS&W社が巨額の損失を含んでいたことが発覚し、2016年度にさらに7000億円程度の損失が発生し、これにより数千億円規模の赤字を計上する見込みである。

同社は、主力であり、収益性が高く、将来性もある「メモリー半導体事業」を分社化して、株式の一部を売却することで債務超過を回避する計画である(甲333 日経新聞2017年1月20日「東芝再建、時間との闘い 米原発で損失最大7000億円」)。同社は、海外の原発建設事業からの撤退も表明しはじめた。

素人目にも明らかであるが、東芝は、採算性・将来性の高い部門を次々に切り売りして、不採算部門であり、粉飾決算の元凶である原発部門を残そうとしている。先述のシーメンス社やGE社と比較しても、およそ常識的な経営判断を行えない状況になっている。

また、東芝の損失が建設中の原発の不採算から生じている以上、それらの原発の建設にさらに困難が生じれば、当然、損失は今後も拡大していくのであり、東芝の解体が現実的な課題となっている。

  (2)米国で7000億円の損害賠償請求を受けながらアレバの救済に乗り出す三菱重工

新規の原発建造が思うに任せない以上、原発製造部門の赤字構造自体は三菱重工も東芝と同じと推測せざるを得ないが、この点について、今のところ報道はない。

しかし、三菱重工は、すでに述べたように現状でも、米国の原発運営企業から7070億円の損害賠償請求を現実に受けており、巨額の損失につながる可能性がある。同じような問題が他の既存原発やこれから建設する予定の原発で起きる可能性もある。

また、三菱重工が仏アレバ社の救済に乗り出していることはすでに述べたが、今後、アレバが負債を拡大するほど、三菱がさらに救済に乗り出さなければならない可能性が出てくる。三菱重工によるアレバ社の救済自体が、東芝によるWH社の買収と似た構造を持っているのである。この点、三菱重工の出資と、中国企業の締め出しが表裏一体になっており、アレバが中国での新案件を受注できない構造に直結している(前掲甲320 日経新聞2017年2月4日「仏アレバ増資多難な前途 日本勢出資も中国勢撤退で受注不安」)。

  (3)日立の悲鳴

2017年2月1日、日立は、先述のGE社との合弁企業である米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」がウラン燃料の濃縮事業から撤退するため、700億円の営業外損失を計上すると発表した(甲334 朝日新聞2017年2月1日「日立、700億円の営業外損失見通し 米国の原発事業で」)。

日立は、すでに述べたように、英国内で原発建設を手がけるホライズン社を買収した(前掲甲324 日経新聞2013年11月11日「トルコへ原発輸出、三菱重に影落とす巨額賠償問題」)。同社がイギリスで建設する計画の「ウィルファ原発」は、二基で2.6兆円と見込まれる事業について、日本政府が政策投資銀行等を通じて1兆円を融資することとなっている(前掲甲325日経新聞2016年12月15日「英原発に1兆円支援 政府、日立受注案件に」)。これでは、ほとんど、日本政府による日立の救済に近い。また、この原発についても、最初から経済性がないし、各種の援助・補助を踏まえても、ヒンクリーポイント原発と同様、事業の赤字化の危険性は常にあると考えるべきだろう。

このような中、実際、日立の社長が2016年10月27日に講演し、原発事業について「いつまでも不採算な状況では成り立たない。一緒にジョイント(提携)的な方向で考える方がいい」と述べた(甲335 時事通信2017年10月27日「原発事業、連携も検討=不採算で継続困難一日立社長」)。記事には「国内の原発事業」と書いてあるが、海外で儲かっているのならトータルでは採算性に問題ないはずなので、結局、原発事業自体が大幅に赤字だと考えざるを得ないだろう。さらに、同じ講演で「ビジネスの負荷をどう軽減していくか、ジョイント(提携)の形などで全体を考えていく」とし、技術者不足といった課題を挙げた上で、再稼働や廃炉問題については「相当議論して方向性を出さないといけない」とも述べた(甲336 日経新聞2016年10月27日「日立社長「原子力再編論議、炉含め考える時期くる」」)。一方で、同社長は「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」(同記事)とも述べており、要するに、政府の政策が脱原発の方向に切り替わらないと、原発製造部門を切り捨てられないと言ったと評価せざるを得ないだろう。

