◆安倍政権の原子力政策

【2017年3月3日,京都キンカンで配付。】

人の命と尊厳を踏み躙(にじ)る
安倍政権の原子力政策

原発が、人類の手に負える装置でないこと、
経済的にも成り立たないことは明らかです。
したがって、脱原発・反原発は
民意=社会通念となっています。

原発が、人類の手に負える装置でないことは、以下のような現状からも明らかです。

①チェルノブイリ原発事故、福島原発事故からそれぞれ 31年、6年になろうとする現在でも、避難者の大半が故郷を失ったままであり、暮らしを破壊され、家族の絆を奪われ、癌と闘い、発癌の不安にさいなまれている。

②福島で避難された方の自殺が、事故 4 年後から急増している(NHK報道)。

③福島事故の原因、事故炉の内部は今でも分かっていない。

④汚染水対策の凍土壁は効果を表さず、汚染土壌の除染も、ごく一部の地域、かつ表層のみに限られている。

⑤何万年もの保管を要する使用済み核燃料や放射性廃棄物の効果的な処理・処分法はなく、保管を引き受ける所もない。

⑥福島事故後でも全国の原発で事故が多発している。例えば、新規制基準の下で再稼働した全ての原発(川内、高浜、伊方原発)でトラブルを起こし、最近では、高浜原発でクレーンが燃料建屋上に倒壊し、柏崎刈羽原発では火災が起こっている。
など。

原発は、経済的にも成り立たないことは、以下のような事実からも明らかです。

①福島原発の廃炉、賠償などの事故対策費が、想定の11兆円から21兆5千億円に倍増することが明らかになった(昨年12月9日、経産省が公表)。しかし、この試算は、事故炉内の詳細は分からず、汚染水の漏洩防止策もない現状でのものであるから、今後さらに膨れ上がる可能性は大である。なお、政府は、この費用を抑制するために、高放射線地域にも拘らず、避難指示を解除し、避難者に帰還を強要している。

②原発には、重大事故は無くても、使用済み燃料、放射性廃棄物の処理・処分・保管費がかかる。

③避けることが出来ない事故への対策費も膨大である。

④米国でさえ、原発からの撤退が相次いでいる(シェールガス革命の影響で原発の発電コストの高さが際立つようになったため)。

⑤国の原発政策の一翼を担ってきた東芝が、巨額損失で主力事業の一つである原子力事業を縮小し、今後は、廃炉や保守などを原子力事業の中心に据えようとしている。
など。

原発は無くても電気は足りることを、
福島事故以降の経験が教えています。

省エネ技術は日進月歩で、
再生可能エネルギーは急速に普及しています。

したがって、事故が起これば、
人の命と尊厳を蔑(ないがし)ろにし、
故郷を奪い、
復旧は不可能に近い原発を、
再稼働し、推進する必要は全くないのです。

◆前記のように、原発は人類の手に負える装置ではありません。一方、原発は無くても不都合がないことが分かった今、原発を運転する必要性は見出だせません。そのため、脱原発、反原発は社会通念=民意 となっています。

◆この民意を反映して、一昨年、伊方町で行われた住民アンケートでは、原発再稼働反対が53%で賛成の約2倍でした。昨年の鹿児島県、新潟県の知事選では、脱原発を掲げる候補が圧勝しました。昨年末には、高浜原発の「地元中の地元」音海地区の自治会が、老朽原発運転反対を決議しました。本年2月の朝日新聞の世論調査でも、原発再稼働反対が57%で賛成のほぼ2倍でした。

◆国際的にも、ドイツ、イタリアに続いて、リトアニアが脱原発に向かい、昨年11月にはベトナムが原発建設計画を白紙撤回し、今年1月11日には台湾が脱原発法を成立させました。

