【2020年6月23日,原子力規制委員会・敦賀原子力規制事務所にて申入】
原子力規制委員会 更田豊志 委員長 殿
申 入 書
原発は、事故確率の高さ、事故被害の深刻さ、事故処理や使用済み核燃料の処分の困難さなど、現在科学技術で制御できる装置でないことを、福島原発事故が大きな犠牲の上に教えています。その原発が老朽化すれば、危険度が急増することは多くが指摘するところです。それでも、原子力規制委員会(規制委と略)は、2016年6月20日および2016年11月16日、関西電力(関電と略)高浜発電所(高浜原発と略)1、2号機および美浜原子力発電所(美浜原発と略)3号機の40年超え運転を、拙速審議によって認可しました。しかし、この認可以降に、関電の原発に関連して、下記のように、トラブル、事故、不祥事が頻発しています。これらは、認可の過程では想定されなかった、あるいは重要視されなかったものです。原発の40年超え運転が理不尽であることを示しています
記
【1】関電の原発でのトラブルの例
(1)高浜原発4号機では、再稼働準備中の2018年8月19日に、事故時に原子炉に冷却水を送るポンプが油漏れを起こし、20日には、温度計差込部から噴出した放射性物質を含む蒸気が原子炉上蓋から放出される深刻なトラブルを起しました。
(2)高浜原発4号機では、2019年10月、再々稼働準備中に、3台設置されている蒸気発生器の伝熱管5本の外側が削れて管厚が40~60%減少していることが見つかりました。関電と規制委は、伝熱管の減肉や損傷は、混入した異物が配管を削ったためとしましたが、蒸気発生器の1台からはステンレスの小片が見つかったものの、他の2台の蒸気発生器では、異物は特定できていません。
(3)高浜原発3号機でも、本年2月、再稼働準備中に、蒸気発生器伝熱管の減肉・損傷が見つかりました。関電は、異物の混入のためとしました。
上記のトラブルの中でも1次系である蒸気発生器の伝熱管の損傷はとくに深刻です。約160気圧、摂氏約320度の高温・高圧水が流れている伝熱管が完全に破断すれば、高圧の原子炉水が噴出し、原子炉が空焚きになる可能性があります。実際、1991年に美浜原発2号機でこのような伝熱管破断が起き、緊急炉心冷却装置が作動しています。損傷した伝熱管も多数に上ります。例えば、高浜原発3号機では、2018年9月段階で約1万本の伝熱管の3.6%にあたる364本が摩耗による減肉、腐食、応力腐食割れによって使用不能になり、栓がされています。
このように損傷が進む蒸気発生器ですが、高浜1、2号機、美浜3号機の蒸気発生器が取り替えられたのは、それぞれ1996年、1994年、1996年であり、約25年も経過しているにも拘わらず、これらの原発の運転が認可されています。
なお、蒸気発生器の破損は、取り替えたばかりの蒸気発生器でも発生しています。米国のサン・フレスノ原発2、3号機では、2010年、2011年に蒸気発生器を三菱重工業製の新品に取り替えましたが、2012年1月、3号機で放射性物質を含んだ蒸気が漏出し、運転を停止しました。調査の結果、両機ともに3000本以上の蒸気発生器伝熱管に早期摩耗が発見されました。この2基は2013年6月に廃炉となりました。
このように、蒸気発生器は、「加圧水型原発のアキレス腱」と言われるほど、トラブルが頻発する装置ですが、上記(2)、(3)で述べた減肉は、さらに深刻な問題を提起しています。それは、減肉の原因が、規制委の審査では想定されていない「混入した異物による損傷」であることです。「異物の混入」は、防ぎきれない人為ミスによっても起こりますが、炉内での腐食や破損によっても起こります。例えば、規制委の審査では、炉内構造物を固定するバッフルフォーマーボルトの応力腐食割れによる損傷数は60年運転時点で全体の20%以下であるから安全を維持できるとしていますが、破損ボルトが異物として炉心や配管を損傷する可能性もあります。
