◆第17回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

松本美津男

私は京都市左京区に住んでいる66歳の松本美津男と申します。

1歳半の夏にポリオウイルスによる両下肢機能障害になり、現在、主にマイカーで外出し、歩行は短距離なら両松葉杖で、長距離や少し重い荷物を持ち運ばなければならない時は手動車いすを併用しています。最近は、ポリオウイルスによる小児麻痺障害者が40~50歳代になると新たに筋力の低下や筋肉の痩せ、筋肉・関節の痛み等が出現するポリオ後症候群のせいか、自信のあった腕の力も弱ってきており今は右肩が慢性的に痛むため毎日痛み止めの薬を朝晩塗ってやり過ごしている状態です。また、血圧の薬など数種類の薬を服用しています。

左京区内の浄楽学区の自主防災会の主催する、主に地震を想定した防災訓練に一昨年秋初めて手動車いすで参加しましたが、指定されている避難所まで行くのに坂がきつく参加された元気な方に押してもらって何とかたどりつけました。けれども、たどり着いた学校の体育館の入り口はスロープがなく臨時に木の板を渡しているというお粗末なもので、かなり出入りしにくい状態でした。しかも防災訓練に参加した人だけでほぼ満員状態で、実際に住民全部が避難して来たらとても入りきれないのは明らかでした。

この問題をその時指摘した人がおり、区役所の担当者はまた検討しますという回答をしました。

この訓練に参加して、本当に大きな地震などあったらこの避難所にはまずたどり着けないだろう、仮にたどり着けたとしても、避難所は溢れかえるのは明らかで、車いす移動などできるスペースはないだろうし松葉杖歩行も相当困難と考えられ、避難生活するのは無理だなと感じました。

昨年防災難訓練の日は雨で、参加するかどうか少し考えましたが、震災は天気など関係なく起こるのだから、大変な状況の時こそ訓練しておくのが大切と思い、車いすで合羽を着て頑張って一時集合場所に指定されている公園に少し遅れて行きました。ところが人影がありません。場所を勘違いしたのかなと思っていたら、他の町の班長とおっしゃる方が来られ、他にも来られた方の話では、訓練が中止になり、役員だけが別の場所で会議をしているということを知りました。花折断層の真上にある私の地域でさえ避難についての認識はこの程度なのです。

そして、国の制度として避難行動要支援者について事前登録制度がありますが具体的な対象者の範囲は自治体任せで、京都市の場合、私が単身なら登録対象者になるのですが同居の配偶者がいるため登録対象に入らないことが分かりました。

また、福祉避難所に指定された施設の方が行きやすそうなので、もし避難指示が出たら、直接福祉避難所へ行けばよいかと区役所に尋ねると、福祉避難所がすぐに準備できるわけではないので先に地域で指定された避難所に行ってもらいたいとの返事でした。

防災訓練に参加した状況を話して福祉避難所に直接行く必要性を訴えても、あなたの地域の避難所が狭く、行くのが大変なのはわかるが国がそういう風に決めているから従ってもらうしかないと自治体としての主体性のない返事でした。

私の防災訓練の体験からも障害者は大きな災害が起これば避難所にも行けないケースが続出すると考えられます。宮津市に一人で住んでいる両下肢障害のクラスメートは「避難所に行っても、手すりがないので、あんなところでは立ち上がることもできないだろうから、避難指示が出ても避難所には行かない。」と言っていました。

実際、東北大震災で多くの死者が出ましたが、NHKなどの調査の結果、障害者の死亡率は一般の人たちの約2倍でした。避難したいと思っても迅速に行動できない、あるいは介助者なしには動けない肢体障害者、単独では避難所まで行きにくい視覚障害者、そして避難の呼びかけが聞こえない聴覚障害者など、どうしても逃げ遅れた犠牲者が多かったわけです。

また、多数の障害者や家族は、避難所の仮設トイレが車いすなどでは利用できない、知的障害や発達障害児者が慣れないところへ行けば大きな声を出したり、動き回ったりしてみんなに迷惑がかかると感じ、危険性を知っていても避難所に行かなかったり、一度避難所に行っても自宅へ戻ったりしました。

避難所を転々とした障害者もいます。「JDF被災地障がい者支援センターふくしま」が実施した調査では147人中「8割の118人が3カ所以上を移動し、うち4人が9カ所を巡った。1カ所目で落ち着けたのは1割の16人だけ」でした。

さて、私はスリーマイル島の原発事故やチェルノブイリ原発事故を見て原子力発電所の事故の恐ろしさを感じてはいましたが、海外で起こったような大事故が日本で起こるとは全く考えていませんでした。

福島原発事故が起こって初めて日本における原発の恐ろしさを知りました。いわゆる安全神話にどっぷりつかっていたのです。
一般住民でも災害避難は大変である上に障害者の避難がいかに困難であるかは先に述べた通りです。これが原発事故であれば更に問題は深刻です。
いたるところで地震の起こる可能性のある日本列島で、事故が起きれば、障害者が避難困難となる原発を稼働させること自体が間違いです。

私は好きで障害者になったわけではありません。障害者でも住みよい社会づくりのために運動もしていますが、原発事故で犠牲者、障害者を大量に生み出すようなことは二度と繰り返させないためにこの裁判の原告に加わりました。

政府は北朝鮮のミサイルの危険性やテロ対策を強調していますが国民の安全を真に守るつもりがあるのなら原発こそ廃止すべきです。

裁判長におかれましては、政府の意向がどうであれ、国民の命と安全を守るため、私たちの子や孫が安心して生活できるよう、悔いのない判決を下していただくよう切にお願いいたします。

以上

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