◆この民意の故に、大津地裁は、昨年3月9日、高浜原発の運転を差し止めたのだと考えられます。

それでも、安倍政権は原発推進に
躍起(やっき)です。

以下に、安倍政権が進めるとんでもない原子力政策と、その問題点を述べます。

[1]危険極まりない老朽原発の運転延長。

◆原子力規制委員会(規制委)は、昨年6月および10月に運転開始から40年以上経過し、世界的に見ても老朽な原発・高浜原発1,2号機および美浜原発3号機について、新規制基準を満たしているとする「審査書」を正式決定しました。最長20年の運転延長を認める決定です。規制委や関電は、「40年原則」を骨抜きにし、全国の老朽原発の運転延長に道を開く流れを定着させようとしています。規制委は、これらの老朽原発の審査を、他の原発の審査を後回しにして行い、適合としました。老朽原発の運転延長については、運転開始から40年になるまでに、設備の詳細設計をまとめた工事計画と運転延長に関する規制委の認可を受けなければなりませんので、規制委は、この期限に間に合わすように、拙速審査を行って決定を出したのです。例えば、高浜原発1,2号機の審査では、審査会合回数は通常の約半分で、パブリックコメントすら求めませんでした。老朽化によって危険度が格段に高くなっている原発の審査が、手抜きで行われたのです。

◆田中規制委員長は、高浜原発1,2号機運転延長認可の発表にあたって、「科学的に安全上問題ないかを判断するのが我々の使命」と述べています。しかし、科学とは、実際に起こった事実を冷静に受け入れ、丁寧に調査し、検証・考察して、その上に多くの議論を重ねて、結論を導くものです。規制委の審査は、この過程を無視しており、科学とは縁遠いものです。実際に起こった最も重大な事実は福島事故ですが、同事故に関して、事故炉内部の詳細は今でも分からず、事故の原因究明も進んでいません。「科学」を標榜するのなら、福島事故の原因を徹底的に解明して、その結果を参照して、原発の安全性を議論・考察するのが当然です。大津地裁での運転差止め仮処分決定でもそのことを指摘していますが、規制委はこの指摘を無視しています。

◆規制委の老朽原発審査は、「2030年の電源構成で、原発比率を20~22%とするエネルギーミックスを実現する」という、安倍政権のエネルギー政策に迎合するためのものです。原発新設は望めないから、安全は蔑(ないがしろ)にしても、老朽原発を活用して目標を達成しようとしているのです。

◆原発は事故の確率が高い装置ですが、老朽化するとさらに重大事故の確率が急増します。例えば、次のような理由によります。

・原発の圧力容器、配管等は長期に亘(わた)って高温、高圧、高放射線にさらされているため、脆化(ぜいか:金属などが軟らかさを失い、硬く、もろくなること:下記注を参照下さい)、腐食(とくに、溶接部)が進んでいます。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化は深刻です。電気配線の老朽化も問題です。

・老朽原発には、建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分が多数あります。しかし、全てが見直され、改善されているとは言えません。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)です。

・老朽原発では、建設当時の記録が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となります。また、建設当時を知っている

◆技術者はほとんど退職しているので、非常時、事故時の対応に困難を生じます。

(注)老朽原発圧力容器の脆性破壊 鋼鉄のような金属は、ある程度の軟らかさを持っていますが、高温で中性子などの放射線にさらされると、温度を下げたとき硬化しやすくなり、脆(もろ)くなります(脆化)。脆くなると、ガラスのように、高温から急冷したとき破壊されやすくなります。原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で放射線にさらされていて、運転時間と共に脆くなる温度(脆性遷移温度)が上昇します。例えば、初期には-18℃で硬くなった鋼鉄も、34年間炉内に置くと98℃で、40年を超えると100℃以上で硬化するようになり、脆くなります。したがって、老朽原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が破裂する危険があります。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化は著しいと言われています。

[2]危険度急増のプルサーマル化。

◆高浜原発3、4号機、伊方原発3号機、玄海原発3号機はプルサーマル炉で、核燃料の一部にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使っています。政府や電力会社は今後、プルサーマル炉を16~18基へ増加させようとしています。また、全燃料をMOXとする大間原発の稼働も企んでいます。規制委は、プルサーマル炉の「新規制基準」適合審査において、「厳しい新規制基準の下ではMOX燃料かどうかは議論にはならない」とし、ウラン燃料を前提とした既存原発のプルサーマル化には、技術的な課題が多いことを無視しています。プルサーマル炉は、次の例のように、ウラン燃料炉に比べて、格段に危険です。

① MOX燃料では、ウラン燃料と比べて燃焼中に核燃料の高次化[プルトニウム239より重い核種(元素)が生成すること]が進み、中性子を吸収しやすいアメリシウム241等が生成されやすく、原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下する。

