◆何故、原発には汚い原発マネーが付きまとうのか?

【2020年1月17日,京都キンカンで配付】

◆関電が支払った原発関連工事費などが、多額の金品として関電幹部(20人)に還流されていたことが明らかになり(9月23日)、多くの人々の怒りを買っている。
(10月9日;会長、役員4人辞任:社長は電事連会長、会長は関経連副会長を辞任。)

◆この関電幹部に還流された資金は、もとを質せば電気料金として、電力消費者から関電に支払われたものである。電力供給は公益性が高く、電気料金は税金に準じる性格を持つことを考えあわせるとき、水増しして支払った工事費を還流させることなど、許されることではない。
(還流仲介の元助役からは、109人の福井県職員、元高浜町長、小浜警察署幹部などへも金品贈与:関連して野瀬高浜町長が町発注事業を受注する企業から1500万円を超低金利で借入していたことが発覚。)

◆ところで、渦中の関電役員のほとんどが、原発推進に奔走した幹部であったことは、原発が立地住民の安心・安全や電力消費者の利益をないがしろにする経営の中で推進されたことを裏付けている。

◆一方、この資金還流に中心的に介在した人物が町政に大きな影響力を持つ元助役であったことから、原発の導入や再稼動への町の同意など、原発推進の町運営が疑惑に溢れた原発マネーの影響を受けたことも容易に想像できる。

◆なお、関電は原発を再稼働させるために安全対策費を1兆200億円以上使い、老朽高浜1、2号機、美浜3号機の安全対策費に5000憶円以上を費やそうとしている。これらの資金が総括原価方式の中で、電気料金として徴収され、ゼネコンなどに垂れ流されているのであるから、今後さらに大きな疑惑が浮上するであろう。
(全国11電力の安全対策費は5兆4000億円超。)

◆原発は、1954年3月(ビキニ水爆実験の月)、「学者がボヤボヤしているから札束でほっぺたをひっぱたく」ことによって推進すればよい(中曽根康弘発言とされる)として成立した予算に始まった(日本学術会議は平和利用3原則付きで承認)。このように、原発には、当初から汚い原発マネーが付きまとっていた。ここでは、その理由につぃて考えてみたい。

【1】誰が原発を推進したのか?

◆原爆が投下されたのは1945年であるが、その10年後の1955年には原子力基本法が成立し、その10年後の1965年には、東海原発1号炉が商業運転開始している。

◆このように、大急ぎで、議論もそこそこに原発を導入した勢力は、再軍備、資本主義的発展(原子力による産業革命)を画策する、正力松太郎(警察官僚・特高の総元締・戦後CIAの日本戦略の要)、渡辺恒雄、中曽根康弘(元海軍主計大尉)、福田赳夫、岸信介(東條内閣の商工大臣)、児玉誉士夫(日本軍の物資調達)、佐藤栄作 [非核3原則を標榜し、核の傘依存を主張する一方、核エネルギー の平和利用(核兵器の潜在能力)を促進し、裏で沖縄への核持込み密約の疑惑も]らの反共産主義者であった。

◆彼らは、旧財閥の復活を目論み、1956年に日本原子力産業会議を発足させ(2012年4月より、日本原子力産業協会)、三菱、日立、住友、東芝、古河、 自治体、大学等を総動員して、旧財閥に暴利を誘導し、基幹産業と軍事の担い手に育て、日本を巨大資本主義国にしようとした。

◆原発建設は巨大な公共投資である。電源3法交付金などによって膨大な税金が垂れ流される一方、総括原価制度(発送電費、工事費、買収費、賄賂・・・・全てをコストとして電気料金に反映)で電力消費者から独占的に電気料金を(税金のように)徴収して、原発の建設や安全対策工事を通して、旧財閥系企業に垂れ流されている。

◆これらの原発マネーは麻薬のような性格を持つから、
・原発建設で暴利を得る人々は麻薬の生産者であり、
・エネルギーの拡大を通して、利益を上げたい人々は、麻薬の売人であり、
・原発エネルギーとそれによってもたらされる物質的便利さ、擬似的幸福を欲しがる人々は、麻薬患者であり、
・核兵器を欲しがり、戦争をしたがる人達は、麻薬で錯乱の人たちであるといえる。

【2】原発は膨大なエネルギー源であるが、現在科学技術で制御できない

[1]核反応エネルギーは化学反応エネルギーの数百万倍

◆人類を取り巻く環境は、化学結合と化学反応によって成り立ち、化学反応ではeV(エレクトロンボルト:エネルギーの大きさを表す単位)レベルのエネルギーのやり取りが行われる。このレベルのエネルギーで達成できる温度は精々数1000℃である。生体内で生じる化学反応の多くは、0.1 eV 以下のエネルギーのやり取りで生じる。このことは、100℃までの温度で化学反応が生じることを意味し、したがって、100℃を越えて生きる生物は稀である。