実は、我が国の原発事業は、すでに、赤字化している核燃料事業から、切り離しと統合が始まっている(甲337 日経新聞2016年9月29日「日立・東芝・三菱重工、原発燃料事業を統合」)。不採算だが捨てることもできない核燃料事業を統合しはじめたのである。国内三社の核燃料事業の切り離し・統合は、米国の「GE日立ニュークリア・エナジー」の核燃料事業からの撤退とも機を一にしている。

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 3 まとめ:原発の不経済性が日本の健全な産業発展すら妨げる

  (1)原発の維持・推進と製造技術の維持は表裏一体であること

脱原発の政策を明確に打ち出したドイツのシーメンス社が原発製造技術をアレバ社に売却して、事実上、押しつけたに等しい。

米国ではエネルギーシフトにより原発が不採算になり新規建造ができない中で、GE社の経営者が原発製造技術に見切りを付ける発言をした。同社は核燃料部門の撤退に見られるように今後も次々に手を引くこととなろう。その度に、原発関連資産は、日立が引き取らざるを得なくなる。そして、加圧水型原子炉を開発したWH社は売却東芝に売却された。これも、結果から見れば不良資産を押しつけられたと評価する以外無いだろう。

一方で、政府が原発を推進しているフランスでは、アレバ社が5期連続赤字を計上しても、フランス政府が支援を続け、内部からリスクを指摘されながら、原発の新規建造に乗り出している。

2016年10月27日の日立の社長の「原子力を手がけた企業として責任がある。事業をやめるとは言えない」という発言も、国内の原発を維持し、新規建造すら否定せず、海外へ積極的に原発輸出をしようとする日本政府の政策とは表裏一体のものであろう。

このように、原発に見切りをつけることと、原発の製造技術を捨てることはほぼ同義であり、一方で、原発の維持・推進と原発製造技術の維持は表裏一体なのである。

日本やフランスのように、政府が原発の維持・推進に固執すると、その国の企業が各国の原発関連資産を引き取らされることになり、最後は、その国の国民が負の資産を背負わされることになる。

  (2)脱原発しなければ「ババを引く」ことになる

本書面の第3では、あえて、日経新聞や保守的な立ち位置にある産経新聞や時事通信の記事を多く引用した。特に「経済紙」を名乗る日本経済新聞社が、東芝の粉飾決算追及の急先鋒となり、原発の将来性に対する深刻な懸念を(全体からは目立たない形で)繰り返し記事にしていることは重要であろう。

日本国が脱原発の政策に舵を切れないことで、将来、日立の社長が予言したように原発産業が統合され、それでも不採算となったとき、現に仏アレバ社や、東京電力がそうなっているように、国民が電力料金や税金の形で負担させられることは想像に難くないであろう。そして、そのアレバ社の救済にすら、三菱重工が乗り出していることはすでに述べたとおりである。国際的な原発の負の資産の「ババ抜き」はすでに始まっているのである。

  (3)原発の不経済性が日本の産業発展を妨げさらなる原発の危険因子ともなる

将来性のない不採算事業に固執すると、第1で述べた再生可能エネルギーへの投資やインフラ整備が遅れる。これは単にこの種の新電力の普及が遅れるだけでなく、その分野の国際競争で敗れる、ということを意味する。そして、第2で述べたように、経済性のない原発を維持・推進するための費用は、電力料金や税金の形で、結局、国民が負担させられる。そして、第3で述べたように、原発の不経済性が日本の産業基盤そのものを傷つけることになる。

そして、そのような不採算部門が要する原発の技術自体も、どんどん劣化していくと考えるべきであろう。三菱重工業が引き起こしたサン・オノフレ原発の蒸気発生器の欠陥は、2012年の部品納入後2年で発覚している。技術の拙劣さは目を覆うばかりである。苦境に立たされた日立の社長が技術者の不足を述べていることもそのことを裏付ける。

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