② 事故が起こった場合、プルトニウム・アメリシウムなどの超ウラン元素の放出量が多い。

③ 原子炉内の中性子密度が大きく、高出力であるので、運転の過渡時(起動や停止時)に炉の制御性が悪い。したがって、1/3 程度しか MOX を装荷できない。

④ 核分裂生成物ガスとヘリウムの放出が多く、燃料棒内の圧力が高くなる。

⑤ MOX 燃料にするためには、使用済み核燃料再処理が必須であり、事故、廃棄物など、全ての点で危険度と経費が膨大に増える。

⑥ MOXにすれば融点は上るが、熱伝導率は下がり、電気抵抗率が上がり、燃料温度が高くなり、溶けやすくなる。

⑦ 一部の燃料棒のみにMOX燃料を入れると、発熱量にムラが生じるため、温度の不均衡が進行し、高温部の燃料棒が破損しやすくなる。

[3]「もんじゅ」断念で国民を騙(だま)し、高速炉計画を継続。

◆政府は、昨年12月、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を決定しました。「もんじゅ」は、多くの技術的な無謀性、困難性、危険性の指摘を無視して、約6,000億円をかけて建設され、1991年に運転を開始しましたが、1995年にナトリウム漏れ事故を起こし、2010年には重さ3トンの炉内中継装置の落下事故を起こし、近年は1万件を上回る点検漏れを指摘されています。「もんじゅ」は、今までに、少なくとも1兆2千億円を浪費し、今でも年間200億円を無駄遣いしています。それでも、運転に漕ぎ着けられない「もんじゅ」が、現代科学技術で制御できる装置ではないことは明らかです。その「もんじゅ」を、「夢の原子炉」と偽って国民を騙し続けようとするから、事故や点検漏れが多発し、事故や違反を隠ぺいせざるを得なかったのです。「もんじゅ」を進めた組織は、1956年、原子燃料公社として発足し、ことあるごとに名前を変えて、動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル機構になり、今は日本原子力研究開発機構(原子力機構)に統合されて、問題体質を隠ぺいしてきました。ここに至って、これを指導した政府までもが、「もんじゅ」の廃炉決定を余儀なくされたのです。

◆「もんじゅ」の廃炉は、粘り強い反対運動の成果ですが、喜んでばかりはいられません。政府は、破綻した「もんじゅ」だけを切り捨てることによって原子力政策への不信の矛先をかわし、別の高速炉計画を立ち上げ、核燃料サイクルをさらに推進し、全ての原発のプルサーマル化によって、プルトニウム利用に突っ走ろうとしています。とくに、原子力政策全般を取り仕切る経産省は、「もんじゅ」なしでも成立する核燃料サイクルをアピールし始めました。「もんじゅ」で制御不可能が実証された高速増殖炉についても、断念するどころか、「高速炉開発会議」を新設して、その開発計画を存続させようとしています。具体的には、超老朽高速実験炉「常陽」の再稼働、フランスの高速炉(アストリッド)での共同研究への参加などを目論んでいます。

◆高速増殖炉、高速炉は、現在科学技術の手に負えない、最も危険な原子炉です。燃料棒を冷却して高温になった冷却材・ナトリウムは薄い配管を介して水と接しています。水とナトリウムが直接触れれば水素が発生し、大爆発することは小学生でも知っています。また、ナトリウムは、空気と接すると急激に酸化され、火災を起こします。漏れ出たナトリウムがコンクリートと反応すれば水素が発生し、水素爆発を起こします。一方、ナトリウムが原子炉内で局所的に高温になって沸騰し(沸点883℃)、ボイド(気泡)が発生すれば、その部分の核反応が激化して暴走事故を引き起こしかねません。さらに、重大事故や火災が発生したとき、水によって炉を冷却することも消火することもできません。

◆なお、詳細は別稿に譲りますが、高速増殖炉、高速炉は、原爆用プルトニウムを作るのに適した原子炉です。また、政府は、高速増殖炉、高速炉による放射性廃棄物の毒性短縮と減容を宣伝していますが、不可能で、究極の国民だましです。

[4]危険極まりなく、実現不可能に近い核燃料サイクルへの固執。

◆原発に関わる核燃料の流れを核燃料サイクルといいます。ウランを採掘して原子炉で使用するまでの工程(上流)と使用済み燃料を原子炉から取り出し、再処理(後述)して、得られたプルトニウムを高速炉やプルサーマル炉で使用し、出てくる放射性廃棄物を処理する工程(下流)で構成されます。後者(下流)に注目して、後者を「核燃料サイクル」と呼ぶこともあります。