◆一方、原発内では、核反応が生じるが、核反応ではMeV(ミリオンエレクトロンボルト)レベルのエネルギーが放出される(M = 100万)。このレベルのエネルギーでは、数億度℃以上を達成できる。事実、核融合反応(放出エネルギーは核分裂反応より小さく、1/10以下)が生じている太陽内部は1500万℃といわれている。

◆以上のエネルギーの関係は、核反応1反応によって100万に近い化学反応が生じ(結合が切断される)、核反応によって、化学反応は爆発的に起こることを意味する。

◆したがって、核反応エネルギーを化学結合でできた材料で閉じ込めて置くことは極めて困難であり、例えば、原発の重大事故時には、膨大なエネルギーに起因する熱(核反応熱;核分裂で出る熱、崩壊熱;放射線を出して別の物質に変わるときに出る熱)によって核燃料や被覆材などの原子炉材料が溶融し、水素ガスの発生・爆発あるいは水蒸気爆発(水の爆発的蒸発)を引き起こし、大惨事(メルトダウン、メルトス ルー)に至る。また、体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線による内部被曝では、原理的には、1000万に近い体内の化学結合が切断される。

[2]原発は事故を起こし易く、被害は広域・長期におよび、事故収束は至難(詳細は別稿に譲る)

◆核反応は、膨大なエネルギーを放出するので、原発は事故を起こし易く、原発での大惨事は瞬時に進行する。また、事故によって溶け落ち、飛散した核燃料は、膨大な熱で溶融して集合し、再臨界(核分裂開始)に達する。したがって、溶け落ちた核燃料は、大量の水で長期間冷却し続けなければならない。

◆一方、原発内には、何年もの運転によって発生した放射性物質(死の灰)が蓄積しているので、原発重大事故時には、原爆炸裂時(瞬時の核反応)とは比較にならないほど多量の死の灰を放出する。また、放出された死の灰は、風に乗り、海に流れて、きわめて広域にまき散らされる(火災が10km先に飛火することはほとんど無い)。さらに、死の灰を消滅させる方法はなく、半減期にしたがって減少することを待つしかないので、死の灰による被害は長期におよぶ。また、福島原発事故で明らかなように、原発事故で溶け落ちた核燃料は、膨大な放射線と熱を出し続けるので、原発事故の収束には、途方もない時間と労力を要する(被曝労働も深刻である)。

[3]原発は、長期保管を要する使用済核燃料、放射性廃棄物を残す(詳細は割愛)

◆以上のように、原発は、人類の手に負える装置ではないことは議論の余地がない。

【3】何故、原発は汚い金にまみれなければ 推進できないのか?

◆戦後の復興と高度成長前期(1955年から65年)に、生産力向上による利潤と便利さを追及した資本主義経済(とくに都市部と近郊)がエネルギー(電力)の生産の拡大を要求した。この要求と核兵器開発の潜在力を得たいとする願望が相まって、原発の導入が画策された。

◆しかし、前述したように、
原発は現在科学技術で制御できない装置であるから、これを喜んで引き受けるところなど何処にもない。

◆そのため、高度成長で切り捨てられつつあった農業、漁業を主産業とする人口の少ない地域に原発を持ち込み、押し付けることになった。

◆原発を引き受けさせる見返りとして、国と電力会社は、地域自治体、企業、住民に原発マネーをバラマキ、「人の命と尊厳」を犠牲にして「経済的利益」を選択すること強いた。このとき、「原発立地地元の同意は、原発の稼働の法的要件」とし、いかにも地元重視であるかのように見せかけた(原発稼働の責任を地元自治体に押し付けた)。

◆一方で、電力会社は、立地自治体と企業(ゼネコンなどの大企業と現地の下請け企業)に直接、間接の原発マネー垂れ流しを行い、電力供給の面からだけでなく、経済活性化の面からも、日本資本主義成長の一端を担った。なお、電力会社には、総括原価方式で電気料金を徴収する限り、無限の財源がある。

【4】原発マネーは地域を豊かにするか?

◆以下のように、原発立地の給与、福祉、教育が、他自治体に比べて、優れているとは言えない。

(1)自治体職員の給与

◆例えば、原発立地・高浜町[人口:10,397人(男:5196人、女5201人)、世帯数:4331世帯)の、2017年度会計の総額は158億4,856万7千円であり、30%が「電源立地交付金」、「核燃料税交付金」などの国などからの自治体への交付金(この他、関電などからの寄付金)である。

◆筆者は、原発マネーを有する高浜町職員の給料は、他の自治体に比べて、少しは優遇されているであろうと考えていたが、以下のように予想に反していた。

・初任給月額…大学卒:168,600円、短大卒:156,800円、高校卒:147,100円
・平均給与月額…一般行政職(平均年齢:39.2歳)279,500円、技能労務職(平均年齢:53.6歳):230,800円
・特別職給与月額…町長:850,000円、副町長:670,000円、教育長:560,000円、議長:300,000円、副議長:245,000円、議員:235,000円

