◆原発は止まる・止められる◆特重施設の未完成で原発停止◆原発にかかわる5月の出来事

【2019年6月7日,京都キンカンで配付】

原発は止まる・止められる!

「特定重大事故等対処施設」
期限内に完成しなければ
原発運転停止:規制委決定
運転停止を原発全廃の好機に!

◆原子力規制委員会(規制委)は、4月24日の定例会合で、原発の「特定重大事故等対処施設(特重施設;報道ではテロ対策施設とも呼ばれている)」が期限までに完成しなければ、原発の運転停止を命じることを決めた。

◆特重施設の設置は、福島原発事故を契機につくられた「新規制基準」(2013年7月施行)で義務付けられた。当初の設置期限は、新規制基準施行から5年の2018年7月であったが、規制委の審査が長期化し、期限内の完成が難しくなったので、規制委は期限を延期し(2015年)、「原発本体の工事計画の認可から5年」と定めた。

◆特重施設は「第2の制御室」ともいわれ、テロ行為その他の緊急事態によって原発過酷事故が発生した場合に、遠隔操作で原子炉を冷却したり、原子炉格納容器内の圧力を下げて崩壊を避けることなどを目的とした施設である。原子炉建屋から100メートルほど離れた場所に設置される。建設費は1基500~1200億円とされる(朝日新聞)。

◆電力各社は、特重施設を期限内に完成させるとしていたが、4月17日の規制委の会合で、施設の完成が1年~2.5年遅れる見通しを示し、再延期を認めるように要請していた。工事が遅れた理由は、「工事が当初の見込みより大規模になったため」としている。なお、電力各社によると、特重施設を建設するためには、敷地内の山を切り開く、工事用車両のトンネルを掘るなど、大規模工事が必要であることが判明したという。
チラシ作成者の意見:杜撰(ずさん)な工事計画しか立てられない電力会社が、原発を安全に運転できるはずがない。]

◆規制委の会合(4月24日)では、「自然災害などで工事が遅れたのではない」などと指摘し、期限延長の必要性はないと決めた。
チラシ作成者の意見:約束を守らせるのは当然で、これまで、たびたび約束を違えても、虚偽のデータを使用していたことが発覚しても、原発運転を停止させなかった規制委の甘い姿勢こそ問題である。]

◆新規制基準審査に合格し再稼働した関電、四電、九電3社の5原発9基の原発の中で最も早く期限が来るのは、九電の川内原発1号機である。来年(2020年)3月に期限を迎え、その時点で施設が完成していなければ、運転中でも、工事完成まで運転停止となる。停止見込み期間は、九電の計画通りに工事が完成したとしても、約1年となる。

◆川内1号機以外の5原発8基の期限と停止見込み期間(カッコ内に示す)は、
・川内2号機;2020年5月(約1年)、
・高浜3号機;2020年8月(約1年)、
・高浜4号機;2020年10月(約1年)、
・伊方3号機;2021年3月(約1年)、
・大飯3、4号機;2022年8月(約1年)、
・玄海3号機;2022年8月(未定;九電は間に合わせると表明)、
・玄海4号機;2022年9月(未定;九電は間に合わせると表明)。

◆再稼働していない原発の期限と停止見込み期間(カッコ内に示す)は、
・高浜1、2号機;2021年6月(約2.5年)、
・美浜3号機;2021年10月(約1.5年)。
・日本原電・東海第2原発での設置期限は2023年10月であるが、工事完成時期は不明(工事計画すら未申請)。

◆なお、関電は、45年超えの老朽高浜原発1号機を2020年6月に再稼働しようとしているが、再稼働したとしても、1年後には2年半の停止をしなければならない。

福島原発事故は防げた可能性

◆原発のテロ対策などの重大事故対策は、2001年9月の米国での同時テロをきっかけに、世界各地で強化された。米国では、2002年に米原子力規制委員会(NRC)が米国の原子力事業者に対して、航空機の衝突や全電源喪失などへの対策を求めている

◆しかし、日本では、福島原発事故後になってやっと特重施設の設置が義務付けられた。福島原発事故についての国会事故調査委員会の報告によれば2002年当時の「原子力安全・保安院」は、NRCから安全対策強化の情報を得ていたが、電力会社には伝えていない。上記報告書は、「電気事業者に伝え、対策を要求していれば、福島原発事故は防げた可能性がある」と指摘している。

過酷事故原因はテロだけではない
特重施設があっても事故を防げるとは限らない

◆報道では特重施設をテロ対策施設と呼んでいるが、原発過酷事故の原因は、テロだけとは限らない。スリーマイル島原発事故(1979年)は、機器の故障と人為ミスがいくつも重なって発生した。チェルノブイリ原発事故(1986年)は非常用電源に関する実験中に起きたが、原因は原子炉設計上の欠陥、判断および操作ミス、マニュアル遵守違反の複合である。福島原発事故(2011年)の原因は解明されたとは言えないが、地震、津波の自然災害、原発施設の不備、人為ミスの複合と考えられる。