腐食、減肉、損傷の頻発する蒸気発生器を持つ加圧水型原発は、重大事故を起しかねません。運転開始後45年、44年、43年超えにもなる老朽原発・高浜1、2号機、美浜3号機の運転などもってのほかです。
【2】老朽原発再稼働準備工事での人身事故
(1)昨年9月19日、老朽原発・高浜1、2号機の特定重大事故対処施設建設用のトンネル内で溶接作業中の9人が一酸化炭素中毒で救急搬送され4人が集中治療室に入りました。このトンネルには外気を取り込む送気ダクトが設置されていませんでした。
(2)今年3月13日、高浜原発1、2号機の敷地内にある掘削中の作業用トンネルで、発破準備作業の安全監視中であった協力会社社員が、発破用の火薬を運ぶために後退してきたトラックにはねられ、病院に搬送されましたが、3時間後に亡くなられました。はねられた社員は耳栓をし、トラックに背を向けていたそうです。
(3)4月11日には、高浜原発1号機の安全対策工事を行っていた協力会社社員が、脚立から転落し、骨盤を折る重傷を負われました。
これらの人身事故は、老朽原発再稼働準備作業中に起こりました。老朽原発を無理矢理動かそうとして、安全な労働環境づくりを怠ったために起こった事故です。
【3】老朽原発運転を企む関電幹部の不祥事
昨年9月、関電が支払った原発関連工事費が、多額の金品として関電幹部に還流されたことが暴露され、今年3月には、電気料金値上げ時にカットした役員報酬や役員が追加納税した税金を、退任後、関電が補填していたことが公表されました。しかも、これらの不祥事に関与した関電幹部のほとんどは、原発の推進に奔走した人たちです。原発が、汚れた原発マネーによって推進されたことを示します。
それでも関電は、原発の運転を継続し、危険極まりない老朽原発まで再稼働させようとしています。また、関電は、この不祥事の後、役員人事を刷新したとし、旧経営陣を告発していますが、真に信頼回復に努めるのであれば、不祥事の原因となった原発の稼働や再稼働準備工事を一端中止して、原発稼働の是非を再考すべきです。
上記【1】~【3】のトラブル、事故、不祥事は、原発の安全にとって看過できないものであり、関電が原発を安全に運転できる資質、能力、体制を持ち合わせていないことを物語る証左です。老朽原発の運転などもっての他です。
なお、人の命と尊厳より自らの利益を優先させる関電は、新型コロナウイルス(「新型ウイルス」と略)の危機の中でも、稼働中の原発を停止させないのみならず、危険極まりない老朽原発の再稼働準備工事まで継続しています。
「新型ウイルス」蔓延の中で原発が重大事故を起したら、集団避難のバスの中で、避難先で何年も続く集団生活の中で「新型ウイルス」の感染を防ぐことは至難です。一方、原発内で感染が拡大すれば、原発の運転が困難になるばかりでなく、検査も行き届かなくなり、原発の安全が保たれなくなります。
以上の視点に立って、「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」実行委員会は、貴原子力規制員会に、以下を申し入れます。
【1】高浜原発1、2号機、美浜原発3号機の運転期間延長認可を取り消し、これらの原発の即時廃炉を決定して下さい。
【2】「新型ウイルス」の危機下でも運転中の大飯原発3、4号機、高浜原発4号機の即時停止を求めて下さい。「新型ウイルス」の危機下でも継続され、人身事故が多発している老朽原発再稼働準備工事の即時停止を求めて下さい。
2020年6月23日
「老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」実行委員会
(連絡先;木原壯林 090-1965-7102)
文中に「サン・フレスノ原発」と書かれていますが、『一般的には「サン・オノフレ原発」と表記するのがよいのではないかと思いますが、いかがでしょうか』というご指摘を受けました。確かにそのとおりですので、「サン・オノフレ原発」に訂正させていただきます。なお、「サン・フレスノ原発」という表現も一部では使われています。