(2)福祉、教育予算

◆人口の類似した東海村と菰野町の比較。原発は地域を豊かにするとは限らない。

◆東海村(原発、原子力機構、原子力企業に加えて、火力発電所や企業も多いので、自主財源は潤沢で地方交付税不交付団体:人口38,000人)
・一般会計予算166億円(55億円が原子力関係収入)
・国民健康保険関係:33億円、介護保険:25億円
・保育園6園中3園が私立。幼稚園6園中1園が私立
・小学校6校。中学校2校。
◆菰野町(こものちょう:三重県,隣は四日市市、人口40,000人)
・一般会計予算113億円。
・国民健康保険関係:42億円、介護保険:28億円
・保育園6園中1園が私立。幼稚園5園全てが町営
・小学校5校。中学校2校。

(3)県の債務

◆[1960年代に原発立地を拒否した徳島県(人口82万人)と福井県(人口82万人)の比較(2007年度)]原発を持たない徳島県の方が借金が少ない。

◆福井県の原発税収は県税収入の1割。一般会計と特別会計を合わせた歳入に占める割合は2%。

◆県債(借金)残高
・福井県…7,990億円(県民1人当たり93万円)
・徳島県…6,330億円(県民1人当たり78万円)

【山崎隆敏著『なぜ、「原発で若狭の振興」は失敗したのか』(白馬社)を参照】

(4)原発進出を断った町が貧困にあえいでいるわけではない

◆原発や再処理工場が立地した市町村の数は22ヶ所、それらを断った市町村は34ヶ所以上ある。数で言えば、原発を受け入れた自治体よりも断った自治体の方が圧倒的に多い。これ以外にも、最初の打診を受けた時点で早々に断ってしまい、議論にもならなかった自治体も少なくない。

【原発を拒否している地域…31(実験炉1を含む),
 再処理を拒否している地域…3,
 廃棄物処理を拒否している地域…28,
 中間所蔵を拒否している地域…3 】

◆原発が立地している自治体は、原発が無くなると自治体の経済が成り立たないと大げさにアピールしているところが少なくない。

◆それでは、原発を断った自治体が、現在貧乏をかこっているかといえば、そんなことはない。それらの自治体も自然の立地条件は、海岸沿いの過疎地であり、原発を受け入れた自治体と紙一重だったのだが。

【「筒井新聞」313号(2016年10月8日)「原発進出を断わった町」より抜粋、改変】

【5】政府が、脱原発の民意を蹂躙して、福島事故後も原発に固執する理由

◆この理由は、「エネルギー基本計画(改定案;経産省;2018年7月3日)」から読み取ることができる。
・2010年度(震災前)
 …LNG29%、石炭26%、再生可能エネルギー10%、原子力25%、石油10%
・2015年度(現状)
 …LNG40%、石炭32%、再生可能エネルギー15%、原子力1%、石油12%
・2030年度(計画)
 …LNG27%、石炭26%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石油3%

◆この計画では、再生可能エネルギーを「主力電源化」する方針を打ち出す一方で、原発については、「依存度は可能な限り低減していく」としつつも、「重要なベースロード電源」として、2030年度時点の発電電力量に占める原発の比率を20~22%とする目標は据え置いた。

◆この目標の達成のためには、30基以上の原発が必要となり、40年超え老朽原発の稼働も必要になる。

・この「基本計画」では、CO2排出量の多い石炭火力はほぼ据え置いている。
→CO2対策でないことは明らか。
(先日開催されたCOP25で、日本は、温暖化対策に消極的な国に贈られる「化石賞」を2回受賞!)

・LNG、石油を大幅に減少させ、戦争でこれらの輸入が途絶えたときのために、自前で調達できる電力(石炭、再生可能エネルギー、原子力)を増やそうとしている。

・原子力を増やし、原発をトンネル機関として、巨額の原発マネーをゼネコンや原発関大企業へ垂れ流そうとしている。
(例えば、福島事故以降に高浜原発に投入された安全対策費は1兆200 億円以上、今後も5,000憶円以上が投入される予定。)

【6】原発再稼働・維持に使う巨費と労力で原発のない町づくりを!

◆1月16日の新聞は、2013年に新規制基準導入後、全国の商用原発で必要となった再稼働のための安全対策費(2019年12月時点)と施設の維持費(2013年度‐2018年度の実績)の総計は、約12兆6,077億円、廃炉(17基:福島の事故炉は含まない)の解体費は約8,492憶円と報道している。

◆安全対策費には、特重施設(テロ対策施設)の新設費用が含まれていず、数千億円が追加される可能性がある。また、維持費は今後も必要で、年間1兆円(電力11社の合計)規模が積み上がる見通しである。

◆これらの巨費は、総括原価方式の下で、電気料金に上乗せされるので、長期の国民負担となる。

◆圧倒的な民意によって原発を拒否し、原発の再稼働・維持に要する巨費と労力を、原発のない社会創りに振り向けようではありませんか!

金まみれ、利権まみれの原発から
一刻も早く脱皮しよう!
老朽原発を即時廃炉にしよう!


2020年1月発行

連絡先;木原壯林(若狭の原発を考える会)
電話:090-1965-7102