◆このように、原発過酷事故の原因は多様であり、テロによる事故を想定した施設が完成しても、他の要因による事故の拡大→過酷事故の防止に有効であるとは限らない。

特重施設では使用済み燃料プールの
安全は保障されない

◆使用済み燃料プールは「むき出しの原子炉」ともいわれる。プールが自然災害やテロによって倒壊・崩壊すれば、特重施設が完備していても使用済み核燃料の冷却は不可能である。このことは、福島第一原発4号機の使用済み燃料プールが倒壊の危機にあったため、大急ぎで使用済み燃料を抜き取り、難を逃れた事実からも明らかである。

なぜ規制委は一転強硬姿勢に出たか

◆今回の規制委の決定は唐突の感がある。また、この決定には、早速、菅官房長官も支持を表明している。それは、自民党政権が、原発の安全性が担保されていない状況では、東京オリンピックへの海外からの支持と参加に悪影響を与えると判断したためではなかろうか?

◆ただし、特重施設があったからと言って、大幅に原発の安全性が高くなるものでもない。とくに、使用済み燃料プールの危険性は特重施設では除去できない。

原発全廃、使用済み燃料の安全保管対策の強化こそが、原発事故の回避策である。

脱原発・反原発の行動を強化し、
全原発の即時廃炉を勝ち取ろう!

◆電力会社は、特重施設の完成が間に合わなければ、色々な欺瞞工事や手抜き工事を行う可能性もある。とくに、「特重施設」を「テロ対策施設」とすることによって、テロ対策を口実に、施設の内容に関する情報の多くが不開示にされていることが、「特重施設」の有効性を疑わせる。

◆また、自然災害、人為ミス、テロなどによる原発過酷事故が、特重施設の完成を待ってくれるとは限らず、過酷事故は今日にも起こりかねない。あらゆる角度から電力会社や規制委を徹底的に糾弾し、原発即時全廃を勝ち取ろう!


原発に関わる 5 月(2019年)の出来事

昨 5月の1ヶ月間に起こった原発に関わる出来事を振り返ってみました。

経団連が電力提言(5月12日報道)

◆経団連が、電力システムの再構築を求める提言を公表した。日本の電力システムは、
①化石燃料依存度の高止まり、
②再生可能エネルギー活用のための送電線網不足
チラシ作成者の意見:原発用の送電線網を再生可能エネルギーにまわせばよい]、
③原発の再稼働問題、
④国際的に割高な電力料金の「4つの危機」に直面している
として、発電や送配電分野への投資を呼び込む環境整備が必要だと訴えている。

◆全体として、大資本に奉仕し、戦争できる国の基盤電源としての電力システムの視点が色濃い。③については、原発の稼働停止が続き、特重施設の設置が間に合わず、国内外を問わず安全対策費が高騰し、脱原発が世界の流れになっているにもかかわらず、「例外中の例外」であるべき老朽原発の運転まで固執している。

◆また、原発の停止期間を新規制基準に定められた最大60年の運転期間から除くべきだと主張し、60年を超えたさらなる運転期間延長に向けて、技術的検討を求めている。投資を回収するビジネスの視点が色濃く、脱原発・反原発の民意を蹂躙すること甚だしい。

福島復興拠点汚染土、最大200万立方メートル(5月13日報道)

◆福島原発事故に伴う帰還困難地域の一部を再び人が住めるように整備する福島県内6町村の「特定復興再生拠点区域(復興拠点)」の除染で、地表から削り取った汚染土などが最大約200立方メートル(東京ドーム1.6個分)出ると環境省が試算している。汚染土は、双葉、大熊両町にまたがる中間貯蔵施設に搬入する計画であるが、すでに福島県内の除染では、1400万立方メートルが発生しており、復興拠点の整備に伴いさらに増える。最終処分地はまだ決まっていない。なお、環境省は、中間貯蔵施設に搬入した汚染土のうち、放射性セシウムの濃度が、1キログラム当たり8000ベクレル以下のものは道路整備などで再利用する方針を掲げている。汚染土のバラマキである。

◆復興拠点は、福島原発事故による避難区域のうち、放射線量が年間50ミリシーベルトを超え、立ち入りが制限されている「帰還困難区域」の一部に、住民の居住再開を目指して、除染やインフラ整備を進める区域。放射線量が年間20ミリシーベルト以下に低減することや居住に適することが「復興拠点」に認定される条件。双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村で整備が進んでいるが、避難者の高放射線地域への帰還強制、東電や政府による被害補償の打ち切りに繋がりかねない。

韓国原発、あわやの大惨事(5月22日報道)

◆韓国原子力安全委員会は、10日にハンビッ原発1号機の熱出力が運営技術指針書上の制限値の5%を超え、18%まで急騰したのに、即時停止を定めた運営指針に反し、運営会社の韓国水力原子力(韓水原)が停止させたのは、異常感知から約11時間半後であったと発表した。放射性物質の漏洩はなかったが、重大事故に繋がる恐れがあった。出力急騰の原因はヒューマンエラーで、原子炉操縦士の免許がない韓水原職員による原子炉の制御棒の過多抜き取りだった。制御棒の過多抜き取りは、当時の現場作業者の中性子反応度の手計算ミスと抜き取り可否の判断ミスのためだったという。