◆核燃料サイクル(後者:下流)には、税金と電気料金からすでに10兆円以上が投じられていますが、再処理工場はトラブル続きで、稼働の延期が重ねられています。「もんじゅ」は廃炉せざるを得ない状況にあり、核燃料サイクルの破綻は明らかです。

(注)核燃料再処理とは ウラン燃料が核反応する(燃焼する)と、燃料中には、各種の核分裂生成物(死の灰)、プルトニウム、マイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウムなどのウランより重い元素:生成量は少ない)などが生成し、ごく一部のウランが反応した段階(大部分のウランは未反応のまま)で、原子炉の運転が困難になります。そこで、核燃料(使用済核燃料という)を原子炉から取り出し、新しい燃料と交換します。使用済核燃料の中には、核燃料として再利用できるプルトニウムが含まれるので、それをプルサーマル炉や高速増殖炉で燃料として利用するために、回収して核燃料に加工する過程が再処理です。

◆原子炉から取り出された使用済核燃料は、原子炉に付置された燃料プールで保管し、放射線量が低下した後、再処理工場サイトにある貯蔵施設に運ばれます(青森県六ケ所村)。再処理工程では、燃料棒を切断して、鞘(さや)から使用済燃料を取り出し、高温・高濃度の硝酸で溶解します。溶解までの過程で、気体の放射性物質(ヨウ素や希ガスなど)が放出されます。溶解したウラン、プルトニウム、核分裂生成物(死の灰)などを含む硝酸溶液中のウラン、プルトニウムは、有機溶媒中に分離抽出し、さらに精製して核燃料の原料とします。この過程で、死の灰などの不要物質が、長期保管を要する高レベル(高放射線)廃棄物として大量に発生します。その処理処分法は提案されているものの問題山積です。保管を受け入れる場所もありません。

◆使用済核燃料は高放射線ですから、再処理工程の多くは、遠隔自動操作で運転されます。そのため、再処理工場には、約10,000基の主要機器があり、配管の長さは1,300 km(うち、ウラン、プルトニウム、死の灰が含まれる部分は約60 km)、継ぎ目の数は約26,000箇所にも及びます。高放射線に曝され、高温の高濃度硝酸が流れる容器や配管の腐蝕(とくに継ぎ目)、減肉(厚さが減ること:溶解槽で顕著)、金属疲労などは避け得ず、安全運転できる筈がありません。長い配管を持つプラントは、地震に弱いことは容易に頷(うなず)けます。すでに、2兆2000億円以上投入していますが、再処理工場は完成からは程遠い状態です。

◆使用済核燃料を再処理せず、燃料集合体をそのままキャスクに入れて、地中の施設に保管する「直接処分」の方が安全で、廃棄物量も少ないとする考え方もあり、アメリカはその方向ですが、10万年以上の保管を要し、これも問題山積です。

安倍政権は、なぜ、
原発再稼働、原発のプルサーマル化、

高速炉の推進、核燃料サイクル確立に
固執するのでしょう?

◆戦争法を強行し、共謀罪を画策し、沖縄への基地負担を強要し、農業、医療などを犠牲にして大企業を優遇するTPP交渉を行い、企業の税金を引き下げて、社会保障を切り捨てようとしている安倍政権が、規制委、電力会社と一体となって原発再稼働に固執し、原発電力に頼る理由は、

①使用済み核燃料の処理や保管にかかる経費や事故による損失を度外視すれば安上がりな原発電力によって、電力会社や大企業を儲けさせるためであり、

②原発の輸出によって、原発産業に暴利を与えるためであり、

③戦争になったときの基盤電源を原発で確保し、核兵器の原料プルトニウムを製造するためです。

◆すなわち、老朽原発を含む原発の再稼働は「巨大資本に奉仕する国造り、戦争出来る国造り」の一環として行われようとしているのです。とくに、③は、最大の理由といっても過言ではありません。原発は、被曝労働を強い、国民の被曝を意にも介さない政権にとっては、好都合なエネルギー源です。しかも、被曝を覚悟すれば、使用済核燃料からプルトニウムを取り出すことは、(技術的に)ウラン濃縮より容易ですから、プルサーマル化は彼らの欲するところです。そのために、高速炉、核燃料サイクルを推進しようとしているのです。

目先の経済的利益や便利さを、
人が人間らしく生きる権利や

事故の不安なく生きる権利と
引き換えにしてはなりません。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。
原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

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