◆1979年米国のスリーマイル島、1986年ウクライナのチェルノブイリ、2011年日本の福島事故も、ヒューマンエラーが主な原因だったという指摘も多い。

玄海原発、使用済み燃料の「プール内詰め直し(リラッキング)」と「乾式貯蔵」の併用を規制委容認(5月23日報道)

◆規制委は22日、玄海原発3号機の使用済み燃料について、核燃料プール内の燃料の間隔を詰めて保管量を増やす「リラッキング」と「乾式貯蔵(プール内に保管して、放射線量と発熱量が減少した使用済み燃料を空冷で保管する方法)」を併用する九電の方針を認めた。

◆玄海原発の稼働が続けば、4号機で2023年度、3号機で24年度に燃料プールが満杯になり、原発運転ができなくなるため、プールに空きを作り、原発運転を続けようとする九電と規制委の策動である。

◆規制委は、福島原発事故の教訓から、プール内で放射線量と発熱量が減少した使用済み核燃料を、安全性が高いとされる乾式貯蔵に移すこと求めていたが、九電には乾式貯蔵施設の設置経験はなく、整備しても完成は2027年末になる。したがって、当面、乾式貯蔵によってプール内に空きを作ることができないので、プールの危険度が増すリラッキングを行おうとしているのである。リラッキングは、福島事故後初めて。

◆九電のリラッキングの計画では、プール内で一定の間隔で核燃料を納めるラック(棚)を交換して、燃料間隔を現状の約36 cmから約28 cmに狭め、プールの収容量を1050体から1672体に約6割増やす。このとき、核分裂反応が起き、臨界に達することを避けるために、収納容器をホウ素を含んだステンレス容器に変更する。リラッキングがプールの危険度を大幅に高くすることは多くが指摘している。

◆なお、使用済み核燃料を乾式貯蔵容器に移したとしても、その保管を引き受ける場所はない。また、安倍政権が進める核燃料サイクル政策では、全国の使用済み核燃料は再処理工場で処理する計画であるが、再処理計画は完全に破綻している。したがって、電力各社は使用済み燃料を自前で保管せざるを得ない状況に陥っている。

◆使用済み燃料を増やす原発を運転してはならない!

規制委、関電に3原発の再審査申請提出を命じる(5月29日報道)

◆規制委は、関電に対し、美浜、大飯、高浜原発の再稼働審査の一部やり直しに必要な申請を年内に提出するよう命令を出す方針を決定した。火山の大規模噴火時に3原発に降る火山灰の厚さを巡り、規制委は10 cmを妥当としていたが、より多量の降灰を示す新たな論文が発表されたため、より多量の降灰時でも3原発の機能が維持されるか否かを再審査で確認するという。

◆降灰を巡って関電は、鳥取県の大山が噴火した場合のシミュレーションを基に、3原発ではいずれも10 cm と想定していた。しかし、その後、大山からの距離が3原発と同程度の京都市で、約8万年前の地層に約 30 cmの火山層があるとする論文が発表され、規制委が昨年12月に関電に再調査を指示。関電が調べた結果、高浜で21.9 cm、大飯で19.3 cm、美浜で13.5 cmと新たに予測した。
チラシ作成者の意見:この種の予測に3桁の精度の数値を示すこと自体が、科学者の資質を疑わせる。]

◆原発に想定を超える降灰があると、非常用発電機の吸気フィルターの目詰まりなどが懸念される。

◆関電は、29日に「準備ができ次第、再審査を申請する」と発表し、「原発の稼働停止は求めておらず、電気供給などに対する大きな影響はない」と、人ごとのような無責任なコメントを発している。

高浜原発、警報ない津波に対策(5月31日報道)

◆昨年12月にインドネシア・スンダ海峡で発生した津波は、地震によるものではなく、火山噴火で山の一部が海に崩れ落ちたこと(山体崩壊)が原因とみられ、津波警報は作動しなかった。これを受けて、規制委は今年1月、津波警報が出ないまま高浜原発に津波が襲来した場合の影響を調べるよう、関電に求めていた。以下が、関電の調査結果。

◆調査では、高浜原発の沖合100 kmで海底地すべりがあり、警報がないまま津波が襲来したと想定。結果、取水路の門が開いていても、海抜3.5 mの敷地は浸水しないと評価した一方、1~4号機4基分の取水路が開いていれば、引き波で取水不能になり、設備に影響が出る恐れがあるとした。追加対策では、敷地内の3台の潮位計で異常を検知した場合、6分後には取水路の門を遠隔で閉門できるようにするという。
チラシ作成者の意見:関電に都合の良い仮定の下の推定には何の意味もない。とくに、海抜3.5 mの敷地が浸水しないとすることは信じがたい。]


2019年6月7日発行

若狭の原発を考える会
連絡先;木原壯林(若狭の原発を考える会)
電話:090-1965-7102